真・恋姫?無双 呉改変シナリオ 前篇 |
今日は雪蓮と一緒に彼女の母である孫堅さんの墓参りに来ている。
袁術を退け揚州全土を制圧し、呉に一時の平穏が訪れていた。
俺たちは孫堅さんの墓とその周りを綺麗にした。
雪蓮は墓の前に跪き静かに目を閉じる。俺はその様子を何も言わずにじっと見ていた。
亡くなった母のことを想う雪蓮の後ろ姿はなぜか儚くて年相応の普通の女性のように見えた。
普段の呉の王としての彼女からは想像できないようなその姿に俺は無意識のうちに雪蓮を抱きしめようとした。
瞬間、前方の茂みの中で光るものが目に入った。
それは刺客が構えた弓矢の鏃だと気づいたのもすぐだった。
とっさに彼女を押し倒すように二人まとめて地面に倒れこむ。
「きゃ!?」
左腕に鋭い痛みが走った。
「もぉいきなりどうしたって言うのよ。こんな日も高いうちから…一刀?」
雪蓮の声もうまく聞こえなかったが心配させないように軽く微笑んで見せた。それでも痛みで顔中に噴き出す脂汗は隠せない。
「なにか…矢!?」
俺の左腕に深々と刺さる矢を見つけた瞬間、雪蓮の表情が一変する。
雪蓮は辺りを見渡す。
そこには数人の刺客が弓を構えてこちらを狙っていた。
「ちぃ、外した!従者の分際で邪魔しやがって!!」
首領らしき男が叫ぶ。
雪蓮は俺をどかして南海覇王を抜き、刺客たちのほうに向きなおった。
刺客たちは雪蓮に向けて一斉に矢を放った。
高速で飛来する矢を南海覇王ですべて叩き落とし、野生の獣を彷彿させるような速度で刺客に襲いかかった。
「ぎゃあ!!」「く、来るな」「うわぁ!?」
瞬く間に全員が切り捨てられ、お世辞にも綺麗とは言えない真紅の花を地面に咲かせた。
「一刀、大丈夫!?」
雪蓮は俺の方に駆け寄ってきて訪ねた。
「ものすごく痛い」
「そう、じゃあもう少しだけ我慢してね」
言うと同時に雪蓮は矢を掴み、一気に引き抜いた。
「ぅあっ!?」
いきなり増した激痛に情けない声を上げてしまう。
「それじゃあ止血するから上着を脱がせるわね」
「いいよ自分でやるから」
恥ずかしさもあって雪蓮から眼を背けながらいそいそと制服の上着を脱ぐ。
左腕の矢の刺さっていた部分は血を流しながら赤黒く腫れ上がっていた。
「毒…」
雪蓮は顔を真っ青にして一言だけ呟いた。
「そ、そんな。こんなことがあっていいわけないじゃない!今から毒を吸い出すから!」
傷口に顔を近づけ毒の混じった血を吸い出しては吐き出しを繰り返す。
脳髄を掻きまわすような痛みに呻きながら雪蓮を見つめる。
その顔は今にも泣き出しそうに歪んでいて、なんだか居た堪れなくなって雪蓮の背中に右手を回した。
「一刀?」
雪蓮は口の周りを血で真っ赤に汚したこちらに向けた。
「泣きそうな顔してたから」
「当たり前じゃない!だって私が周りに気を配ってなかったから…」
「雪蓮のせいじゃないさ。雪連も人間なんだから気が緩んでしまうことぐらいあるよ」
「でも!」
「俺は全然後悔なんてしてないよ。好きな女の子を命がけで守れるなんて男冥利に尽きるってもんだ。雪蓮の泣き顔なんて珍しいものも見れたしね」
「そんなこと言ってる場合じゃ」
「でも俺はいつもみたいに笑ってる雪蓮が好きだな。だから泣かないで雪蓮」
雪蓮の双眸からは大粒の涙が零れ落ちていた。
「…こんな状況で笑えるわけないでしょ」
「ごめん」
そう一言を発すると同時に血を失い続けたせいか毒が体に回ってしまったせいか俺の意識は遠のいていった。
「…一刀?一刀!!」
雪蓮は俺の体を揺すり、再び毒を吸い出し始めた。
私は曹操軍がこの呉の領土に進攻してきたとの報を雪蓮姉様に伝えるために姉様と一刀が向かったと思われる母様の墓に駆けていた。
森を抜け、母様の墓が見える場所まで来たとき私の眼に飛び込んできたのは姉様と一刀が抱き合っている姿だった。
その光景に私は激昂した。
「この緊急事態に姉様は何をしておられるのですか!!」
そう喉元まで出かかったが声は出なかった。
二人の方に近づくにつれ、この状況が異常なものだと気づく。
数人の男たちの死体、左腕から血を流す一刀、その傷口から血を吸い出している姉様。
一刀が刺客に傷つけられたのだ。それも毒矢で。
怒りの矛先が地面に倒れ伏している刺客たちに変わる。
「姉様!」
「いいところに来てくれたわね。蓮華すぐに医者を呼んできなさい!」
「そ、それが…」
「いいから早く!」
「ですが曹操軍が我らが呉領に攻め込んで」
「曹操が…舐めたまねを。わかったわ、私は一度城に戻って医者をこちらに向かわせて出陣の準備をする。それまで一刀をよろしく頼むわ。一刀を絶対に死んだりなんてさせない!」
最後の一言は自分に言い聞かせるように叫び、姉様は城の方角に駆けだして行った。
私は引き継ぐように一刀の傷口から毒を吸い出し始めた。
城に到着した雪蓮を待っていたのは部下であり、親友の冥琳だった。
「この緊急事態になに…一体、何があったというのだ?」
雪蓮はことの詳細を簡潔に話した。
「なんだと!?それではすぐに医者をそちらに向かわせよう」
冥琳はすぐに近くにいた兵士に命じる。
「ちょっと待って。あなたも一緒に行って刺客たちの頸を持ってきなさい。それじゃ私は出陣の準備をするわ」
医務室の方に駆けて行こうとする兵士を呼び止めて、早口に伝えた。
「はっ!」
呼び止められた兵士は返事をして再び駆けだした。
「詳しい話は後できっちり問い詰めてやる。一刀のことも心配ではあるが曹操を止めないことには元も子もないだろう」
「わかってるわ。私は孫呉の王だもの。私たちの領土に土足で足を踏み入れた罪、一刀を傷つけた罪、きっちりと落とし前はつけてもらう」
「……」
静かに、冷たく淡々と言った雪蓮の顔は激しい怒りで歪んで見えた。
冥琳はその親友の姿になにも言葉を発することができなかった。
出陣前、雪蓮は皆を呼び出し、軍議を開いていた。
顔を洗い、服を着替えた雪蓮に先ほどまでの狼狽、怒りは見て取れない。
軍議自体は普段どおりに行われ、参加している全員の曹操に対する怒りはだんだんと高まっていく。
怒りは人が積極的に行動に移るもっともよい感情だ。
それが最大に達したのは祭の一言から始まった。
「して策どの。先ほどから一刀の姿が見えぬのですが、よろしいのですか?」
一刀の今の現状を知る者は一様に顔を俯かせた。
「…雪蓮」
「いいわ。私の口から話すから」
雪蓮は軍議に参加している全員の顔を見渡し、一度ゆっくりと呼吸した。
周囲が異様な雰囲気に変わり、雪蓮・冥琳・蓮華以外の頭上に疑問符が浮かぶ。
「一刀は今、医務室で治療を受けているわ」
一気に辺りがざわつく。
全員が戸惑う中、代表するように祭が雪蓮に問う。
「それは一体なぜです?」
「母様の墓を見舞いに行っている所を私の命を狙う刺客に襲われたの。一刀は私を庇って刺客の矢を左腕にうけたの。その矢には毒が塗ってあって、応急処置はしたのだけど。一刀は意識不明で生死の境を彷徨ってる」
「…なんという。それでその刺客はどうなされたのです!?」
「ちゃんと私が始末したわ。今私は自分が情けなくてしかたない。それ以上に曹操が憎くて憎くてしょうがない。私は惚れた男が傷つけられて平気でいるような女じゃないわ」
「……」
「私の一刀を傷つけたこと死ぬまで曹操に味あわせてやらないと気がすまない。戦いに私情を挟むことは良いことだとは思わない。でも一刀はすでに呉の一員、仲間が敵に傷つけられたのならそれは呉を傷つけたと同義!敵は曹操、その全てを虎の牙をもって全てを蹂躙し尽くす!これにて軍議は終わりとする。全員持ち場に戻り戦の準備をせよ!!」
「「「「「「「応っ!!」」」」」」」
戦場全域に魏・呉両軍が布陣を完了し、前哨戦とも言える総大将同士の舌戦が始まる王としていた。
曹操はすでに両軍の対峙する戦場中央部に到着していた。
それを見た、雪蓮は一つ大きな袋を持って騎乗し曹操の元に向かった。
先に言葉を発したのは曹操だった。
「江東の小覇王、英雄に名に恥じない呼び名ね。威厳・風格ともに十分。英雄と呼ばれる者同士ここで雌雄を決しましょう!」
自身に満ち溢れた表情で告げる。
それに対し、雪蓮はあからさまに侮蔑をこめた表情で告げる。
「あなたが英雄?冗談も大概にして欲しいわね」
「…挑発しているつもり?」
雪蓮は無造作に持っていた袋を曹操の方に放り投げた。
曹操は警戒しながらも袋の紐をとき中を覗き込む。
中身を見た瞬間、おぞましいものを見たように曹操の顔が歪む。実際男の断末魔を上げながらこと切れている生首なんて見ようと思えるものではいのだが。
曹操は事情が読めないようで雪蓮の顔を見上げ、言葉を発するのを待っている。
「これは私の命を奪いにきた刺客たちの頸よ。何か言いたいことはあるかしら?」
「そんなことありえるわけがないでしょう!私は暗殺なん…て」
曹操はハッとしたような表情を浮かべた。
出立前に彼女の部下である稟が質の悪い兵士が我が軍に混じっていることを報告していたことを思い出した。
苦虫を噛み潰したように口を噤む。
(私の責任だわ)
「責任はすべて私の方に全てあるわ。軍は即時撤退させる。その後に謝罪の使者と詫びの品を送り届るわ。なにより私が」
「笑わせるな!!!!!」
「!?」
「使者などいらぬ、詫びの品もいらぬ!『なにより私が』なんだ!?本人自ら謝罪一切無用!それが一番気いらないわ!」
雪蓮は感情を爆発させ、矢継ぎ早に曹操に罵声を浴びせる。
「私がここに居るから実害はなかったとでも思っているの!?一刀は…刺客に傷つけられた者はその毒矢をうけて苦しんでいるわ!私のことを庇ってね!!」
「曹操あんたはやっちゃいけないことをした。我ら孫呉は仲間を傷つけられたのなら全員で傷つけたそいつのことに報復する!仲間の怒りは我の痛み、ひいては呉の痛みに他ならない」
「そして何よりも!あんたは私の愛する者を手にかけようとしたっ!!…万死に値する。わが身に眠る、母より受け継ぎし江東の虎の怒りはお前のその身全てをズタズタに引き裂くまで消えることはないっ!!!!!」
「これ以上は頭でなく、その身で味わってもらうわ。覚悟しろなんて生易しいことは言わない。そんな暇なんて与えない。次あなたが私と会う時はあなたが死ぬ時。曹孟徳、頸は私自ら刈ってあげる」
そう告げ、孫策は颯爽と自陣内に戻って行った。
曹操はしばしその場に立ち尽くした。
自陣に帰った雪蓮は兵士一人一人に聞こえるように一刀が苦しんでいること、自身の曹操に対する激しい怒りを激して飛ばした。
そして最後に叫ぶ。
「我が下す命はただ一つのみ!!曹魏の血でこの江東の地を血で真っ赤に染め上げろ!!!!これより江東の虎の狩りの始める!全軍、突撃でなく殺戮だ!!一方的に狩り尽くせ!!!攻撃を開始せよっ!!!!」
虎の王の咆哮。
それに答える兵士それぞれがその身を猛虎と化し戦場を駆け抜ける。
大地が揺れる。
両軍の先陣が接触する。
魏軍は曹操の混乱を反映したように戸惑うばかり。
呉軍は数では劣るが鬼気迫る士気を以って敵軍を圧倒する。
その先進に立つは呉王・雪蓮。
王が最前線に立つなど愚の骨頂に思える行為だが、それにより呉軍の士気は否応にも高められている。
すぐに魏軍は後退を余儀なくされた。
それでも呉軍の独壇場と化した戦場の殺戮の宴は終わりを告げさせることを許しはしない。
雪蓮は後退する魏軍の陣深く切り込んでいた。
もう数え切れないほどの人間を斬った。
その美しい容姿は血で化粧が施され、ゾッとするほどの妖しげな艶めかしさを醸し出していた。そう、後ろ姿だけであるなら…
手負いの虎は手に負えない。
その言葉通り、雪蓮の身体は所々に切り傷が見て取れた。
しかし、その表情に苦悶はない。
激しい感情が痛覚を麻痺させているようだった。
眼の前には数人の敵兵士が立ちふさがっている。
一斉に雪蓮に向けて白刃を奔らせる。
「どけぇ!!!!」
襲いかかる兵士を薙ぎ払う。
眼前に敵はもういない。
あるのは魏軍本陣、いや曹操を匿うためだけにある肉の壁。
猛虎に変わりし雪蓮にはそれは障害ではないただのエサ。
猛然とまだ見えぬ曹操の姿を見据え、疾走を始めた。
対する曹操も孫策がこちらに向かっていることは把握していた。
ここで後退をやめれば魏軍の壊滅は必至。
それでも覇王としての誇りが一騎打ちは避けえることはできないと告げていた。
後方から声ならぬ咆哮が聞こえる。
我が本陣に追いつき斬り込んできたのだろう。
曹操は獲物『絶』を取り出し。
来たる猛獣に備え、姿のまだ見えぬ孫策を見据えた。
魏本陣の兵士は襲いかかる雪蓮に手も足も出ずに狩り殺されていた。
それらはただの的に過ぎなかった。
僅かな時間で雪蓮は本陣を斬り抜け、曹操と対峙した。
正面に曹操を捉え、一つ深呼吸をする。
脳裏に浮かぶのは毒で苦しむ一刀の姿。
疲れも怒りで塗り替えられていく。
「語るべきことは何もない。ただ死ね、すぐ死ね、貴様の腐った根性と共にっ!!!」
もはや言葉はいらぬと雪蓮は曹操の頸を薙ぐ。
曹操もそれを予見していたように大鎌の柄でそれを防ぐ。
金属と金属がぶつかる甲高い音と眩い火花が散る。
かろうじて雪蓮の斬撃を防いだ曹操だったがその衝撃に彼女の小柄な体格は耐えきれず二間ほど弾かれる。
さしもの曹操も文武両道として名高いが、本分は政事を行う文官。
生粋の武人である雪蓮には分が悪い。
敵が一般兵であったなら遅れをとるなどありえぬことなのだが…。
こんどばかりは相手が悪かった。
それも相手は怒り狂っている。
合を重ねるごとに曹操は防戦一方になってしまった。
また雪蓮が斬りかかり、後方に跳ね飛ばされる。
「はぁ…はぁ」
すでに精も根も尽きかけ満身創痍の曹操は死を覚悟した。
周囲は曹操と雪蓮を取り囲むように同心円が出来上がってた。
取り囲むは魏の兵士のみ、だが誰一人として主人である曹操を助けに行かない。
いや、行けないのだった。
戦場に立てばみな武人。その誇り高き一騎打ちを邪魔するということは助けられた当の本人に対する最大の侮辱に当たる。
だから誰も助けに行かない。
多くの人間に囲まれながら、雪蓮と曹操は孤独な戦いを続けていた。
雪蓮は少し後方に下がり、間合いを空ける。
「もう終いにするわ。お前を殺して一刀のところに会いに行く!!」
一気に間合いを詰め、曹操の頸を狙う。
それを防ぐべく大鎌を立てて防御の姿勢に入る。
ギィン
流石に雪連も疲れたのか最初の斬撃より威力が落ちているように曹操は感じた。
腕は痺れたが吹き飛ばされることはない。
そう思った瞬間、柄を握る曹操の手を思いがけない衝撃と痛みが走る。
雪蓮はこれを狙っていたのだ。
わざと始めの斬撃を弱くして油断した隙にすかさず、柄を持つ手に蹴りを放ったのだった。
失念していた。虎は勇猛であり、かつそれと同等の高い知能を持っているのだった。
虎、その全身が武器なり。
いかなるものも噛み砕く牙と切り裂く爪。
そう思ってももう遅い。
曹操は得物を地面に取り落としてしまっていた。
「我が大願ここに潰えるか…」
そう零して、ゆっくりと目をつぶる。
死がもう目の前に迫っているのがわかる。
虎の牙がもう一度曹操を襲おうとしているのだった。
雪蓮は思った。
(殺った!)
目を閉じた曹操のまっさらな白いうなじに南海覇王を振りおろした。
何か固い感触により雪蓮の斬撃は防がれた。
防いだのは研ぎ澄まされた黒い大きな鉄の塊。
それを辿ってみるとそこには黒髪全体を後ろに流し、額を前面に出した左目に眼帯をした女がいた。
“魏武の大剣”
魏軍を代表する武人、夏候惇だった。
「どういうつもり?総大将同士の戦いに水を差すなんて武人にあるまじき行為、許されると思うのか魏武の大剣!!!」
雪蓮は間髪入れず、夏候惇を斬りつける。
それを自らの得物で防ぎ、曹操を抱えたまま後方に跳躍する。
「華琳様、早くお逃げください!」
「春蘭放しなさい!…私は!」
「華琳様!!」
「…」
「ここは私にお任せください。華琳様は魏にとってなくてはならぬ御方です。このようなところで命を無くすようなことがあってはなりません。この罪は私の命を以って代えさせていただきます」
「……わかったわ。でも死んでは駄目よ。必ず私の元に帰ってきなさい。曹孟徳自らお仕置きしてあげるわ」
曹操はそう言って駆け出して行った。
「話し終わるのを待っていてくれたのか。聞いただろう。ここからは一歩も通すわけにはいかない」
「よく言うわ。曹操と話しながらも私に向けて尋常じゃない殺気を放っていたでしょう?」
「当然だ」
「でも、許さない。夏候惇、貴様がどうしようとこの戦は私が曹操の頸を取るまで終わらない!」
「来いっ!!」
互いの得物がぶつかり合う。
確かに曹操よりは強い。
それでも今の私の敵じゃない。
(つ、強い。華琳様を圧倒したとはいえ、呉王孫策の力がここまでのものとは)
打ち合いながら夏候惇は舌打ちする。
それでも武名で名を馳せた意地で果敢に雪蓮に斬撃を叩きこむ。
勝負はいっこうに決着を見せない。
なにより雪蓮の肉体はここまでの酷使に悲鳴をあげようとしていた。
「姉者!!」「策殿!!」
祭・夏候淵の声がほぼ同時に響いた。
先に声を続けたのは夏候淵。
「姉者、華琳様は無事に戦場の外に避難された。これ以上戦闘を続ける意味はない。退くぞ!」
「華琳様は無事だったか…応っ!!!この勝負預けた!」
同時に夏候淵は雪蓮に向けて矢を放つ。
その隙に夏候姉妹は自軍内に消えて行った。
矢を叩き落した雪蓮は再び曹操の逃げていった方向に駆けだそうとした。
それを祭は腕を掴んで制止した。
「放せ!!まだ曹操は遠くには行っていないはず!」
「いい加減にされよ!!!」
祭は周囲の兵が慄くような大音声を張り上げた。
「!?」
「激しい戦闘に将兵ともに疲れが見え始めております。何より策殿あなたが」
「そんなことは!」
言った瞬間、雪蓮の膝がガクッと折れた。
「そのような状態で何ができるのですか?一つ尋ねてもよろしいか?
「…なによ」
「あなたは一体呉のなんなのです?」
「……王よ」
短く、呟くように言った。
「はぁ?聞こえませんな」
「王よ!私は孫呉の王、孫策よ!!」
「よろしい。それではあなたがなすべきは?」
「呉の民を守ること」
「曹魏は撤退し、脅威は消えました。兵をお引かせ下さい。策殿、あなたが傷ついて喜ぶ者など呉のどこにもおりませぬ。なにより一刀は何の為に策殿を身を挺して守ったのです?」
「……」
「わかっていただけましたかな?」
「そうね。早く一刀の所に行きたいし」
「そうですな。皆も心配しておりますゆえ」
戦いは呉軍の圧倒的勝利に終わった。
雪蓮は撤退し終わった兵士に労いの言葉を伝え、一刀のいる医務室に駆けて行った。
治療はまだ終わっておらず、扉は閉め切られていた。
すでに雪蓮を始めとする呉の面々は医務室の前に集合していた。
「ねぇ雪蓮姉様、一刀大丈夫だよね?」
小蓮が雪蓮の袖を引き、不安そうに尋ねる。
「大丈夫よ。一刀がこんなところで死ぬはずないわ。天の御遣いとして呉に繁栄をもたらす男なの、まだ何にもしないうちから私の前から居なくなるなんてありえないもの」
妹にむけ、笑みをかえす。多少表情が引きつってしまったかもしれないが。
そうこうしているうちに突然、医務室の扉が開かれ医師が出てくる。
「一刀、一刀は大丈夫なの!?」
雪蓮は医師に掴みかかるようにして訪ねた。
実際医師は胸倉を掴まれ呼吸ができずに口をパクパクさせている。
「雪蓮、それでは話せないだろう」
冥琳が冷静に雪蓮を窘める。
一方の冥琳の方も冷静に繕っているが、握りしめた拳の中はしっとりと汗で湿っていた。
「それでどうなのだ?」
解放され咳込んでいる医師に尋ねる。
「とりあえず治療は成功しました」
一気にその場は歓声と安堵の溜息が零れる。
笑みを浮かべる者。
うっすら涙を浮かべる者。
外聞なく滂沱する者。
表現は様々だが誰もが一刀の無事を喜んでいた。
「それで一刀は今どうしてるの?」
「今は安静を取り休ませています。一晩明ければ目を覚ますでしょう」
「…そう」
そう言って緊張の糸が切れた雪蓮はその場に崩れ落ちた。
その場にいた全員の顔が真っ青になったのは言うまでもない。
一刀は明朝早くに目が覚めた。
「あぁ、俺は…」
辺りを見渡す。
見たことのある場所だった。
「死ななかったんだ」
呟き自分の左腕を見る。
矢の刺さった部分には包帯が巻かれていた。
「痛っ!」
少し動かしてみるとそれなりに痛い。
助かったのが夢ではないことを実感し大きく息を吐く。
体が多少鈍いように感じるが傷のせいだろう。
「!?」
突然、部屋の扉が開いた。
驚いた拍子に左腕を動かしてしまい顔を歪める。
「一刀大丈夫なの!?」
部屋に入ってきた雪蓮が駆け寄ってきた。
「あ、あぁ大丈夫だよ雪蓮」
「よかったぁ。一刀にもしものことがあったらって思ったら」
ポロリと涙が零れた。
一刀は上半身を起して雪蓮の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。俺はちゃんと生きてるよ。ここにいる」
「ぅん…ぅん」
コクコクと頷く。
雪蓮をやさしく撫で続けながらその姿をしっかりと見る。
その体は痛々しい切り傷が無数にあった。
「雪蓮!!」
「!?」
何事かと雪蓮は俯いていた頭をあげ一刀を見る。
「怪我してるじゃないか!大丈夫か!?」
焦ったような声で雪蓮に問う。
雪蓮は笑いながら答える。
「死にかけたくせに人の心配なんて…全く一刀は」
(一刀はこういう人間だから私が好きになったのかもね)
「でも!」
「いいの。この傷は呉のみんな、何より一刀を守れた証しだから」
「……」
一刀は顔を赤く染めて恥ずかしそうに眼を逸らした。
「もぅ一刀ってば可愛いんだから」
雪蓮はカラカラと笑う。
「雪蓮」
「なに?」
「ありがとう」
一刀は屈託のない笑みを浮かべた。
雪蓮の顔が朱色に染まる。
つられるように一刀も。
二人の顔はだんだんと近づいていき、そして一つに重なった。
縺れ込むように寝台に倒れこんだ二人は存分に互いの愛を交わし合った。
初めての時のような一方的なまぐあいではなく、相手の存在を確かめ合うように。
その後、寝台で裸で抱き合っている二人を見つけた冥琳よって二人はこっぴどく絞られた。
説明 | ||
現在、執筆している偽√が少し遅れてしまっているため以前自分が書いた呉SSを投稿したいと思います。 もともと単発の予定だったのですが加筆・修正しているうちに長くなってしまったので前編と後編に分けています。 後編はまだ修正途中のため数日後に投稿できたらと思います。 内容が他の作者様と似通う部分があるかもしれません。そこはご容赦下さい。 あくまで前編はという場合ですので後編は独自の展開をします。 内容は雪蓮メインの話です。 作者としましても雪連には幸せになって欲しいと願うばかりです。 (多少の試練はありますが) 作者の性格はひねくれているらしく簡単に幸せは掴ませてあげれません。 最終的にはハッピーエンドですのでご安心ください。 また誤字や不適切と思われる表現がありましたらご報告ください。 |
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コメント | ||
Dada様>そのようなコメントは控えていただきたい、この中にも私のように曹操が大好きな人もいるのです、キャラを侮辱するようなら、この作品を書いたIKEKOU様にも迷惑がかかります、お願いですから今後こう言うようなコメントはお控えください(十狼佐) IKEKOUさん、これからもがんばってください。(セレクト) すばらしい作品だと思い、何回も読ませていただきました。(セレクト) まじ曹操氏ね!!!一番くだらないキャラなんだから即氏ね!こいつのどこがいいの?(Dada) ハッピーエンドで終わってよかった。 ってこれ前篇なの!?(劉趙) 零壱式軽対選手誘導弾さん これからもいい作品が書けるように頑張ります。(IKEKOU) 何度読み返してもいいものですな〜〜〜(零壱式軽対選手誘導弾) FLATさん 誤字報告ありがとうございます! すぐに直しておきますね。(IKEKOU) いやもう最高でした! ただ4ページ目「蓮華」が「連華」になってますよ〜(FLAT) Poussiereさん コメントありがとうございます! 一刀と雪蓮が手に入れた幸せは永遠のものではありません。 後半、どのように永久の幸せをてにいれるかご期待してください。 某マンガから言葉を借りるならば『等価交換』。 何かを得るためには何かを捨てなければいけない。 そういうことです。(IKEKOU) 前篇でぱっぴーエンドだwwwww しかし、後篇ではどのような過酷な試練が待ち受けているの・・・かな? 偽√も大変愉しみにしておりますので頑張って下さい^^w そして、最後に冥琳より蓮華に見つからなくてよかtt(ry) ん・・・・・物音がするな・・・・。(Poussiere) komanariさん コメントありがとうございます! 面白いと言ってもらえる、それは自分にとって最高の賛辞です。 後編もご期待に添えればよろしいのですが。(IKEKOU) 面白かったです。後編がどんな感じになるのか楽しみにしていますw(komanari) totoさん コメントありがとうございます! お褒めに与り光栄です。(IKEKOU) 雪蓮の虜さん コメントありがとうございます! やっぱり雪蓮はいいですよね。 容姿・性格・強さ、すべてが危うくてそれでいて絶妙なバランスを持っている。 そんな雪蓮の良さを表現できるようがんばります!(IKEKOU) いいですね〜・・・引き込まれましたww(toto) 素晴らしすぎて言葉が出ません!!雪蓮が全てです!!!続きも楽しみにしてます!(雪蓮の虜) フィルさん コメントありがとうございます! 雪蓮にはもう少しだけ辛い目にあってもらいます(笑(IKEKOU) YUJIさん コメントありごとうございます! 偽√の方も早いうちに投稿できるよう頑張ります!(IKEKOU) ある意味、前編だけでもハッピーエンドだw ここから雪蓮と一刀にどんな試練が待っているのか、楽しみですw 偽√も楽しみにしているので頑張ってくださいw(フィル) やっぱり呉は√雪蓮がいてのハッピーエンドが望ましいですな。 偽√も引き続き頑張ってくださいwww(YUJI) |
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