その夜、私は |
私は、何故ここにいるんだろう。
月だけが私を照らす、真夜中。私は屋上にいた。
深夜でも私の学校は警備が手薄だから、普通に屋上に上がれる。
「私は、なに?」
虚ろな目で月を見上げて、ぽつりと呟いた。
何なの?
誰なの?
何の為
何を求めて
何がしたくて
何をするの?
何を愛するの?
何の為に生きてるの?
携帯を取り出し、腐れ縁の男子に電話をかける。
思ったよりも早く繋がった。
「・・・もしもし?」
『もしもしー、どしたの?』
「今、屋上」
『またかよ!・・・つか、開放しすぎだよな〜』
「なんかさ・・・、自分を見失っちゃって」
『ぷっ!なに言ってんだよ』
「隆司」
『ん?あ、お前早めに帰れよ!』
「りゅう、じ」
『いっつも眠そうなんだからなぁ・・・お前は』
「・・・りゅ、う・・・じぃ・・・」
『ちょ、なに泣いてんだよ!ちょっと待ってろ!!』
電話が切れた。
頬を伝う雫と、無意識に震えていた唇に驚く。
なんで、泣いてるの?
どうして?
なぜ?
なんのため?
自分のせいで隆司を困らせてしまったことに、自分に嫌悪感を抱く。
私なんて、いらない。
人を困らせて、不安にさせて生きていくのなら、消えた方が皆喜ぶだろう。
というよりも私が死んで困る人なんているんだろうか。私の為に泣く人なんているんだろうか。いないんだろうな。
私は何故、生きているの?
知らないうちに進む足。
フェンスを乗り越えたところで後ろの扉が大きな音を立てて開いた。
隆司だ。
肩で息をして、とても辛そう。何で来たの?
「千早、なにしてんの?」
「私ね、なんで生きてるのかな?」
嗚呼、私の名を呼んでくれる最後の人はこいつか。
「いても、いなくても、一緒だよ。じゃ、いないほうが良いよ絶対。私なんか一人いなくてもいい」
「は?何言ってんの?」
彼の握った拳が震えている。私の言葉を紡ぐ唇が震えている。
「いる理由なんてないの。いらないの、私は。私は何の為にも生きてないの」
そう言って、足を離した。
呆然とした彼の顔が最後に見えた。
間抜け。最後に見る景色は、綺麗な月と、間抜けなお前の顔だったよ。
すっと体が軽くなったその時、
腕を掴まれて、ぐいっと引かれた。痛い。
腕が抜けそうな力に引かれ、私は屋上の硬い地面に落ちる。
「った・・・。何すんのよ」
「こっちの台詞だ!!」
怒った声でそう叫び、私に駆け寄ってきた彼。殴られる?そう思った瞬間、何かに包まれた。
生きているからこそ感じられるあたたかさ、柔らかさ、人肌。
「死ぬなんて・・・言うなよ」
さっきの勢いとは正反対の小さな声。でも、とてもしっかりした声で、私の奥にまで伝わった。
「生きるのに理由なんていらねぇよ!それでもお前が、理由を求めるなら、俺が理由になるよ!!」
ぎゅっと私を抱きしめた彼の腕の力が強まった。
こんなにも彼は力が強かったんだろうか。
「俺の為に生きろ!俺のために死ぬな!俺のこと考えて、死のうなんて考えんな!俺を生きる理由にしろよ!だからもう・・・死のうとすんな!!」
彼の言葉とあたたかさに涙腺が緩んだ。
止まらない涙を私は拭おうとはせず、ただ、彼に抱きついた。
「隆司、隆司、りゅうじ、りゅ、じぃ!!」
彼の名を、壊れたように繰り返した。
子供みたいにわんわん泣いた。
それでも彼は呆れず、私の背を擦って、ずっと抱きしめてくれた。
その夜、私は
生きる理由を手に入れた。
end.
説明 | ||
どうして、 何の為に、 何を求めて、 生きているの? |
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コメント | ||
華詩さま>ちょっと情緒不安定なときに書いた作品です。そんなに深く考えてくださって嬉しいです^^ コメント有難うございました。(xx凛) 生きている理由を探して迷子になり、どうにもならない感情が支配していた彼女を引き戻した隆司君は最高の男、いや人間ですね。千早ちゃん、彼と目一杯生きて最後に生きてきた理由を二人で見つけて欲しいな。(華詩) |
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