欠陥異端者 by.IS 第二十五話(学園祭)
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ついにやってきた、学園祭当日。

一般開放されていないIS学園の学園祭だが、一年一組の出し物『ご奉仕喫茶』は朝から忙しい。

 

一夏「ふはぁぁ・・・」

 

鷹月「お疲れ様。って言っても、まだ1時間しか経ってないけど」

 

一夏「マジかよ・・・」

 

箒「おい、一夏。何を休んでいる!」

 

一夏「ちょっとぐらいいいだろ? だいいち、こんな"メニュー"のおかげで、あっちこっちと動き回ってるんだぞ」

 

何が『執事にご褒美セット』だ。

何が『執事とゲーム』だ。しかも勝てたご褒美に"ツーショット"写真・・・手加減なしに勝てば、泣く女子が出てくるし、視線が痛いし。

テーブルゲームにダーツ、多種多様なゲームに頭と集中力を使いながら、引っ切り無しに来店する客を捌いて、写真を取られ、絡まれ───

 

谷本「ちょっと〜! 織斑君がいないと店が成り立たないじゃん!」

 

一夏「ああ分かったよぉ! 行けばいいんだろ! 行けばっ!」

 

谷本「せっかく篠ノ之さんもメイド服着てくれたんだから、ここは男を見せなさいよ!」

 

最初はメイド服を着て接客に渋っていた箒。

しかし、セシリアやラウラがメイド服を着る事になると、急に名乗り出てきたのだ・・・。

 

箒「な、何だ? ジロジロ見るな・・・」

 

身体を両腕で守るように顔を逸らす箒。

そんなに恥ずかしいなら着なければいいものの・・・何で名乗り出たのか尋ねても、「女の子には色々あるんだよ」とシャルに言われちまったし。

 

シャルロット「3番テーブルに提供して!」

 

夜竹「オッケー!」

 

そういえば、シャルもフロアに出ることに名乗り出ていたのに、急に辞退したな・・・どうしたんだ?

 

谷本「ほらぁ〜、見つめ合ってないで、さっさと前に出る!」

 

一夏「別に見つめ合って───」

 

谷本「篠ノ之さんも照れてないで、前に出て!」

 

箒「照れてなどいない!」

 

鷹月「事実かどうかはどうでもいいから、早く早く」

 

鷹月さんに背中を押されて、ホールへ押し出された。

「待ってましたっ!」と言わんばかりに、客の生徒から黄色い歓声が上がって、さっそく俺はあちらこちらと駆り出された。

 

鈴音「ちょっとそこの執事。テーブルに案内しなさいよ」

 

一夏「・・・すげぇ、恰好だな」

 

鈴音「っさい!」

 

やや乱暴なトーンの声の主は、やはり鈴だった。

確か、二組の出し物は『中華喫茶』だったか・・・。一枚布のチャイナドレスにあしらわれている"龍"は、愛機の『甲龍』をモチーフにしているのか?

 

一夏「ってかお前、自分のクラスの所は大丈夫なのか?」

 

鈴音「大丈夫大丈夫。思ってたより回ってるし・・・それよりも、さっさと席に案内して」

 

一夏「はいはい・・・それではお嬢様。こちらへ」

 

鈴音「おじょ───(ふ、ふむ・・・悪くないわね。ふ、ふふふっ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「いらっしゃいませ」

 [ニコニコッ]

 

上級生1「・・・」

 

上級生2[フルフル]

 

来店した生徒は、おそらく二年生だろう。

二人は、私の顔を見るなり、お互いに目を合わせてアイコンタクトを取っている。

「あれ? この子って、こんなんだった?」、「ううん」・・・とでも思っているに違いない。

 

零「こちらの席へどうぞ」

 

上級生1「は、はい・・・!」

 

零「ご注文がお決まりになりましたら、お声をお掛け下さい」

 

メニュー表を置いて、とりあえずカーテンで仕切られた控室に逃げ込むことにしよう。

元々、接客は苦手なのだ。

 

根本「いやはや、想像以上のご活躍で。似合ってますよ、チャイナドレス」

 

どこぞの小悪な家来みたいな根本さんが、コップに注いだ烏龍茶を持ってきた。

ちなみに、私の着るチャイナドレスは当然男用だ。

いつも左目に着けていた眼帯は、オシャレなものに変えられている・・・ラウラさんから借りた、『黒ウサギ隊』のものだ。

 

根本「お客さんも落合君のギャップに驚いてたよね。そのおかげで、前半よりも客の入りが多いし、私達も楽しませてもらってるし一石二鳥ね」

 

零「楽しまないでください・・・もう行きます」

 

根本「お〜お〜、さすがはプロ」

 

零「プロじゃないです」

 

飲み干したコップを渡してフロアに戻る。

と、思ったが控室にもど───

 

楯無「ちょ〜っと待ちなさいよ。せっかくお姉さんが遊びに来たっていうのに」

 

ガシッと肩を掴む会長。

動けない・・・この細い腕のどこにこんな力があるのか・・・。

 

楯無「ほらほら〜、接客してよ〜。特上のスマイル頂戴よ〜」

 

零「・・・い、いらっしゃい、ませ」

 

ギギギッ、と首を回して、引き攣った笑顔を浮かべる。

それでも満足気味に頷いた会長を、私は本気で殴りたかった。

 

零「では、ご注文が決まり次第、お声を掛けて下さい」

 

楯無「注文なら決まってる───あ・な・t」

 

 [ゴチンッ!]

零「ふざけないで下さい」

 

楯無「いてて・・・ぶーぶー、お姉さんはいつだって本気よ」

 

一夏さんの寮室に乗り込んで好き勝手している人が、今更そんな事を言ったとしても信憑性がない。扇子に書かれた"懸命"も疑わしい。

・・・前までは一夏さんにベッタリだったくせに。

 

楯無「ほら、笑顔笑顔♪」

 

零「ぅ・・・」

 

この後、昼の12時を過ぎるまでの2時間、会長の監視+好奇な視線を浴びながら反吐の出る仕事をこなす事になった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で昼の12時になった頃。

IS学園の校門前で、学園祭の招待券を握りしめる男子が一人。

わなわなと震えるその男子は、女の園の甘ったるい匂いが肺に満ちるほど息を吸うと───

 

弾「ついに来たぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!!」

 

発狂しだした。

 

弾(やべぇよ! マジで来ちまったぜ! どこもかしこも、女子、女子、可愛い女子!)

 

既に、思考の半分がピンクの妄想に埋まった弾は、周囲の視線に気づきもしない。

 

女子1(あ、あの人・・・大丈夫かしら?)

 

女子2(一応、生徒会に連絡した方が・・・)

 

一歩ずつ、一歩ずつ確実に進む弾。

一歩ずつ、一歩ずつ距離を取っていく周囲の生徒達。

一歩ずつ、一歩ずつ弾に近づく女子───

 

虚「そこのあなた?」

 

弾「は、はいっ!?」

 

生徒会書記を務める布仏虚に声をかけられた弾の精神は、現実に引き戻される。

すぐさま弾の脳内では、目の前の女子の評価が計算されていく。

 

弾(こ、この人、むちゃくちゃ美人───いや可愛い!)

 

虚「一応、招待券を見せてもらってもいいかしら?」

 

弾「はいっ、どうぞ!」

 

くしゃくしゃになった招待券を見て一瞬、呆けた虚だったが、気を取り直して弾を招待した"織斑一夏"の名前を見つける。

 

虚「織斑君、ね」

 

弾「し、知ってるんすか?」

 

虚「この学園で彼の事を知らない人はいないもの・・・とりあえず、校内での発狂はやめて下さい。次は強制的に校外へ連行します」

 

警告を最後に虚は弾の元を去ろうとする。

 

弾「あ、あ! ちょっと!」

 

虚「はい?」

 

弾は焦っていた。

せっかくここまで来たのだ・・・もしかしたら、一生無いかもしれないチャンス。

しかも、目の前には飛び切りの美人───何とかお近づきになりたい一心で言った言葉・・・それは、

 

弾「良い天気ですね!」

 

虚「今日は曇よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

弾「どうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんかどうせ俺なんか」

 

鈴音「ねぇ? コイツ、何なの?」

 

一夏「知るかよ、俺が迎えに行った時にはこうなってた・・・あっ、お冷下さい」

 

零「はい」

 

テーブルにぐったりとしている男子は、一夏さんと鈴さんの中学時代の旧友みたいだ。

落ち込んでいる理由は分からないが、色々と損している人っぽい。

顔は良いのに、ああいう一つ一つの言動が自分の+を無駄にして・・・いやいや、皆まで言わないでおこう。

 

一夏「というか鈴。お前は働かなくていいのかよ。零が全部やってるぞ」

 

鈴音「昼時だし、客は本格的な喫茶店に行ってるから、今は人手はいらないの。アンタのところだってそうでしょ?」

 

一夏「だけどな───」

 

確かに、店内のお客さんは一夏さん達を含めても二組しかいない。

その一組も会計を終えて、店内を出ていった。

 

根本「あ、落合君。もうお客さんいないよね? しばらく休憩時間取っていいよ〜」

 

零「いや、でも」

 

根本「私達がいるし、何かあったら連絡するから。楽しんで来れば?」

 

零「は、はぁ・・・」

 

厨房も兼用されている控室で着替えるわけにもいかず、私はチャイナドレスの上に制服を羽織って、自由時間を取る事にした。

 

一夏「ん? どこ行くんだ?」

 

零「いや、休憩時間取れたのでそこら辺をぶらつこうかと・・・いいですか、鈴さん?」

 

鈴音「まぁいいけど。人事は有香に任せてるし」

 

零「じゃ、また」

 

廊下に出る。

朝に比べて、廊下に人の混み合いがない。

在校生と、その生徒一人に渡された一枚の招待券のせいで、IS学園にいる人口はそこまで多くは無い。

朝の混みようは、世界で二人しかいない男子IS操縦者の接待を受けたかったからであろう。

そんな事を考えながら、出来るだけ人気の居ない校内を歩いていると、制服の胸ポケットに入れた携帯が震えていた。

更識家から貸与されたそれは、最新のスマホでもなければ、二つ折りのものでもない・・・電話しか出来ない一昔前の携帯電話だ。

以前、熱を出して寝込んだ事で、会長が気を利かして私にくれたのだ。

 

零「もしもし」

 

楯無『あっ、もっしも〜し』

 

電話の相手はその気を利かせてくれた会長だった。

 

楯無『そこにシャルロットちゃん、いる?』

 

零「いえ、いませんけど・・・それがどうかしたんですか?」

 

楯無『う〜ん、彼女がいないと"生徒会の出し物"の打合せが出来ないのよ・・・探してくれない?』

 

零「あ〜、あの"参加型演劇"ですか・・・もしかして先日、あの五人を呼び出したのって───」

 

楯無『皆まで言わない。そこは原作かアニメを見て、ね?』

 

零「あなたがそれを言わないで下さい・・・とりあえず、お暇を頂いたので回ってみます」

 

楯無『お願いね〜!』[ブツッ]

 

・・・携帯って便利だなんだな。

そんな感動を味わいながら、人の多いグラウンドに出てみる。

 

女性「すみません。私、こういう者なんですが」

 

出た途端、ずいっと私に名刺を渡してくるスーツの女性。

名刺には、"IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当「巻紙礼子」"と書かれている。

 

巻紙「織斑一夏君はどこにいらっしゃいますか?」

 

ああ・・・またこの手の勧誘か。

実を言えば、夏休み期間中もIS関連企業の接触が多くあった。

自分たちが開発した商品を使ってもらえれば、宣伝にもなり、利益となる。そんな下心に悩まされて疲れ果てていた一夏さんを、私は目の前で見てきた。

私の場合はフランス産のISを使っているから、一夏さんみたいに苦労をしていない。

 

零「僕もそこまでは・・・でも、どこか回っているとは聞いています」

 

巻紙「そうですか。失礼します」

 

私を通り過ぎて校舎に入っていく巻紙さん。

その表情が一瞬、凶悪な鬼へと変貌していた。

 

零「・・・」

 

どこの生徒からの招待かは不明だが、せっかくIS学園に入り、一夏さんに接触できるのだ。

うまくいかずにイライラするのは分かる・・・でも、あの殺気じみた狂気は何だろう?

 

零(・・・会長、すみません)

 

私は探索を中断して、巻紙さんの後をつけることにした。

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