「真・恋姫無双  君の隣に」 第33話
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「さようなら・・・・・、愛していたよ、華琳」

「一刀っ!」

跳ねる様に上半身を起こして目を覚ます。

月明かりが状況を教えてくれた、ここは私の寝室。

心臓が大きく脈を打ち、身体の震えが止まらない。

「夢でこれほど動揺するなんてね。私ともあろうものが」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第33話

 

 

「フン、木偶にしては中々やる」

くっ、強い。

手加減された攻撃にも全く歯が立たない。

「だが貴様に用は無い。そこをどけっ、俺の標的は北郷だけだ」

「通しません。例えこの身が滅びようとも、宰相の元へは行かせない」

「ほざけっ、ならば消えろ」

辛うじて蹴りを防ぐが、身体の芯にまで響く衝撃、研ぎ澄まされた体術に氣、黄蓋殿に、いや、恋殿に匹敵する?

・・勝てない、だが退かぬっ。

私は宰相を護る!

「良い闘気じゃ、楽進。小童よ、儂も混ぜて貰おうか」

「黄蓋殿!貴女は南門の指揮を執っていたのでは」

「なに、あちらは儂がいなくても問題ない。放置しておけぬ氣を感じて出向いて来た訳じゃが、正解じゃったの」

「チッ、北郷め。少しは変わっている様だが、相変わらず女に護られているか」

やはりこの男、宰相を知っている。

宰相は心当たりが無いと言われていたが。

「楽進、不本意じゃろうが、二人で止めるぞ。一人では勝てぬ」

「・・黄蓋殿、私は貴女が孫家を裏切るなど微塵も信じてはおりません。・・ですが貴女は、私にとって尊敬し目標としている武将です。我が真名は凪、御助勢をお願いします」

「・・儂は祭、護りたい者を護れなかった愚か者よ。・・二度と繰り返しはせぬっ!凪、背中を任せるっ!」

「はっ!」

 

「ほらほら、背中ががら空きだよ〜♪」

程cさんの指示通りに敵の背後を攻撃しては退くを繰り返してるけど、ホントに的確だよねえ。

こっちはほとんど無傷で、騎馬だから敵も追いつけなくて地団駄踏んでる。

でもそろそろ、あっ!来た来た、向こうの騎馬軍。

四千ってところかな、これまた予想通り。

それじゃ、こっちは一千だし、逃いげようっと。

たんぽぽの用意した罠の方向にね♪

 

ふむ、流石に一筋縄ではいきませんか。

全体的に押してはいますが、決め手に欠けてます。

左慈は足止めをくっているようですし、後方を襲っていた遊撃軍も対処はしましたが、兵達が前面に集中できていません。

援軍が入城した兵だけと考えていたのは迂闊でしたね。

城壁の敵兵の士気も高そうです。

まあ、いいでしょう。

士気は回復していても、身体の疲労は簡単に抜けるものではありませんから。

昼までは消耗戦に徹しましょう、その後に本陣の一万を投入すれば陥とせます。

・・それにしても、楽しいですねえ。

術が使えれば兵などどうとでもなりますのに、圧倒的物量で押し潰すのではなくて、工夫をして、遣り繰りを行って、敵の動きを予測して、兵を動かす。

不自由で不便ですのに、この高揚感は何とも言えません。

成程、左慈だけではなくて、私も管理者で無くなった事を喜んでいるのですね。

本心を自覚した私は、身体の奥底から力が湧いてきます。

もっと私を楽しませて下さい、北郷一刀に三国志の英傑達よ!

私は初めて外史の存在を歓迎しています。

 

 

袁紹軍と合流した陶謙軍が退いて行く。

こっちにも袁術軍がいる事を確認して、攻撃は控えたようね。

「感謝するわ、于禁。僕だけじゃ戦線を維持するのは厳しかったからね」

「水臭い事言わないの、前にも一緒に戦った仲なの。沙和でいいの」

「ありがとう、沙和。僕は詠。そう呼んで」

援軍として派遣された沙和と交流を深める。

おかしな話よね、同じ陣営じゃないのに二度も一緒に戦うなんて。

それも僕なんか以前と違う軍にいるのに。

「月ちゃんに伝えたい事があるなら言っとくの。月ちゃんは詠ちゃんと張遼さんを誇りに思って、必ずまた一緒にいられる日が来るって言ってたの」

沙和から聞いた月の言葉と意思に、僕は感動してる。

僕も月を誇りに思う、必ず、必ず戻るから。

沙和にそう伝えて欲しいとお願いして、悪いとは思うけど情報収集させてもらう。

「建国の噂があるけど、本当なの?」

「あっ、やっぱり伝わってるの。返答は出来ないけど、月ちゃんは王を降りるの」

「・・それが、あの子の意思なのね」

僕のかつての夢。

月が望んではいないのを知りながらも、月を大陸の王にしたいと思っていた。

その思いが月を窮地に追い込んでしまって、一刀が助けてくれなかったら滅んでた。

「月は、笑ってる?」

「宰相の傍で幸せそうに微笑んでるの。大丈夫なの、詠ちゃんが戻るまでは私達がいるの」

「そう」

ありがとう。

うん?宰相の傍?一刀の傍?

「ね、ねえ。一刀の傍って、どういう事?」

「え〜、それを聞いちゃうのなの。女の子が女になっちゃうって凄く綺麗になるの。沙和もそうだったのかなと思うと恥ずかしいの〜」

あ、あの馬鹿、僕に手を出しておきながら、月にも手を出すなんて。

「沙和、一刀にも言伝を頼めるかしら」

僕はお礼の言葉と怒りの言葉を沙和に託す、怒りは少々長くなるけどね。

 

 

ふむふむ、馬岱さんの罠はなかなかのものですねー。

風も多少の助言をしましたが、必要なかったですかね。

さて、そろそろでしょうか。

と、思っていましたら来ましたねー。

丁度準備が整ったところです。

それでは、張?軍にはお引取り願いましょう。

罠に掛ける為とはいえ、敵に情報を与えすぎですよー。

 

しぶとい。

こいつら、上手く連携して巧みに俺の攻撃を防ぎやがる。

二人とも氣の使い手というのが厄介だ、俺の氣が感じとれるから氣で衝撃を相殺しやがる。

だが、お前達以外は動きが鈍っているぞ。

「貴様ら、その粘りは褒めてやる。だがいいのか、お前達が俺に掛かりっきりの分、兵の負担は増えているぞ」

「それでも貴様を野放しには出来ぬ。侮るでないわ、貴様等の弱兵と我等の精兵では持っている力が違う!」

その通りだ、俺も見ててイライラしたしな。

「それでも、無傷で元気な一万の兵が、一つの門に集中して攻撃したらどうだろうな」

「何だと!」

「今頃南門は城壁を占領され、門が開いてるかもな」

「それは無いな」

その声!

「北郷!」

「宰相!」

「一刀!」

遂に見つけたぞ。

「自分から死にに来るとは良い度胸だ、俺の手に掛かるがいい」

「・・お前が左慈か。凪と祭を同時に相手できるとは凄いな。だが戦はもう終わった、退いた方がいいぞ」

「何を戯けた事を言って「左慈の旦那っ!!」

城壁の下からヒゲの声が聞こえた。

ヒゲの奴は于吉の護衛だった筈、北郷達を見据えながら壁際まで下がると、俺の姿が見えたのかヒゲが大声で叫ぶ。

「左慈の旦那、于吉の旦那から言伝だ!張?が討たれたから至急退却だってよ!」

何だとっ、一体どういう事だ!

「聞こえたとおりだ。この戦は俺達の勝ちだ」

チッ、どうやら事実か。

「いいだろう、今回は退いてやる。だが覚えておけ、貴様は必ず俺が殺してやる!」

「早い方がいいぞ、俺を殺したい奴は山程いるからな」

「フンッ、首を洗って待っていろ」

俺は城壁から飛び降り、ヒゲと共に馬を走らせる。

前方に、チビ、デブと一緒に于吉がいた。

馬を走らせながら事の次第を問い詰める。

「オイ、どういう事だ」

「すみません、してやられました。本陣の兵を動かした時に味方に変装した騎馬軍に突入されて、後方にいた張?が討たれたのです」

「遊撃軍は一千そこらだろう。不意を突かれたとはいえ脆過ぎだ」

「いえ、突入してきた兵数は二千はいました。何より、先頭に居たのは夏候惇、夏候淵、張遼の三将。張?如きではとても相手になりませんでした」

「そいつらが来るのは明日だったろう」

「その筈でしたが、後で詳しく調べてみましょう」

何だ、こいつ、負けたくせに随分落ち着いてるな。

「いやいや勉強になりました。戦とは儘ならないものです、私も精進しませんと」

「何を悟った事を言っている、負けは負けだろうが」

「そう言う左慈もあまり悔しそうには見えませんよ、北郷一刀とは会えたのですか?」

「ああ、この手で殺す価値は以前よりもありそうだ」

「成程、楽しそうなのはその為ですか。私としては嫉妬してしまいますねえ」

「殺すぞ」

 

私達は華琳様に揃って頭を下げて許しを乞います。

「華琳様、御身の身を危険に晒し、更に徐州制圧も成さぬまま戻りし事をお許し下さい」

敵の真の目的が一刀殿を討つ事にあったとはいえ、私達は一刀殿に救われた。

罠と知りつつも援軍に駆けつけ華琳様を救い、更に私達の方に沙和殿を派遣して事情を逸早く伝えて、駆けつける為の駿馬千頭を貸してくれたのです。

代え馬として申し分ない駿馬のお陰で、一日早く陳留に到着できました。

後は風と馬岱殿に制圧されていた敵騎馬軍から鎧と旗を拝借し、手薄になっていた本陣に急襲して張?を討ち取ることが出来ました。

私達は敵の策を見抜けず、主を危険に晒し、主の命も成しえていない、不甲斐無いにも程があります。

叱責を受けるのは当然です。

ですが、華琳様の御言葉は自省でした。

「いえ、私こそ貴女達に謝らなければならないわ。進言を無視して強攻策に出たのは私の過失。責は全て私にある」

「そんなっ、華琳様!」

「聞きなさい。私は貴女達の功績を公平に評価する。戦や政に絶対はない、敗れる事も失敗する事もあるでしょう。だがそれはいい、許されないのは力を尽くさぬ事、上手くいかなかった事を認めず己を顧みぬ事よ」

華琳様の言葉が続きます。

「それは私自身に対しても同じ事。私は前に進む。此度の過失を私は必ず取り戻すわ。私は貴女達の主として恥じない者であり続ける。貴女達も私に相応しい臣であり続けなさい!」

これが曹孟徳、私の全てを捧げるお方。

 

よしっ、出番終わり。

「華琳、それじゃ俺達は帰るよ。戦後処理で忙しいだろうし」

「待ちなさい。貴方は私をどれだけ恩知らずにするつもり?兵も馬もしっかり歓待させてもらうわよ」

「おいおい、投降兵の数は二万以上だぞ。そんな暇はないだろ?」

「舐めないでくれる。貴女達、宴の準備と並行して始まるまでに一段落をつけなさい!」

「「「「「 御意 」」」」」

確かにこの面子なら出来るか、改めて顔ぶれを見てみれば、とんでもない陣営だな。

御言葉に甘えて休ませて貰う事にする。

風、流琉、季衣も華琳に休むように言われた。

そうか、風と流琉ともまたお別れか、残念だけど。

宴は盛大で、俺が原因なのにいいのかと思うけど、そこは有り難く甘受する。

華琳達は最初だけ顔を出してたけど、やはり忙しいようで途中に席を外した。

凪達も疲れているし、早々に部屋に戻って休むように勧める。

凪達が休めるように俺も部屋に戻る、でも思うところがあって休まずに酒を貰って城壁に登った。

月明かりだけなので朧だけど、かつて一時期住んでいた陳留、眺める景色は懐かしかった。

酒をチビチビ飲みながら眺めていたら、霞が現れた。

「こんなとこで一人でやっとるんかいな。まあ、悪くないけどな」

「結構乙なもんだよ。仕事はいいのかい?」

「一息入れよと思たらアンタを見かけたんや。一刀、月達は元気かいな?」

「元気だよ、俺も暫くは会ってないけど」

報告や文から、頑張っている姿はよく見えた。

「そっか。おおきにな、一刀、ホンマに感謝するわ」

「俺が勝手にやった事だよ。俺こそ霞と詠に感謝してる」

「ウチも一杯もらえるか」

「ああ」

特に会話も無く、静かに酒を飲む。

心地いい時間が流れてたけど、霞は仕事がまだあるらしい。

「そんじゃ行くわ」

俺は酔ってたこともあってか、自分の気持ちに素直に行動してしまう。

霞を抱き寄せてキスをする。

暫くそのままでいて、名残惜しいけど離れた。

霞は照れながら、

「ウチからするつもりやってんけどな、続きはまた今度な」

そう言って降りていった。

 

一刀の部屋を訪ねたけど、居ないわ。

擦れ違った霞に聞いたら城壁で酒を飲んでるって、此処は貴方の城ではないのよ。

行ってみたら壁にもたれて眠ってる。

警戒心が無いのかしら、私ならありえないわ。

横に座って、一刀の顔を眺める。

規則正しい寝息が聞こえて、起きそうもないわね。

夜空を眺めながら、今回の事を振り返る。

・・私の強行策は、貴方が原因だった。

私よりもずっと先を進んでる貴方に、追いつきたかった。

今朝見た夢、貴方が消えていく夢。

目を覚ました時の寂しさは、言葉に表せないほどだった。

一刀にもたれて、胸に顔を当てる、鼓動が聞こえる。

貴方はここにいる、一刀、私を一人にしないでね。

一刀の鼓動が私の意識を遠ざける。

温かい気持ちに包まれて、私は眠りについた。

説明
恐るべき強さを持つ左慈。
狡猾な策を弄する于吉。
一刀たちはどう戦う。
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コメント
↓過去の記憶ではなく別世界の記憶では? あの外史ではないわけだし。ともあれ、今度は置いていかれないといいな。魏ルートは覚悟しててアレだったし…(黒乃真白)
↓2 そう簡単に思い出す代物ではないですよ過去の記憶というものは(M.N.F.)
元否定派が外史を楽しんでいるとは……そりゃ、今まではチートがあったからね。自力で戦うのは新鮮でしょうよ。前外史の記憶が影響を与えることが増えてきたようで面白くなってきました。次も楽しみにしております。(Jack Tlam)
圧勝でしたなw宇吉も軍師としては経験がないからな〜w華琳はその夢まで見ても思いださないのか〜(nao)
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左慈 于吉    蒲公英  華琳 北郷一刀 真・恋姫無双 

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