欠陥異端者 by.IS 第二十四話(嵐中)
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楯無「───なら、これで今年最後の学園祭実行委員会議を終わりにします。今までご苦労様。二日間、精一杯楽しみましょう」

 

一夏「ふぅ〜、終わった〜・・・」

 

あえて言っておくが、クラス委員長の俺がここにいるのは、クラス委員長という学園祭実行委員も兼ねているからだ。

というか、何でクラス委員長が行事の実行委員の業務を任されているんだ。

これじゃあ、事あるごとに俺がかり出されるじゃないか・・・!

 

一夏「はぁ・・・」

 

鈴音「なに陰気くさいため息ついてるのよ」

 

鈴も二組のクラス委員長であるから、この会議には出席している。

前まで、会えば噛みついてくる鈴だったから、今日こうして顔を合わせるのに抵抗があった。

しかし俺の予想とは良い意味で覆された。

今みたいに普通に会話できる・・・そういえば、今日は箒もセシリアも普通に接してくれたな。

 

鈴音「な、なによ/// にやにやして///」

 

一夏「に、にやにやしてねぇよ!」

 

鈴音「むっ! い〜や! 絶対してたねっ!」

 

一夏「してねぇよ!」

 

鈴音「してたっ!!」

 

一夏「してねぇ!!」

 

虚「その辺でやめなさい」

 

席に立っていがみ合う俺らの間に、虚先輩が止めに入った。

気付けば、教室内の注目を一斉に浴びていた。

俺と鈴は顔を赤くして、ストンっと腰掛けていた椅子に座りなおした。

 

虚「織斑君、ハッキリ言わせていただきますが、にやにやしてましたよ」

 

一夏「んなっ!?」

 

そんなバカな!? と周りの人達を窺うが一同、頷いていた。

 

鈴音「ほらぁ〜、あたしの言ったとおりじゃん」

 

虚「凰さん。あなたは、すぐにISを部分展開させていますが、いくら頑丈な織斑君でも怪我では済みませんよ」

 

鈴音「うっ・・・すみません」

 

よく見れば、鈴の右腕は『甲龍』が展開されたまま・・・この鉄拳に何発殴られたことか。

 

楯無「怒った時の虚ちゃん、恐いでしょ〜」

 

腕を組んでこちらを楽しそうに眺めている楯無さん。

途端、虚先輩が見た事もない怖い顔をして、楯無さんを睨み付け、詰め寄る。

 

虚「誰のせいだと思っているんですか?」

 

楯無「え? 私なの?」

 

虚「当たり前です! 私はまだ、仕事を放棄して織斑君に悪戯していた事、許していません」

 

楯無「そ、それは落合君の頼み事を────」

 

虚「それが本当だとしても、織斑君の部屋に侵入して遊んでいたのは事実ですよね? 仕事を放棄して」

 

楯無「・・・あ、あはは〜」

 

虚「それだけでは飽き足らず、昨日も仕事を放棄して篠ノ之さん達を呼んで───[チラッ]───まぁ、この付けはこの後、きっちりと払ってもらいます」

 

鈴音[もじもじ]

 

ん? 何で、一瞬だけ俺を見たんだ? 隣の鈴も妙に落ち着きがなくなったし・・・まっ、どうでもいいか。

今は、楯無さんが責められているところを楽しんで鑑賞しよう。

 

虚「さて、仕事は山ほどあります。会議で話し合った意見をまとめて全教諭に提出、当日の各委員会の動きの調整、体育館使用の時間割の最終確認・・・もちろん学園祭のだけではありません。次回の行事に関する資料もあります」

 

楯無「ちょ、ちょっとちょっと虚ちゃん。それはあまりにもハードじゃ────」

 

虚「そうならないように私が予定をたてているのに、いつもいつも自分勝手に動いているから、後々面倒な目に遭うんです。さぁ、行きますよ」

 

楯無「いやぁ〜〜〜!」

 

首根っこ掴まれて連行されていく楯無さんは、救出を懇願する目で俺を見る。

しかし、日頃の行いもある・・・無視!

 

楯無「薄情者〜〜!!」

 

 

 

 

 

 

簪「え? 『打鉄弐式』を?」

 

零「はい。今、見せて下さい」

 

校舎の食堂で夕食中、私は思い切って簪お嬢様に尋ねた。

答えはYES。

ちなみに既に下校時間を過ぎているのだが、学園祭前日は希望者だけ校舎に寝泊まりが出来る。

クラスの催し物の準備に、私達もこうやって校舎にいる。

 

零「二組の準備は終わって、もうみんな寝る準備をしているんですけど、四組は?」

 

簪「終わった、けど・・・でも急に、どうしたの?」

 

私がこうして簪お嬢様に近づいた理由の一つ、『打鉄弐式』開発協力。

まずはここを完遂しなければ、私が描いた理想図に届かない。

 

零「ただの好奇心です。それに・・・本音さんから、聞いてるでしょ?」

 

簪「あっ、うん・・・ありがと」

 

照れくさそうに上目遣いしてくるお嬢様。

今日という日のため、毎日欠かさずISに関する参考書を読んできた。

出来れば、もっと早い段階で動きたかったが、交際疑惑もたっていたし、むやみに動けなかった。

・・・何が何でも、会長にだけは知られたくない。

 

零「じゃあ、行きましょう」

 

簪「は、はいっ」

 (時々、強引だよね・・・落合さんって)

 

なるべく他の生徒達にバレないように食堂を出て、移動教室に利用する棟にある"第二整備室"。

普段は、専用機持ちの生徒が、整備科生の協力を得て、機体調整を行っている。

しかし今は誰もいない。月明かりだけが寂しく、広い室内を照らしていた。

 

零「ここに来るの初めてですけど、お嬢様はどう利用するのか分かりますか?」

 

簪「いつも、通ってるから・・・あと、お嬢様はやめて」

 

零「嫌です」

 

簪「うぅぅ・・・前までは、そんな事言う人じゃなかったのに」

 

弄りはこの程度にして、準備を始める。

いつも通っているだけの事があって、お嬢様の手際は良い。

だが、いつもこれを一人でやっているのだ・・・この状況も変えないといけない。

いや戻さないといけない。

 

零「その指輪が、『打鉄弐式』の待機状態ですか?」

 

簪「うん。これを、このカプセルに入れて・・・出るよ」

 

"ISハンガー"と呼ばれる細密な調整を行える、空間に『打鉄弐式』が鎮座モードで展開される。

別称で"箱"とも言われ、溶接に組立をする専用ワームが備えられ、塗装まで出来る。

しかし、国家が保有するISバンカーほど有能ではないため、応急処置程度の技術力しかない。

 

簪「ここから、どうしたら?」

 

零「とりあえず、ステータスを見せて下さい」

 

空中に出現するウィンドウ。

細々とした数値が並び、一夏さんがこれを見たら卒倒しそうだ。

 

零「・・・・・・」

 

空中ディスプレイを指で操作し、全ての項目に目を通す。

お嬢様がどうしていいのか分からず、私とディスプレイを交互に見ている。

 

零「・・・これ、『打鉄』の発展機じゃないんですね。あまりにも仕様が違う」

 

『打鉄』は日本製の量産機。

武将をモチーフにした機体で、分厚い装甲を纏っていて、武装はISブレードとサブマシンガンしか搭載されていない。

『打鉄弐式』は下半身にしか装甲が無く、武装が"薙刀"に"荷電粒子砲"、ミサイルポットまである。

 

簪「一応、発展機なんだけど・・・」

 

零「の割には、あまりにも高性能ですね。ほら、例えばこのブースターの出力。これじゃあ機体そのものが堪えられません」

 

簪「や、やっぱり・・・」

 

零「基本的に『打鉄』の戦闘スタイルは、"複数"対"単一"。よくIS実技授業で行う素振りは、周囲に合わせる連帯感を高める目的があるんです」

 

よくトロトロとしている本音さんが、叱られているのを聞いている。

実際に目撃したことがあったが、既に先生達は諦めているのは余談である。

 

零「この"オーバーコスト"を何とかしない限り、操作もままなりませんよ」

 

簪「・・・・・・よし」

 

数秒考え込んだお嬢様が、手元のキーボードを叩き始める。

空中ディスプレイに表示された出力の数値が、徐々に下がっていく。

 

簪「これで、どう、かな?」

 

零「悪くないと思いますけど、実際に動かしてみない事には・・・確か、二日目の学園祭の閉会直前に、専用機のお披露目会があります。そこで試したらどうですか?」

 

簪「で、でも、人前に、出るの・・・無理・・・」

 

まぁ、お嬢様だからなぁ・・・仕方がない。

 

零「なら学園祭が終わった後に試運転しましょう。すみません、結局何も出来ませんでした」

 

簪「そんな事ないです!───ぁっ/// ご、ごめん、なさい・・・」

 

自分から詰め寄ってきて、自分で照れている。

 

零「明日は一日中、クラスの方で忙しいので、明後日の午後にでも、また」

 

簪「うん」

 

『打鉄弐式』を回収し、第二整備室を後にして各々、自分のクラスに戻った。

 

青柳「ちょっと落合君、もうすぐ就寝時間なのに、どこに行っていたの?」

 

零「明後日のために、ISのチェックを」

 

就寝前には、必ずクラス委員長を中心に生徒の点呼を行う。

だが、二組を仕切っているのは、前委員長だった青柳さんだった。

 

青柳「チェックって、こんな時間に?」

 

零「まぁ・・・それよりも、鈴さんはいないんですか?」

 

根本「彼女なら一組よ。ちなみに、二組の何人かも一組を見学しに行ってる」

 

零「見学?───ああ、なるほど」

 

大方、予想は出来る。

普段からキャーキャーと騒がれている一夏さんと、同じ室内で寝るのだ。

そりゃあ、騒ぎにならない方がおかしい。

 

千冬『騒ぐな、馬鹿共っ!』

  [パァンパァンパァンッッッ!!!]

 

久々に聞く気がする出席簿アタックの出血大サービスが、学校中に響いた。

クラスに残った生徒達は、自分たちは行かなくてよかったと、安堵の表情で溢れている。

戻ってくる生徒達は、必ずと言っていいほど、頭のてっぺんにタンコブを乗せていた。

 

鈴音「かぁぁ・・・相変わらずの威力・・・」

 

根本「おっかえり。手痛くやられたっぽいね」

 

鈴音「笑顔で言わないで。殴るわよ、有香」

 

根本「アハハ〜。で? 結局、織斑君の隣で寝る座を誰が取ったの?」

 

鈴音「一夏は織斑先生が職員室に連行してった・・・はぁ」

 

零「そんなに一緒に寝たかったのか・・・破廉恥」

 

鈴音「ぶっ!? い、いきなり何言い出すのよっ!? ぶっ飛ばすわよっ!!」

 

根本「いんや。落合君の言った事は事実だと思うよ・・・だってぇ、何か甘い匂いがするよ〜? これ香水?」

 

鈴音[ギクッ]

 

ティナ「そういえば、よくオルコットさんから色んなもの借りて、部屋に持ってきた。シャンプーとか、ハンドソープとか・・・まさか香水とかも?」

   [ボリボリッ]←ポテチ

 

鈴音[ギクッギクッ]

 

青柳「まさか、凰さんが・・・私の中のイメージが崩れていく」

 

鈴音「ちょっと! アンタは一体、どういうイメージを抱いていたのよ!? あたしだって────」

 

零「"女の子なんだし"・・・」

 

鈴音「男のあんたに代弁されるのが、一番腹立つのよっ!!」

 

千冬『いい加減にしろ、凰っ!』

 

鈴音「ひぃぃぃ!?」

 

ビリビリと空気が震えるほどの咆哮に、飛び上った鈴さんは急いで布団の中に逃げ込む。

二組のみんなもさすがに恐怖を感じたのか、いそいそと布団に入っていった。

私も流れで、教室の一番端の布団に入る。

 

根本「それにしても、落合君も他人を弄ったりするんだね?」

 

零「久しぶりにいいかなって思っただけです」

 

根本「そうなんだ。興味深いね・・・」

 

隣の根本さんの布団とは10センチ近く離れているから、最後のボソッと言った言葉は聞こえなかった。

私は目を瞑る・・・眠気はすぐにやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

[キュュュ]

 

零「ん・・・」

 

[キュッキュッ]

 

零「んむ・・・」

 

顔を何かでなぞられる感触に、眠気が覚めていく。

 

根本「おはようございま〜す」

 

零「え・・・」

 

目を開けると、私を見下ろすパジャマ姿の女子達。

私は何事かと思い、飛び起きて女子達の輪から抜け出す。

 

零「な、何ですか・・・これ?」

 

根本「そりゃあ・・・ねぇ?」

 

ティナ「だよね」

 

エミリア「に、似合ってる、似合ってる───ぶぶっ!」

 

エミリアさんだけじゃない。

他の女子達も私の顔を見て、くすくすと笑っていた。

それに、何か刺激臭が・・・。

 

青柳「はい、落合君」

 

困ったような顔をする青柳さんから、渡されたのは手鏡。

それに写し出されていたのは、猫にされた自分の顔だった。

 

零「・・・」

 

青柳「わ、私は止めたんですよ。でも、根本さんが───」

 

根本「いや〜。いつも隙を見せないからさ、こんな時くらいにしか悪戯できないでしょ」

 

零「しなくていいでしょう」

 

根本「その選択肢は、無いっ!」

 

胸張って言わなくていい・・・。

 

阿部「とりあえず、その顔を何とかした方がいいんじゃないか?」

 

零「あ、そうですね・・・」

 

阿部さんの屈強な体躯の登場に、周囲の女子が引いていく。

長袖長ズボンの制服が筋肉でパツンパツンになっている姿は、思わず身構えしたくなるほどの威圧感を感じた。

まぁ害はないから気にせず、自分の分の布団を三つ折りに畳み、パジャマのまま洗面所に向かう。

 

零「あっ」

シャルロット「あっ」

 

洗面台にいた先客は、全身白いモフモフ毛を纏ったデュノアさんだった。

よくよく見れば、うなじに垂れているのは、猫耳がついたフード・・・本音さんの狐着ぐるみパジャマみたいなものか。

 

シャルロット「ど、どうしたの、その顔?」

 

零「聞かないで下さい。そちらこそ、顔色がよくないですけど」

 

シャルロット「ハハハッ、何か眠れなくて」

 

零「緊張、ですか?」

 

シャルロット「う、うん。学園祭なんて初めてだから」

 

しっかりとした自然な返答。

だが、一瞬だけ目が泳いでいたのを見逃さない。

 

シャルロット「じゃ、じゃあ僕行くね!」

 

足裏までが肉球で出来ているのか、無音の走りで私の横を通り過ぎていく。

その時に見えたデュノアさんの横顔は、やはり蒼白だった。

 

零(・・・嫌な予感が、する)

 

様々な思惑が、明日からの学園祭で入り混じろうとしている気がした。

私は、そんな想像を妄想として処理して、一所懸命に顔のインクを落としにかかった。

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