俺と妹とその友人達がシュタインズ・ゲートの選択で導かれるわけがない
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「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

「ニャン♪」

 店に入るなり、まるで自宅に帰ってきたかのようにネコミミを付けたメイド二人に出迎えられた。だがこれはこのお店、並びにこの秋葉原という場所では日常茶飯事だ。

 何故ならここはいわゆるメイド喫茶。メイドのコスプレをしたウェイトレスが帰宅したご主人様という体の客を出迎えるサービスを行っている。

 この俺、高坂京介も最初はさすがに戸惑ったが、今ではすっかり慣れたもので涼しい顔して入る事が出来る――

 と言いたい所だが、実は今回に限ってはわずかながら戸惑いが復活していた。

「いやー、本当に申し分けないでござる。まさかプリティガーデンが臨時休業とは思わなかったものでして」

 四人掛けの席に座るなり、俺の対角線上の席にいる沙織・バジーナが軽い口調で謝ってきた。

 そう、俺達はいつもは別のメイド喫茶によく入り浸っている。しかし今日はたまたまそこが休業で、仕方なく別の店に入ったのだ。同じメイド喫茶とはいえ、さすがに店が異なれば色々と違う所があるから戸惑うのは仕方ない。決してメイドが可愛かったから思わずドキッとしたわけではない。

「沙織が謝る事ないって。臨時休業なんてフツーは誰も思わないから」

「そうね、シビュラの書があったとしてもわからなかったでしょう」

(俺にはその何とかの書というものが何なのかわからないぞ)

 俺は思わず俺の隣に座る黒猫に対して心中でツッコミを入れてしまった。

「代わりと言っては何ですが、ここ『メイクイーン+ニャン2』も負けず劣らずのいいメイド喫茶なのでお許しくだされ」

 沙織の言うとおり、このメイド喫茶は第一印象がかなり良かった。

 まず出迎えてくれたメイド二人はもちろんの事、内装もしっかりしていてオタク向けのメイド喫茶ながらくつろげる空気を感じる。それにぱっと見回して接客している所を目にしても、メイド達のサービスは過剰すぎず粗末すぎず行われているようだ。

「ちょっと、何メイドさん達を凝視してデレデレしてんの。チョー気持ち悪いんですけど。キモいじゃなくて気持ち悪い」

「俺を某漫画の某先輩みたいな言い方するな!」

 目の前に座る愚妹、桐乃のどこかで聞いた事がある罵倒は、俺の感情を逆撫でするよりも早くツッコミ精神に触れてしまった。

「ささ、夫婦漫才はそれまでにして、次のコミマに出す同人誌の内容を決めましょうぞ」

「「夫婦漫才じゃない!」」

 くっ、そんなつもりじゃないのにセリフが被るとか、本当にアニメみたいじゃないか。

「相変わらず仲が良い事ね。爆ぜるべきではないかしら」

 澄ました顔で怖い事を言うな、黒猫。お前に言われるとシャレにならない。

「――いや、あれはマスケラだ。ローゼンメイデンの方ではない」

「あー、そういえば水銀燈とはちょっと違うお」

「ん?」

 その時、俺の後ろの席の会話が耳に入ってきた。どうやら黒猫の格好について話しているようだ。

 俺達の間ではすっかり慣れてしまったが、オタクの聖地秋葉原とは言えども普段からコスプレしている奴なんて客引きをしているメイド以外ではあまり見かけない。後ろの席の人達が反応するのも無理はない。

「でもマスケラって、メルルの裏番だった奴っしょ? しかも打ち切り同然で終わった」

「ッ――!」

 太った大男の発した言葉に、当人である黒猫が眉をひそめて反応した。

「僕さ、どっちかっつーとメルルの方が好きなんよ。マスケラは何つーか、設定厨乙みたいな?」

「っふ、ふふふふ……!」

 見事なまでに急所を突いて来やがるな! 黒猫がそれに対して笑ってるけど、明らかに目は笑ってないしトーンも地獄から聞こえてくるみたいに恐ろしく低いぞ!

「おい、ダル――」

「難解な用語や設定を詰め込めばいいってモンじゃないお。そんなの今時あの時間帯に放送したってウケるわけがなかったんだお。そりゃメルルに負けて当然――」

「「((煉獄に焼かれろ|インフェルノ・フレイム))!!」」

「!?」

 いくら何でもそこまで言う必要はないだろ、と俺が心中でツッコミを入れるより早く、黒猫ともう一人が反応した。しかも普通に考えたら被るはずのない言葉が被って。

「ダル、貴様は((禁じられた言葉|フォビドゥン・ワード))を口にしてしまった。その罪はもはや業火で焼かれるしかあがなえるものではない!」

「それだけでは飽き足らないわ。その後は((嘆きの川|コキュートス))で永遠に氷漬けにするべきよ」

 おいおい、黒猫と同レベルの中二病を発揮できる奴が他にいたのかよ。しかもさっきのマスケラをけなしていた大男に同席していた白衣の奴じゃないか。

「ちょ、何このステレオ中二病?」

 意味不明な言葉で罵倒されている当の本人も、二人を交互に見ながら困惑しているようだ。まあ、誰だっていきなり見知らぬ相手から中二病の言葉で罵倒されたら「お、おう」ってなってしまうな。

「ククク……! 貴様、わかっているではないか。名を何と言う?」

「黒猫よ、マッド・サイエンティスト。貴方は?」

「フッ、この俺を一目見てマッド・サイエンティストと見抜くとは、やはり只者ではないな。聞いて驚け、俺の名は鳳凰い――」

「いい加減にせんか、岡部倫太郎!」

 白衣の男が自己紹介するより早く、彼の隣に座っていた女性がツッコミを入れて制止した。

「中二病同士で張り合ってるんじゃない。店の迷惑だろうが」

「だがクリスティーナよ――」

「クリスティーナじゃないと何度も言ってるでしょう! 今度言ったら脳みそに電極突っ込むぞ」

 なにそれこわい。この人、綺麗な顔立ちしてさらりとR-18Gな事を言うな。

「橋田――そこの男の言った事が気に障ったなら、私が代わりに謝るわ、ごめんなさい。だからこれで終わりにしましょう?」

「……そうね、私も思わず激昂してしまったわ。ごめんなさい」

 かと思ったら急に芸能人の芸能スマイルみたいな表情に切り替えて謝ってきた。横やりが入ったおかげか、黒猫も落ち着きを取り戻したようで素直に頭を下げる。

「ねえ」

「ん?」

 唐突に桐乃が神妙な顔で入り込んできた。こりゃ、さすがの桐乃も迷惑した事に立腹したか――

「そこの人、メルルの名場面と言えば?」

 は?

「……一般的には第1期第6話とされているけど、僕は第2期第10話でメルルが全てを捨てる覚悟で宇宙最強の魔法少女になる事を決意するシーンの方が上だと思ってるお」

「あんた……わかってるじゃない!」

 お前は何を言っているんだ、桐乃。サムズアップするんじゃない、そっちの罵倒されてた男もクドい笑顔でサムズアップを返すんじゃない。

 

 ――で、どうしてこうなった。

「それはいわゆる共鳴というやつですな、京介氏」

 そんな答えは欲しくないぞ沙織。口を((ω|そんなふう))にしながら言われると煽られてるようでイラッとする。

「劇場版は流石の出来だったんだけど、あたしとしては――」

「禿同。せっかくの映画なんだからもっとこう――」

「そうか、やはり貴様も((運命石の扉|シュタインズ・ゲート))の選択に導かれし――」

「いいえ、私は((運命の記述|デスティニー・レコード))の通りに――」

 俺の目の前には、八人掛けの席で和気藹々と話している桐乃や黒猫、白衣の男に大男がいる。どうも先程のメルルおよびマスケラの話で盛り上がってるようだ。いや、黒猫と白衣の男はマスケラじゃないのか? 相変わらずあの世界観にはついて行けん。

「まさか岡部の中二病についていける人が他にいるなんてね」

 俺の目の前に座っている電極発言の人があきれた表情でため息をつく。

「俺もまさか黒猫と話が通じる人がいるなんて思いませんでしたよ」

 中二病自体は少なくないだろうけど、現実で中二病を堂々と発揮してる奴なんて黒猫胃界じゃ都市伝説かと思った。

「あの子、「黒猫」って言うの? 流石に本名じゃないと思うけど、ハンドルネーム?」

「そうですぞ。我々はSNSで集ったサークルでして。あ、申し遅れました、私は沙織・バジーナ、それ以上でもそれ以下でもないでござる」

「ゼータかよ」

 うん? 今この人何か呟いたか?

「っと、私は牧瀬紅莉栖よ。そこの太った男は橋田至、白衣の方は岡部倫太郎」

「鳳凰院凶魔だっ!」

「はいはい、岡部倫太郎」

 岡部と呼ばれた男がぐぬぬとしかめ面を牧瀬さんに向けてくる。仲が良さそうだな、この人達。

「牧瀬紅莉栖……もしかして、サイエンスに論文が掲載された、若き天才少女と呼ばれた、あの牧瀬紅莉栖氏でござるか?」

「天才少女って……。サイエンスに論文が載ったのは事実よ」

 俺にはなんだかよくわからないけど、偉業を成し遂げたというのだけは理解できた。

「そんな人が、なぜ秋葉原に?」

「色々と事情があってね、主にこいつらが原因で」

 口ではあきれたように言っているが、特に嫌々ではないように見える。いわゆる腐れ縁という奴だろうか。

「あ、俺だけ自己紹介がまだでしたね。俺は高坂京介です。あと、そっちの橋田さんと話しているのは俺の妹で、桐乃と言います」

「あれ、二人は本名なの? しかも兄妹?」

「まあ、こっちも色々と事情がありまして。桐乃は「きりりん」というハンドルネームがあるけど、俺は特には」

 元々、桐乃の付き添いで入ったようなものだしな。

「そうなの。でも兄妹で同じサークルに入ってるなんて、仲が良いのね」

「ハハハ……」

 くっ、以前の俺だったら否定してたが、今の俺では否定出来ない。黒歴史とは言わんが、あの事は未だに俺をさいなむ。

「お待たせしました、特製プリン・ア・ラ・モードですニャン」

 牧瀬さんの目の前に、生クリームやらフルーツやらで壮大に飾られたプリンが置かれる。先程席を移った際に頼んだモノが一通り来たようだ。

「ありがとう、まゆり」

「違うよー、紅莉栖ちゃん。ここではマユシィ・ニャンニャンなのですニャン♪」

「そうだったわね」

 このメイドと牧瀬さんは顔見知りらしい。繋がりはまったくわからないが、もしかしたらそっちの橋田さんか岡部さんの知り合いなのかもしれない。

(そうだとしたら、それなんてエロゲ?)

 うらやまけしからん……と言いたい所だが、俺が言えた立場じゃないな。まったく、どうしてこうなった。

「お詫びとして、今度のコミマで紅莉栖ちゃんもコスプレするニャン」

「どうしてそうなる」

「おや?」

 マユシィと名乗ったメイドの言葉に沙織が反応した。何を考えている、沙織。口を((ω|そんなふう))にしていたら、何かよからぬ事を企んでいるようにしか見えないぞ。

「もしかして、マユシィ氏と牧瀬氏もコミマには行くのですか?」

「うん、マユシィはレイヤーとしていつも参加しているのですニャン。楽しいから紅莉栖ちゃんもコミマ参加しようって、いつも誘ってるんだけど」

 マユシィさんが(((´・ω・`)|こんなかお))になる。

「べ、別に嫌というわけじゃないのよ。でも学会とかセミナーとか色々都合が……」

「紅莉栖ちゃん……」

「うぅ……」

 凄い、こんな光景アニメでしか見た事がないぞ。しかも牧瀬さんの立場は大概男が受け持っている。

「でしたら、コスプレはひとまず置いといて、先にコミマだけでも体験するというのはいかがでしょう?」

「えっ?」

 その時、俺の脳裏に奇妙な数値が浮かび上がったような気がした。

 

説明
俺妹とシュタゲのクロスオーバー小説です。ノリは俺妹の方に寄っています。
続きは……全く考えていないので出るかどうかわかりません。
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続きは!?(yaru_yara_call)
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