IS~歪みの世界の物語~
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6.クラス

 

キーンコーンカーンコーン

 

 隼人と笑顔でにらみ合いをしたまま予鈴が鳴り響き、俺たち男を見に来た人も、次第に帰っていく。

 

「………後でさ、自己紹介しないかな?」

 

 最初に沈黙を破ったのは隼人だった。

 ………自己紹介?

 

「授業が終わった放課後、二人で、お互いに隠し事なしでさ」

「……………」

「返答は急がないよ。放課後に、兄さんにばれないように言ってくれればそれでいいから」

 

「また後で」と、優しそうな笑顔を見せて隼人は自分の席に帰っていく。

 罠か、それとも本心か……あの笑みのせいで、いまいち読み取れない。

 

「さて、どうするか……」

「どうしたの〜?」

「へ?…あ、ああ。何でもないよ。えっと……」

 

 急に隣の席の子が話しかけてきて戸惑ってしまう。

 記憶力はいいのに、彼女の名前を思い出せな……いや、一夏の姿を見てそれどころじゃなかったな。そういえば。

 ……よし。

 

「ごめんね。名前を覚えるのが苦手だから、名前を教えてもらっていいか?」

「布仏本音だよ〜。もう忘れないでね〜、しーくん」

「……それ、俺の事だよな?」

「そうだよ〜。お姉ちゃんから話は聞いてるでしょ〜?」

 

 姉?

 話を聞いたと言われたから……きっと会ったことのある人だよな?

 

1. 更識楯無

2. ISの参考書を持ってきてくれた人

3. 昨日襲った人物

4. 俺の世界にいる人

 

解答:2だろうな。

 というより、何で問題形式になっているんだ?

 

「あ〜すまない。その姉の人とはまだ話してないんだ」

「え〜?そうなんだ〜。でも、お姉ちゃんがいるから本音って呼んでね〜」

「ああ、わかった。よろしくな、本音」

 

 コクンと、本音さんがのほほんとしたまま頷いた。

 ………にしても、昨日見た姉とはまったく違いすぎるな。

 

バシンッ!!

 

………さて、今の一夏みたいに叩かれないように頑張るか。

 というか、一夏は何で叩かれてるんだよ……。

 

 

 

 二時間目は一夏が「全部わかりません」と胸を張って答えたところ以外は何も問題は無く、休憩に。

ちなみに俺は、楯無ノートと、さらに詳しく知りたいときは本音さんに聞きながらなんとか過ごした。……早く資料を覚えよう。

 

「兄さん、大丈夫?」

「は、隼人……何でお前は大丈夫なんだ……?」

「お前が勉強していなかっただけだろ」

「ウグッ……。けど、間違えは人類誰でもあることだ!」

「それなら隼人に聞けばいい話だろ」

「兄さん、僕に一回も頼みに来てないけどね」

「………ってことは自業自得か。諦めろ」

「し、シグこそ隣の人に聞いているだろ!?」

「これをもらった(この世界に来た)のは昨日だぞ?覚えれるわけないだろ」

 

 そんな感じに男三人で(ある意味)地獄の時間を過ごしていると……また女子の声が唐突に来た。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

 箒さん(本人がそう呼べと、一夏からの伝言)の時とは違い、良い意味で育ちのいい、

――――――悪い意味で、俺たちを見下しているような声に、少しだけイラッとした。

 金髪の長い髪に青色の目。俺たちを見る目や口調から、貴族の人だとすぐに理解する。

 

「えっと……何ですか?」

 

 三人の中で一番早く対応した隼人が、丁寧な口調でその人に聞く。

 ……が、相手は何か気に入らなかったのか、さらに俺たちを見下す目に変えて俺たちを見た。

 

「何ですの?わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

「……………」

 

 反射的に言い返そうとする衝動を、理性でなんとか押さえた。

 正直、このタイプの人間は苦手で………あとは織斑兄弟に任せよう。

 

「悪いな。少なくとも、俺は君の事を知らないし」

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

「……なぁ、シグ。代表候補生って何?」

 

 がたたっ。

 聞き耳を立てていた生徒数人と隼人がずっこける。

 

「……兄さん」

「単語から想像しろよ……。簡単に言ったら、国の代表として選ばれた人のことだろ」

 

 正直、俺も詳しく知らないが、とりあえずISにおいては強い人なんだということくらいはわかる。

 それすらもわかってなかったのか、一夏はポンッと手を叩いて納得していた。

 …………一夏のことが、いろいろ心配になってきた。

 

「そう、つまりわたくしはエリートなのですわ!」

 

 再びテンションが上がる代表候補生。

 

「本来なら、わたくしのような選ばれた人間とは、クラスと同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「「そうか。それはラッキーだ」」

 

 おお、さすが双子。声の棒読み感もそっくりだ。

 

「………まぁでも?わたくしは優秀ですがら、あなた達のような人間にも優しくあげますわよ」

 

 ………やばい。そろそろ我慢の限界だ。そのふざけた態度をなんとかさせたい。

 

「ISのことでわからないことがあれば、まぁ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一共感を倒したエリート中のエリートですから」

「――――あれ?俺も教官を倒しましたよ」

「うん。僕も」

 

 一夏と隼人が衝撃的な(セシリアにとっては)告白をする。俺は………まぁ、最後の最後で負けたから何も言わない。

 ふとセシリアを見てみると、セシリアが硬直して……ああ、怒ってる、怒ってる。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「1. 女子だけではってオチ

 2.ただの誤情報

 3.一夏達が試験を受ける前の話の情報。

―――――二人とも、どれだと思う?」

「1だ」

「1だね」

「俺もそう思う」

 

 再び頭に出てきた質問を二人に聞いてみると、同じ答えが返ってきた。

男三人の意見があったと同時に代表候補生様が怒りで真っ赤になっている。

 

キーン コーン カーン コーン

 

「っ………………!また後で来ますわ!逃げないことね!よくって!?」

 

 俺はその言葉を無視してさっさと席に座る。

 ………昔から嫌いなんだよな。同じ人間を、軽蔑した目で見る人って。

 

 ―――――そいつと一緒に居たら、殺してしまうくらいに。

 

「……ああ、再来週行われるクラス対抗戦にでる代表者を決めないといけないな」

 

 教壇に立った織斑教師が思い出したように呟く。

 代表者……クラス委員長みたいなものらしい。年にあるクラス対抗戦などの行事で戦ったり何かいろいろするらしい。

 以上、さっき織斑先生が説明したものをまとめた物でした。

 こんな面倒なことは誰もやりたくないだろう。無論俺も嫌だ。

 ……ということで。

 

「俺は織斑一夏を推薦します」

 

 速攻で手を挙げて言い放つ。

 こういう時は、誰かを推薦すれば……

 

「わ、私も一夏くんを推薦します!」

「私もそれが良いと思います!」

 

 予想通り、一夏に票がどんどん集まっていく。

 はっはっはっ。これで俺が選ばれることは―――

 

「私はシグ君を〜」

 

 ……と思った瞬間に誰が余計なことを……!

 誰だ?って本音さん!?なんてことを……いや、ピースしなくていいから!

 

「あ、私もマイハニー……じゃなくて、シグ君を推薦します!」

「おいこら。今なんて言った」

「私もシグ君を推薦します!」

「私は隼人君を!」

 

 俺のツッコミが綺麗にかき消されるほどヒートアップするクラスの人たち。

 本当に元気だな〜と、諦めて他人事のように傍観していると。

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

 

 バンッ!と大声を張りながら、先ほどの女子、セシリア・オルコットが立ち上がった。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 ……こいつ、どれだけ自分の事が好きなんだ?一種の病気と思えてくる。

 けど、面倒なクラス代表を受け入れる満々みたいだし……

 

「それじゃあ、セシリアさんも立候補するのか?」

「ええ。あなたみたいな男なのか女なのかわからない人よりは数百倍わたくしの方がふさわしくてよ」

 

 ………我慢、我慢。

 

「実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で常識が抜けているサル頭の人や、ヘラヘラ笑ってばかりいるような人を代表にされたら困ります!」

 

 

 

 

セシリアの言葉に、一夏と隼人もわずかに反応する。さすがに、少し頭に来たようだった。

だからだろう。

――――――クラスの女子が感じた、何らかの気配に二人が気づかなかったのは。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

「───黙れ」

 

冷たく、静かな声がセシリアの声を遮った。

 

「クラス代表は実力トップがなるべき?お前の考えを押し付けんな。代表候補が何してもいいと思うなよ」

 

声の主はシグ・シリオン。相手を拒絶するような言い方にセシリアの頭に簡単に血が昇る。

 

「あら?ISの基礎も知らない貴方がよくそんなこと言えますね?」

「IS学園に入学が決められたのは昨日の夕方。もともと入学できると思ってなかったから基礎を知らないは当然。ついでに言うとクラス代表を決めるのに知識とかいらないと思うけど?」 「…………!」

 

怒りで顔が真っ赤になっていくのが見えた。

それでも、自分はともかく一夏達を馬鹿にされるのは嫌なので後悔はしない。

 静かになったのを確認して、俺も口を閉ざす。

 ……ま、すぐに強い人がなるべきだとか、男は黙ってろとか。そんな言い訳でもするつもりだろうけど。

 

 すぐに来る言い訳に対抗することを考えながら、セシリアの言葉を待つ。

 怒りで真っ赤になったセシリアは、苦しみ紛れに。

 

―――――――シグが予想していたこととは、真逆の事を口に出した。

 

「まったく、嫌な人ですわね。

貴方みたいな人と友達になっている人も、貴方に似てさぞかし嫌な性格をしているのでしょうね。そんな人とは関わ…り……た……」

 

その続きを、セシリアは言えなかった。

シグから出ている、膨大な量の殺気によって。

 

「……さっきからゴタゴタと。俺を馬鹿にするならともかく、この場にいない人を侮辱するのはどういう了見だ?」

 

 近くにいる子がヒッ!と小さく悲鳴を上げる。

 “拘束魔法”のおかげで眼の色が変わることがないが、それでも殺気をまき散らそうとすることは止めない。

 

「ふ、ふん!す、すぐに暴力のことが頭に浮かぶのですね!こ、これだから野蛮人は」

「――――――黙れ」

「っ……!」

 

次に余計なことを言えば―――――殺す。

シグの思考が殺気の中から伝わったのか、セシリアが……いや、クラスの全体が声一つ立てなくなる。

 

 

 

バシ────ン!!

 

シグの頭に出席簿が落ちた。もちろん、織村教師の手によって。

 

「変な気配を撒き散らすな。不愉快だ」

「………はい」

 

心の中で、この人に逆らってはいけないと心の中に刻む。

なんか……久しぶりに戦っても絶対に勝てそうにないと思いました。

 

「それで?どうするんだセシリア・オルコット」

 

セシリアが織村先生の声でハッと意識を取り戻す。

 

「け、決闘ですわ!!」

 

バンッと机を叩き、シグを睨む。一夏と隼人には眼中にないようだった。

 

「決闘で決めるのなら貴方も文句はないですわね!?」

「……一夏達は何か意見はあるか?」

「いや、何もないよ」

 

即座に隼人が反応し、一夏が遅れて同意する。

 

「貴方はどうなのですか?」

「別に。公認の場なら、何をしても言い訳が通るからな」

「…………………」

 

まるで、「許可があるからこの人を殺せる」というような言い方にセシリアは少し絶句する。

 

「それで、ハンデはどれくらいつけるんだ?」

「あら?さっそくお願いかしら?」

 

 話し相手が一夏に変わったからか、セシリアが勢いを取り戻す。

 

「いや、俺たちがどのくらいハンデをつけたらいいかなーって」

 

 そう一夏が言った途端、クラスから爆笑が巻き起こった。

 

「い、一夏君、それ本気で言っているの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「三人はISを使えるかもしれないけど、それは言いすぎよ」

「――――――どこがですか?」

 

 女子たちの大爆笑のなか、大きくない、静かな声がクラスの中に響き渡った。

 その声で笑いが止まり、女子の視線が一点に集まった。

 

笑い声を止めた人物――――織斑隼人に向かって。

 

「女子が男子よりも強いのはISが使えるからだけですよね?それ以外の基本的な体力、力、運動神経……それらは僕たちの方が勝ってます。

―――――ISを使ったことのないあなた達が、ISに乗れる僕たちに必ず勝てますか?」

 

 条件が同じなら、男の方が有利。

 それを理解できたからこそ、隼人の言葉に誰も反論は出さなかった。

 

「それじゃあ、ハンデはお互い無ってことで」

「―――――いや、俺はハンデをつけるぞ」

「………え?」

 

 隼人が……いや、クラスにいる全員がシグの言葉に絶句する。

 

「もう一度言うぞ。俺はハンデを付けて戦う。それも、普通から見たら勝ち目のないくらいのハンデをな」

「ま、待ちなさい!わたくしは代表候補生ですのよ!?むしろ、ハンデをつけるのはわたくしの方なのに、どうしてハンデを付けるのですか!?わたくしを侮辱していますの!?貴方なんて、すぐに倒し」

 

 セシリアの言葉は、再び最後まで言えずに止まった。

 今度は殺気ではない。

 ――――――目の前にいたシグが、『消えた』。

 

「なんか言ったか?セシリア・オルコット」

 

 その声は、シグの方を向いていたセシリアの後ろから聞こえた。

 手には、楯無と戦った時に使った大鎌。そして、鎌の刃は、セシリアの首に当たる寸前で止められていた。

 

 一メートルくらいの距離。

 その間にある無数の机、椅子、人。

 

 それらがあるにも関わらず、誰もシグが移動した瞬間が見えていなかった。

 

「『絶対』なんて言葉は存在しない。ISに勝てるわけない?笑わせるな。俺がその常識を壊してやるよ」

「っ……………」

 

 誰も、何も反論は無かった。

 

 

 

 

「シグ・シリオン。その武器を収めろ。一夏、隼人。お前たちはどうする」

 

 織斑教師が手を叩いて、クラスの全員を現実に帰還させる。

 

「俺は、ハンデは無くいい」

「僕も兄さんと同じです」

「……よし、話はまとまったな。

 勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。四人はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

説明
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