恋姫?無双 偽√ 幕間1
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 天の御遣い・北郷一刀の裏切りは劉備軍の将官、そして徐州の民たちを大いに混乱させた。

 

 

 しかし、幸いながら劉備軍の善政と一刀本人の人柄のお陰か民達は困惑はしたが暴動などの行為に及ぶことはなかった。

 

 

 それでも将官たちの混乱はすさまじいものがあり、軍事・政治ともに数日間はまともに機能せず、どれほど一刀の存在が劉備軍に影響を与えていたのかが窺い知れる。

 

 

 一刀の裏切りが星により報告されたのは一週間前だった。

 

 

 

 

 

 星・愛紗が魏領より帰還する数刻前、桃香を中心とする劉備軍の将官たちは城内で一刀達の帰還を祝う宴の準備をしていた。

 

 

 中庭に大きな卓がいくつか並べられ、その上には豪華とは言えないものの一刀を慕う城内在住の料理人の好意で作られた料理と月や朱里・雛里などが作ったと思われる菓子が所狭しと並べられていた。

 

 

 各所に一刀のことを慕う者達の心づかいが見られる。

 

 

「朱里ちゃん・雛里ちゃん。ご主人様喜んでくれるよね?」

 

 

 準備が進められていく様子を見ながら劉備軍の総大将の桃香は近くにいた軍師二人に尋ねた。

 

 

「当然です!私たちが一生懸命準備した宴をご主人様が喜んで下さらないわけありません!」

 

 

「です!」

 

 

 二人は自信に満ち溢れた表情で答えた。

 

 

「そうだよね。ご主人様きっと喜んでくれるよね。…でも、曹操さんの所の宴ってこんなものじゃないんだろうなぁ」

 

 

「はわわ…そ、それはそうかもしれませんけど…。きっと大丈夫です!我々が用意した宴はご主人様のことだけを考えて催すのですから、曹操さんたちのものと比べて豪華さは劣ったとしても気持ちだけは絶対に負けません!そうだよね、雛里ちゃん?」

 

 

 朱里は捲し立てるように言って親友に同意を求めた。

 

 

「あわわ…朱里ちゃん。大胆…」

 

 

 雛里は親友の発言に顔を真っ赤に染めながらもコクリと首を上下させ、同意した。

 

 

「…朱里ちゃんってば本気だね」

 

 

 桃香は強敵を見るように朱里を見つめた。恋敵という点では一刀に仕えるほとんどの将官がそうであると言わざるをえないが。

 

 

「もちろん本気です!ご主人様はどこの誰とも知れない私を軍師として配下に加えていただいた御恩も当然ありますが、それ以上に…優しくしてくださいました。こんなご時世ですから後悔だけはしないようにって思ったんです」

 

 

「「朱里ちゃん…」」

 

 

 それを聞いた二人は朱里の言葉と表情からそれが本気だということがありありとわかった。

 

 

「私も負けてられないなぁ」

 

 

 桃香か決意を新たに豊満な胸の前で両の拳をギュッと握る。

 

 

 それは虚しくも次の瞬間に打ち砕かれることになるとも知らずに。

 

 

 朱里は天才的観察眼で桃香が胸の前で握りこぶしを作った時にその細み身体に対して不自然なまでに自己主張している、我儘な胸がたゆんとこれ見よがしに揺れたのを見逃さなかった。

 

 

 眉がぴくりと跳ねた。

 

 

「雛里ちゃん、私たちはご主人様のことを想ってお菓子も作ったよね?」

 

 

「う、うん」

 

 

 雛里はよくわからないといった感じで頷いた。雛里のいた側からは見えなかったのだろう。二人がどう足掻いても手に入れることのできない二つの脂肪でできた球体が。

 

 

「え〜!?そんなのずるい〜」

 

 

「ずるくなんてないです!桃香様はすでに羨まし…恐ろしい武器をお持ちじゃないですか!」

 

 

 コクコクとそれに気づいた雛里も同意する。

 

 

「そんなの持ってないよぅ」

 

 

 桃香本人は悪気がないがそれこそが最も朱里と雛里を傷つける。主に心を。

 

 

「「いいえ!持っています。対ご主人様用決戦兵器を!」」

 

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 桃香達が暖簾に腕押しな問答をしている間に見知った顔が近づいてきた。

 

 

「…桃香?……宴の準備、終わった?」

 

 

 やってきたのは天下無双の武を誇る呂布こと恋とその参謀陳宮こと音々音だった。

 

 

「どうしたの恋ちゃん?確か今は警邏に出かけてるはずじゃ?」

 

 

「そんなものはとっくの昔に終わったのです!恋殿のご威光の前では犯罪の方から逃げていくのです!」

 

 

ねねは自分のことのようにない胸を張って、踏ん反りかえった。

 

 

「そ、それはいいんだけど…その、恋ちゃんが持ってるその袋は?」

 

 

 桃香は少々困惑しながら訪ねた。

 

 

「…お土産。…今日、ご主人様が帰ってくるから」

 

 

「ねねはそんなものいらないと申したのですが、恋殿がどうしてもと言われるのではしょうがないのです。どうしてあんな奴の為に…」

 

 

 恋はねねの頭をコツンと軽く叩いた。

 

 

「あんな奴、じゃない。…ご主人様」

 

 

 恋は窘めるようにいった。

 

 

「そんなぁ〜恋殿ぉ」

 

 

 二人の様子を見ながら桃香は恐慌状態にあった。

 

 

(ま、まずいよぉ〜。私なにも用意してないのに〜)

 

 

 

 

 

 

 

 それに追い打ちをかけるようにもう一人の人物がその場に現れた。

 

 

 公孫賛こと白蓮そのひとである。

 

 

「よう、桃香。真っ青な顔してるぞ。大丈夫か?」

 

 

「ぱ、白蓮ちゃん。聞いて…よ……」

 

 

 振り向いた桃香の視線は白蓮の右手の先に握られている物に向けられ、そして動かなくなった。

 

 

「どうした桃香?」

 

 

「白蓮ちゃん、その右手に持ってるのって」

 

 

「あ、あぁこれは、今日って北郷が帰ってくる日だろ。それであいつには色々と世話になってるから酒でもと思って…」

 

 

 心なしか白蓮の頬は赤く染まっているように見えた。

 

 

「そ、そんな…。皆ずるいよ〜!」

 

 

 後からきた面々は「なにが?」という顔をしている。

 

 

 朱里と雛里はというと難しい顔をして二人でなにか話し合っているようだ。

 

 

「手強い」「侮れないね」などという単語がわずかに漏れだしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、桃香への追撃はやむことを知らない。

 

 

 料理を運んでいた月と詠がその場に顔を出した。

 

 

「あのぉ〜、皆さんお揃いでどうかされたんですか?」

 

 

「そうよ!仮にも軍の幹部が雁首そろえて。仕事しなさいよね。ただでさえいそがしいんだから」

 

 

「ダメだよ、詠ちゃん。そんなこと言ったら。みんなご主人様が帰ってくるのを楽しみにしてたんだからしかたないよ」

 

 

「でも、月ぇ」

 

 

「詠ちゃんだってご主人様が帰ってくるの嬉しいでしょ?」

 

 

「そ、そんなことあるわけないじゃない!あんなチ○コ太守」

 

 

「詠ちゃん、ご主人様のことそんな風に言っちゃ駄目だよ」

 

 

「ご、ごめん。でも」

 

 

「詠ちゃん」

 

 

「わ、わかったわよ。月がそういうなら…」

 

 

 二人の漫才じみたやりとりを微笑ましく見ていた面々だったが一人だけ違う者がいた。むろん桃香である。

 

 

「ねぇ月ちゃん、詠ちゃん。…もしかして二人でご主人様の為になにか作ったりなんかしてないよね?」

 

 

 桃香は恐る恐る尋ねた。

 

 

「へぅ〜」

 

 

 月は顔を真っ赤にして俯いた。

 

 

「そ、そんな…」

 

 

 桃香は顔を真っ青にして俯いた。

 

 

「そ、それで二人はどんなものを作ったの?」

 

 

「二人って私はなにも!」

 

 

 二人という言葉に自分が含まれていることに気づいた詠は当然のごとく反論した。

 

 

「詠ちゃん、嘘はだめだよ。二人でご主人様の為にお菓子を作ったじゃない」

 

 

「それは月がお菓子を作りたいって言ったから手伝っただけで。あいつの為に作ったわけじゃ…」

 

 

「詠ちゃん」

 

 

「……」

 

 

「そ、そうなんだ。お菓子作ったんだ…」

 

 

 桃香は呟くように言った。その暗い表情を隠そうともしない。

 

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 そして最後の追い打ちをかける者が現れた。

 

 

 そう、桃香の義妹。張飛こと鈴々である。

 

 

「お姉ちゃん、どうしたのだそんなに暗い顔して?」

 

 

「あ、鈴々ちゃん。もう訓練は終わったの?」

 

 

「ばっちりなのだ!今日はお兄ちゃんが帰って来るから速攻で終わらせたのだ」

 

 

 かなり問題のある発言だがここではなかったことにする。

 

 

 誰も気にしていないようだったし。

 

 

「そ、そういえば鈴々ちゃんはご主人様の為になにかしたの?」

 

 

「んにゃ?鈴々は別になにもしてないのだ」

 

 

「そっかぁ」

 

 

 桃香の顔に安堵の顔が浮かんだ。

 

 

 しかし、それも一瞬。

 

 

「でも、この前お兄ちゃんといっしょに御飯食べに行った時に入ったお店でお兄ちゃんがすごく美味しいって言ってた料理があったから出前を頼んだのだ。お兄ちゃんが着く頃に持ってきてくれるってお店の人が言ってたのだ!」

 

 

 鈴々は嬉しそうに言った。本人に悪気があるわけではないのだがこれが桃香を一番傷つけたことは言うまでもないだろう。

 

 

「…う」

 

 

「「「「う?」」」」

 

 

 全員の頭上に疑問符が浮かぶ。

 

 

「ぅわ〜ん私だけなんにもご主人様の為に用意してないよぅ〜!」

 

 

 桃香は恥も外聞もなく泣き出してしまった。

 

 

「だ、大丈夫ですよ。ご主人様はそんなことを気になさいませんよ」

 

 

 朱里が宥めるように言った。

 

 

 さっきまで優越感に浸っていたが流石にまずいと思ったらしい。

 

 

「ほ、ホントに」

 

 

「本当ですよ!…たぶん」

 

 

 最後の方は小さく呟いただけだったが。

 

 

「いま、たぶんって言った!」

 

 

 …聞こえていたらしい。

 

 

「あわわ」

 

 

 このあと桃香を宥めるのに相当な苦労を要したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 桃香が泣き終え、宴の準備が完了した頃に城壁の見張りから関旗と趙旗を掲げた一軍が見えたと報告があった。

 

 その中に北郷の十文字旗は見受けられなかった。

 

説明
偽√ 第5話の投稿をしようと思っていたのですが魏の拠点フェイズにおいて悪戦苦闘していまして短いですが幕間ということで投稿させていただきます。

本編に全く関係ないというわけではありませんので読んで下されば幸いです。

追記:誤解を招くかもしれないので。ちなみに場面は一刀が徐州に帰ってくる予定の日の桃香たちの様子です。彼女たちが笑顔で出てくるシーンがこれ以降ほとんどないといっても過言ではないのでこのような形の投稿になりました。

また誤字、キャラの口調などでおかしいところがありましたらご報告していただけると嬉しいです。
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コメント
maaaさん そうですね。 そこを存分に引き立てたいところです。(IKEKOU)
混沌さん 桃香には少しかわいそうではありましたが、楽しげ(?)な雰囲気はだせたかと。 (IKEKOU)
フィルさん たしかにその場面を引き立てる演出ですので・・・ご了承いただきたく…(IKEKOU)
YUJIさん 続き頑張らせていただきます!(IKEKOU)
ふじさん ご期待を裏切らないようにしたいです!(IKEKOU)
totoさん 早く第五話を投稿できるようがんばります!(IKEKOU)
munimuniさん なにかご不明な点でもありましたでしょうか?(IKEKOU)
この先の蜀の状態を思うと切ない(maaa)
この後が少し怖いが、続きを待ってますwww(YUJI)
微笑ましいけど、その分この後が狂乱になりそうで怖い ガクガク(((・。・)))ブルブル(フィル)
桃香がなんか可哀想w続きが気になってしょうがない><(混沌)
wktk(ふじ)
続きを待ってますw(toto)
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