欠陥異端者 by.IS 第二十三話(やっぱ姉妹は似るもの)
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零「やっぱり、屋上は人気がありませんね」

 

簪「・・・」

 

零「とりあえず、座りますか?」

 

簪[・・・コクッ]

 

人工芝の上に腰を降ろした私は、購買で買ったカレーパンの袋を破る。

合わせて、簪お嬢様もクリームパンの袋を開けて、小さな口で食べ始めた。

 

簪[チラッ・・・チラッ]

 

食べながら私の事を窺うその仕草は、私の知る簪お嬢様そのものだった。

簪お嬢様が周囲の人を拒絶するようになった理由は知っている。

昨日、会長から全て説明された。

既に知っている一夏さんに恨みを持っている事・・・実の姉である会長にジレンマを抱えている事・・・。

でも、簪お嬢様は簪お嬢様なのは変わりない。

 

零「[もぐもぐ・・・]どうかしましたか?」

 

簪「っ・・・何でも、ない」

 

しかし、どうしてここまで心を閉ざしているのか。

お嬢様がネガティブ思考な性格をしている事は分かっているが、それだったら何で『打鉄弐式』の開発中断の機に、本音さんすら拒絶するようになったのだろうか。

もし、これが私だったらどうだろう?

 

零[ジ〜〜〜]

 

簪「え、えと・・・///」

 

生きるためにはお金を稼がなければならない。

それ以外は人生の付録みたいなものであって、私には必要ないと思っていた。

一言で言えば"無関心"。心を開く必要なし、と判断したわけだ。

 

簪「あの・・・あの・・・///」

 

でも、お嬢様は私と逆なのかな?

あんな姉でも才色兼備と名高い人物(らしい)。

事あるごとに自分と姉を比べてしまっているのかもしれない。

周りの人からもそう比べられていたのなら、周囲の人を拒絶してしまうのも分かる気がする。

 

簪「〜〜〜///」

 

思考を巡らせていると、突然、お嬢様が立ち上がって逃げ出してしまう。

 

零「え? ちょっと、お嬢様?」

 

その後を追おうと思ったが、既に屋上に姿がなかった。

・・・はて?

 

零「う〜ん・・・これは少ししつこくやらないと」

 

 

 

 

 

この日以降、私は簪お嬢様のところに通い続けた。

朝は、早起きをして寮の前で待機し、一緒に学園に通ったり───

 

零「おはようございます」

 

簪「っ・・・う、うん」

 

昼は、食事の誘いをしに行き───

 

零「屋上にします? 食堂にします?」

 

簪「・・・別に、どっちでも」

 

下校も一緒に───

 

零「・・・」

 

簪「・・・」

 

この時の会話はゼロ・・・っていうか、話す内容がない。

私はこの日課を一週間続けた・・・。

 

根本「ねぇねぇ、落合君。四組の更識さんと付き合ってるって本当?」

 

そんな日を毎日続けると、当然、周囲は気にしてしまう。

既に、事実とは違う噂が学園中を飛び交っているようだ。

 

零「付き合ってませんよ」

 

エミリア「でもさ〜、登校も一緒で、昼食も一緒で、下校も一緒でって、普通の関係じゃないよね?」

 

零「別にどうでもいいじゃないですか」

 

エミリア「ちぇ〜、つまんない」

 

サラサラの金髪を揺らして、エミリアさんは席に戻っていく。

 

根本「で? 実際はどうなの?」

 

零「だから、何もありません」

 

根本「・・・そっ。ならチャンスはありか・・・」

 

零「チャンス?」

 

根本「うん? ううん。何でもないよ」

 

千冬「おい、授業を始めるぞ。席に着け」

 

 

 

 

 

 

楯無「それで? 何で、こんな噂がたっているの?」

 

零「・・・」

 

生徒会室に呼び出された私の前に出されたのは、新聞部が作成した記事。

そこには、私と簪お嬢様のツーショット写真がデカデカと写されている。

 

楯無「私はただ、学園祭中に行動を共にしてほしいって言っただけよね?」

 

零「いきなり学園祭当日に「一緒に回りましょう」って言えば、向こうは困るでしょう。最近、接することもなくなりましたし」

 

楯無「だからって、こんな噂がたったら、それこそ簪ちゃんも困るでしょ! 何を企んでるの?」

 

零「・・・今日は随分と感情的ですね。心配なんですか、妹さんの事?」

 

楯無「当たり前でしょ! お姉さんなんだから!」

 

零「じゃあ、何で自分から簪お嬢様に寄り添わないんですか?」

 

楯無「そ、それは────」

 

私が優位に立つ滅多にならないシチュエーション。

言葉に詰まる会長に追い打ちをかける事は出来るが、そこまでする必要はないだろう。

複雑な問題らしいし・・・臆病なのは、姉妹揃って同じか。

 

零「一応、企みはありますけど、それを詮索する前に、一夏さんをからかう暇を、身内のために使ってあげたらどうです?」

 

楯無「・・・」

 

 

 

 

楯無「なによ、そこまで怖い顔をして言わなくていいじゃない・・・」

 

 

 

 

 

その後も、様々な人物に噂について聞かれた。

一夏さんにも鈴さんにも、まさか先輩方まで来るとは・・・。

 

簪「あ、あの・・・」

 

しかし、今日の下校も簪お嬢様と一緒に行動する。

 

零「何です?」

 

簪「姉さん・・・ですか?」

 

零「? あ〜、別にあの人から言われたから、こんな事してる訳じゃありません」

 

簪「なら、どうして?」

 

はて? 何でだろうか・・・。

 

零「正直に言いますけど、私は会長から学園祭中は簪お嬢様と行動しなさいって、言われました」

 

簪「じゃあやっぱり────」

 

零「だから違いますって。単純にお嬢様の近くに居たいと思っただけです」

 

簪「ぇ・・・///」

 

零「ぁっ/// べ、別に恋愛感情とかではなくて、その・・・アハハ」

 

何か告白みたいな言い方を訂正しようと思ったが、言葉に詰まって柄にもなく誤魔化し笑いを浮かべてしまった。

 

簪「・・・ぷっ」

 

あっ、笑った・・・。

 

簪「変わりましたね、落合さん」

 

零「何故か、みんなにそう言われます」

 

簪「無理はないです。本当に、変わりましたから」

 

にっこりと微笑む顔は、お姉さんにそっくり。

やっぱり姉妹なんだな〜と、こっちまで自然と頬が緩む。

 

生徒1「ねぇねぇ、あれって噂の二人?」

 

生徒2「あっ、ホントだ・・・そんなぁ〜、落合君の事本気で狙っていたのに〜」

 

前方を歩く二人がチラチラと私達を見ながら、ひそひそと話していた。

ひそひその割に、声は丸聞こえだけど。

 

零「・・・何か、すみません」

 

簪「え? あっ、うん、平気、だよ」

 

明らかに動揺している様子のお嬢様。頬が若干赤い。

 

零「クラスの人達に詰め寄られたりしてますか?」

 

簪「最初の、頃は・・・で、でも迷惑とか言っている訳ではないです、から! 本当に、嫌、じゃないんです、落合さん、ですし」 

 

途切れ途切れだから、お嬢様の言葉を最後まで聞き取ることは出来なかったが、そこまで多大な迷惑を受けている訳ではないようだ。

 

簪「学園祭の、件・・・」

 

零「はい?」

 

簪「その、一緒に回る、の・・・いいです、よ。だから明日も、昼食、一緒に・・・」

 

零「はい。お嬢様」

 

何か、呆気なく前までの関係まで修復された。

これなら、予定より"早く終わりそうだ"。

 

簪「あと・・・"お嬢様"って呼ぶの・・・やめて下さい」

 

楯無『だからぁ、お嬢様って呼ぶのやめてよ』

 

・・・私の脳内で、見事に二人の声やビジョンがぴったり重なった。

 

零「ぷっ───お嬢様はお嬢様ですから」

 

簪「ぅ〜〜〜」

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今回は短めです。
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