参加した話
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『我がアズール軍の強化を図るため、魔海の強き戦士どもを集う宴を用意した。

血で血を洗う激戦を勝ち上がった者には、我が軍に幹部として迎え入れる栄誉を与えよう。

宴を盛り上げるために、呪われし数々の道具を用意した。中には敵を欺き陥れる残虐なものもあるぞ。うまく使い、敵を血祭りにするがよい。

楽しみにしておるぞ!ファファファファファファ!』

 

そんな手紙が全員に届けられたのは月の始めあたりだった。

各々闘い、ポイントを溜め、そのポイントの量で最強を決めようというものだ。

その通知が大魔王から発せられたときの反応は様々で、色めき立つもの、不安がるもの、不満を浮かべるものと多彩にわたった。

 

手紙を受け取った狙撃手もノリ気というわけではなく、「面白そうだから顔は出すけど賑やかし程度でいいや」とのんびり構えていた。

参加するためにはチーム登録をせねばならないが、チームはコスト☆6までの範囲内という規定がある。

自分が参加するならば強いチームにはならないだろうし、みんなとわいわい遊べればいいやと軽く考えていた。

 

 

「…って言ってたじゃない」

 

「確かに言いましたねぇ…」

 

呆れたように小さな僧侶は視線を送る。そんな視線を受けながら、狙撃手は大会会場にいる周りの人たちに目を向けた。

周りにいるのは、変化でみっちり埋まった斉天大聖や牛の魔王、ハンドレやサウザン、もしくは必殺で埋まった土の魔王や魔帝。各属性の邪神や邪帝が溢れかえる魔窟。

いきを吐き続けるスライムや、ファングで引っ掻きまくるドラゴン。

延々雷を轟かせる雷神竜や、延々壁を張る小さな古新兵。延々踊り続ける小さな踊り子。

相手に甘え続けるネコや悪霊を憑け続けるキツネなどなどなどなど。

リールアップで埋めてない?なんなのお前馬鹿なの?とばかりに全てのリールに★が大量にある猛者たちがウヨウヨしていた。

 

「あれ、あそこアタッカーいないね?」

 

「…あそこ召喚持ちですね。すぐ化け物喚ばれますよ」

 

そもそも召喚は、相手のストックが尽きたらヌエやコカトリス、ロック鳥が出てくるあたり、反射されて死ね・石化しろ・予想外の大ダメージ受けろ、もしくはマヒれという大魔王からの悪意を感じる。

うわあ、と抱きかかえていた緑色のトマトに顔をうずめた僧侶に狙撃手は「勉強にはなるでしょう?」とあまり心のこもっていない声をかける。

声をかけられた僧侶はとてつもなく不機嫌な声色で「ばか」と漏らした。

 

「なんで僕ら、大会ランキングでこんな上にいるんだろう…」

 

「…なんででしょうねぇ…」

 

本当に始めは賑やかし程度のつもりだったんだけどな、と狙撃手は息を吐き出す。

殺気溢るる愉快なバトル会場。その隅っこに座り込んでいる狙撃手たちは、ランキング上位で完全に浮いていた。

 

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「大会専用アイテムがあるのは知ってましたけど、それ使用するときに皆さんが対応したこと喋るなんて聞いてなかったしなあ」

 

「自分のことでしょ」

 

「僕、小さいときは新しい言葉喋んないですし」

 

狙撃手自身がやくそうを使おうとしたとき自然に出てきた言葉。

普段使わない言葉の羅列。

自分自身でも驚いたが、どうにも他の人に話を聞けば「薬使ったり罠使うときに、それ専用の言葉が出てくる」とのこと。

 

そうかあ…と思ってしまったが最後。じゃあみんなはどんな言葉を喋るのだろうと、気になって、それで…。

 

「全員の言葉を記録しに行ったと」

 

「…皆さんいろいろ喋りましたね」

 

僧侶が呆れた表情を向けると、狙撃手は小脇に抱えていた紙の束をドサリと取り出しパラパラ捲りはじめる。

そのまま狙撃手は、罠台詞は東国の人たちあたりから新しく喋るっぽいなあとメモを付け足した。

狙撃手の行動を眺め、僧侶は重い息を吐き出しながら再度頭を抱える。

そういやこの人カルトクイズ作った人だった、と。

 

「なんで僕、誘いに乗っちゃったんだろう…」

 

「感謝してますよー」

 

僧侶の持つシャインのおかげで、ごく稀にだが完成されたコマンドの目上の相手にも勝利をもぎ取ったりしている。

最終日午前中までランキングに入れていたのは、僧侶の力が大きい。

 

「調査するだけならキミひとりで行けばいいじゃない」

 

「ひとりはさみしいでしょう?」

 

小首を傾げつつ、狙撃手は僧侶の頭をぽんと撫でた。

なんだかんだで誉められ感謝され、僧侶は狙撃手から目を逸らしつつ軽く照れながらむぅと頬を膨らます。

面と向かって「寂しいから誘った」と言われたし、ならまあいいかと僧侶はほだされかけたが、

「皆さんの言葉集めやっていたら、勝手にランキング上がっちゃったんですよねぇ」

という狙撃手の言葉を聞いて、思わず自身の所持していた杖を当人に向けて思い切り振り下ろした。

 

「自業自得じゃないか!」

 

「おかげで周りが強すぎて、薬台詞の回収難しくなったんですよねー」

 

僧侶に殴られたものの、狙撃手はケロっとしたまま残念そうな表情を作る。

だから記録できてないんだよなと心底残念そうに。

蘇生薬を使えば、いやそれだとお金が、枠も埋まっちゃうし、とブツブツ言い始めた狙撃手に呆れながら、僧侶はため息を漏らす。

 

「ああもう…。んで、このあと僕らはどうすればいい?」

 

「特になにも」

 

今後の身の振り方を問いた僧侶に対し、狙撃手はあっさりと返す。

狙撃手の返答を聞いてキョトンとした表情をみせた僧侶に、狙撃手は他の参加者を眺めながらぼんやりと言葉を紡いだ。

 

「ランキング上位陣の勢いが加速してますし、放っといても僕たちは落ちますよ」

 

こちらは目的を達し終えたからもうこの大会に用はないとばかりに、狙撃手はくあと欠伸を漏らす。

そもそも最強決定戦の上位に僕らがいるのがおかしいと、狙撃手は壁にもたれ掛かった。

 

「ていうか魔王軍の幹部なんかなりたくないしゴタゴタに巻き込まれたくない」

 

軽く目を閉じ狙撃手は吐き捨てる。

自身の居住区にいる魔王だからか、どうにも狙撃手は水の魔王を好ましく思っていないようだ。

いろいろ言いたいことはあるけれど、と狙撃手は遠い目をしながらため息をつく。

僧侶は次の言葉を待ったが狙撃手は押し黙ったままだ。表立って不満を言う気はないらしい。

話題を変えるように僧侶はへらりと笑う。

 

「まあ、僕ら頑張った方じゃない?毎回90BP以上持ち帰ったし」

 

「え?普通それくらい持ち帰れるんじゃないんですか?」

 

順位や間隔によるからどうとも言えないけど、と僧侶は苦笑しつつ「頑張った方」と親指を立てた。

ほぼ勝ててはいないが選ばれる率が高かったらしい。

僕らの順位の半分はみなさんのやさしさでできています、を実感しつつ、本当に自分たちは場違いだったなあと頬を掻く。

 

「いろいろあったけど、まあ楽しかったからいいかな」

 

「なら良かった」

 

ふたりでへらっと笑いあう、と、自分もだとばかりに緑色のトマトも伸び上がって「トマ!」と声を発した。

そんなトマトを見て、ふたりとも多少驚きながらも微笑んで「君もお疲れさま」とぽふぽふ撫でる。

満足げに動くトマトに和みながら、闘いが激化している上位陣を眺め見た。

 

今僕らはボーダーラインギリギリあたり。

落ちたらとっとと帰ろう、最終的にどのくらい落ちるかな、と少しワクワクしながら。

目的を完了している身としては、あとは流れに任せるだけ。

ようやく周りを見る余裕が出来た。

 

大会終わったら参加者全てにこう言おう。

「お疲れさま、ありがとう」

と。

 

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後日、大会結果が届いた。

『なかなかの戦いであった、今後も励むがよい』という大魔王からのメッセージとともにチケットが1枚封入されている。

入賞はしていなかったが思ったよりは下がっておらず、全員不思議そうに首を傾げた。

もっと下がると思ったのにな、と頭を掻きつつ狙撃手はチームを組んだふたりに向けて言う。

 

「今後も励めと言われたし、もし次があったら一緒に薬台詞回収を」

 

「キミひとりでやって」

 

「トマ…」

 

ふたりに冷たい目を向けられた狙撃手は「ですよね」と寂しそうに笑いぽつりと呟いた。

薄くなった自身の財布を撫でながら、

「……次あるときはアイテムまとめ買い割引とかオマケがつくとかあればいいのに」

と。

 

 

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