真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第二十三話 |
〜聖side〜
辺りを覆う砂埃が晴れてくると、その中心にいる人物の顔が嫌でもはっきりと見えてくる。
「………貂…蝉…??」
「あらぁぁあん!? 覚えててくれてありがとぅ。助けに来たわよん、ひ・じ・り・ちゃん♪」
ウインクと共にしなを作る貂蝉。
その瞬間、胃からこみ上げてくる強烈な吐き気を覚える……がなんとか飲み込んだ。
なんという生物兵器であろうか…。
「だぁれがぁ、見ただけで地球上のあらゆる生物を死に至らしめる地球外生命体ですってぇええ!!!!!!????」
「そこまで言ってねぇよ!!!! あと、自然に俺の心を読むな!!!!」
「どぅふふふ。漢女に隠し事は無理なのよん!!!!」
今間違いなく音で聞いたはずなのに、乙女ではなく漢女だと脳内変換出来たのは、俺の精神が最後の一線を超えないようにとりはかってくれたからであろう。
ドンと胸を張って威張る貂蝉に頭を抱えていると、壁まで飛ばされていた左慈がその身に被る瓦礫を押しのけて出てきた。
その顔は怒りのあまり酷く変形していて、初めてやつを見たときの印象をガラリと変えてしまうほどであった。
「貂蝉!!!!! 貴様、何故ここにいる!!!!!!」
左慈はそう言って貂蝉を指差す。
指をさされた貂蝉は、俺の方から左慈の方に体を向けると、さっきまでの態度が嘘のような荘厳な態度で話しだした。
「久しぶりねん、左慈ちゃん。前に会ったのはいつだったかしらねぇ…。」
「そんなことはどうでもいい!!!! さっさと質問に答えろ、何故お前がこの外史にいる!!!!!」
「それはあなたが一番分かってるんじゃないの?」
「何だと…!!!!!」
「………何故、左慈ちゃんあなたはこの外史にいるのかしらぁん??」
「決まっている!!!!! この外史は大きく歴史から逸脱してしまった!!!!! 逸脱したものをこのままにしておくことは出来ない、しかし、歴史の修正力では力の及ばない範囲までこの外史は既に進んでいる!!!! ならば、この手でこの外史を終端させることこそ外史の監視者としての役目というものだろうが!!!!!!」
「……違うわ、左慈ちゃん。この外史はもうあの外史ではないのよ。確かに突端はあそこだけれど、聖ちゃんや天帝ちゃんの参入でこの外史は別の外史になったの。今、この外史は新たな外史になるために様変わりを始めようとしている。そんな不安定な世界を、あなたたちの参入によって崩すことは、外史の管理者としてあたしが許さないわぁん。」
「ほう……では俺とやろうってんだな。面白い、お前とは一度雌雄を決しないといけないと思っていたところだ…。丁度いい、今この場で勝負をつけてやる!!!!!!!」
左慈が飛びかかろうと腰を沈め、こちらの様子を伺う。
貂蝉はその左慈の姿を一瞥したあと、肩ごしに俺を見た。
「聖ちゃん。ここはあたしに任せて、あなたは皇帝ちゃんを助けに行ってあげてぇん!!!」
「いやっ、ここは二人で左慈に当たった方が良くないか!!??」
「……ダメよ。そんな時間は残されていないわぁ。ここはあたしが抑えるから行くのよ!!!!」
「……っ!?」
えも言われぬプレッシャーを貂蝉から感じ、言葉に詰まる俺。
そんな俺を、優しく暖かな眼差しで貂蝉は見つめ、
「彼女たちを守れるのは、あなたしかいないの…。だから、よろしくねぇん…。」
そう言って左慈と対面する。
その姿に気持ち悪さと苛立ちを感じつつも、貂蝉の覚悟を見た俺は、
「貂蝉……さっきの話といいお前に聞きたいことは山程あるんだ……。こんな所で、死ぬんじゃないぞ…。」
「………えぇ。」
城に戻るために踵を返しながら、そう呟いた。
そして俺が鍛錬場から走って出て行った直後、後ろから激しい拳のぶつかり合いの音が響く。
そして、その音を聞きながら俺は思った。
よしっ、これで貂蝉の死亡フラグが立ったと………。
〜麗紗side〜
「……見つからないですね〜。」
「そうですね……。」
額に浮かぶ汗を拭いながら、ふぅと一息吐く私。
後ろでは、菖蒲様が家財棚の二段目の捜索を終え、三段目に取り掛かるところであった。
地図を探し始めてから幾許の時が流れただろうか。
早く見つけないとと思いながらも、もしかしたら地図などないのではないかと疑いたくなるほどそれらしいものが出てこない。
果たして、前皇帝劉弁様は一体どこに隠したというのだろうか。
「……結局、この棚にはありませんでした。」
それからしばらくして、落胆の声と共にため息をつく菖蒲様。
私の方もなんの手がかりもなく、正しく八方塞がり状態であった。
「後探していないところといえば………。」
そう言いながら天蓋のついた寝台を見つめる菖蒲様。
しかし、その寝台には物をしまうような抽斗は見当たらず、流石にそこにはないのではと私は苦笑する。
そんな私の様子に気づかず、菖蒲様はゆっくりと寝台へと向かうと、その目の前で腰をかがめて下を覗き込んだ。
いやはやまさか……そんな所に物を置いておくわけが……私や朱里達じゃあるまいし……。
「麗紗お姉さま!!!! 寝台の下に葛篭が二つあります!!!!!」
…………えぇ〜。
何だかとても嫌なというか残念なというか、そんな雰囲気がしてきて、私は少し気後れしてしまう。
そんな気配を微塵も感じないのか、菖蒲様は宝物を見つけた子供のように、意気揚々とその葛篭を引っ張り出した。
私たちの目の前に引っ張り出された葛篭は、片方は政務用と書かれていて、もう片方は何も書いてはいないが頻繁に開け閉めされていたのか蓋が少々変形していた。
「私はこっちの葛篭を調べますので、お姉さまはそちらの政務用と書かれた葛篭をお願いします。」
「あっ………はい、かしこまりました……。」
勢いよく蓋を開けて中の物を探し出す菖蒲様。
物凄く嫌な予感を感じながらも、政務用と書かれてあるし、もしかしたら地図とか入ってるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、私は菖蒲様に背中を向けて葛篭の蓋を開けた。
………『婦学三六系』『感良十二回』『枕挿指』『竹比べ』………。
…………うん、嫌な予感は当たった。
どうやら『政務』ではなく『性務』のようだ…。
皇帝の仕事を考えれば………まぁ、分からなくはないのかもしれないが……。
ここで取り乱し、騒ぎ声を上げなかった私を自分で褒めてあげたい。
普通の人なら、こんな意味深な名前の本を見つけたら中を読んでしまい、直ぐに声を上げて菖蒲様に気づかれてしまうだろう。
しかしこういうものになれている私は、冷静にしかし、迅速に葛篭の蓋を閉めると、
「菖蒲様、どうやらこちらの葛篭には地図はなさそうです。」
菖蒲様の健全な成長のために、その存在を隠すように努めるのだった。
そして同時に、『こんなものを菖蒲様の傍に置いておくわけにはいかない。後で回収して私が管理しておかなくては……。』とも考えていた。
「そうですか。こっちももう少しで探し終わりますから……。」
そう言って葛篭の中に再び手を伸ばした菖蒲様は、中から古ぼけた紙を一枚取り出した。
「菖蒲様、それは地図ではありませんか!!!!」
「麗紗お姉さま!!!!! そうです!!これです!!!! あった!!!! ありましたよ!!!!!!」
子供のようにはしゃぐ菖蒲様に苦笑しつつ、しかし同時に地図を見つけた安堵感に私は笑っていた。
ようやくこれで少しは皆さんの役に立てる。
今はこんなことしか私に出来ることなんてないのかもしれないけど、それでも私が出来る最大のことをお兄ちゃんの為にやる。
それこそが、私のこの軍での役割であり、お兄ちゃんの隣に立つために必要な資格なのだ。
私はそんな風に考えながら、菖蒲様の方の葛篭の蓋を閉めたのだった。
しかし探し物が見つかると人は安心から脱力してしまうもので、
「…………探し物は見つかりになりましたか、陛下。」
いつの間にか入って来ていた人の声に二人は驚きを隠せないでいた。
「…………誰ですか…。」
あまりに衝撃的なことに未だ体に力の入らない私だったが、何とか口から言葉をひねり出す。
男は人相の悪い顔にさらに不気味な笑みを浮かべる。
「あなたこそ、陛下に少し馴れ馴れし過ぎやしませんか?」
男の言葉に、私よりも先に菖蒲様が反論する。
「私が良いと言ったのです。麗紗お姉さまは私の良き理解者であり心を許せる人。公式の場以外では普通に話して欲しいと私の方から言いました。」
そこまで一気に話したあと、菖蒲様は一呼吸おいてから相手を見据えて話しだした。
「それよりも、お久しぶりですね張譲殿。」
その言葉を聞いた瞬間、私のその男を見る目が変わる。
あの男、張譲は怪しい男ではなく敵であると…。
「作用でございますね、陛下。確か最後に謁見したのは、陛下のお兄様が崩御なされた時だったでしょうか。」
口元にニヤリとした笑みを浮かべる張譲。
菖蒲様を見ると、奥歯を噛み締め、拳に力を入れて我慢している様子だ。
心の中は相当お怒りに違いない。
それもそのはずだ、菖蒲様のお兄様はこの目の前にいる男、張譲を筆頭にした十常侍によって殺されたはずなのだから。
しかし、その事は明るみに出ることはない。
いつでも、政治の裏にはキナ臭い深い闇がへばりついているものなのだから……。
菖蒲様が黙られてしまったため、あとを引き継ぐ形で私は割ってはいる。
「申し遅れました、私は孫乾と申します。ところで、張譲様はどうしてこちらに? 確か、あなたはこの城では指名手配されていたはずですが…?」
警戒心を前面に押し出した言葉遣いで張譲に話す。
目の前の男は今回の事件の黒幕として名前が上がり、月さんたちによって獄に入れられたが折を見て脱走したはずなのだ。
それが何故今になってこんな所に顔を出したのか……。
「おやおや、これはご丁寧にどうも。私は張譲。政治時の陛下の補佐を行ってました。」
にこやかに笑みを浮かべて話す張譲、しかし、その目は決して笑ってはいなかった。
その表情に一種の狂気を見て、私は身震いする。
「どうしてここに居るのかでしたっけ? それはですね……忘れ物を取りに来たのですよ。」
「忘れ物…??」
「はい………。私が治める国家にするために邪魔な兄妹のもう一人の方の命を……!!!!!」
そう言って懐から短刀を取り出す張譲。
そのことに驚きながらも、張譲が一歩、また一歩と近づいてくる中、私たちも同様に下がっていく。
しかし部屋の中ということもあり、逃げ場は少なく、ジリジリと壁際に追い込まれていってしまう。
その最中、私は後ろに菖蒲様を庇うようにして移動する。
私の身に何かあっても問題はないが、菖蒲様に何かあればそれは大事だ。
勿論、刃物を前にして怖くないわけがない。
もし私一人の状態ならば膝に力が入らなくなり、床にヘタっていたことだろう。
実際今も足はガクガクと震えているのだから……。
しかし、今私の後ろには守らなければならない人がいる。
皇帝陛下として、そして私を姉と呼んでくれる妹として……守るべき人がいる。
そんな人を前に無様な姿を見せるわけにはいかない。
どうにかして菖蒲様をここから脱出させること、それが私の使命であり、今の私にしか出来ないことだ…。
「壁際まで逃げたところで、もう鬼ごっこは終わりですか?」
私の体が壁の存在に気付いた時には、既に壁際に追い込まれたところだった。
張譲の顔に何度目かも分からない下劣な笑みが浮かぶ。
「では、二人共苦しまないように一撃の下命を絶ってあげますよ。恨むんなら、今この世に生まれ、この場に居合わせたことを恨むんですね!!!!!!」
振り上げた短刀を思いっきり私たち目掛けて振り下ろす。
私と菖蒲様は、お互いに抱きしめるように身を寄せ合って、痛みに耐えるために目を閉じた。
『………守りたくはないか?』
………えっ??
『その手で自分の守るべき人たちを守りたくはないか?』
………守りたい。
『だろうな…。だが、力ってのは扱いが難しい…。もしその力があったなら、あんたは何のために使うんだ?』
………この小さな手に守れるだけの力があったなら、私の大切な人を守りたい……。
『………大切な人だけで良いのか?』
………多くは望まない…。私に出来ることなんてほんの少しのことだから…。でも、そのほんの少しの事で大切な人を守ることが今の私に出来ることだって分かってる…。
『………冷静でいて現実的な答えだ…。夢しか語れない鼻垂れ小僧とはまるで違う…。気に入った、あんたに私の力を貸してあげるよ。心の中で良いから叫びな!!我が名は』
「『セークーリタース!!!!!』」
私がその名を告げた瞬間、目を閉じていても感じるほどのまばゆい光が放たれたと思った矢先、部屋の反対側の方で何かが壁にぶつかる音がした。
恐る恐る目を開けると、先程まで眼前に迫っていた張譲が壁の下でうつ伏せに倒れ、私と菖蒲様の周りは、薄い膜状の何かによって覆われていたのだった。
弓史に一生 第九章 第二十三話 安全と防衛の女神 END
後書きです。
投稿が遅れがちですが、それでも何とか一ヶ月に一話は更新させていくつもりです。
今話は物語の裏側部分がようやく出始め、反董卓連合ももうすぐ終わりを迎えるという状況ですね…。
そしてここが重要なポイントですが、実は反董卓連合戦でこれ以上聖が戦うことはありません。
このあとは戦闘はなく、収束に向けて動き出すって感じですかね…。
こんな所でネタバレすんなよと思うかもしれませんが、これ以上戦闘を書くべきではないという私の判断の上です。ご了承ください。
また、新たに神様出てきましたね。
セークーリタースはローマ神話における安全と防衛の女神さまらしいです。
その能力は……なんとなく想像できるかもしれませんが、作中で細かいことに関しては書いておきますね。
次話は八月中にもう一本あげたいところですが、もし無理そうならまた9月頭になるかと……。
それでは、お楽しみに〜!!!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 投稿が遅れたことをお詫びするとともに、それでも読み続けてくれている皆様に感謝申し上げます。 ネタを考えているとどうしても書くのが遅くなってしまって申し訳ないところです。 でも、その分面白く仕上がっていると作者は思います。 |
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コメント | ||
↓続き 《》の内容が分からないですね……。ツッコミの出来ない作者で申し訳ないです…。(kikkoman) >nakuさん コメントいつもありがとうございます。『大切な人を守りたい』と言うのは純粋でかつ強い思いですね。麗紗は自分の出来ることが分かっている分その上でのこの考えは良いと思います。(kikkoman) |
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