義輝記 星霜の章 その八
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【 愚か者!? の件 】

 

? 益州 成都近辺 にて ?

 

羌兵が案内したのは、道を通り抜けた先にある開けた場所。 

 

三方緩やかな斜面が連なる、擂り鉢状のような所である。 ただ、平地部分はかなり広く、三万ぐらいの兵なら余裕に入れそうだ。

 

羌兵「あ、あそこです────!!」

 

迷吾「………ヤロー! 旨そうに飯食らってやがる!!」

 

阿貴「…………自由でいいなぁ………」

 

迷吾「………………ふんっ!」

 

配下の羌兵より案内されて向かう迷吾と阿貴、そして付き従う五万の騎兵。

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

残りの九十五万の騎兵は、信用の置ける副将達に任せてきた。

 

『連絡があれば寄越せ! 敵が攻めてくれば応戦せよ! 危なくなれば、我らに構わず国元へ帰れ!!』と、三つの命令を残して。

 

迷吾「………俺達は、左慈なる者の口車に乗った。 いや、実力で服従させられたからな。 この俺が……手も足も出せない奴とは……」

 

阿貴「『強き者こそ、皆を導く指導者也』が、我らの盟約であり決まり事。 責任は、受けてしまった王が取る! その王が死ねば盟約は白紙と帰し、残りの兵は自由だ!」

 

そう言って、自分達の私兵のみを連れて来たのだ!

 

中に連れて行って欲しいと懇願する者も居たが、迷吾は拳で、阿貴は言葉で説得?して、黙らせた!

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

握り飯をムシャムシャ食べていた何進は、眼下の兵にようやく気付く。

 

何進「おぉ! そこに居るのは、音に聞こえた羌、?の騎兵か! だが、ここから見れば芥子粒にしか見えぬ烏合の衆! 正に絶景かな、絶景かな!!」

 

何進が、何かを大声で語る! 他の兵には言葉が通じず分からなかったが、王達には意味が通じた。 漢王朝と何かとやり取りする為、必然的に覚えさせられたのだ!

 

迷吾「あぁ〜ん? 俺らの誇り高き一族を塵屑呼ばわりだとっ!?」

 

阿貴「………………………」

 

何進「ふふふっ! この儂の挑発如きに乗るなど未熟な証拠よ! それにな、お主達は騎兵。 このような山間で戦うなぞ不慣れだろう? 勝敗なぞ既に決まっておる! 速やかに投降するがいい!!」

 

その言葉を聞いて、ニヤリと笑う二人の王。

 

迷吾「………未熟者はテメェだよぉ!! 俺達の居る所をどこだと思っていやがったんだぁ!? 益州と同じ山の中さぁ!!」

 

阿貴「お前達、漢民族が我らを迫害し続け、そんな辺境に住むしかなかったのだ! 今こそ、その報いを知るがいい!! 

 

──────兵達よ! 馬を降りて山頂の痴れ者を討てぇぇ!!!」

 

『オオオォォォ──────!!』

 

剣、槍を手に取り、馬を降りて徒歩で登り始めた! その動きは山岳戦に慣れた益州兵と同じ、いや、鍛錬不足の多い益州兵より、遥かに機敏な動きを見せて、何進を目標に掛け登っていった!!

 

 

◆◇◆

 

【 氷砦と……… の件 】

 

? 西涼 西涼城付近 にて ?

 

白菊「詠! 砦の準備は出来たかい?」

 

詠「土塁は四丈(約十b)まで積み重ね、近くの川の水をタップリと掛けてやったわよ! あと、砦付近も一面に同じように掛けるようにしたわ!」

 

翠「あたしには、さっぱり分からないけど……どう意味があるんだい?」

 

白菊「ふっ! 心配すんな、あたしにだって分かんねぇよ!」

 

一国の太守の意見と思えない発言に……頭を抱える詠。

 

詠「ちょっと! アンタには説明したでしょう? この後の展開とか!」

 

白菊「分かってるさ! 一晩待てば、美味しく出来上がるだったな!」ウンウン

 

詠「───────────!」ガクッ!

 

月「詠ちゃん! 蒲公英ちゃんと竹筒用意したけど───?」

 

詠「月ぇ〜!! お願いだから月は、こんな奴みたいにならないでぇ!!」

 

月「えっ? えっ!?」チラッ……

 

白菊「ん〜っ? どうしたんだい?」

 

腰を屈み込み、顔を近付ける白菊。 自然に胸が強調されて月の目線を釘付けにする。 思わず、自分の胸を触り……涙目になった顔を……詠に向け睨む!

 

月「………詠ちゃん! 私に白菊様みたいな胸になるな……と言いたいの?  自分だけ、私より大きいのを持って……自慢したいなんてぇ! 詠ちゃん…なんてぇ────大嫌いぃ!!!」──ダッ!

 

詠「えぇっ!? なんで、なんでそうなるのぉよぉ!! ゆ、月ぇ! 待って! お願いだから理由を聞かせてぇ─────!!!」ダダッ!

 

翠「…………なんだったんだ?」

 

白菊「ふむっ! 難しい年頃だな!」

 

蒲公英「あは、あはははははっ………」

 

★☆☆

 

翌朝、南匈奴左賢王『劉宣』率いる百万の騎馬兵が現れる。

 

毛皮を纏い、胡服を着用して耐寒性と機動力を高めた服装で、この戦に望む意気込みが知れる! だが、中には顔立ち、服装が明らかに違う者達が混じっている。

 

劉宣「今こそ、我らを顎で使う漢王朝を蹂躙し、南匈奴の独立を図るのだ!」

 

劉宣は、南匈奴だけの軍勢では足りないため、周辺の国々も巻き込んで百万の大軍を揃えた。 

 

『漢王朝を蹂躙できた暁には、過分の礼を贈る!』

 

そのような条件と数々の貢ぎ物で承諾を得て、ここ西涼に攻め込んだのだ。

 

劉宣「最初の先陣は、南匈奴の我らが切らせてもらう!! 行くぞ!!」

 

ドオォ────ン!

 

ドオォ────ン!

 

合図の太鼓が鳴りだし、五万の騎兵が押し寄せた!!

 

◇◆◇

 

【 託され?策? の件 】

 

? 洛陽 宮廷内 稟私室 にて ?

 

「稟ちゃんー! 何をボンヤリしてるのですかー?」

 

椅子の上でウトウトしていた私は、ハッとして声を掛けた相手を見ました…………が、その場所には誰も居ない…………!? 

 

目の前に見えたのは、私が寝る予定だった寝台、朝日が射す暖かな窓際、そして昨日まで読んでいた『とある軍師の軍略書』が机の上…………にぃ?

 

えっ? な、無い! 確か………置いたままに─────!?

 

「もうぅ! 風にも見せてくれなきゃー怒っちゃいますよー!!」

 

????─────! バッ!

 

その喋り方を聞き、寝ぼけていた私の意識が急速に覚醒しました。 

 

前から聞こえたのは『腹話術』! ならば……後ろに控えている人物は!!

 

私は立ち上がって振り向き、叫びながら手の背でツッコミを入れました!!!

 

稟「何をやっってるんですか─────風!!!」

 

すると、私の手は……風の弾力の少ない胸に当たらず、何か柔らかいモノに?

 

宝ャ「………おいおい、大人げなさすぎだぜ。 久々に自分が主人公気分を味わえれるからって、有頂天になっているのかい?」

 

稟「きゃあああぁぁぁ─────!!!」

 

わ、私の後ろに…………人並みの大きさになった『宝ャ』がぁ!!!

 

宝ャ?「ふふふっ、掴みは成功ですね〜? よい〜しょっと!!」カポッ!

 

宝ャが……自分の頭を外すと……中から風が…………!

 

稟「な、何を、貴女はやりたいのですかぁぁ!!」

 

風「……稟ちゃん。 それは風の台詞ですよー?」

 

宝ャの衣装?をアッサリと脱いで、私の顔を見つめる風。

 

風「……颯馬お兄さんより、何か……頼まれたんですね?」

 

稟「──────────!」

 

風「風は知ってるんですー! 颯馬お兄さんが出発する前夜、稟ちゃんに託した事があったのを。 この軍略書もそうでしたよねー? 稟ちゃんが震えながら受け取っていましたからねー」

 

稟「……………………」

 

風「稟ちゃん! ………どうして、颯馬お兄さんより託された策を、風に教えてくれなかったのですかぁ!! 風に相談して貰えば、稟ちゃんの負担だって減るんですよー!! 

 

それなのに、あの日以来……夜遅くまで部屋に明かりを灯し、そんなに目の下へ隈を作るまで頑張って──!! どうして、風を頼らないのですかー!!」

 

………あぁ〜ぁ、ばれてしまいましたか。 でも、正直限界でしたし……。

 

稟「………愛紗殿や他の将兵に聞きましたよ。 貴女は真名を汚された事を私達に隠して平気に振る舞い、見事欺いてくれたそうではないですか?」

 

風「あ、あれは〜!」

 

昨夜の寝不足からか……頭がボンヤリと……………。 

 

しかし……今……語って置かないと。

 

稟「私は……風の事を、何でも分かると……過信していたようです。 風の苦しみが分からないのに、友達面していた自分が………憎かったのですよ。 

 

颯馬殿は、二人で考えて欲しいと言われていたのに……駄目ですよね? 私情に走るなんて……軍師失格ですよ………」

 

風「り、稟ちゃん! 風は、風はぁ───!!」

 

眠い………安心したら………眠い…………

 

稟「本日は、非番ですので……一休みしますよ。 風……は………その軍略書を読んだ後に…………意見を聞かせて……下さいぃ〜。 颯馬殿のぉ……朝敵包囲網を………完成すべき作戦をぉぉ……」ムニャムニャ

 

風「稟ちゃ────ん!!」

 

ーーーーー

ーーー

 

風「…………仕方ありませんねー。 風の復讐は……またの機会にして、早急に対策を講じなければいけませんー! 稟ちゃん……風の意見を聞くまで、風邪など引かないで下さいねー!」

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

 

………で、私はこの後、風に相談しましたよ? 

 

風邪……ですか? 

 

は、はいっ! ご心配……お掛けして申し訳ない! 

 

えぇ! 大丈夫です! 誰かが、あの後に布団を掛けてくれたようでしてね。 

 

ただ、夢うつつでしたが……『よいしょっ!よいしょ!』と、宝ャが一生懸命、布団を掛けてくれた気がするんですよ……人並みの大きさのね。

 

◆◇◆

 

【 迫る地獄からの使者 の件 】

 

? 益州 成都近辺 にて ?

 

何進「…………ならば、相手をしてやろう!」

 

何進が腕を上げると、三方の周りから黒い物がノッソリと現れた! 

 

羌兵「う、牛……だよな?」

 

?兵「………あれが、犬にでも見えるのかよ?」

 

しかし………見慣れた牛の姿にしては、異様の一言! 

 

両角には、鋭利な小刀が結び付けられ、身体に赤い布が巻かれ、八卦図が描かれているではないか! しかも、尻尾に油を注いだ藁が固く結ばれている。

 

そんな牛が、目に見えるだけで五十頭!

 

今から、何が始まるか………固唾を飲んで立ち止まる羌、?兵達!!

 

何進「我が相方『天の御遣い』より授かりし『真・火牛の計』!! 特と食らうがいいっ!!!」

 

何進が手を下ろすと、後ろで松明を持って待機していた兵が、牛の尻尾に点火し、下に進ませた!!

 

ブモオオォォォーーー!! ガッガッガッ!

 

ドドドドドドーーーーー! ブンッブンッ!!

 

火の熱さで大暴れする牛の大群は、下に向かい突撃し出す!!

 

羌兵「に、逃げろバアアァァァ─────!!」グサッ!!

 

?兵「うわあぁ!『ドン!!』ギャアアアァァ──!!」

 

ある者は……小刀で刺されたまま連れて行かれたり、またある者は、牛の蹄にかけられ潰された………!! 

 

また、ある者は……ぶつかり角に掛けられて空に放り出された後、後続の火牛に同じくぶつかり、再度放り投げられた。 無論、命は無い!

 

迷吾「ちくしょうぅ───!! アイツの妖術を破ったんじゃねえのかぁ!」

 

阿貴「これは妖術じゃない! 普通の策だ!!」

 

迷吾「どちらにしても……俺達には傍迷惑なんじゃい!!!」

 

唯一の出口である狭き場所も、逃げ出す羌、?兵と入りきれずに外で待っていた配下達の救援が重なり、通行不能になった!

 

★☆☆

 

? 益州 成都近辺 街道沿い にて ?

 

そして、奇しくも同時刻。

 

迷吾、阿貴の帰り待つ九十五万の将兵にも………災いが訪れた。

 

桔梗「ほぉ〜? 敵地に止まっているのに、なんと間抜けな見張り方じゃ! ここまで大軍ならば、周辺に探索の目を放たねば……奇襲を掛けられて終いじゃ!! まぁ、理由など……直ぐに分かるがな!?」

 

桔梗は、配下に準備していた牛達を、三カ所に配置させる。

 

桔梗の居る場所は街道の上。 そこに牛を千頭用意してある! 計略を掛ける所を、三カ所と決めて準備をしておき、今回は二カ所が該当した結果だった。

 

桔梗「『塩壺』を準備! 牛を何時でも放てるように用意しておけ!」

 

益州兵「はっ!」

 

ーーーーーーーーーー

 

羌兵「今回は楽な戦いになりそうだな?」

 

?兵「ははっ! 全くだ! これで大陸を制圧出来れば、俺達英雄の一人だぜ! 家族にも楽させてやれる!」

 

ーーーーーーーーーー

 

桔梗「今じゃ! 全員、『塩壺』を落とせ!!」

 

益州兵「『塩壺』投下!」

 

益州兵が、山の斜面より塩が入った壺を………転げ落とす!

 

ゴロゴロ! ゴロゴロ! 

 

壺は斜面を転がり羌、?兵の陣営まで転がる!!

 

羌兵「なんだぁ! 壺が───?」

 

?「避けろ!!」

 

────ゴン! ガチャン!! ガチャン!!

 

ザアァァ─────!!

 

落ちて割れた壺から………塩が零れ落ちた!

 

ーーー

 

桔梗「解き放てぇぇっー!!」

 

益州兵「はいっ!」

 

モオォォォー! ドドドドドドッ!!

 

三カ所より牛が放たれた! 

 

しかし、この牛には仕掛けは何もしていない。 『火牛』のような装束も無い、普通の牛。 ただ、追って……方向を定めただけである。 

 

ーーーーーーーー

 

?兵「う、う、牛だぁ───っ!」 

 

羌兵「牛がこっちにくる『ドゴッ!』────ぐへぇっ!!」

 

?兵「こ、この野郎が『ボゴッ!』ーーーーハガッ!」

 

ーーーーーーーー

 

桔梗「成る程………閣下が仰った通りか。 次の塩投擲、投げ入れろ!!」

 

益州兵「はいっ!!」 ブンッ!

 

今度は、塩の入った袋が投げられる。 そのままでは、些か軽いゆえ、拳で握れる石を袋に入れ、口を開けて投げる。

 

数十袋投げると、辺り一面、塩だらけになり羌、?兵の陣営では悲鳴が響き渡る!! 塩が目に飛び込み、口に入ったりと大騒ぎ!!

 

ーーー

 

羌兵「し、塩!? う、旨いじゃないかぁ! これなら……漬け物が美味しくできる! どこの塩だ、これはぁ!?」

 

?兵「保存食に最適だ! 帰りに土産で買ってくぞぉ!」

 

おおぉぉいぃ!! 台詞が違う!! やり直し!!!

 

ーーー

 

羌兵「ぐわぁ!! 目が、目がぁ〜!!」

 

?兵「く、口が塩辛い(棒)」

 

ーーー

 

………牛の勢いが更に盛んとなり……羌、?兵の陣営の混乱が、よりむごく、より激しい状態と化した!!

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

『 真・火牛の計 』

 

斉の田単が即墨で使用したと言われる『正当』な『火牛の計』。

 

概要としては、夜間、『小刀を両角にくくりつけ、尻尾に葦の葉を結び、油を注いで火を付けて、怒り狂わせた牛千頭』を先に行かせる。 少ししてから、兵五千を引き連れ、敵軍を壊滅させたという。

 

角に松明を付けて敵を困惑させたと軍記物にあるが、そんな事をすると、牛が恐怖で後込みして、使い物にならないとの事。

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

『 塩投求牛の計 』

 

元肉屋の何進が、天城颯馬と相談して決まった『火牛の計』の換骨奪胎版。

 

牛が塩を好み、益州が良質の岩塩産地である事に目を付けた何進は、それを策として提案。『火牛の計』を考えていた颯馬により、ダメージが少ない混乱策として採用される!

 

★☆★  ★☆★  ★☆★

 

ーーーーーーーー

ーーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

何進の妖術っていうか策になります。 妖術?は次回になる予定です。

 

『真・火牛の計』は、ちょっとした問題提起みたいなモノです。

 

源義仲や北条早雲の火牛攻め………あの方法では、利用出来なかったとなりますので。 《 参考資料 『戦国時代の計略大全』 PHP新書 》

 

もう一つの策は、オリジナルですので、探してもありません。

 

また、よろしければ読んで下さい。

 

下の話は、前作で省いた春蘭と道雪の模擬戦です。 いいアイデアが浮かばなかったので、あのような結果になりました……すいません。

 

◆◇◆

 

【 春蘭対道雪の戦い の件 】

 

? 徐州 下?城 練兵場 にて ?

 

春蘭の申し出は………紆余曲折の末に通り、対戦に漕ぎ着けた!!

 

周りには曹操軍の将、天の御遣い達が並ぶ。

 

星「………双方、準備は宜しいか?」

 

充分の広さを取り、双方の邪魔にならない位置で、監視役となる星。

 

春蘭「何時でもいい! 早く合図を出せ!! 私は『鬼』を倒し、この世の『羅刹』になるのだぁ!!!」

 

道雪「こちらも、大丈夫ですよ?」

 

春蘭は、『ガルルルルッ!』と擬音が付きそうな凄い目つきで、道雪を睨みつけ、道雪は道雪で………静かに車椅子『黒戸次』を動かす!

 

星「………ふっ! 熱くなるのは多いに結構。 しかし、我らは強敵が控えている! このようなところで……全力を戦う愚かさが分かるだろう! よって、勝敗は分かりやすい一撃の決まり手が見えた時! もしくは………」

 

 

『…………………………!』

 

 

星「…………どちらかの『ポロリ』が見えたとき!」

 

 

『……………………はっ?』

 

 

腑に落ちない……て言うか納得出来るかぁ!と、辺りの将達の視線が星に集中する。 しかし、星は微動だにせずに理由を説明した!

 

星「甘い、甘いな! 対戦となれば、衣服は斬られ乱れ飛ぶは常識! 二人とも肉感的には充分ありえますからな? もし、そうなれば、対戦どころではありますまい!?」

 

春蘭「そ、そんな事があってたまるかぁ!!」

 

道雪「………確かに……有り得ない事ではないですが……その場合、夏侯元譲殿はかなりの薄着。 私は、この通り何枚も重ね着をしているのですよ? その判定では、私が有利では?」

 

一刀「常識人に見える道雪殿が納得した……!? よくあるのか、そんな事が!!」

 

一刀は驚き異議を唱えるが、春蘭を除き……全員納得と頷く!

 

一刀「だからさぁ! その場合、普通に有効打を狙って………」

 

華琳「………春蘭、命じます! 道雪殿の衣服、切り裂いてしまいなさい!」

 

春蘭「はっ! 華琳様の御命令とあれば!!」

 

一刀「おおぉぉ────い! 命じるな!!!」

 

★☆☆

 

まぁ、そんなこんなで……始まった。

 

星「では………始めぇ!!」

 

ーーーーー

 

春蘭「いくぞぉ!! でぇあああぁぁ!!」

 

道雪「─────ふっ!!」

 

春蘭の七星餓狼が道雪に迫るが、黒戸次を瞬時に移動させて、その攻撃を避ける。 しかも、動かすのは位置だけでなく姿勢まで!!

 

春蘭が横に薙ぎ払えば、車輪を止めて、背もたれを地面に付けてかわす!

 

足元を狙えば、『雷斬り』で受け流す!

 

ーーー

 

春蘭「はぁー! はぁー! はぁー!!」

 

道雪「どうしました? 貴女の力は……この程度の力ですか?」

 

春蘭の攻撃を何回も避け、かわし、翻している道雪! 

 

結局………春蘭の方は息も絶え絶えだか、道雪は戦う前と同じ状態。

 

春蘭「ふ、ふんっ! 舐めて貰っては……困るわぁ!」

 

道雪「ですが………次は私の番ですよ…………」

 

春蘭より距離を取った道雪は、雷斬りを無造作に薙いだ!

 

春蘭「─────!」サッ!  ドォーン!

 

春蘭が避けた後ろで衝撃音が聞こえ、砂塵が舞い上がる!!

 

道雪「見えぬはずの闘氣の刃『闘刃』を避けましたか。 ですが、これならどうです?」

 

少し軽めに雷斬りを振り、同じように春蘭が避けた………が、背後で大きな衝撃音がしない! 不思議に思う春蘭に、遅れて軽い衝撃が走る!!

 

季衣「春蘭様あぁ─────!」

 

春蘭「ぐっ! な、何が起きたんだ!?」

 

片膝を付いた春蘭へ……道雪が説明する。

 

道雪「一度見破られた技を、再度放つ愚などしません。 貴女に二回目に放ったのは、軌道を曲げて後ろの膝裏を狙いました………」

 

そして、数回雷斬りを振ると…春蘭に軽い呻き声が聞こえ、残りの腕、足に闘刃を打ち込み、麻痺させる。

 

秋蘭「あ、姉者!!」

 

春蘭「ぐっ! 動けぇ! 動かないかぁ!!」ガタガタガタ

 

道雪「………残念ですけど……これで、終わりです! 我が闘刃は、使い手だけが抜く事ができますので、貴女が負けを認めれば……動かせるように致しましょう。 …………如何ですか?」

 

春蘭「だ、誰が負けを認めるか! こんな物など───!!」

 

春蘭が……幾ら動かそうと身体に力を入れるが、動ける様子は無い!

 

星「ふむ。 …………勝負、ありましたかな?」

 

★★☆

 

その時、曹操陣営で………一刀が叫ぶ!!

 

一刀「春蘭! 身体の中から刃を抜くように、想像するんだ!」

 

春蘭「か、一刀!?」

 

宗茂「ちょっと!? 助言なんて狡いですよ!」

 

驚く春蘭、対戦で助言を述べる事に苛立ち、文句を言おうとする宗茂! 

 

だが、横に居た高橋紹運が、それを止めた。

 

紹運「………いや、好きなようにやらせよう!」

 

宗茂「………えっ? どうしてです、姉上?」

 

紹運「見ていれば………分かる!」

 

宗茂にそう言い放つと、腕を組み直し尊敬する姉の戦い振りを再び見る。

 

ーーー

 

春蘭「くっ! ぐっ…………くおおおぉぉぉ────!!!」

 

春蘭に肉薄する道雪。 春蘭が咆哮を放つが変わるところは無い!

 

道雪「では………これで、終わりにしましょ──はっ!?」

 

カラカラカラカラカッ………!

 

最後の決定打を放つ予定で近付くと、春蘭の氣の高まりを感じ、立ち止まった! ────そして、春蘭に異変が起きた!!

 

春蘭「がああぁぁぁ─────っ!!!」

 

フシュン! フシュン! フシュン! フシュン!

 

春蘭の身体から輝く光が四つ、放たれた!!!

 

道雪の闘刃を………自力で抜いた瞬間である!!

 

しかし、強制的に抜いたため疲労は酷く、顔は青ざめ……身体はブルブルと震え今にも倒れそうなほど。 それでも、足に力を入れて立ち続ける。

 

ユラユラ ユラ〜リ!……………ぐっ!

 

春蘭「私は………な! アイツらに誓ったのだ! 仇は必ず討つと!! このような無様なやられようでは、あの世で顔向けなど到底出来んのだ!」

 

道雪「………流石は、この世の羅刹と言うだけありますね?」

 

春蘭「が…………がは───っ!!」

 

やっと、立ち上がったと春蘭だが、闘刃を強制的に自分の身体から抜いたため、その反動は惨く、気を失い倒れそうになる!

 

道雪「これまで……ですね!」

 

カラカラ───! ポフッ!

 

黒戸次を瞬時に動かし、倒れそうな春蘭を抱きしめる。

 

星「勝負あり! 勝者……立花」

 

道雪「星殿………この勝負、引き分けです」

 

勝者である立花道雪から、物言いが行われなど前代未聞!

 

星「なんと言われる! どう見ても道雪殿の圧勝としか見えないが……?」

 

道雪「……あの技は、私の全力で放った物なんですよ。 それを助言を受けたと言えど、自力で外した。 あの後の技は……ありません。 だから、引き分けなのです!」

 

星「道雪殿程の武人が、申すのであれば…………この勝負、引き分け!!」

 

道雪の武人としての矜持の高さに感服した星は、納得して勝敗を定めたのであった!!

 

★★☆

 

季衣「しゅ、春蘭様〜! しっかりして下さい!」

 

春蘭「…………………」

 

桃香「静かに、動かさないように運んで下さい〜!」

 

曹兵「はっ!」

 

ーーー

 

秋蘭「華琳様! 今回の勝負、些かやり過ぎではないかと!!」

 

桂花「僭越ながら………私も思います! 確かに春蘭は武に特化し過ぎて、他の事が残念な状態になっている武人です! ですが……晋との戦も目前にして我が軍の武人筆頭が……倒される! こんな事、許される訳がありません!」

 

華琳「立花道雪殿…………」

 

道雪「…………はい」

 

華琳「曹孟徳……心から礼を述べさせていただく。 いい経験をさせて頂き感謝する!」

 

『え───────────っ』!!

 

季衣「華、華琳様! なんで、なんでですかぁ!? 春蘭様があんな酷い事になったのに、華琳様が礼を言われるですか!? ボクには、納得出来ません!」

 

流琉「……………華琳様、申し訳ありません。 私も季衣の意見に賛成です。どうか御説明をお願いします!!」

 

真桜「ウチも………納得いかへん!」

 

沙和「沙和もなのー!」

 

華琳「……いいでしょう、説明します! 孫呉へ司馬懿、いえ松永久秀の侵攻があったとき……貴女達に徐州攻略を命じたため、知らないのは仕方ないでしょう! 

 

……しかし、私は孫呉に残り、実際に対峙したの! 恐るべし『傀儡の将』の力を!!」

 

華琳は説明をする。 

 

天城颯馬を中心として、『天の御遣い達』数人掛かりで対峙したが、為す術がなかった事。 立花道雪並みの力を持つ者達が………。

 

颯馬の奇策と皆の力で倒したが、被害は莫大であった事!

 

ーーー

 

桃香「あ、愛紗ちゃんが死にそうになった……なんて………」

 

一刀「…………士仁、この世界にも居たんだ……」

 

星「私も参戦したが、相手は稀代の猛将『呂奉先』、『本多忠勝』を含む幾多の猛将を相手取り、一歩も退かないどころか、こちらを圧倒しそうになりましたぞ!?」

 

秋蘭「筒井順慶以上なのか───!?」

 

華琳「だから──今度戦う晋の軍勢に、『傀儡の将』が居るはず! 同じような過ちを繰り返さないように、道雪殿は教えてくれたのよ! 私達との力量の差を!!」

 

麗羽「それは言えますわ……。 この軍の将兵は、実際に晋の軍勢に対峙した経験が少ないですもの。 心構えが違うだけでも、かなりの被害が減らせるはずですわ! 

 

猪々子さん! 斗詩さん! 貴女達も……義弘様や紹運様方に相手をお願いなさい! このような事、そうはありません事よ!?」

 

猪々子「いいぃ〜!? 久々の出番なのに、早くも死亡ふらぐが立った!?」

 

斗詩「え、え〜と、立花宗茂様! お願いします!!」

 

宗茂「………………いいでしょう! 宜しくお願いします!!」

 

猪々子「あぁ〜斗詩! 卑怯だぞぉ!!」

 

義弘「心配しなくてもいいわよ! 私も早くやりたくて、ウズウズしちゃてね? 順番なんて待って居られない!!」

 

猪々子「…………お、鬼島津!?」

 

義弘「その名で言うなぁぁぁ──────!!!」

 

ーーー

 

道雪「では………元譲殿の治療の手伝いに、参らせて頂きますので……」

 

華琳「それでは、お任せします! それと、良ければ私に………」

 

道雪「………私も、最後まで今の主に殉じる身。 そのような誘いは、全部お断りさせていただいております故。 では…………」

 

カラカラカラカラカラ……………

 

華琳「心技体……どこを見ても名将……ね。 残念だけど諦めましょう。 次の戦いも控えている事だし……………」

 

 

説明
義輝記の続編です。 よろしければ読んで下さい。
文章が途中になっていたところがあり修正しました。 お詫び致します。
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コメント
naku様 再コメントありがとうございます! 詠「あ……ありがとう……」 風「シブイですねぇ……まったくシブくて的確な意見ですぅ!」(いた)
naku様 ありがとうございます!! 詠「……って意見が! ねっ? 機嫌直して……」 月「わ、私が納得しないのぉ!! 詠ちゃんの大馬鹿ぁ───!!!」 (いた)
次回辺りで益州を終えて、西涼と孫呉と徐州………と外堀埋めながら、久秀と颯馬の最終戦にしようかなと思案中。 出せるキャラをなるべく全部出して終わらせたいと思います。 風も大活躍してくれますよ?   (いた)
naku様 コメントありがとうございます! 史実だと漢が倒れて、晋が傾いた時に攻め込んで幾つかの国が出来たのは有名な話。 弱肉強食も時が経つと立場が変わるという事です。 因みにオリキャラの皆さんは時代こそ若干ズレますが、歴史に名が残っている関係者です。(いた)
Jack TIam様 コメントありがとうございます! 本来は暗闇でやるから威力が倍増するようです。 稟と風は、大事な役目をお願いしたいので、そうそう出て来られましても困りますけど……。(いた)
火牛の計ですか、あれは実際やられると怖いでしょうね。牛の突破力は半端ではないですし。出番は望むほどに無くなるわけで……復讐の刃、ね。(Jack Tlam)
mokiti1976-2010様 コメントありがとうございます! 『真・火牛』は虎牢関で使用するか迷っていた物で、今回やっと登場。 もう一つは『牛が塩好き』から編み出した策です。 風は立ち直りましたが、復讐の刃は研いでますよ。 コメント欄へ偶に顔出しますから。(いた)
さすがは元肉屋だけあって牛の扱いには長けていらっしゃる…というのは冗談で(エ、田単もびっくりの火牛の計ですね。そして…とりあえず風は立ち直ったのかな?(mokiti1976-2010)
ふかやん様 コメントありがとうございます! 何進自身もご存知の通り見下され過ごしてきた半生を送った人物です。 本心で言う事はありませんし、相手を怒らせねば挑発にはなりません。 ですから、この場面はこれでいいと作者は思います。 それに颯馬の策は人をなるべく無用に殺さない策。 これも、その策になります。(いた)
何進さんを否定するわけじゃないですけど…私は迷吾達の言い分はもっともだと思っています。そもそも羌、?と言った氏族が漢に敵対するのは彼らを異民族として迫害したが故。挑発をする必要があるにしても言い過ぎではないのですか?(ふかやん)
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