命-MIKOTO-21-話 |
命21話
【萌黄】
緊張感を持って扉の取っ手ギシギシ音を立てながらゆっくりと開いていく。
建て付けが悪いのかギギギッという怪しい音を立てていてやがて扉の先の
光景が目の前に広がっていく。
一見して研究所らしい雰囲気が出ているけれど、所々に病院で見そうな器具も
見受けられる。研究している器具からは漫画とかでよく見る謎の煙とか上がってる。
いやいや、演出でしょ。ありえないでしょ。と頭の中で言い聞かせるが
目の前に見える光景は変わらなかった。
「いらっしゃい、新しいお客さん。そして同じ一族」
その中で熱心に計算をしていた長身の男が立ち上がって私たちの近くまで歩いてくる。
艶のある綺麗な黒髪で左目辺りだけ長くて隠しているようになっていた。
もう見た感じから怪しさのオーラが漂っていて今すぐ帰りたい。
しかし、振り返って命ちゃんの表情を見ていると期待に満ちた目をしていて
今すぐ帰るとは言いにくい雰囲気だった。疲れてまで歩いた意味もなくなってしまうし。
それと同じ一族ってあたりに少しばかり引っかかるものがある。
「それってどういう意味よ」
「まぁ、こうして集まってる面子を見てればわかることじゃない」
食いかかるように聞こうとすると私の肩に手を乗せて諭すように語る瞳魅。
そして怪しげに明らかに怖そうな雰囲気を出していた男は…怯えた子犬のように
目を泳がせていた。
「おいおい、こいつは人見知りで気が弱いんだから威嚇せんでくれよ…」
その場から見えない場所から知らない男の声が聞こえてきた。
どこにいるのだろうと辺りを探ってみると、器具が多く置かれている一角の物陰に
なっている所から車椅子を転がして姿を見せた。
明るい色の髪の毛に合ったような人懐っこい表情を見せる。
二人揃ってお揃いの白衣姿。やや身長差はあるような気がする。
だがどこか奥底に黒いものを感じるような気がする。これまでの人生の直感で。
それに気弱な人の相棒は逆なものが定番だったりするし。
そこまで考えていると私こそ漫画脳に染まってしまっているじゃないかと
軽く自己嫌悪に陥った。
「気悪くしたならすまない…。その、聖から説明を受けたと思うが…」
気が弱い方がちょっと震えながら、ドスが入った声で説明してきた。
確かに前もって色々説明受けたかもしれないが。
「私はあまり覚えていない!」
「威張って言うことじゃないですよ、萌黄…」
あまりに可哀想になってきたのか命ちゃんが間に入る形でこの話は一度終わることに
なった。
つまりは普通の人じゃない、妖怪の力を受けている私たちの血筋と彼等の血筋は
大体同じようなものらしい。
その能力に人々に畏れられ疎まれここに逃げ込んで隠れるようにして住んでいるらしい。
「それは大変でしたね」
ホロリと感動する命ちゃんの後に笑いながら言っていた境遇を少し笑いながら訂正する
車椅子の男。
「でもここら辺は余計なこと言わなければ普通に買い物くらいはできるから
食べ物とかには困らないけどね」
「そ、そうだったんですか…」
「でもね、病院とかそういう医学や科学の部分に触れるとそうはいかない。
だから我々はそういう者にも安心して利用できるように考えたわけさ」
一応善行として考えては見たけれど、利用するものはほとんどいないと。
まぁ当然といえば当然か。私たちの血筋関連の人しか訪れないんだろうし。
「それにしてもそこの長身の金髪ちゃんは優しいね。こんな怪しい自分たちの
話をちゃんと聞いて自分のことのように受け止める」
「え、あ、その…」
「怪しいって自覚あったんだ…」
私の一言に命ちゃんは慌てて私の口を塞いで言葉を出さないようにしたけれど
一度出ちゃった言葉は取り消せないのだ。
私の言葉に笑みを浮かべる車椅子の男は全てを認めたけど、
私たちを見つめて言い返してきた。
「でも初めての利用者が来てくれたじゃないか。いい研究にもなる」
「研究…それを聞いて、はいそうですかって言う通りにすると思う?」
「思うね、だって君たちが求めることは現代の科学の一歩先を進むことを
しようとしているのだからね」
言われてみればその通りである。言われなくても気づいてはいたけど
あまりに相手の思うとおりにされるのは癪に障るから敢えて嫌な言い回しをするが
平然をしていたのには驚きだった。
「さて、遊びもほどほどにして本題に入ろうか」
私は目の前の車椅子に遊ばれていたらしく、ちょっとムッときてしまったが
そのたびに言い返すと先に進まないから黙っておくことにした。
愛する命ちゃんが喜ぶためだ。
「あ、そうだ。その前に貴方達の名前を教えてよ。いちいち車椅子男や長身目隠し男とか
言うのがめんどくさいからさ」
「心の中でそんな風に呼んでたんだね」
「イエス!」
グッと親指をあげて舌をぺろっと出す。
これ以上ないくらいイラッとくると言われることをやってみた。
車椅子さんの笑顔の中は今どんな感じなのか非常に気になるところだった。
「まぁ、全くこちらのことも話さないのは不公平だからね、いいよ。
僕はここの土地や建物を所有していて、主に研究に関する全てを指示してる。
社、社伊佐(やしろ・いさ)だ」
「社…」
「そういえば命さんのとこと同じ苗字だけど本家である社はいくつにも分かれて
それぞれ違った生活をしていたから僕とは全く関係ないから安心して」
「そ、そうだったんですか…」
「それとその大きい助手は…」
「橡(くぬぎ)だ…」
車椅子の男は伊佐と名乗って、左目を隠しているのは橡と言った。
「くぬぎって女の子っぽくて可愛い名前だね」
「!」
「でしょー」
ちょっと怖い感じがする人が可愛い名前だとギャップの効果で可愛く感じてくる。
それを伊佐が共感するように私の言葉に乗ってきた。
そして当の橡さんは両手を顔に当てて赤面しているではないか。
人間、見た目と中身は違うということがよくわかった瞬間であった。
***
「そろそろ本題入ってくれませんか」
私と伊佐たちの盛り上がりを止めたのはずっと私たちを見守ってきた命ちゃんだった。
柔らかい表情の中にも少し強張っていて怖い雰囲気を出しているのがわかった。
命ちゃん、こういう怖い表情もできたんだ。また新たな一面を見てしまった。
これからなるべく命ちゃんを怒らせないようにしようと心に誓った。
「本題、あぁ。子供の件か。任せてよ」
伊佐は一度本気で考えるフリを見せながらもすぐにカラッとした笑顔を向けて
命ちゃんを宥めるように言っていた。
それからこれまでにないくらい真剣な面持ちで私たちを向かい合った。
「これからやることはさっきも言ったかと思うけど未知の世界だ。人間を少しといえど
人工的なものが関わるわけだから何が起こるかはまだわからない」
「はい…」
ジッと伊佐を見ていた命ちゃんは今までに見せたことないほど怖い顔をしていた。
怒っているというわけではなく、すごく真剣なのだろう。おそらく私がどうにかなって
しまいそうになったあの日以来かもしれない。
「もう覚悟はできてるよね。じゃあ、相手の細胞を少し頂くことにするよ」
「相手?」
「そう、種子を作るためには相手の細胞が最低限量必要なんだよ。
いくらなんでも何もないところからは作れないからね」
「あ、なら…」
命ちゃんが私の顔を見て近づこうとした瞬間、伊佐が予想外の言葉を漏らす。
「えっと、相手は瞳魅ちゃん?」
「ちがうよ!わたし!」
「ん、君? いくらなんでも子供から細胞取るのは気が引けるな〜」
「子供じゃないよ!っていうかそのフリわざと言ってるでしょ!」
瞳魅に視線を移して言うものだから私は思い切り怒鳴りながら顔を私の方へ
向けて言ったのだ。わざと言っていると信じたいが伊佐の表情は心底意外そうな顔を
していたからけっこうショックだった。
「まぁ、どっちでもいいや。えっと血液、髪の毛。後、肉をちょっと削らせてね〜」
「最後のが怖い!」
「大丈夫大丈夫、痛くないからね〜。よちよち〜」
「だから子供扱いすんな!っていうかそれ子供でもないし赤ちゃんだし!!」
「も、萌黄…。落ち着いて」
私たち3人を囲んでいた他の面々は呆れたような苦笑いを浮かべていた。
**
「さて、ついでに体液も採取させてもらったよ。多分これのいずれかが良い反応を
してくれると思うよ」
「後は何をすればいいの?」
「もう帰っていいよ」
「は?」
他にもすることがあるかと思い込んだ私は伊佐の言葉に耳を疑って聞き直すと
同じ返事が帰ってきた。
「これはとても繊細な研究なんでね。ちょっとやそっとでできるもんじゃないんだよ。
少し時間をくれないかな」
「わかりました」
私の代わりに隣にいた命ちゃんが深く頷く。そこで伊佐がもう一度忠告めいた発言を
命ちゃんに向けて言う。
「もう一度言うけど、みんなが全て無事に終わるってことは約束できないよ。
なるべく良い方向へ向かえるよう尽くすけど、そこは覚悟しておいてね」
「はい!」
「…そこまでの決意ができているならいいんだ」
それを言ったっきり私たちと視線を合わせず研究部屋の更に奥の部屋へ黙って
入っていった。それを確認した橡が私たちに深々と頭を下げて一言。
「悪いようにはしません。伊佐はああ見えてすごく責任感が強いんです」
「はい…。お願いします」
橡に合わせて私たちも頭を下げた。そして私たち4人はこの怪しげな研究所を出て
家へ帰ることにした。
帰る途中の道でちょっと腕が痛んだ。研究用に欲しいと腕の肉をちょっぴり切除した
部分が少し疼く様に痛んだが、これも命ちゃんのためと思って我慢していたが。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ」
多分ちょっと抉れてるんだろうな。まぁ何かで怪我したと思えばたいしたことないか。
そう頭の中で思いながら、歩いているうちに駅にたどり着いてその場にいた「5人」は
電車の中へ乗り込んで、空いている席に座り一息ついた。
…5人?
一人多い気配がする方に視線をやるとみゅーずちゃんが私と命ちゃんの間に
挟まれるように座っていた。
「おひさしぶり〜」
「お久しぶりです、みゅーずちゃんさん」
「んー、なんかその呼び方変だぞ。命ちゃん♪」
本当に久しぶりでどこから沸いてきたのかわからなかったけど、見慣れたその顔に
命ちゃんは嬉しそうに声をかけて手をぎゅっとしていた。
そしてついさっきまで子供のようにはしゃいでいた彼女は少しの間笑顔が消えて
まるで母親が娘を見るような眼差しで呟いた。
「決心したんだね〜」
「はい…」
「がんばんなよ。応援してるからさ」
「はい…!」
それからいつものように子供らしい「へにゃっ」とした笑顔を浮かべて
他愛のない話で盛り上がっていた。周りに人がいないのもあってか彼女は歌いだしたり
して、いつの間にか目的の駅についていた。
「今夜は泊まらせてくれるかな?」
「いいですよ。みゅーずちゃんさんの分の部屋はいつも空けてます」
「ありがとう、命。おぉ…」
みゅーずちゃんが命ちゃんに礼を言うと空を見て驚いたような声を出していた。
嬉しそうに眺めているのを私たちも見上げて同じように微笑んだ。
一人で見ても何とも思わないその、一面に広がる星空がみんなで見るととても
綺麗に感じられた。いつかはわからないけど、この中でまた一人増えるかもしれないと
思うと命ちゃんほどじゃないけれど、ワクワクするような気がした。
「うん。綺麗だ」
「綺麗ですね」
これだけ綺麗だと良いこと置きそうだねって全く繋がりを感じない言葉に
首を傾げ、家に着く頃にはすっかり忘れていた。
そうして連絡が来るまでの間、普段の日常に戻っていくのであった。
続
説明 | ||
怪しい場所にたどり着いて不思議な人たちと出会う命達。 果たして子供は作れるのでしょうか。 今回は無駄なやりとりもあってけっこうグダグダです。 毎回グダグダですけどw 読んでてさっさと本題入れやってなるかもしれませんが よければ見ていってくれれば幸いです。 |
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