魔法使いの大家族 第11話:一等と二等
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楽しかった昼食時間を終え、食べ終えたところで夏希は真理亜を彼女の自宅まで送っていき

冬貴は学校の友人と近所の服屋に出かけに行き、桜と菊利は二人で学校の友人たちと図書館へ

春樹は先ほどの昼食の食器を下げて皿洗いはオートマトンという最先端家事ロボットが行っている

最近発達してきたこのオートマトン技術といえど雁間家のオートマトンは雁間家の母が取り寄せ、春樹の家事を手伝わせるために100万以上もかけて購入したのだ。

そこまでオートマトンに金銭を取られるのはこの魔法が発達して社会ではありえない話なのだが、雁間家一番の家事手伝いにして長男の春樹の願いもあり気難しい雁間家の母を口説き落として購入したものである

雁間家の人間にはオートマトンなど必要もないぐらいに魔法能力は充実しているのだが、春樹が頑なに家事は人の手で自分たち自らの手で行う方がいいと言ってきかなかった為、魔法ではなくオートマトンと春樹の料理の腕にかけられている

そんな中、秋と伊邪那岐だけは暇そうに各々、別のソファの上でねそべってテレビを見ていた

休日、ということもあってか今日は再放送されているドラマやバラエティー番組といったものが多く放送されている

昼食前まで切羽詰りながら戦闘の訓練をしていた二人はたった二時間の出来事があっただけで戦意を喪失していた

 

「秋?関君と戦うんだろう?

どんな作戦があるかは分からないけど一応、彼は一等生だからね

油断は大敵を生んで君に敗北をもたらす事にもつながるよ?

思い入れはあるかもしれないけれど神ヶ原さんが好きなのならそれ相応に努力するべきだと僕は思うけど?」

 

春樹の問いかけに二人の心が揺れる

ピクッと動いたところを春樹は見逃さなかったのだがあえてそこは突っ込まずにそのまま黙視を続けた

リビングでは今、テレビのにぎやかな音声しか流れていない

 

「春樹・・・それは言わずともわかっているが秋もクールな顔をしているが事実、疲れているのだぞ?」

 

伊邪那岐の言葉に耳を傾けて春樹は手を洗いエプロンで手を拭くと秋の顔を見に近づいた

近づかずともわかったのだが春樹は秋の寝顔が気になったために確認を行った

幸せそうに口を緩めている秋を見て、春樹もそれを見守っている伊邪那岐も笑いを堪えていた

こっそりと春樹は秋にリビングの隅に畳まれていた毛布を秋にそっと被せると再びキッチンに戻り、伊邪那岐を手招きした

手招きに誘われ春樹の元に向かって伊邪那岐は期待と興奮があったのだが

 

「伊邪那岐、残りの洗い物任せていいかな?洗濯物を取り込みたいんだ」

 

「うっうむ・・・わかった」

 

伊邪那岐が現実とは非情である事を理解したのは明確であった

 

 

 

 

国魔高校が見える小高い丘に聳える城の様な風格を放つ関秀才の自宅

自宅の位置からしたら学校を見下ろす形になっており、関家のプライドの高さともいえるのだろうかそれが言わずとも滲み出ていた

まだ包帯のとれていない秀才はまだ痛々しくもその顔立ちからは怪我をしても尚、プライドが滲み出ている

部屋の中には暖炉がありその中央にはあまりにも長いと言えばいいのだろうか長机が中心に置かれ、その机の真ん中には一つ数千万はするであろう花瓶が供えられていた

秀才の向かいには、彼の父親、関天才が腰かけていた

ナイフとフォークを手際よく扱い、フレンチを口に運んで一気に頬張るのではなく、半分をナイフに刺したままインターバルをおいて半分を口に入れた

よく噛みながら味わっているのだが親も親で食事をしているだけなのだが全身からプライドが滲み出ている

ただ、子と親の距離は10数mあって決して仲の良い親子柄ではないのが見て取れる

入り口にメイドと執事が備えているもののその2人も一切、無駄話などせず二人の食事を見守っている

 

「それで?秀才、鼻は大丈夫かね?」

 

小太りの男、秀才の父である天才が先に秀才に声をかける

離れているもののお互いの会話を遮るような遮閉物もなければにぎわっていることもない

その為、秀才は食事の手を止めて口を拭き直した

 

「えぇ、父上

問題はありません

ですがしかし、あの雁間秋という二等の分際で一等に盾突く人間を私は一等として見過ごしてはおけないのです」

 

「雁間家の唯一の凡才と言われている男か

しかし、まぁそんな人間にお前は顔を殴られ血を流し、おめおめと逃げてきたのか?」

 

天才の発言を聞いて強く、自分のフォークとナイフを握りしめる

その両手はあまりにも力が入りすぎていて血管がありありと見えていた

天才はその秀才を見て執事に指で指示をすると何かを取りに行かせた

食事を終えた天才はメイドを近くまで呼びつけ、食器を片づけさせた

すぐさま別のメイドが天才の元に一本、数千万はくだらない銘酒のワインを持ってこさせ、贅沢にもワイングラスの半分まで注がせた

 

「お前はこの関家の優秀な跡取りなのだ

敗北は許されん、雁間の家の者が相手だろうとその中でも凡才にまで負けてはならんのだ

そこでだ」

 

執事が天才に学校で支給される生徒用のMHDを手渡す

それを手に取り角度をかえて眺めると天才は秀才に向かって移動魔法と浮遊魔法を使い彼の目の前まで運んだ

不思議そうにMHDを見つめる秀才、天才はそんなわが子を見ていやらしい笑みを浮かべていた

魔法科のある高校では一般的に流通しているMHDだが一般物とは異なり、行える事に制限がかけられている

MHDをむやみやたらに使わせないようにという事を考え、一定の魔力発動基準値を超える魔力を受け付けると強制的に魔法の発動が中断されるシステム

ただ一般物は法律で認められている魔法ならば扱う事が出来るがやはり禁忌魔法といった類は全くもって発動させる事もできない

しかし、改造を行う事は可能であり、MHDの容量を飛躍的に上げること、魔法の発動基準値を上げて強力な魔法が使える事など様々な利点がある

だがこのMHDは魔法科高校課程では特別な立場や許可でない限り扱うことはできない

生徒用のMHDでさえ限られた人間しか使えないのにも関わらず

一般用のMHDを使う事が出来る訳がないのだ

 

「これは一般用MHDを生徒用と称してチューンナップを行い、誤魔化す事が出来る飛躍的なMHDだ

これならば基準値を超えた強力な魔法を使用する事が出来る上に容量も現代魔法技術で限界まで容量を上げてある

ただ教職員や魔法警察には確実にばれないようにしてあるというわけだ」

 

「MHDをこれに変えて出ろという事ですね」

 

「その通りだ秀才、流石、我が息子

そしてもう一つ」

 

秀才が指を鳴らすと執事が近寄り、今度は何やら液体が入っている小瓶を差し出した

色は白濁で異臭を放っており、秀才の鼻が利かなくなるほど強烈な悪臭を発していた

 

「父上、これは?」

 

「一定時間効力のある魔力増強剤だ

これさえあればお前の限界を越えて魔法を扱うことができる様になる

あの凡才を叩きのめし、関家の偉大さを身に沁みこませてやれ

お前にならできる

私の優秀な息子だからな」

 

秀才はためらいも躊躇もなく、MHDを右腕にはめると魔力増強剤を天才から受け取りその場を後にした

 

 

 

 

「秋よ」

 

「なんだよ伊邪那岐」

 

夜も深くなり秋の家から見える裏山を眺めていると隣で寝ている伊邪那岐が秋に話しかけた

体の大きな伊邪那岐に敷布団は小さく、四肢が彼の敷布団から出ている

就寝前の為、彼なりのパジャマに着替えてはいるのだが召喚者は服を変える意味は無い

ただただ伊邪那岐が雰囲気を味わうために秋に泣きついて買ってもらったパジャマを愛用している

勿論のこと人間サイズの為、長そで長ズボンが丈の足りない様に見えてしまう

仮面は外すことをせず枕いらずと思いきや伊邪那岐の後頭部辺りには枕がある

 

「本当に私を使わないのか?」

 

「仕方ないだろう

僕の魔法は使用が禁止されているものが多いし、それに無能が使えたりしたらおかしいだろう?

本来ならこの腕章みたいなくだらない物も僕には必要ないけどな」

 

「お前は偉大な魔術師だよ

召喚者の私とお前の家族が証明してやりたいんだ

本心では」

 

「その本心には感謝したいけど僕はそれが迷惑なんだ

もう少し静かに暮らしたいし、そもそもこんな面倒事に巻き込まれたくなかったんだ」

 

伊邪那岐はゆっくりとため息をつくと寝返りを打ち秋に背を向けた

 

「家族の評価を気にする人間とは思えん台詞だな

神ヶ原もツンデレだが秋もツンデレではないのか?

私は絶対にそう思うがな」

 

「なんでそんな事が言い切れるんだ

そもそも僕はまだ神ヶ原の事を好きでもなんでもないぞ」

 

秋の言葉に笑いを堪えることのできない伊邪那岐の身震いは豆電球の明かりすらない暗闇でも秋にはその姿がはっきり見えていた

風呂に入ってしばらくして布団に入った秋の髪はいつもの寝ぐせがなく目にかかる程に長くなっていた

 

「ひた隠しにするのが好きなのは私はよく知っている

一目ぼれをするような男ではなく、ポーカーフェイスを気取っている

しかし、内側も外側も童貞の・・・」

 

「えぇい・・・伊邪那岐、神ヶ原がうつったか」

 

そんな事はない

と言いたかった秋だったが明日も学校の上に朝からあの甲高い声を聴くと思うと伊邪那岐の話など聞いていられない

まだ話を続けている伊邪那岐だったが、秋はその声を耳を枕で覆い

彼の言葉を聞くまい答えまいと重くなっていく瞼をゆっくり閉じ、そのまま眠りについた

 

 

 

関秀才の自宅の反対側、森林の中一軒だけ佇む大豪邸

石英で気付かれているその豪邸は暮らしている者の優雅さを象徴しているものだった

森林の中に気付かれているにも関わらず豪邸回りは綺麗に整地されていて駐車場に屋根付き、シャッター付きの車庫まである

そこに住んでいるのは一人の少女と一人のベテラン執事と多数のメイド

その豪邸には二人とメイド数名しか現在は住んでおらず、二人が主に使用する部屋以外は夜中に明かりがともることは無い

一室の部屋ではまだ明かりが灯されていた

年相応には見えない卓越した表情をしてイギリス王室にでもありそうなアンティークの椅子に礼儀正しく腰かけ、日常で見せる事の無い純白のワンピースを纏って読書にふける少女、就寝前の格好ながら真昼でも着られそうなワンピース

彼女の読んでいる本にはロミオとジュリエットと英語で記されていた

近くに備えられた小さい丸机の上に置いてあった紅茶を上品に啜りながら物思いに耽っていた

 

「お嬢様、もう夜も遅うございます

そろそろお眠りになった方がよろしいのでは?」

 

部屋の入り口の傍で直立不動のまま白髪の執事が彼女に話しかけた

執事の声を聴いて彼女は本を閉じて、部屋に備えられている古時計を見つめた

時刻は12時30分、明日も彼女は学校に通わねばならず、ロミオとジュリエットの続きが気になるところだがゆっくりと立ち上がり、本棚に片づけた

執事は一礼すると彼女はゆっくりと再び椅子に腰かけた

 

「葵お嬢様・・・?」

 

いつもなら11時には寝ているこの屋敷の主の行動を目の当りにして執事は仰天している

その様子を見て楽しむように葵はさらに椅子の肘掛に後頭部を委ね、そこで寝ようとせん態度をとった

 

「お嬢様!?」

 

「ねぇ・・・セバスチャン」

 

主の突然の行動と発言に思わずその直立不動状態を解いてしまったセバスチャンは一度、深呼吸をして元の場所に戻った

 

「なんでしょうか・・・お嬢様」

 

「例えばね?例えばよ?

私に好きな人がいるとして、その人と同じ時間に起きている

これはとても幸福な事なのかしら」

 

寝返りをうってセバスチャンと目が合うように体制を変えると葵はそのままカップを手に取って再び紅茶を啜った

 

「人にもよりますでしょうが・・・

嬉しいと思われる方も多いことが多いのは確かでしょう

通信端末などで連絡を取り合ったり、会話をしたりするのも最近のお嬢様ぐらいのお歳の方ならおやりになると思われますが」

 

「セバスチャンなら慌てないかもしれないけどお父様とお母様には決して話せないわ

貴方になら話せるから話してもいいかしら?」

 

「かしこまりました」

 

セバスチャンはゆっくりと一礼してそう答えた

 

「実は好きな人がいるのよ

まだあなたと違って10代だけど私の初めての恋」

 

「恋ですか」

 

「えぇ、そうよ

彼は本当はなんだってできるスーパーヒーローなのに世間一般のせいで彼は本来の力を出せないのよ

でも彼はそれを誰にも言おうとせず、今の自分の境遇を受け入れているの」

 

「ふむふむ・・・

我慢強い男性という事ですな」

 

「いつも私はこの屋敷の中でちやほやされて学校ではアイドル扱いされていて、彼とも一等と二等という違いがある

でも私は彼に惹かれているの

彼はとても・・・私を一人の人間として相手をしてくれている気がして

それに彼の家柄は関係ないって言いたいけれどお父様とお母様のこともある

そんなことは関係ないのだけれど」

 

「珍しく、言い回しが多いですなお嬢様」

 

「それがどうかしたのかしら」

 

「お嬢様の言い回しが多くなるときは嘘をつくときや本音を隠すときだけでございます

メイド共々、お嬢様の性格や行動をお見守りしてきましたから」

 

「なんか気に食わないわね」

 

「昔と変わって冷たくはおなりになられました

しかし、このセバスチャンめはお嬢様が恋をしていると聞いて安心しましたぞ」

 

「本当に気に入らない」

 

「ツンデレでございますね」

 

葵がセバスチャンの発言にムッとするが笑顔を見せるセバスチャンを今の葵に咎める事はできず

紅茶と丸机の片づけと戸締りを命じると葵はセバスチャンから見たら、昔の記憶の彼の中でいた葵の今では見せない暖かい性格を数年ぶりに垣間見せた時だった

主の好いている男は気になるが、主との約束を忘れずセバスチャンはその事を心の中にとどめておいた

 

 

説明
関秀才の野望と信頼のおける二組のコンビの会話
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タグ
魔法使い ツンデレ だらしのない主人公 :あほ毛 

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