ストライクウィッチーズ〜未来から現れし戦乙女〜 第2話 |
「シアラー03、ターゲットインサイト!敵主力は中型ネウロイ1。他に複数の子機を放出中!なお、目標直下に国籍不明の艦隊あり。これより迎撃に移る!」
『シアラー03、ホークアイ02。必要とあらば増援のホーネットとシアラーを派遣する。無茶はするな。』
「シアラー03ラジャー!」
「藤田3佐、私達だけで大丈夫でしょうか…?」
朱里の横に並びかけた美園の顔には、やはりと言うか不安の色を浮かべている。
それもそうだ。現在の自衛隊に実戦経験を持つ者はほとんどいない。もちろん朱里自身も未経験者の一人だ。
しかも悪い事に、眼下の艦隊はすでに攻撃を受けているらしく、煙が昇るものや火災を起こしている艦もいる。怖気づくのも無理はない。
「大丈夫よ。これまでの訓練と、このユニットを信じて。それに…」
そう言って、朱里は視線を眼下の艦隊へと向ける。
「今あの艦隊を守れるのは、私達だけなのだから。」
「はい!」
半ば自分自身に言い聞かせるように言うと、地面を踏みしめる感覚でユニットに込める魔法力を増やしていく。
魔導タービンF135の発する金属音が一段と高くなり、体はさらなる加速を開始する。
すると敵もこちらに気付いたのか、艦隊に向けていた巨体をこちらに向けると、次々と子機をばら撒いて行く。
「美園!貴方はなるべく艦隊上空をカバーして。これだけの数の子機だと、何機かは確実に艦隊を狙うわ!」
「でも、それじゃあ藤田3佐一人であれを相手に…」
「私なら大丈夫よ!でも、いざというときはお願いね。」
「分かりました。気を付けてください!」
心配そうにこちらを見る美園に、左手でグッドサインを作ると、右手のグリップに付けられているマスターアーム―――安全装置の解除スイッチ―――をONにする。
「ブレイク!」
編隊解散の指示を出し、美園は左回りに体を捻ると一気に降下。朱里は戦術的優位なポジションを取る為上昇へと移る。
中型とは言え、通常の大型旅客機ほどの大きさを持つネウロイではあるが、今回のアフリカ怪異では数多くみられるタイプで、朱里達も写真や資料で性能を確認済みだ。やってやれないわけではない。
「シアラー03、エンゲージ!」
『シアラー07、エンゲージ!』
―――――――――――――――――
1945年7月下旬
「大和がいないと、この艦隊も随分と寂しいものだな…」
そう呟くのは、右目に眼帯を付けた一人の女性。扶桑皇国海軍少佐の肩書を持つ彼女の名は、坂本美緒。
彼女の姿は、艦隊旗艦である航空母艦、【天城】の艦橋にいた。
艦の周囲には軽空母【千歳】【千代田】の姉妹に、特徴的な艦橋を有する高雄型重巡洋艦。対空戦闘に重点を置いた防空駆逐艦【秋月】型を始めとする護衛艦が配置され、鉄壁の輪形陣を敷いている。
艨艟が向かう先は遥か海のかなたである生まれ故郷、扶桑本土だ。
ひと月前には扶桑最強…いや、世界最強と言っても過言ではない大和型戦艦の一番艦【大和】の姿もあったのだが、ベネツィア解放の代償として今は地中海の底に眠っている。
ベネツィアの解放を最終目的とする『オペレーション・マルス』が終了した今、作戦の要であり護衛対象であった【大和】を失った艦隊は、本土へ帰還するだけとなった。
そしてもう一人、『オペレーション・マルス』の犠牲となった少女がいた。
とはいっても命を落としたわけではない。今頃は坂本と共有する士官室の一室で、猛勉強に励んでいる事だろう。
宮藤芳佳―――
彼女こそ、今回の作戦最大の功労者であろう。
亡き父親の足跡をたどり欧州へと渡り、そこで第501統合戦闘航空団へ入隊。ガリア解放後、いったんは扶桑へと戻るが翌年坂本と共に再び渡欧。そこで再度501へ入隊し、ベネツィア、ロマーニャ上空のネウロイの巣を殲滅。その際、ウィッチがウィッチであることの証である魔法力を失ったのだ。
もう二度と空を飛ぶ事が出来なくなった彼女だが、新たな目標である医者になることを目指し、遅れていた勉強を取り戻すべく、毎日必死に教科書へと噛り付いている。
(大和に501が解散するのもさびしいが、宮藤が魔法力を失うとは…)
「惜しい奴を無くしたな。…ん?なんだ…、あの霧は?」
先ほどまで青空だけが広がっていた視界に現れたのは、一ヶ所に固まりうごめく深い霧だ。
普段は陸地にいる事が多く、海洋現象にあまり詳しくない彼女だが、それでも今目の前に広がる光景は異様に感じる。
「左舷距離3000、巨大な霧の塊が出現!」
「なんだ?あの塊は…まさか?!」
「ネウロイ!!」
気付くのは坂本の方が早かった。
もうほとんど魔法力を使う事が出来ない彼女であったが、ネウロイの発する気配を感じることは出来た。
そして坂本の言葉に続き、スピーカーから悲鳴にも似た報告が飛び込んでくる。
『電探室より報告!方位280度、距離3500に中ないし大型ネウロイの反応在り!こちらに向かってきます!』
「総員対空戦闘配置!直掩機を向かわせろ。待機中の機は、発艦急げ!」
艦長の言葉に一瞬体が反応するが、すぐにラッタルへと向かう足を止める。
(そうだ、もう私は、空を飛ぶ事が出来ないのだ…)
「坂本さん!」
「宮藤!お前…、なぜここにいる?!」
そんな中唐突に現れたのは、今しがた降りようとしていたラッタルをあがってきた、後輩であり、誰よりも大切な戦友である宮藤であった。
「ネウロイが出たって聞いて、居てもたってもいられなくて…」
「馬鹿者!魔法力の無いお前はもうウィッチでもなんでもいない!ただの民間人だ。部屋に戻っていろ!」
「だったら坂本さんだってそうです!坂本さんも一緒に…」
「駄目だ!」
「どうしてですか?!」
宮藤の懇願に、はっきりと拒絶の意思を見せる。
よもや私自身、もう完全に宮藤病にかかってしまっているようだ。
「ウィッチじゃなくとも、私は扶桑軍人だ。いざとなったら、対空機銃の弾運びでも何でもやるさ。」
「だったら私も、医務室に行きます!」
「なに?どこか怪我でもしているのか!?」
「あっ、いえ。戦うってことは、誰かが怪我をするかもしれないってことですよね。だったら治療できる人は、一人でも多くいた方がいいです!」
あまりにも宮藤らしい言葉に、戦闘中にもかかわらず笑いが込み上げてきた。
「なっ…、はっはっはっはっ!よし。ならもし怪我をしたら宮藤、頼んだぞ!」
「はい!」
しかし、事態は今の彼女達のように楽観的なものではない。
大型空母1隻に軽空母2隻と、機動部隊としてみれば十分に強力な艦隊であるが、ある大きな問題をかかえていた。
それは、この艦隊に空を飛べるウィッチが…一人もいないという事だ…
風上へと艦首を向けた3隻の空母から、次々と深緑に彩られた飛行機が飛び立って行く。
緊急発進した艦上戦闘機は、今では二線級となった零式艦上戦闘機52型。これがこの艦隊で唯一の航空戦力だ。
後は周囲を取り囲む随伴艦や自艦の高角砲や対空機銃くらいしかない。
各艦から花火のように次々と火箭が上がり、機銃の曳光弾がネウロイへと伸びていく。
【天城】の左翼に位置する重巡洋艦【摩耶】の主砲から撃ちだされた8インチ砲弾が、上空のネウロイへと突き刺さり爆炎を上げる。それを見た各艦の将兵たちから歓声が上がるが、その声も長くは続かなかった。
8発の8インチ砲弾が直撃したにもかかわらず、平然とするネウロイの下部から、次々と小型機が吐き出されていく。
「まずい!子機を出しているぞ!」
「撃て!撃ち落せ!」
小型ネウロイを前に必死に機銃を操作する水兵たち。彼らが操っているのは、初期に配備されていた九六式25o機銃ではなく、ボヨールド社製の40o機関砲だ。威力、射程距離とも折紙つきで、リベリオンやブリタニアでも採用されている優秀兵器だ。
隣では小型機相手なら一撃で破壊できる12p高角砲も、絶え間なく砲弾を撃ち続けている。その砲弾の先端には、リベリオンから融通してもらった最新のVT信管が組み込まれている。
瞬く間に近づいてきた小型機が、2機、3機と撃ち落されていく。
しかし相手が悪すぎた…
「上空の戦闘機隊、損耗4割を超えました!」
「駆逐艦【照月】被弾!艦尾が引きちぎれています!」
「【摩耶】にも被弾。火災発生!」
(ウィッチのいない艦隊はこれほどまでに脆いのか…)
【照月】は防空艦として建造された秋月型の一艦で、【摩耶】は第3主砲塔を撤去し高角砲と機銃を増設して、防空能力を高めた防空巡洋艦だ。にもかかわらず、敵の攻撃に全く歯が立っていない。
自身の指揮する艦隊の現実に、苦痛の表情を浮かべる司令官。そこへ…
「左舷直上!小型機接近!」
見張り員の言葉に、誰もがその場に凍り付く。
「もはや…これまでか…」
最後を覚悟した次の瞬間、【天城】へ突撃を仕掛けた小型ネウロイは、唐突に白く砕け散ったのだ。
思いがけない光景に、水兵だけでなく、艦長や司令官までもが唖然とする。
「いったい、なにが…。我が方の戦闘機か?」
漸く言葉を発した司令官に答えたのは、双眼鏡をのぞいていた見張り員だった。
「違います!あれはウィッチです!」
「美園!中央の母艦に3機向かってる!そいつを先に!」
『了解!』
朱里の指示にすぐさま反応し、美園は急降下の勢いで小型ネウロイへと突き進む。
魔導ターボファンの推力に急降下の勢いが後押しし、美園は瞬く間にネウロイとの距離を詰めていく。
『シアラー07…フォックススリー!』
装備する武器の一つである、機関銃の発射を意味するコールサインとともに、美園の右腕に装着された99式13o多銃身機関砲から、機銃弾が撃ちだされる。
この機関銃は元々アメリカが開発したGAU-19と呼ばれる12.7o口径のガトリングガンを基に、ウィッチ向けに改良を行った物だ。
従来の単銃身機関銃とは違い、装填や排莢と言った動作を発射薬のガス圧ではなく、電動モーターで行っているため、万が一不発などを起こしても強制的に射撃を継続できるほか、単銃身タイプよりも短時間当たりの発射弾薬が多いのも特徴だ。
敵味方共に高速化する現代では、機関砲の射撃は一瞬のチャンスしかない。その為アメリカなどの西側諸国では、発射サイクルの早いガトリングガンが航空機関砲の主流となっている。ちなみにロシアなどの東側や一部のヨーロッパ諸国では、発射速度は重視せず1発あたりの威力が大きい大口径機関砲を使用している。
3本の砲身が高速回転すると同時に、毎分2千発の発射速度で銃口から12.7o×99弾が撃ちだされる。
徹甲弾、榴弾、曳光弾がミックスされた弾丸の線は、FCS―――火器管制装置によって正確に照準されており、殆ど外れることなく3機の小型機を一蹴した。
『ターゲット、キル!』
「いいわ。そのまま艦隊に張り付いて!」
『了解!』
何とか敵の攻撃を阻止することができた安堵と共に、朱里の胸にはモヤモヤとした感覚が込み上げてくる。
仲間の戦果に喜びを感じるとともに、内心悔しさを感じているのだ。
(私だって、負けてられない!)
その思いと共に、諸悪の根源である中型ネウロイへと突き進む。
しかし朱里の行く手を阻むべく、大量の子機が群がってくる。
「邪魔よ…。シアラー03、フォックススリー!」
目の前を飛び交うネウロイへ向け、ガトリングガンのトリガーを引き絞る。
眼前を覆うHMD―――ヘッド・マウンド・ディスプレイには、弾丸の未来位置を示すレティクルが現れているが、朱里はそれをほとんど見ていない。
彼女の持つ固有魔法「空間把握」は、敵の位置情報をまるでレーダーのように立体的に感じ取る事が出来る。敵が四方八方に飛び交う今のような状況では、じっくりと照準するよりも、ある程度感覚で撃った方がいい。
周囲の子機をあらかた一掃すると、目の前には黒い壁のように立ちはだかるネウロイの姿がいた。
「あなたを倒せば、全部終わり!」
そう言いながら左手で握るガンのサイドグリップのボタンを操作する。
ウェポンモードが切り替わり、使用兵装が右腕のガトリングガンから、左右ユニットのウエポンベイに格納されているAIM-120mini―――アムラームミニに切り替わる。
アムラームは元々、戦闘機に搭載されるアクティブレーダー誘導のMRM―――ミドルレンジミサイルであり、朱里が使うminiとはストライカーユニット用に小型化されたタイプだ。
「シアラー03、フォックスワン!」
発射コールと共にトリガー横に設けられているリリースボタンを押す。
左右のウエポンベイが開くと同時に、1発ずつミサイルランチャーから弾き出されたアムラームミニ。
ミサイルの射程からしてみれば、ほとんど至近距離と言っていい近さで発射されたこともあり、外れることなく2発のアムラームミニは中型ネウロイへと突き刺さる。
空対空用の破片効果弾頭を搭載しているため、貫通力に乏しいアムラームミニでは内部のコアを破壊するには至らなかったが、表面装甲には大穴が空いている。そしてその先には、水晶のような結晶体に包まれながら回転する、ネウロイの心臓部―――コアがあった。
再度兵装をガンへと切り替えると、すぐさまレティクルをコアに合わせ、射程距離に達すると同時にトリガーを引き絞る。
これでトドメだとばかりに、残弾など気にしない全力射撃だ。
発艦時には500発もの12.7o×99弾が詰まっていたドラムマガジンから、流れる様にガンへと弾が給弾されるたびに、HMDに表示される残弾数が猛烈な勢いで減っていき、数字が「0」を示すと同時に、ガンの回転が止まる。
そして朱里の目の前には、白く砕け落ちていくネウロイの姿があった。
説明 | ||
眼下に望むのは、青い大海原と、時折白く砕ける波… 後に景色を歪ませる陽炎の尾を引きながら、毎時430ノットの巡航速度で大気を切り裂く二つの影は、海上自衛隊に所属する機械化航空歩兵…、藤田朱里と奄宮美園の二人のウィッチ達。 彼女達に与えられた任務は、海上の母艦から発艦し、空中、海上、そして地上にいるありとあらゆる敵を撃破する事だ。 そして今、彼女達の目の前に現れたのは、人類史上最悪の敵である異形の物体と、突如として出現した謎の艦隊であった。 |
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