快傑ネコシエーター4
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16、押しかけお断り

 

雅のマンションは亜人街の入り口にあり、比較的普通の人間が訪れやすい所にあった。

一階はコンビニエンスストアで24時間食品、日用雑貨などがいつでも簡単に手に入る。

マンションの隣は魔窟呑み屋銀猫の店舗兼住居であった。

通りを挟んで向かい側は、とてもカオスな品ぞろえが自慢の古着屋の店舗兼住居で、

亜人街でも賑やかなところであった。

中央公園がすぐ側にあるので、マンションの正式名称はパークサイドパレスマンション

であった。

中央公園の東側が繁華街で北側に人間専用の居住地区があり、南側に官庁街、亜人街は西側に面していた。

亜人街の入り口は北西に位置していて、南西にはゴーストタウンが虫食いの様に点在していた。

提灯屋の源さんの工房は比較的亜人街の奥の方だがそれでも北西の賑やかな亜人街の中であった。

雅の事務所は東側の繁華街の公園のそばにあった。

通勤は公園の中を突っ切っていくだけでとても便利だった。

春樹のスイートホーム、紀美のマンションも公園の北側に面しており、通勤の便利さは同じようなものだった。

中央公園の周りを路面電車がぐるりと回っていて、それぞれの街をむすんでいた。

公園の地下深くには地下鉄が官庁街と人間専用の居住地区と南北を直接繋いで市民の生活

を便利にしていた。

紀美のマンションは雅のマンションがある亜人街に比較的近いため

よく亜人街にやって来た。

目的は雅の部屋に上がることだが、今は美猫が威嚇して入れてくれないのである。

美猫と同居を始める前に既成事実を作って置くべきだったと今更ながら後悔しているのである。

雅が亜人街に住み始めたのは養父母が渡英して一人暮らしを始めた大学1年の時からで

亜人街がどういうものか知らないで設備が整っている上に築年数が立ってないのに家賃

がとても安いという理由からであった。

実際亜人を強く意識しているのはお役所だけで、一般人には全くわからないものだった。

紀美も亜人を強く意識したのは例の凶悪デミバンパイア乱入事件以後でそれまでは全く

知らない世界の出来事だった。春樹と雅の事務所に勤め始めて、初めて会った大和

警部補など普通のいいおじさんでたまに黒猫に変化するのを見るとむしろその能力が

羨ましいとさえ思っていた。

さらに最近美猫が猫又に変化して雅に甘えているのをみると自分が変化できないこと

がとても悔しいとすら思うようになっているのである。

紀美は魔窟呑み屋銀猫で沈没するのは雅が自分のマンションで介抱してくれたらいいなと

いう期待を込めて泥酔するのだが、雅はあくまで誠実に紀美の自宅へ送り届けるので

あった。

最近は買い物も公園の東側が繁華街ではなく、亜人街へ積極的に行くようになった。

 

「いらっしゃいませ、あれ紀美さん、めずらしいですね。」

さつきは紀美がマンションの一階のコンビニに買い物に来たので思わず聞いてしまった。

「チキンナゲット大とチキンサンド、後ソフトクリームバニラを3つずつ」

「腹ペコ駄ネコに餌付け作戦よ。」

さつきは厄介なことが起こる前兆を感じたがあくまでいいお客さんなので愛想よく、

「うまく、いくと良いですね、1580円です。」

さつきは紀美を見送るとすぐに美猫に電話した。

「美猫ちゃん、紀美さんが美猫ちゃん対策の食料を持って雅さんの部屋に向かったよ。」

「食べ物で籠絡しようとは笑止千万、さつき報告ありがとう。」

さつきは電話が切れたことを確認すると大きくため息をついた。

紀美はドアの前で小さく気合を入れてから、チャイムを鳴らした。

「は〜い。どちら様ですか?」

ドアフォンに出たのが美猫だったので紀美は万事休すと思い、あきらめかけたが一縷の

望みをかけて、

「紀美です、こんにちは。」

しかし、明るい声で、

「どうぞ、今鍵を開けます。」

紀美は奇跡が起こったと思った。

小さくガッツポーズをとった。

ドアが開いて、

「いらっしゃい、紀美さん。」

満面の笑顔で美猫が出迎えた。

「まあ、とりあえず上がってね。」

玄関には綺麗な来客用のスリッパまでおいてあった。

紀美は居間に通されソファーに座ることを勧められた。

こんなに友好的な美猫は初めてであった。

紀美はつまらないものですけどとお土産を美猫に渡した。

美猫はお土産を受け取ると一瞬邪悪な笑みを浮かべたがすぐに紀美が一番大事なことに

気が付いていない様なので説明することにした。

「みやちゃんならいないよ、滅殺機関の仕事だとか、ものすごく嫌そうな顔して出かけて

行ったよ。」

紀美は愕然として、白くなっていった。

しかし、滅殺機関の脳味噌筋肉女の顔が頭の中に浮かび、思わず呪いの言葉を罵った。

「あの薄汚い脳味噌筋肉のビッチめ、いつか吠え面かかせてやる。」

「そうなの聞いて、アシスタントの雌ガキはいらない一人で来いだって、失礼だよね。」

美猫も今回のことは腹に据えかねるものがあったらしく珍しく紀美に同調した。

あきらめて帰りそうな雰囲気の紀美に美猫は、

「折角来たんだからみやちゃんの普段の生活空間を見ていかない、今日だけ特別にだけど。」

紀美の顔がぱぁっと明るくなって、

「美猫ちゃん、それ本当ありがとう。」

二人は紀美の買ってきたお土産を平らげてから雅の部屋の見学会をはじめた。

雅の部屋の全てが紀美の想像通りで几帳面に片づけられていた。

自分に雅の妻が勤まるかどうか段々と不安になってきた。

一通り見終わると紀美はソファーに崩れ落ちるように座った。

「雅君って想像以上に几帳面なんだぁ。」

「さつきがみやちゃんのことお母さんみたいだって。」

「じゃ白状するけど実は私の部屋を綺麗にしてくれているのは雅君なの。」

「そういえば、仕事が暇なときは事務所の掃除もしているみたいだし。」

紀美の落胆する様子が気になったので美猫は、

「自分の得意分野で貢献すればいいんじゃないの紀美さん。」

紀美は自分の得意分野を思い浮かべてみた、

「とりあえず、家事以外の仕事かなぁ。」

「落ち込んでなんていられないよ、経理の綺麗なお姉さん。」

美猫からしたら紀美に対する最大限の褒め言葉だった。

紀美は美猫と固く握手すると、

「また、明日からは仲良く喧嘩しようね。」

「じゃあね、あたしの最大のライバル。」

紀美は新たな闘志を燃やして帰って行った。

 

少したって、魔窟呑み屋銀猫にて

「これで、気が澄んで雅さんの部屋に押し掛けてくることはないでしょうね。」

「銀ねぇ、策士だよぉ。」

「みやちゃん不在の時を選んで部屋に上げるなんてすごいアイデアだよ。」

要するに押しかけてくる紀美を諦めさせる為に仕組んだ奸計であった。

 

 

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17、さつきのグルメ

 

「そういえば、さつき「ごめんね!」吸血鬼事件の被害者って全員処女だったの。」

美猫が思い出したようにさつきに尋ねた。

「当然ですよ、非処女の血は腐敗臭があって飲めたものじゃないよ。」

「童貞も処女に比べるとかなり味が落ちるからあまり飲みたくないなあ。」

「でも最悪なのが非童貞で腐敗臭に加えてアンモニア臭がきつくて吐き気がする

くらい嫌だよ。」

「メゾバンパイアって結構グルメなのね。」

「あたしの血を味見させてあげてもよかったかもね。」

美猫は本気でさつきなら少し吸血させてもいいかなと思った。

さつきは首を大きく横に振ると、

「親友の美猫ちゃんに吸血なんかできないよ。」

「それに魔力を持ったデミヒューマンの血はメゾバンパイアにとって禁忌なの。」

「魔力の影響を受けてどんな副作用がおきるかわからないから。」

「結構メゾバンパイアって大変なんだね。」

美猫は感心したようだった。

さつきはメゾバンパイアの禁忌について話し出した。

「例えば、猫又の血を吸うと暫くの間影響が残って猫目猫耳猫尻尾の姿になるみたいだし。」

「特にライカンスロープの血を吸うとその影響が体に出てしまうの。」

「同じバンパイアなんか命に関わるくらい危険だし。」

「まずないと思うけど真祖バンパイアの血は魔力のオーバーフローを起こして

消滅しかねないぐらい危険で、デミバンパイアの血は猛毒で体が壊死してしまうので同様に危険なの。」

美猫はふと頭に浮かんだことを聞いてみた。

「じゃバンパイアハーフは。」

さつきは雅の顔が思い浮かべてちょっと考えてから、

「多分、真祖バンパイアと同じだと思うけど、魔力のオーバーフローは

起きないかもしれないけど充分危険じゃないかな。」

「普通バンパイアにとって吸血行為は食事と繁殖行為に当たるわけだけど

メゾバンパイアの吸血行為は食事というか飲酒や喫煙に近いかな。」

「じゃさつきは吸血しなくても大丈夫なんだ。」

美猫は笑顔でさつきにいった。

「だから、今は病院から輸血パックを手に入れて飲んでいるの。」

さつきは恥ずかしそうに言った。

「まさか、また通りすがりの人に強引に吸血させてもらうわけにはいかないから。」

美猫は素直な疑問を聞いてみた。

「輸血パックで処女の血かどうかなんてわかるの。」

「丘の上のお嬢様学校の女子学生が毎月一回交代で献血しているから、

そこから病院へ行ったものを狙ってもらってくるの。」

「一応、血の臭いをかいで処女の血どうかチェックするけどね。」

さつきは軽くウインクした。

「今のところ処女率100%とても優秀よ。」

「あそこの学校って大和さんの娘さんの撫子ちゃんが通っている学校だよね。」

「だから、私あの学校の女子高校生に化けて吸血行為を行っていたんだ。」

美猫は呆れたように、

「「ゴメンネ!」吸血鬼ってかなりの知能犯だったんだ。」

さつきは照れたように、

「お誉めに預かり光栄であります。」

 

「美猫さ〜ん。」

大きな声で美猫を呼んで手を振っている女の子の一団がいた。

大和撫子とその友人たちだ。

彼女たちは美猫とさつきの方にやって来た。

「こちらが「ゴメンネ!」吸血鬼事件を解決した竜造寺美猫さん。」

撫子は美猫を友人たちに紹介した。

一通り友人たちが美猫に感謝の言葉など述べている時、

撫子は美猫の隣で顔を赤くして俯き加減の少女に気づき、

「こちらの方は美猫さんのご友人ですか?」

美猫もさつきもドキドキしていた。

まさか隣にいるのが「ゴメンネ!」吸血鬼ご本人とは言えないし

ばれたら非常にまずいので2人共困惑していた。

さつきは機転を利かして、

「私はある事件で美猫ちゃんに助けてもらってお友達になった安達原さつきと言います。」

撫子はさつきの言葉に何の疑いも持たずに、

「まぁ、そうなんですか、では私たちとも仲良くなりませんか。」

こうして2人は撫子に連れられ女子会のようなもの参加することになった。

 

みんなそれぞれ女の子らしい話題で盛り上がり、活況を呈していた。

しかし、顔には出さなかったがさつきは心の中で舌なめずりをしていた。

「わぁーこの子たちの血が吸いたい、多分とっても甘露だろうなぁ。」

頭の中は吸血のことで一杯だった。

暗くならないうちに解散となり、それぞれの家路を急いでいた。

 

さつきは自分の部屋に戻ると冷蔵庫から輸血パックを取り出すと早速

血を啜り始めた。

ふと、嗅いだことのある血の臭いであることに気が付いた。

「この血は撫子ちゃんのだ、思った通りでとっても美味しいよ。」

さつきは輸血パックを堪能した後、普通に食事の支度を始めた。

メニューはご飯一膳、豚の生姜焼き、海藻サラダであった。

食事が終わると手を合わせ「ごちそうさまでした。」

食後のお茶を飲んで、さて後片付けでもと腰を上げようとすると

この一連の様子を見ていた美猫が、

「さつきにとって吸血はそれほど重要なことにみえないんだけど。」

さつきは美猫に気づいていなかったので驚いて言った。

「ひゃっ、美猫ちゃん何時から見ていたの。」

「さつきが帰宅してからずっとだけど。」

「帰り際やたらそわそわしていたから気になってずっとくっ付いてきたよ。」

「ひどいよ、美猫ちゃんもっと早く声を掛けてよ。」

「あまり、真剣に輸血パックを吸っているから、

声を掛けるタイミングを逸してしまったんだ。」

美猫は済まなそうに言った。

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18、銀の刃

 

神出鬼没の白猫銀は見知った人を見かけると気配を消してそっと近づき、

悪戯を仕掛けるのが趣味のような人である。

銀が悪戯を仕掛けないのは唯一四方野井雅だけである。

雅の身体能力が高いこともあるが、

下手に真面目な雅に悪戯を仕掛けて嫌われたくないのが本音である。

銀は雅という人間を知れば知るほど雅に対する思いが募っていくのが恥ずかしかった。

年長者ぶって紀美や美猫に恋愛のアドバイスのようなこと言っている自分が恥ずかしかった。

「私はいったい何をやっているんだか本当にいい歳なんだよね。」

銀は独り言を言った。

「私は7年前にあの人と一緒に死んだんだよね、仇討ちをしてたくさん人間を殺して、

事件を表ざたにしたくない連中が居て、収容所の中に永遠に封印されたはずの私が

こんな風に自由奔放に生きているなんて、なんか可笑しいかな。」

 

塗仏の鉄が雅に緊急の繋ぎをとってきた。

「雅さん、大変だよ居酒屋銀猫の女将の周りを嗅ぎまわっている連中が居るんだ。」

「やっさんにも繋ぎをとって役所に圧力をかけて変な閲覧者にアバルー収容所の情報を

閲覧禁止にするよう早速手配してもらったところさ。」

「俺が見たところでは怪しい連中の正体はプロのテロリストらしい。」

雅はそれとなく居酒屋銀猫の周りの様子に注意するよう大和警部補に連絡を取った。

美猫に銀の身辺に怪しい連中の手が伸びない様、張り付かせ何かあっても無理をせず

自分をすぐに呼ぶように指示した。

 

美猫は雅と相談してこんな時とても頼りになりそうな助っ人を呼ぶことにした。

エカチェリーナ・キャラダイン少佐である。

銀の周りに怪しい奴らがいるからボディーガードに来て欲しいと連絡したら、

直ぐに、張り込みの刑事風の衣装で現れた。

エリカは美猫が自分を頼りにしたことがとても嬉しいらしかった。

「お前すぐに私を呼ぶなんて中々冴えているじゃないか。」

エリカはデミバンパイアだけではなくテロリストに対しても万全だった。

 

銀は自分の周りが殺気だって騒がしくなってきたことに気づき、出来るだけ

みんなを巻き込まないように一人で行動していた。

亜人街の南の寂れたアーケード街をふらふらと目的を定めずに歩いていた。

銀は自分の死に場所を探していた。

 

相手がデミヒューマンの犯罪者ではなくプロのテロリストが相手となると

雅は自分の力だけでは不安だったので提灯屋の源さんに相談した。

「なんだと、おひぃさんの命が危ないだと。」

「居酒屋銀猫にはやっさんが張り付いています。」

「今、銀さんにはネコを張りつかせていて何かあったらすぐに僕を呼ぶ手筈です。」

「みやちゃんや、儂の本当の力を見せてやる。」

源さんは全身の酒気を全部皮膚から吐出し素面になった。

「すぐにおひぃさんの所に案内してくれ。」

いつもの愛らしい老人が勇ましい戦国武将の様に変化した。

 

銀はプロのテロリストに狙われていた。

長距離からの狙撃手は全てエリカの大口径の無音のロケット砲で銃座ごと木端微塵に

粉砕された。

今のところ事なきを得ているがかなり危険な状態で、殺気だっているから

すぐに来て欲しいと美猫が雅に連絡してきた。

源さんはいきなり大鷲に変化して雅に乗るように促した。

 

大和警部補は居酒屋銀猫に直接テロ行為が及ばないように警備を強化した。

居酒屋銀猫に政府関係者を名乗るものが押し入ろうとしたが大和警部補は

いきなり、中銃身の357マグナムで射殺した。

大和警部補に抗議しようとした政府関係者と名乗るものも全員射殺して、

一言部下に言った。

「本物ならば政府関係者などと名乗るバカはいない。」

 

銀の周りには7年前の事件を隠蔽したい者の雇った殺し屋たちが姿を現した。

銀は白鞘の刀をゆっくりと抜いてかまえた。

美猫とエリカが銀の援護に回った。

「居酒屋銀猫は無事だよ、大和さんから連絡が入ったから。」

「銀ねぇは死なせないよ。」

美猫はエリカから借りたモーゼル712フルオートマチック拳銃でエリカは2丁の

44口径改造自動拳銃を撃ちまくって銃を持つ殺し屋を挽肉に変えた。

銃弾を撃ち尽くすのを見計らって刀を持った殺し屋たちが襲いかかって来た。

エリカは手槍を美猫に渡すと自分はサーベルで殺し屋の首を刎ねていった。

美猫も手槍で殺し屋の急所を一撃で突き仕留めていった。

銀はここで殺されるつもりだった、その覚悟もできていたが自分の仲間たちが

ここまで頑張って守ってくれた命を大事にすることにした。

銀は白鞘の霊刀を振るって殺し屋を切って切りまくった。

その時、魔性殺しの矢が銀の心臓を狙って飛んできた。

躱したり、叩き落とせるものではなかった。

銀は自分の死を覚悟した。

銀の前に空から飛び降りてその矢を掴み止めたものが居た。

「銀さん遅れてごめんね。」

片手に一本の竹槍を持った雅だった。

雅は竹槍を思い切り投擲して弓の射手を串刺しにした。

やがて空を旋回していた大鷲が舞い降りると変化して巨大な石の憤怒の形相の

魔神像になって殺し屋たちを踏み潰した。

「みんな、銀さんが大好きなんですよ、死に場所探しなんか止めて下さい。」

「雅さん。」

後は声にならなかった。

銀の気持ちが落ち着いたのを見計らって、雅は銀に尋ねた。

「銀さんの命を狙っているのは何者なんですか。」

「7年前、私の愛しい右京門邦春を殺めた右京門家の生き残り。」

エリカは納得したように言った。

「右京門陸軍中将一族が黒幕ってわけか、道理で派手な物量作戦を立ててきたものだ。」

「では黒幕は儂が地獄の裁きをしなきゃいけないなあ。」

いつの間にか戦国武将の格好に戻った源さんが呟いた。

 

翌日、右京門陸軍中将の一族全員が心筋梗塞で死亡したというニュースが新聞を賑わせた。

全員余程恐ろしいものを見たのではないかというような苦悶の表情を浮かべていたという。

不思議なことに政府関係者は一様に口をつぐんで今回の事件の死亡者はこっそり片付け

られ、事件の痕跡が全く残ってなかった。

エカチェリーナ・キャラダイン少佐、大和警部補に全くお咎めはなく事件の起こったこと

役所の戸籍の閲覧記録までも全て抹消されていた。

 

「おひぃさんや、毒蛇の頭を徹底的に潰せばもう心配はいらないだろうよ。」

珍しく素面の源さんがニコニコしながら話し掛けた。

「源さん、いいえ源三狸様、このたびは私のようなものの為に

お力を貸して下さり本当にありがとうございます。」

銀は源さんに丁寧にお辞儀をしてお礼の言葉を伝えた。

「おひぃさんはみんなに愛されていることがよく分かったと思うから

もう捨て鉢になって命を粗末にしてはいけないよ。」

源さんは諭すように言った。

「ところで、おひぃさんや、みやちゃんのことどう思っている、今回儂を素面に戻した

殊勲賞ものだからのう。」

銀は赤面して黙ってしまった。

「あれから7年たって少しは気持ちの整理がついただろう、考えてもいいのでは。」

銀は言葉を少しずつ紡ぐように言った。

「雅さんは美猫がもう少し大人になって自分の本当の気持ちが伝えられるようになって

からでも遅くはないです。」

「収容所の無期懲役犯として抜け殻だった私をいつも励ましてくれたのは美猫なのです。」

「今回も死に場所探しをしていた私の気持ちを変えたのも美猫なのです。」

「実は美猫は病死した私の一番下の妹の娘で可愛い姪っ子なのです。」

源さんは笑いながら、

「おひぃさんがそれで幸せならそれもいいかもしれんのう。」

「では儂はまたいつものように酔っぱらって過ごすとするかのう。」

源さんは一斗樽の栓を抜くと一気に飲み干し、いつものように酔っぱらった。

「ヒック、おひぃさんや、しばらくはいつも通りとはいかんだろうが、昔のような悪戯娘

に戻って、みんなと楽しく遊びなさい。」

銀はしばらくの間、涙をボロボロ溢して泣いていた。

熟柿の香りさせた優しい酔いどれおじさんがまだ小さな少女の頃から目の前でずっと昔と

変わらぬ姿でいつも通り銀を見守っていた。

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19、インターミッション3

 

「まぁ、それはデートのお誘いですか。」

ひまわりの大輪のような笑顔でいった。

雅は銀の意外な反応に驚いた。

銀がこの間の事件以来塞ぎこんだり、元気がない様子だったので気でも紛れるようにと

公園の東の繁華街の買い物に誘ったのだった。

銀は待ち合わせの場所や時間など細かくスケジュールを作り始めた。

今までの銀全く違う様子に雅は困惑気味であった。

待ち合わせの場所は中央公園の西口広場の噴水の前というとてもベタな所で初々しい

初デートらしいカップルがかなりいる様だった。

実は雅はデートなどしたことがない上にこの話を聞きつけた美猫が銀ねぇに恥をかかせ

たらみやちゃんでも許さないと大きなプレッシャーを掛けてきたため、約束の時間の

30分前に待ち合わせ場所に行っていたのであった。

「お待たせ、雅さん」約束の時間の10分前に銀がやってきた。

しかしいつものアダルトな女将スタイルではなく

推定年齢17歳の白ワンピースの美少女がやって来た。

銀色というかプラチナブロンドの綺麗な腰まである長い髪、

サイドの髪をバレッタで止め、とても清潔な感じの髪型であった。

美猫の一つ年上のお姉さんという感じであった。

ちなみにナイスバディはいつも通りというある意味凶悪な美少女であった。

雅は絶句しそうだったが何とか持ちこたえいつもの銀と同じように振舞っていた。

耐え続ける雅を容赦なく攻める銀といった構図が出来上がっていた。

実は銀も初めはちょっと恥ずかしかったものの段々といつもと

同じように振舞っていたのであった。

雅がいつもとあまり変化がないようなのでこの格好は可笑しくないと

自信を持ち始めていた。

銀は思い切って雅に

「私の格好可笑しくないですか、じつは7年前の姿なんです。」

雅の頭が一瞬で冷却してこの格好の銀の気持ちを理解した。

「とても似合っています、今日は銀さんの我儘なら何でも聞きますから。」

銀は雅が自分の気持ちを理解してくれたことで満足だったが折角なので思い切り

我儘を言うことにした。

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20、インターミッション4

 

雅のもとに英国在住の養母から手紙が届いた。

 

「雅にはまず謝らなければならないことがあります。

あなたがバンパイアハーフであることを黙っていたことです。

あなたは真面目で真っ直ぐな性格だから自分の正体を知れば

亜人として収容所生活をするでしょう。

しかし、収容所はあなたにいい影響を与えるとは思えません。

この国の社会は見えない部分が歪んであなたの嫌いな理不尽が罷り通っています。

だから、幼い頃より魔力殺しの眼鏡を掛けさせ絶対に外さないようにいいつけて

普通の人間として教育を受けさせたのです。

あなたが一応一人前の18歳になるまでは私たち夫婦の出来る限りのことを

あなたの為にしてきたつもりです。

当然至らなかったこともあったと思います。

あなたの正体が公になった理由は幸運にも私たちにとって誇れる理由であることです。

これがあなたの本当のお父様の心を動かし英国政府を動かしあなたにとって

理不尽なことが降りかからぬよう圧力をかけています。

だから安心して自分の信じる道を進んで下さい。」

 

「母さん相変わらず心配性だな。」

黒いワイシャツに黒いスーツ黒いネクタイを締め黒ずくめの服は夜の気配に紛れるのには

都合がよかったが、貧相な外観はどうにもならない。

葬儀屋でアルバイト中の苦学生にしか見えない。

「これで黒マントをつけたらバンパイアみたいだな。」

「まぁ、ハーフだけど。」

「これがなけりゃ退治される側だな。」

日輪の十字架を強く握り締めた

今晩は満月。

「いい月だな。」

雲が多いが風が強く、月光は充分地表を照らしている。

四方野井雅は夜の公園に狩りに出かけた。

 

 

 

説明
16、押しかけお断り
17、さつきのグルメ
18、銀の刃
19、インターミッション3
20、インターミッション4
あらすじ世界観は快傑ネコシエーター参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定は快傑ネコシエーター2参照
魔力の強弱は快傑ネコシエーター3参照
キャラクター紹介2
提灯職人人間国宝:源さん(設定追加)
推定年齢150歳の(ワーラクーン化け狸)、酒豪素面の時は殆どない、銀に一目おかれている。一言多いため、銀によく徳利や鈍器で殴られる。本名不明だが源三狸の尊称があり、非常に高位のライカンスロープ。素面になると無敵、変幻自在。悪人を懲らしめ心筋梗塞で死に至らしめる。怒らせると怖い方。

ヒロイン6 居酒屋調理師:逆神妖子(旧姓逆髪)スリーサイズ85・52・84
デミヒューマン(実はワーフォックス化け狐)女性戸籍上21歳(実は16歳)
凶悪デミバンパイアに魔力で拘束され娼婦として働かされた。折檻されているところを老婆に変装したネコに救われる。助けられた恩返しのため魔窟呑み屋銀猫で調理師を勤める。異性とバンパイアが苦手。デミバンパイアの魔力の後遺症のため変化が出来なくなったものの美猫の協力で半人半狐の姿に変化出るようになった。本来は高位のライカンスロープなので変幻自在。

右京門邦春:世捨て人。普通の人。男性25歳。お人よしで善人。右京門家が嫌になり飛び出して世捨て人として亜人街で暮らす。見た目17歳の猫又、竜造寺銀を田舎出の家出娘として保護。しかし、体面を気にする右京門本家の刺客の手で葬られる。

右京門陸軍中将一族
右京門邦春に刺客を放った本家の人々が銀の敵討ちで断絶したことを表沙汰にしたくない為、銀を無期懲役でアバルー収容所に幽閉した。
アバルーの収容所の叛乱で銀が自由の身になったことを憂慮してテロリストを差し向け銀と関係者の暗殺を企む。雅、美猫、エリカ、大和警部補、塗仏の鉄、源さんによって阻止される。
さらに源さんの地獄の裁きで一族全員が心筋梗塞で死亡したため断絶。

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