混沌王は異界の力を求める 22
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「少しは落ち着いたらどうだ」

 

聖王教会の会議室。先日、人修羅やはやて、カリムやクロノが使用したこの大部屋に、あのとき以上の大人数が押し込められていた。

 

「そうしたところで何が変わるわけでもないだろう」

 

大机に備え付けられた椅子の一つに、片膝を立てて座るオーディンは、部屋の中を落ち着き無く歩き回ったり、貧乏揺すりを連打したりする六課の面々にそう言った。眼前には都市からオーディンの『トラポート』によって強制的に離脱させられた三隊長と新人メンバー、そして追加で送られて来たヴィータ、ついでにシグナムが居た。

 

「……ならばこれを解除しろ」

 

怒気を込め、シグナムはオーディンにそう言う。その腰元には、何故か復元されたレヴァンティンがある。

 

「それは出来ぬ相談だな」

 

怒気を右から左へ受け流し、オーディンは涼しい顔で言った。

 

「どうしてもか?」

 

「ああ」

 

室外への出入りを完全に封じているオーディンは言う。その視線の先に映る会議室は、会議室としての容貌を持ってはいなかった、床や壁、天井にいたるまであらゆる所を乳白色の管のようなもので覆われているのだ。それなりの力を持つ悪魔が可能とする技、結界によって会議室は完全に、聖王教会から孤立していた。無論結界を張ったのはオーディン自身だ。

 

「貴様等は再び能力拘束を受けたのだろう? 我が望むか、我が死ぬかせねば、この結界は解けん。魔人の空間ほどではないが、この結界もそれなりの強度だ。今の互いの力量の差が分からぬ程まで拘束を受けたわけではあるまい?」

 

無意識か、レヴァンティンを振るわせるシグナムに、オーディンは自身の愛槍を掲げて見せる。

 

「……何故スルト殿を一人置いて来た!? 敵の強さは貴様等の方が私達よりも熟知しているのだろう!? たとえスルト殿でも勝ち目の薄い相手なのだろう!?」

 

「それは間違いだ。勝ち目の薄い、ではない、勝ち目の無い、だ。そして((敵|アリス))を知っているからこそ、奴が最も得意とする呪殺属性に、完全な耐性を持つスルトに((殿|しんがり))を任せた。耐性の無い我ならば二秒と持つまい」

 

「っ! そこまで分かっていて何故救援に向かわない!? 私を行かせない!?」

 

「何度も言わせるな、救援、これを禁ず。貴様等を誰一人として欠けさせる訳にはいかん。それは我が主の意志だ」

 

「その果てに貴様等の仲間を失ってもか!?」

 

「無論だ、それだけの覚悟はとうの昔にしている、例え我が身滅びようと、成さねばならぬことがある」

 

「……解け」

 

「ぬかせ、我にすら勝てぬ者が、我以上の力量を持つスルトの援護に行く? スルトと同等の力を持つトールを無傷で屠ることのできる魔人相手にか? 巫山戯るなよシグナム」

 

怒気を隠そうともせず、シグナムがオーディンに一歩詰め寄った。

 

「寄るな」

 

とオーディンは、シグナムの怒気を貫くように神槍の穂先を、音を付けてシグナムへ向けた。そして逆の腕で、オーディンを中心として、床に円を描いている赤い線を指差した

 

「先ほども言っただろう、我がマガツヒで引いたそのソードラインを髪の毛程の幅でも超えたなら、例え貴様等でも切断する。最後だ、寄るな。これ以上は警告せぬぞ」

 

「………」

 

「………」

 

オーディンの言葉を最後に、その場に沈黙が降りた。シグナムの行為は、部屋に押し込められている者達の総意といっても過言ではなかった。シグナムの背後で、苛立たしげに爪を噛みすぎたせいで、血すら滲み始めているにも関わらずに、まだ噛もうとするヴィータや、一度も座ろうとせず、室内を不安そうに歩き回り、意味も無いのにモニタを出て消すことを繰り返しているなのはも、シグナムが吠えていなければ間違いなくオーディンに噛み付いていただろう。

 

【今大丈夫です? 修羅場ですか?】

 

シグナムとオーディンが口を閉じたその空間には、誰かが貧乏揺すりを連打する音と、一寸の狂いも無く針を動かす時計の音のみが有った。そしてその中に突如として入り込んだ声は、異常なまでに響いた。

 

「セトか」

 

【面倒ですから止めたほうが良いですよオーディン】

 

「………」

 

【彼女達と私達では、生き死には価値観的に相容れません。分かっていた事でしょう?】

 

「そうだな、失念していた。我々は悪魔と人間だったのだった」

 

言葉を終えると同時に、オーディンは下唇を噛む。

 

「何の用だ、お前の軽口に付き合っている余裕が無いのは分かるだろう?」

 

噛み付く矛先をオーディンからセトに変更したシグナムは、モニタの向こうで眠そうに眼を擦る黒の少女に棘のある言葉を向ける。

 

【はい、こちらからでもそこの張りつめた空気が伝わってきますよ。シグナム、貴女が苛立っている事も。どうでもいいですけれど】

 

「分かっているなら通信を閉じろ」

 

【あれ? 良いんですか? せっかく我が主から通信文が来たと言いに来たのに、本当に切って良いんですか?】

 

「!?」

 

「っ!!」

 

「えっ!?」

 

セトの言葉に、オーディンを除いたその場の全員が眼を見開き、セトのモニタに顔を向けた。

 

「本当セトさん!?」

 

【はい高町なのは。向こうはまだアリスの魔力で磁場が狂ってるみたいで、まともなものじゃないですけど、無理矢理通したと思う一文のみが、私の所に来ています】

 

「何でテメェの所に来てんだ? 普通なら六課か((聖王教会|ここ))に来んだろ」

 

【貴女達の機械類よりも、私と主の脳話の範囲の方が広いですから、当然です。もしかしたらピクシーの方にも届いたかもですけど、彼女独占欲が強いですから】

 

「……まあそれはそれとしてセトさん、人修羅さんは何て?」

 

【読むのも面倒なので見せますね】

 

と、セトはモニタの向こうで別のモニタを召喚し、縁を掴むとこちらへ向けてみせた。そこにはたった五文字だけの短い文章が、しかし簡潔に全てを伝えていた。

 

「無事 教会 向……え?」

 

口に出して読み上げたティアナは勿論、その場の誰もが無事、の意味を理解していなかった。なぜなら彼女達は都市でトールとだいそうじょうの遺骸を目にしているのだから、ならば無事という言葉は当てはまらない。

 

「どうやらアリスは退けたらしいな、我が主がやったか」

 

その中でオーディンだけが、一同とは別の考えを口走っている。

 

「あのオーディンさん。無事ってどういうことなんでしょうか? だって……」

 

オーディンと最も親しいエリオが、代表するかのようにオーディンに尋ねた。言葉には出していないが、無事という言葉の意味が、どうやっても通用しない事を暗に示している。

 

「ん? どういうことかだと? そのままの意味に決まっているだろう。アリスを撃退した我が主が、トールとだいそうじょうを、ひょっとすればスルトもか、全員を蘇生してここに向かっている、それだけのことだろう? 何に驚愕しているのだ貴様等は」

 

人修羅達が来てから、彼等の奇行には随分驚かされて来た。いきなり室内で首吊り自殺を図ったり、何の躊躇いも無く身内で攻撃し合ったりと、人間視点でみれば考えられないことを多々行っていた。それに慣れたのか毒されたのか、六課の課員は並大抵のことでは驚かなくなっていた。だが、今のオーディンの一言は、風化していた驚愕の感情を再発させるものだった。

 

「蘇生!?」

 

「え、つまり死んだ命を生き返らせることが出来るんですか!?」

 

「? どこかで言ったことが無かったか? 出来るぞ。我が主とピクシーは蘇生魔法が使える。だが、一応言っておくが、蘇生できるのは悪魔だけだ、貴様等人間の蘇生は叶わん。貴様等を先に下がらせたのも、我々なら命の代替が可能だからだ」

 

「……そうならば先に言え」

 

眉を寄せたシグナムが、溜め息と共にそう言った。

 

【ああ、貴女が何にイライラしるのかよく分かりませんでしたけど、私達が生き返ること知らなかったんですか、得心しました】

 

「さりとて蘇生にも制限が有る、我々にとっての死は、貴様等の戦闘不能だと思っておけ」

 

「悪魔って非殺傷設定使っても、何故か傷ついちゃいますからね。戦闘不能のラインは、あたし達よりも遥かに高いですけど、蘇生が出来るなら同等くらいでしょうか」

 

ティアナの言葉にオーディンは頷きを一つ作り肯定した後、言葉を繋げる。

 

「それについては今オモイカネが検証中だ。さて、話がそれたが、我が主達は無事、今聖王教会に向かっている、と」

 

全員の視線が再びセトの持つモニタに集まる。

 

「そっか、無事か……はあぁぁ……よかった」

 

なのはが大きな吐息とともに胸を撫で下ろす。

 

「………」

 

会議室のあちこちで吐息や脱力の音が響くなか、オーディンは無言で立ち上がると、空いていた椅子に腰を下ろすと、担いでいた槍で、トン、と肩を叩いた。

 

「解除」

 

すると乳白色に覆われていた会議室全体に、弱いが、範囲の広い光が発生した。その光が止むと同時に、乾いた音を立てて崩れるように乳白色の管が破砕し、数秒後には元の会議室の姿へと戻っていた。

 

「既に貴様等を封じた意味は無かろう」

 

と言ってオーディンは椅子に深く座り直すと、隻眼を閉じた。

 

しかしオーディンが解除した封印を、初めに通過したのは中からではなかった。

 

「はっ!!」

 

外部からの破砕音であった。勢いのある金属の拳が扉をぶち破り、木片と金装飾の破片を撒き散らして、会議室内に侵入して来た。そしてそれは次に、扉付近に立っていたシグナムにその速度を向ける。

 

「うおっ!」

 

シグナムが、室内で唯一デバイスが起動状態であったこと、そしてシグナム自身がスルトとの訓練で身に付けた反射神経が、彼女の顔面に拳が着弾する予定を防いだ。剣と拳が激突し火花が舞い、金属同士がぶつかり合う独特の音が鳴る。

 

「あ!!」

 

「!?」

 

拳の主はギンガだった。

 

「ナカジマ陸曹。この拳は何だ?」

 

「シ、シグナム二等空尉………」

 

畠が違うとはいえ、シグナムはギンガよりも階級は上だ。陸海空、どこに所属していようと、訓練外での上官への攻撃は、罰則どころでは済まない。

 

「ああ、申し訳ありませんシグナム。私の令です」

 

冷や汗と奇妙な震えを得ていたギンガと、冷めた目でそれをみるシグナムのところに新しい声が来た。粉砕された扉を潜り、カリムとシャッハ、シャマルが姿をみせた。

 

「先ほどから貴女方の居た会議室のみ、世界から切り離されたかのように、物理的、情報的の両面どちらからも、外部から一切の接触を断じていましたので、何かあったのではと、ナカジマ陸曹に扉を破らせようとしたのですが……」

 

「タイミングが悪かったな、結界はたった今解除されたところだ。タイミングが悪かったな。シグナム、そいつに非は無いだろう」

 

気怠げにオーディンが兜を深くかぶり、口端から息を漏らしながら言った。

 

「そうか……タイミングの悪い」

 

「……すみません」

 

接触したままだったデバイスを離し、ギンガはデバイスを待機状態に戻したが、シグナムは警戒からか、復元状態のまま収めた。

 

「ちょっとアクシデントがありましたけど……報告しますね」

 

事態が一応収まったと判断したか、シャマルが一歩進み出ると口を開いた。彼女は手元にモニターを出現させ、口を開いた。モニターには、都市で保護した童女がベッドで眠っている姿が映っている。

 

「保護されたこの娘は、今のところ疲労で眠ったままです。カリムさんに教会の一室をお借りして、そこで休ませています。簡易的な探査魔法は施しましたけど、特にこれといった魔法は検出されませんでした

 

どうしますか?

 

「それ以上の探査なら、八神部隊長の魔法が適任ですけれど、すぐにでも?」

 

シャマルの言葉にはやては、そやなあと、一瞬だけ考え込んだが、すぐに結論を出した。

 

「んや、今はまだ止めとこ。もし悪魔側の魔法がかかっとっても、私じゃ判断出来へん。オーディンさんもおるけど、人修羅さん待ってからの方が確実やろ」

 

はやてのその言葉に、オーディンが小さく声を上げ、頬杖をついて言った。

 

「我では信用ならぬか?」

 

【はい】

 

「貴様は黙っていろ」

 

セトの空間モニターを手刀で叩き割り、そして仕切りなおすように、再びはやてに視線を送った。

 

「せやったら自分、人修羅さんよりも精密に探査できる自信あるん?」

 

「……ご尤もだ」

 

何故か、オーディンは若干不満そうに言うと、再び背もたれに体を預けた。その瞬間、セトのモニタが再び出現し、オーディンに纏わりつくように何か言ったが、当の本人は完全にそれを無視して、独り言を聞かせるように呟いた。

 

「我が主がアマラ経絡を通ってくると仮定して、到着まで大凡半刻といった所か、と。それまでただ童子の寝顔を眺めているのも退屈だろう……知を持った故の性か、一定期間で言葉を吐き出したくなる」

 

とそう言った瞬間、意味の解らないことを喋っていたセトが、何かを感付いたように言葉をピタリと止め、声のトーンを下げて言った。

 

【正気ですか? 彼女達に話すんですか? 貴方のつまらない長話を?】

 

「知らせておくべきだ。先の会話で分かった、意識のズレが致命的なものになる前にハッキリさせておくべきだ」

 

【……まあ私には関係ないですけど、ピクシーに聞いておく必要は?】

 

「あれは良くも悪くもNormal-Neutral過ぎる。こいつ等に関心を一切向けないだろう」

 

悪魔二人で会話が進んで行く、速度を増して行く言葉のやり取りに、一同の頭上には、? が浮かんでいた。と、しばらくして、話に区切りがついたのか、オーディンがセトとの会話をやめ、視界内に会議室内の全員が納まる位置まで、座っている椅子を下げ、言葉を繰り出した。

 

「我が主が((聖王教会|ここ))に来るまで少々の時間がある、その間に話しておこう」

 

「話すって……何をです?」

 

首を傾げてエリオが尋ねた。

 

「我々と貴様等についてだ」

 

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「は?」

 

ユーノは思わず漏れた間抜けな声に、自分自身でも驚いていた。思わず手を止め、右下で二十冊ほどハードカバーの本を抱えるトートを見る。

 

「いあ違ったッス、今のは言葉が違ったッス。話すのは悪魔と人間と、そして人修羅君やアリス、魔人に付いてのことッスね」

 

トートは手元の本に眼を落したままそう言った。魔人アリスの映像は本部にも来ている。彼女が撒き散らした化け物じみた力についてもだ。

 

「魔人は存在そのものが希少ッス、。だから人修羅君も説明を省いたんだろうッスけど、あのクラスの魔人が出るんなら、流石に伝えておかなきゃ拙いッス」

 

白狒々の言葉に、ふと視線をずらしオモイカネの方を向いてみる。彼は、正午にやってきた人修羅に何かを手渡されてから、普段以上に本にのめり込み、己の作業をしている。と、そこに。

 

「オモイカネ! “すあま辞典”はどこだ!?」

 

「G-2364ダ」

 

「オモイカネさん! “本日の弾劾裁判”はどこですか!?」

 

「F-773ダ」

 

「“究極の生命体・タイラント”は!?」

 

「T-002」

 

(あれ? 司書長って僕だよね……?)

 

何故か入口に近い位置に居る自分よりも、何故か奥に居るオモイカネに本の位置を聞きに行く、アルフや司書員に達思わず首を傾げた。

 

「? どうしたんスか?」

 

「あ、いや、何でもない。それで?」

 

んー、とトートは少し唸り、やがて口を開いた。

 

「本題に入る前に、ちょーと先に僕等と君達のあり方を話しておくッスかね。必要なことッスから」

 

持っていた二十冊全てを棚に戻し、トートは話し始めた。

 

「この世には……この世界を含めた複数の世界、どこの世界でも最終的に存在する三つの種族があるんス」

 

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「人間と悪魔ですか?」

 

その言葉に素早く反応したのは、意外にもカリムだった。オーディンは椅子に片膝を立て、愛槍を縋るように抱くと笑みを見せた。

 

「察しがいいなカリムとやら。そうだ、人間と悪魔、ならば最後の一つは何だと思う?」

 

カリムは数秒という会話においては長い時間を思考に使用したが、やがて首を振り言葉を作った。

 

「………すみません、貴方の口ぶりから察しますに、魔人という種は違うようですし、検討もつきません」

 

「そうか、聖職者である貴様であるなら、もしかしたらと思ったのだがな」

 

「え?」

 

聖職者、それが何の、と思考する前に、オーディンが笑みのまま言葉を作った。

 

「神だ」

 

「え?」

 

「神って……あの神様ですか? 童話とかにも出て来たりする。後光をもった老人の?」

 

スバルが疑問交じりにそう言った。

 

「ああ、それがイメージしやすい形かもしれんな。神とは妄想や信仰の産物ではない。事実、我やトール、セトはかつて神として信仰されてもいたのだぞ?」

 

【ああ、懐かしいですね。兄さんや妹と信仰を巡って、殺し合ったこともありましたね。兄さんをバラバラに解体して河に流してやったのが、酷く昔に思えます】

 

さらっとセトがとんでもない事を言った気がしたが、突っ込むと面倒になりそうだったので、全員が無視した。

 

しかし、とオーディンはセトの言葉を断ち切り、自身の言葉を続けた。

 

「我の言う神とはそういうものではない。無論それも神ではあるが、我もセトも分類上は悪魔だ。本当の神とは、世界とその命を共にする超越者。その世界の概念を司る世界君主のことだ」

 

オーディンはそう言って、言葉に対する反応を見た、と同時にオーディンはやはり、とも思った。全員が全員、眉を潜めたり首を傾げたりしている。

 

「まあ当然だ。神は我の言葉でもってしても表しきることは出来ぬ。気にする必要は無い。神との遭遇など、世界の誕生と終焉にしか無い」

 

と、オーディンは失礼、と言って人差し指を三閃し、机に正三角図を刻み付けた。

 

「あ」

 

シャッハが短く声を上げる。

 

「気にするな後で修復する。と、さてこの三角図の頂点は悪魔、人間、神、それぞれを示していると思え」

 

さて、とオーディンは言葉を区切った。

 

「本題に入るとしよう。我が主やだいそうじょう、そしてアリス。魔人と呼ばれる者達は、厳密に言えば悪魔では無いのだ」

 

「は?」

 

悪魔ではない、オーディンの言った言葉の意味を理解出来た者は、その場には居なかった。人修羅は普段から、自分は悪魔だと、事あるごとに口にしていた。それが悪魔では無いとはどういうことか。

 

「悪魔じゃない? でも人修羅さん、いつも自分は人間じゃないって言ってますよね?」

 

全員の疑問をなのははオーディンに言った。

 

「そうだ、人間でもない、無論神でもない。我が主は、ここだ」

 

そう言ってオーディンは、穂先で三角図の一角を示した、そこは頂点ではなく、人間と悪魔を結ぶラインの部分だった。

 

「人間、悪魔、神。この三種族は互いに密接な関係でな、ほぼ隣り合った種族といえる。故に人間が悪魔化する事例も少なくない」

 

「悪魔化? 普通の人間が悪魔に転生するってことですか?」

 

「そうだテスタロッサ、貴様等人間の間にも、人間の悪魔化の話はあるだろう? 幽霊、亡霊などはその最たる例だ、霊族は皆悪魔と言っていい」

 

しかし

 

「密接であるが故、稀に種族の中央に堕ちる者がいる。人間と悪魔の中間、魔人という種族は人間と悪魔が混ざり合った種族なのだ。魔人は特徴として、瞳が必ず深い黄色を湛えている。眼球が無い者の方が多いがな」

 

【人と神の混ざったのを“英雄”。悪魔と神の混ざったのを“守護”と呼ぶんだけど、まあ今はいいよね】

 

とセトが補足するように言葉を入れてきた。

 

「いや一応省かんでおこう」

 

オーディンは先ほど書いた三角図に、今度は逆の三角図を重ねて描き、六芒星を作った。

 

「魔人、英雄、守護の三種はな、隣接する種のそれぞれの長所を兼ね備えて産まれる。単一の戦闘能力は非常に高い者が多い」

 

が、とオーディンが言葉を斬った。

 

「無論、そう簡単に種族転換は起きん。悪魔、人間、神。この三種の間にはそれぞれの種族の行き来を防ぐ、特殊な概念がある、とされている」

 

「されている?」

 

「我とて概念を視認することは出来んよエリオ。研究と実験を重ね、らしい、と言えるのが精々だ。神と人間の間には“進化”。悪魔と神の間には“創造”。そして人間と悪魔の間には“死”があるとされている。これらは己を挟む両種族にそれぞれを与えている。簡単に言えば、死と隣接していない神には、死は無く。創造と隣接していない人間は、零から一を作り出すことが出来ない」

 

【この三つの概念は、輪廻転生の((原型|アーキタイプ))とも言われてるね、再生、維持、破壊の。輪廻転生くらいは聞いたことあるでしょ?】

 

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「ああなるほど、さっき幽霊を例えに挙げたのはそういう事か、人間が死を通して、幽霊という悪魔になるっていうことなのか」

 

「そういう事ッスユーノ君。呑み込みが早いッスね」

 

トートが歯を剥いた笑みを見せた。

 

「さて、この三種の間には、この三つの概念があるッス。ならその間に墜ちた種族の魔人、英雄、守護とは何だと思うッスか?」

 

「む……」

 

どういうことか、だって?

 

「種族の転換ではなく、その間の概念に堕ちる……しかし、死に堕ちたといって死ぬわけじゃないんだろう? それなら人修羅君の説明が付かない」

 

「そッスね。その原理なら、魔人は生まれた瞬間に死ぬことになるッスから」

 

ならば

 

「概念に堕ちるということは、それに触れるのではなく……染ま、いや、成る?」

 

頭の中の言葉が、しかしうまく口からは現れず、絞り出すようにそう言ったが、トートは笑みを更に深いものにした。

 

「正解ッス、おめでとー。間に堕ちたら、英雄という変化、守護という創造、そして魔人という死になるんス」

 

「……自分で言っておいてなんだが、良く分からないな。人修羅君や、僕はまだ未見だが、だいそうじょうという者が死?」

 

そういうと白狒々は、笑みをどこかに柔かいものし、言った。

 

「つまりッスね、概念をまき散らす存在になるってことなんス。英雄は周りの者を自らが率いて進化させる。守護は創造し無を有に変化させる……そして魔人は」

 

「周囲に死をまき散らす?」

 

「……そッス」

 

だが、と思わず首を振った。

 

「君の言葉を信じないわけではないが、あり得なくないかい? 僕が人修羅君と会ったのは、今日を含めても二回だが、とてもそんな風には見えなかったが」

 

と言うと、トートはそれまでの笑みを消し、空間モニターを一枚出現させると、それを見えるようにこちらへ向けた。

 

「これ、見えるッスか?」

 

そこに映っていたのは、以前六課の担当したホテル・アグスタの護衛任務の、最終討伐表だった。防衛に参加していない、なのはやフェイトの名はそこにはなかったが、千を超える軍勢と戦闘した全ての者の討伐数がそこに細かく表示されていた。無論、自分も眼を通したものだ。

 

「これが?」

 

白狒々の意図が分からず尋ねる。

 

「これ、人修羅君が戦績ぶち抜いてるッスよね?」

 

それには同意した。ホテル・アグスタを襲撃したガジェットと悪魔は、最後には合計で千二百強は居たのだ。人修羅はそれの七割以上を独りで殲滅している、一人だけ討伐数にカンマがついているくらいだ。一騎当千、否、一期倒千と言っていい。

 

「僕は人修羅君がこれやったとき、まだこっちに来てなかったから断定は出来ないッスけど。たぶん、人修羅君が殺った悪魔はぜーんぶ、頭ぶち抜かれてたんス」

 

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「え?」

 

キャロが高い声で驚愕を現した。オーディンはそれが気になったのか言葉をキャロに向けた。

 

「同じ戦場に立っていたのに、気が付かなかったか」

 

「……はい気付きませんでした」

 

「まあ仕方あるまい。貴様等はまだ未熟だ、そのあたりに気が回らなくても仕方ないといえばそうだ」

 

【戦場にいた敵影は全て、私が確認してましたから間違いないです。機械の方は殺す、というよりも壊すことになるので適当な破壊の仕方でしたけど】

 

とセトが若干眠そうにそう言葉を加える。

 

「顔面破壊の殺害という行為は、殺戮衝動を満たすには非常に良い手段であるらしい。良くは知らぬが」

 

と、オーディンは苦笑交じりにそう言った。無論会議室の誰もそれには心の内で賛同した。

 

「待ってください」

 

と、そこに言葉の静止を望む声が来た。そちらを見れば、ギンガが片手を挙げていた。

 

「一つ疑問なのですが、それならば魔人の性質は悪魔と同じではないんですか?」

 

「どういうことだ?」

 

ええ、とギンガは一度言葉を探すように口を閉じ、数秒を持って再び開いた。

 

「我々時空管理局が遭遇した悪魔は、どの個体も一切の例外なく、こちらに殺意を持って襲ってきました。殺意を持って接してくる、悪魔も魔人もあまり変わらないように思うのですが……」

 

ギンガの言葉に、オーディンはふむ、と軽く顎を撫でると言葉を返した。

 

「違うな、悪魔と魔人では他者への殺意を向ける理由が全く違う」

 

「というと?」

 

「野生の悪魔が貴様等を襲うのは、純粋な食用だ」

 

「は? 食欲? え、貴方達悪魔は食事を必要としないと聞いていたんですが……」

 

「通常のものはな、炭水化物、タンパク質、ビタミン、その他諸々の栄養素を摂取したところで、我々の身体には一切影響せん」

 

【そもそも私達に胃も腸も、形はあるけど役割は無いしね。何故か毒は利くけど】

 

「では、何を摂取していると?」

 

ギンガの言葉に、オーディンは一瞬だけ言葉を溜めた。

 

「マガツヒだ」

 

「マガツヒ?」

 

オウム返しにギンガが言葉を放つと、オーディンは一つ頷くと、抱えていた槍の穂先で、何を思ったか己の指先に傷をつけた。

 

「ちょ、何を……?」

 

「見ろ」

 

と、オーディンは切った指先を見せつけるように差し出した。意外に深く切れたのか、傷口からは鮮血が滴り、床に赤の水溜りを作り出している。

 

「この赤い液体は、何だと思う?」

 

「……血液じゃないんですか?」

 

眉を寄せたギンガの言葉に、オーディンは僅かに笑うと、否定の言葉を作った。

 

「違う、これがマガツヒだ。そういえば、三隊長は確か我が主に連れられてアマラ経絡を通ったことがあるのだったな、そこで見たはずだ」

 

「ああ! ……は? せやけどあんとき人修羅さんからは、マガツヒは世界を作るものやって聞いたんやけど……」

 

はやての疑問にオーディンは即座に返した。

 

「間違いでは無い。マガツヒはそこの六芒星に刻まれた種族が非常に多くその体内に宿している。つまり世界を司る神の餌でもあり、我々の肉体を創るものでもあり、そして貴様等の活力の元でもある。貴様等の中にも、マガツヒはあるのだぞ?」

 

「私達の中にも、ですか?」

 

「うむ、しかしマガツヒを体内で生成出来る人間と違い、我々は肉体全てがマガツヒだ。供給には外部から取り込むしかない。日頃は共食いで賄うことが多いが、人間のマガツヒの方が圧倒的に美味い。故に悪魔は人間を襲い、喰らい、自らの糧としている。そこには敵意もなにもない、ただの飢餓だ。我々は我が主からの供給によって、その必要は無いがな」

 

しかし

 

「魔人は人間よりも大量に、体内でマガツヒ生み出すことが出来る。人間と悪魔が掛け合わさった結果だろう。貴様等で言う心臓の位置に、無限にマガツヒを産み出す炉に近い器官がある。これは我が主から聞いたことは無いかね? その器官の名は“死兆石”といい、魔人以外の者が取り込めば、刹那で死に至る劇物だが、魔人はこれにより、一切の補給なしに、単独で戦い続けることの出来る化け物となっている」

 

わかるか?

 

「魔人は必要が無いのに他者を殺戮する、人間、悪魔、神関係なくだ。悪魔は満たされれば襲ってはこぬが、魔人は満たされることはない。故に魔人との遭遇は死の入口と同義なのだ。飢えた獣と、噴火し続ける火山、どちらを相手にしたいかね?」

 

「……解りました。悪魔と魔人では、そもそもの根本から違うということですね?」

 

とギンガが若干緊張して言うのに対しオーディンは頷いて答えた。

 

「概ねその見解で良いだろう、強力な悪魔でも、野生ならば貴様等でも複数でかかれば倒せるだろう。が、魔人を相手にするならば、相手がよほど弱くない限り、何人居ようが勝つことは出来ん。と。話がずれたな、元に戻そうか」

 

オーディンは抱えていた槍を持ち直し、言葉を続ける。

 

「魔人は、その身に尋常ではない殺戮衝動を抱えている。それの強さは我々には想像もつかぬ。かつて我は“死病の騎士”の二つ名を持つ魔人から、その衝動について聞いた事が有る。奴によれば、視界に入る全ての動植物の首を刎ねて、心の臓腑をぶち抜いて、病で身を侵したくて、それでもなお満たされぬほどなのだと。現に奴は過去に、一つの世界の全生命を三人の兄弟と共に鏖殺している」

 

世界一つの全生命の殺害。それは言うなれば、世界一つを殺したということだ。

 

「植物に伸びるなと? 魚に泳ぐなと? 人間に呼吸をするなと? 全てノーだ。そういうものだ、そういうものなのだよ、魔人という者は」

 

そして当たり前だが

 

「我が主やだいそうじょうにも、当然それはある。ただ無理矢理その衝動を押さえ込む((術|すべ))を長い年月をかけて身につけただけだ。その内には嵐のごとき殺戮衝動がある。ホテル護衛の任務の際、我が主が何故だいそうじょうだけを正規の配置に置かず、孤立させたか分かるか? 万一にも殺戮衝動に貴様達が巻き込まれんようにするためだ」

 

「………!」

 

「我が主は、己に科した制約故に、だいそうじょうは我が主の命と途轍もない自己暗示で、それぞれ殺戮衝動を抑えているだけだ」

 

だが、とオーディンはそこで表情を更に暗いものにした。

 

「あのアリスは違う。己の衝動を抑える枷がない。魔人の殺戮衝動と、幼いが故の残酷性を掛け合わせ、遊戯のように、否、遊戯で殺す」

 

そこでオーディンは、言葉の反応を探るように口を閉じた。見れば、会議室の誰もがその表情にどこか暗いものを宿している。普段通りの表情を保っているのはセトだけだ。

 

「今のところ、我々……貴様等も含めて、我々の内でアリスとまともに戦闘が出来るのは、我が主とピクシーくらいなものだ……セト、貴様はアリスを殺れるか?」

 

【んー、あの保護者二人が居ないってことと、私が全力を出すって仮定するなら、そうだね、取り敢えず大陸三つくらい犠牲にすれば勝てるよ。アリスが魔人の空間に、私を取り込むとは思わないし】

 

「つまり勝てるが、その後が問題だと?」

 

【そう、陸が三つもなくなったら、その世界は緩やかに死ぬしかないよ。実質負けみたいなもの】

 

「……貴様の全力はそのあたりのデメリットが痛いな」

 

【魔人の空間に取り込んでもらうか、若しくは、私達の世界みたいなところじゃないと】

 

セトがやや投げやり気味にそう言ったとき、ヴィータが差すように声を出した。

 

「それで? テメェはそれを話してどうする気だ? 敵がどんなヤベェ奴でも、あたしは正直人修羅より上とは思えねえ。仮に上ならあんたは悠長に話なんかしねぇし、下なら人修羅が出張ればいいだけだ」

 

ヴィータの言葉に、オーディンは口端を持ち上げた。

 

「確かに我が主はアリスより上だが……なんだ、出会った当初はあれだけ我等を毛嫌いしていた小娘が、随分と我が主を買っているではないか。」

 

「茶化すんじゃねーよ。あたし達絶望させるためだけにその話をしたわけじゃねーだろ? 何が目的なんだ?」

 

オーディンはふむ、と息をつくと、槍を杖に一瞬で立ち上がり、会議室中を見渡した。

 

「目的、目的か。それはな、貴様等に真の意味での、我が主人修羅を知らしめておくためだ。」

 

「は?」

 

オーディンの言葉の意味が解らなかった、真の意味での人修羅? 誰の頭の中でその言葉をリフレインさせてみても理解した脳は無かった。

 

「今我は、魔人についての概要を話した。魔人は生物の内でも異端の存在というのは分かっただろう……だが、魔人の中でも我が主とアリスは、更に異端なのだ」

 

オーディンはそこで言葉を止め、一度呼吸を整えると、それを言葉として吐き出そうとした。

 

「彼等は種族を―――」

 

だが、オーディンの言葉は最後まで聞こえなかった。それはいきなり来た、会議室のド真ん中の空間が、快音と共に砕け割れたのだ。割れたそこから現れたのは、二台のバイクと四つの人影だった。

 

「と―――うちゃ―――く!!」

 

威勢のよい声と共に、会議室の大机をぶち割って、炎の二輪をドリフトさせて床板も破砕させて停止したのは、人修羅だった。

 

「我が主、座標がずれていないか? 明らかに室内だぞ」

 

「いつものことだ」

 

「荒いの……」

 

スルト、トール、だいそうじょうも五体満足で居る。

 

「ひ、人修羅さん?」

 

「よっ」

 

驚愕と混乱で停止していた面々の中に、ティアナの姿を見つけた人修羅は、彼女の硬直を完全に無視してあるものを手渡した。

 

「これ、お前のだろ? 忘れ物だ」

 

ヴァイスのバイクであった。

 

「ちょ……無理! 無理ですから! 外に置いておいてください!」

 

レーサーレプリカタイプのバイクは重量二百キロ弱はある、人修羅はそれを片手で紙袋のように気軽に手渡そうとしているが、ティアナが支えられるものでない。

 

「そうか。まあ後で良いか」

 

と人修羅はバイクを虚空に仕舞う。

 

「人修羅さん! 無事だったんですね!」

 

やっと拘束の溶けたなのはが、人修羅に声を掛けた。それに対し人修羅は、ああ、と声を出し答えた。

 

「正直ヤバかった。俺も気が抜けてた」

 

『メディラマ』

 

自分で粉砕した大机や床板、ついでにギンガが砕いた扉や装飾も復元しながら人修羅は答えた。その光景にカリムやシャッハ、ギンガは感嘆の声を漏らしたが、六課所属の者は最早見慣れた光景でそれを当たり前の様に流している。人修羅が修復した大机は、オーディンが刻んだ六芒星も無くし、完全な状態に復元された。

 

「スルト殿は大丈夫だったか?」

 

「一度死んだ。我が主が間に合っていなければ間違いなくリタイアしていた」

 

シグナムの声にスルトはそう答えた。

 

「さて、と一応報告はするか」

 

手を((叩|はた))きつつ人修羅は振り返った。

 

「アリスには逃亡を許した、俺の落ち度だ」

 

「いえ……アリスちゃんの強さなら仕方ありません」

 

そうか、と人修羅はそれでも申し訳なさそうにしていたが、すぐに普段の態度を取り戻した。それ故になのはが、どこか安心したような息をつくのを、人修羅は気付かなかった。

 

「だいそうじょう、レリックは?」

 

人修羅がだいそうじょうの名を呼ぶ。そのとき、一瞬だけその場に居た殆どの者が若干みを固くした理由は、オーディンの話を聞いていない人修羅には分からないことだ。

 

「ここに」

 

と、だいそうじょうが懐に手を突っ込み、そこから黒のレリックケースを取り出した。全員に見えるように掲げ、ケースを開いて見せる。そこにはレリックが収まっていた。

 

「吃驚しましたよ。だってだいそうじょうさん、いきなりあの娘の前にレリック晒すんですから、何してるんですかって、声出そうになりましたよ」

 

ティアナはだいそうじょうを若干の眇めで見た。

 

「くはは、貴様には事前に説明しておかなかったか? ケース事態から興味を引かせる一番の手だ。あの小娘にはこれが空に見えておったじゃろう。儂の魔法とも知らないでな」

 

ケースを閉じ、そしてだいそうじょうはそれを放るようにしてエリオへと渡した。

 

「うあ……っとと」

 

「随分と長い譲渡になったが、受け取れ、それは貴様が献上するものだ」

 

受け取った質量に、エリオは若干脚を揺らがせたが、すぐに姿勢を正すと、だいそうじょうに一つ頷き、はやてへ向き直ると、背筋を伸ばし言った。

 

「任務完了しました!」

 

「了解や、レリック確保確認したで」

 

とエリオを経由してケースを受け取ったはやては、カリムへ視線を移すと尋ねた。

 

「((これ|レリック))の本部への輸送やけど、教会の方で頼めます? そっちの方が確実やろし」

 

「そうですね、解りました。シャッハ」

 

カリムの声にシャッハは頷くと、はやてに向かって手を出した。

 

「お預かりします」

 

「よろしゅうな」

 

だいそうじょうからエリオへ、はやてへ、そしてシャッハへと流されていくケースを見ながら、ふとスバルが声を出した。

 

「そういえばティア、レリックを盗んでこうとして、偽物を持ってったあの娘、だいそうじょうさんはわざと逃がしたみたいなこと言ってたけど、あれって結局何だったの?」

 

「ああ、それね。説明を聞いたとき、あたしもいまいち要領を得なかったんだけど……」

 

ティアナが助けを求めるようにだいそうじょうを見る、扉からシャッハから出ていく様子を眺めていただいそうじょうは視線に気付くと、ふむ、と声を出した。

 

「そうだな、詳しく説明すれば、ゆうに半日は使う。概要のみを言えば、奴の持って行ったあれは一種の発信機じゃ」

 

「発信機? でもしかし以前にも数度、鹵獲したガジェットに発信機類を付けてスカリエッティのアジトを探査する試みがありましたけど、どれも意味不明のところで消息を絶ったり、ガジェット自体が爆発したりと、余計な電子機器の類はどうも向こうのセンサーに引っかかってるみたいで成功したことは無いんですが……」

 

フェイトの言葉にだいそうじょうは歯をカタカタと鳴らした。

 

「儂等カラクリ仕掛けを使う訳があるか。しかし一種の賭けではあった。奴は儂が視認不可としたレリックを認識出来なかった、その時点で儂の勝ちは確定していたがな」

 

「どういうことです?」

 

「奴に掴ませた偽のレリックは、見てくれこそは本物と変わりないが、その中は儂のマガツヒで満ちておる、あれは最早儂と同じ気配を持っている。奴が感知器の類ではなく、視覚のみでレリックを認識しておるならば、間違いなく儂の仕込みにかかる」

 

「だから……!」

 

焦れたフェイトが若干声を荒げたが、だいそうじょうはそれを手で制した。

 

「許せ、以前説法をしていた故だ、言葉は長くなる……しかい、これ以上の説明は今はまだ伏せておこう」

 

「は!?」

 

「いやなに、これ以上はこちらの用意がすんでおらん。案ずるな……武器を収めろこちらに向けるな貴様等。問題ない数十分後には分かる、それに儂の仕掛けたものは、あちら側からの作用がなければ動かぬ」

 

そのとき、人修羅が何かに気付いたのか、ああ、と声を上げた。

 

「こっちに来る最中に、お前があいつを連れて来いって言った理由はそれか」

 

「左様」

 

「だが俺は行かんぞ、行くなら自分で行け。あいつなら第一カルパに居ると思うから勝手に連れて来い」

 

「御意」

 

だいそうじょうが頭を下げた、その瞬間、それに反応したかのように高いアラーム音がいきなりなった。

 

「ん?」

 

「?」

 

全員が視覚と聴覚を泳がせ、それの発信源を探ると、そこにはいつの間に出現したのか、一枚の空間モニターがシャマルの手元に出現し、音を鳴らしていた。

 

「シャマル、どしたん?」

 

「はい、えっと」

 

どうも

 

「眠ってたあの娘が起きたようです」

 

-6ページ-

 

「なるほどね」

 

トートから全てを聞き終え、思わずそう口にしてしまった。

 

「このことは、他言無用ッスよユーノ君」

 

と言って、話を終えたトートはダンタリオンの元へ飛んでいった。その背を見送りつつ、しかし頭の中では、彼が最後に話した内容をすぐに熟考しようと脳が動いている。

 

「人修羅君が、ねぇ……」

 

脳内でトートの言葉を噛み砕き、可能な限り自分で理解できるように言葉に再構成してみる。

 

「彼が魔人以外にもなって((し|・))((ま|・))((う|・))というのは」

 

口にしてみたが、如何にも違う気がする。一度首傾げ、今考えるべきことではないと、それ頭から追い出す。そして代わりに仕事のことで脳を満たす。ふと正面をみると、丁度仕事で使う蔵書がそこに収まっていた。

説明
第22話 種族の六芒星 

説明回を書いていると自分の文章力のなさが思い知らされます。
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コメント
また良いところで人修羅め!!……更新お疲れ様です。死、そのものの大僧正が死ぬわけないと思っていましたが、やっぱり生きてた(笑)人修羅とピクシーだけですか蘇生持ちは。第一カルパに居る奴・・・誰だろう?次回も楽しみにしています。(トーヤ)
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女神転生 人修羅 リリカルなのは クロスオーバー 

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