紺野夢叶 短編小説【ジーニアス・オン・ア・ジーニアス!】2 |
スポーツテストが終わり昼休みになった。
夢叶は輝かしい成績を残しつつも、国語の結果が不満なのか浮かない顔をしていた。そんな夢叶の手には、半額のシールが貼られたシュークリームが握られている。
「夢叶様〜?」
夢叶の後ろから、突如声がかかった。夢叶はシュークリームの半額シールを机に急いで伏せ振り返る。そこに居たのはクラスメイトのキャロルだった。
「どうかしましたか〜?」
「……テスト」
「テスト!凄かったですよね〜!」
「すごくない!!」
キャロル・ピールは、五年一組の中でもとびきりの容姿と、底抜けの明るさを持っている、クラスの人気者だ。夢叶とよく似た明るい金髪を、彼女はすらりと真っ直ぐ流している。喋っているだけで花が咲きそうに明るいキャロルの態度が、今の夢叶には厭に鼻についたのだった。
「慰めとかいいから……」
「そんなのではありませんよ!ワタシ、あんな反復横跳び初めて見ました〜」
「そっちじゃない」
「あっ、国語ですか〜?でも、アチラも98点ですよ〜?ワタシなんて、えへへ、42点〜」
あくまでにこやかなキャロルに、夢叶はぶうっとむくれ顔を露わにする。
「テストは100点じゃなきゃ意味が無いの!!」
「いつも100点じゃないですか〜。たまには2点ぶんくらい、お休みです!」
邪気の無いキャロルに、夢叶はうまい返し言葉が見つからず、誤魔化すようにシュークリームを口に運んだ。
「夢叶様って……、"天才”ですよねぇ」
キャロルが言った言葉に、夢叶の手がぴたりと止まった。
「……アタシが天才?」
「ハイ!勉強もすごいし、体育もすっごくデキるし、家庭科も、図工も……。あ! 前、夢叶様が音楽の時間のときに歌ってたとき、ワタシ、感動したのですよ〜! 芦屋ナマちゃんも目じゃないな! 夢叶ちゃんすごい、うらやましいなあ〜って!」
芦屋ナマは、今もっとも旬なタレントで、夢叶たちの一つ上の年の小学六年生にあたる。そんな、全国区のカリスマ小学生と比べなくてもと、夢叶はキャロルから目線を外した。目線の先にシュークリームに貼られた、半額シールが飛び込んできた。夢叶がキャロルのほうを向き直すと、キャロルの手には、それはそれは高級そうなエクレアが握られていた。
「……アンタのほうが羨ましいから」
「え?」
にこりと笑うキャロルの口元に、ほんのりとチョコレートが付いている。
「アタシは……上に、チョコレートなんてかかってなくても、満足出来る"程度”だもん」
「え? え?」
キャロルが、自分の手元にあるエクレアと、夢叶の手元にあるシュークリームを交互に見た。そうやって顔を動かすたびに、チョコレートの香りが誘惑してくるものだから、夢叶は必死でそれから目も鼻も意識を背けた。
「あ、でしたら! 今度、夢叶様のお家へ行っていいですか!? ワタシのパパは、パティシエで、『パティスリー ジェイムス・ピール』っていうサロンを開いてるのです! マカロンとかダコワーズとかすっごく美味しくって。あ、そうだ! 今度新商品で、フランボワーズとクランベリーのキルシュトルテを作るので、そちらを持って参ります〜!!」
「ぺてぃすりさろん、くらんべり、ふ、ふらんぼわず、きるしゅ、だこわず……?」
夢叶は聴き慣れない呪文たちに、思わずふらっとした。
「アンタが、アタシの家に、来る?」
「ハイ!夢叶様のお家に!」
「アタシの、家……」
夢叶は思わずシュークリームの袋を握りつぶした。申し訳程度にはみ出るクリームの少なさと、無残にしわがかった半額シールが、夢叶の家を物語っていたのだった。
説明 | ||
坂学園☆初等部の短編小説です。 ・公式サイト http://www.sakutyuu.com/ ・作家 田島聖也 |
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