真・恋姫†無双 拠点・曹仁2
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 自分の仕事を終わらせ――気が入らずに想定していた時間の何倍も費やしてしまったが――いてもたってもいられずに一刀の部屋へと向かう事にした。

 

 “惇姉ぇが何をしてくれるのかはわからねっすが、待ってられねっす”

 

 何をするのか、会って何を話すのか。頭の中は混乱していて纏まりは無い。しかし、そんな事は会ってから考えればよい。とにかく行動あるのみなのだ。華侖は行動派なのだから。だが、考えなしに行動した結果が九割以上失敗する事を彼女は学ばない。

 

 『考えてる暇があるなら、先に体を動かせ。誰よりも早く動くことが大切だ』

 

 彼女が尊敬する春蘭の言葉である。考えてから行動する、という事を覚えない原因の一つだ。しかし、この発言をした彼女もまた、魏のトラブルメーカーである事を自覚していないことは語る必要はないだろう。

 

 今日は暑く、雲一つない空。太陽は存分に大地を照らした。

 さんさんと降り注ぐ暖かい光。城に住む者たちはその光を一身に浴びながらそれぞれの仕事をこなしていく。

 

 しかし。

 そんな太陽の彩りも、華侖の心には届かなかった。

 頭の中では一刀の言葉が何度も再生される。

 表情は緊張が支配し、影を濃くしていた。

 

 次第に歩く速度が落ち、足音を消すように忍んで歩く。目的地である一刀の部屋が近いのもそうなのだが、中から話声が聞こえていたからだ。一人ではない。一刀と桂花に風、そして栄華の声だった。

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 『無駄?私のこの努力が無駄?その言葉は聞き捨てならないわね。確かに私の努力は一番にはなれないわ。だって一番は決まっているんだもの。でもね、時には結果だけじゃなくて過程が大事だって事もあると思うのだけれど』

 『んー。なんとなく風には言いたい事が分かった気がするのですよ』

 桂花に続いて、風が喋っている声が聞こえる。

 

 “いったい、何の話なんだろう……?”

 

 桂花の努力が無駄だと言われた事は分かる。しかし、それが一体何の努力なのか。華論にとって、それを想像する事は難しくなかった――

 「ハッ!?ま、まさか」

 

 

 『ごめんな桂花……俺、栄華の事が好きなんだ』

 『聞きまして?嫌いなフリをしていましたけれど、実は私も一刀の事がだーい好きなのです』

 『そういう事だから桂花。お前の努力は無駄なんだ』

 『お分かりになりまして?だから私たちの愛の巣に、その汚らわしいドMな足で踏みこんで来ないでくださる?』

 

 

 「そ、そんな……!?」

 ――難しくはなかったが、合うはずもなかった。

 

 『それでは、風は帰るのですよー。桂花ちゃん、栄華ちゃん、お兄さん。またお会いしましょう』

 部屋の中で風が戸に近づいた気配を感じる。

 

 “――ま、まずいっす。一旦ここは逃げるっす!”

 

 華侖は音もなく跳びあがり、廊下の梁にしがみ付く。幸いにも、部屋の中に気配を感知出来るような武を持つ人間はいなかった。そのまま通り過ぎてくれる事を待つのみ。

 華侖が梁にしがみ付いたのと、風が戸を開けて外に出るのは同時だった。

 

 「……宝慧。地面を見るのですよー」

 一歩外に出た途端、風が何かに気がつき歩みを止める。

 「お?どうしたんだ?」

 「見てください。地面に木のくずが落ちているのです。これは、風が栄華ちゃんの部屋に来る時には落ちてなかったのです」

 「そうだっけか?俺様は気付かなかったぜ」

 「むむむ、宝慧。風の頭の上に乗っているんですから、ちゃんと風と同じモノを見て貰わないと困りますねー」

 

 “はやく……行って欲しいっす……!”

 

 急ぐあまり、無理な体制でしがみついたが為に腕がしびれてきたのだ。かといって、今動けば必ず物音がする。そうなればここで盗み聞きをしていたことがばれてしまう。

 しかも相手は風。

 

 “盗み聞きしてたことがば、ばれたら……こ、殺される……!!”

 

 本能で風に勝てないことを悟っているのだ。逆らったら殺される。そう思わせる凄みを華侖は感じ取っていた。春蘭と真正面から言いあう桂花。その桂花をもってしても捕えようがない軍師。それが風である。

 

 「この木の黒色。漆か何かですかねー?自然物ではないのです。そして、外では物音がしませんでした。つまり、何かを落として割ってしまった可能性と、自然物がここまで運ばれてきた可能性はないのです」

 「つまり?」

 「可能性としては……行くのです、宝慧!てりゃーーーーーーーー!」

 普段ののんびりとした動きからは考えられない程俊敏に、風は頭に乗った宝慧を自身の真上へと放り投げた。一度も真上を見ていないのに、一直線に華侖のお尻を目がけて駆け上がっていった。

 「いってぇええええええええっす!!!」

 「間者が忍び込んでいる――と思ったのですがー、違ったようなのです」

 予想外の痛みで手を離してしまった華侖は地面へと落ちていった。さんさんと降り注ぐ太陽の光を浴びに浴びた廊下は、とても熱かった。

 

 「あっちいぃぃぃいいいいっす!!!」

 

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 「………………ぐぅ」

 「寝ないで欲しいっす!」

 『どうして盗み聞きなんでしてたんですかー?』

 と聞かれ、話していたのにいつのまにか寝ていた。よくある事だが、毎度の事ながら驚かされる。どうして寝れるのだろうか。

 「おぉ?華侖ちゃんから突っ込まれるとは。意外ですねー」

 つ、疲れる……。

 華侖は誰にも聞こえないようにそっと心の中で呟いた。相談を始めてから今まで、既に四度目である。

 「話は聞かせてもらったのですよ」

 「はぁ。聞いて貰ってたっすから、当然なんすけどね」

 「華侖ちゃんが栄華ちゃんの方がお兄さんから愛されている、と感じるのは今は仕方がないかもしれませんねー」

 今はつきっきりですし。と不機嫌そうに付け加える。

 「お兄さんの性格を考えると、愛情に順位をつけるなんて考えられないのですよ。まぁ、好みの女性っていうのはある程度あるとは思いますけどねー」

 「そっすよね……それが洪姉ぇなん――」

 「華侖ちゃん何を言ってるのです。お兄さんが好みなのは金髪で猫のような不思議な魅力を持った、頭の上に置物を置いた知的な女の子なのですよ」

 「えー!?それって一人しか当てはまらねっす!」

 「おぉ?そうですねー。つまりお兄さんが一番好きなのは風って事になりますかねー。ふふふふふ」

 「愛情に順番をつけないって言ったのに!?」

 「お譲ちゃん。男たるもの、いつかは一人の女を愛するモノなんだぜ?」

 「宝慧。今日はいつになく男らしいのです」

 

 その時、遠くから風を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 「むむむ、こうしてはいられないのです。風は逃げなければなりません。いいですか?華侖ちゃんは風を見ていないのですよ?ではー」

 全速力――なのだろうか、のろのろとした動きで声が聞こえてきた方向とは逆に走っていく。

 「つ、つまりどういう事なんすか……」

 

 「あ、ちょ、ちょっと!いい所にいたわね、華侖!」

 息を切らせながら走って来た桂花。今の状況を考えると間違いなく風を追ってきたのだろう。肉体労働は専門外だが、必要とあれば体を酷使する肉体派の軍師である。

 「あ、桂花……さん」

 「挨拶はいいわ……。こ、ここに風来なかったかしら……?」

 「え、えっと、見てないっす」

 「そう……。部屋への道と日当たりから考えて間違いなくここを通ると思ったのだけれど……まさか、この私の考えの裏を読んで!?大丈夫よ桂花。まだ風を捕まえられるわ。逃がさないわ風!いいかしら?一刀に一番愛されてるのはこの私なんだからーーー!!」

 叫ぶと元来た道を戻って行く。

 

 「……兄ぃは桂花さんが一番好き……?もー!兄ぃは誰が一番好きなんすかー!!」

 

 次第にわけが分からなくなっていく華侖であった。

 

説明
拠点・曹仁2です。
登場人物たちがどんどん曹仁の考えをごちゃごちゃにしていきます。
はたして、春蘭はどのような作戦をねっているのか。そしてそれはちゃんと作戦として機能するのか。
春蘭が本格的に活躍するのは次回のお話です。
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コメント
kazoさん。コメントありがとうございます。その努力は確実に無駄に終わりますね。何故ならば外史が豊乳になる事を望んでいないからです(ぽむぼん)
桂花の無駄な努力とは、豊胸体操の事ですねわかります。宝ャミサイルは恋姫格闘で出てほしいw(kazo)
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