真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第51話] |
真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜
[第51話]
「あー……つまり、あれか? 色々な事を言っていたようだが、結局のところ劉玄徳が矛盾した行動を取っているのは経験不足だったって事か?」
ボク、泣いて良いですか?
((暫|しばら))くして、北郷は確認するように話しかけてきました。
それも、ボクが説明した内容の九割以上を、これでもかってくらいにぶった切る形で、です。
彼が理解してくれたのは、どうやら自分が問いかけた質問の内容だけだったみたいでした。
人に何かを説明するという事はです、脳みそを使うって事なんです。
色々あれこれ考えるわけですから、脳みそを使っていますでしょ?
そして、脳みそを使うって事はですね、人の寿命を((削|けず))ってるって事なんですよ。
つまりボクは、いわば自分の寿命を削るのも((厭|いと))わずに説明したようなものなんです。
ボクは一生懸命、((頑張|がんば))った。
頑張って、分かってもらえるように噛み((砕|くだ))いて説明した。
それなのに。ああ、それなのに。
ぜんっぜんっ、分かってもらえないじゃん!
まったくもって、真意が伝わってないじゃん!
ボクの失った寿命、返してぇえええ!!
((閑話休題|ちょと落ち着いて))
人に何かを説明するのって、本当に大変な事ですね。
だって、その人が興味ある事しか聞く耳を持ってくれないんですもん。
良く劉備は、誠意を持って話せば必ず分かり合えるんだなんて考え出したものです。
とてもではありませんが、ボクには出来そうにありません。
個々の人達の経験に任せるのが一番良いと、ボクは認識を新たにするのでありました。
「うん、そうだね……それで良いんじゃ……ない……かな……?」
ボクは、涙を((滂沱|ぼうだ))の如く流して肩をガックリと落としながらも、なんとか肯定の意を返しました。
だって、そう言うしかないですもん。
「それじゃあ、人を信じ過ぎているというのは、なんなんだ?」
「うぇ……?」
涙を流しながら自分を((慰|なぎさ))めていると、何かを北郷が問いかけてきました。
ですが、ボクは自分の事にかまけていたので、彼が何を言ったのかが良く分かりません。
だから、ちょっと後ろを振り返って聞いてみる事にしました。
「え〜と。ごめん、聞いてなかった。なに?」
「いや、だから。刹那は、劉玄徳が人を信じ過ぎているって言っただろう? それは、どういう意味なのかを聞いたんだよ」
「あ〜……それね。なんだ、そんな事か」
「なんだとは、((随分|ずいぶん))とご((挨拶|あいさつ))だな?」
ボクの物言いが((癇|かん))に((障|さわ))ったのか、北郷はちょっと不快感を表した。
「あはは……ごめん、言い方が悪かったね。え〜と、人を信じ過ぎているって話だったっけ?」
「ああ」
ボクは北郷に確認をした後、前を向いて話していきました。
「別に、それは大した話じゃないんだ。だから、なんだって言ってしまったのさ」
「そうなのか?」
ボクの返答に北郷は軽く答えてきました。
どうやら、不快感が少し影を潜めてくれたようです。
「人というものは((大概|たいがい))、自分を基準にして他人を((推|お))し((量|はか))るもの。それは時として、自分に出来た事は他人にも同じように出来ると勘違いしてしまう時もある、という事なんだ。
でもね、そんな事は、まずあり得ない。何故なら、それぞれの人には、それぞれに((得手|えて))・不得手というものがあるのだからね。そして、それが同時に、その人達の持ち味でもある。そうは思わないか?」
「それはまあ、そうかも知れないな」
北郷の同意を受けて、ボクは続きを話して行きました。
「でも、桃香は自分に出来た事だからと、誠意をもって話し合えば誰にでも同じように理解してもらえると考えているみたいだね。
暗闇に((慣|な))れてしまった瞳に、((凍|い))てついている心に、日の光の((輝|かがや))きや((暖|あたた))かさは((眩|まぶ))しくて痛いものだという事を彼女は分かっていないのだろうね、きっと。
人々が置かれている状況は、それぞれ違う。持って生まれた才能や身体能力、それに((加|くわ))えて成長速度さえ違うんだ。ましてや、今まで積み重ねて来た観念や思い込みをどれほど持ち合わせているか、その影響がどれほど響いてくるかなんて事を他人が推し量れるものじゃない。
だから、そんな事は不可能に近い事だとボクは思うのさ。仮に出来たとしても、それは彼女と同等かそれ以上の存在にしか出来ないんじゃないかな。((殆|ほと))んどの人達には、桃香の言っている事は((荒唐無稽|こうとうむけい))な話しにしか聞こえないだろう。だからこそボク達は、それぞれに合ったやり方で学んで行くんだから」
劉備は、世間の風潮に毒される事なく自分の人生を生きている。
だから、彼女自身の人生体験で得た経験から、誠意を持って話し合うという手段を見い出したのかも知れません。
確かに、人という存在のすべてが劉備のように在ってくれたなら、彼女の見い出した手段は有効に働いた事でしょう。
でも悲しいかな、今の世を生きる人々の大半は、自分の人生を生きているようで生きてはいない。
殆んどの人達は、自分の頭の中で創り上げた((悲壮|ひそう))感((漂|ただよ))う物語の世界に生きていて、その事に気がついていないからです。
ましてや、その創り出している物語の世界そのものが想念であり、その想念が世界を((侵食|しんしょく))して((均衡|きんこう))を崩しているなど思いもしない事でありましょう。
ボクは、人々が互いに誠意を持って話し合う為には、まず互いが目覚めている事が前提であると思っていました。
そうでなければ、和合して((互|たが))いにとっての良い結果を導き出す事よりも、お互いが自分の((都合|つごう))だけを押しつけあう事に終始してしまうからです。
それを回避する為には、それぞれが自己を見つめて、少しずつでも所持している観念を受け入れ解き放っていくしかない。
だから、それをしないでいる人達に、誰がどれだけ誠意を持って伝えても、真意が伝わる可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。
劉備は天才で意識水準が高く、人という存在を信じ過ぎている。それゆえに、彼女は先を見過ぎているのではないでしょうか。
現段階では、彼女が見い出した手段を多くの人々が受け入れるには((至|いた))っていない。
残念な事ではありますが、例えすべての人々に目覚める可能性はあるにしても、まだ早すぎたのです。
「それに、桃香は少し誤解しているんじゃないかな?」
「誤解している? ……何をだ?」
「少なくとも今現在の桃香は、他人と言葉で話し合う事だけが、お互いが分かり合える手段だと考えているみたいだからね。けどまあ、ボクの見たところ少しずつ変化しているようではある。だから義勇軍を結成して、黄巾党の討伐に乗り出して来たんだろう。だけど、その事について、彼女自身はまだ気がついていないみたいだね」
「……つまり、どういう事なんだ?」
北郷はボクの言った事を((訝|いぶか))しみ、((怪訝|けげん))そうに問いかけてきました。
ボクはちょっと後ろを振り返り、微笑しながら返答する。
「お互いが分かり合うのに、必ずしも言葉は必要ないという事さ。必要なのは、価値観がどこに置かれてるかを見定める事なんだよ」
「価値観……?」
話しを聞いた北郷は首を((傾|かし))げて、まだ分からないという意図をボクに伝えてきました。
ボクは前方に身体を向き直して、そのまま詳細を説明していきます。
「そうだね……。たとえて言うなら、武人は((己|おのれ))の武芸を競い合う事で互いを理解し合う。軍師は智謀の限りを((尽|つ))くして、互いの策を((巡|めぐ))らす事で語り合う。そして集団同士ならば、その集団の総意を持って互いを知るといった感じかな?」
「ああ……そういう事か」
「つまりね、それぞれの人には、それぞれの価値観があるんだよ。そして、その価値観が((基|もと))に成って、それぞれの現実を見定めている現実観や世界観としているというわけなのさ。
だから、自分の価値観だけを第一義として、それを他人に((説|と))いたところで無意味なんだ。悲しい事だけれど、自分と同じ価値観を持っていない人に言葉は通じない。たとえどんなに誠実に、そして誠意をもって説いたとしてもね」
伝えたいという想いを((募|つの))らせれば募らせるほど、伝えたい相手が大切な人であればあるほど、早く気がついて欲しいと思うのが人情です。
だから自分の気がついた事を、大切な人に早く伝えたいと思うのも無理はありません。
ですが、受け入れる準備が整っていない相手に伝える事は、本当にその人の為に成るのでしょうか?
例えば、たくさんある植物の((芽|め))の中に仮に成長の遅い芽があったとしても、その芽が早く成長するようにと引っ張り上げてしまえば、その芽は成長するどころか((枯|か))れてしまう結果になるでしょう。
それぞれの芽には、それぞれの成長過程があるもの。
だから、それと同じように、人の成長を((阻害|そがい))するが((如|ごと))き行為は、有益どころか有害な行為に((他|ほか))ならないと思うのです。
自分が他の人の為に出来る事といえば、自分自身の人生を生きる事。そして、伝えたい相手の受け入れる準備が整うのを((辛抱|しんぼう))強く待ち続ける事ぐらいなもの。
それは時として、とても((辛|つら))くて苦しいものかも知れません。
伝えたくても言えない、言えないけれど伝えたい。そんな二律背反な思いを抱き続けなくてはイケないからです。
ですが、例えそうであったとしても、一人ひとりが自分の足で立ち上がって人生を((歩|あゆ))み続ける為には、そうしていくしか方法が無いのです。
((毛虫|けむし))がチョウに成長する過程では、サナギという状態を体験します。
サナギの((殻|から))は((堅|かた))くて身動きが取れなく成るものですが、それは同時に外敵から身を守ってくれる存在でもありました。
あるチョウが、大空へ飛び立つ為に堅い殻を((破|やぶ))ろうとして居るのですが、中々破る事が出来ない状態だったとします。
そのチョウの周りには、自力で殻を破って空へ飛び立っているチョウ達がたくさん居ました。
空を飛んでいるチョウ達は、まだ殻を破っていないチョウを見かねて、その殻が破れるように一緒に力を合わせます。
その((甲斐|かい))あってか、堅い殻を中々破れなかったチョウは、なんとか殻を破って周りにいるチョウ達と一緒に大空へと飛び立つ事が出来ました。
それで『めでたし、めでたし』と言って終わりに出来れば良いのですが、ここでボクは思うのです。
――((果|は))たして、自分の殻すら自力で破れなかったチョウが、これから大空を飛んで生きていけるものなのか? と。
毛虫の行動範囲は((狭|せま))く、一日の殆んどを食事に((費|つい))やしているようなもの。
サナギの状態に至っては、その場所から動く事すら無くなります。
でも、チョウに成長してしまうと、その行動範囲は((飛躍|ひやく))的に広がっていく事でしょう。
その行動範囲の中には、鳥や((蜘蛛|くも))といったチョウを捕食する生き物も存在するのです。
自力で殻を破ったチョウでさえ、そんな生き物達に捕食されてしまう危険性がある。
それなのに、自分の殻すら破れなかったチョウが生きていけるものなのでしょうか?
((恐|おそ))らくは、真っ先に狙われてしまう結果に成る事でしょう。
だからボクは、こう思うのです。
――堅い殻を自力で破っていく行為は、大空を飛んで生きていく為の力があるかどうかを事前に試しているのでは無いか? と。
人が厳しい世の中で生きて行く為には、観念や思い込みという((鎧|よろい))を心に((纏|まと))うしかありませんでした。
他人から自分の人格さえも否定されてしまうような世間で生きていく為には、そうするしか((術|すべ))が無かった。
ましてや、成長していく過程で周りにいる大人達から、同じようにするようにと教えられてきたのですから無理もありません。
でも((皮肉|ひにく))な事に、その為に自分の本当の幸せを見い出し、それを感じ取る感受性を次第に失ってしまっていったのです。
ですが、自分の本当の幸せを見い出す為には、感受性を再び((蘇|よみがえ))らせて、自分の心に纏った鎧を脱いでいくしか方法が無い。
鎧を脱いでいく過程では、((辛|つら))く悲しい事を経験する時もあるでしょう。
今まで鎧に守ってもらっていた事を((直|じか))に心で受け止めなければ成らなくなるのですから、当然そう成っていくはずです。
先に目覚めた人々、本当に自分のやりたい事をやっている人達というのは、((嘗|かつ))ての自分自身が通って来た道なのですから、その事を痛いほど知っています。
だから今、同じ体験をしているであろう人達を助けてあげたいという想いは、言葉に言い表せないほど持っている。
でも、どれほど助けてあげたいという想いが大きくとも、出来る事は精々助言する事ぐらいしかありません。
何故なら、一人ひとりの人生体験で得ている経験こそが、それぞれの人達が生きていく為に必要な((糧|かて))である事を己の人生で知らざるを得なかったからです。
もし、人生で((挫折|ざせつ))している人を見かねて救済してしまえば、救済された人は((貴重|きちょう))な経験を得られないだけで無く、それ以降の人生を自力で生きていく事が出来なく成ってしまうでしょう。
だから目覚めた人々は、挫折している人に助言や手助けはしても、決して苦難から救い出すような行為を((施|ほどこ))す事はありません。
挫折している人が自分の足で立ち上がり、その人自身の足で歩み続けるのを((辛抱|しんぼう))強く見守ってくれているだけなのです。
それは時として、無情で((冷酷|れいこく))な行為に見える事もあるかも知れません。
だから、人生の苦難に耐えられないと思い、そう感じている人にとっては、『何故、誰も助けてくれないんだ?! これほど苦しんでいるのに!』と((恨|うら))んで泣き((叫|さけ))んでしまう時もあるでしょう。
その現実を創り出しているのが自分だとは((露|つゆ))も思わず、ただ((迫|せま))りくる恐怖に((慄|おのの))くしかないと((頑|かたく))なに信じ込んでしまっているから。
でも、どれだけ切実に救済を願っていても、((何人|なんぴと))も他人を苦難から救い出だしてあげる事は出来ないのです。
それをしてしまえば本当の意味で、その人の為に成らないがゆえに――
「じゃあ結局、彼女のやっている事は((無駄|むだ))だって事か?」
北郷は何かを確かめるように、劉備の行為について問いかけてきました。
「いや? 無駄では無いさ」
「なんでだ? 賊なんかに、彼女の誠意なんて通じないだろう?」
「確かに一刀の言う通り、賊や賊と同じように考える人達には桃香の誠意は通じないかも知れない。でも彼女の在り方は、人々が気づく為の”きっかけ”に成り得るんだよ」
「きっかけ?」
「そう。桃香の((為人|ひととなり))や彼女のやっている事を好意的に見る人は、自分も同じように在りたい、同じように出来るかも知れないと思い、そのやり方を学んで((実践|じっせん))して行くだろう。逆に好意的で無い人は、自分がそう思い、そう感じてしまうのは何故なんだろうかと、原因を探る為の手がかりを得る事と成る。いずれにせよ、一人ひとりが自分の在り方を決める為の”きっかけ”に成り得るのさ。
もっともそれは、どんな事からも何かを学び取ろうという姿勢を持っていれば、という((注釈|ちゅうしゃく))つきかも知れないけどね」
そう言った後に振り返り、北郷の様子を垣間見る。
でも彼は、何か物言いたそうな微妙な表情を顔に浮かべていた。
「納得できない?」
「少し……な。結局、その気が無いやつには通じないって事だろう?」
「その段階では、そういう事に成るかも知れないね」
「段階?」
「そっ。良い事なのか悪い事なのか判断に迷うところだけれど、優しく((諭|さと))してくれている段階で気づかないなら、その人が気づけるようにと、どんどん大きく成って行くものなんだよ。その、きっかけとやらはね」
「……それって、どんな((風|ふう))に大きく成って行くもんなんだ?」
「うん? そうだね……せっかくだから、桃香の事を例に上げてみようか。そうすれば、何か見えてくる事もあるかも知れないし」
北郷の問いかけを受けて、ボクは前方に身体を向き直しながら話していきました。
「先ほど言ったと思うけれど、桃香は人の心の闇の側面についての理解がまだ十分では無い。でも、彼女が目指す平和な世の中を実現する為には、それを理解する必要がある。そうでなければ、片手落ちに成ってしまうからね。であれば当然、それについての”きっかけ”も、すでに彼女へと訪れているはずという事になる」
「だが、彼女は気づいていない」
「そうだね。では、桃香に訪れているであろう”きっかけ”とはなんだろうか? という事になるわけなんだけど……」
「ああ、それは?」
「ボクは((白蓮|ぱいれん))……((公孫|こうそん))((伯珪|はくけい))その人なんじゃないかって思うんだよね」
「公孫伯珪……?」
北郷はボクの回答を聞いて、腑に落ちないという含みを見せる疑問の声を上げてきました。
「聞くところによれば、白蓮と桃香って幼い頃からの知り合いらしいんだけど。白蓮って自分に自信を持っていないというか、((劣等|れっとう))感の((塊|かたまり))みたいなところがあるだよね。初めからそういう性質だったのか、それとも桃香と自分を見比べているうちにそうなってしまったのかは分からないけどさ」
「そういえば……『普通って言うなぁああ!』とか言って、普通とか平凡とかの単語に((過敏|かびん))に反応しているよな」
北郷は何かを思い出すつつ、((呟|つぶや))きをもって返答してきました。
「今の世を生きる多くの人々や白蓮、賊達もまたそうなのだけれど、程度の差こそあれ自分をどこか信じていない。いや、違うか。今の自分には、自分自身の人生を創っていく”力”が無いと信じ込んでいるんだ。それこそ、自分ほど信じられないものは無いと言い切れるぐらいにね」
「だが、それが普通だろう? みんな、そう在りたくないから頑張っているわけだし。そりゃまあ、誰も面と向かっては言わないだろうけど」
「そうだね。誰もがそれが普通だと思っているから、皆それに((倣|なら))っているのかも知れない。
でもね。そういう信念に基づき、そう思い、そう感じ続けていれば、そう成っていってしまうんだよ。だって、それがその人の在り方であり、在り((様|よう))だから。人は、それに基づいて人生を生きていく((他|ほか))なくなるんだ。気がついて変更するまで、ずっと」
「……つまり、あれか? 刹那は、そのように在る公孫伯珪が劉玄徳の”きっかけ”だと言いたいわけか?」
ボクは北郷の言葉を聞いて、深く((頷|うなず))いた。
「そう。そして白蓮にとっても、桃香が気づく為の”きっかけ”という事に成る。『何故、自分を信じられるのか』『自分がそう思えない理由は、なんなのか』という事を己に問いかけて、気づていく為のね」
「だが、そんな昔からの関係があっても、彼女達は刹那の言うような事に気づいていないよな?」
「そうだね。その段階で彼女達が気づかなかった為に、事態は次の段階へと移行したのだろうね」
「つまり、今はもう段階が大きく成っている、という事か?」
「うん。ボクには、そう見える」
「それは?」
北郷の問いかけを受けて、それについての見解を述べていきました。
「まずは、桃香。彼女は白蓮との関係だけでは、人の弱さや心の闇について十分に学べなかった。それだったら気づけるようにと、もっとそう考えている人達との出会いを多くすれば良い。というわけで、他人を蹴落としてでも我が身の栄達を望んでいるような、我欲まみれの賊達との((邂逅|かいこう))が多くなっていった。
次に、白蓮。彼女は桃香の在り方・在り様を見ても、自分を信じるという事について学べなかった。そういう状態だったらどういう事に成って行くかを気づけるようにと、((星|せい))……趙子龍などの人材が身を寄せていたのにも関わらず((袂|たもと))を((別|わか))つ事と成る。それでもまだ気づきが十分で無かったのか、ボクと出会う事で新しい概念を学ぶ事と成ったというわけ。
つまり”きっかけ”というのは、このように気づかないなら気づけるまで事態が大き成って行き、その人が気づかざるを得なく成るように出来ているものなのさ」
ちょっと間を置いてから、さらに話し続けました。
「また、それらと並行して、彼女達の望みである救国の((志|こころざし))を叶える為に、ボク達との出会いがもたらされたのだと思う。
白蓮は少し事情が異なるかも知れないけれど、桃香は功績をあげても恐らく正当には評価されないと思うからね。いくら劉姓を持ち、義勇軍を結成したといっても、元々が無名な上ずっと傭兵として戦って来たわけだし。中央との((繋|つな))がりなんて皆無だろうから、仕方がないと言えば仕方がない事なのかも知れないけれど。
でも、そこでボクが間に立てば、それも無く成ると思うのさ。なんせボクには、朝廷に居る実力者達とはそれなりな関係があるからね。少なくとも、立てた功績を無視されたり横取りされる事だけは無くなるだろう。
それにね、ボクはボクで劉玄徳に対する((蟠|わだかま))りを受け入れ解き放つ必要があったんだ。それをいつまでも所持したままでは、先に進めなかっただろうからね。だから、それを解消する為に桃香と出会えたんだと思う。
天の采配というものは、そんな風に『必要な人に必要な事が起こる』。無理なく自然な形で、もたらされているものなんだよ」
分かってもらえたかな? という感じの笑顔で、ボクは後ろを振り返って北郷の様子を見ました。
ところが予想に反して、彼は微妙な表情を崩していません。
それどころか、さらに疑心を抱いているご様子だったのです。
「どうかした?」
「いや、どうかしたって言うか……さ。それって、ただの”こじつけ”だろう?」
「え? こじつけ?」
「そうだろう?
何かが起こった後であれば、どんな事でも色々と言えるものだ。偶然、((偶々|たまたま))そう成ってる事でも、後に成ってそれが理由だと言われれば、それらしく聞こえてくるものなんだからな」
ボクは北郷の言葉を聞いて、彼がそのように受け取ったのだと理解しました。
身体を前方に向き直しながら、それを((紐解|ひもと))くにはどう伝えたものかと考えます。
「なるほど……つまり一刀は、偶然そう成っただけだと言いたいわけだ」
「その通りだろう? そりゃまあ、言い方は少し((酷|ひど))かったかも知れないが……」
ボクの呟くような言葉を聞いて、北郷は気を((遣|つか))うような言葉を((紡|つむ))ぐ。
「じゃあさ、一刀。君は偶然と必然の違いって、なんだと思う?」
「は? 偶然と必然の違い?」
「そう。どう思っている?」
「どうって言われてもな……そんなの、偶然は偶々起こる事、必然は必ず起こる事という意味だろう?」
北郷は何、当たり前の事を聞いてくるんだ? という感じで返答してきました。
ボクは彼の言葉を聞いて、自分の思っている事を話していきます。
「無いんだ」
「何が?」
「だから、偶然と必然に違いなんて無いんだよ」
「なんでだよ? まったくの別物だろうが」
北郷はボクの言葉を受け、ちょっと怒気を含ませた物言いで((応|こた))えてきました。
「一刀の言う通り、普通はそのような意味合いで((捉|とら))えられている事はボクも理解している。けれど本当は、それに違いなんて無いのさ。ただ人が、事象が起こる経路を理解できた事を必然と呼び、経路が不明な事を偶然として分類しているだけなんだよ。
共通している事は((唯|ただ))一つ、起こる条件が((揃|そろ))ったから起こったという事だけ。つまりは、『起こるべくして起こった』という事なんだよ」
さらにボクは、言葉を続けていきました。
「多くの人々は、一刀と同じように捉えているのだろう。だから、それが自分の望みを叶える為に重要な事なのだとは気づけないのかも知れないね」
「……なんで偶然と必然の捉え方が、自分の望みを叶える事と繋がってくるんだ?」
ボクの言葉を聞いて、北郷は意味が分からないという感じで問いかけてきました。
「一刀。人は何故、何かを望むのだろうか?」
「そりゃあ、欲しいと思う事があるからだろうな」
「では何故、欲しいと思うのだろうか?」
「それは……自分の手元に無い。そう在りたいのに、そうでは無いから、だろうか?」
北郷はボクの問いかけに、自分の感じているであろう事を素直に語ってくれました。
その事に感謝しつつ、尚も話を続けて行きます。
「そうだね。今の自分の手元には望んでいる物が存在していない。今の自分は望んでいるような自分自身では無い。だから人は、何かを望むのだと思う。
でもね、一刀。だったら人は、どうやってその望みを叶えて行けば良いのだと思う?」
「そりゃあ、その為に頑張ったり、努力したりするしかないんじゃないか?」
「一刀。ボクが聞いているのは、そういう事じゃないんだよ。
条件が十分に揃えられなければ、事象は決して起こり得ない。それなのに、今までの自分が((培|つちか))ってきた力量だけで、いったい『何を』『どのように』頑張って努力すれば良いのかを聞いているんだよ。自分の望みが叶うのに必要な条件を揃えるに為には、どうすれば良いのかをね。
もし、今までの自分の力量だけで望みが叶えられるならば、とうの昔に叶えているはずだろう? だって、これまでも望みを叶えるべく、ずっと頑張って努力して来たはずなんだからね。違うかい?」
そう言った後、ボクは後ろを振り返って北郷に視線で問いかけてみる。
彼は、どこか心許ない様子で答えて来ました。
「努力して頑張っていたら、そのうち分かるように成るだろうさ。そんな事は、な」
「そのうちって、いつだい?」
「いつって……そのうち、いつかだよ。そんな事が分かるくらいなら、誰も苦労はしないだろうが」
「何故、それが事前に分からないと決めつけしまうのかな?」
「え?」
北郷はボクの問いかけに対して、何を言っているのか分からないといった表情で答えて来ました。
「ボクは言ったよね? 自分の現実は自分自身が創っている。今この瞬間・今ここに在れば、必要な事を直観・気づきで受け取れる、と」
「ああ……」
「ボクが何故、『今に在れ』と言っていると思う? 今この瞬間も、望みを叶えるに必要な条件が分かる瞬間も、自分が望んでいる事が叶った瞬間も、最高の自分という高みに至ったその瞬間でさえも、すべての瞬間が常に『今』だがらだよ。違いは唯一つ、今の自分がそう在るか否かという事だけだ。
だから今この瞬間、自分が望んでいる自分自身で在る時、人は自分に必要な事が分かる。何故かは分からないけれど、そうした方が良いと感じるような確信が持てるように成るんだよ。その後は決心して、その確信を実行に移していけば、その結果を受け取る事が出来るように成って行く。
それが、自分の望みが叶う条件を揃えて行くという事なんだ」
さらにボクは、言葉を続けて行きました。
少しでも役に立たせて欲しいと望みながら。
「その過程では、自分の中では既に望みが叶っている。これまでも直観・気づきを受け取って行動してきた。けれど実際の現実には、それらが((未|いま))だ具現化されていない。待てど暮せど実際に現れてこない事が、もどかしい。これだけやったのだから、具現化されても((可笑|おか))しくないはずだという不満が出てくる時もあるかも知れない。
でもそれは、ただの思い過ごし、身勝手な感想に過ぎないのさ。ただ単に、望んでいる事象が起こる条件が十分に揃っていないというだけの話だからね。
とても悲しくて、残念な事ではあるのかも知れないけれど、自分がこれまでやってきた頑張りや努力、時間の経過などは必要条件の一つなのだとしても、決して必要十分条件では無かったという事なんだよ」
一気に語った後、それを聞き終えた北郷は何かを確かめるように問いかけて来ました。
「……仮にそれが本当の事だったとして、だ。刹那は、それを証明できるのか?」
「ボクが、これは本当の事だと信じるに足る根拠は、いくらでも示せると思う。けれど、一刀に信じてもらう為の証拠は、一つも出せないね」
「つまり、証明できないって事だよな?」
「そうだね。少なくとも、ボクには出来ないよ。だって一刀の現実は、君が信じている通りに成っているものだから」
ボクは暗に、北郷がこの事を本当の事として体験できるかどうかは、彼自身がそれを信じて確かめに行くしかないと((仄|ほの))めかしました。
人は誰しも、自分の人生を((開拓|かいたく))していく冒険者。
どのように開拓していくかは、その人自身の選択、在り方にかかっている。
「信じられない?」
「そうだな。証明できないものを信じろっていうのは、少し無理があると思うぞ」
「ボクは別に、ボクが言っている事を信じて欲しいわけじゃない。ただ、自分自身の事を信じて欲しいと言っているだけなんだけど?」
「だとしても、だ。納得できない事を、信じられるわけが無いだろう?」
ボクは北郷の言葉を受けて、意外と頑固なんだな、という感想を抱きました。
ですが、それもまた彼の個性・資質でありますし、流されやすいよりは良いのだろうと思い直します。
「多くの人々は一刀と同じように、この事を納得しない。そんな事は許されない、と思っている。今まで支払った代償を取り戻す為には、絶対それに代わる何かを得なければ成らない、((報|むく))われなければ成らないのだと言ってね。だから、条件が揃わなくても無理やり望みを叶えようと、自分の欲望を満たそうと((躍起|やっき))に成る。
でもそれは、不調和を創り出してしまうという事に他ならない。無理を通せば、道理が引っ込んでしまうのだからね」
「だが、それは当然の事だろう? 誰だって、報われたいと思っているに違いない。その為に頑張って、努力しているんだからな」
「ボクだって、報われなくて良いと言っているわけじゃない。ただ、その人が受け取るべきものを受け取って欲しいと言っているんだけなんだよ。人は自らの内にある確信と、それを実行に移した後の心許なさを交互に経験しながら歩き続けて行く事で、それを受け取る事が出来るように成っていくのだから。
自分が歩く前に道は無く、自分が歩いた((跡|あと))が道に成る。歩みを止めれば当然、道は途中で((途絶|とだ))えてしまう。確かに、ボクが言っている自分が望んでいる事を叶えて行く方法というのは、そういう事だ。でも、それが道理であり、調和しているという事なんだよ」
どうか、届いて欲しい。
そう想いながら、ボクは話し続けて行きました。
「人はね、一刀。未知なる領域を決心して直観・気づきを受け取りながら((一歩|いっぽ))((一歩|いっぽ))、((歩|あゆ))んでいる時、人生そのものに情熱を感じる事が出来る。
それが『((悦|よろこ))び』、魂の歓喜だ。
そして、その悦びが、人が今まで創り上げしまった思い込みや観念、自分の人生は不幸だと定義している想念そのものと相殺され、歩みを進めるごとに少しづつ浄化して行ってくれる。
それが意識水準を上げて行くという事なんだ。
この事を知識として学ぶだけで無く、感覚で((御|ぎょ))せるように成る事。
それが((統御|とうぎょ))するという事であり、自分の人生を((極|きわ))めるという事なんだ。
そういう人生を体験したくて、その体験を通じて新しい自分自身を経験したいがゆえに、ボク達はこの世に生まれて来たんだよ。決して、自分の周りに人や物を集めて((悦|えつ))に((浸|ひた))る事が目的なんかじゃない」
人は、いつも何かを信じています。そして、その結果を受け取っている。
自らの人生を望むように創っていく”力”なんて持っていないと信じ、不安に思い、恐怖を感じ続けていれば、その結果を受け取って行く。
自らの人生を望むように創っていく”力”を持っていると信じ、安心し、悦びを感じ続けていれば、その結果を受け取って行く。
今この瞬間、何を信じて、どう思っているのか。それが、すべての始まり。
そして誰もが、その在り方に((応|おお))じた直観・気づきを得ている。
ボクは北郷には早く、その事を気づいて欲しいと思うのでした。
「でもなぁ、刹那。さっきも言ったと思うけど、いくらなんでも難し過ぎるって」
「そうかい? なら、こう覚えておけば良いよ。
『((自|みずか))らを信じ、悦びと共に楽しみながら人生を歩いて行く』ってね。
それだったら、簡単だろう?」
「いやいやいや、どこがだよ! 確かに、その言葉だけ聞くと簡単に思えて来るかも知れないが、内実と全然違うじゃないか!!」
ボクは北郷の言葉を聞いて、ちょっと嬉しく感じて思わず口角を上げてしまいます。
「ふ〜ん……一刀は、全然違うと思うんだ? ((大事|だいじ))な事が全部、((詰|つ))め込まれている言葉なのにね?」
「((当|あ))たり前だろうが。どこからツッコんで良いかも分からんわ!」
「そっか……なら、一刀は大丈夫みたいだね」
「……何がだよ?」
訝しげに聞いてくる北郷に、ボクは語っていきました。
「どこぞの愚か者のように、望みを叶える事と欲望を満たす事は同じだと考えて片足を突っ込み、話が違うじゃないかと元来た道を戻ろうとした時には両足どころか腰までドップリ((浸|つ))かって身動きが取れなく成り、そこから((這|は))い出る為の活路は前に進み続けるしか無い事に打ちひしがれてしまうようには成らないだろうって言ってるのさ。
少なくとも事の始まりから知識としてでも知っていれば、余計な事に時間を((費|つい))やす事は無くなるだろう。そうすれば、それだけ安心して望みを叶えて行けるんだからね」
「……その愚か者って、もしかして刹那自身の事を言ってるのか?」
「さあ、どうだろうね?
でもね。だからこそ、その愚か者は思うのさ。どうか、自分と同じ((轍|てつ))を踏まないで欲しい。どうか、心((安|やす))んじてやって行って欲しいって。そうすれば、((楽|らく))では無いかも知れないけれど、((楽|たの))しい人生は生きられるだろう。そうして楽しんでいれば、それだけ早く望みが叶って行くに違いない。だって楽しい時は、早く過ぎて行くものだから」
ボクはどこか遠くを見つめるような目をしながら、言葉を紡いでいきました。
今まで伝えて来た事すべて、思いの((丈|たけ))すべてを込めて。
例え今、伝わらなくても、((届|とど))かなくとも、北郷の受け入れる準備が整ったその時には、必ず届けられますようにと思いを込めながら。
「一刀には分かってもらえるだろうか、この複雑にして((絶妙|ぜつみょう))なる仕組みの((凄|すご))さが。
信じてもらえるだろうか、この仕組みが誰の身の上にも起こりうるという事を。
天道に((近道|ちかみち))は無い。けれど、それぞれの人生を活かす為の道筋が、ボク達一人ひとりにはちゃんと与えられているんだよ」
ボクがそう告げると、北郷は気まずそうに、それでいてこちらを気遣うような物言いで返答してきました。
「まあ……凄い仕組みがあるのかも? とは思うけどな。実際に信じられるかどうかまでは、良く分からん」
北郷の言いようが少し((微笑|ほほえ))ましく、その気遣いが嬉しくて、ボクはちょっと気を良くする。
「今は、それで良いと思う。信じられないのなら、無理に信じようとしなくて良いんだ。必要な事は必要な時に、ちゃんと経験して行くものだからね。
でもね、一刀。これだけは、覚えていて欲しいんだ。
天才の語源は、((天賦|てんぷ))の才。つまりは、天から((賦与|ふよ))されている才能を((指|さ))す。
そして天の慈愛とは、天空に輝くお日様のように、生きとし生きるものすべて、善人・悪人を問わず降り注いでくれているようなもの。決して、人を選んで何かを与えているような、そんなケチな存在じゃない。
だから、一人ひとりがちゃんと、その人なりの人生を生きられるようにと才能を与えてもらっている。((己|おの))が『これぞ、天才』と認める人達に比べれば、自分の才能なんて取るに足らないと思うかも知れないけれど。それでも、自分の人生を十全に生きる為の才能は、過不足なく与えられているんだよ。
ボクの本当の望みは、すべての人々に天才に成ってもらう事だと言った。
けれど((真|まこと))は、すべての人々に自分は既に天才なんだという事に気づいてもらう事なんだよ。そして何より、それを自分の人生に((活|い))かすかどうかは、その人自身にかかっているという事をね」
そう言った後に、ボクは後ろを振り返って北郷の様子を見る。
その時、彼は腕を組みながら何やらブツブツと呟いていました。
ボクが言った事を『そうなのか……?』と肯定してみたり、それを自分の常識と照らし合わせて『でもなぁ……』といった感じで否定してみたりと、色々と自分の中で葛藤している模様。
そんな彼を見て、ボクはちょっと溜め息をつく。
まだ少し、伝えるのが早かったのかな? と思ってしまったからです。
でも、その後、ボクの頭にある考えが思い浮かんできました。
それは、未来からこの世界にやってくるような((突拍子|とっぴょうし))もない事を経験しているのに、いつまでも常識に((拘|こだわ))って頑固さを崩さないでいる北郷に対する、ちょっとした意趣返しを兼ね備えた一石二鳥の良案だったのです。
「ねえ、一刀?」
「んあ……? な、なんだ?」
ボクから急に問いかけられた事に驚いたのか、北郷は慌てて返答してきました。
「大丈夫なのかい?」
「何が?」
「いや、痛くないのかな? って思ってさ」
「だから、何が?」
「お尻」
「は? 尻?」
「そう、お尻。ずっと、痛い痛いって((文句|もんく))ばっかり言ってただろう? だから、もう痛くないのかな? って思って聞いてみたんだよ」
「そっ……それは……」
始め北郷の顔の表情は、ボクが何を言っているのか分からないといった感じでした。
お尻の事を聞いても、意味が分からないといった感じでキョトンとしている始末。
でも、その後、ずばり痛くないのかと問いかけた時から、彼の顔の表情は次第に苦虫を((噛|か))み((潰|つぶ))したように変えていくのでした。
「((そこ|●●))が、今の君の立ち位置だよ」
ボクはニンマリと笑って、そう言い放ちました。
ちょっとしたお茶目が成功して、とても良い気分です。
「良かったね、気がつけてさ?」
「どこがだ! 全然、良くねえよ!!」
「くくくっ……先は長いみたいだね、一刀くん?」
「どうすんだよ、これ! さっきまで全然痛くなかったのに、めちゃくちゃ痛くなってきたじゃないか!!」
「ぷっ……ふふふっ……あはははっ、あっはははははっ!!]
「笑いごとじゃねぇえええ!!」
いたずらが成功した事と、北郷の慌てる様子が笑いのツボに((嵌|はま))ってしまったのが合わさって、ボクは大声で笑う事を止められませんでした。
なんせボクが笑うと北郷が怒り、その怒る様子がまたボクの笑いのツボを刺激するといった悪循環に((陥|おちい))ってしまったからです。
いきなり聞こえてきた大きな笑い声を、並列して行軍している他の将兵達が驚いた表情で見て来ましたが、ボクはそれに構わず笑い続けるのでありました。
それからボク達一向は、一路、黄巾党の拠点である((冀|き))州・((鉅鹿|きょろく))郡・広宗へと進軍して行きました。
北郷はボクの後ろでずっと、あーでもない、こーでもない、と文句ばっかり言って、うるさい事この上なし。
彼にお尻の事を告げた事を、ボクがちょっぴり後悔したのは秘密です。
時は夕刻、大地の地平線にお日様が差し掛かろうとする頃、((魏延|ぎえん))が馬に騎乗しながらボク達の側へとやって来ました。
ボクは、そろそろ本隊ごと行軍停止して野営の準備をする時刻なので、それを報告しに来たのだと思います。
魏延はボクの愛馬・調和と並走した後、一緒に馬に((跨|またが))っている北郷をちょっと((睨|にら))めつけました。
その行動に疑問を抱きながらも、ちょっと北郷の顔色を((窺|うかが))ってみると、彼女の鋭い眼光にビビっている模様。
そんな北郷の様子に気を良くしたのか、魏延は顔の表情を元に戻してから報告があると告げくるのでした。
「どうかしたの、((焔耶|えんや))。そろそろ、野営の準備をする頃合いだろうけど」
「はい、その事なんですが……」
「うん、なにかな?」
「実は、曹孟徳の臣下である楽文謙が伝令役兼、先導役として参りまして、今日はもう少し行軍する距離を伸ばして曹軍が野営する場所の近くまで来てもらえないかとの事です。一存では決められませんので、ご意見をお聞きして来いとの((桔梗|ききょう))さまからの言伝です」
「え? 楽文謙? 彼女が来たの? ここに?」
「はい。今は、桔梗さまの側で待ってもらっています。どう対処したら良いでしょうか?」
「あ〜……そうだった〜……」
魏延の報告を聞いて、ボクは途端に自分の身体が重くなるのを感じました。
思わず崩れ落ちるように両手を投げ出して、身体を調和の首すじに((凭|もた))れかけてしまいます。
色々な出来事があって失念していた、曹操が広宗に居る事を思い出してしまったからでした。
楽進が来たという事は、その背後には曹操の思惑がついているという事です。
するとまた、イジワル大魔王改め、イジワル大魔神が手ぐすねしながら待ち構えている所に出向かなきゃイケないわけでありまして。
そんでもって、そこで曹操御大と身一つで((遭|あ))わなくてはイケなくて。
でも、こっちは遭いたいだなんて((微塵|みじん))も思っていないわけで。
というか、むしろこのまま知らんぷりしちゃおうかな? なんて思っちゃったり。
それよりも、このまま((橋頭堡|きょうとうほ))に戻っちゃった方が建設的? とか思ってみたり。
そんな後ろ向きな事を延々と繰り返す思考に取りつかれてしまい、一気に気落ちしてしまったのでした。
「あー……うー……」
「おい、刹那。いきなり脱力したかと思えば、今度は((呻|うめ))いばかり。さっきから、何をやってるんだ?」
ボクが色々な事を考えあぐねていると、後ろから北郷の呆れるような言葉が投げかけられてきました。
「う〜……なんて言うかさ。こう……行きたくないなぁ〜? とか? どうしようかなぁ〜? とか思ったり? そんな感じなんだよ」
ボクは、((面倒臭|めんどうくさ))そうに北郷の問いに答えました。
だってもう、何をするのも((億劫|おっくう))なんですもん。
「何が、そんなに((嫌|いや))なんだよ?」
今度は、どこか気遣うような問いかけに代わりました。
でもボクは、そういう気遣いは良いから、ほっといてと思ってしまいます。
「え……? ああ……この先にね……居るんだよね……だから、それと((遭|あ))いたくないな〜……って、思っちゃって」
「何が居るんだ?」
「うん……? 魔王……?」
「は……? 魔王?」
ボクの答えに、北郷は呆気に取られたように問いかけてくる。
「いや、大魔王? ていうか、今や大魔神に進化している……?」
「なんだよ、魔王とか魔神って。この世界には、そんなのまで居んのかよ?」
「そうなんだよ。居るんだよ、そんなのが。
なんて言うかさ、こっちの防備なんてね? それこそ、紙で出来た((装甲|そうこう))みたいに((易々|やすやす))と破ってくるんだよね、そいつ。しかも時折、人の弱点を集中的に((抉|えぐ))ってくるって言うの? そんな攻撃もしてくるしさ。もう、なんの打つ手も無しって感じで、やってられないんだよね、ほんと」
「おいおい本当かよ、それ? 確か華陽軍の軍備って、この時代では最先端なんだろう? それが紙みたいに破られるって、どんだけヤバいんだよ。
……よし刹那、そんな知らせは来なかった事にしちまえ。そんで、知らんぷりを決め込んだ後に独自路線で行こう。それがベストの選択だ」
なんとなく北郷との会話の内容が噛み合ってないようではありましが、それに構わず話し続けて行きました。
すると彼は 、まさにボクが欲しかった答えをもたらしてくれたではありませんか。
ボクは我が意を得たりとばかりに喜び((勇|いさ))んで身体を起こし、その答えをもたらしてくれた北郷に話しかけて行きました。
「だよね?! だよね?! 知らんぷり決め込むのが一番良いよね?!」
「おお、そうだとも! 刹那、そんなヤバイやつとなんて遭う必要なんて無い。俺達は、誰にも((出遭|であ))わなかったんだ」
「うん、そうだね一刀。ボク達は、誰にも出遭わなかった。それなら、しょうがないよね?」
「そうだとも! それならば仕方がない!」
「うん、その通り! では、そうしよう!」
ボクと北郷が心を一つにして今後の事について結論づけると、そこに絶対零度の凍えるような言葉が投げかけられてくる。
「……そうしよう、では無いですぞ、刹那様」
「ふぇ……?」
凍えるような冷たい言葉を聞いた瞬間、今までの熱気はどこへやら。
一瞬にして熱気を失ってしまったボクは、そんな言葉を投げかけてきた発言者である魏延へと視線を向けました。
「は、はい。なんでありましょうか、焔耶さん?」
ボクは、((恐|おそ))る((恐|おそ))る魏延に問いかけます。
だって、彼女の背後で何かが立ち昇っていて、それが揺れてるんですもん。
それに言い方が、なんか厳顔っぽいていうか、幼い頃のボクが何か悪さをした時に彼女が((叱|しか))りつけてきた出だしと良く似ていたので、思わず姿勢を正して問いかけてしまったのでした。
「よろしいですかな、刹那様。使者は既にやって来ておるのですぞ。それを無視するなど言語道断、礼儀に反する行為に他なりません。ですから、このまま先導役に従って行軍して行きます。良いですな?!」
いや、何これ?
厳顔っぽいていうか、彼女そのものな言い方ですよね。
なんか可笑しいと思ったボクは、それを問いかけてみる事にしました。
「あの、焔耶さん? なんで、桔梗みたいなしゃべり方なのかな?」
「え? あ、はい。刹那様はきっと面倒臭そうな態度を取るだろうから、その時はこのように申し上げろと、桔梗さまが。ですから、やってみたんです。
けど……あの……少しは似ていましたでしょうか?」
疑問を投げかけるボクに、魏延はちょと照れ気味に答えて来ました。
(おのれ、桔梗ぉおおお! 焔耶にボクの意見を聞いて来いと言って置きながら、未だに行軍し続けていると思ったら、そういう事かぁあああ!!)
ボクが取る態度を予想し、((端|はな))から人の意見なんて無視するつもりだった厳顔の態度に、ボクは物申さずにはいられませんでした。
そんなボクの心情を余所に、魏延は厳顔の言いつけを果たせた事に満足なご様子。
「なんだよ、もう。そんなら、始めからボクの意見なんて聞きに来なきゃいいじゃんか……」
ボクは再び、やさぐれた物言いをしながら愛馬・調和の首に身体を預けて行きました。
「いえ。一応、何かあるかも知れませんので確認して来いと、そう((仰|おっしゃ))っていました。
この分では、無いという事で良さそうですね?」
「はいはい、なーんも無いですよー。これっぽちも、((微塵|みじん))もねー。もう、なんでも好きにしてって感じで、よろしくー」
ボクは((不貞腐|ふてくさ))れた態度で魏延に了承した((旨|むね))を告げました。
もう、すべてが面倒臭いです。やってられません。
「おい、刹那。お前が大将だろうが、しっかりしろって」
北郷が((発破|はっぱ))をかけるように、ボクの身体を片手で揺らしながら話しかけてきました。
ですが、ボクは答えるのも億劫なので、それを気にも留めませんでした。
そうしたやり取りを暫くしていると、魏延が割り込みをかけるように北郷に話しかけてくるのでした。
「おい北郷、気安く刹那様のお身体にさわるな。((穢|けが))れてしまうではないか」
「へ……? いや、俺の手は別に((汚|よご))れてないぞ?」
いきなり話しかけられた北郷はちょっと驚きながらも、自分の手のひらを魏延に見せながらそう答えるのでした。
ボクは魏延と北郷のやり取りを聞いて、穢れると汚れるとでは意味合いが微妙に違うんじゃないかな? とか他人事のように思います。
でも、そんな北郷の態度に気を良くするどころか、さらに気分を害したような物言いで魏延は言い放ってくるのでした。
「うるさい、((黙|だま))れ、話しかけてくるな。というか、口を閉じろ、息をするな。ワタシが((妊娠|にんしん))してしまうではないか」
「は……? いや、息をするなって……俺、死んじゃうじゃね? ていうか、そもそも空気感染で妊娠なんてするわけが――」
「う・る・さ・い」
「……はい」
魏延の((辛辣|しんらつ))な言葉に、冷静なツッコミを入れる北郷。
でも、一言一句を強調する物言いで言い放ってくる魏延に、北郷は借りてきた猫のように神妙になるしかなかったようです。
「この((際|さい))だ、((丁度|ちょうど))良い。北郷、お前に言っておく事がある」
「あのなぁ、焔耶。前にも言ったと思うが、別に俺の事は一刀と呼んで良いぞ? 皆にも、そう言っているしな」
話しかけてくるなという魏延の言葉をものともせず、北郷は彼女に向かって尚も話しかけて行くのでした。
その((果敢|かかん))さは、誠に((称賛|しょうさん))に((値|あたい))するのではないでしょうか。
「良いか、ほ・ん・ご・う?」
「あー……はい」
北郷の主張を聞くも、それをまた切って捨てる魏延。
ボクはここに至って初めて、この二人って仲が悪かったのかな? と思いました。
でも、喧嘩するほど仲が良いとも言いますし、逆かな? とも思います。
「ここ最近、とても無視できない((不埒|ふらち))な((噂|うわさ))が軍全体で持ち上がっている。知っているか?」
「噂?」
「そうだ。ワタシは、そんな噂をまったく信じていない。信じてはいない、が……」
「いや、まったく信じてないんなら、どんな噂が持ち上がっても良いだろうに」
「し・ん・じ・て・は・い・な・い・が・な!」
「あー……はい、はい」
魏延の言葉に再び、つかさずツッコミを入れる北郷。
その返答をする魏延の態度に、北郷は処置なしといった態度で臨でいます。
「良いか? もし、万が一……いや、億分の一でもその噂が本当の事であってみろ? その時は――」
「はあ〜……その時は……?」
ため息交じりで、どうでも良いといった感じで答えを聞く北郷。
そんな北郷に対して、魏延は暗い微笑で返答していく。
「((潰|つぶ))すぞ?」
「っ――?!」
魏延のそれはそれは嬉しそう態度で聞かされた言葉に、北郷は短い悲鳴を上げる。
その気持ちを少し落ち着かせてから、北郷は確かめるように魏延へと問いかけて行くのでした。
「なっ、なんで、俺が潰されなきゃイケないんだよ。ていうか、そもそも、その噂ってなんなんだ?」
「そっ、それは、だな……」
「ああ」
「お前と刹那様が、その……(ゴニョゴニョ)という不埒な噂だ」
「は? なんだって? 良く聞こえなかったんだが?」
先ほどの((不遜|ふそん))な態度と変わって、今度は気弱な姿勢で答えてくる魏延。
北郷は片手を自分の耳に当てて補聴器のような感じにして、魏延の言葉が良く聞こえなかった事を主張するのでした。
「だから、だな。お前と刹那様が、その、(ゴニョゴニョ)という噂だ!」
「ああっ? 俺と刹那が、なんだって?」
北郷は魏延の居る方へ自分の身体を乗り出して、彼女の声を良く聴き取ろうと頑張っています。
ですが、その格好を((傍|はた))から見ると、何故か北郷が魏延を馬鹿にしているようにしか見えないのが不思議ですよね。
「だから! お前と刹那様が! 出来ている! という噂だ!!」
「は? 出来ている?」
「そうだ」
「出来ているって……つまり、そういう意味でだよな?」
「そうだ!」
「俺と刹那が?」
「さっきから、そう言っているだろうが! お前は、ワタシを馬鹿にしているのか?!」
顔を真っ赤にして北郷に怒りの表情を見せる魏延。
「いや、そうなんだな? お前は、ワタシを馬鹿にしているに違いない。だから、先ほどからそんな態度でからかっていたんだな?!」
「いやいやいや、あり得ないって、そんな事。っていうか、そもそもそんな根も葉もない噂を信じる方が可笑しいだろうが。俺達は、男同士だっつうの!」
「なるほど。つまりお前は、ワタシの頭が可笑しいと言いたいわけだな? だから、先ほどから馬鹿にしていたという事か。そうか、よ〜く分かった」
「誰もそんな事、言ってねぇえええ!!」
ボクは二人のやり取りを横目で見つつ、この漫才っていつ終わるのかなぁ? とか思いながら眺めていました。
「おい、刹那! お前からも、なんか言ってくれ。噂は事実無根だってさ」
北郷は形勢不利とでも思ったのか、ボクの着物を引っ張って援軍要請をして来ました。
でも、ボクは億劫で仕方がないので、そのままの体制で知らんぷりを決め込みます。
すると業を煮やした北郷は、ボクの両脇を抱えるように身体を持ち上げて来るではありませんか。
今現在のボクは傷心中だというのに、なんて事をしてくれるのでしょうかね、まったく。
それなら、こっちにだって考えがありますよ?
「ほら、刹那。一言でも良いから、彼女になんか言ってやってくれ」
そんな((切羽詰|せっぱつ))まった様子の北郷に、ボクは片手の指を三本立ち上げてから一言のたまう。
「ボク、刹那。さんちゃい」
「意味不明ぇえええ?!]
ボクのお茶目な所業に怒りを表し絶叫する北郷。
でも、自分で一言でも良いからなんか言ってくれって言ったんでしょうにね?
北郷はちょっと、おこりんぼうさんだと思います。
「なるほど……それが、お前の答えというわけか北郷」
北郷と会話をしていたら、どこからともなく地の底から響きわたって来るような((呻|うめ))き声が聞こえて来ました。
その声の主を探すと、そこには顔に怒りの表情をしながら打ち震えている魏延の姿が。
ボクは何故、彼女が怒っているのかな? と思って自分達の様子を客観視してみます。
でも単に、((調和|白馬))に跨っている((北郷|王子))の胸に身体を預けている((ボク|美女))がいるだけ。
ですから、なんで怒っているのか皆目見当がつきませんでした。
「良いだろう……それがお前の望みならば、望み通りにしてやる」
そう言って魏延は、自分愛用の武器である『((鈍砕骨|どんさいこつ))』をゆっくりと持ち上げて来るのでした。
「え? 俺の望み通り? 本当に?」
「ああ。今ここで、((逝|い))かせてやる」
「え? 行くって、どこに?
ていうか焔耶、なんで武器を持ち上げてくるんだ? 本当に、分かってるのか?」
「ああ、分かっているとも。これ以上、無くな……」
「そっ、そうか。じゃあ今、『行く』が『逝く』に聞こえたりして、なんか字ずらが可笑しいかな? とか思ったのも俺の気のせいだよな? なぁ?」
「ふふっ……ふふふっ……」
「やっぱり、気のせいじゃねぇえええ?!
おい、馬! いや、馬さん! 頼むから、急いでこの場から離れてくれ! ここに居ると危ないぞ! ((主|おも))に、俺の身体が!」
北郷は身の危険を感じたのか、身体を揺らして魏延から離れるべく調和に走るように急かすのでした。
頭の良い我が愛馬は彼の言葉を聞き届けてくれたのか、その場を離れるように颯爽と走り出す。
ですが、馬が走り出すという事は当然の帰結として、ある事象を起こすのでした。
つまり、それは――。
「イタ! 痛い! ちょっ、馬さん! 尻が痛い! もっ、もう少し、ゆっくり走ってくれ!」
という事であります。
北郷は自分の尻の痛みに耐えきれず、調和に向かって速度を落とすように頼むのでした。
ですが、速度を落とせば当然、それに代わる危険が待っているわけでありまして。
「うお?! あぶな! 何すんだよ、焔耶! もう少しで、当たるところだっただろうが!!」
「当たり前だ! 当たるようにしているのだからな!
それより、北郷! 刹那様に((覆|おお))いかぶさるとは、どういう((了見|りょうけん))だ。刹那様に危険が((及|およ))んだりしたら、どうする! サッサと離れろ!!」
「お前が言うなぁあああ!!」
自分の馬を走らせて追いついて来た魏延が、北郷を潰す気満々に風圧を((伴|ともな))う攻撃を繰り出してきました。
北郷はそんな彼女の攻撃を、ボクの身体に覆いかぶさるようにして間一髪で避けたのでした。
その格好を客観的に見てみると、後背位といった感じでしょうか。
そう、後背位。ボクは自分のしている格好を見て、『馬の上に乗ってるのに後背位とは、これいかに?』とか下らないダジャレを思いつき、思わず『ぷっ』と吹き出してしまいました。
「うっ、馬さん! いや、お馬様! 頼む! 頼むから、ゆっくり急いでくれぇえええ!!」
北郷は魏延の攻撃を避き切れなくなってきたのか、調和に再び走る速度を上げるようにと((懇願|こんがん))したみたいです。
それにしても、ゆっくり急げとはまた無茶な要求をするものですね。
ボクは北郷の絶叫を他人事のように聞きながら、あんまり無茶な要求はしない方が良いのにと思っていると、ふと地平線に沈む夕日が目に留まりました。
「ああ……夕日が綺麗だなぁ……」
そう言ってボクは((韜晦|とうかい))し、これから待ち受けているであろう曹操との望まぬ出遭いから目を背けるのでありました。
めでたくなし、めでたくなし。
[補足説明]
文中の『自分が歩く前に道は無く、自分が歩いた((跡|あと))が道に成る。歩みを止めれば当然、道は途中で((途絶|とだ))えてしまう』という文は、一休宗純の言葉として有名な下記の文を意訳したもので御座います。
原文
「この道を行けばどうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし 踏み出せばその一足が道となり その一足が道となる 迷わず行けよ 行けばわかるさ」(出典不明)
読んで下さって、ありがとう御座いました。
それでは。
説明 | ||
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。 皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。 でも、どうなるのか分からない。 涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。 『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。 *この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。 |
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