魔法科高校の劣等生 お兄さまとの平穏はわたしの手で守ってみせます
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魔法科高校の劣等生 お兄さまとの平穏はわたしの手で守ってみせます

 

 みなさん、おはようございます。司波深雪です。

 夏休みの残りが後1日となった今日の午後をいかがお過ごしでしょうか?

 ちなみに今わたしはこの夏ずっと育ててきたアサガオに水をやりながらのんびりと過ごしています。

 アサガオはちゃんと管理して育ててさえいれば、秋も深まりを見せるまで花を咲かせ続けるんですよ。知ってましたか?

「深雪」

 お兄さまに呼ばれたので水やりを手早く済ませて家の中へと入ります。

「何でしょうか、お兄さま?」

 リビングのソファーには世界一の凛々しさを誇る男性であるお兄さま♪

 そして──

「いい加減出て行ってくれませんか? ……七草先輩、十文字変態」

 お兄さまの左右を固めるテロリストと変態。

 わたしとお兄さまの平穏を乱してお兄さまのお嫁さんの座を狙う史上最悪なテロリスト七草真由美先輩。

 お兄さまの義妹を詐称し何度追い出してもいつの間にか家の中にいる十文字変態(全裸)。

 わたしの不快指数を上げて止まない2人の存在が目に入ってしまいました。

「真由美は深雪のことを心配してこうして俺にアドバイスしてくれてるんだ。失礼なことを言うんじゃない」

 すっかりチョロインと化したお兄さまは今ではすっかり七草先輩の言いなりです。

「フフフフフ。そうよ。お姉さんはいつだって深雪ちゃんのことを大切に思ってるわ」

 わたしがお兄さまと結婚して“普通の”兄妹となるために。このテロリストはいずれ排除してやりたいと思います。

「いずれ、どちらがお兄ちゃんの本当の妹か勝負して決めよう」

「…………お断りします」

 十文字変態はいつまで経っても自分がお兄さまの妹であるという妄想から抜け出してくれません。

 魔術や体術ならともかく、わたしよりもお料理やお裁縫が上手なのが腹の立つ全裸です。妹技能勝負とか挑まれて負けてしまったらわたしは永遠に引き篭もるしかなくなります。絶対に相手にしたくない変態です。

「それでお兄さま。用事というのは何でしょうか?」

 お兄さまの顔だけを見て尋ねます。わたしはいずれ“普通の”妹としてお兄さまに嫁ぎます。言い換えれば、その途中で出会う有象無象に気を止めている暇はないのです。

 

 お兄さまは咳払いをしてから真剣な瞳でおっしゃられました。

「深雪は夏休みの宿題は全部終わったのか?」

 一瞬、驚いてしまいました。

 まさかお兄さまが、小学生の子どもを持つ親のような質問をするとは思わなかったからです。でも、その質問に答えるのは容易でした。

「はい。宿題は早めに全部済ませておきました」

 笑顔でお答えします。

 わたしは常日頃お兄さまにとって良き妹であるよう常に心掛けています。お兄さまに恥をかかせるような真似はしないように注意しています。

 夏休みの宿題を忘れる、最終日になって大慌てで行う。そういった醜態はお兄さまの恥に繋がるので絶対にしないように気を引き締めているのです。

「それは良かった」

 ホッとした表情を見せるお兄さま。

 わたしは一度も宿題を忘れたことはないので、そこまで安心していただくことでもないような気がするのですが?

「果たして深雪ちゃんは本当に夏休みの宿題を全部終えたのかしら?」

 七草先輩が黒い笑みを浮かべながらわたしを刺すように見ています。

「うむ。お兄ちゃんの妹が本当に宿題を全てやり終えているのか確かめてみる必要があるな」

 十文字変態も同じく黒い顔をしてわたしに不敵に笑い掛けます。

「わたしはちゃんと夏休みの宿題を終わらせていますっ!」

 自室に戻り、夏休みの課題一覧が書かれたプリントを持って戻ってきました。

 お兄さまの前であらぬ誤解を受けるなどあってはならないのです。潔癖を証明しなくてはなりません。

「1つずつ確かめていきたいと思います」

 わたしは指差し確認をしながら、こくご、さんすう、りか、しゃかい、えいご、こうさく、じゆうけんきゅう。全ての課題が終わっていることを証明してみせました。

「どうです? わたしはちゃんと課題を終えていますよ」

 胸を反らしながらお兄さまにまとわり付く悪党2人に勝ち誇って報告します。わたしはお兄さまに褒められるタイプの妹なのですっ!

「確かにこのプリントに書いてある課題はみんなこなしてあるわね。でもこれ……最新版の課題一覧ではないわよ」

 七草先輩がとても黒い笑みを浮かべました。

「ええっ?」

 予想外のことを言われてわたしも驚かざるを得ません。

「1年一科生用の夏休み課題一覧は……これよ」

 七草先輩は胸の谷間からプリントを取り出してみせました。そうたいして大きくもないくせに頑張り過ぎですっ!

「どう、達也くん?」

「どうとは?」

「…………お姉さんの大人の魅力にドキドキした?」

「大人の魅力?」

 大きく首を捻るお兄さま。

 あっ。七草先輩が落ち込みました。

 テロリストとはいえ今のはちょっと可哀想だと思います。

 無理してセクシー路線を演出したのにまるで気が惹けなかったのですから。

「これから幾らでもチャンスは作れるから諦めないっ!」

 ひとしきり落ち込んだ後、七草先輩は復活を果たしました。

「さあ、新しい課題一覧を確かめていくわよ」

「………………は、はい」

 納得もできませんが、異議を唱えるわけにもいきませんでした。

「こくご、さんすう、りか、しゃかい、えいご、こうさく、じゆうけんきゅう。ここまでは同じのようね」

 七草先輩の言葉にホッとします。でも、安心できたのはここまででした。

「おやおやおや〜? この部分に、アサガオの観察日誌って書いてあるわよぉ」

「ええっ!? 高校生にもなってアサガオの観察日誌ですか?」

 慌てて七草先輩が指さしている部分を読んでみます。

 

『アサガオの観察日誌(代替物も可) 評価ポイント:100億万点』

 

 わたしのプリントには書かれていなかった一文が追加されていました。

「わたし……アサガオは育てていましたが、観察日誌は付けていませんよ」

 綺麗に花が咲いた時だけ写真には収めてきましたが、定期的に撮影してきたわけではありません。

 アサガオ観察日誌を今からでも付けるという選択肢は取れそうにありません。

「まあまあまあ。それは大変よぉ」

 右手を口に当てながら大げさに驚いてみせる七草先輩。とてもわざとらしい大根演技です。でも、こんな態度を取ってくる以上……わたしを嵌める気満々なのだと思います。

「お兄ちゃんの妹を自称するくせに夏休みの宿題をやっていないだとっ!? そんな恥知らずな真似が許されると思ってるのか!」

 手下を使ってこうやって煽ってくるのですから。

「こんなの出来レースです。わたしは不当に嵌められていますっ!」

 夏休みの最後にして、テロリストが本腰を入れて攻めてきました。

 わたしは頑張ってお兄さまとの平穏な生活を守り、そしてお兄さまにお嫁入りして“普通の”妹になりたいと思います。

 

 

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 わたしの知らないところで夏休みの課題が変更し、わたしはまだ一つ課題が済んでない状況に落とされてしまいました。

 言いたいことは山ほどありますが、まずは愚痴の前に現状をより深くチェックしていきたいと思います。

「…………評価ポイント100億万点って何ですか?」

 既に日本語がおかしい記述です。億万って子どもがよく使う存在しない単位ですよね?

当然わたしの持っているプリントには書かれていない記述です。

「宿題を忘れた際の罰則の基準となる点数のことよ。こくごは1点、さんすうは1点っていう風に全部書いてあるわよ」

 七草先輩の持っているプリントのバージョンにだけ書かれているポイントのようです。

「こくごやさんすうが1点なのに、どうしてアサガオ観察日誌は100億万点なんて法外な点数なんですか?」

 チートにも程があると思います。まるでお兄さまの存在です。

「さあ? 学校側の決定だからお姉さんにもよくわからないわ」

 学校の中枢部にいるテロリストは首を傾げて知らないフリをしています。この女狐。わざとらしいにも程がありますっ!

 でも、ここはグッと我慢です。

「…………それで、100億万点の罰則というのはどんなものなんですか?」

 わたしに何が待ち受けているのかそれを確かめなくては。

 七草先輩と十文字変態は顔を見合わせました。

「100億万点なんだもの。退学しかないわよね」

「ああ。なんたって100億万点だからな。退学しかあるまい」

 ……この2人、絶対今決めてます。あり得ない悪党どもです。

「そんないい加減な決……」

 立ち上がりながら文句を述べようという時でした。言葉の途中でドサッと大きな音がしました。慌てて顔を向けるとお兄さまが頭を思い切り打ちながら床に倒れていました。

「深雪が……俺の妹が……俺の妹が退学…………俺の妹がこんなに可愛いわけが……」

 お兄さまが霞んだ瞳でブツブツと言っておられます。口から大量の血が。これ、きっと舌噛んじゃってます。

「…………自己修復術式オートスタート。魔法式ロードコアエイドスデータ、バックアップよりリード修復開始……完了」

 あっ、再起動に入りました。

「…………深雪が退学だなんて……退学だなんて……俺は兄失格だ……」

 でも、心の傷までは癒せなかったようで芋虫のように丸まっていじけています。完璧超人始祖を誇ったお兄さまの姿がまたありませんでした。最近、お兄さまのメンタルがとても弱くなったような気がします。

 わたしは七草先輩を非難の篭った視線で見ます。2人は冷や汗を流しながら顔を再び見合わせました。

「たっ、退学は厳しすぎだったわね」

「うむ。課題を忘れたぐらいで退学は厳し過ぎるな」

 七草先輩がお兄さまの肩に手を置きます。

「大丈夫よ。お姉さんが学校側に掛け合うから深雪ちゃんを退学になんてさせないわ」

「本当ですかっ!」

 復活を遂げるお兄さま。わたしのために一生懸命になってくださるのはいいのですが。テロリストに精神を侵食され過ぎです。わたしを害そうとする張本人なんですよ。

「お姉さんの大事な妹だもの。任せておいて頂戴っ!」

 胸を叩いて自信を語る七草先輩。わたしを退学にしようとする張本人がよく言います。

「…………真由美っ」

 突如室内設置のスピーカーからファンファーレが鳴り響きました。

「よっしゃ! 好感度アップ♪」

 ガッツポーズを作りながら喜ぶテロリスト。何ですか、このマッチポンプはっ!?

 これが権力を手にするということなのですか!?

 自作自演で大金持ちですか!? 子沢山ですかっ!?

「だが、お兄ちゃんの妹は処罰を受けんわけにはいかないぞ」

 一方でやたらシリアスな顔をしてソファーに腰を下ろす十文字変態。よく考えるとこのソファー、変態が裸で座っているのですから後で滅菌消毒しないといけませんね。

「何しろ減点100億万点だからな。いくら生徒会長の七草が掛け合おうと無罪放免というわけにはいかん」

「深雪に一体どんな罰がっ! どんな罰が下されると!」

 いつもはクールなお兄さまが動揺しておられます。そして、悪人2人にカモられています。司波家は大ピンチです。

「………………っ」

 勿体ぶっている小悪党は巨悪の顔を見ました。どうやら何も考えていなかったようです。

 そして、わたしが最後に倒すべき巨悪は和やかな笑顔で恐ろしい罰を口にしたのでした。

 

「そうね。深雪ちゃんも心静かに反省したいだろうから……遠くの地方の禅寺に2ヶ月ほど謹慎ということでいいんじゃないかしら?」

 無言のまま無茶を言う生徒会長を睨みます。

「禅寺で謹慎、ですか?」

 お兄さまはorzな姿勢で震えています。わたし関連で弱すぎです。他の悪党を屠るみたいに一切の容赦なくこのテロリストも撃ってしまえばいいのに。

「深雪ちゃんもね……高校に入学してから色々あったから疲れていると思うのよ」

 七草先輩はお兄さまの肩に手を置いて優しく語り掛けます。

「だからね。空気が綺麗な静かな自然の中で静養すれば深雪ちゃんも元気になると思うのよ。そう、全ては深雪ちゃんのためなの」

 キラキラした瞳でお兄さまの顔を見つめる七草先輩。これがテロリストのやり方です。相手の弱いところを徹底的に突いてくるのです。

「深雪の……ため……」

 わたしのためという言葉さえ付けばとりあえず全てを許してしまうお兄さまは誰よりもチョロインだと思います。

「深雪ちゃんが不在の間、達也くんの面倒はお姉さんがみるわ。お兄さん想いの深雪ちゃんもこれで安心ね」

「深雪……俺の心配を先にしてくれるとは。クッ」

 感情が乏しいとかいう設定のわりにわりと涙ぐむお兄さま。すっかりわたしを送り出す気になってます。そして、わたしを東京から追い出すことで利益を得る人物が1人。

「達也くんのお世話はお姉さんが24時間付きっきりでしてあげるから心配ないわ」

「それが狙いですよね」

 司波家を乗っ取り、わたしが“普通の”妹になるのを邪魔せんとする真の悪。

「仮にわたしを追い出したところで、十文字変態は家に居座り続けますよ。先輩の好きにはできません」

「十文字くんは深雪ちゃんが禅寺に出発する当日に何の人為性も見られない不幸な事故に遭ってあの世……いえ、長期入院するわ。だから達也くんのことはお姉さんに任せて」

テロリストは自分の仲間さえも始末するつもりでした。この調子ならわたしの所にも刺客が放たれかねません。

「フッ。俺ならばトラックにぶつかられてもファランクスで防いでみせる」

強気な態度を崩さない十文字変態。こういう脳筋は味方の場合には真っ先にやられるのが漫画のお約束です。七草先輩の敵ではないでしょう。

やはりここはわたしが立ち上がらないといけない時のようです。

「お兄さまとの平穏はわたし自身の手で守ってみせます」

夏休みの宿題を巡ってテロリストとの戦いです。

 

 

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「大体、わたしはその新しい課題一覧を受け取っていないのですよ。なのに処罰で禅寺送りとかどう考えても理不尽です」

七草先輩に向かって正当な抗議を行ないます。

生徒会の横暴以外の何物でもありません。

「確かに夏休みの課題1年一科生バージョンが出たのは夏休みが始まってからよ」

「それではプリントを受け取れない生徒がいても仕方がありません。少なくとも追加分に関しては罰則対象から外すべきです」

わたしに非はありません。生徒会長の悪意に屈するわけにはいきません。

「でも、1年の一科生には連絡網を通じて全員に連絡を回したはずなのよ」

七草先輩が瞳を細めました。

「えっ? 連絡網、ですか……」

マズイところを突かれた。一番、厄介なところを。

わたしは一瞬にして窮地に立たされたことを悟りました。そしてそんなわたしの動揺を見逃すテロリストではありませんでした。

「深雪ちゃんは確か最後だったわねえ。その前は……誰だったかしら?」

「そ、それは…………」

「いい子の深雪ちゃんが知らないわけがないわよねぇ」

お兄さまが心配そうな表情で見ています。お兄さまに心配を掛けさせるわけにはいきません。だから嫌ですが、答えることにしました。

「…………SGGK森崎、駿さんです」

七草先輩はニコッと微笑みました。知っているだろうにわざとらしいです。

そしてテロリストは容赦のない攻撃を仕掛けてきたのです。

「森崎くんから連絡はあったの?」

「……わ、わかりません」

「どうしてわからないの?」

「森崎さんからの連絡は全て着信拒否に設定しているからです」

森崎さんからの電話なんて……生理的に無理過ぎます。

わたしの返答を聞いて七草先輩の笑みは一層輝きました。

「それじゃあ深雪ちゃんに情報が回らなかったのは森崎くんの怠慢が原因とは言い切れないわねえ」

七草先輩はこれが言いたいがために連絡網なんて有名無実化した連絡手段をわざわざ使ったのです。完璧に嵌められました。

「夏休み中森崎くんは深雪ちゃんに付きまとっていたのだから、話を聞くチャンスは幾らでもあったはずよ。それなのに深雪ちゃんが彼を一方的に遠ざけて話を聞かなかったんじゃねえ」

「フム。お兄ちゃんの妹の責任は無視できんな」

 十文字変態まで調子に乗ってわたしを責めています。わたしが罰せられれば変態も消されるというのにです。これだから脳筋は嫌なんです。

「ですが、森崎さんはわたしにそのプリントを見せる気配すら見せませんでした。そのような環境でわたしに非を求められましてもっ」

 まだです。まだ負けるわけにはいきません。

 わたしはお兄さまと結婚して“普通の”妹になるんですっ!

「仕方ありません。こうなったらここに森崎さんを呼んで連絡網及びプリントの行方を聞いてみましょう」

 家内にゾンビウイルスを運び込むようで嫌ですが仕方ありません。わたしとお兄さまの未来のために森崎さんにわたしの無罪を訴えてもらいたいと思います。

 けれど、その時でした。ドーンというとても大きな音が鳴り響きました。

「何ですか今の、国土地理院が地図を書き換えないといけないような大きな爆発音は?」

 まるで森崎さんの頭に仕掛けておいたN2爆雷が爆発したかのようです。このタイミングで七草先輩の携帯に電話が入りました。

「はい、はい。今の爆発は、何の事件性も見られずに東京湾の底に両手両足を縛られて沈んでいた森崎くんの頭の中のN2爆雷が爆発したと。人的被害はなかったので終業式は明日予定通りに行うと。わかりました。それでは失礼します」

 七草先輩はとても説明口調で電話の内容を復唱してくれました。

「というわけで森崎くんに話を聞くことはできなくなったわ」

 この人はまさかそれだけのために東京湾、いいえ、東京を危険に晒したというのですか?

「仮にもし、今後お姉さんたちの前に森崎くんが現れても、それは森崎くんに似た別の何かだから証言能力はなしだわね」

 勝ち誇った笑みを浮かべる七草先輩。

 

「さあ、これで深雪ちゃんの無罪を証明する手段はなくなったわよ」

 余裕の笑みに圧迫されてどんどん上半身が後ろに仰け反っていきます。

「禅寺でゆっくり静養してきてね。達也くんはお姉さんが面倒をみるから」

 テロリストはわたしの処罰が濃厚になって落ち込み放しのお兄さまの肩に手を置きます。まるで自分の所有物だと言わんばかりに。

「深雪ちゃんが戻ってきた時には表札のところに司波達也、深雪と並んで真由美の名前が並んでいるはずよ。ううん、それだけじゃない。深雪ちゃんの甥か姪の名もあるかもね」

「……何年わたしを追放するつもりなんですか」

 わたしがお兄さまとの結婚を諦める決定打を受けるまでですね。わたしが七草先輩のポジションならそうします。つまり、一生禅寺に閉じ込められる可能性も少なくありません。

「2学期からはお姉さんと達也くんのキャッキャウフフのラブコメディー『たつまゆ劇場』が始まるわ」

「そんなこと認められませんっ! この世界はわたしがお兄さまと結ばれて如何に“普通の”兄妹となるのか描くために存在するのです」

 テロリストはこの世界の根源を破壊するつもりだったのです。わたしはこの世界を、お兄さまとの愛を守ってみせます。

「たつまゆは大人気なのよ。この駄作だって『たつまゆ』ってタグを入れれば大きな注目を集めるわ。こんな風にタグを追加すればね……」

 テロリストは遂に世界の改変に着手し始めました。

「そんなの詐欺じゃないですかっ! 世界中から非難が巻き起こりますよ」

 カップリング詐欺は文句がうるさくて対処が大変なんです。原作でこの2人、少しもカップじゃないですよねとか言っても通じないんです。

「こうすれば……詐欺じゃないわよ。えいっ♪」

 七草先輩は……史上最悪のテロリストは……お兄さまに……わたしのお兄さまに……わたしの未来の旦那さまに……こともあろうか正面から抱きついて……ほっぺにチューしました。

 わたしのお兄さまに、テロリストがほっぺにチューを……。

 お兄さまが……キズモノにされてしまいました……。

 

「これで誰がどう見ても『たつまゆ』ね。カップリング詐欺には当たらないわ」

 勝ち誇るこの世全ての悪。そして淫乱魔神。この女だけは許せません。

「生徒会長っ! 一刻も早くお兄さまから離れてください」

 強引に引き剥がしに掛かります。

「嫌よ。お姉さんはこれから達也くんと大人のラブコメをするんですもの」

「お兄さまも今すぐその悪女から離れてください。汚染されますよ!」

「…………深雪が禅寺に入ったら俺も頭を丸めて妹の帰りを静かに待とう」

 お兄さまはわたしが劣等生の烙印を押されかけて呆然とするばかり。この世全ての悪に何をされたのかも理解していません。

 状況は圧倒的不利です。でも、わたしはお兄さまの妹。ゆくゆくはお兄さまにお嫁入りすることが運命付けられている“普通の”妹なのです。

 こんなところで、お兄さまに色目使う年増テロリストなんかに負けられないんです。

「七草先輩がわたしが宿題を提出しないと思い込んでいるようですが、そんなことまだ決まっていませんよ」

 反撃するは我にあり。七草先輩への反撃の時は今っ!

「あらっ? 深雪ちゃんはアサガオは栽培していても観察日誌は付けていなかったのでしょう? ちゃんと日誌を付けていた証拠に違う日付の写真が20枚必要なのよ」

「確かに、ただ育ていただけのアサガオの観察日誌を提出することは不可能かもしれません。でも、でもですよ……」

 わたしは七草会長の持つプリントを指さしながら訴えます。

 

『アサガオの観察日誌(代替物も可) 評価ポイント:100億万点』

 

「ここの部分に『代替物も可』も書いてあります。アサガオ以外の観察日誌なら……わたしは提出することが可能ですっ!」

 

 行くぞ生徒会長 悪事の貯蔵は十分か?

 

 

 

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「……代替物……アサガオ育ててる高校生がほとんどいなかったから付け足した一文だったけど、余計なことを書いてしまったわね」

 七草先輩は俯いて何かブツブツ喋った後に顔を上げて険しい表情を浮かべました。

「アサガオに負けないどんな観察日誌があると言うの?」

 生徒会長の表情が険しく声が荒い分だけわかります。予想外の反撃に七草先輩は今追い詰められているのだと。

 なら、ここでわたしのとっておきを見せるしかありません。お兄さまにさえ見せたことのないわたしの秘密観察日誌を。

 わたしは自室に戻って3冊のノートを持ってきました。

 そして、七草先輩に向かって突きつけたのです。

「これこそが夏休みの間中1日も欠かさずにつけ続けた『司波達也お兄さま観察日誌』なのですっ!」

 深雪の宝物の全てと呼んで差し支えない究極の一品です。

「…………………何だか、とても嫌な予感がするわ」

 お兄さまの観察日誌をつけていなかったらしい負け犬な七草先輩はそれでも強がりをみせます。

「中身を見てもいいかしら?」

「どうぞどうぞ♪」

 この観察日誌には40日ほどの夏休みの間に400枚以上の写真が挿入されています。アサガオ観察日誌の代替物の要件は満たしています。

 少し恥ずかしいですが、これさえ提出してしまえばわたしの禅寺行きはなくなるのです。

「どれどれ、じゃあ、最初のパージからっと」

 七草先輩がノートのページをめくり、十文字変態(全裸)が仁王立ちしながら背後からノートの中身を覗き込み、お兄さまはまだ復活しないという構図の中でわたしの観察日誌は披露されることになりました。

 

 

7月18日(金)晴れ 終業式

 お兄さまは今日も女子生徒にモテモテでした。

 特に千葉エリカさんとは2分11秒、柴田美月さんとは3分5秒、光井ほのかさんとは1分59秒、北山雫さんとは2分7秒、七草真由美先輩とは10分23秒、渡辺摩利先輩とは3分18秒、中条あずさ先輩とは2分45秒、壬生紗耶香先輩とは2分59秒、その他の有象無象女とは全部合わせて14分5秒会話していました。

 変態ストーカー森崎を使って全員分の髪の毛は回収しておいたので今夜早速丑の刻参りをしたいと思います。特にあのお姉さんぶったリボン女はお兄さまに害悪を垂れ流すので絶対に許せません。念入りに釘を打ってやろうと思います。死んじゃえばいいのに。死んじゃえばいいのに。大事なことなので2回書きました。

 

撮った写真:達也が女生徒たちと談笑している写真

 

「……いきなり凄いのを引き当てちゃったわね」

 七草先輩は顔を引き攣らせています。

 ちなみにこの日の写真はお兄さまの浮気の現場、ではなく、女どもに脅されて仕方なく相手をさせられている場面を10枚ほどです。女の子の顔はもれなく全部黒マジックで塗り潰してしまっているのでプライバシーも問題ありません。

「なあ、これ……」

「今は黙っていて、十文字くん。他の日付を見てみましょう」

 七草先輩は特に感想を述べるわけでもなく読み進めます。

 

 

7月25日(金)局地的豪雨 生徒会の用事で学校へ

 お兄さまは今日も女子生徒にモテモテでした。

 特にあの七草真由美とかいう図々しい女。

 あのブス女、絶対にお兄さまに気があります。露骨に色目を使って、まるで発情期のメス猫です。どうして保健所はあんな淫乱な生物を捕獲して殺処分しないのか理解に苦しみます。あのブス、事あるごとにお姉さんぶりながらお兄さまの体に触ってくるんです。セクハラですパワハラです。あのブスだけは生かしておくとお兄さまとの安泰な将来に禍根を残しそうです。今の内に殺してやらないといけません。でも、敵は強い。わたしの実力では勝てないかもしれません。そうですっ! 変態森崎の頭の中に超強力な爆弾を埋め込んで、あのブスが近付いて来たら起動するようにしよう。そうすればみんな吹き飛ぶ。

 

 撮った写真:達也と真由美のツーショット。ただし真由美の顔はカッターで繰り抜かれている

 

 

8月1日(金)晴れ猛暑 害虫我が家に入り浸る

 ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス、ブス。

 ブスがわたしとお兄さまの神聖にして侵すべからざる愛の巣司波家に棲み着き始めた。あの盛ったメス豚をこれ以上生かしておくことはできない。早く、早く包丁を研がなきゃ。悪い女をやっつけてお兄さまとの平穏を取り戻さなきゃ。

 

 撮った写真:達也にじゃれつく真由美。ただし、真由美の顔はライターで焼かれて繰り抜かれ、胸の部分には何度もカッターで刺した痕がある

 

 

8月8日(金)晴れ猛暑 害虫に乗っ取られた司波家

 七草真由美殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス。

 あのブス悪女が生きている限りわたしの生活に平穏な訪れることはない。できる限り残虐に、そして残忍に時間を掛けて真綿で首をしめるように傷付けながら殺してその醜く爛れた死体を晒して辱めを与えてやりたい。

 

 撮った写真:達也の膝の上に座りながらお喋りする真由美。両腕を達也の首に回して半分お姫さま抱っこ仕様。真由美のほぼ全身がライターの火で激しく焼かれている。

 

 撮った写真:真由美が達也を抱きしめて胸にギュッとしている。達也の顔の部分にコラが貼られて相手が森崎になっている。

 

 

8月15日(金)晴れのち曇り お兄さま秘密のお出かけ

 お兄さまは始発に乗ってどこかに出掛けられました。

 今日は1日目だとか意味不明なことを仰っておられましたが、わたしが付いていくことは色々な意味で危ないからと禁じられてしまいました。

 そう言えば今日はいつも家に棲み着いて消えてくれないブス女も全裸マンもいません。一体、何が起きているのでしょうか?

 夕方となりお兄さまは両手に抱えきれない荷物とともに帰ってこられました。けれど、何を買ってきたのか決して深雪には見せてくれませんでした。ちょっと寂しいです。クスン。

 

 撮った写真:何かのカタログを真剣な表情で眺めながら家を出る達也。

 

 

8月23日(金)晴れ 禁断の過ち

 お兄さまは帰ってくるなりわたしの手を引いてベッドの上に強引に寝かせました。

「お兄さま。一体、どうなされたのです……きゃあああぁっ!?」

 質問をしようとしたわたしはお兄さまに叩かれ再びベッドに押し付けられました。

 そしてお兄さまは馬乗りになってわたしの動きを封じたのです。

「お前は俺のもんだ。今からその体に証拠をタップリと刻み込んでやる」

 ギラギラした瞳。わたしの全身を無遠慮に眺めながら発せられる舌なめずりの音。

 そういうことには疎いわたしですが、お兄さまが何をしようとしているのかは理解できてしまいました。

「いっ、いけません、お兄さまっ! わたしとお兄さまは兄妹なのです。こんなことしちゃいけませ……きゃああぁっ!?」

 お兄さまはわたしに暴力を奮い、力づくで言うことを聞かせたのです。

「深雪には一生俺の女になってもらうぜ。俺だけの専用のな」

「わたし……妹なのに……うっうっう」

 その夜わたしの悲鳴が途絶えることはありませんでした。

 お兄さまは決して許されることのない禁断の過ちを強引に働いたのです。

 こうしてお兄さまは永遠のパートナーに妹であるわたしを選び、ブス悪女をゴミ箱にポイっと捨てることを選んだのでした。

 めでたし めでたし

 

 撮った写真:なし

 

 

8月30日(金)晴れ 平和な日常

「深雪お嬢さま。お茶のおかわりはいかがでしょうか?」

「真由美の淹れたお茶は不味くてとても飲めたものではないです。ちょっとひとっ走りして午後ティー買って来なさい」

「はい。深雪お嬢さま」

 史上最低の悪女もわたしとお兄さまの仁徳によってすっかり改心しました。

「深雪……ブス女と一言でも喋ると俺はヤキモチを焼いてしまうぞ。プンプンだ」

「ごめんなさい。わたしもお兄さま以外の生物とは一切お話しないようにします」

 お兄さまとの幸せなひと時。

「ところで深雪……」

「何ですか?」

「俺たちも日本の普通の“兄妹”になるべきだと思うんだ」

 お兄さまがわたしの肩を抱きます。

「それって……」

 見当はつきましたが自分から口にすることはできません。でも、お兄さまはちゃんと話してくださいました。

「深雪、俺と結婚しよう」

「はい。お兄さま♪」

 こうしてわたしとお兄さまは結婚しごく“普通の”兄妹となったのでした。

 めでたし めでたし

 

 撮った写真:なし

 

 

「どうですか、このお兄さま観察日誌は? 自信作なんですよ♪」

 ちょっと誇らしく七草先輩と十文字先輩に評価を聞いてみます。幾らテロリストと変態でもお二人は生徒会の重鎮。日誌に対する評価は公正にくだしてくれるはずです。

「どうって言われても……」

「う〜む」

 七草先輩と十文字変態は顔を見合わせました。

「これ、後半は深雪ちゃんのただの妄想でしょ」

「うっ…………近未来予知と言ってください」

「それは観察日誌とは言わないわよ」

 七草先輩の手厳しい評価。そして十文字変態の評価は──

「仮にこの日誌の内容が真実だとするのなら……お前は警察に逮捕されるし、お兄ちゃんは退学決定だな」

「えぇええええええええええぇっ!?」

 こうしてわたしは、泣く泣く『司波達也お兄さま観察日誌』の提出を諦めたのでした。

 

 

 

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「フッフッフ。ちょっと焦ったけど、これでもう提出する日誌はなくなったわね。禅寺に行き、お姉さんをお義姉ちゃんと呼ぶ準備はできたかしら?」

 圧倒的な大ピンチ。果たして、どうすればわたしはこのピンチを切り抜けられるでしょうか?

「後、わたしが毎日付けているものと言えば1日の行動表を記したものだけです。ど、どうしたら……」

 その時でした。全く予想もしなかった方面から自体打開のための一言が寄せられたのは。

「それを提出すればいいのではないか? お兄ちゃんの妹観察日誌として」

 助け舟を出してくれたのは十文字変態(全裸)でした。

「そうですよっ! 自分が観察対象でも観察日誌にはなるんです!」

 行動表にちょっと体裁を整えれば十分提出に耐えるものになります。

「クッ! でも甘いわよ。20日分以上の写真がなければ提出物としては認められないわ。深雪ちゃんは自分の写真をそんなに持っているの?」

 七草先輩が焦りながらの必死の反論。

 でもそれは、題材としてのわたしの観察日誌を認めたことに他なりません。

 わたしは遂に勝機を得たのです。

「確かにわたしは自分の写真を毎日撮り続けるほど自惚れ屋ではありません」

 お兄さまも写真はあまり好きではないみたいで、わたしとのツーショットを撮ってくれません。

「なら、提出は……」

「わたしが写真を持っていないだけで、持っている人は持っているんですっ!」

「まっ、まさかっ!?」

 七草先輩の野望を打ち砕くため、わたしは今こそ禁断の呪文を唱えます。

「來來 SGGK 森崎駿さぁ〜〜〜〜〜〜んっ!!」

 司波家に決して招いてはいけない邪神を召喚します。

「何の用だ?」

 音もなく、そして気配もまるで感じさせずに森崎さんは室内に姿を現しました。

「お兄さま、まだ撃たないでください」

 司波家の危機を感じ取り、お兄さまがやたら物騒な銃器を構えています。でも、それをわたしは留めました。今撃たれてしまっては困るのです。

「森崎さんにお聞きしたいことがあります」

「何だ?」

 息を呑みこみながら緊張を押し殺し用件を聞きます。わたしが禅寺に行くことになるのか、お兄さまをテロリストに奪われてしまうのか。全てがここで決まるのです。

「森崎さんはわたしの写真を持っていますか? できれば、夏休み分の毎日の写真が欲しいのですが」

「ああ。毎日50枚ぐらいは撮ってるぞ」

 森崎さんは無駄に望遠機能を備えている携帯を見せてくれました。

 お兄さまが銃を握り直しますが、ここはもうしばらく我慢です。

「1枚につき、1回ビンタして差し上げますのでとりあえず毎日1枚ずつ……庭でアサガオに水やりしている風景でもありましたらそれをください。こちらのアドレスに」

「オーケー。その話、引き受けよう」

 間髪入れずに返事がきました。

 対森崎さん用に新しく作ったアカウントに次々と写真が送られてきます。

 この人、生粋のストーカーです。

 家の中から撮ったとしか思えない角度で庭木に水を撒くわたしの姿とか撮ってます。

 そして程なくして8月31日分の最後の写真が届きました。

「俺は罵倒して痛めつけるのも好きだが、罵倒されて痛めつけられるのも好きだ。さあ、俺を散々に引っ叩いて痛みでヘヴンへと導いてくれぇ〜〜っ!」

 一瞬にして裸になった森崎さんがキモい動きでわたしへと近づいてきます。

 わたしは自分の作戦が完了した証に指を打ち鳴らしました。

「ファランクスッ!」

 十文字変態がわたしの前に立ち、自らの肉体を壁にして森崎さんを上空へと弾き飛ばします。ファランクスとか唱えていますが、魔法じゃなくて肉の壁です。

「お姉さん、射撃は得意なのよ♪」

 続いて七草先輩が射撃を披露して空中の森崎さんに弾を当ててお兄さまの目の前へと誘導していきます。そして仕上げはもちろんお兄さまです。

「消え失せろ」

 戦術核と称されるほどのお兄さまの超火力砲が森崎さんに命中。

「生徒会長に撃たれたからちょっと気持ちいい……」

「ひぃいいいいいぃっ!?」

 森崎さんは七草先輩の心に傷を負わせながら原子以下の単位に分解されました。

 

 

 天井に大きな穴が開いて風通しが良くなった家に西日が上から差し込んできます。

「今回はお姉さんの完敗よ」

 七草先輩は素直に負けを認めてわたしに右手を伸ばしてきました。

「わたしのお兄さまへの愛が勝利をもたらしてくれたんです」

 わたしも先輩の手を取ってガッチリ握手を交わします。

 色々ありましたが、戦いが終わればみんな強敵(とも)なのです。

 ともとなった七草先輩は微笑みながらわたしの夏休みを締めくくる最後の一言をくださったのです。

「それじゃあ、全校生徒へ向けて出した最後の課題。敬愛する生徒会長への感謝の言葉原稿用紙100枚を明日の朝までに書き上げてね♪」

「ふっざけんなぁあああああああああああああああああああぁっ!!」

 わたしのはしたない怒声が大空へと吸い込まれていくのでした。

 

 了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
夏休み最終日の攻防
お兄さまとの平穏を守るために深雪さんが戦います
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