人和の夢、四人の夢
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昔使っていた小さな事務所の中で私はぼんやりと時間を過ごしていた。

 

ふと外を見ると、夕陽の紅があたりの木々を照らしている。

 

「~♪」

 

なんだかあの日の夕焼けのようで、私は気分がよくなっていた。

 

あの日。一刀さんと初めて結ばれた日。

 

先に帰ってもらった一刀さんの温もりを感じながら帰る、新しい事務所までの道を照らしていた夕焼け。

 

なんだか、一刀さんみたいにあったかくて、それから私は夕焼けが好きになった。

 

「一刀さんたち・・・・まだ帰ってこないのかな・・・・・。」

 

蜀と最後の戦いに行った華琳様たちが、見事に蜀を破って、三国による平和体制が成立したという伝令が来たのは昨日のこと。

 

「そろそろ帰らなきゃ・・・・」

 

物思いにふけっていると、辺りが暗くなりはじめていた。

 

ガチャっ

 

私は静かに扉を開けて外に出た。

 

空を見上げると、辺りを紅に染めていた夕日が、山の陰に沈みかけていた。

 

「早く帰ってきてね。一刀さん・・・・・」

 

沈みゆく夕陽を見上げて、私は愛しい人の名前を呼んだ。

 

 

「れんほーちゃん、遅いよー。」

 

「そうだ。そうだ。人和、遅い!」

 

事務所に帰ると姉さんたちがそう言ってむくれていた。

 

「・・・・どうかしたの?」

 

姉さんたちが何にむくれているのか分からなかったから、私はそう聞き返した。

 

「また三人で一刀を襲う時のために、作戦会議をしようと思ってたのに、人和がちっとも帰ってこないから、始められなかったじゃない!」

 

ちぃ姉さんがぷりぷり怒りながらそう言うと、天和姉さんも「そーだ。そーだ。」と言って怒っていた。

 

「・・・はぁ。・・・・・ふふ。」

 

二人の発言に少し眩暈を覚えたけど、なんだかこれもあの人がくれた幸せなのかなって思うと、少しうれしくなって、私は笑っていた。

 

「れんほーちゃん?何笑ってるの??」

 

天和姉さんがそう不思議そうに聞いてくると、

 

「何なに??人和ったら何かいい考えが思いついたの??」

 

と、ちぃ姉さんもニヤニヤしながら聞いてきた。

 

「・・・そんなことはどうでもいいけど、姉さんたち。応援してくれる人から届いた手紙、ちゃんと読んだの??」

 

内心。姉さんたちが言っていた作戦会議もいいかなって思ったけど、次の公演の時までに手紙を読んでおいて貰わないと、舞台の上での発言にも影響が出てしまう。

自分の送った手紙の内容が、少しでも話の中に出れば、その人は私たちを応援してくれる人として定着してくれる可能性が上がる。

華琳様のおかげもあって、もうかなりの大舞台での公演もできているけど、こうした草の根の努力も惜しんじゃいけない。

 

「えっ・・・・・え〜と〜・・・・、それは〜・・・・」

 

姉さんたちは、目をきょろきょろさせながら、いい訳を始めた。

 

「さっき姉さんたちが言ってた作戦会議をするのはいいけど、ちゃんと手紙を読み終えてからね。」

 

私がそう言うと、姉さんたちは頭を抱えながら、自分たちの机に戻っていった。

 

「・・・・ふふ。」

 

そんな様子を見ながら、また私は少し笑った。

外を見ると、夕日はすっかり沈み、欠けた月があたりを照らしていた。

 

「・・・・早く帰ってこないかな。」

 

そう呟く私の声は、頭を抱えながら手紙を読んでいる姉さんたちの呻き声の中に消えていった。

 

「うぅー。終わらないよぉー。」

 

「ちぃ、もう頭痛ーい。」

 

 

華琳様たちが帰って来たのは、そんなことがあった日から数日後だった。

 

 

 

「張角様、張宝様、張梁様。曹操様がお呼びです。至急、王城までおこし願います。」

 

そう伝える兵が私たちの事務所を訪れたのは、華琳様たちが帰ってきた次の日のことだった。

 

「華琳様が?何かしら、次の公演の打ち合わせはもう済んでいる筈だけど・・・・」

 

私は少し考えこんだ。

 

「きっと、大陸統一のお祝よ!ちぃたちも協力してたから、ご褒美がもらえるんだわ!!」

 

そうちぃ姉さんは言っていたけど、私はなぜか不安な気持ちを感じていた。

 

「それにー。一刀も会いに来てくれないからー。こっちから襲いに行っちゃお?」

 

「賛成!一刀のやつをちぃの魅力でメロメロにして、帰って来た時に挨拶に来なかったことを後悔させてやるんだから!」

 

ワイワイ言いながら出かける準備をしている姉さんたちを見て、私は自分が考えている不安が、きっと思いすごしなんだと、そう思おうとしていた。

 

「姉さんたち。華琳様から至急来るようにって言われてるんだから、早く出発するわよ。」

 

そう言う私の言葉も気にせず、姉さんたちは一刀さんをメロメロにする服だと言って、あれやこれや服を手にとって、楽しそうに笑っていた。

 

「・・・・まったく。・・・・・ふふ。」

 

そんな様子に、私も少し楽しくなって、もうすぐ会えるだろう一刀さんのことを考えて少し笑った。

 

 

 

「一刀は天に帰ったわ・・・。」

 

王城につくと、暗い表情をした華琳様からそう言われた。

 

「「・・・・・・・・・・・・・。」」

 

「う・・・・・そ。」

 

ちぃ姉さんと私が何も言えずにいると、天和姉さんが、そう呟いた。

 

 

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「そ、そうよ!嘘なんでしょ!?みんなでちぃたちをびっくりさせようとしてるのなんて、お見通しなんだから!!さぁ!もうばれてるんだから、一刀も出てきなさいよ!!」

 

ちぃ姉さんがそう言いながら、辺りを見回すと、周りにいた将の人たちがみんな暗い顔をして、視線を伏せた。

 

「ちょ、ちょっと・・・もうばれてるって言ってるでしょ!?早く一刀を出しなさいよ!!」

 

ちぃ姉さんはそう言うと、将の人たちの後ろや、柱の影を探し始めた。

 

「「・・・・・・・。」」

 

私と天和姉さんは、じっと黙ったまま、その場に立ち尽くしていた。

 

「どこにも居ないじゃない!!・・・・・・さてはそこの後ろに隠してるんでしょ!!」

 

辺りを探し終えたちぃ姉さんは、そう言うと、華琳様が座る玉座への階段を登りはじめた。

 

「おい!貴様!!」

 

夏侯惇将軍の声が、ちぃ姉さんを止めようとしたけど、ちぃ姉さんはそれにかまわず階段を登り、華琳様もそれをじっと見つめていた。

 

「・・・・・さぁ!一刀を出しなさいよ!!」

 

階段を登りきったちぃ姉さんは、玉座に座る華琳様を見下ろして、そう言った。

 

「・・・・・もう。ここにはいないわ。」

 

華琳様はちぃ姉さんから視線をそらすことなく、静かにそう答えた。

 

「いいから一刀を出してよ!!!!!!」

 

「!!!」

 

ちぃ姉さんの声が、その場に木霊した。

 

「出してよ・・・・一刀を・・・・出してよぉ・・・・・」

 

ドサッ

 

ちぃ姉さんがその場に崩れ落ちると、先ほどの叫びが木霊した広間に、すすり泣く声が響いた。

 

「もう・・・・・いないのよ・・・・・」

 

華琳様の声が、いつもの覇気に包まれたピンっと張りつめたような美しい声ではなく、震えているように聞こえた。

 

「・・・・・・・。」

 

華琳様の声から、そのことが事実であると改めて認識した私は、言葉を発することができなかった。

 

すると、天和姉さんが静かに前に進み出て頭を下げた。

 

「・・・・・華琳様。妹の無礼をお許しください。気が動転しているんです。今日の所は一旦帰りたいのですが、よろしいですか?」

 

今まで見たことのない。真剣な表情で天和姉さんはそう言った。

 

「・・・・・えぇ。3人とも、今日の所は帰りなさい。」

 

華琳様はそう言うと、玉座を降り、夏侯両将軍などを引き連れて広間を出て行った。

 

「・・・・れんほーちゃん。ちぃちゃんを連れて、帰ろ。」

 

その様子を見送った後、天和姉さんは静かにそう言って、まだ泣き崩れたままのちぃ姉さんの所まで行き、その手を引いてゆっくりと階段を降りると、私の方を向いて少し微笑んだ。

 

「・・・・・行こ。」

 

その微笑みはいつもの、明るい微笑みでなく、悲しみを抑え込んで無理やりつくっている微笑みのようで、私は胸が締め付けられた。

 

「・・・・・うん。」

 

そう頷いた私は、ちぃ姉さんの空いている手を握って、ゆっくり歩きはじめた。

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

事務所につくまで、私たちはそのまま黙って歩いた。

 

 

 

 

ガチャン

 

事務所の扉を閉めると、姉さんたちは自分の椅子に座り、ずっと黙り込んでいた。

 

ただ何も言わず、ずっと黙り込んでいる姉さんたちを見ていると、ふと壁に貼ってある少し汚い字が見えた。

 

<目指せ。大陸制覇!!>

 

城壁の上から、それまでで一番大きな公演をやってからしばらくして、一刀さんが書いてくれた私たちの目標。

 

 

私たち姉妹はずっとそれを目指して頑張ってきた。その思いを十分に分かってくれていた一刀さんが、一生懸命書いてくれたその文字。

 

「なんでそんな汚い字の書を張らなきゃいけないのよ!」

 

と言いながら、とてもうれしそうなちぃ姉さんが、壁に貼ったその書。

 

「でもでもー。一刀らしくて、お姉ちゃん、いいと思うなー。」

 

そう笑いながら、天和姉さんがその字を指でなぞっていた書。

 

 

(私たちには、やらなきゃいけないことがある!)

 

一刀さんの字を見て、私はそう思った。

 

「・・・・・姉さんたち。次の公演のことだけど・・・・・。」

 

(一刀さんが私たちと一緒に見てた夢を叶えるために、一刀さんの書いてくれた目標を実現するために・・・・・)

 

いなくなってしまった愛しい人の面影をおって、私は仕事をしようと思った。

 

華琳様は「天に帰った」って言ってた。

 

なら、またいつかこっちに帰ってくるかもしれない!

その時に、私たちが頑張ったことを褒めてもらえるように、頑張ろう!

 

そう思わないと私の心は潰れてしまいそうだった。

 

そう思うことで、触りたくない現実から逃げられるような気がした。

 

 

「・・・・・・っさい・・・・。」

 

ちぃ姉さんの小さな声が、かすかに聞こえた。

 

「・・・え?」

 

よく聞き取れなかった私は、そう聞き返した。

 

「・・・・うるさいのよ!!なんで一刀が居なくなったのに、仕事の話をしなきゃいけないのよ!!なんで、姉さんも人和もそんなに平気な顔でいられるの!?二人とも一刀のこと好きだったんじゃないの!!?なんで、何もなかったかのように平気でいられるのよ!!!」

 

「平気でなんか居られるわけないじゃない!!!!!」

 

ちぃ姉さんの言葉に、さっきまで胸の奥に隠そうとしていた気持ちが、あふれ出した。

 

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「平気なわけないでしょ!!私だって一刀さんがいなくなったって聞いて泣きたかった!でも、泣いたって一刀さんが帰ってくる訳じゃないじゃない!!私たちがいくら泣いても一刀さんは帰ってこないし、どんなに叫んでも、また一刀さんに抱きしめてもらえないの!!!」

 

もう、止まらなかった。

目からは、熱いものがあふれ出ていた。

 

「一刀さんはもういないの!それでも私たちは進まなきゃいけないの!一刀さんが一緒に見てた夢をかなえなきゃいけないの!!」

 

私は一刀さんの書いてくれた書を指さした。

 

「私たちの夢を叶えるの!!一刀さんが帰ってきたら喜んでくれるように、頑張るしかないの!!!!」

 

「どんなに頑張っても、喜んでくれる一刀が帰って来てくれる保証なんてどこにもないじゃない!!!!」

 

私の言葉に、ちぃ姉さんがそういい返した。

 

「それでも・・・・・頑張らなきゃ・・・いけないのよ・・・・」

 

ちぃ姉さんの言葉に、そうとしか答えられなかった。

 

「・・・・・・・少し、出てくるわ。」

 

それ以上、その場に居られなくなった私は、事務所を出た。

 

 

「・・・・・・・」

 

外に出た私は、どこに行くでもなく、町を歩いていた。

 

「一刀さん・・・・・」

 

先ほどのちぃ姉さんとの言いあいで、私につきつけられた現実。

 

どんなに私が願っても、その思いが叶う確証なんてどこにもない。

 

むしろ、どんなに頑張っても一刀さんが帰ってこないことの方が、きっと確率が高い。

 

ちぃ姉さんが言っていた通り、どんなに頑張っても、その先に一刀さんがいる保証なんてどこにもない。

 

「・・・・・」

 

ふと気付くと、私は昔の事務所の前に来ていた。

 

 

 

ガチャ・・・・

 

静かに扉を開けると、部屋の中のすこし埃っぽい様な、懐かしい空気が私を包み込んだ。

 

(あぁ・・・・一刀さん・・・・)

 

その懐かしい空気に、私は吸い込まれるように事務所の中に入った。

 

・・・・パタン

 

静かに扉を静かに閉めて、私は一刀さんと初めて繋がった床の上に腰をおろした。

 

「・・・・・・・」

 

そっと床を撫でると、昼間の日差しで温められた床が、ほんのりと私の指を温めた。

 

あの日の喜びと恥ずかしさが、ふっと蘇って来た。

 

でも、そのすぐ後に、一刀さんをなくしてしまった悲しみが私を襲った。

 

外から夕日が差し込み、小屋の中を照らした。

 

・・・・・ガチャ

 

静かに扉が開いた。

 

「・・・・一刀さん!?」

 

私は思わず、そう呼んだ。

 

でも、入ってきたのは一刀さんではなかった。

 

「れんほーちゃん・・・・・・。」

 

そう言って天和姉さんは静かに小屋に入ると、そっと扉を閉めた。

 

「・・・・・」

 

淡い期待をしていた私は、少しうつむいて、床に視線を戻した。

 

「・・・・・」

 

そうしている私を見つめた後、姉さんは静かに私の方へ歩いてきて、そっと床に腰をおろした。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

沈黙が二人を包んだ。

 

小屋の中を照らしていた夕日が、だんだんと弱くなっていた。

 

「れんほーちゃんは、ここで初めて一刀と繋がったんだよね・・・・・・」

 

そうやさしく言った天和姉さんは、そっと床を撫でていた。

 

「・・・・・・うん。」

 

私は静かにうなずいた。

 

「一刀はやさしかった?」

 

「・・・・・・・うん。」

 

姉さんの質問に私は、またうなずきで答えた。

 

「やさしいよね。三人で押しかけた時も、全然怒らなかったもんね。」

 

天和姉さんは少し笑いながら、そう言った。

 

「・・・・・・・・うん。」

 

「おねぇちゃんも、一刀のそんなとこ、好きだったんだよ。」

 

「・・・・・・・うん。」

 

「れんほーちゃんは一刀のどんなところが好きだったの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

姉さんの言葉に、私は少し黙った。

 

「・・・・・・・」

 

姉さんも私の答えを待って、黙っていた。

 

「一刀さんの底抜けにやさしいところ・・・・・」

 

私は少しずつ、一刀さんの好きなところは言いはじめた。

 

「ただの種馬かと思ったら、ちゃんと仕事もできるところ・・・」

 

私の言葉一つ一つに、姉さんは静かにうなずいて答えていた。

 

「抜けていそうで、実はしっかりしてる・・・・・・ところ・・・・」

 

私は、少し言葉を詰まらせながら続けた。

 

「いつもは・・・・ちゃんとわかってくれるのに・・・・肝心な時に・・・・人の気持ちに・・・・鈍感な・・・・・ところ・・・・・」

 

涙が、あふれて来た。

 

「でも・・・・ちゃんと・・・・人の・・・・・・、人のことを・・・・・気遣ってくれる・・・ところ・・・・・」

 

あふれて、あふれて、止まらなかった。

 

「それから・・・・・・それから・・・・・・・」

 

まだまだ言っていない、一刀さんの好きな所を。あふれてくる一刀さんへの思いを。どうにか言葉にしようと、私は言葉を探した。

 

「・・・・・それから?」

 

そう言いながら、天和姉さんが静かに私を抱きしめた。

 

「それから・・・・・それ・・・・から・・・・・・」

 

抱きしめられた温もりに、私の中で気持ちを押しとどめていた堰が壊れた。

 

「そ、それ・・・・から・・・・・う・・・・・うぅ・・・・うぁぁああぁぁぁ!!」

 

姉さんは、泣き叫ぶ私の頭をやさしくなでた。

 

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「全部!・・・・ぜんぶ好きだった!!・・・・ぜんぶ・・・・好きだったのにっ!・・・・」

 

「・・・・うん。」

 

「それなのに・・・・ぜんぶ好きだったのに・・・・なんで、・・・・なんで・・・・・いなくなっちゃったの・・・・・っ!!」

 

私は天和姉さんの胸を叩いた。

 

「あんなに楽しそうに笑ってたのに!私たちの夢が叶うのが楽しみだって、言ってくれてたのにっ!!」

 

天和姉さんは、そうして泣き叫ぶ私を抱きしめたまま、ずっと私の頭を撫でてくれていた。

 

「ずっと一緒に居られるって思ってたのに・・・・一緒に喜んでくれるって、・・・・思ってたのに・・・・。」

 

あふれる思いと涙に、私は愛しい人の名前を呼んだ。

 

「一刀さん・・・・かずと・・・・さん・・・・」

 

もう言葉が出てこなかった。

 

「うぅ・・・・。」

 

涙があふれるたけで、声が出なかった。

 

「・・・・おねぇちゃんも一刀のこと、大好きだったよ。もちろん、ちぃちゃんも・・・・ね。」

 

泣き続ける私に、天和姉さんが静かに語りかけた。

 

「だから、ちぃちゃんはあんなに怒ったの。大好きな一刀がどっかに行っちゃんたんだもん。」

 

静かに、やさしく、天和姉さんはつづけた。

 

「けど、れんほーちゃんも一刀のこと大好きなんだよね?だから、一生懸命頑張ろうと思ったんだよね?」

 

自分が逃げ出そうとした現実。その受け止め方が私と違ったちぃ姉さん。

 

そんな私たちのことをしっかり見つめていた天和姉さん。

 

「ちぃちゃんは、悲しくて悲しくて泣いてたけど、いつまでもそのままじゃ駄目だよね。でもね。れんほーちゃんみたいに、ずっと頑張ろうとしてもいつかは疲れちゃうよ?」

 

姉さんは、頭を撫でていた手をそっと背中におくと、ゆっくりさすってくれた。

 

「だから、今日はいっぱい泣いちゃお?ちぃちゃんも、おねぇちゃんも一緒に泣くから。それで、いっぱい泣いて、それから頑張ろ?ね??」

 

姉さんはそう静かに言うと、私の手をとった。

 

「さ。ちぃちゃんの所にもどろ。」

 

顔をあげると、少し涙を目にためた天和姉さんが、そっと微笑んでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・・うん。」

 

姉さんに手を引かれながら、私たちはちぃ姉さんのいる新しい事務所に戻った。

 

 

事務所に戻るとちぃ姉さんが私たちを待っていた。

 

「・・・・ごめん。言い過ぎたわ・・・・」

 

と私に言ったちぃ姉さんに抱きついて、私は泣いた。

 

ちぃ姉さんも涙を流すと、天和姉さんも私たちを抱きしめて、私たちは三人で泣いた。

 

その日は、そのまま三人で泣いたまま、疲れて眠るまで、抱き合っていた。

 

 

 

次の日、朝起きた私たちは三人でご飯を食べに行き、そのあとみんなで次の公演の計画を練った。

 

いつもは私だけで考える公演の計画を3人で考えるのは、どこかくすぐったいけど、それでも初めて舞台に立った時みたいで、楽しかった。

 

「次の公演で、大陸全制覇への勢いをつけるわよ!!」

 

と気合いを入れたちぃ姉さんが、無茶な演出を言いだしたり、

 

「おねぇちゃん、おなかすいたなー。」

 

と天和姉さんが駄々をこね始めたり、私としてはいつもより仕事が多くて大変だったけど、楽しかった。

 

「・・・・・姉さんたち、後は私がやるから、新しい曲の練習してて。」

 

と最終的にはいつもの様に私が全部考えることになったのも、私たちらしいと思った。

 

「はーい。」

 

「わかったわ!」

 

そう言って外に出て行った姉さんたちを見送ったあと。私は壁に飾ってある、一刀さんの書を見た。

 

「・・・これが私たちらしいわよね。一刀さん。」

 

そう呟いた私は、すこしおかしくなって笑った。そのあと、仕事に取り掛かった。

 

 

 

「華琳様!」

 

町を歩く華琳様を見つけて私は声をかけた。

 

一刀さんがいなくなってから数年が過ぎ、その日私たちは大陸制覇公演を前に、三国の王たちが集まる「立食ぱーてぃー」のために公演の準備をしていた。

 

「人和。今晩の準備は大丈夫?」

 

その質問に「おまかせください」と答えると、華琳様は

 

「ええ。なら、楽しみにしているわね」

 

と言って、城の方へと歩いて行った。

 

(一刀さんがいなくなって、もうずいぶん経つのね・・・・・)

 

華琳様の後ろ姿を見ながら、私はふとそんなことを思った。

 

「れんほーちゃーん!買い物、おわったよー」

 

天和姉さんの声に呼び戻されて、私たちは設営の準備に移った。

 

 

 

「みんな大好きー!」

 

「「「「「てんほーちゃーーーーん!!!!」」」」」

 

「みんなの妹」

 

「「「「「ちーほーちゃーーーーん!!!!」」」」」

 

「とっても可愛い」

 

「「「「「れんほーちゃーーーーん!!!!」」」」」

 

いつもの掛声とともに私たちの公演は始まった。

 

「数え役満☆姉妹の大陸全制覇前夜公演、はじまるよー!」

 

「みんな、最後まで楽しんで行ってねー!」

 

「「「「「おぉーーーーーーーー!!!」」」」」

 

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天和姉さんとちぃ姉さんの声で、観客の興奮もどんどん上がり、私たちは歌い始めた。

 

(ねぇ、一刀さん。私たち、あれから頑張ったのよ?)

 

観客の熱気が私たちを包み、形容のしようのない、独特の雰囲気が会場を包み込んだ。

 

(あれから、一刀さんの知らない曲も結構増えた。それに、いろんな衣装も増えたわ。)

 

私たちの歌で会場が一つになり、興奮が最高潮を迎えようとしていた。

 

(それに、今度、念願の大陸全制覇公演もできるわ。だから・・・・)

 

「「「「「「ほぉわぁぁぁぁーーーー!!!!!」」」」」

 

私たちが歌い終わった瞬間に、観声が上がった。

 

(だから、早く帰ってきてね。一刀さん・・・・)

 

私がそう思って夜空を見上げると、一筋の流星が、会場近くの森へと落ちていくのが見えた。

 

「!!!!」

 

ガタッ!!!

 

その流星が落ちるとともに、華琳様たちが一斉に立ち上がり、急いで会場を離れていった。

 

(・・・・・帰って・・・・来たんだね・・・・)

 

ふとそう思っていると、姉さんたちが私の手を握った。

 

私たちは三人で目を見合わせた。

 

「「「・・・・・・(コクン)」」」

 

そうして、無言のまま頷くと、天和姉さんが会場に向かって話しかけた。

 

「みんなー。どうもありがとー!今日はとっても楽しかったよー!」

 

「「「「「ほわぁぁーーーー!!!!!」」」」」

 

天和姉さんの言葉に観客が答える。

 

「それで、最後にちぃたちからみんなに、お願いがあるの。聞いてくれるー?」

 

「「「「「ほわぁぁあぁーーーーー!!!」」」」」

 

ちぃ姉さんの質問に帰ってくる歓声。

 

「最後に、1曲だけ。みんなの前で歌わしてほしいの!」

 

「「「「「ほわぁぁぁーーーーー!!!!」」」」」

 

私の言葉に答える観客の声が響き渡る。

 

三人で決めた約束。

 

一刀さんが帰ってきたら、歌おうって決めた約束の曲。

 

「それじゃ。いっくよー!!」

 

ちぃ姉さんの掛け声で私たちはその曲を歌い始めた。

 

「「「〜♪」」」

 

(・・・・・一刀さん。聞こえてますか?)

 

 

流星が落ちた森の方を見つめながら、私たちは歌った。

 

 

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あとがき

 

どうもkomanariです。

 

前作に多くのコメント&支援をくださった皆様。ありがとうございました。

 

魏、ということで今回は人和のお話を書かせていただきました。

 

前回多くのリクエストをいただいたのですが、それにお答えできなくてすみませんでした。

 

またいつか、お答え出来ればっと思っています。

 

さて、まえがきにも書きましたが、文才の何に打ちひしがれながら書いた今作品。

 

皆様のご期待に添えましたでしょうか?

 

なんと言いますか、もしご期待に添えていなくても、不快感を与えていないことだけを願っています。

 

次は、誰を書くかまだ決まっていませんが、次の作品でお会いできることを楽しみにしております。

 

今回は、僕の作品を読んでいただき、ありがとうございました。

説明
今回は魏ということで、人和のお話です。

即出だったらごめんなさい。

なんと言いますか、最近お話を書くごとに自分の文才のなさに打ちひしがれる僕ですが、それでも頑張って書きました。

今回も誤字・脱字などありましたら、ご指摘お願いします。
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コメント
future様>ご指摘ありがとうございます。その通りですね。修正いたしました。(komanari)
4ページ目>「・・・おなかすたなー。」は『い』が抜けているんではないでしょうか?(future)
BookWarm様>天和は三姉妹のお姉ちゃんですし、これくらいお姉ちゃんっぽいことしても大丈夫かな?って思いました。抜けている人がやる所ではやるっているのは、確かにあると思いますww(komanari)
竜我 雷様>お姉ちゃんですから、これくらいいいお姉ちゃんしてもいいかな?って思って書きましたw(komanari)
天和がお姉さんしる〜。いいお姉ちゃんが見れてよかったです。(竜我 雷)
ブックマン様>ありがとうございました。一刀は、どのルートであっても幸せ者だと思いますww(komanari)
いい話ですね。感動しました。一刀め、なんて幸せもなんだ(ブックマン)
マーサ様>ご指摘ありがとうございます。修正いたしました。申し訳ありませんでした。間違えちゃいけない所を間違えてしまいました(komanari)
1ページ目 地和の名前は張宝ですよね?(マーサ)
blue様>僕も人和好きなんです。キャラの再現率が高いだなんて、そんな嬉しいことを言っていただけて、僕は幸せです!!魏ENDはホントに切ないですよね(涙)。蒲公英ですね◎考えてみますw(komanari)
YUJI様>だ、誰か!YUJI様にティッシュを差し上げてくださいw!!素晴らしいコメントといただきまして、ありがとうございます!(komanari)
3姉妹の中では人和が好きです。死ぬかと思いました(切なくて)。3人ともキャラの再現率が高くて読んでて違和感が無いのが素敵。やっぱり残された人達のことを考えると魏ENDは悲し過ぎる! …次に蜀を書くときは蒲公英に清き一票を…(blue)
うぅぅぅ・・・ ティッシュを誰かティッシュを!! 鼻水が止まりません!!!(YUJI)
munimuni様>ありがとうございます!僕も自分で書いていながら、切なさを感じながら書いていましたw(komanari)
Poussiere様>誤字報告ありがとうございます。修正しました。だた、申し訳ないことに、ご指摘していただいた喋り方がごっちゃになっているところというのが、どこだかわかりませんでしたorz そんな感じでまだ不十分な作品ですが、人和の魅力を少しでも書けてようで、よかったです。(komanari)
では、感想に移りたいと思います。 とても心に残る作品でした。 ああ、やはり天和、地和よりも人和がいちb(マテコラ殴) と、これ以上言うと 天和、地和fanに殺されてしまうwww 次回も愉しみに待ってますね^^w(Poussiere)
取り敢えず、感想の前に 気になった点を言わせて頂きますね^^;(個人的に言いたくないけど) 張三姉妹の喋り方がごちゃごちゃになってる所が所々に^^; 例として人和がさんづけでなく、ちゃんづけで喋ってる所とか・・・・ね^^;(Poussiere)
脱字?発見 4ページ目 どこかくすぐったけど、それでも初めて舞台に立った時みたいで、楽しかった。  どこかくすぐったいけどの間違いかな?(Poussiere)
フィル様>僕も書いていて、地和もいい娘だなって思いましたw亞莎ですね。わかりました!(komanari)
toto様>ありがとうございます!作品を書いてよかったですw(komanari)
vogino様>キュンキュンしていただけてよかったですwいい作品なんて言って頂き、本当にありがとうございます!(komanari)
混沌様>あ、ありがとうございます!涙が止まらないなんて言っていただけて、ほんとに書いてよかったです!亞莎ですね。考えてみますw(komanari)
零壱式軽対選手誘導弾様>ありがとうございます!そう言っていただけて幸せです!! (komanari)
人和の話なのに、素直に必死な地和にキュンキュンしてしまったwww あと、リク言わせてもらえるなら呂蒙お願いします!(フィル)
よかったです^^ すごくいい話でした・・・・ww(toto)
胸がキュンキュンします・・・ 切なくも心温まる、とても良い作品でした!(vogino)
ほわぁぁぁ〜〜〜〜〜!メチャクチャ涙が止まらないよ〜〜〜〜〜! 続へn…げふんげふん、次は呉ですねwリク言わせてもらえるなら呂蒙(しぇ≠フ部分が出ない(汗)がいいなぁ…という妄想をw次回作も期待してますw(混沌)
(TT TT)感動ものじゃ〜〜〜 すごくいい話ですね!!!(零壱式軽対選手誘導弾)
ジュネス様>僕も人和好きなんですwひたむきな女の子に弱いのかも・・・。次回も頑張りたいと思います!!(komanari)
ルーデル様>いつもはほんわかしてるけど、やっぱり天和はお姉ちゃんなんだろうなーって思いであんな感じに書きました。アイドルだけど、それをやってるのは女の子、そう思いました!(komanari)
きりゅーのすけ様>ありがとうございます!張三姉妹の魅力を少しでも表せていたのなら、それだけで僕は嬉しいです。次もがんばります!(komanari)
ええ話や(T T) 改めて人和‥いいですなぁ^^b 次作も期待していますww(ジュネ)
やっぱ天和はおねーちゃんですな〜。ここぞというときは強い。張三姉妹は等身大の女の子って感じですな~(ルーデル)
投稿お疲れ様です。改めて張三姉妹の魅力に気付けました!次の作品も楽しみに待っています。(きりゅーのすけ)
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