恋姫OROCHI(仮) 一章・肆ノ参 〜洛陽戦線〜
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洛陽の西方より現れた五万の敵軍。

それらはゆっくりと、力を誇示するように展開を始める。

南北の側面を通過し、東面に回ろうとした、その時――

 

「「かかれーーー!!!」」

 

銅鑼の音と共に、城壁の陰から騎馬隊が二つ飛び出した。

先頭はそれぞれ翠と霞。

狙うは敵軍先端。

籠城しているものと油断しきっていた敵軍は大いに混乱する。

三国有数の騎馬隊指揮官による奇襲で、敵先陣を揉みに揉んだ。

そしてしばらく、ジャーンジャーンという銅鑼の音で、波が引くように美しく撤退した。

白装束の中から後を追うものは一人もいなかった。

 

 

 

…………

……

 

 

 

「は〜、スッキリしたわー」

「そうだな!籠城じゃあ、あたしらの活躍する場がなくなっちゃうからな。その前に暴れられて良かったぜ!」

 

奇襲を終え、高揚も助けてご機嫌な二人。

籠城をしてしまうと、打って出ない限り騎馬隊に出番はなくなってしまう。

なので、軽く鬱憤を晴らしておいたわけだ。

もちろん詠にも許可は取ってある。

 

「お疲れ様。翠姉ちゃん、霞姉ちゃん」

「おうっ剣丞!アンタもなかなかエェ引き際やったでー」

 

肩を組みながら剣丞の頭をもみくちゃに撫でまくる霞。

撤退の銅鑼を鳴らす時機は、剣丞に一任されていた。

 

「あたしはちょっと……いや、ほんのちょっとだけだけど、早かったかなぁ〜って思ったんだけどな…」

「あ、やっぱり?」

 

もうちょっと暴れたかったなぁ、と翠。

実は剣丞も、少し早過ぎるかな、と思っていたのだ。

ただ遅きに失して後悔するよりは早いほうが良いだろう、と判断したのだ。

 

「いや、あのくらいでちょうどえぇ。元々兵力差がデカいんやから、欲張ったらアカン。奇襲の目的も敵の殲滅やのぅて、敵の出鼻を挫いてこっちの士気を上げることや。ウチらが怪我でもしたら元も子もあらへん。ここは臆病くらいがえぇねん」

「そんなものなんだ…」

「そんなもん、や。その判断が出来る思ぅたから、詠も剣丞に軍師任せたんやで?」

「……うん。ありがとう、霞姉ちゃん」

 

人相手にまともに指揮をするのは墨俣以来なので不安だったが、霞の笑顔で払拭された。

詠の組み合わせは、いきなり成功を見せていた。

 

「さって!それじゃ、あたしらは裏方に戻るとしますか」

 

騎馬隊は城壁の上へ石や湯、油や矢など、籠城側の攻撃手段を運ぶ役割を宛がわれている。

もちろん、将軍の翠と霞が直接全てをするわけではないが、あまり派手な役回りではなかった。

 

 

 

 

 

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「なにっ!?騎馬隊による奇襲を受けただとっ!?」

 

洛陽攻撃の主将の男は、驚きをもってその報告を受けた。

 

賈駆の策か?

中隊でも使って引き際を誤れば、一気に崩れかねない策を?

 

「さ、左慈様!じょ、城壁に…旗が!!」

「なんだとっ!?」

 

幔幕から出る左慈と呼ばれた男。

洛陽の西門には『賈』の旗と、櫛のような形の図柄が描かれた旗が掲げられていた。

 

「賈駆に…なんだ、あのおかしな旗は……――まさかっ!?」

「申し上げます!!」

 

左慈の思索を遮るように次々と伝令が走ってくる。

北門には『馬』の旗に、何かの植物が丸くあしらわれた紋様の旗が。

南門にはこれまた『馬』の旗に、中央に大きな黒丸、それを囲むように小さな黒点が八つある紋様の旗。

東門には紺碧の『張』旗に、黒地に白丸、その中に黒で一文字が描かれた紋様の旗が、それぞれ上がっているようだ。

 

「バカなっ!!」

 

将がいない、などという話ではない。

全ての門に守将がいる!

 

「ちっ…おいっ!全軍を押し出し遮二無二攻めろ!今すぐだ!!」

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

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――――――

――――

――

 

 

「おぉ〜、配置もそこそこに攻めてきましたなぁー」

 

城壁の上から、呑気に敵軍を眺める幽。

というのも、籠城側がやれることはそう多くはない。

矢を放つか、何かを落とすか、梯子を掛け登ってくる敵を長槍で突くくらいのものだ。

それにしたって、まぁ緊張感がない。

 

「はて、あの辺りでしたかな、蒲公英殿」

「そうだね。そろそろだね〜」

 

歩みを揃えながら徐々に迫り来る敵に、蒲公英ものんびりと眺める。

弓の射程距離を過ぎても、南門は一本も矢を放たない。

遠くから喚声が聞こえてくる。

他の門では、矢合わせが始まったのだろう。

 

「さて……では弓兵隊の方々、準備を」

 

そんな中、幽はようやく弓兵に矢を番えさせる。

と、

 

「「「うわあぁぁ〜〜!!!」」」

 

敵軍から悲鳴が上がる。

城壁と平行に、大小様々な落とし穴が掘られており、ほぼ一斉に嵌ったのだ。

 

「射てーー!!」

 

ここぞとばかりに矢雨を浴びせかける。

穴に落ちたものはいざ知らず、落ちなかった兵にも動揺が走り、敵軍は混乱の極致に陥っていた。

そこに矢が飛来する。

ほぼ無抵抗で一人、また一人と餌食になっていった。

南門の敵軍は何も出来ずに、一時撤退を余儀なくされていた。

 

 

 

「やれやれ、これで一息ですかな」

「だね。兵のみんなー!三交代制で少しずつ休んでいいよー!」

「「「はっ!」」」

 

テキパキと指示を出す蒲公英。

 

「これでは、軍師であるそれがしは必要ありませんなぁ〜

 落とし穴という奇策もすぐに思いつかれますし、その穴も瞬く間に掘ってしまわれるのですから…」

「落とし穴はご主人様に仕えるなら嗜みだからね!」

「…そうなのですか?」

「うん!だって穴掘る軍師もいるんだから!」

「ひょっ…!?そんな肉体派の軍師もおられるのですか?」

「んまぁ、対ご主人様専用の落とし穴製造機みたいなもんだけどねー」

「はぁ……?」

 

北郷一刀の役回りは話で聞いているだけに、余計に意味が分からない幽だった。

とにもかくにも、南門では蒲公英の活躍により、敵の撃退に成功したのであった。

 

 

 

 

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――――――

――――

――

 

 

 

左慈は頭に血を上らせて報告を聞いていた。

 

「北門、攻略に失敗しました!」

 

四方から攻め上げた部隊が悉く撃退されたのだ。

圧倒的な兵力をもってしても門一つ落とすことが出来なかった。

于吉を帰してしまったため、兵力の増員もままならない。

そも、于吉に頼みごとをするなどという文字は、左慈の辞書にはなかった。

 

「無能どもが……攻城兵器を出せ!破城槌で全ての門をぶち壊せっ!!」

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

玉座の間。

 

湖衣は目を瞑りながら、金神千里で敵陣を探る。

その様子をニコニコと月が、ハラハラと明命が見守っている。

 

「――っ!敵軍が攻城兵器の準備を始めました!明命さん、各門に通達お願いします!警戒と火矢の準備をお願いしてきて下さい!」

「分かりました!」

 

ひゅっ、という風切り音を残し明命が消える。

金神千里を使えば、戦場のほぼ全域が俯瞰できる。

破城槌にも呆気なく対応した。

 

 

 

 

 

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「くっ……投石機だ!投石機を投入しろ!!城壁もろとも押し潰せっ!」

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「……あれは、投石機、でしょうか?明命さん!西門に投石がきます!鞠さんにお願いして対応してもらって下さい!」

「了解です!」

 

 

――――

――

 

 

「――とのことです」

「ほわ〜、投石機……すごいの〜」

 

自分のいた時代には使用されていなかった大型の兵器の登場に、感嘆の声をあげる鞠。

 

「おっきな石が飛んでくるの?」

「えぇ。大人の男が二人で抱えるくらいの石が飛んでくるわ。あなたのお家流とやらで、どうにか出来るかしら?」

「う〜ん……多分、出来るの」

 

事も無げに、あっさりとそう言ってのける鞠。

 

「……分かったわ、鞠を信じましょう。総員、配置は崩さないで!投石の直後に敵の突撃があるかもしれないわ!」

 

約一里先に投石機が設置される。

城内からは、それを見ていることしか出来ない。

 

「放てーー!!」

 

ビュオンと空気を切り裂き、直径数尺ほどの岩が勢い良く空中に放たれる。

それは放物線を描きながら、西門上部、詠や鞠がいるところへ着弾する軌道を取る。

直撃ならば無事ではすまない。

 

「頼んだわよ、鞠…」

 

城壁の縁石に立ち、目を閉じて集中に入っている鞠。

その背中を祈るように見つめる詠と兵たち。

鞠は、にわかにカッと目を開くと、抜き身の刀から氣弾を放出する。

 

「随波斎流!疾風烈風砕雷矢ぁ−−!!」

 

刀の先端から放射状に広がった十数の氣弾は、吸い込まれるように飛び来る巨石に集積する。

 

ドッゴーーーン!!

 

全弾命中。

巨石は無数の礫となり、城壁に届くことなくバラバラと地面へと散っていった。

 

「やったの!!」

 

縁石の上で器用にくるりと半回転。

詠たちに、ニッと歯をむき出しての笑顔を見せる。

 

「は、はぁ〜〜……」

「すごいです、鞠さん!」

 

ため息しか出ない詠の横で、パチパチパチッと拍手をする明命。

 

「えへへ〜」

 

照れる鞠。

何発でも来い、なの!と気合を入れたが、その後、投石器が使用されることはなく、この日の攻撃はこれで打ち止めとなった。

 

 

 

説明
DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、23本目です。

洛陽を取り囲む敵に対し、恋姫武将たちが乱舞?します。
いつもより長めなので、少しずつでも読み進めて頂ければ幸いです^^
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コメント
いたさん>毎回コメントありがとうございます^^ 家紋はそうですね。上手いこと説明するのは難しいです^^;(DTK)
水無月 零さん>一応、籠城します^^;策も筆者の限界があるのでご期待に沿えるかどうか…(DTK)
とうとう二番手。 でも、コメント欄が賑やかになるのは宜しい事です。 『赤鳥』と『細川九曜紋』でしたか? 左慈の辞書には『頼み事をする』は墨で消してあるんでしょう。 次回もお待ちしてます。(いた)
籠城なのね…しかしこの策だけならいずれやられてしまう…次はどんな一手を打つのか楽しみだ!(水無月 零)
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