時間は真夜中、空に浮かぶ三日月が照らす、町外れの打ち捨てられた廃病院。

その中で俺はある相手と闘っている。

それは、はぐれ悪魔のグレゴール、その姿はもはや人どころか悪魔とも呼べない異形の姿、”((獣化兵|ゾアノイド))”となっている。

((航行制御球|ナビゲーションメタル))に記録されていたデータからすると、こいつは筋力増強型の様だ。

はぐれになった悪魔の内、精神の弱い者は次第にその心を壊して行き、闘争本能や食欲のみに支配され、遺伝子に組み込まれたプログラムによってその姿を”獣化兵”へと変貌させて行く。

主を失った”((悪魔の駒|イービルピース))”の暴走が調整と同様のプロセスを人体に及ぼすらしい。

グレゴールも今では近くを通りかかった人を攫い、喰らい続けるただの化け物で、すでにこの地を管理下に置くグレモリー家の次期党首へ討伐依頼が出されている。

それより先にこいつの居場所を突き止めた俺が始末に来た訳だ。

俺の仇では無い物の、それでも他の誰かに譲る気は無い。

戦いが始まって数十分、そろそろグレモリー眷属がこいつの討伐にやって来る頃だ。

掴み掛かって来たその右腕を、「高周波ブレード」で切り捨てる。

『グギャアァァァァァァッ！オ、オノレェェェェェェェェ！』

グレゴールは叫び声を上げ、血が流れ続ける傷口を押さえながら頭部の角で体当たりを仕掛けて来る。

俺はそんな奴に「ヘッド・ビーム」を数発打ち込む。

『ギャアァァァァァァァァァッ！』

体を穴だらけにし、倒れ崩れた奴だが、それでも見苦しく這いずりながら逃げ出そうとする。

『イ、嫌ダ。死ニタクナイ……』

まだ喋るだけの知能は残っているらしいが、俺はそんな奴に一歩一歩近づいて行く。

『タ、助ケテクレ。殺サナイデクレェェェェェ』

『この期に及んでそんな我侭を俺が許すと思っているのか？』

『助ケテクレエェェェェェェェェェェェェェェェェッ！』

『消えろ。「ソニック・バスター」』

『ガアァァァァァァァ！』

((口部金属球|バイブレーション・グロウヴ))から放たれた振動波によって、奴の全身は原子にまで分解され、黒い塵となって舞い散った。

その塵を眺めていると、ヘッド・センサー が反応し、誰かが此処に転移してくる事を知らせる。

『グレモリー眷属のお出ましか。長居は無用だな』

俺はそう呟くとグレゴールの腕が転がっている床の近くにヘッド・ビームを撃ち込み、立ち去った。

彼女達と敵対する気は無いが、馴れ合うつもりも無い。

所詮、今の俺は((獣化兵|こいつ等))と同じ異形の怪物。

((規格外品|ガイバー))と呼ばれた化け物なのだから。

「さあ、着いたわ。皆、油断しちゃ駄目よ」

「了解しました、部長」

私がそう言うと、祐斗はその創り出した魔剣を握り締めながらそう答える。

「……油断は大敵」

「うふふ、今日こそは私達が倒して見せますわ」

私達は、はぐれ悪魔・グレゴールを討伐する為に廃病院へとやって来た。

人間の世界へと入り込んだはぐれ悪魔を討伐するのはその地を管理する上級悪魔の仕事、つまりこの地では私の役目。

しかし、此処最近は何者かが私達より先にはぐれ悪魔を倒して回っている。

敵なのか味方なのかは解らない、その目的も。

解っているのはその戦いの場の痕跡からかなりの力を持っているという事だけ。

「部長…」

「どうしたの、祐斗？」

先に病院の中へと入って行った祐斗が苦々しい表情で戻って来た。

「もしかして」

「はい。また先を越されました」

「またなの？」

「あらあら。今日こそはこの体の疼きを鎮められると思ってましたのに」

「……残念」

病院内に入ると、今まで同様の戦いの痕跡が残っていた。

切り裂かれ、焼け焦げた柱や壁、所々に拳で砕かれた跡もある。

そして唯一残されたグレゴールの体の一部、床に転がっている腕の傍に刻まれた文字。

　　　　　　　　　”GUYVER”

おそらくこの惨状を作り出した者の名なのだろう。

「一体、あなたは何者なの？…ガイバー」

第０話「((規格外品|ガイバー))と呼ばれた((戦士|モノ))」

TO BE CONTINUED