福岡港改造生物密輸事件 12
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 .事件から1日たち、朝になった。

 オレとイーグルロードは福岡市から北東へ約50キロにある北九州市へ行くため、エレメンツネットワークの連絡員が用意した車に乗り、その中で仮眠をとった。。

 アステリオスから渡されたメモに書かれたナンバーのトラック。

 それはアルクベインがハッキングしたNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)によって、九州から本州へ渡る関門橋へ向かっていることが分かった。

 ただし、関門橋は今玉突き事故が起こり、車両が通行止めになっている。

 事件の影響はこんなところにも及んでいたんだ。

 

 まだトラックが北九州市付近にいることは間違いない。

 そこでオレは、空を飛べる仲間や足の速い奴(時速100キロから超音速で走れるやつ)を集めて、本体を失ったランナフォンのデミアジュウムカードリッジを配った。

 このカードリッジをカメラと名のつくものに放り込めば、デミアジュウムワイヤーが伸びてカメラと一体化。一著前の監視カメラにすることができるんだ。

 実家にあった30年前のビデオテープカメラの放り込んでも、ちゃんと働いた。

 携帯電話のカメラでも、本体にテープなんかで張り付ければOK。

 外せばちゃんとデミアジュウムも帰ってくる。

 

 監視カメラの少なそうな道のトラックを見つけては、カメラを向けてもらう。

 今のオレは、関門橋付け根にある門司という町で止めた車の中にいる。

仕事は偵察員が同じところを2度以上調べたりしないか効率的に調べているか監督することだ。

 カードリッジには1つ1つナンバーをふっておいた。

 HMDには九州北部の地図に、監視要員の軌道が書き込まれていく。

 おい21番と52番、同じとこ走ってるぞ。

 

 1時間ほどしたら、イーグルロード・広美から個人的な連絡がきた。

『ねえ、今いい?』

「ああ、暇だったから、いいよ」

 広美は、どことなくためらいがちに聞いてきた。

『あのさ、アステリオスの奴、スイッチアに勝てたとおもう?』

「さあ、難しいんじゃないか。死ぬことはないだろうけど。

それよりも、このことが地球人からの侵略として宇宙社会にどう影響を与えるのかの方が心配だよ。

 一個人が一つの星に殴りこんだんだからな」

『ノッカーズ一人で物騒な星一個分? 嫌よそんなの。

 何かいい宣伝方法はないわけ? 確か自衛隊員が参加してる宇宙人の組織があったじゃない?

UNIONだったっけ。世界非所属捜査機構だったかな』

「へえ、勉強してるね。

でも、たしか一つの世界から2人だけしか参加できなかったはずだ。

それにもう定員は埋まっているはずだ」

『あの、UNIONの危険世界ランクでは、私たちの地球はとっても危険だったよね。

 そんなところから来た隊員が、ちゃんと信用されるのかしら?』

 広美の懸念ももっともだ。

 これまでの異世界からの“討伐軍”の数が、それを物語っている。

 何とか、やる気を失わせないようにしないと。

「危険度が高かったって、それが住んでる人のせいとは限らない。

 オルタレーションバーストの詳しい発生原因も不明だし、今回みたいにノッカーズをさらう悪の文明が近くにあれば危険度も上がる。

 UNIONの人だってばかじゃないさ。

もしオレ達の地球人スタッフをいじめて、反宇宙人派の人間になったら?

 それこそ割に合わないよ」

『それもそうね』

 

 そんなことを徒然と話ていたら、トラック発見の一報が入った。

 場所は門司から八窪山、砂利山、打越山といった山々を超えて、太平洋側のムクラノ鼻というところだ。

 

 イーグルロードに連れてきてもらったのは、何だ?こりゃ。

 近くに住宅地があるのに、それが1直線に並んで途切れている。

 塀の向こうは草木の生い茂るとてつもなくひろい空き地だった。

「知らないの?むくらってのは、荒地や野原に生い茂る雑草の総称のことよ。

 途中に採石場があったでしょ。この下はきっと岩だらけなのよ」

 と、イーグルロードが教えてくれた。

 

 荒地と住宅地を隔てる金網の前に、問題のトラックがあった。

 赤くて派手なデザインだ。

 もう警察の鑑識が始まっている。

 近づかなくてもいいだろう。

 報告メールに、車内の写真がついていた。

 見つけたヒーローが無理やりこじ開けたコンテナの中には、きれいなソファに高そうな絨毯。

 奥には酒を出すんだろう。小さなバーまで付いていた。

 マジン団たちは逃げた後でエレメンツネットワークにタレこんだらしい。

 やっぱり変なところで律儀な奴らだ。

 アステリオス=本名岬 しん。

 本当に家族や友達をもてなして自慢したかったんだな。

 

「あ。あそこのコンビニよ。あそこに助けられた人たちがいる」

 ムクラノ鼻に寄り添うように広がるマンションと一戸建達。

 そこから少し山側へ飛んだところを走る国道72号線。

 あった。

 駐車場に色とりどりのドレスだの鎧だの来ているヒーローがたむろしている。

「武装したままご飯食べても、あんまりおいしくないね」

「緊張するからな。まだ安全宣言が出されてないから、仕方ないさ」

 そんな会話が聞こえてきた。

「あ、イーグルロードとアウグルだ」

 彼らがこっちに気付いた。

「よ! 戦闘直後なのに、集まってくれてありがとう。アステリオスの家族や友人たちはどちらだ?」

 彼らが指差したのは、1台の白いワゴン車だった。

 その向こう、駐車場の端には合体を解いたレジェンド・オブ・ディスパイズがその巨体を直立させていた。

 身長が80メートルで、かかとからつま先までが約10メートル。

 大型トラック2台分のスペースで駐機できるわけだ。

「あっちです。落ち着かせるつもりで連れてきたんですが、警察署の方がよかったかも」

 確かに、ワゴンの中から泣き声や罵る声が聞こえてくる。

 ノッカーズに取り囲まれれば、誰だってパニックに陥る。

 ヒーローをやってると、忘れそうになるけど

 ワゴンに向かおうとすると、2人組の女の子に呼び止められた。

 一人は灰色の全身タイツに鎧のようなパーツがついたレジェンド・オブ・ディスパイズのパイロットスーツ。

 パイロットの成沢 あかねだ。

 隣にいるのはキュウキサウルスに変身する初島 愛。

 仲良し小学生女子が差し出したのは、何の変哲もないスマホだ。

 映し出されたのは、昨夜の福岡での戦いのニュース映像だ。

 あの「われら人間 我が敵は〜」ではじまる山桜隊隊歌が流れている。

「なんだよ。これがどうしたんだ!」

 あかねが躊躇いがちに言う。

「あの、私たち、この歌を1度しか歌っていないんです」

 愛がそれを引き継いだ。こっちも珍しく、恐怖に打ち震えた様子で。

「それが、ニュースでは2回流れてるんです。何ででしょうね?」

「…サァ? ゾンジマセヌ」

 オレはそう言うしか出来なかった。

 

 ワゴン車に近づくと、さらに騒ぎの様子がわかってきた。

 開けたドアの前では、買い物袋を持った女子高生くらいのヒロインが、困惑の表情で固まっている。

 朝ごはんでも買ってきたんだろう。

 年配の女性の叫び声が聞こえる。

「何であんたたちは自分の醜さがわからないの!! 何で家にじっとしていないの!!」

 それをいさめる、というより、怒鳴っておさえこもうとする初老の男性の声。

 かと思うと、同じ声が突然猫なで声になった。

「どうも申し訳ございません。私はあなた方のことを存じております。あなた方に出会えてまことに光栄でございます。このようなご恩を頂戴しようとは、まことに感激しごく―」

 徐々に涙声になっていく。

 岬 しんの両親だろう。

 一緒に乗っているはずの友人たちは…3人いた。

 全員うつむいたり椅子の上で膝を抱えたりしている。

 これは、アステリオスのことを話しても聞いてもらえる雰囲気じゃないかも…。

「この事件の原因が自分たちにあるんじゃないかと、不安なのよ。きっと」

 広美の言うとうりだろう。

 ノッカーズを犯罪に走らせたから、他のノッカーズからの復讐が怖いのかもしれない。

「さて、どうしようか」

 まず、ノッカーズを怖がらなくても伝えないとな。

 HMDとヘルメットを外して、素顔を出そう。

 そして、変身したままの広美と、手をつないでいこうと思う。

 

説明
いよいよ最終回。 予期せぬ波乱万丈もあったけど、いい経験にもなりました。
2013年2月21日から、1年以上。
次はなるべくシンプルな話にしようと思います
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福岡 ヒーロー ヒーロークロスライン アクション SF HXL 事件 

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