快傑ネコシエーター6 |
26、アバルー収容所(邂逅)
「竜造寺美猫、またお前か!しばらく反省房で頭を冷やせ!」
「うるせー、離せバカヤロー!」
まるで看守のような収容所の教務官に引きずられるように、監獄と併設された
収容所の反省房に美猫は叩き込まれた。
「あんな不味い配給食なんか食うくらいなら2日3日絶食した方がマシだよ。」
反省房の隣は囚人が入っており、収容所の学生を怯えさせるのが目的であった。
しかしこの反省房の隣の独房には1人の女囚しかいなかったの
美猫にとって別に怖いことはなかった。
「お姉さん、また来ちゃったよ。」
隣の牢の女囚に声を掛けた。
「今度は何をやったの。」
女囚は生気のない声で答えた
「教務官たちがこっそり給食業者から差し入れされた弁当をかっぱらって
みんなで食い散らしたんだ。」
竜造寺美猫は得意そうに答えた。
「だって、収容所の教務官共給食業者から賄賂替わりに御馳走を弁当に入れてもらって
やがるんだ。」
「だから、みんなでおいしく頂いたってことさ。」
「でもあなただけが罰をうけるのはおかしくない。」
女囚は不思議そうに聞いた。
「あたしが率先してやったんだから他の子たちを巻き込む訳にはいかないよ。」
「それに久しぶりにお姉さんに会いたかったんだ。」
「まあぁ。」
「でも、あまり悪さが過ぎると成人してもここを出られなくなるわよ。」
「どうせ、ここを出ても理不尽な差別が待っているだけだし。」
「あなたの両親はあなたがここから出てくるのをずっと楽しみに待っているわよ。」
「あたし、両親居ないんだ。」
「えっ」
「母さんはここに入る前に病死したし、父さんは私が亜人との合いの子だからって
あたしを捨てたんだ。」
「もともと、父さんは亜人である母さんとの結婚を反対されていて母さんが死んだら
あたしの籍を抜いて行方を晦ましたんだ。」
「だから、あたしは母さんの姓の竜造寺を名乗っているんだ」
女囚は何かを思い出したように竜造寺美猫に尋ねた。
「もしよかったら、あなたのお母さんの名前を教えてくれない。」
「竜造寺珠代っていうんだ。」
女囚は小さな声で噛み締めるように。
「珠代ちゃん」
女囚は押し殺したように静かに嗚咽した。
「お姉さん、どうかしたの大丈夫。」
「私なら大丈夫よ、少し昔のことを思い出したら悲しくなってきて。」
「ところであなた、私が人間をたくさん殺した無期懲役犯でもこわくないの。」
「お姉さんがそれだけのことやるからにはちゃんとした理由があるはずだよ、
だから怖いなんて思わないよ。」
「じゃ、お姉さんの昔話を聞いてくれるかな。」
「そのひとはとてもお人好しの善人で人に騙されてもニコニコとして
気にも留めない人だったの。」
「そのひとは私を田舎出の家出娘だと思って大事に保護しているつもりだったの。」
「本当は私よりはるかに年下のそのひとが年上ぶっていたの。」
「私もまたそのように振る舞い甘えていたの。」
「そのひとは名家と呼ばれるような大きな家の出身でそれに
嫌気がさして飛び出して自由な生活を選んだの。」
「しかしそのひとの周りの人間は家の対面を気にして人知れずそのひとを始末したの。」
「細やかな幸せを奪われた私はそのひとの仇を取るため連続殺人を行って復讐したの。」
「事件は表ざたにできないものだったので密かにここで無期懲役に科せられいるの。」
「じゃ、お姉さんが母さんの1番上の姉さんの銀姉さん」
竜造寺美猫は病死した母親から名前を聞いていた唯一血の繋がった親族だった。
ただ当時は行方不明扱いでどこにいるのかもわからなかった。
「銀姉さん。」
「美猫ちゃん、よく顔を見せて頂戴、お母さんの珠代ちゃんの面影があるわねぇ」
二人は牢越しに手を握り合った。
27、アバルー収容所(叛乱)
「では貴方様はここを出ないっていうんですか。」
高位のリーダー格のデミパンパイアは恭しく訪ねた。
「俺がここを出てもどさくさまぎれに処刑の口実をあたえるだけだからな。」
「だから俺はここに残って高みの見物としゃれ込む訳だ」
貴方様と呼ばれた男、マルクス・エルメキウスはにやにやしながら答えた。
「時間になったらこの収容所の鍵を一斉に開放して、脱獄するんだ。」
「この収容所の持っているデミヒューマンのデータを全部消去して焼き払えば、
政府は大混乱でお前たちを捕縛する余裕はなくなる、ついでに看守や刑務官、
教務官、この収容所の職員を全て皆殺しにすれば、後の憂いも無くなる、
滅殺機関だけじゃどうにもならないからな。」
「お前たちの組織が元通り裏社会を牛耳る様になれば少しはこの閉塞した
世の中にいい刺激を与えることができるというものだ。」
「平和ボケした人間どもに亜人たちの鬱屈した怨みを晴らしてやるいい機会だ。」
「じゃ時間になったら作戦開始だ、幸運を祈っているぜ。」
「有り難きお言葉、必ずやこの作戦を成功させ貴方様の思うようにしてみせます。」
監視塔が爆破され火の手が上がると収容所の鍵が全て開放された。
収容された成人前のデミヒューマン、刑務所の犯罪者が一斉に脱走して大混乱になった。
制御室、資料室、データバンクが全て焼損してここに収容されていたものの記録が全て
灰になった。収容所の看守、教務官他全ての職員が殺害され、無法状態になっていた。
「銀ねぇぶじかぁ〜。」
炎の中を独房の竜造寺銀の元へ美猫がやって来た。
竜造寺銀は正座して目をつむってあたりの気配に注意を払っていた。
「美猫、わざわざこんなところまで、」
「早く逃げよう、これ銀ねぇの魔力の残滓がついていたから持ってきたよ。」
白鞘の霊験あらたかな日本刀と聖別された銀の細身のナイフだった。
銀は美猫から受け取ると立ち上がり一緒に逃げる決意をした。
「銀ねぇ、仲間がいるんだ同じ猫又ハーフの子たちだ。」
「見捨てては行けないんだ、みんなにはリーダーが要るんだよ。」
「でも竜造寺銀と一緒だったら後日一緒にいた皆に災いが掛かるわ。」
「だったら銀ねぇ名前を変えればいいよ、どうせ記録は何も残っちゃいないから。」
「じゃ、私は今から白猫銀よ。」
「わかった、白猫銀さんこれからもよろしくお願いしますね。」
二人は独房を出るとこれから生死を共にする仲間の下に走って行った。
28、役所というところ
「197番さん25番窓口にどうぞ。」
「はい。」
「国際S級エクスタミネーター四方野井雅です。」
「これはこんな所まで御足労頂きありがとうございます。」
「今日はどのようなご用件でしょうか。」
役所の責任者と思われるような人物が恭しく対応した。
「実はアバルー収容所の叛乱で難民生活を余儀なくされた被害者を保護したのです。」
「名前は竜造寺美猫、年齢21歳、亜人種別デミヒューマン。」
役所の責任者は一目美猫の顔をみて、
「では戸籍を本日付で作成致します。控えは即日交付で発行いたします。」
「お時間は取らせません、すぐにお持ち致します。」
帰り道で美猫は雅にはしゃぎながら話しかけた。
「すごい、雅さんの顔パスで審査もなしに手続できるんだぁ。」
「正直こんなに簡単にうまくいくとは思わなかったよ」
雅はほっとしたように言った。
一週間後
「207番さん01番窓口にどうぞ。」
「はい。」
「国際S級エクスタミネーター四方野井雅です。」
「これはこんな所まで御足労頂きありがとうございます。」
「今日はどのようなご用件でしょうか。」
役所の責任者と思われるような人物が恭しく対応した。
「実はまたアバルー収容所の叛乱で難民生活を余儀なくされた
被害者を6名程保護したのです。」
「名前は白猫銀、年齢21歳、亜人種別デミヒューマン・・・。」
役所の責任者は一目銀達一同の顔をみて、
「ではみなさんの戸籍を本日付で作成致します。控えは即日交付で発行いたします。」
「お時間は取らせません、すぐにお持ち致します。」
帰り道で銀は雅に不安そうに尋ねた。
「あのお役所の人、私のこと2度見していましたけど大丈夫でしょうか、
21歳というのはあまりにも無理があると思うのですが。」
雅は銀を安心させようと、
「銀さんなら充分21歳で通用しますから心配いりませんよ。」
さらに2週間後
「125番さん17番窓口にどうぞ。」
「はい。」
「国際S級エクスタミネーター四方野井雅です。」
「これはこんな所まで御足労頂きありがとうございます。」
「今日はどのようなご用件でしょうか。」
役所の責任者と思われるような人物が恭しく対応した。
「実はアバルー収容所の叛乱で難民生活を余儀なくされた被害者を保護したのです。」
「名前は安達原さつき、年齢21歳、亜人種別デミヒューマン。」
役所の責任者は一目さつきの顔をみて、
「では戸籍を本日付で作成致します。控えは即日交付で発行いたします。」
「お時間は取らせません、すぐにお持ち致します。」
帰り道でさつきは雅に尋ねた。
「お役所の手続きって何も証明するものが無くても通るんですね。」
「要するに僕の肩書で全部無審査で通るんだ。」
さらに2週間後
011番さん08番窓口にどうぞ。」
「はい。」
「国際S級エクスタミネーター四方野井雅です。」
「これはこんな所まで御足労頂きありがとうございます。」
「今日はどのようなご用件でしょうか。」
役所の責任者と思われるような人物が恭しく対応した。
「実はアバルー収容所の叛乱で難民生活を余儀なくされた被害者を保護したのです。」
「名前は逆神妖子、年齢21歳、亜人種別デミヒューマン。」
役所の責任者は一目妖子の顔をみて、
「では戸籍を本日付で作成致します。控えは即日交付で発行いたします。」
「お時間は取らせません、すぐにお持ち致します。」
帰り道で妖子は雅に尋ねた。
「あんなに簡単にそれも待ち時間なしでお役所ってすごいですね。」
「いやー役所というところはとにかくアバルー収容所のデータの復元がしたいだけで
全然内容の確認とかしないんだ。」
29、紀美新生伝
紀美はカオスな古着屋で地味子服を選んでいた。
雅が選んでくれた(実は銀)地味子服が結構気に入り何着か揃えようと思ったのだった。
普段着はスーパーの安い服を買っていたがこのカオスな古着屋の方がいい品物が安く
手に入ることがわかり、雅がこの古着屋を贔屓にする理由を納得したのであった。
地味子服を着るようになって、お化粧もほぼすっぴんでお肌に乳液と化粧水だけ口紅すら
しないようになった。
化粧品代が浮く分余計に服にお金が掛けられ、さらに自分が今まで買ったブランド物の
スーツ等で着なくなったものを全てこのカオスな古着屋に売り払ったのであった。
ブランドもののスーツで着なくなった理由は流行遅れということもあるが嫌な思い出も
詰まっていて見るだけで思い出して嫌な気分にさせるからであった。
以前勤めていた会社は雅が入社するまでいい思い出が全くなかった。
思い出すだけでも腹が立ってくるのであった。
古着屋での買い取り価格は紀美が思っていた以上で
新しい服が10着以上買える金額だった。
紀美がさて服選びを始めようとしていた時、店に雅がやって来た。
「雅君ちょうど良い所だったわ、普段着を少し多めに買おうと思っているんだけど、
一緒に選んでくれないかな。」
雅にとって青天の霹靂だった。
もう少し時間をずらしてくれば良かったと正直思った。
しかし、紀美がいつもと比べて地味な服装や化粧だったのが気になったので引き受ける
ことにした。
「雅君ここの古着屋さんすごい穴場ね、扱っている服もスーパーの安物よりもいい品物
が一度も使ってない古着として売られているからとってもお得だし、私の着なくなった
服を高価で買ってくれるし。」
「紀美さんあのブランド物のスーツを売っちゃったんですか。」
雅は紀美の思い切りの良さに驚いていた。
「1度着ちゃった物はクリーニングしても中古品だから高く買ってもらえれば御の字よ、
人によっては一度他人が袖を通したものを嫌がる人もいるからね。」
雅は確かに紀美のクローゼットに入っていた嫌な思い出のあるもう2度と着ない服を思い
出し、ただ箪笥の肥やしにするのは勿体無いとは思っていたのだ。
「じゃ、あのクローゼットの中は普段着ている4,5着のスーツしか
残っていないのですか。」
「えぇ、だから新しい服をここで買おうと思ったの。」
「ちょうどいいサイズの生地がシッカリしたブラウスとカーディガン、丈が長めの
スカートを見繕ってくれない、サイズは雅君なら覚えているでしょう。」
雅は新しく生まれかわった紀美のファッションの誕生に立ち会うことになった。
とりあえず紀美の希望通りのものを数着分選んでみた。
紀美は雅の選んだものを一応は確かめたがすぐに愛おしむ様に古着屋のレジに持って
行った。
紀美はすっきりしたような満足そうな顔をして戻ってきた。
「流石、雅君ここに来た私の心境を理解してくれるわね。」
「過去の嫌な思い出ときっぱり縁を切ってこれからは本来の私らしく生きて行こうって。」
雅はいつもの紀美と違い何か距離感が近づいたような気がした。
翌日、事務所に現れた紀美は昨日雅が選んだ服を着ていた。
ちゃんと靴もコーディネイトされていてかなりセンス良く着こなしていた。
化粧も昨日同様ほぼすっぴんだった。
これには、いつも厚化粧とか事務の眼鏡おばさん呼ばわりしている美猫も驚いていた。
唖然としている美猫に対して大人の余裕で、
「あら、どうしたの美猫ちゃん、何か私の格好おかしいかな。」
体のラインを強調しない全体的にソフトな感じで、服装同様に美猫にも優しく接していた。
「いいえ、紀美さん全然おかしくないですよ。」
美猫は動揺していた、紀美がいったいどうなってしまったのかわからなかった。
当然の様にいつものような喧嘩腰にはなれなかった。
さらに雅に対しても露骨な誘惑をしたりせず普通に接していた。
雅は、紀美が大人の対応をして美猫と喧嘩しないのが嬉しかった。
しかし、1人だけとても不満げだったのが所長の高田春樹だった。
美猫と紀美の飽くなきバトルを楽しみにしてかき回すのが趣味だったのである。
大人な対応をする紀美、警戒して慎重に対応する美猫いつものように仲良く喧嘩する
雰囲気ではないのだった。
そこで紀美の本性を出させようと事務所の飲み会を魔窟居酒屋銀猫で開催することにした。
魔窟居酒屋銀猫のいつもの座敷で事務所の飲み会が始まった。
春樹は紀美に酒を奨め、いつものようになって化けの皮が剥がれるように仕向けていた。
相変わらずマイペースなのは美猫でひたすらお造りのはまちやマグロに
舌鼓を打っていた。
紀美はやはりいつもの紀美ではなかった。
逆に春樹に酒を飲むよう仕向けてきた。
下戸の春樹にとって苦しい展開となってきたところで座敷に銀がやって来た。
「無理をしたらだめですよ、高田さんはお酒が飲めない方なんですから。」
どうやら銀は春樹に助け船を出したようだった。
銀は紀美を一目見ていつもと違う様子に気づいた
「紀美さん何か吹っ切れたような感じがしますが。」
「実は、昨日いやな思い出を全部処分したんです。」
「なるほど、とてもいい顔をしていらっしゃる。」
銀は紀美にお酌をした。
「私、銀さんみたいに自然体で生きていきたいんです。」
「私も来年で25才なんです。」
「でも銀さんみたいに若さを保てるかどうか正直不安なんです。
「まあぁ、」
その時襖が開いて、提灯屋の源さんが入ってきた。
「おひぃさんは参考にならんぞ、なんせ変幻自在じゃから、なんせ今年でひゃ、ボク」。
銀はどこから持ってきたかわからない鉄アレイで思いっきり源さんの頭を殴った。
例によって頭に大きな瘤の出来た大きな古狸が転がっていた。
「源さんこんなところで酔いつぶれちゃってしょうがないわね、オホホ。」
「頭にこんなでかい瘤作って酔いつぶれるなんてちょっと無理があると思うな。」
美猫が小声で冷静に突っ込んだ。
酒宴の中心は銀と紀美の若さと美貌を保つコツになり、2人で盛り上がっていた。
紀美はいつもと同じぐらい飲んでいたが乱れることが無く銀の話を真剣に聞いていた。
銀も真剣に話をしていた。
雅は2人の話に相槌を打ちながら自分のペースでお酒を飲んでいた。
美猫は相変わらずマイペースで穴子の寿司に舌鼓を打っていた。
源さんは失神したままだった。
一人面白くないのが春樹であった。
だいぶ、酔いが冷め回復したもののいつもの愉快な座敷には程遠く不満であった。
そこへ本日2人目のゲストが座敷に上がってきた。
大和警部補であった。
「よっ、みやちゃん、俺も混ぜてくれないか。」
雅と2人で飲み始めた。
いつもなら、大和警部補に悪戯を仕掛ける銀だったが紀美との話の方が大事らしく
何も仕掛けずに真剣に話をしていた。
雅と大和警部補も銀と紀美の話に耳を傾けていた。
美猫は相変わらずマイペースでクジラの尾の身の刺身に舌鼓を打っていた。
余程強く殴られたのか源さんはまだ失神したままだった。
やがて、銀と紀美の話も終わり、酒宴はお開きになった。
紀美がかなり飲んでいたので一応雅と美猫が送っていくことになった。
珍しくしっかりした足取りの紀美と雅、美猫が並んで歩く格好で帰っていた。
大和警部補は猫になることなく自分の足で家路に向かっていた。
座敷に残された春樹は唇を噛んでなんでこうなったのか考えていた。
すると意識を取り戻した源さんがぐい飲みを手渡し、お酒を注いで、
「こういう何もかもうまくいかない日もあるさ、まあ一杯いこうじゃないか。」
春樹はそれを一気に飲み干し、徳利から源さんのぐい飲みにお酒を注いだ。
こうして春樹は酔い潰れるまで源さんと飲み明かした。
翌朝、午前様で家に帰ると嫁さんが玄関の前に立っていた。
春樹は土下座して嫁さんに謝って何とか許してもらった。
二日酔いで痛む頭を抱えて事務所に行くといつものように美猫と紀美が怒鳴りあいの
喧嘩をしていた。
どうやら、昨日帰宅したら紀美の部屋が汚くて雅が全部綺麗に片づけていたそうで、
肝心の紀美はお酒がまわってそのまま寝てしまったらしかった。
美猫もそれにつき合わされ朝方やっと雅と帰宅したそうだ。
肝心の雅は朝から大和警部補と仕事の現場に行って不在で
2人の果てしない口喧嘩を止めるものがおらず、
自業自得とはいえ春樹の二日酔いのズキズキ痛む頭に
ギャンギャンと二人の怒声が響いていた。
30、島田課長の秘密
警視庁保安局亜人対策課の島田課長は古参の大和警部補に頭が上がらなかった
島田課長はいわゆるキャリア組の警察官僚で将来の出世が約束されていた。
現場叩上げの大和警部補と違って警視庁保安局亜人対策課は腰掛のようなもので
ここでは部下が実績を上げるだけで自分は何もしない、いや出来なかった。
当然、厄介ごとは部下に丸投げで陰では丸投げ課長と呼ばれていた。
大和警部補は憂さ晴らしに二回ほど呑みに連れて行ってグデングデンに酔い潰した。
しかし、さらなる恥辱が島田課長の身に起ころうとはこのとき誰が予想できたであろうか。
大和警部補と雅は不法入国して罪を犯しているデミバンパイアを追っていた。
この国の裏社会のデミバンパイアの力が弱体化したため海外から出稼ぎしてきた
デミバンパイアが犯罪を起こす様になった。
今、特に危険な人間をターゲットにするデミバンパイアは滅殺機関が水際で抑えて
いるものの、亜人を狙うデミバンパイアはかなり入り込んでいた。
「とりあえず、被害者を最小限に抑えるためには、奴らのアジトを見つけて
一挙に叩き潰すしかないなあ。」
「四,五体ぐらいなら何とか逃がさずに拘束、抹殺できますが散らばって各個撃破
だとその間に被害者が増える可能性がありますね。」
「鉄の調査によると現状では中央公園の西南部に点在するゴーストタウンのどこか
という位でまだ絞り込みが出来ないようです。」
「被害者の損傷の様子からかなりの知性を持つ高位のデミバンパイアで昼間でも
曇りの日なら行動しているようでこれがアジトの特定を難しくしています。」
「現在までの被害者はデミヒューマンの女性12名と早く対処しないと更に被害者
が増える可能性があります。」
「みやちゃん、ヘブラテスラでは一度に何体までデミバンパイアを拘束出来た。」
「高位のデミバンパイアだと一度に3体がいい所です。」
「エリカの使っている44口径の改造自動拳銃でも7発だから7体が限界でしょう。」
「あれが使えるのがみやちゃんぐらいで他のものだと
1発撃つのがやっとのモンスターだからなぁ。」
「会議中失礼。」
島田課長がやって来た。
「やっさん、ちょっと。」
「なんですか課長。」
大和警部補は不機嫌そうに答えた。
「その不法入国のデミバンパイアだけど人間の被害者が出るってことはないよね。」
島田課長は恐る恐る聞いてみた。
「さあわかりませんよ、デミバンパイアに聞いてみないことには。」
大和警部補は投げやりに言った。
「や、やっさん、それじゃ困るんだよ。」
島田課長は慌てて言った。
「では、課の装備に滅殺機関に装備されている
44口径改造自動拳銃を5丁装備して下さい。」
大和警部補は課の予算で雅に銃装させようとした。
島田課長は自分の経歴に瑕がつくのが嫌なので44口径改造自動拳銃を購入する手続き
を申請した。
「やっさん、いいんですか、あれ結構高いってエリカが自慢していましたよ」
雅は心配そうに言った。
「もしなんかあったら課長が責任取るだろうから、大丈夫だよ」
大和警部補は意地悪く言った。
「みやちゃんが4丁装備すれば、一度に10体位デミバンパイアが狩れることになる。」
「残りの1丁は予備でいざとなったらおれでも至近距離からなら1発位撃てるから、
一体なら狩れるからなあ。」
大和警部補は昔を懐かしむように言った。
「しかしあの女少佐って何者だよこんなものを普通に扱っているなんて。」
実際に44口径改造自動拳銃を持った大和警部補は驚いて言った。
「一発撃てるかどうかもわからんぞ。」
「エリカを基準に考えたら普通の人間でも鍛え上げれば何とかなるってことでしょう。」
「みやちゃんは大丈夫なのかこれを4丁も装備して動けるのか。」
「滅殺機関の訓練所で装備して問題なかったです。」
「ただ、高位のライカンスロープでも射撃訓練は必須です。」
「やらなきゃだめか。」
「はい。」
「どうしても。」
「はい。」
射撃訓練所で大和警部補は実際に44口径改造自動拳銃を試射してみた。
あらかじめ雅にコツを教わり、うまく強烈な反動を逃がす様に撃ってみた。
何とか1発撃つのがやっとだったが、至近距離からなら十分戦力になった。
「此奴は、竹鉄砲の比じゃない反動だな、
気を付けないと周りの人間を巻き込みかねない。」
「弾丸の威力も一発でデミバンパイアを仕留められるだけある。」
大和警部補は対デミバンパイアの最新兵器の威力に満足していた。
塗仏の鉄は以前下町の廃れた歓楽街の人間も亜人も誰も近づかない館を
を調べたがまたそこに何かが住み着いている気配を感じていた。
入り口付近の足跡を見つけ確信した。デミバンパイアは以前は一度
別の個体が滅ぼされるとその場所を避ける傾向があったが今度の奴は
敢えてそこに寝床を置くという知性を持った性質の悪い奴の様だった。
鉄は雅に繋ぎをとろうとしていると美猫がやってきた。
「雅さんにすぐに連絡を頼む、以前デミバンパイアを退治した廃れた歓楽街
の人間も亜人も誰も近づかない館に数体のデミバンパイアが住み着いている。」
「昼間のうちに急襲すれば、全部狩れるはず至急現場に行ってくれ。」
雅、美猫、大和警部補が廃れた歓楽街の人間も亜人も誰も近づかない館にやって来た。
雅、大和警部補は半年ぶりだった。
雅は注意深く入り口の足跡を観察した。
「5体いますよ。」
雅は44口径改造自動拳銃を2丁と聖別された銀とチタンのワイヤー。
大和警部補は44口径改造自動拳銃を1丁と中銃身の357マグナム。
美猫は日輪の十字架を持って外で待機していた。
雅と大和警部補は大光量の懐中電灯を額につけて、入り口を蹴破って侵入した。
突然の闖入者にデミバンパイアは混乱した。
雅は正確な射撃で4体を仕留めた。
しかし1体を取り逃がしそうになって大和警部補が中銃身の357マグナムを全弾
撃ち込んでから至近距離から44口径改造自動拳銃を1発撃ち込んだ
しかしデミバンパイアはしぶとく全身にダメージ受けながら外へ出ようした。
その時、屋根の上から美猫が日輪の十字架でデミバンパイアを串刺しにして止めを
刺してようやく指先から塵に変わっていった。
「このデミバンパイア余程高位だったんじゃないかな。」
「昼間の強い日光にも結構耐性があったし、流石に日輪の十字架に敵わなかったけれど。」
美猫はあまりにしぶといデミバンパイアに呆れていた。
最後まで残った一体は全身に護符を身に着けており、デミパンパイアの中でも魔術師
に相当する高位に属し残り4体はその弟子のような存在らしかった。
館の中を調べてみると今までの被害者以外の行方不明だった被害者が13名程いて
何か黒魔術のようなものが行われていたようだった。
雅はエリカに連絡を取り黒魔術を使うデミバンパイアについて聞いてみた。
今苦戦している相手が正に黒魔術で武装したデミバンパイアだそうで重火器で倒すのが
困難で英国より魔術武器を導入して対処する方針だということだった。
人間を襲うか亜人を襲うかの違いがあるが厄介なことに違いはなくターゲットがどうの
とか言っている場合ではなかった。
大和警部補は島田課長を脅して英国より魔術武器の購入を申請させたのであった。
不法入国の高位デミバンパイアの魔術師の脅威、対抗するための度重なる装備の購入
島田課長はストレスのせいか円形脱毛症に掛かってしまった。
それもかなり大きく頭頂部がお小皿大の大きさに見事に禿げてしまった。
禿げてしまった自分の頭を見て愕然としていたがとりあえずズラをのせて隠して
居るがばれたらみんなの笑いものになると戦々恐々であった。
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26、アバルー収容所(邂逅) 27、アバルー収容所(叛乱) 28、役所というところ 29、紀美新生伝 30、島田課長の秘密 あらすじ世界観は快傑ネコシエーター参照 キャラクター紹介一部エピソード裏設定は快傑ネコシエーター2参照 魔力の強弱は快傑ネコシエーター3参照 キャラクター紹介一部エピソード裏設定2は快傑ネコシエーター4参照 キャラクター紹介一部エピソード裏設定3は快傑ネコシエーター5参照 キャラクター紹介一部エピソード裏設定4 お嬢様学校女学生:大和撫子 スリーサイズ82・54・84 大和竜之介の義理の娘 普通の人間 お父さんの大和龍之介が大好きで 丘の上のお嬢様学校に通う高校1年生、大の猫好き、猫又フリーク、お父さんの逞しい猫又姿が好き。 美猫に「ゴメンネ!吸血鬼事件」の解決を依頼、美猫と親しくなる。 |
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