ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長
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story26 白虎伝説

 

 

 

 アンツィオ高校との試合が終わって数日後――――

 

 

 

 大洗のグラウンドにある戦車倉庫で自動車部と整備部によって戦車の整備が行われていた。

 

 特に三式とW号は結構大幅な改造を行っている。

 

 

「あなた達が以前見つけた試製七糎半戦車砲(長)U型を三式の砲塔に合うように改良し、搭載したわ。これで以前より火力は結構上がっているはずよ」

 

 佐藤(姉)は他の整備部メンバーが三式の整備をしている中で如月と西住、アリクイチームに説明をしている。

 

 三式の主砲が以前の『三式七糎半戦車砲U型』から四式が搭載している『試製七糎半戦車砲(長)U型』を三式の砲塔に合うように改良されて換装されているので、以前より強そうに見える。

 

『ありがとうございます(なり)(だっちゃ)!!』

 

 アリクイチームのメンバーは深く頭を下げる。

 

「おぉ!三式が長砲身仕様の『チヌ改』に!」

 

 秋山は興奮気味で三式を見る。

 

「実際に搭載したのは四式の砲塔ごと三式の車体に換装したやつだが、こっちは計画されていた量産型の方だな」

 

 如月と西住、秋山は長砲身となった三式を見つめる。

 

 

「まぁ乗る際にはいくつか留意しておいてね」

 

 佐藤(姉)の言葉にアリクイチームは耳を傾ける。

 

「火力が上がったのは良いとしてなんだけど、砲撃時に戦車が結構揺れるからね。あと、間違っても砲撃時に砲尾の後ろに立たない事ね。怪我をしたくなければ」

 

 少し青ざめた様子で言うと、アリクイチームの面々も青ざめる。

 

「三式の長砲身仕様って、火力が上がったのは良いんですが・・・・当時の試験じゃ車内環境はあまり良くなかったそうです。それに砲尾も砲撃時はかなり下がるので狭い砲塔内で砲尾がぶつかる事故もあったそうです」

 

「だが、それを気をつければ、火力の高い戦車に代わりは無い」

 

「そうですね」

 

 

 

「あぁそれと、W号もついでにF2仕様に改装しておいたわ」

 

 佐藤(姉)は三式の隣で自動車部によって改装を受けているW号を見る。

 

「確かにF2っぽいですね」

 

 W号は外見が変化して、D型の次のF2型に改装されている。

 

「ありがとうございます!自動車部と整備部の皆さん!」

 

 西住は深く頭を下げる。

 

「別に良いのよ。やりがいのある仕事をくれたからね」

 

 佐藤(姉)は笑みを浮かべるとメガネをクイッと上げる。

 

 

 

「ルノーもすっかり元通りだな」

 

「そうね。意外と修理に手こずったけど、それもやりがいがあったから別に構わないわ」

 

 W号の隣にはアンツィオ戦で大破したルノーが元通りになって置かれている。

 

「それはそうと、ルノーの乗員は結局どうなったんだ?」

 

 

「それなら心配ないよ〜」

 

 と、相変わらずの口調で角谷会長が河島と小山を連れてやって来る。

 

「もう決まったから」

 

「え・・・・?」

 

 

 すると倉庫に三人の女子生徒が入ってくる。

 

「あ・・・・」

 

 西住の後ろに居た冷泉は思わず声を漏らす。

 

「本日から戦車道に参加します、『園みどり子』と風紀員です。よろしくお願いします」

 

 先頭に立つ・・・・・・ソド子?が頭を下げる。

 

「略してソド子だ。教えてやってね」

 

「会長!名前を略さないでください!」

 

 と、ソド子はすぐに言い返す。

 

「ところでさ、隊長。何チームにする?」

 

「え?」

 

 相変わらずの無茶振りに西住は一瞬戸惑うも、ルノーを見る。

 

「ルノーって、カモっぽくないですか?」

 

「じゃカモに決定〜」

 

「カモですか!?」

 

 なぜか驚いた声を上げる。

 

「冷泉さん。操縦を教えてあげてくださいね」

 

「私が冷泉さんに!?」

 

「分かった」

 

 小山が言うと、そど子は驚き、冷泉は軽く頷く。

 

 

「成績が良いからって、あまりいい気にならないでよ」

 

「じゃぁ教本見て自分で勉強するんだな」

 

「なっ!何無責任な事言っているのよ!ちゃんと懇切丁寧に教えなさい!」

 

「はいはい」

 

「はいは一回で良いのよ!!」

 

「はーい」

 

 

 

「しかし、ルノーの乗員が決まっても、チハの乗員も決まってないな」

 

 そんなやり取りがあっている間に、如月は左に視線を向けると、土地色から柳色に塗り直されたチハが置かれている。

 

「それも心配ないよ〜。そっちも手配しておいたから」

 

「え?」

 

 

 

 すると倉庫に四人の女子生徒が入ってきた。

 

「今日カラ戦車道に入ります、『三笠(みかさ)金剛(こんごう)』デース!ヨロシクネー!」

 

 と、片言で中央に居た人が右腕を上げて喋り出す。

 

 茶髪で髪をおさげにして後頭部で纏めており、頭に金と黒のカチューシャを付けている。瞳の色は灰色。背丈も四人の中では少し大きい。

 

「同じくお姉さまと一緒に入ります『三笠比叡(ひえい)』です。よろしくお願いします!」

 

 隣で金剛にくっ付いている女子生徒が言う。

 

 茶髪のショートヘアーで金剛と同じカチューシャを付けており、瞳の色は姉に似て灰色。背丈は金剛より少し低い。

 

「同じくお姉さまと比叡と一緒に入ります『三笠榛名(はるな)』です。よろしくお願いします」

 

 比叡と反対側の金剛の隣に立っている女子生徒が口を開く。

 

 黒髪で背中まで伸びたロングヘアーで、金剛と比叡と同じカチューシャを付けている。瞳の色は赤みがあるオレンジ。ちなみに胸の大きさは四人の中では一、二位の大きさを持つ。

 

「更に同じくして戦車道に入ります『三笠霧島(きりしま)』と言います。よろしくお願いします」

 

 榛名の隣に居る頭を深く下げる。

 

 黒髪のショートヘアーで、メガネを掛けており、金剛、比叡、榛名と同じカチューシャを付けており、瞳の色は青白っぽい灰色。ちなみに胸の大きさは榛名に次ぐか、それ以上をしていた。

 

 金剛以外の三人は金剛を姉と呼び、名字が同じなので、恐らく姉妹なんだろう。

 

「私タチ『艦(ふね)部』の部員ネー!」

 

「ふ、艦部?」

 

 思わず声を漏らす。

 

「聞いた事が無いですね」

 

 秋山が首を傾げて言った言葉に、、四人は背を向けて座り込み、ずーんと落ち込む。

 

「え?えぇ?」

 

 秋山は四人の様子から戸惑いふためく。

 

「やっぱり頑張っても結果はコレデスカ〜」

 

「結構宣伝したはずなのに・・・・」

 

「理解してもらえないなんて・・・・」

 

「無念です・・・・」

 

 四人とも涙目になり、床を指でいじる。

 

 

 

「・・・・艦部って言うのは、簡単に言ったら軍艦の知識や雑談などを語ったり、残っている資料を基に研究したり、模型の製作技術を競う大会に出る部活なんだけどねぇ。

 でもここ最近部員の数が減ってね。今年中に部員を増やし、更に今年中に成績を残さないと廃部が確定なんだよね」

 

「ツマリ!ワレワレハ部活復権に掛けて戦車道をやるネー!」

 

「そして部員を増やし!」

 

「カットされた分の部費を稼いで!」

 

「栄光ある部活を取り戻します!」

 

 そして四人は立ち上がって豪語した。

 

「でも、成績的には・・・・どうなんですか?」

 

「成績は良い方だ。二年前では模型大会で準優勝をしたが、去年から人数が足りてなく、出場出来ていないのが現状だ」

 

 と、河島の言葉に再度四人は落ち込む。

 

 

「それより、ワタシタチの戦車はどこネー?」

 

 金剛は気を取り直して立ち上がる。

 

「こちらになります」

 

 佐藤(姉)はチハに指差す。

 

「Wow!これが私たちの戦車デスカ!」

 

 金剛たちはチハを見て近付く。

 

「どんな戦車でも!お姉さまと一緒であれば、どんな敵でも倒せますよ!」

 

「そうですね!」

 

「えぇ」

 

 

 

「そ、それにしても、個性的なメンバーが集まりましたね」

 

 苦笑いを浮かべて西住が呟く。

 

「今に始まった事では無いだろ」

 

 バレーボール部チームや歴女チーム、ネトゲーチーム、不良チームなど、個性的過ぎる。

 

 

「それで隊長。チーム名どうする?」

 

「え・・・・?」

 

 そして容赦ない角谷会長の無茶振りに西住は戸惑う。

 

 

「・・・・・・」

 

 西住は首を傾げてチハを見つめる。

 

 

「・・・・鷹、でしょうか?」

 

「じゃぁタカに決定ね!」

 

「オォ!チーム名はタカデスカ!イイネー!」

 

 金剛は後ろを向いて笑みを浮かべる。

 

 

 

「だが、なぜ鷹なんだ?」

 

「・・・・な、何となく、です」

 

「おい」

 

 思わず声を漏らしてしまう。

 

「だ、だって、いきなり言われてもすぐには思いつきませんし」

 

 涙目になって、西住は如月に訴える。

 

 

 

「新チーム加入と既存戦車の改良で戦力は増強された!次は準々決勝!相手は『神威女学園』だ!」

 

 河島が言った学園名に、如月と秋山、西住が驚く。

 

「あの・・・・学園と」

 

「・・・・・・」

 

(遂に来てしまったか・・・・)

 

 如月は内心で呟く。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 西住と秋山、如月は広場に移動していた。

 

 

「如月さん!」

「みぽりーん!」

 

 と、早瀬達と武部達がやって来た。

 

「沙織さん・・・・」

 

「武部か・・・・」

 

 

「あれ?どうしたんですか?」

 

 いつもと雰囲気が違う事に気づき、武部は首を傾げる。

 

「いや、ちょっとな」

 

「次の試合の対戦校が分かったんです」

 

「そうなんだ。それで、その相手校って言うのは?」

 

 

 

「・・・・神威女学園だ」

 

「神威女学園?その学校って強いの?」

 

「強いと言えば強いが、何よりあそこは色んな噂がある学校でも有名だからな」

 

「噂?」

 

「そうなんです。なんでも、去年の準決勝で黒森峰を敗北一歩手前まで追い込んだ事もある学校なんです」

 

「えぇ!?嘘でしょ!?」

 

 秋山の口から告げられたとんでもない事実に武部は驚きの声を上げる。

 

「その試合見ましたよ!あの学校が次の私たちの相手って!?」

 

「・・・・・・」

 

 早瀬と鈴野も驚きを隠せれなかった。

 

「特に噂の的になっているのは、『白虎』と呼ばれる戦車なんです」

 

「白虎って・・・・」

 

 

 

「それについては私から説明するっす!」

 

 と、近くに茂みより中島が現れて坂本が「ぎゃぁぁぁぁ!?」と悲鳴を上げながら飛び退く。

 

「い、何時の間にそこに居たんですか!?」

 

「ん?さっきから一緒に居ましたよ」

 

「なんだと?全く気配すら感じなかったぞ」

 

 常に周囲に気を配っているのだが、それでも中島がそこに居ることが分からなかった。

 

「いやぁここまで気配を消せるぐらいじゃないと、情報屋は名乗れないっすよ!」

 

 照れ気味に言いながら後頭部に右手を当てる。

 そのスキルはどこで活用するつもりだ。

 

「まぁそれはさておき。実を言うとその白虎については前々から調べて居たんすよ」

 

「そ、それで、何か分かったんですか?」

 

「ついでに学校の事を調べていたんすけど、それについては特に驚くものは無かったっす。でも、白虎伝説は凄いっすよ」

 

「伝説までになってんだ」

 

 早瀬はボソッと呟く。

 

「そもそも、神威女学園は過去に何度も全国大会で優勝経験があるんすけど、数年前にとある理由で戦車道は廃止されたんすけど、二年前に再開しているみたいっすね」

 

「廃止になって、突然の再開って・・・・」

 

「何となく大洗と似たような状況だな」

 

「・・・・・・」

 

 すると一瞬中島の表情に影が差す。

 

 

「まぁ、その神威女学園の優勝は、その白虎の活躍があったからなんすよ。

 さっき秋山が言った通り、昨年の準決勝で、黒森峰と神威女学園が対決し、黒森峰はフラッグ車を残して全滅するも何とか勝利しているんすよ」

 

「そうなの、みぽりん?」

 

 武部が西住に聞くと、軽く縦に頷く。

 

「数は黒森峰が圧倒していたんだけど、試合の終盤でたった一両の白いティーガーに次々と撃破され、最後に私が乗るフラッグ車だけになりました。でも、向こうがエンジントラブルで停止して、それで行動不能になったんで、何とか勝てたんです」

 

「運で何とか勝てた、と言う所か」

 

 俄かには信じ難いが、実際にあの時の試合をテレビ中継で見ていたので、信じるしかない。

 正直言うと、あれは今でも凄いものだった。

 

「あの戦いは凄かったです。白いティーガーがたった一両で十両もの黒森峰の戦車を撃破したのですから」

 

 興奮気味で秋山が語る。

 

 

 

「いつも白虎と戦う学校は、一方的にやられるっていう事が多いみたいっすね」

 

「一方的にやられるって・・・・」

 

「今回の全国大会でも、一試合、二試合目共に神威女学園が一方的に相手を撃破し、勝利を収めているっす。

 しかも二試合目の相手は今大会の有力な優勝候補だったんすけどね」

 

「そんな学校ですら、負けるとは・・・・」

 

 改めてあの学校の強さを思い知る。

 

 

「過去にプラウダも神威女学園と対決し、敗北しているっす」

 

「・・・・・・」

 

「その時も一方的にプラウダがやられているみたいっすね」

 

「そんなに・・・・凄いんだ」

 

 武部は思わず声を漏らす。

 

「どれに関しても、敵の砲撃位置すら分からず、最終的にその白虎を見る事無くやられている。この事から白虎以外にも『幽霊虎(ゲシュペンスト・ティーガー)』って言う異名も付いているっすよ」

 

「幽霊・・・・」

 

 

「最近でもプラウダはまた神威女学園と練習試合をしているみたいっすね」

 

「凝り無いと言うか、何て言うか・・・・」

 

 早瀬は腕を組んで静かに唸る。

 

「その時も白虎によって一方的にやられているけど、たった一両だけ白虎と一騎打ちをしたT-34-85が居たそうっすよ」

 

「たった一両だけ?」

 

「・・・・・・」

 

「何でも今のプラウダ一のエースらしく、戦車長兼操縦手、砲手、装填手共にトップクラスの実力者の構成っす」

 

「居るもんだな。そういうのが」

 

「・・・・・・」

 

「最終的に白虎を追い込んだみたいっすけど、砲弾が砲身内で詰まって砲身が破裂、戦闘不能になったらしいっすね」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「他にも色々あるっすけど、特にこれは手に入れるのは苦労したっすよ」

 

「・・・・?」

 

「その白いティーガーの車長は・・・・・・早乙女流師範にして早乙女家当主みたいっす」

 

「さ、早乙女流・・・・」

 

 武部は以前如月から聞いた話を思い出す。

 

「・・・・・・」

 

「知っているっすよね、如月」

 

 中島は如月に視線を向けると、武部と西住以外は如月を見る。

 

「どういう事ですか、如月殿?」

 

「・・・・・・」

 

「如月さん・・・・」

 

 心配そうに西住は如月に声を掛ける。

 

 

 

 

説明
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。
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