義輝記 星霜の章 その十七
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【 次の一手 の件 】

 

? 徐州 下? 曹操軍陣営 中央 にて ?

 

日が天に高く昇る頃、地上も、燃え盛る火が……地面を舐めるように徘徊をする。 晋軍に放った火矢が種火となり、罠に嵌まった哀れな獲物を味見していた。 先に『前菜』である天幕を焼き、次の『主食』を狙い始める。

 

濛々とした黒煙が辺り包み込み、踊り狂う『炎』が、曹操陣営であった物を駆け回る。 鳥黐(とりもち)で拘束、強烈な悪臭で五体が麻痺し、混乱のあまり将棋倒し状態になった哀れなる者達を、優しく抱く………。

 

晋兵「だ、誰かぁ────────!」

 

晋兵「死にたく─────!?」

 

恐怖のあまり叫び続ける晋兵達を、たおやかな焔の手で……二度、三度撫でると……安心したかのように……目を閉じる。

 

全員の寝顔を確認した……『炎』は、最後の仕上げとばかりに、紅蓮に棚引く大火焔の布団を用意して、全ての者を覆い隠した。

 

ーーーーーー

 

華琳「桃香! 急いで周辺の残存兵、及び延焼の確認、消化活動をなさい! 春蘭! 五万の兵力を指揮し、先行している部隊の救援、及び敵本営を撃破せよ!!」

 

春蘭「はっ! お任せを!!」

 

桃香「はいっ! 鈴々ちゃん! 季衣ちゃん! 一緒にお願い! 猪々子ちゃんは残存兵力の確認を!!」

 

鈴々「桃香お姉ちゃんに、付いて行けばいいのだなぁ!?」

 

季衣「うん! 行こう桃香ちゃん!!」

 

猪々子「任せておきなぁ……て、アタイの活躍これだけぇ!?」

 

華琳「え〜とぉ……麗羽はどこ!? 麗羽に命じたい事が………」

 

曹兵「袁将軍は、別働隊を率いて敵軍に向かっております! その数三万!」

 

華琳「………人が命じる前に行動するなんて、いつの間に鋭くなったのかしら。 多分……秋蘭も付いてくれているから大丈夫だと思うけど……」

 

ーーーーー

 

華琳「朱里! 雛里と共に、貴女達の部隊で負傷兵達の収容、看護を!! 別の離れた天幕に、流琉が一刀達の看病をしているから、合流して指示を受けなさい!! 真桜、沙和は朱里達の護衛!」

 

朱里「わかりました! 至急とりかかりましゅ!」

 

雛里「あわわっ! か、一刀さんがぁっ!」

 

華琳「それから……今回の策は大成功よ! 予断は……まだ許さないけど、罰で死ね事は、これで無くなった! ……良かったわね、二人共」

 

『あ、ありがとうございましゅ〜!!』

 

真桜「あぁ〜華琳様? ウチらも……これで………」

 

沙和「臭いがキツいのぉ〜!!」

 

華琳「貴女達は、今から兵に命令し、湯を沸かすようにしなさい。 身体を拭くだけでも違うわ? 今回の沙和の隊にも同様の処置を!!」

 

真桜「流石ぁ大将! 話がぁ─よぉう分かるぅ!!」

 

沙和「聞いたか蛆虫共ぉ! 華琳様が、腐敗臭のする身体から、加齢臭のする身体に磨きを掛けろとの命令なの! しっかり身体を拭いて、華琳様に蛆虫共の忠誠をお見せしろなのぉぉ!!」

 

『サー?イエー?サー!!!』

 

華琳「それと………斗詩! 貴女は別の要件をお願いしたいの!」

 

斗詩「はい! どんな要件でしょうか?」

 

華琳「貴女に………一刀を任せたいの………」

 

斗詩「はっ? …………はいっ!?」

 

◆◇◆

 

【 鬼道雪……始動 の件 】

 

? 徐州 下? 下?城 にて ?

 

《 晋軍と曹操軍がぶつかる数日前……… 》

 

 

曹兵長「立花様! 皆、集結致しました!」

 

道雪「分かりました! 案内をお願いします」

 

曹兵士長「はっ! 此方で御座います!」

 

ーーーーーー

 

道雪「私が董仲穎の将『立花道雪』と申します! 以後お見知り置きを……」

 

道雪は、『失礼ですが……この体勢で挨拶を……』と、車椅子『黒戸次』の上より頭を下げる。 

 

道雪の眼下には、曹兵二万が………不安げな表情で見詰めていた。

 

曹孟徳配下、彼らの上官に当たる『夏侯元譲』を、難なく動きを封じる『天の御遣い』にして『鬼』! 

 

その者が、わざわざ『曹操軍の荷物』と言われる、弱兵の自分達を集めた理由が判断付かなかった。 どのような、ムチャクチャな命令をしてくるか不安もある。 怯える事は………当然の事だった。

 

道雪「私が曹孟徳殿にお願いして、貴方達を集まって貰いました! まず、貴方達に問い掛けましょう! 貴方達が活躍できない理由……私に教えて頂きませんか? 別に叱るつもりはなど、毛頭ありませんので御自由に………」

 

道雪が問うと……集まった兵達が様々な理由を述べ始めた。

 

ーーーーーー

 

『 心に『恐怖』と『後悔』が混ざり合い、戦いが出来なくなった者 』

 

曹兵「はっ、はいっ! わ、私は………数々の戦いで……戦から逃げ出したり、功を立てた覚えも無い弱卒兵……。 元譲様の訓練にも付いて行けず、孟徳様の信頼にも応えられない……不忠者なんです……」

 

曹兵「はぃ……て、手柄を挙げたいので…ですが、戦うのが怖くてならないのです! いつ、殺されるか……残された者はどうなるのか? それを、考えると……身体が動かなくてぇ…………!」

 

ーーーーーー

 

『 身体の欠損の為と……原因を示す者 』

 

曹兵「私は………ほらっ、ご覧の通りでして……手首が無いんです……」

 

曹兵「……前の戦で片腕を失いました。 それまでは、強いと言われ……いい気になっていたのですが……。 今では、馬鹿にしていた者でさえ簡単に負けてしまい………情けない事でございます!」

 

ーーーーー

 

次々に自分が弱い理由を、口々に言い始める曹兵達。

 

それを、優雅な手振りで抑え、道雪が口にする。

 

道雪「貴方達の苦労は……だいたい分かりました! されど、逆に聞きましょう! 貴方達の中で……『下半身が麻痺』している御仁は、いらっしゃるでしょうか!?」

 

 

曹兵『………………………?』

 

 

道雪は……ゆっくり辺りを見渡すが、誰も返事をしない。 

 

道雪「誰も居ませんか……。 それでしたら、貴方達は私より遥かに強い筈なんですよ? 私の足は……ご覧のように、動く事などありませんので……」

 

道雪は、自分の足をゆっくりと撫でる。 

 

 

曹兵『────────!』

 

 

彼女が……何故、移動する椅子に座っているのかを、始めて知る者も勿論、知っていた者も……改めて愕然とする。

 

余りにも……彼女の動作が自然の為、その事を忘れていたのだ!

 

道雪「私は……子供の頃、雷に打たれ……両足が動かなくなりました! 勿論、子供といえど武人の端くれ! 私を打ちすえた雷に、一太刀を浴びせ撃退しました! お陰で命長らえ……貴方達との会話が楽しめますが……」クスクス

 

道雪の話を聞き、ある者は驚き、ある者は疑念を抱き、またある者は……可愛いらしい笑顔に魅せられ、顔を赤くする。

 

道雪「貴方達は、自分の意のままに動ける! これが、どのような幸運であるか! 戦場の真ん中で、置き去りに去れた私と貴方達。 生き残れる確率がどちらが高いのかは、お分かりのはずですが?」

 

曹兵「し、しかし……私達は、他の兵より見放された弱兵ですよ? 戦の功も立てた事が無い……欠陥兵なんですよ………!!」

 

曹兵は、力無く……自分達を蔑んだ……。 幾ら動ける足が有っても『逃走する事』を目指している!! 逆に足が無い方が良さそうだ!

 

道雪「私は……そうは思いません! 貴方達こそ真の強者! 貴方達が弱いのは、貴方達の所為(せい)ではありません! 貴方達を率いる将の励ましが、少ない為だと愚考致します!!」

 

曹兵「──────!?」

 

道雪「私は思うのです───!」

 

道雪は、力強く励ますように……皆に語る。

 

『貴方達が大怪我を負った。 だけど、こうして生きているのは、貴方達の対応が的確だったからではないですか! 怪我の治療に精通していたからこそ、このように活躍できるまで、身体の力が戻ったのではないですか?』 

 

『今まで手柄が立てれなかった。 それは、機会に恵まれなかったから! 同じ将の下ならば、攻めも守りも同様な事が多いから、一部の役割の者に手柄が集中するのは当たり前の事! 

 

されど、功を焦るのは愚の骨頂! 生きてこそ……立つ瀬があるのです!』

 

『貴方が死んだら家族がどうなる? それを心配するのは当然です!! 兵に後の心配を抱かせて、戦わせるなど言語道断!! 私が孟徳殿に掛け合い、もしかの時には、安心して貰うよう動くまで!!』

 

曹兵「ーーーーーーーー!!!」

 

道雪は、最後に述べる!

 

道雪「貴方達が、私に付いてきてくれるなら、私は自分だけ安全な場所には居ません! 私を『 輿 』に乗せて、皆と共に突撃します!!!」

 

曹兵「なっ─────!!!!!!」

 

流石に────これには全員驚愕を隠せない!!

 

『天の御遣い』……洛陽の董仲穎配下。 もしかすると、曹孟徳様より上の立場の者が、弱卒呼ばわりされている自分達に、身柄を預けるだと!?

 

曹兵達は思う……。 ここまで我々を厚遇するのは何の為か?

 

その答えは直ぐに出た! 

 

我々の本分を全うさせる為、我々の力が必要なのだ!! 

 

『 士は己を知る者の為に死す 』という! 

 

 

ならば─────尽くしがいのある将に、命を預けよう!!!

 

───────────────────

 

こうして、曹孟徳配下の弱卒は………立花道雪の指揮を受け、奮戦を続けるのである。 後に……道雪が去り……隊が解散された際には、どこの将も……道雪の采配を受けた、元弱卒達を取り合ったという。

 

◆◇◆

 

【 噂の鬼道雪 の件 】

 

? 徐州 下? 晋軍陣営 にて ?

 

伝令兵「で、伝令! 対岸に渡りました晋軍ですが………」

 

韓馥「遅かったの! まぁ……それだけ分捕りが多く、皆が奪い合ったという事だろう。 ぐふふふふ………」

 

伝令兵「ぜ、全軍………壊滅しましたぁぁぁ!!!」

 

韓馥「ぐふっ!! グホッゲホッ!? 馬鹿な! 儂等の兵のかなりを送り出したのだぞぉ!? 三十万の大軍なんじゃぞぉ!!!」

 

伝令兵「しかし、これは………事実でして………」

 

韓馥「じゃかましい!! もう一度確認して参れ!!!」  

 

伝令兵「伝令!! 急進な話です!! 是非、私の話を先に!!」

 

韓馥「うむぅ! 聞いてやろう……。 ゆっくりと話せ!!」

 

伝令兵「此方に……敵の軍勢が押し寄せてきます!! その数……二万!!」

 

韓馥「何を恐れるに足る事があるか! 我らは十万ぞ!!」

 

伝令兵「し、しかし……異様な迫力と妙な行動をする軍勢でして………」

 

韓馥「もういいっ!! 何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も役に立たない奴らめ!! 儂が出陣する! 儂の力と…この食べ物(おにぎり)があれば!!」

 

韓馥は、全軍出陣の命令を出した!

 

★☆☆

 

道雪「私達の軍勢は、闇雲に突っ込み……敵を倒すだけでは勝てません! 味方の援軍は必ず来ます! 包囲されないよう、私の指揮に従うように!」

 

曹兵『はっ!!』

 

『輿』の上より、道雪は指示を与える。 『黒戸次』は約束通り陣中に置いてきた。 この者達に生死を預けて………。

 

曹兵には、全員鉢巻きを渡し、味方である事を示すため結ばせる。

 

ただ、道雪の輿を担ぐ者や輿を守護する者達は『赤』、それ以外は『白』を結ばせて、簡単な役割も分かるように施してあるのだ。

 

曹兵達は、左手に楯を持ち右手に剣を持つ。 

 

敵勢発見の報が入ると『エイトウ! エイトウ!』と叫び気合いを入れる!

 

道雪「来ましたね……! 全員、無駄死に許しません! 生きて名誉を預かり皆を見返し、私達こそが強者である事を示すのです!!! 突撃を!!!」

 

敵勢が怒濤の如く襲撃して来るのを、厚い防壁と化して迎え撃つ道雪勢!!

 

立花道雪……『鬼道雪』『雷神』の二つ名を誇る名将の活躍が始まった!

 

★★☆

 

? 徐州 下? 曹操軍 河川付近 にて ?

 

華琳「少し……話をさせて貰っていいかしら?」

 

歳久「……御自由に」

 

義久「としちゃん、駄目よ〜! そんなに素っ気なくしちゃ〜!」

 

紹運「申し訳ない! 急ぎの指示だけ済ましてきますので──!」ダッ!

 

家久「丁度終わったから……いいよ!」

 

義弘「こっちも終わり──っと!」

 

宗茂「あれっ? 皆さん……何で集まっているんですか?」

 

ーーーーー

 

『天の御遣い』……大友勢と島津勢は……黄河に橋を掛けている。 勿論、本格的な橋は掛けるには、時間と費用がいるために『船橋』を繋ぐように準備している。

 

小船を対岸から繋げ、その上に板を敷いて多数の人員を渡す方法。 やり方は

簡単たが、準備にかなり手間取った。

 

晋軍も此方を攻める際、船を利用したが策の為に破壊した。 後で考えれば、近隣の船が多数あるはずで、損害賠償の費用も掛かるが、船の調達がかなり遠い所まで行かないと集まらない!

 

修理出来る物は修理、変わりになる物が有ればそれをと……臨機応変で作っていたのだ。 そんな事で八割方出来て、今に至る訳だが………。

 

ーーーーー

 

華琳「立花道雪……私は彼の人物を……よく知らないわ。 ただ、分かるのは春蘭が初見で『鬼』として恐れ、私としても……対面して……かなりの武人として分かるわ! しかし、具体的な事をもっと知りたいのよ!」

 

歳久「……何です? それは道雪殿を臣下に欲しいと……?」

 

宗茂「駄目ぇ! 絶対駄目ですぅよぉ!!」

 

華琳「それが……一度命じてみたけど……丁寧に辞退されたわ。 不本意だけどね……」

 

……………華琳は、悲しそうな顔で呟く。

 

華琳「弱卒と呼ばれた彼らを猛者に変え、その者達の為に私へ直談判する胆力! そして春蘭を恐れさせる器! もし……彼女が居れば、私の国は更に栄えるのに………残念よ………」

 

『それは───元々から無理な話だ!』

 

華琳「………どうしてなの、紹運殿?」

 

紹運「義姉上の名前の『道雪』……それが示している!」

 

華琳「……………………! まさかっ!」

 

紹運「流石だな。 その言葉だけで気付くとは……」

 

義久「お姉ちゃん、わかんなぁ〜い!!」

 

義弘「………正直……分かりません!」

 

宗茂「………………」

 

紹運「お前は分かったのか? 宗茂?」

 

宗茂「え〜とぉ………多分と……しか………」

 

紹運「なら申してみよ! お前の母の事だから、お前が言うのが筋だ!」

 

宗茂「そ、それなら、失礼しまして……コホン」

 

………宗茂は、改まり推測を説明する。

 

『我が道雪の名は、《道》に被さる《雪》と書きます。 

 

その意味を考えれば道に落ちた雪は、その場所に溶けるまで居続けます。 

 

それを踏まえれば、一度その御家に仕えれば、節度を持ち合わせ、他家に乗り換えせずに生涯仕えたよ!!………と読み説けれます!』

 

歳久、家久「──────!」

 

宗茂「ど、どうでしょうか!?」

 

紹運「正解だ! その意味合い通りだ!」

 

宗茂「良かった!!」

 

義弘「なるほど─────!」

 

義久「……………う〜ん?」

 

華琳「やはり……。 まったく貴女達といい道雪殿といい……。 颯馬の下には名将、勇将、知将と勢揃いしているのに。 もったいないわね……この大陸を制覇しても……まだ充分お釣りが来るのに………」 

 

義久「でもねぇ〜私達も何時か、帰らなきゃ行けない身だもの〜。 大陸の事は大陸の人に任せる〜! それが一番じゃないかしらぁ〜?」

 

華琳「ふふふっ………確かにね。 仕事を途中で帰られたら、私達ではどうしようもない! それに、私達が原因の大陸争乱に、何時までも御遣いサマの力を借りたままでは、シャクで仕方が無いわよ!」

 

華琳は溜め息をつき、気分を切り換えし……別の話を始めた!

 

華琳「しかし……大丈夫なの? 二万の兵を率いて数倍の敵に挑むなんて! 幾ら彼らを使える兵に変えたと言えど、数の差は歴然!! 春蘭や麗羽が援軍に向かっているけど………!?」

 

歳久「……ハッキリと言いますが……愚問です! 立花道雪……あの将は敵に回すと恐ろしいですが、味方になれば……これほど頼もしい者はいません!」

 

義弘「散々酷い目にあったもんねぇ〜!」

 

紹運「私達の自慢の義姉上だからな! まぁ……あの義姉上が、世に恐れるモノなど三つしか無い筈だが……」

 

華琳「────! 教えなさい! 是非聞きたいわ!!」

 

歳久「僭越ながら………聞きたいですね?」

 

全員の好奇の目が………高橋紹運に注がれる! 

 

紹運「三つの内、一つしか言えん! 『私達家族を失う事』だ!」

 

『な〜んだ!』と言う空気と『頑張らなければぁ!』と燃える闘魂に分かれる。 多数と一人と言う……かなり差がある結果だが。

 

紹運は……その後、貝のように口を閉ざし……どんなに請われても……何も言う事はなかった。

 

ーーーーー

 

その後、持ち場に戻る途中……紹運はブツブツと呟く。

 

紹運『───言えるかぁ! 弱みが『雷』と『颯馬に嫌われる事』を心配しているなんてぇぇ!! そんな乙女らしい理由だと知られ、私が漏らしたとバレたらぁ…………義姉上からの強烈無比の罰があぁぁぁ!!!』ガタン!

 

宗茂「………………………?」

 

傍に……頭を抱えて仰け反り、声無き叫びを上げる姉を……不思議そうに見る宗茂があったとさ。

 

 

◆◇◆

 

【 斗詩の話 の件 】

 

? 徐州 下? 曹操軍陣営 にて ?

 

 

華琳『貴女に………一刀を任せたいの………』

 

は……始め聞いた時! 思わず慌ててしまいましたぁ!!

 

北郷さん……ううぅん! 一刀さんを私に預ける? 

 

まさかっ────麗羽様に譲られる!? ウソォ! 麗羽様の幸運力が、ここで出て来たのぉ? そんなぁ! そんなぁぁ!!

 

……なんてぇ……考えてしまいました。 

 

ホント………黒歴史になっちゃうぐらいの妄想でした。

 

ーーーーー

 

華琳「……一刀の看病をお願いしたいのよ……」

 

斗詩「………どうして……ですか? 華琳様……だって……」

 

華琳「…………………」クルッ

 

華琳様は、私に背を向けて話す。

 

華琳「………私は、この軍の責を担う者! たかが……将の一人が……愚かにもぉ自分の不始末で倒れただけ! だから、私が……『華琳』が行く訳には行かないのよ! 『曹孟徳』として、この場で皆を見守らなければ!!」

 

時折……声が掠れたり、身体が小刻みに震える。 何時もは巨大に見える背中も……等身大の女の子のように小さく見えた。 

 

本当は……今すぐにでも駆けつけたいのに……行けない苛立ちが垣間見える。

 

そして……私の方に振り返り……目に涙を溜め……私に願った。

 

華琳「貴女は、麗羽と同じ一刀直属の配下。 私の命に従う義理は無いわ。 だから……お願いしたいの! 一刀の看病を専属でお願いしたいのよ!」 

 

私の……淡い恋心がズキッと痛んだ。 

 

一刀さんは、多くの将達に好意を寄せられる方。 他にも……多くの将の顔が浮かぶ。 あぁ〜! とんでもない人を好きになちゃったなぁ………。

 

華琳「………私の身体は…一つだけ。 だから……貴女に『華琳』の心を託すわ! これを………受け取って貰いたい!」

 

そっと………近寄られると、私の手に赤い布が渡された。

 

華琳「私が一刀から贈られた物。 肌身離さず持っていたけど……これなら一刀が、私だと気付いてくれるわ。 これを一刀の腕に巻き付けて置いて……」

 

斗詩「…………失礼………致します」

 

私は、恭しく頂いて華琳様の居た天幕より下がった。 

 

今も耳元に残る華琳様の声。 天幕の中から漏れ聞こえる『本音の声』が。

 

ーーーーー

 

華琳「一刀…一刀……一刀! 馬鹿ぁ! 馬鹿ぁぁ!! 大馬鹿ぁぁぁ!!」

 

声を落として、天幕から人払いまでさせて………ようやく……本音が吐き出せる覇王様。 心に溜まっていた言葉は……まだ終わらない。

 

華琳「………戦いで亡くなった者達を悼むのはいいわ! だけど……どうして……残される者達の事を気に留めないの!! 馬鹿ぁ───!!!」 

 

華琳様の声は……少しずつ大きくなっていく。 

 

華琳「このまま一刀が居なくなってしまったら……私は、『華琳』は、どうすればいいのよ!? 貴方を愛した『華琳』は……また一人で居なくてはならないの!? また、孤独なままで……居続けなくてはならないのぉ!?」

 

私は、ゆっくりとその場を離れた!

 

華琳「一刀おぉ────!!!」

 

ーーーーー

 

? 徐州 下? 曹操軍負傷者収容所 にて ?

 

負傷者の皆さんが収容されている天幕に到着。

 

この収容場所は、川岸よりも離れているため、戦乱の影響は無いはず。

 

朱里ちゃん、雛里ちゃんに事情を説明して、一刀さんの天幕を案内して貰ったんだけど………。

 

朱里ちゃん、雛里ちゃんは元より、流琉ちゃんにまでジト目で睨まれちゃいました。 うん、気持ちは分かる……分かるけど華琳様からの直接なんだからね? 私は悪くないんだよ……うん、絶対。

 

一刀さんは、一人用の天幕に入り、寝台の上で……気持ちよく寝ている。

 

一刀「み、水………」

 

ヒャアァ! ね、寝顔を覗き見していたら……そんな声が……!

 

き、聞こえてないですよね? ………うん、大丈夫。

 

辺りで水差しを探したけど、入れ物さえも無いため……お椀を借りて一杯用意したんだけど…………。 どう……飲ませよう………はっ!?

 

ま、まさか……口移しで行えと………!!

 

だ、誰も居ないよね………? ドキドキ ドキドキ

 

うん、居ない………で、ではっ! 

 

────んっ!   ゴクッ! ゴクッ!

 

ーーーーーー

 

あっ……あはははっ! しちゃた! 一刀さんに口移し!!

 

火照る顔を覚ましながら……桶の水を換えに出掛ける私。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

しかし……一刀さんから離れるにつれ、私の頭は冷静になる。

 

私は……困惑した。

 

華琳様の『想い』も……私の『想い』も……同じモノ。

 

どうすれば………いいの? 

 

一刀さんが……もし、目を覚ました時に……最初に見るモノは?

 

華琳様は、私の上司では無いから……深く考えなくてもいい。 この布を巻いて、私が献身的に看護をすれば、それで良いのかもしれない。

 

でも、女の戦いに情けは無用! このまま処分………いえ、そんな事をすれば犯人は誰だか直ぐに分かるだろう………。

 

私は………どうすればいいの?

 

 

 

『簡単な事ですよ……殺してしまえばいい。 殺して貴女の者にすれば、誰も奪われる事もない………くくくくくっ!』

 

 

 

斗詩「えぇっ!?」

 

そこには、誰も居なかったはず!?

 

 

 

 

私は、慌てて向くと………白い道士服を着用し眼鏡を掛けた少年………。

 

私を見ると……ニヤリと笑い………!

 

 

 

 

つまり……一刀さんより聞いていた『男好きの変態メガネ』が、こちらを向いて───笑いながら佇んでいたんですぅ!! 誰かぁ 助けてぇ!!!

 

 

 

于吉「ちょっ───! そこは、カッコ良く終わるのが定番でしょうに! えっ? これで……終わりなんですか!? そんなぁぁぁ!!!」

 

 

ーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

この話も100話に突入したそうで……ご支援ありがとうございます。

 

たまたま、休みをもらったので……早速ながら書いて投稿をいたしました。

 

物語は、徐々に終わりに向かっております。 

 

次回こそは、遅れると思いますねで、宜しくお願いします!

 

説明
義輝記の続編です。 よろしければ読んで下さい。
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コメント
じっくり読もうとしたのが、まずかったですかね……。 ありがとうございます。(いた)
↓お気になさらず!!(禁玉⇒金球)
禁玉⇒金球様 三度も折角のコメント消してしまい申し訳ありません! 普通に読み返していたら、画面が入れ替わって消えてしまいました。 ごめんなさい!!(いた)
mokiti1976-2010様 祝いとコメントありがとうございます! 流石にそれは……(笑)  何気なく出てきたようですが、もの凄く重要な役を果たす役なので……。(いた)
naku様 再コメントありがとうございます! 多分……スマホに宣伝で浮かぶ三国志でしょうか? この作品は全部スマホで入力するので、よく出てくるんですよ。 三極姫は、懐かしさと……次回はコレで……とか考えています。 ホントに書くか分かりませんが。 (いた)
百話目おめでとうございます。とりあえず斗詩さんが于吉を瞬殺してそのまま一刀と共に逐電(当然一刀がいなくなる理由は于吉のせいにして)という話は…無理があり過ぎですね。(mokiti1976-2010)
褒め言葉が多くて恐縮です。 一番最初に貰ったコメントが批判でしたので……感慨深いものです。 最終話が終われば……久しぶりに三極姫でもプレイしたいと思ってます。(いた)
禁玉⇒金球様 コメントありがとうございます! 操作を誤って消したため再度記入を! 禁玉⇒金球様のコメントには色々考える事柄が多く、物語の方向に多大に寄与されました。 ありがとうございます! これからも宜しくお願いします!(いた)
Jack Tlam様 祝いの言葉ありがとうございます! まさか……此処までになるとは……全然考えてなかったんですけどねぇ。 最終話まで何とか終わらせます。(いた)
通算百話目おめでとうございます、安易な所謂分かりやすい『悪役や悪者』を出さない、更に安直な一刀擁護がないこの作品が好きで長々とコメントさせて頂き、丁寧な返信も頂き感謝に絶えません、今後も応援させて頂きます。 (禁玉⇒金球)
あ、そうでした!100話目おめでとうございます!(Jack Tlam)
于吉は決戦での重要キャラなんですが……扱いが……。 一刀の看病を他の人に頼みと……バッドエンドしか浮かびません。 道雪としては……とても恥ずかしくあり、怖い物であります。(いた)
Jack Tlam様 コメントありがとうございます! 活躍する将の目指す物がどこを見ているのか……大事な話です。 これでは『ゴメンナサイ』と謝罪されるのは当然です。 人に親切にされれば恩を返したいモノ。 ただ、その恩義の方向が間違っていただけなんですよね。(いた)
戦の決戦はまだ前哨戦なんですが……この戦と周辺の騒動が終われば……決戦です。 于吉「何故……私がこんなハメに………はっ!?」  風「将を射んと欲すれば……先ず于吉を射よ〜です!」ニヤッ(いた)
道雪の苦手なもの、いいじゃないですか女の子だもの。一刀の看病はある程度医術の心得があるであろう人物が良いですが、斗詩に任せるのには色々とメリットはあります。恋愛はともかくとしてね。取り敢えず、辛いのはともかく嫉妬の感情は戦闘終了までしまっておきましょう。そして于吉、またしても哀れ。(Jack Tlam)
naku様 コメント&祝いの言葉ありがとうございます! 一刀の看病できる人材の方が……何故か少ない曹操軍。 曹操軍としての縛りが無く、無難な人材というと斗詩しかいません。 皆役持ちですしね。 身体に不自由ある人でも戦えるやり方がある……んでしょうね。(いた)
何を以てもったいないとするかは個人の自由。それを他人が言うのは人間関係の中では拙い。彼らは故郷に帰るために全力で戦っているのだから、気持ちはわかるがそれを華琳がもったいないと評することはできない。一刀は……確かにその行動は理屈の上では拙かった。でもね……彼はたった一人この世界に放り出されたんですよ……。(Jack Tlam)
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