真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第二十四話 |
〜聖side〜
鍛練場から月たちの居る執務室へと向かっている俺の視界の端に、見覚えのある光の柱が現れる。
その光は一刀の時や奏の時と同様に、暖かく優しい光だった。
直ぐに何かあったのだと感じた俺は、執務室へと向かう足を一旦止め、光の起こった方に走り出した。
「何があった!!?」
部屋へと勢いよく入った俺の視界には、菖蒲様と麗紗がお互いに身を寄せ合っている姿が映る。
よく見ると、二人の周りを何か薄い膜のようなものが覆っているみたいだ。
「あ………あの………お兄ちゃん………。」
身を震わせながら恐る恐る指をあげた麗紗は、俺の左側の壁を指差す。
その指の先へと視線を移すと、そこには凹んだ壁と壁に勢い良くぶつかったのだろう……気絶している一人の男がいた。
「聖お兄様!!! その男が張譲です!!! 目を覚ます前に早く!!!!」
「何っ!? こいつが張譲だと!!? 分かった、直ぐにでも拘束しよう。誰かある!!!!」
宮中に響き渡るくらい大きな声で兵を呼ぶと同時に、張譲が起きても身動きが出来ないように押さえつける。
しばらくして、董卓軍の兵士が数名やってきたところで、張譲を彼らに引き渡し、地下牢へと連行してもらった。
「これで大丈夫だ。それで一体何があったと言うんだ?」
張譲の引渡しが終わり、一段落着いたと思われるところで、一部始終に何があったのかを二人に問う。
その時には、彼女たちを覆っている膜はすでに消失していた。
二人は、俺と別れたあとからのことを事細かに教えてくれた。
二人の話を整理すると、張譲の行方を探るため、前皇帝劉弁の所持品であったこの城の地図を探していた。
その際、地図を探すのに夢中になっていて周囲への警戒が薄れ、地図を発見したと同時に張譲に声をかけられた。
張譲は、自分がこの世界の皇帝になるために、邪魔な存在である菖蒲様を殺しに来たと言い、懐から短刀を取り出して襲いかかってきた。
殺されるとなったその瞬間、指輪が光りだしたと思ったら先ほどの膜が出来、気がつけば張譲が壁の所で気を失っていたのだという。
話の流れからして、俺がこの部屋へとたどり着いたのはその後直ぐのことであろう。
それにしても、麗紗の指輪にもこのような特別な力が宿っていたというのは驚きだ。
麗紗の指輪は、あの時に買った5つの指輪ではない。
後にあの指輪に似ているということで購入したものだ。
このような力を持った物がそんな簡単に手に入るものではないだろう。
もしかしたら、この指輪も導かれているのかもしれない。
その力を持つのに相応しいと思われる主人のもとへ。
「ちょっと!!!! 一体何事なのよ!!!!」
怒鳴り声を上げながら部屋へと入ってくる詠。
その後ろに連れ立って、月、蛍、偉空の三人が同じく部屋へと入ってきた。
「はっ!? も……申し訳ありません、菖蒲様。決して菖蒲様に対して言った言葉ではなく、この馬鹿相手に行った事でして……。」
「良いんですよ。気にしないでください。」
「馬鹿とは酷い言い草だな………。」
「馬鹿じゃなかったら何だって言うのよ。敵に狙われていると分かっているこの状況で大声上げるなんて……。」
「いやっ、俺が大声あげたくらいでそんな……。」
「いえ、彼女の言うとおりだと思いますよ、天の御使い。」
「「「「「「「っ!!??」」」」」」」
部屋の隅、誰もいなかったはずのところから急にかけられた声に一瞬で反応する。
その声は忘れたくても忘れられない、最も憎い奴の声。
「命を狙われている者が同じ場所に居る時に、その護衛筆頭が大声を上げるなんて……。敵に目標の場所を教えているようなものではないですか……。
「…………于吉……。」
短い言葉とともに湧き上がる殺気を抑えることなく開放する。
「おやっ、名前を覚えていてくれたのですね。それはそれは……。」
しかし、于吉はそんなものどこ吹く風というように涼やかな顔で答えた。
「のこのこ顔を出しやがって、何しにきやがった。」
「そんなに殺気をダダ漏れにしちゃって良いんですか? 後ろの方々が震えてますよ?」
于吉の言葉に『はっ!!』となって後ろを見ると、俺の殺気に耐えられなくなった月、詠、菖蒲の三人が気を失い、その三人の体を支えながら、麗紗、蛍、偉空の三人も身を強ばらせてこちらを見ていた。
「ほらほら……早く解いてあげないと彼女たちが可哀想じゃないですか?」
「………言われなくても……。」
于吉に視線を合わせたまま開放していた殺気を押さえ込むと、後ろから嘆息が聞こえてくる。
その嘆息を聞き、ニヤニヤとした気色の悪い笑みで于吉は笑う。
その顔を見てると酷く不快な気分になり、内側に殺気を抑えるのに必死だった。
「それで……于吉、てめぇの目的は何だ?」
「ふふっ……。その凍てつくような視線も素敵ですよ……。」
「話をはぐらかすんじゃねぇ…。張譲を使って劉協様の暗殺を企んだのが、てめぇだってことは既に分かってんだ。でも生憎だったな……やつは今また地下牢行きになってるぜ?」
「そうなんですよ……。せっかく手助けをしてあげたというのに絶好の機会を逃して……あの男は本当に使えない…。使えないやつは………切り捨てられて当然ですね。」
心底つまらなそうに話す于吉の態度に苛立ちを覚える俺。
「……まるで、使い捨ての駒の様な言い方をするじゃねぇか……。少しの間とは言え、手を組んだ仲間だろうに……。」
「仲間…?? ふざけたことを言わないでくださいよ。奴は君の言った通り、駒の一つでしかない。皇帝暗殺のために私たちが用意した駒を、私たちがどうしようと君の知ったことではないではないですか。」
「于吉………貴様ッ!!!!!」
「そう殺気立たずに……今回はこれ以上もうどうこうする気はないんですから…。」
「当たり前だ!!!! これ以上すきになど俺がやらせるものか!!!」
「………やはり君は面白い……。」
「……何だと……?」
「ではまた会いましょう、天の御使い!!!」
「くっ!! 待て!! 于吉!!!!!」
懐から于吉が一冊の本を取り出したかと思えば、次の瞬間辺りを光が覆い、光が収束した時には、奴の体は既にそこにはなくなっていた。
「逃げられたか………。」
于吉に逃げられたことは残念ではあるが、しかし同時に奴による被害を防ぐことが出来たのも事実。
この場はそれだけでも良かったと捉え、来るべき時に奴との因縁にケリをつけるべきだ。
聖は心の中でそう考え、于吉のいた場所を睨んで拳を握り締めた。
彼の後ろでその光景を見ていた徳種軍の面々は、彼がどんな心境で、どんな顔をして拳を握りしめているのかは見ることが出来なかった。
しかし、その思いの強さは彼が握り締める拳から垂れる血を見れば一目瞭然。
だからこそ、彼女たちは悔しさに顔をしかませた。
彼女たちに、絶対の信頼のもと相談するということが出来ない事がまだあるという現実が、彼女たちにそれは重くのしかかるのだった。
「…………で? これからどうする気なの、ご主人様?」
月、詠、菖蒲様が目を覚ますのを待っている間に、これからのことについて偉空が訪ねてくる。
「于吉の介入で一騒動あったが、その問題も無事収束した。ならば勿論、予定通りに事を行う。」
「そう…。なら、洛陽に残った民と兵士たちに((手筈通りに演技| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・))させれば良いのね。」
「あぁ……。残忍で極悪な兵士を思いっきり演じるように言っておけ。」
「御意…。」
拱手をして部屋から出て行く偉空。
その時の顔は、策を巡らしている時の悪い笑顔になっていたと後で城の兵士は語ったのだった。
それとほぼ同時くらいに気を失っていていた三人が目を覚ました。
ゆっくりと目を開けた月に、申し訳ない気持ちを心に浮かべながら声をかける。
「三人とも大丈夫か? ごめんな、俺が考えもせずに……。」
「いえ……事情は聞いてましたから、聖さんが怒るのは当然のことだと思います…。他の二人も理解の上だと思いますよ。」
考えなしの行動であったことを素直に詫びると、三人は仕方のないことだと許してくれた。
それよりも今後のことについての方が大事だという詠の意見のもと、先程偉空に出した指示を含めて三人に今後の展望を伝え、そのまま軍議のような形をとる。
「まぁ、当然よね。こんだけのことをしてくれたんだから、それ相応の報いは受けてもらおうじゃないの。」
「そうですね。平和だったこの街に戦火を飛び火させた報いと、月さんに汚名を被せた罪、そして聖お兄様に怪我を負わした罪…………これらを考えれば当然の報いです。」
意地の悪い笑みを浮かべる詠と彼女らしからぬ怒った顔をしている菖蒲様。
そんな二人のわきから、麗紗と蛍が先ほどの策で疑問に思ったことを聞いてくる。
「しかし…お兄ちゃんは何故…劉備さんの所にそのようにするのでしょうか??」
「………劉備は……これといって活躍は……。」
「あぁ。確かに二人の言うとおりだが、100%この通りに行くとは思ってないし、違った時のことも考えたら今言うべきことではないだろう。まぁ上手くいったら教えるさ。」
そう言ってごまかそうと笑顔を浮かべる俺に、非難の目を向ける二人であったが、一つ嘆息すると約束ですよと声をかけるのだった。
〜詠side〜
詠は、その光景を微笑ましく見ながら、同時に心の中で戦慄していた。
一体、徳種という男はどこまで先を見て行動しているというのだろうか……。
今さっき聞いた話では、どうも何か裏があるような口ぶりであった。
という事は、額縁通りに捉えるのではなく、その先のことまで考える必要がありそうだ。
しかし、何が目的で…………。
考えれば考えるほど、分からない彼の策。
軍師という立場にあるものとして、他者の策を読むことが出来ないのはすごく悔しい。
それと同時に相手に対して恐怖を抱いてしまう。
相手は自分より強者であると自分で負けを認めてしまう…。
もし今回の戦いで彼が向こうの軍に居たとしたら……。
私は彼の策を読みきることが出来たであろうか…。
答えは……多分……否だろう…。
敵にすることがこれほど怖い人間がいようとは………。
私はこの時、身震いが止まらなかった。
自分が気付いた彼のえも言えぬ恐ろしさに打ちひしがれていた。
しかし、そんな彼女に手を伸ばすのもまた彼なのである…。
「詠。どうした、そんな顔して考え込んで……。可愛い顔が台無しだぞ?」
「可愛いって!!? あ……あんた何言ってんのよ!!! そういうのは、自分の仲間たちだけに言ってなさいよ!!」
「勿論彼女たちにも言っているが、詠たちにだってこれから言っていく可能性があるんだからな?」
「………えっ??」
「なんだ聞いてなかったのか? まぁ、お前たちが嫌ならそれまでだけどな…。もし来る気があるなら、董卓軍の面々共々俺たちの軍に来ないかって話を月にしていたところだ…。」
「……それって……つまり……。」
「簡単な話、俺たちの仲間にならないかってことだ。」
笑って片手を差し出す彼。
そこには先程まで感じていた恐怖感などはなく、ただ馬鹿で気が利かなくて鈍感で、でも優しくて強くて頼りになる、そんな人徳の王の面影があった。
その面影を月も見たのだろう………私の方を見てにこりと微笑むと、私と同時に彼に向けて臣下の礼をとったのだった。
そしてこの時同時に心の中で安堵していた。
彼を敵に回すことなく、彼の傍で味方としてこれから過ごすことが出来るという安堵を……。
〜連合軍side〜
聖たちが洛陽での一波乱を終えてから二日後。
連合軍の面々は遂に洛陽の門前まで軍を進めていた。
彼女等からすれば、洛陽までの道のりのどこかで、退却した董卓軍の兵士たちが一転強襲をかけてくると警戒していた為、遂に一度も出くわすことなく洛陽まで着いてしまい肩透かしを食らったような感じではある。
だが油断は禁物だ。
相手はあの徳種なのだ、油断させておいて……という事もないわけではない。
洛陽の門前にいながらも、未だに姿を現さない董卓軍の面々に、連合軍の将達はなにやら不気味な気配を感じ取っていたのだった。
そんな時、各諸侯が放っていた細作たちが彼女たちに驚きの情報を伝える。
その情報は、洛陽の街には人気が殆どなく、敵の大将首である徳種は既に洛陽から退却したというものだった。
それを受けて、直ぐに兵を進軍させる曹操軍と孫策軍。
少し遅れて進軍する劉備軍、公孫?軍、西涼軍。
さらに遅れてけが人の多い袁家両軍が進軍し、連合軍は全軍、最終目的地である洛陽へと入場したのだった。
洛陽の街に入った彼女たちはどこか気味が悪く感じていた。
洛陽はこの大陸の中心であり、最も栄えている場所のはずだ。
しかし、今の洛陽の街は雰囲気が暗く、どこか寒々しさを感じる。
それと同時に違和感を感じた。
何故こんなにも人が少ないのだろうかと……。
日は既に昇っているというのに、街を往来する人の数があまりにも少ない。
洛陽に入って違和感を感じとった劉備たちは、関羽が、道を歩いていた行商人風の男に声をかけて状況を聞き出すことにした。
「失礼。忙しいとこ悪いんだが教えてもらえないだろうか……。何故、洛陽の街に人がこんなに少ないのであろうか?」
すると男は、関羽を見て明らかな仏頂面を浮かべて話し始める。
「洛陽にいた人達は多くは長安へと逃げてったさ……。それもこれも、お前たち連合軍のせいでな…。」
吐き捨てるように言った男の最後の言葉に、その言葉を聞いていた劉備は強くショックを受けるのだった。
第九章 第二十四話 揺れる心 END
後書きです。
8月中に投稿できなかったのは残念ですが、まぁ、何とか9月頭に投稿できてよかったです。
今話で遂に連合軍は洛陽まで押し寄せ、洛陽内でのごたごたも一区切りつきました。
果たして、彼らの言う報いとは……??
そして、聖は劉備に何をする気なのでしょうか。
合言葉は智謀……乞うご期待ください。
次回投稿も早ければ今月中、遅くても来月頭にはあげようと思います。
それでは、また次話で会いましょう!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 第九章も二十四話を迎えてしまい、長い長い第九章になったと作者も自覚しております。 多分ですが、三十話までには第九章も終わると思いますので、そこまでお付き合いいただければと思います。 さて、前話の後書きで書いたように、聖はバトルらしいバトルをこの戦いではもうしません。 ここからは………智謀の出番ですよ………。 |
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