[HXL] 福岡改造生物密輸事件 11 |
突如、闇夜の隙間から現れた3機のエアマフラー!
そのマフラー、4枚のプロペラが人を切り裂く凶器となって迫る!
もはや奴らには、当初の作戦などコンピュータから消えているに違いない。
ただ、なめられないためにオレ達を襲おうとしている。
赤い光がはぜた。
きっとイーグルロードのレーザーだ。
レーザーは右端の一体の胸を貫き、横なぎに中央の機体の胴体を切り裂き、左側の機体を胸の半分切り裂いた。
良し! リアーシステムは破壊した。
しかし、敵の巨体はこっちへ倒れ込んでくる。いや、まだ歩いている!?
「ウオオオ!!!」
叫びとともに、イーグルロードがエアマフラーの群れに体当たりした!
その勢いは凄まじく、3体まとめて反対側のビルまで突き飛ばした!
いや、何だ?
切り裂かれた部分から、切り落とされた機体の中から、黒い物がゴボゴボと噴出してくる!
出てきたものはエアバグだった。
あの蜘蛛のような小型ロボが次々にこっちへ押し寄せ、あの捕獲用ネットを投げつけてくる!
キキ―! バウバウ! ウホウホ
聞きなれた、獣のような電子音声。それが無数に!
ランナフォンたちが、エアバグの前に立ちはだかった。
カラフルな体から放たれる液体窒素カッターが、黒い醜悪なエアバグを切り咲いていく。
その刃は、エアマフラーにまで及んだ。
ふらふらとオレ達の迫っていたロボットは、垂直に地面に落下する無数のガラクタに成り果てた。
オレはどうすればいい?
その時、足元からウホウホとゴリラ型ランナフォンの呼ぶ声がした。
そこにいたゴリラは、両腕にメモリーカードのような物をいっぱいに抱えていた。
撃破されたランナフォンのデミアジュウムカードリッジだ。
これまでの観測データを収めたメモリーカード。それに駆動系の一部を担う
わざわざ回収してくれていたのか。
ありがとよ。そう言ってポケットに収める。
戦うには無力だけど、オレは叫ぶ。
「オーバオックス! 装甲車みたいなロボットについていってください!」
避難誘導に戻るだけだ。
エアバグはまだ迫ってくる!
ショットガンの撃つ。
これが最後の弾倉だ。
一発うって、また一発。この間がこんなに惜しいと思ったことはない。
オーバオックスたちも反撃を開始した。
機械と人間の脳を融合させた反応の速さは、さすがだと思う。
だが、それでも最後のエアマフラーの質量まで消せるわけではなかった。
「だめだ! 潰される!」
ゴンゴン!
巨大な金属の塊が、地面にめり込む音。
だがとっさに体を伏せたオレには、鉄の破片も刺さることはなかった。
急いで周りを、最後に上を見た。
緑の電撃王子が、そこにいた。
アステリオスタワーの巨大な緑の先端。
巨大な戦斧に、エアマフラーはくっついていた。
嫌、まっ平らに潰され、へばりついていた。
磁力か。
あいつはオレたちを助けるため、視力をまとった斧で敵を切り裂いてくれたんだ。
斧が、ものすごい勢いで空に帰っていく。
そしてスーパーディスパイズとの戦いに戻っていった。
「ありがとう。牛の王子様」
『これから避難場所へ誘導します! 小さい子供やお年の方、怪我をされている方は我々が運びます!』
千田隊長の声。
オーバオックスの鋼鉄の手が、被害者のために開かれた。
移動する前に、川辺から戦況を見てみた。
夜空を照らす無数の砲火。爆炎。
橋の上からも、市民を守っていた10式戦車や機動戦闘車の砲撃が始まる。
その後ろにそびえる巨大な人型の影。
その左腕に輝くトカゲのようなものが取り付いている。
スーパーディスパイズが普通の人間サイズだとすると、フクイペリオンなど長さ10センチ程度。
腕にしがみついたところで、重さは何も感じないだろう。
でも、その10センチが輝くとき、スーパーディスパイズの左腕から虹色のオーロラのようなものが迸った!!
「あれが次元転換シールド? 初めて見た」
イーグルロードが言い当てた。
そのシールドは、どんな攻撃も治言語と捻じ曲げ、あさっての方向にそらしてしまう。
ただし至近距離から、ありとあらゆる方向に攻撃を飛ばされると、そのうちの何パーセントかは本体に届いてしまう。
他の方向に飛ばされた光は、波長が変わったりして虹色に見えるわけだ。
「ふーん」
解説している間にも、スーパーディスパイズの左腕が赤く解け始めた!
そんな左手首を、ロボットは自ら右手でつかんだ。
そして引っ張る。ギシギシと金属をねじ切る嫌な音!
その身じろぎさえ、足から川を振動させ、波打ち逆流させる。
やがてフクイペリオンを取り付かせたまま、左腕は轟音と共に引きちぎられた!
右手はちぎられた左腕を握り締め、鋼鉄の胴体は上半身を高速で右回りの回転させる。
遠心力で加速されたフクイペリオンは、敵の左腕もろとも高速で投げ飛ばされた!
「やばい! 走れ!」
みんなで最初のビルの陰へ走った。
オレたちの頭上を輝く巨体が通る。
熱い! 熱と衝撃波が混じったものが襲ってくる!
そして数秒後。
ゴーン!
大地をえぐる、炸裂音!
それと同時に、キュウキサウルスがフクイペリオンを追った。
その直後、薄気味悪い唸り声のようなものが聞こえてきた。
『アウグル!応答してくださいアウグル!!』
アルクベインからの通信だ。
どうにかしてフクイペリオンの電磁波が弱まったな。
ハイ、こちらアウグル。
『アウグル、そちらに向かうスイッチア軍が多すぎます。その防空網を突破するのは不可能と考えます。
よって、敵ゲートの封鎖作戦は、こちらだけで行います。
あなたは出来るだけ暴れて、敵を引きつけてください!』
「了解」
『では、御無事で』
通信は切れた。
「じゃあ、私は上から支援するわね」
そう言ってイーグルロードは飛び上る。
アルクベイン達の作戦が行われるはずの、福岡タワーがある方、西の方を向いてみた。
三階建の一戸建てや、マンションの向こう。
夜空に赤い点が昇っていく。
それも、いくつも。
どうやら発煙筒のようだ。
ゲート封鎖部隊。ジエンドを中心とするヒーロー達だ。
その行く手には、今も敵を吐き出す巨大なゲート。
手伝ってやれないことに、悔しさを感じる。
だが、今のオレ達には、それにも勝る仕事があるんだ。
「がんばれよ」
電磁波の影響はないんだ。
改めてHMDを付け、上空のワシ型ランナフォンからの映像を呼び出す。
フクイペリオンとキュウキサウルスは、新しい埋立地。未だ建物もたっていない空き地で格闘していた。
溶けたスーパーディスパイズの超合金製腕が飛び散る衝撃を受けながらも、フクイペリオンは耐え抜いた。
グオオオオ!!
両翼を左右に大きく広げ、大声を上げて自分の体を大きく見せて威嚇するキュウキサウルス。
その咆哮が響くたび、フクイペリオンの体の光が弱まり、縮んでいく。
ランナフォンネットワークに書き込む誰かが、何が起こっているのか教えてくれた。
電磁波と音響学を使った火炎プラズマの不安定化。
炎そのものの原理を利用して、瞬時に消火するためのものだ。
なるほど。太陽、すなわちプラズマの体を持つフクイぺリオン向けの技だな。
だがフクイペリオンはひるむことなく、電磁波で操る盾を前に、槍を構えて大地を駆けた。
真っ直ぐ槍を向けられたキュウキザウルスも負けてはいない。
3本のツノから稲光を飛ばし、大地を蹴り、羽ばたきも推進力に変えて、真正面からぶつかり合った!
ドドーン!!
眩い光と衝撃波。
こればかりは、随伴するオーバオックスも防げない。
それらに揺さぶられながらも、オレ達は走る。
爆風が、新たに現れた避難民達の服や髪をなびかせる。
「あんた達! 早く逃げろ!」
呆然とする彼らにオレは叫んだ。
HMDには敵の生き残りが、どう動くのかが見える。
「オレはヒーローの偵察員だ! 川沿いに敵のロボットが飛んでくる! だから街の中に逃げろ!」
それを聞くと市民は悲鳴を上げて逃げ去った。
ジャリジャリジャリー!
巨大な鎖を引きずるような音が響いた。
HMDには。
スーパーレジェンド・オブ・ディスパイズの左ひざから、巨大なムカデのようなものが飛び出してる!?
それは、巨大な鋼鉄のムチだった。
自ら引きちぎった左腕の間接にドッキングすると、ある程度浮遊能力があるのか、横に一閃!
オレたちの頭上を灰色の曲線が横切った。
そして、アステリオスタワーに巻きつく!
『200メートルほど進むと広い駐車場があります! そこから避難用のヘリに乗っていただきます! がんばってください!』
オーバオックスから千田隊長の声。
彼らの鋼鉄の腕には、自力で走るのが困難な老人や子供が乗っている。
高速環状線の高架をくぐった。
もうすぐ駐車場だ。
一度の300台くらい止められそうな駐車場は、夜だからがら空きだった。
奥には5階建ての四角い工場が立っている。
その反対側に、コンテナを積んだ大型トレーラーが3台止まっているだけだ。
人だかりと、その周りで人々を守るヒーロー達が見えてきた。
『中に入らないでください! ヘリコプターの風で倒されます! 着陸地点の確保にご協力ください!』
警察が拡声器で叫んでいる。
でも、ホントにこんなところで大丈夫なのか?
スーパーディスパイズが倒れたら、ここは完全にぺしゃんこだぞ。と思いかけて、やめた。
周りにいる人たちを見てみる。
これだけの人数を、他の場所へ移動させることができるか?→NO。
これだけの人数を、収容できる施設が他にあるか?→NO。
そういう意味で、レイドリフトの言葉は正しかったわけだ。
そこへ、自家用車の車列がやって来た。
その中に、黒づくめの小柄な影を見つけた。
「レイドリフト!」
「やあ、先輩」
「お前、こんなところにいていいのか?」
「突撃要員じゃない者は、こっちの護衛に回れって。アルクベインから」
彼は腹ただしそうに軽トラの荷台から下りてきた。
「後、マジン団の休戦協定は信じていいと思いますよ。ちゃんと彼らを逃がしてくれました」
そう言って、自分が乗ってきた車列を指差した。
その時、広大な地面が地球から引き離される音が響いた。
オレ達は一緒に川の方を見て、息を飲んだ。
川底から伸びる緑の巨塔。
アステリオスタワーが。
バキバキッ メキメキッ
きっと、いまだかつて地球で起こったことのない、巨木の引っこ抜き。
根元についているコンクリートは、川の両岸を走る道路の物だ。
それでも巨木は、あきらめない。
必死で体をくねらせ、スーパーディスパイズの封印の中で抵抗する!
その様子を、レイドリフト双眼鏡を取り出し、食い入るように見つめていた。
「アステリオスが、気になるのか?」
「…まあね」
こいつは科学大好き人間なんだ。
新しい物を買うたびに、敵味方問わず自慢して回るのはどうかと思うが。
「オレだって、ああいうタイプの技術者は嫌いじゃない」
これは俺の正直な気持ちだ。お世辞じゃない。
「あいつは、世界の貧困を憎み、他人の幸福を願える奴だ。
でも、オレたちの地球人は、あまりにも多くの欲望を望みすぎてしまったんだ」
レイドリフトがコクリとうなづく。
少し遅れ気味だった。
そう。ここにいるヒーローの大半は望みすぎたもの、ノッカーズだ。
そしてオレも、デミアジュウムを使い、自分の望みをかなえるもの。
デミアジュウム。
ノッカーズの能力を具現化し、ブースターなどの超絶能力を持つ機械を作り上げる超常物質。
性質は、人間の意志に応じて次元を捻じ曲げ、その場にない物が“有る確率”をかき集め、通常ではありえない現象を起こす。
工業用に使われるそのほとんどは、死んだノッカーズの脳から搾り出されている。
対象は殺された犯罪ノッカーズや、死後に譲ると自分で決めた市民達。
犯罪組織に拉致され、殺されたノッカーズから取り出され、遺族の要望などで運用されてる物もある。
オレのランナフォンに使われているのは、誘拐され、切り取られたものだ。
場所はアフリカの紛争地帯、テルガド共和国。犠牲者は65人。
犯罪組織だったかつての親会社、オルタ社が大量に保管していたものだ。
それをテルガドは受け取りを拒否した。
自分達で使うより、日本のような先進国で運用したほうが儲けになる。
儲けたぶんの何割かをペイしてくれれば、国際問題にはしない、と言うことだ。
保険金で投資をするようなものだ。
デミアジュウムの相場は、スプーン一杯に満たない量で数億円。
でもこれは、これまで超常現象とは無縁だった地球で勝手に付けた数字だ。
「超常現象に慣れてる文明にとって、今の地球で起こっていることは歪で強烈だ。
そんな歪な望みの産物が一つでも宇宙に出れば、それだけで脅威とされる」
6人分のデミアジュウム。
ある日とおりすがった仮面ライダーは、これだけ用意するのはバースト前の世界ではできっこないといった。
オレは、渡されたデミアジュウムに持ち主の残留思念があることを知った。
だから、精一杯その残留思念が自由に動けるようにと、ランナフォンにロボットモードを付けた。
結果、成功…したのかな?
でも、次元に掛かる負担はどれほどのものだろう。
イーグルロードも本来なら、宇宙を越え、次元さえ超える飛行能力を持っている。
だけど、そんなことをしても、外の世界のいらない誤解を生むだけだ。
「だから、何が何でも、この事件は地球上で終わらせよう」
「うん。分かってる」
西の空に、突然赤い光が生まれた!
ゲートを囲む、炎の輪だ。
ジエンドが自分の装甲に使われる数百億、いや数兆円分にもなるデミアジュウムを、ひも状に伸ばして巨大な輪を作ったんだ。
それに仲間のノッカーズが取り付き、ゲートに干渉する。
輪はゲートに磁石のように取り付いた。
後は、力任せに閉じるんだろう。
ポケットの中のデミアジュウムカートリッジ。
これがあれば、もっと効率的にできるのに。
「ヘリが来たぞ!」
誰かが叫んだ。
ようやく明るくなってきた空に、バタバタと言うローター音が響き、赤い飛行灯が見えてきた。
歓声が上がる。
ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ
その歓声をかき消すように、HMDに警告。
マジン団の怪人レーダからのものだった。
内容は次元振動警報。
「スイッチアのゲートだ! また敵が来るぞ!」
オレは叫んだ。
「どこだ?」
「確認しろ!」
あった! スーパーディスパイズの後ろに、黒い渦巻き台風を横倒しにしたような物が広がる。
その黒さの正体は、排気ガスか?
その出所があるとすれば、スイッチアの破壊されつくした大気。
よどんだ空気の臭いが、ここまで伝わってくるようだ。
ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ
今度はなんだ!?
スーパーディスパイズとレーダからの警告。
「ゲート内部に、大きさ約2キロの物体!出て来るぞ!」
耳をつんざく、信じがたいほど大きな金属のこすれる音。
ブレーキ音!?
ゲートの中から、黒い大気が噴き出した。
いや、爆風となって襲い掛かった!
スーパーディスパイズの巨体が、揺らぐ!
そして、持ち上げられていたアステリオスタワーのさらに上に、巨大なカギヅメのようなものが見えた。
それが、二人の上に振り下ろされる!
その時、信じられないことが起こった。
スーパーディスパイズはアステリオスタワーを下すと、自らの背中でかばい始めた!
スモッグを押し出しながら現れた者。
それは、さびと汚れに覆われた、信じられないほど大きなバケット・ホイール・エクスカベータ―だった。
長いアームの先端に回転式のホイールがついていて、そのホイールで山を削り取る、大型の建設機械だ。
さっきスモッグから見えたカギヅメは、ホイールを構成するカッターの一つに過ぎなかった。
でも、地球最大の車としてギネスブックに載っているBagger293でさえ高さ94.5メートル。
あれは高さだけで4倍はある。
しかも、鉄柱を組み合わせた吊り橋のような構造のBagger293とは違い、全体を装甲で覆っている。
いったい、どういうところで使われていたんだ!?
「でも、心配ないですよね」
レイドリフトが、明るい声で言った。
もしかすると、勤めていたのかもしれないが。
「次元転換フィールドがあるんだから、どんな攻撃が来ても受け流せますよね!」
そう。そのとおりだ。
ほら、もうスーパーディスパイズは反撃するつもりだ。
巨大宇宙戦艦の右半分が変形したその右腕が、新たな敵に向けられる…。
その時だ。赤い炎が、回転バケットからほとばしった!
「火だ!!」
「もえちまうぞ!!」
建機が現れてからパニック状態だった人々が、さらに混乱しだした。
一歩でも遠くへ逃げようと、一斉に走り出したのだ。
ここへ来るはずだったヘリも引き返していく。
『あの巨大ユンボの後ろに、タンクローリーのようなものが見えるわ!』
イーグルロードからの通信だ。
バケットの炎は、まるでバケットそのものが巨大化したように、辺りにまき散らされていく。
そうか。
バケット・ホイール・エクスカベータ―は、ホイールで山を砕き、砕いた土砂を取り込んでゆくから、それを逆回転させて、燃料を噴射すれば…。
スーパーディスパイズの右腕から、白い霧状のガスが噴射された。消火剤だ。
勢いよく噴射されたそれは、周辺にも突風を巻き起こしながら、まき散らされる炎を強引に押し返す!
それでも、噴射される燃料は膨大だった。
何割かは火が消えず、夜明け前の街を赤く染めていく。
レイドリフトがスマホに何かを叫んでいる。
「敵は燃料をまき散らして、街を火の海にするつもりだ! 僕らはかまうな! 火を止めるんだ!」
あの魔法使いたちに指示を出しているんだ。
ようやく青さが戻った空に、ソニックブームをまとったイーグルロードの飛行機雲が見えた。
まっすぐこっちへ向かってくる。
そのスピードは凄まじい。
オレは「俺にかまわず逃げろ!」とも「死にたくない! 助けて!」ということもできない。
一瞬後に、空に引き上げられる。
そして、燃え盛る地上を見続けることになるんだ。
もし、何かできるとすれば…。
オレは隣にいるレイドリフトを抱きかかえた。
「何するの?!」
やっぱり抗議の声を上げる。
「君はヒーローだ! 生きてるうちは戦え!」
こいつはまだ10歳ということもある。指揮官の才能だってある。
でも、かわいそうだから助ける、というのは違うだろう。
こいつは、これから悲劇を見る。
そして、オレには想像もつかない悲劇を見続けることになるだろう。
オレは恨まれるかもしれない。
なんだ。これじゃ、なめられないために人々を襲うスイッチアと何も変わらないじゃないか。
でも、こいつが生きれば少しは希望が繋がるかも知れない。
そんなわずかな勝利の可能性にかけて、オレは両手に力を込めた。
バキッバキバキ
空中へ引き上げられると同時に、ものすごい粉砕音が響いた!
なんだ? 衝撃でオレの全身の骨が折れたか!?
いや、痛みはない。
レイドリフトも腕の中にいて、今はイーグルロードの左腕に襟首をつかまれている。
オレも同じようにしてぶら下げられている。
下の街は…。燃えていなかった。
「今のは何の音だ!?」
イーグルロードが答える。
「アステリオスよ! アステリオスが膨らんだの!」
なんだと?
本当だ。
スーパーディスパイズの鋼鉄の鞭でがんじがらめにされていたアステリオス。
そこに緑の山のようなものが見えた。
「枝や葉を伸ばして、スーパーディスパイズの拘束を内側から破ったんだ!」
レイドリフトの言うとうりだ。
スーパーディスパイズのバリアも、鞭の隙間までは覆えなかったらしい。
それからは、あっという間だった。
枝葉はスーパーディスパイズの巨体を回り込み、ゲートへ伸びていった。
接ぎ木。ある植物の芽や枝を切り取って、他の根のある個体に移植する技術。
鞭の中でアステリオスは自分の体を分裂させ、外でもう一度接ぎ木したんだ!
今のあいつは、無数のブロックでできているようなものだ。
スーパーディスパイズの右腕が捕まえようとしても、液体のようにのがれてしまう。
バケット・ホイール・エクスカベータ―に張り付いた。
醜い機械は、無数の枝葉に飲み込まれ、動かなくなった。
スモッグさえ、どんどん吸引していく。
スイッチアにとっては、数千年ぶりの健康な植物かもしれない。
バケット・ホイール・エクスカベータ―の車体の背まで覆った森から、さらに枝が伸びる。
巨大な手だ。
その手はゲートを通り抜け、ドドーンという音ともに何かと激突した。
そして、巨大建機を丸ごと、ゲートの中へ引きずっていく。
説明 | ||
この作品の主人公たちは、悪を力強く打ち倒す物ではありません。 前線からちょっと後でおたおたする類の、後方支援専門のヒーローです。 ぴくHXLがもっと続いていればなぁ。 |
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