チートでチートな三国志・そして恋姫†無双
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第37話 三顧の礼

 

 

 

陳留の中心街へたどり着いた俺たちはただただ圧倒されていた。袁紹の治める南皮と比べても差は歴然としていた。その繁盛振りはこれまで歩んできたどこよりも凄い。とりあえず2泊して様子を見つつ、物資と情報を集めて許昌を目指すことに決めた。

 

 

「これほどとは……。あの落差が悲しいです。」

 

「ええ、曹操の手の及ぶ範囲だけは完璧に統治されているのでしょう。」

 

2泊して宿や街の飲食店でいろいろと聞いた。

 

“曹操様のお膝元”である“ここ”だけはどこにも負けない自信がある

 

東西南北、この区域から出たらお終い

 

結局はこの2つに大別された。“稀代の天才”に関する新しい情報は無い。

 

「これ以上、ここに留まっても得るものは何も無さそうですね。」

 

「ええ。行きましょう!」

 

福莱と愛紗もそう言ったため、一路許昌へ向かうことにした。至るところで聞き込みをしたり、“真心と金”を使ったりすることで少しずつ情報は集まった。それを集約すると、出てきたのは一つの場所。そこにある((庵|いおり))。金色の髪の従者と共に暮らしているらしい。人前に出ることは一切無いのだという。(※1)

 

「なんだか緊張するね。行こうか。」

 

「ええ。」

 

 

ここは古代中国。当然チャイムはない。どうやって挨拶したものか、そう思いながら庵へ行くと、俺たちを出迎えるかのように金色の髪の少女が立って待っていた。

 

「ご主人様、これは!?」

 

「行くしかない、だろうね。」

 

「“かつての”天の御遣い、北郷一刀さん。女?さん“甄姫”と名乗っていましたね−、そして関羽さんと徐庶さんですねー。よくおいで下さいました−。そう言いたいところですが、((主|あるじ))は誰に会うこともありませんのでお帰り下さい−。」

 

なぜ語尾が伸びるのか、そんな間抜けたことを考えていた。

 

「なぜ我らの素性を知って……?」

 

「主に見通せぬものはないのですよ−。お帰り下さいー。」

 

「愛紗、福莱。今日は帰ろう。明日また来ます。ありがとう。」

 

「何もしていないのですよ−。」

 

「待っていてくれたじゃないか。」

 

そう言うのが精一杯だった。俺たちの拠点としていた場所、小川近くに蚊帳を貼ったところ、まで戻ってきた。

 

「なぜあの娘は我らのことを知っているのだ!」

 

「一つだけ、可能性があります。」

 

「福莱?」

 

「((占卜|せんぼく))。要は天文などをみることで未来を読むのです。」

 

「福莱も、出来るのか?」

 

「多少は。水鏡先生が“秘伝の技”として私たち3人だけに教えて下さいました。一番得意だったのは朱里です。ただ……。『これはあくまで占い。本当にこのことが起きるとは限らぬ』と言われました。だから私たちがこれを使うことはまずありません。ですが……。」

 

「あの娘か、“稀代の天才”がその技を使っているというのか?」

 

「はい。もとから予想はしていました。でなければ間道から獣道まで全て把握された地図をつくことなど到底不可能だからです。」

 

「なるほど……。ところで、ご主人様はどうしてさきほどから黙っているのです?」

 

「何というか、圧倒されちゃってね。あの子もかなりの人物であることは間違いないのに、“従者”なんてやってる。“主”がどれだけ凄いのか、名前を当てられて少し分かった気がするよ。」

 

 

「確かにそうですね……。ですがそれより明日はどうするのです?無策で行ってもどうにもならない気がします。」

 

愛紗からそう言われ、俺は“秘策”を伝えた。その通りに準備をして、翌日。

 

「また来たのですか−。答えは昨日と同じですよ−。」

 

「だろうね。今日は手紙を渡しにきたんだよ。これ、“稀代の天才”さんに渡しておいてくれないかな? 明日また来るよ。」

 

「わかりました−。でもたぶん、答えは同じなのですよ−。」

 

「それでもいいよ。何度でも来る。会うまで。」

 

「そうですか−。ではまた−。」

 

 

 

 

「あの人を食った物言いは何なのだ一体! 馬鹿にするのも大概にして欲しいものだ!」

 

蚊帳へ戻ると、それまで一言も喋らなかった愛紗が不満をぶちまけた。

 

「確かにそうですね……。会うことくらいは許されると思っていたのですが……。」

 

「愛紗、福莱。謙虚になろう。高圧的になったら駄目だよ。丁寧にいこう。何度でも通おう。あの二人が敵になったら大変だよ。何と言っても、福莱たちの“教科書”を書いていた人物なんだから。」

 

「そうですね……。高慢になっていた、かもしれません。」

 

「こうなったら気長に行きましょう。拒否されればされるほど、何としても会いたくなってきました。」

 

それが人の((性|さが))だよなあ……。

 

 

翌日。これまでとは違い、戸が開いていた。

 

「入っても良いそうなのですよ−。」

 

金髪の少女がそう言うと、思わず拳を握りしめていた。ついにご対面だ。どんな人物なのだろうか。

 

 

 

通された部屋にいるのは少女だった。肩まである白い髪。包帯で隠された目。病的に白い肌。少女の外見、そして纏う雰囲気。その全てが神秘的に感じられた。

 

「2つ、お伺いしたいのですが宜しいでしょうか?」

 

澄んだ声だった。

 

「ああ。」

 

「あの手紙の紙と文字は何なのですか?」

 

そう、この世界には絶対に存在しないもの。つまりルーズリーフに青いペンで書いた手紙だ。これが俺の“秘策”だった。あのとき言ったこととは真逆だけれど、これに一切反応しないのならば、俺たちの仲間になる価値はない。そんなふうにさえ思えた。要は探究心、好奇心がない人物だということなのだから。

 

 

「俺の道具だよ。」

 

「ということは、“天”の道具と解釈しても?」

 

「そうだよ。ところで、2つ目の質問にいく前に自己紹介をしないかい?」

 

「それもそうですね。私から致しましょう。郭嘉。字は奉孝です。」

 

来た。((超能力者|バケモノ))。

 

「私は程立。字は仲徳なのですよ−。」

 

「俺は北郷一刀。彼女は甄姫。俺の護衛だよ。本名は、女?、だ。」

 

「関羽。字は雲長。」

 

「私は徐庶。字は元直です。」

 

「よろしくお願い致します。それでもう一つ。これほどの策略を考えたのは誰なのですか?

 

北海を足がかりにして徐州を落とし、そこをとりあえずの拠点としたあと、公孫伯珪と袁本初が“二虎競食の計”にかかって争い始めたときに荊州を落として真の領土とした後、―まで狙いじっくりと腰を据えて天下を狙う

 

という策略を。」

 

「ご主人……様……。」

 

愛紗がそう漏らした。顔面は蒼白だった。福莱も思わず口を開けていた。

 

俺も唖然とするしかなかった。

 

福莱と愛紗以外、誰も気づいていないはずのもの。それをあっさり見抜き、的確に読み解いてきた。手紙に書かせたことはわずか。これまで俺たちがやってきた“概略”と“北海、徐州を狙う”それだけ。勿論、他にも情報を得る手立てはあっただろうけど……。

 

「俺だよ。どうして、わかったのかな。」

 

「私に言わせれば、気づかないほうがおかしいですね。といっても実際に気づいているのは7人。ここにいる人物ともう一人。周公瑾のみでしょうが。

 

注意すべき点はいくつかあります。

 

まず1点目。公孫伯珪が幽州を含む北方、――ただし烏丸以外――を制圧したこと。

2点目は自分たちで落とした?を袁本初に献上し、その?は“平和的焦土作戦”と言うべきもので大変なことになっている、という点です。

 

この2つからは、仮に公孫伯珪が天下を狙うならば、烏丸を制圧したあとは并州か冀州を攻めるほかになく、また袁本初が多少の軍略を持っているのならば、“後顧の憂いを立つ”ために北進して幽州を落とす。ということが読み取れます。つまり、この2人の群雄は遠からず戦争を始める、ということです。あわよくば陳留の曹孟徳が北進して袁本初を挟撃すればいい……そんなところでしょう?

 

 

さて、そんな状況になったとき、徐州からどう動くのが良いのか。

 

北進して青州、冀州、幽州を制圧するのもありでしょう。しかし“中原に鹿を追う”のでなければそれは愚策です。“劉”の血族を仲間に持つ貴方方がそれを選ぶことはない。

 

となれば、狙いは何処か。

 

“二虎競食の計”にかけた理由。それが“共倒れ”でないのならば“時間稼ぎ”か“足止め”です。それを考えれば自ずと見えてきます。

 

袁公路。そう、あの2人の不仲は有名ですが、同族の袁家を攻められて黙っているほどではありません。つまり、袁公路を落とすときに袁本初が動けないようにしたい。そういうことでしょう?

 

徐州と北海はおそらく?と同じ状態で孫文台にでも渡す、そんな盟約を結ぶのでは?

 

揚州全土を治める孫文台。次に狙うのは荊州か徐州です。しかし、荊州には強大な袁公路が居る。攻めれば袁本初も敵に回ります。つまり、徐州を先に攻めようとするのは自明の理。それ故、先ほどの盟約が効果を持ちます。

 

と、この程度は読めるのですが、如何ですか?」

 

誇るでもなく、侮るでもなく。ただあっさりと読み解いてきた。絶句するほかなかった。

 

「俺の考え、間違っていたかな?」

 

そう言うのが精一杯だった。

 

「いえ。“一つの欠点”を除けば完璧です。」

 

「欠点?」

 

「はい。ただ、今の段階でそれを気にする必要は無いと思います。現状、他の諸侯は有象無象ですから。」

 

あっさり、そう言いきった。強大な群雄はたくさんいる。それを“有象無象”と言いきる理由が知りたかった。

 

「曹操、孫堅あたりは強大な群雄になりそうだけれど、郭嘉さんの見立ては違うのかな?」

 

「あくまで“現状”ですが、二者ともお話になりませんね。

 

まず曹孟徳からいきましょうか。彼女は“かりそめの覇道”を歩んでいるだけです。本人は“覇道”を歩んでいるつもりですが、実際は違う。彼女は自分にも相手にも“誇り”を求める人物なのですが、それと覇道は相容れぬもの。北郷殿、貴方の歩む道こそ真の“覇道”です。曹孟徳の歩む道はむしろ、“王道”に近い。ただ……。陳留は見てきましたか?」

 

「はい。」

 

「どうでした?」

 

「袁紹の本拠地である南皮よりも賑わっていました。“凄い”の一言に尽きます。ただ、賑わっているのは中心街だけ。その落差が不思議でした。」

 

福莱がそう言うと、彼女は微笑んだ。

 

「そう。歩む道を間違えていても街は賑わっている。一部だとしても。これがどういうことかわかりますか? 関雲長殿。」

 

「正しい方向に進めば強大な敵になる、そういうことですか?」

 

「ええ。有する能力はかなりのものがありますから。」

 

「一つ聞いても良いですか?」

 

「どうぞ。」

 

「なぜあのような惨状になってしまったのでしょうか?」

 

「見えていないからです。今、彼女にあるのは袁本初への劣等感。そして対抗心です。自分の足下は見えるから対処できる。しかし、見えないところに想像力を働かせるだけの視野を彼女は持ち合わせていない。」

 

なんとも……。ありがたいのかありがたくないのかわからない話だな……。

 

「それが修正される可能性はあるのですか?」

 

「一つだけ。曹孟徳の参謀として最も信頼されている人物である筍文若が、人材不足を補うために名士の登用を行っています。風が交流した中で2番目に優秀だった人物と接触したようです。」

 

「2番目に優秀だった人物?」

 

「ええ。名は」

 

「司馬懿 字は仲達。違うかな?」

 

「よくご存じですね。その通りです。司馬仲達。”司馬八達”で最も優秀な人物ですよ。」

 

朱里と藍里、つまり諸葛亮と?統がこの時代に居るということで予想はついた。奴が曹操陣営に与(くみ)するのか……。

 

「2番目に……ってことは、他にも優秀な人物は居るのか?」

 

「勿論。1番は周公瑾。2番目が司馬徳操と司馬仲達。4番目が荀公達と魯子敬

 

この5人からは落ちますが、廬子幹と陸伯言の2人もなかなか優秀でした。手紙でやりとりをした限りでは……ですがね。」

 

 

な……。ここに郭嘉・程cと居て、荀攸・司馬懿と交流がある。魏陣営のメインで交流がないのは荀ケと賈?の2人だけ。司馬徽の弟子が諸葛亮・?統・徐庶だから、それで蜀陣営のメインも埋まる。無いのは法正、馬良あたりか。呉陣営はもっと凄い。 周瑜・魯粛・陸遜と交流がある。呂蒙はもともと武官だし、魯粛の弟子だからメインの4人全員と関わっているということだ。”名士”ネットワーク恐るべし。

 

「荀ケとの関わりは無いのか?」

 

「あったのですが、一瞬でしたよー。風が、『男嫌いは視野が狭い証』と言ったら、『そんな奴から本を買うのはお断りよ!』と言われてしまいましたー。荀攸さんとの交流もやめようかと思ったのですが、知識人との交流はこちらも得るものが大きいので続けているのです。」

 

……。

 

「どうして司馬懿に会えば変わると?」

 

「正確には”変わる可能性がある”です。司馬仲達は徹底した現実主義者です。相手が誰であれ、言葉の刃で((抉|えぐ))っていきます。曹孟徳が司馬仲達の言を受け入れて進む道を決めたならば、強大な敵となり得るでしょう。司馬仲達が見捨てれば曹孟徳は終わりでしょうね。」

 

「……。司馬懿がもし、曹操を見捨てたらどう動くだろう?」

 

「少なくとも北郷殿のところには行きませんね。公孫伯珪のところで一文官として働くのではないでしょうか。」

 

「どうして俺のところには来ないで公孫?なのかな?」

 

俺は白露に劣っているのだろうか。

 

「貴方の陣営には既に優秀な人物がたくさん居ますから、埋もれるだけ……と判断するでしょう。公孫伯珪は器量の狭い君主ですが、上手く立ち回ればのらりくらり生きてゆけると思います。」

 

確かに、福莱、朱里、藍里、玉鬘、椿、と5人も居るからなあ。

 

「一つ良いだろうか、郭嘉殿。」

 

「なんでしょう?」

 

「曹操が司馬懿を殺す可能性はないのでしょうか。“言葉”とはいえ、“もしも”のことがあるのではないかと思ったのです。」

 

愛紗がある意味で恐る恐る、そんなことを聞いた。

 

「それはあり得ないでしょうね。仮にやってしまったら、曹孟徳はそれこそ終わりでしょう。言論に対して暴力で相手をするのは最も野蛮な行為です。『自分は論争に敗れた』と認めるも同じですから。

 

そうすれば、少なくとも荀公達は離反するでしょう。内部はめちゃめちゃになるはずです。」

 

俺の世界には

 

“あなたの考えに賛同はしないが、あなたがそれを言う権利は命をかけて守る”

 

という古来の格言がある。どこの世界でも言葉に対して暴力であたるのは愚かな行為なんだなあ……。

 

「なるほど……。孫堅のほうはどうなのかな?」

 

「あちらも論外ですね。領土拡張のことしか頭に無い統治者など、君主として不適です。周公瑾が本当に可哀相です。」

 

「領土拡張のことしか頭に無い?」

 

「ええ。戦争好き。しかもやりかたは大将を殺すだけ。お話になりません。長女の孫伯符もほぼ同じです。」

 

「それでも”揚州牧”なんだろう?」

 

「はい。次女の孫仲謀が”臆病”・”保守的”と言われながら地道に内政に取り組んでいるから辛うじて維持できている状況です。周公瑾か孫仲謀が倒れたら揚州は瓦解します。」

 

……。何とも辛口な評価だなあ……。

 

「曹操のように強大な敵となる要素はあるのですか?」

 

そう福莱が聞いた。

 

「ありますよ。簡単です。孫文台と孫伯符を暗殺すれば良いのです。2人とも警戒心の薄い性格です。それに、揚州には大将を殺されて恨みに思っている連中がたくさんいます。彼らを焚き付ければ暗殺など容易にできるでしょう。

 

そうすれば州牧の座は孫仲謀に廻ってきます。非常に危険な存在です。彼女は自分に”できること”と”できないこと”がわかっています。つまり、部下を、組織を動かすのがとても上手なのです。現状でまともな部下は周公瑾・黄公覆・周幼平くらいですが、全権を掌握して周公瑾の力を使えば相当の人物が集まるでしょう。そうなれば強大な敵になり得ます。揚州は場所が良い。北上して徐州、中原を狙うか荊州を狙うか、です。どちらも方法によっては素晴らしいことになる。

 

暗殺、やりますか?」

 

妖艶に微笑んだ。怖い……。

 

「い、いや……。わざわざ敵を強くすることはないよ。」

 

 

「で、本題なんだけど、郭嘉さんに程立さん。俺たちと一緒に天下を獲る気はないかな? 優秀な人は喉から手が出るほど欲しいんだ。」

 

「……。考えておきます。明日、また来て頂けないでしょうか?」

 

「分かった。」

 

 

 

 

 

 

解説

 

※1:庵・・・・古代中国にあったかは知りませんが、許容してください。

 

※2:対応表

 

袁公路:袁術

 

孫文台:孫堅

 

司馬徳操:司馬徽

 

司馬仲達:司馬懿

 

荀公達:荀攸

 

魯子敬:魯粛

 

廬子幹:廬植

 

陸伯言:陸遜

 

黄公覆:黄蓋

 

周幼平:周泰

説明
第3章 北郷たちの旅 新たなる仲間を求めて


問題作(話)です。特に華琳、雪蓮あたりが好きな方は覚悟してお読みください。

格好の問題で一部(性+字)表記を使っています。誰が誰かは解説に書いておきますので参考にして下さい。いつものように※表記にすると今回は味気なくなるので……。
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