ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長
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 story27 過去と訪問と見極め

 

 

 

 それから数日後・・・・

 

 

 

「それで、如月さんはこれからどうするんですか?」

 

「私は適当に時間を潰すさ」

 

 如月と早瀬と坂本は大洗の町を歩いていた。

 

 

 金曜日の夕方に学園艦が大洗の港に寄港し、そこから三連休の間留まり、月曜日の夜まで補給と整備を行うとの事。

 

 如月は早瀬と坂本と共に大洗の町を歩いている。

 

 

「しかし、鈴野は何所に行った?朝から姿を見てないが・・・・」

 

「詩乃でしたら、昨日の夜から学園艦を出て佐賀県の実家に戻っています」

 

「実家にだと?」

 

「詩乃のお母さんの見舞いにですよ」

 

「そうか。鈴野の母親は・・・・確か」

 

「えぇ。精神的に不安定で、ずっと病院に入院しているんです」

 

「まだ安定していないのか」

 

「はい」

 

「そうか」

 

 

 

 

「しかし、まさか次の対戦校があの学校とは思いもしませんでした」

 

「そうだな」

 

 この間の話を思い出して早瀬が口を開く。

 

「それに早乙女流と対決。どうなるんでしょうか」

 

「・・・・相手が何であろうと、勝つだけだ」

 

「・・・・・・」

 

 

「あ、あの、早乙女流って、どういった流派なんですか?」

 

 坂本は如月に聞いて来た。

 そういえば知らないんだったな。

 

「そうだな。西住流は力で敵をねじ伏せる、電撃戦を得意としている。

 だが、早乙女流は西住流とは、戦術が根本的に異なる」

 

「と、言うと?」

 

「早乙女流は高度な戦術の基、様々な戦法を駆使する撹乱戦法を得意としている」

 

「なるほど」

 

「それ故に、犠牲など構わず、力でねじ伏せる西住流とは違い、早乙女流は戦車の生存率が高く、敵の意表を突いて確実に各個撃破する。

 だが、それ故に扱い者は相当な策士でなければ、本領を発揮できない難しい流派だ」

 

「今回や去年の事ですと、かなりの実力者という事でしょうか?」

 

「そういう事だ」

 

「・・・・・・」

 

 話を聞いて坂本の表情に少し影が差す。

 

「まぁ今までの相手とは全く異なる。それだけは確かだろうな」

 

「・・・・・・」

 

 そうして大洗の町を話しながら歩いていると――――

 

 

 

 

 

「鈴?鈴じゃないか!」

 

 と、前の方に一人の老人が立っていた。

 

「あっ!おじいちゃん!!」

 

 と、坂本は喜んだ様子で老人の元に向かった。

 

「どうしてここに?しかも何も連絡なしに?」

 

「お前さんを驚かせようと思ってな」

 

「そうなんだ」

 

 坂本は笑みを浮かべる。

 

「それで、そこの二人は?」

 

 老人は如月と早瀬に目を向ける。

 

「うん。戦車道で私と一緒に戦車に乗っている人達で、あそこの如月さんは車長だよ!」

 

「そうか。いやぁ孫がいつもお世話になっています」

 

 と、頭を下げてくる。

 

「いえこちらこそ」

 

 如月はすぐに頭を下げる。

 

 

 

「しかし、まだお前さんが戦車道を続けていたとはな」

 

「だって、私が大きく変わる事が出来たきっかけだからね。続けられるまで続けるつもりだよ」

 

「そうか」

 

 

「・・・・やっぱり、お母さんは」

 

「あぁ。未だにお前さんの戦車道をやる事に反対しておる」

 

「そっか」

 

 少し坂本の表情に影が差す。

 

 

 

 

 それから坂本の叔父と話して、再び大洗の町を歩いている。

 

「しかし、さっきの話は、どういう事なんだ?」

 

「・・・・・・」

 

 如月が問うと、坂本は少し迷いが表情に浮かぶ。

 

 それは、坂本の母親が戦車道をやる事に反対している事だ。

 

 

 

 

「私のお母さんって、心配性っていうか、親バカなんです」

 

「お、親バカって」

 

 早瀬は少し呆れる。

 

「お母さんは『戦車なんて命を奪うだけの戦争道具でしかない、野蛮な鉄屑』なんて言って、私が戦車道をやる事に反対だったんですよ」

 

 ボロクソと言うな。秋山が聞いたら絶対キレているだろうな。

 

「でも、鈴は戦車道を続けているよね。でも、鈴は何で戦車道をやろうと思ったわけ?」

 

「・・・・私は、ただ、自分を変えたかった・・・・そんな感じ」

 

「自分を・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

「私、いつも守られっぱなしで、だから弱虫だったんです。何かあれば誰かに頼って、何かある度に泣いたりしたり。少し前までは私はそんなんだったんです」

 

「・・・・・・」

 

「でも、そんな私が嫌で、変わりたいと思ってはいたんですが、そう簡単には変われなかった」

 

 語る度に坂本の表情に影が差している。

 

(坂本にも、こんな過去があったのだな・・・・)

 

 如月は何も言わず、静かに聞く。

 

 

「そんな時に、戦車道と会ったんです」

 

 すると坂本の表情に少し明るみが表れる。

 

「戦車の主砲から空気を切り裂いて轟音と共に放たれる砲弾や、履帯とエンジンの音。それを聞いて私の中で初めて高揚があったんです。

 今でもその感覚は覚えています」

 

「・・・・・・」

 

「これを通せば、私は変われるかもしれない。そう思って、戦車道を始めたんです」

 

「そうだったのか」

 

 どこか私に似たような出会い方だな。

 

「でも、最初は大変でした」

 

「あぁそういえばそうだった」

 

 早瀬はその時の事を思い出して苦笑いする。

 

「何かあったのか?」

 

「えぇ。最初鈴は私と詩乃以外のメンバーとはあんまり打ち解けれなくて、よく一人になる事が多かったんですよ」

 

「・・・・・・」

 

「そのせいで、よくメンバー内でトラブったりしたことも」

 

「そうか」

 

 今の坂本からだと考えにくいものだな。

 

「まぁ、半年あたりで何とか普通に話せるレベルまでにはなりましたよ」

 

「そうか。それで、お前は変われたのか?」

 

「はい。自分で言うのもなんですが、以前より、自分の自身が持てるようになりました」

 

「そうか」

 

 

 

「・・・・でも、さっきも言った通りに、お母さんは戦車道を反対した」

 

「・・・・・・」

 

「最初は内緒で戦車道をやっていたんです。話したら反対されるって言うのは目に見えていましたから」

 

 まぁあそこまでボロクソと言っているとなれば、そうなるな。

 

「でも、卒業間近な時に、私が戦車道をやっていた事がばれちゃって、かなり怒られました」

 

「・・・・・・」

 

「そのせいでお母さんは私の進路先を大洗女子学園に勝手に決めたんです」

 

「・・・・・・」

 

 若干如月と経緯が似ているような気がするな。

 

 

「それで大喧嘩して、今日に至るまで全くお母さんと口を聞いていないんです。恐らく私が戦車道をやってる事は知ってるだろうし」

 

「・・・・・・」

 

「まぁでも、私は誰かに言われても、戦車道を辞めるつもりはありません。私が変われた武道であって、様々な出会いがあった武道でもあるんですから」

 

「そうか」

 

 如月は微笑みを浮かべる。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 その後二人と別れて如月は一人大洗の町を散策していた。

 

(西住といい、冷泉といい、鈴野といい、坂本といい、やっぱり色々とあるのだな)

 

 自分だけが不幸だとは思っていないが、それでも周りだけでもこれだけ居ると、改めて思った。

 

「・・・・・・」

 

 如月はしばらく歩いていくも、少しして立ち止まって後ろを振り向く。

 

「わざわざお前がやってくるとはな。試合前の偵察行為と言うべきか」

 

「それもあるけど、私がやってきたのは、別の理由よ」

 

 そうして如月の後ろに居た女性は口を開く。

 

「ごくろうな事だな」

 

 如月の目の前には、黒のスーツとタイトスカートに身を包んだ早乙女神楽が立っていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「で、わざわざ私の元まで来て、何の用だ」

 

 それから移動し、如月と早乙女は喫茶店で飲み物を飲みながら話している。

 

「試合前の挨拶って所よ」

 

「挨拶?」

 

「えぇ。一回戦目と二回戦目突破おめでとう。アンツィオならまだしも、サンダースを倒したのは大したものだわ」

 

「それはどうも」

 

 

「さすがは西住流の妹ね」

 

「・・・・・・」

 

 如月は少し反応する。

 

「少なくとも、私は別に斑鳩や絶対勝利主義者の様に西住みほのことを罵らないわ。あの子は正しい行動を取った。私はそう思っている」

 

「・・・・・・」

 

「早乙女流のもっとうは、西住流や斑鳩のように犠牲を厭わないようなものではなく、仲間と共にあり、勝利を共にする。つまりは西住みほと同じ考えなのよ」

 

 つまり、早乙女流は決して仲間を見捨てたりはしない。どんな時でも助け合い、困難に立ち向かう。それが早乙女流の真骨頂。

 

「西住は早乙女家の者の方が良かったと、そう言いたいのか」

 

「あくまで似ている。それだけよ」

 

 早乙女はカップを持ってコーヒーを飲む。

 

 

「だが、お前の話はコレだけではないのだろ。お前がわざわざこんな所まで来る事はないのだからな」

 

「言っておくけど、私の実家は大洗の隅にあるのよ」

 

「・・・・なに?」

 

 如月は思わず声が漏れる。

 

「知らなかったの?だからよくあなたの両親のお墓に私の家政婦がやって来ているのよ」

 

「・・・・知っていたのか」

 

「私は早乙女家の当主よ。知れる事は知っている」

 

「・・・・・・」

 

「でも、私は斑鳩の人間とは違って、別にどうと言うわけではないわ」

 

「・・・・・・」

 

 

「それはさておき、あなたの質問通り、私がやってきたのは挨拶だけじゃないわ」

 

 コーヒーを飲み終えて、受け皿にカップを置く。

 

「如月翔。私は次の試合で、あなたを見極めるわ」

 

「見極めるだと?」

 

 私は眉を顰める。

 

「えぇ。あなたが斑鳩の人間か、それとも早乙女の人間かをね」

 

「・・・・・・」

 

「斑鳩の人間であれば、それであなたはそういう事だった。それだけよ」

 

「・・・・・・」

 

「でも、早乙女の人間であれば、それはそれであなたには見所がある」

 

「・・・・・・」

 

「あなたがそのどちらかであるかは、次の試合で明らかになるわ」

 

「・・・・・・」

 

「次の試合でまた会いましょう」

 

 と、早乙女は席を立つと胸ポケットより如月の分も含めた勘定分の代金を出してテーブルに置き、喫茶店を出る。

 

 

 

(見極める、か)

 

 早乙女が去った後でボソッと呟く。

 

「・・・・・・」

 

 如月はしばらく、その場に居続けた。

 

 

 

説明
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。
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