影技26 【フェルシア流封印法】後篇
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 ──そして、地上では。

 

「【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】ダズ! 件の元老院一派……最後の悪あがきをっ!! 魔獣を【((人造魔導|ゴーレム))】にした化け物達をこちらに差し向けてきましたっ!! 【((影|シャドウ))】の要請を申請します!」

『……成程、やはりありましたか。無論許可します! 皆、頼みましたよ』

─『はっ!!』─

 

 ジュタの犯した罪に連なる者達の一斉検挙に力を注ぐダズ達が東奔西走する中。

 

 あまりにも多い犯罪者達の繋がりに四苦八苦しつつも、的確な指示と【((影|シャドウ))】達の活躍によって漏らすところなく殲滅・捕縛を繰り返し……ようやく最後の砦である、元老院の残党が立て籠っていた元老院が所持する研究施設へと足を踏み入れる事となった。

 

 そう、上記の通りに芋づる式に犯人達を検挙していたダズ達の下には……出るわ出るわ、犯罪白書と言えるような罪状の数々が日誌として記されている物や、不正取引の証拠等が山のように集まる事となり……やがてそれは、元老院全体が既に犯罪の温床であり、骨の髄まで真っ黒である事を露骨に露わしていたのである。

 

 ジュタどころか、国の上層部自体が全て真っ黒であった事に愕然とする衛士達。

 

 自身もこれほどとは思っていなかったダズではあったが……己が身を叱責するのと同時に衛士達にも檄を飛ばし、『自分達の仕事の誇りを取り戻す』という言葉に奮起。

 

 心を鬼と化して……上層部である元老院・役員達の一斉検挙を慣行する。

 

 唐突に始った一斉検挙に、隠す間もなく踏み込まれた元老院達の研究施設を調べ上げれば……そこにあったのは胸糞悪くなる様な……((実験の結果|モルモット))が建ち並び、地下牢に軟禁されていた、衰弱しきった人達の姿であった。

 

 挙句の果てに始る、醜い命乞い、罪のなすりつけ合い、居直り。

 

 ダズは……その全てを黙殺し、功績による温情など一切かけず、冷徹なまでの裁きを下す。 

 

 その結果が功を奏し、道連れを求める元老院によって更に捕縛の環が広がる事となり……フェルシアに巣食っていた犯罪者組織を殲滅する事に成功し、現在の元老院残党を残すところとなったのだが──

 

『……まさか、【((灰色の境界|グレー・ゾーン))】の特性を用い、他の国の人間まで実験材料にかき集めていたとは……』

『……最悪。これが露見すれば……フェルシアは国の存続すら危うい』

『あの子に手を出した以上、既に危ないってのに……全く考えなし共はこれだから……』

『ダズ……どーしよー?』

『……仕方ありません。内々に収めるつもりだったのですが……ここまで来てはどうしようもないでしょう。……ジュリアネスの知り合いに打診し、事の全てをさらけだす事でどうにか国の延命を願いでるしかありませんね……』

 

 その犯罪組織こそが……近年【((灰色の境界|グレー・ゾーン))】を股にかけ、暗躍し続けていた『人攫い・人身売買』の大手組織であり、その『買い取り』と『融資』を一手に引き受けていたのが……((実験材料|検体))を求めていたジュタであり、元老院だったのである。

 

『──体が軽い! 嘘みたいっすね……これなら……眠れ。死して尚、その命を弄ばれた……((同胞|・・))達よ』

『……ふふ、シュナ。はしゃぎすぎれ無茶するんじゃないわよ?』

『わかってるっす! ……イクも、これが終わったらジン様に施術してもらうといいっすよ』

『ええ、そうするわ』

 

 目の前に迫るのは……意図的にコントロールを外されたのであろう、魔導機と魔獣が合成された姿の化け物達が、狂乱し、狂気をむき出しにして迫る姿。

 

 それに相対するのは……ダズと先に合流していた三人と、後に合流したシュナを含むメンバーである。

 

 衛士の要請・ダズの指示によって生まれ変わった体を試す機会を得たシュナ達は……その力を十分に発揮する事となる。

 

 真正面から魔獣の攻撃を受け止め、凶悪な笑みを浮かべて剛腕で叩きつぶすアチャ。

 

 拳を振り抜くタイミングで拳を((杭状|パイルバンカー))へと変貌させ、腹部に巨大な風穴を開けていくバンチ。

 

 その二人が存分に暴れられるよう、露払いのつもりで両腕を変化させた魔導砲をぶっぱなして敵を攻撃するヴィの一撃で頭部を消失する者達。

 

 そのヴィをカバーするように、その体に装甲を纏い、壁役となっているドロゥ。

 

 ドロゥが敵を抑えている間に、横あいからそれらを攻撃するイク・ナウ・サハ・チャタ。

 

 見事な連携で、瞬く間に【((影|シャドウ))】達が魔獣達を粉砕していく中。 

 

『──土に還れ、憐れな同胞達。お前達はもう……((死んで|自由になって))いいのだから──』

『何ぼさっとしてんだい衛士達っ!! こっちは任せてさっさと行きな!!』

『……流石に厳しいですか。さあ、先導します。後に続きなさいっ!!』

─『はっ!!』─

 

 シュナが自身の力を十全に発揮し、破壊振動波を持って魔獣を文字通り粉砕。

 

 衛士達の行く先に道筋をつける中……【((影|シャドウ))】達の圧倒的な戦闘能力に目を奪われていた衛士達を護衛していたアチャが、目の前の【((人造魔導|ゴーレム))】を抑えつけながら呆然とする衛士達にに檄を飛ばし、イクが衛士達を先導して研究施設へと突入。

 

 突入した瞬間より、爆発や破砕音といった戦闘音が内外に木霊する事となる。

 

 やがて……建て物が倒壊し始め、あちらこちらで土煙が上がる中。

 

 まるで蜘蛛の子を散らすように研究施設の緊急脱出口や抜け道から逃げ出した犯罪者達。

 

 当然の如く研究施設を完全包囲していた衛士達により、抵抗するものは容赦なく【魔導機】の攻撃でぶちのめされ、強敵は【((影|シャドウ))】達が撃破して、漏らす逃がさず一網打尽にしていく。

 

 ──そして、30分後。

 

「放せ貴様等っ!! この儂に手を出して唯で済むと思っておるのか?!」

 

 ──研究施設……最奥。

 

 強固な防壁と凶悪な罠の先に居た……元老院最年長にして、フェルシア副院長の座についていた禿げあがった頭に長い髭を蓄えた老人が……イクに捕縛させ、ダズの前に突き出される事となる。

 

 青筋を浮かべ、喚き散らす様は……まったく反省や懺悔の色を見せず。

 

 何故捕まったのかが理解出来ず、自己の正当性を口にし、『自分に何かあれば、この国は立ちゆかなくなる』と豪語する様は……醜悪で見るに堪えないものであった。

 

『黙りなさい』

「な?! 貴様っ!! たかが【((人造魔導|ゴーレム))】風情がこの儂に口を聞くかっ!! フェルシアの魔導の一翼を担ってきたこの儂に──」

『──黙れ、といっているのです』

「──?!」

 

 暴れようとしたところを、完全にイクに捕えられ、尚も喚き散らす老害に……ダズが静かに口を閉じるようにと命令するものの……無駄に高いプライドがそれを良しとするはずもなく。

 

 より深く……静かに。

 

 怒りを押し殺したダズの重く響き渡る声によって、初めてその口を閉じる老害。 

 

『もはや、貴方達に言葉が届くとは思っていません』

「な?! 語るに落ちたな【((人造魔導|ゴーレム))】めっ!! 誰ぞ! この【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】は既に思考回路に狂いを生じておる!! 速やかにコレを排除せよっ!! 副院長の権限において──」

『──罪状は……語るまでもありませんね。貴方は既にその任を解かれています。それを承認するべき元老院そのものを、ここまでの愚鈍で醜悪な組織に落とした罪。……ジュタの師として、導くべき弟子を同じ道に引き込んだ罪。──貴方には慈悲をかける心すら必要ないでしょう。──永遠に続く、孤独と無痴の中で……懺悔なさい』

「──?! き、貴様っ!! この儂に──」

『判決。──【((無知の伽藍|オブリズナー))】、最秘奥。『無音の間』にて禁固1000年の刑に処す。……本来、ジュタが入るべきだった場所です。師として弟子の分まで……後悔なさい』

「なっ!! ふざけるなぁ!! 貴様、院長ジュタを! この副院長の儂を!! フェルシアそのものとも言える儂等をなんだと──」

『────貴様が言うなぁ!!!』

「がっふぅ?!」

 

 自我だけが肥大し、人の話に耳を傾けない存在に対し……静観めいた答えを返しつつ……未だ喚く老害を無視し、罪状を告げるダズ。

 

 ──全ての情報が遮断され、その声が外に届く事はなく。

 

 白い壁、白いベッド、白い照明、隅に備え付けられた排泄用魔導機と、時間で自動的に食事と水分が出されるだけで……他には何もない場所。

 

 一度入れば完全な面会謝絶であり、誰も訪れる事はない。

 

 完全なる隔離された幽閉空間……それこそが『無音の間』である。  

 

 その罪状を告げられ、口から泡を吹きだしながら抗議の声を上げる老害に……ついに堪忍袋の緒が切れたダズが拳を振り抜き、抑えつけていたはずのイクがその手を放した為に宙空を舞う結果となる。

 

 地面に無様に落ち、痛みに転げ回る老害の首にその声を封印する魔導機がつけられ、魔力が封じられ……完全なる拘束が成された後、敬礼をする衛士達によって連れて行かれる老害。

 

 ──ジュタが断罪され、即座に実行された『大粛清』。

 

 最後の砦たる場が落ちた今……しかし終わって見れば……僅か三日のスピード劇であった。

 

 勿論、捕まえた者達への尋問や、犯罪ルートの割り出し等、細々な部分は残っているものの……今の衛士達の士気の高さには信頼が置ける為、心配もなく──

 

『──……ふぅ……ようやく……フェルシアは悪夢から目覚める事が出来るのですね……長かった。我が師……いえ、始祖となった先達が、己が間違いに気がつき……『人は人であるべき』と、常識と道徳を解いてきた時間は……決して無駄ではなかったのです。──ようやく、後を濁さずに……後続、に……託す、事が……でき──』

─『──?! ダズ?!』─

 

 ──犯罪者達を捕縛し、使命感に満ちた顔で敬礼をし、去っていく衛士達に、臨時最高責任者としての役目を果たしたダズは……緊張を解き、深く言葉を零しながら……操り人形の糸が切れるが如く、院長府の前で崩れ落ちる。

 

 その様子に即座に駆けより、院長府の地下へと運びこむ一同。

 

「ギアンっ!! ジン様っ!! ダズがっ!! ダズがっ!!」

「ッ?! 先生っ!! アルセン先生っ!!」

「……!! すいません、こっちの寝台へ!! みなさん手伝ってください」

「もちろんっす!! みんな……恩返しの時っす、全力を持って挑むっすよ!!」

─『はい(応)!!』─

 

 エレベーターが開くのと同時に、切迫したイクの声が地下研究施設に響き渡り……それに反応したギアンがぐったりとしたダズに駆けよりながら声をかけ、それに険しい顔をしたジンが寝台へと促しながらメンバーへと機材のセッティングを要請。

 

 ジンの瞳が瞬き、【((解析|アナライズ))】がダズの体の隅々までを【((解析|アナライズ))】する。 

 そして──

 

(──……!! 本当に……ディアスさんといい、ダズさんといい……自分の身を省みない人達ばっかりなんだからっ!!)

 

 ──周囲からは『お前が言うな!!』という盛大なつっこみが入りそうな事を思いながらも、そのロボットめいた流線型の外見に隠されていた……つぎはぎだらけで無理矢理魔導機と繋ぎあわされ、【魔道炉】を副数個連動させることでどうにか動いていた身体に、より顔を険しくするジン。

 

 そして……実際に施術の為にその外装を剥がしたメンバー達が……その中身の状態のひどさに、動揺と後悔、そして悲しみに涙を流しながらも、指示された作業をこなす中。

 

「──ジン! これでいいわね?!」

「はいっ!! ──ふ〜……行きます!! 移植後、即【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】の注入をお願いします!」

「ええ、わかってるわ!!」

 

 うつ伏せに寝かされたダズの背中と後頭部を開き、魔導機によって補助を受ける事で辛うじて動いていた脳髄を術式でカバーしながら切り離し、持ちあげるギアン。

 

 そして……ダズの為に組み上げて、先程ようやく形となった【((義体|体))】に即時組み入れ、ジンが【((解析|アナライズ))】と【光癒】の能力を持ってその全てを新たな体に繋ぎ合わせる。

 

 圧倒的集中力で成された施術に、ジンの底知れぬ実力の一端をしったメンバー達が息を飲んで見守る中。

 

 ギアンがジンが頷くのと同時に【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】の排出・注入を開始。

 

 外皮の縫合を成し、細部の調整へと入るジン。

 

 ──全身がジンとギアンによって作られた……完全に【((疑似身体|義体))】として作られた躰。

 

 まさに最新の魔導の最秘奥。

 

 全身に僅かな赤みを帯びた肉体に、【((魔導炉心|マギア・コア))】が脈動を呼び起こす。

 

 全身を廻る【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】は【((魔導回路|マギア・キット))】に乗って。

 

 【((魔導集積回路|マギア・ルーチン))】に意思を伝達する。

 

「──ん…………? ……おや……眠ってしまっていましたか。すいませんギアン」

「…………いえ、おはようございます、アルセン先生」

「ははっ……お恥ずかしい。長い……長い夢を見ていました。──遠く、昔に失った……貴女達と過ごした……日々を」

「っ……先生っ!!」

「おやおや……ギアン。泣き虫は卒業したのでは…………なっ……馬鹿なっ!! これは……人の腕、ですって?! ……まさか」

「おはようございます、先生。……気分はどうですか?」

「……ま、さか……そんな!! たった……たった、3日!! 3日で君は……フェルシアの歴史を塗り替えたというのですか?!」

 

 ──そして、((眼を覚ました|・・・・・・))ダズは……開いた瞳で心配そうに見守るギアンの顔を見て、自分が意識を無くしてしまった事を自覚し、((苦笑|・・))して言葉をかける。

 

 自身の不備を誤魔化すように、しかし……意識を無くしている間に見た夢を語りながら上体を起こしたダズに……涙を流しながら抱きつくギアン。

 

 それを受け止めながら……その((暖かい感覚|・・・・・))、胸を((濡らす|・・・))涙に慈愛を持って答え、ギアンの頭を優しく撫でる……((手|・))。

 

 ──そこにきて、初めてダズは……現状を理解する事となる。

 

 激しい動揺、驚愕する意思が理解する事を拒絶する中。

 

 【((影|シャドウ))】のメンバー達がダズが助かった喜びに狂喜乱舞する姿を横目に……自らに語りかけてくるジンの姿を捕える事となる。

 

「──間に合ってよかった。……ダズさん。貴方は……ここで終わっていい人じゃないんですよ? ……院長が失墜し、後続に付くはずの元老院は壊滅。新たな国の基盤を早急に作らなければ……このフェルシアは立ちゆかなくなってしまいます。いくら貴方の弟子であるギアンさんが優秀だとはいえ……一人では国は動かせないんです。貴方のように……正しい知識と高い道徳を持った導き手が必要なんですから」

「………………ああ……そうか……」

 

 ギアンを優しく抱きしめながらも……やがてジンが語りだした言葉に、場が静寂に包まれていく。

 

 その言葉、そこに込められた……消えようとしていたダズを責める意思の力に……周囲のメンバーが同意するかのように頷く中。

 

(──……そうだったのですね。……ようやく……理解しました。……貴方が、この国に来るのは必然だったのです。貴方がこの国に鉱石を取りに来たのも……あの高名な鍛冶師、【((黒い翼|ブラックウィング))】・ディアス=ラグを救った事さえも。貴方は……救い手なのだ。悲痛に歪む人があれば……それが近くなればなるほど、救わずにはいられない……真なる担い手。それが……貴方の在り方なのですね……)

 

 心から納得したように……ジンを憧憬を持って見つめるダズ。

 

 それは……かつて、己が目指し、至れなかった……境地。

 

『──人を、心も身体も救いあげる』。

 

 それを体現した存在が、ジンであり。

 

『──次代を託すべき子供達を救う』

 

 ダズとこのフェルシアの知識を受けついたのも……必然と納得する自分がそこに在り。

 

『──子供は宝。知は子供に受け継がれる至宝である』

 

 脈々と受け継がれてきた……ダズと、ダズの師達の想いは今。

 

『──救う事。それが……罪を犯した私が出来る……最難関にして、至上の命題である』

 

 ここに……完結を見る。

 

「──ありがとうございます、ジン様。また……私は間違いを犯すところだったのですね。……そうだ、まだ私には……出来る事があるのです。こうして新たなる生をえる事が出来た……それこそが証。──フェルシアを、再建する。それこそが……新たな私の、使命」

「……先生っ!!」

「……すみませんでした、ギアン。また……心配をかけてしまいましたね。そして……皆も。ありがとうございました」

─『……ダズ(先生)!!』─

   

 ──そして、それは……更に次へと受け継がれるものであり、ギアンを……【((影|シャドウ))】のメンバー達を見渡し、己の決意を新たにするダズ。

 

 感極まってダズに集まり、より集う者達。

 

 それを優しく見守るジンが……穏やかな微笑みを持って、しかしながら濃密な時間にまどろむ中。

 

「……少し、休んだほうがいいのではないですか? ジン様」

「いえ、まだ……リナさんとティタさんが。……というか、ジン様ってそろそろやめません? 集中していたから今まで流してましたけどっ!!」

─『いえ、滅相もない』─

「なんでハモったの?!」

 

 ようやく立ちあがったダズが、深々と頭を下げるのに習い、【((影|シャドウ))】の面々もまた、頭を下げて見せる。

 

 それに困惑と動揺しつつ、『様』呼ばわりにこそばゆい感覚を覚えていたジンがそろそろやめてと声をかければ、姿勢をただした一同に拒絶される始末。

 

 思わず声をあげるジンの姿に笑みが零れおち……暖かな笑い声が木霊する事となる。

 

 そして──

 

「ふむ。なるほど。しかし……ここと、こことの配合の割合はこれにしたほうがいいでしょう。そしてここをこうすれば──』

「!! ……そっか。流石は先生ですね」

「……ふふ、ジンったら」

「──……貴方も、そう……呼んでくれるのですか?」

「はい。だって……貴方は、その身を犠牲にしてでも命を救おうとした……誇るべき先達なんですから。そんな貴方は……先生と呼ぶに相応しいと……そう思うんです」

「──…………私も。貴方といい、ギアンといい。そして……【((影|シャドウ))】の皆といい。私の……『意思』を継ぐ貴方達が……誇らしい。こんな体になってまで……生きながらえた価値が……あるというものです」

─『──…………』─

 

 ──ジンが作り上げた疑似人体を検証し、互いに意見を出し合う事でより効率よく、より効果的に人体に近づけるための研究と研鑽を始めるダズと、それを補佐するギアン。

 

 その緻密な技術力に感嘆するジンが先生と呼び、その呼び名に微笑みを浮かべるギアンと、感慨深げに語るダズの言葉に……胸に手を当て、想い馳せる一同。

 

 寝食も忘れて研究に没頭するジン達をギアンが咎め、食事に連れ出し、心身のリフレッシュを図る事幾度。

 

 ──遂に、その時がやってくる。

 

「──腕部切除! 魔導機の切り離しに成功!」

「こちらも脚部切除。切り離しに成功!」

「頭部・【((魔導集積回路|マギア・ルーチン))】換装完了。──ダズさん、ギアンさん」

「了解、各肉体の換装を開始するわ」

「ギアン……取り戻しますよ、あの時を!」

「はい、先生!!」

 

 ──いよいよ、【降魔】となっているティタとリナを、【降魔】から救いだす時がやってきた。

 

 ダズ自身が検体ともいえる状況となった今……その成果は計り知れない物があり。

 

 ギアンとジンから聞いた『【降魔】状態におけるティタの意思表示』に希望を託し、その意思が残っている事を願い、施術に挑む3人。

 

 かつてない集中力を持って、息の合った3人が横たわる2体の【降魔】の中……【降魔】の魔導機と連結されているティタとリナの体を切り離し、チューブ状の【((魔導回路|マギア・キット))】を切り離し、床に飛び散る【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】を処理しつつ……切り離した部分を【((魔導皮脂|マギア・スキン))】で埋める事で流出を阻止。

 

 その間に、ジンが【降魔】の頭部の魔導機を取り外し、剥き出しになった頭部・脳内を【((解析|アナライズ))】しながら、シュナの時と同じように慎重に魔導指令を受け付け、自由意思を奪う【((魔導集積回路|マギア・ルーチン))】を換装。 

   

 やがて、献血をするかのように古い【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】から新しい【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】へと換装され、肉体が白から肌色へと色づいていく。

 

 【降魔】を動かす為に【((魔導炉心|マギア・コア))】へと換装された心臓が脈打つように鼓動を示し、そこにあったのは……ギアンとアルセンの記憶にある、かつての二人の姿であった。

 

 【降魔】にされた事により……少女時代の姿のままで時が止まったような……で寝台に横たわる二人。

 

 ぐっと歯を食いしばり……目覚めるまでのしばしの時間。

 

 しかし見守る二人にとっては永遠ともとれるような、長い長い時間を経て。

 

「──…………あ……?」

「──…………ぁ、っぁ……ああ〜……ああ。…………?」

「っ……ッ!! てぃ……ティタ? リナ? わかる? 私よ……ギアン、よ?」

 

 ゆっくりと開いた二人の目が……無機質な天井を一瞥。

 

 視線を彷徨わせ、長らく使っていなかった声帯を振わせる作業をする二人。

 

 懐かしい声を聞き、遂に涙腺が崩壊したギアンが二人の顔を覗き込んでその頬に触れる。

 

「……ぎ、あ……ん」

「ぎ……あん」

「……っ〜〜〜!! ええ、そう、そうよ! ティタ、リナっ!!」

 

 舌ったらずで、未だに発音が難しそうな二人が、もどかしげに声をかける中、感極まったギアンが二人の頭を抱え、涙を流し続ける。

 

「──あ……ああ、うん…………ああ。やっと……告げられる。ギアン。そして……リナ。……申し訳ありませんでした。……私が死んだことで……貴方達の重荷になるだなんて……私は……考えなかったのです……」

「?! ティタ、貴方まさか……【降魔】の時の記憶も?!」

「……謝る事なんて、何もない。私こそ……ごめん。ごめんねぇ、ギアン。一人にしないって、やくぞくじだのに……!! 【降魔】になったら……何もいえながっだの!! 一人じゃないっで……なんども、なんどもいおうどじだのに!!」

「ッ〜〜〜〜!!! いい、そんな事いいの!! 謝らないでっ!! 私は……二人がこうして……戻って来てくれただけで……っ!! う、……うああああああああ」

「ぎあん……りな……!!」

「ながないで、ぎあん、でぃだーーーー!!! うわあああああああああああん!!」

 

 そして……ようやく声帯を動かせるようになった二人が……自分達が【降魔】となってしまった事で、絶望と孤独を味あわせてしまった懺悔を口にし、謝罪の言葉と共に涙を流す。

 

 三者三様……互いに謝りながらも……涙でぐちゃぐちゃになった顔を寄せ合い、抱き合う姿に──

 

「──行かなくていいんですか? 先生」

「……今は、三人だけの時間です。……無粋な横やりは無用」

 

 少し離れた位置から、優しく微笑みながら見守るジンと……天を仰ぐようにして目元を抑え、静かに震えるダズ。

 

「………………ぐす」

「……あたしたちも……泣けるようになったんだねえ……」

「心が、あるんですもの……あたり、まえです、わ」

「泣くなよお、つられるだろお」

「人の所為にしない。素直に……泣いておけばいいのよ」

「う〜……よがっだ、よ〜……」

「──いいなあ。…………いい、なあ……。よかったっすね……」

「シュナ……ほら、拭きなさい」

「……良かった。心があった。人……だった。生きてて、良かったね……本当に」

 

 そして……見守る【((影|シャドウ))】達もまた……その感動的な光景に涙を流していた。

 

 他者を物のように扱う、傲慢。

 

 他者を糧にして金銭を得る……腐った心。

 

 どんな手を使ってもしがみつく、醜く汚い己の保身。   

 

 欺瞞・疑心・狡猾・欲望。

 

 それらを見続けてきた彼女達にとって……こういった光景こそが、見たいと望み、願っていたもの。

 

 ここにいる同胞たちと同じように……彼女達もまた、『人』であった事に……その心は晴れやかであり、涙を流す互いを抱きしめ合い、己の存在を確かなものとして感じ合う。

 

「先生っ!!」

「ぜんぜ〜〜〜!!」

「……こらこら、いけませんよ。ほら、鼻水も出ているじゃないですか。リナは相変わらず……泣き虫さんですねぇ。ほら、鼻をかんでください」

 

 自らも涙を流し、まったく説得力が無い物の……飛び込んできた二人を優しく受け止め、ハンカチで涙を拭い、鼻をかませるダズ。

 

 そして……ダズの紹介で、『同胞』だと告げられる……【((影|シャドウ))】のメンバーとの顔合わせと交流が始まる中。

 

「──よかった。……救えた。やった、よ──」

─『…………ジン様?!』─

「っ!! 急いで寝台へ!! く……私とした事が……幼き身が、寝る間も惜しんで施術や学習など……無理があった事は承知していたはずだというのにっ!!」

「こっちへ!! ………………」

「ど、どうなのですか?! ギアン」

「どうなの?! ギアン!!」

「…………ふぅ〜…………呆れた丈夫さね。……過労で倒れただけみたいだわ。……折角((ジュタ達|膿))を絞り出したっていうのに……私達が無理させた所為で国が無くなったなんて事になれば……ジンに対しても申し訳が立たなくなるというのに」

─『………………』─

 

 ──ようやく、一連に関わったその全てに手を差し伸べて……救ったジンが、微笑みながらもゆっくりとその瞳を閉じ、ゆっくりと崩れ落ちる。

 

 いの一番に礼を言うべき人に礼を言っていないと気がついたティタとリナが、ジンを探し見つめた瞬間に起こった出来事に……理解が及ばず、呆然とした後……慌てて駆けよる事となる。

 

 そして……倒れたジンを抱え込み、急いで寝台に寝かしつけ、診察用の魔導機を設置し、息を飲んで見守る一同。 

  

 厳しい表情で機材を睨んでいたギアンではあったが……それが杞憂である事に深く、深く息を吐いて椅子に倒れ込むように座る事となる。

 

 一斉に吐き出される呼気の音が木霊する中……。

 

 ジンをそっと隣室へと寝かせ……ダズ、ギアン、ティタ、リナ。

 

 そして……【((影|シャドウ))】達の交流は、その時間を忘れ……夜通し行われる事となる。

 

 やがて……数時間深い眠りにつき、意識を取り戻したジンが……皆に心配と、感謝、そして歓迎を受ける中。 

 

「……ジン。……いえ、マスター。契約をしてくれて……ありがとうございます」

「?! あ……うん。えっと……もう、リナさんと一緒で純粋な【降魔】じゃないんですよ? 一応機能は残せって先生が言ってたから残ってますけど……それもすぐに解除できますし。もう、自由に生きても──」

「いえ、それは出来ません。私は……貴方を護ると決めたんです。優しすぎて……危うい貴方を護ると……そう決めたのですから」

「……あ〜あ、大変だねジンちゃん! ティタってば頑固だからな〜。これから大変だよ?」

「なっ?! そんな事は!! ……て、なんです?! その含み笑い!! 訂正してくださいリナっ!!」

「むっふふ〜! どうしよっかな〜♪」

 

 ──静かに、【降魔】の時と同じように……自らの【呪印符針】の柄をジンに向け、再び契約の意思を示すティタ。

 

 既に自由なのだからと、折角3人一緒になれたのだからと進めるジンの言葉を食い気味に拒絶し、覚悟を宿した瞳でジンを見据えるティタ。

 

 そして……そんな二人の様子に、にししと含み笑いを浮かべながらちゃかすリナに抗議し、始る追いかけっこ。

 

「ふふっ……本当に……変わりませんね、先生」

「ええ……ですが……前よりも笑顔になった。明らかにいい傾向です。……しかし、いいのですか? ギアン。このままではティタが……行ってしまいますよ?」

「いいんです。私も、彼女が頑固なのは知っていますもの。……ちょっと! 私も混ぜなさいよ〜!」

「ギアンさんまで?! 助けてー!!」

─『ただいまっ!!』─

「ちょ?! なんでみなさんもっ……ぎにゃーーーーー!!!」

「ふふふっ!! 実にいい((光景|混沌))ですっ!! 明るいカオスは、先生大好物ですよっ!! ぬりゃああああ!!」

─『ぎゃーーーーー!!!』─

 

 やがてジンの周囲をぐるぐると回り始める二人に微笑みながら……過去を懐かしむ二人が笑いあう。

 

 遠慮がちに、【降魔】としてジンについていくとするティタの事を尋ねるダズではあったが……それに最高の笑みを返し、翻弄されるジン目掛けて突入していくギアン。

 

 3人にもみくちゃにされ、救いを求める声に答え……【((影|シャドウ))】のメンバー達もまた突撃。

 

 最後に残されていたアルセンも、ストッパーではなく参加者となってボディープレスで上空から襲いかかる事となり……楽しくもカオスな空間が盛り上がりを見せる。

 

 ──こうして、ジンの入国から始った一連の騒動は終わりを見せる事となり、幾人もの報われず、救われなかったもの達が……新たにジンの手によって救われる事となったのである。

 

 やがて……料理が出来るジンがその腕を振う為にキッチンへと赴き、料理が出来る者達と、食べる組に別れ、身内だけの宴の席が上がろうとしていた頃。

 

 そっと席を立ち、『仕事がある』とギアンに告げてその場を後にするダズ。

 

 それを無言で頷きながら、祈るような仕草で見送りながらも……料理をするジンに手伝うべくキッチンに向かうギアン。

 

 地下研究施設から上の階へと向かう最中、己の魔導機を起動させ、全身に見慣れた鋼の装甲を身に纏うダズ。

 

 やがて……廃墟と化した院長室へと歩みを進めたダズを出迎えたのは──

 

「──遅い時間にすいません。【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】殿」

『否。お呼び立てしたのはこちらのほう。このような殺伐とした場にお越しいただくのもなんだったのですが……しかし、我が国の説明をするには好都合だったのです』

「確かに。国の中枢がこれでは……政務も滞るでしょうね。……どうやら、【元老院】もその意味を失ったとか。御説明願えますか? 【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】殿……いや、ダズ殿とお呼びしたほうがいいでしょうか。──それとも……呼び慣れたアルセンのほうがいいですかね?」

 

 ──【神力魔導】を使い、国の中枢たる院長府へと転移してきたポレロが、瓦礫と化した院長府内で所在投げに佇んている姿であった。

 

 聖地ジュリアネスの執政官であるポレロに対し、【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】であるダズが膝をついてその招致を詫び、それを首を横に振って優しく微笑みながら……ダズの正体を見抜き、アルセンの名を口にするポレロ。

 

『──……流石に……君を誤魔化す事は出来ませんか」

「……その魔導機は見たことがありませんが……ふふ。君の魔力の流れを見誤るほど、私は鈍くありませんよ? その姿が様変わりしようとも……人の本質は……『心』。それを何よりも知っているのは……貴方であはりませんか」

「……そうですね。……久しぶりですね、我が友……ポレロ」

 

 一瞬の静寂。

 

 そして……苦笑を交えて、ダズが【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】の魔導機を解除。

 

 アルセンの顔が姿を露わした時、初めてみるフェルシアの魔導機に驚きを露わにしつつも、懐かしき友の再開に握手を求めるポレロ。

 

 それに間髪いれず、手を握り返すダズ。

 

「ええ、お久しぶりです、我が友アルセン。──こういう事になっていると言う事は……やはり、院長閣下の黒いうわさは事実という事で間違いなかったという事ですね? そして……ジン君の逆鱗に触れましたか」

「……察しがいいですね。やはり……君もジン君の膨大な【神力魔導】を感じましたか」

「ええ。元々……ジン君は僕の管轄でしたから。すぐにでも来たかったのですが……私が『執政官』という立場でここに来てしまえば……『聖地ジュリアネス』としても、((それ相応|・・・・))の態度が必要になってしまいますから。聖王女もそれを御懸念になり……全てはジン君に託すことになってしまったのです。……実に心苦しい事ではありますがね」

「……やはり薄氷の一枚でしたか…………全て、お話しましょう。かつて、君と共に植物を研究し、語らっていたあの時からの因縁を。そして……ジン君が関わり、変わった国の在り方を」

 

 ──元々、ポレロとアルセン時代のダズは……互いに研究者として何度となく意見を交わす仲であった。

 

 人々を助けるため、様々な植物の効能を求めていたアルセンと、自然の申し子といわれていたポレロ。

 

 執政官としてたまたま訪れていたポレロに対し、植物の薬効成分を尋ねた事が切っ掛けで……次第に親交を深め、互いに笑いあい、悩みを打ち明け、共に議論した事もあった。

 

 無論ダズが死した後……その唐突な死、そして状況的証拠からジュタが妖しいと睨んでいたポレロではあったが……これ以上踏み込むのは越権行為であり、『執務官』として動くには……あまりに情報が足りなかったのである。

 

 ──死して尚、繋がる縁もある。

 

 その奇縁に苦笑を交わす二人が……ポレロが【神力魔導】で作り上げた椅子とテーブルに腰をかけ、バスケットを取りだし、お茶の準備をする……彼等にとっていつものやり取りを交わす。

 

「お聞きしましょう。ジン君における話を聞く事は……私にとっての最優先事項ですので」

「……驚きましたね。まさか……本当に聖王女に気に居られているのですか?」

「ふふ! 私個人としても、妻も家族も……皆ジン君の虜なのですよ。とても愛らしく、成長が楽しみな子ですから。……ですが同時に……酷く危うい思考も持っているのです」

「……なるほど。あの考えの根は深いと、そういう事ですか」

「……残念ながら。……と言う事は、やはりこの国でも、あの子は自分を犠牲とするような何かを成し得てしまったのですか?」

「……それを踏まえて話したほうがよさそうですね。……君にもいつか、話した事があったでしょう。あの当時、預かっていた3人の子供が居た事を──」

 

 ──長い、長い……回り道。

 

 学生時代からのジュタとの(一方的な)確執。

 

 それに気がつかず、自分が引き継いだ師の教えをつき通し、人助けに奔走し続けた日々。

 

 時折ポレロに『この時、どうすれば良かったのか……』と嘆きながらも、続けられる彼自身の辿った物語。

 

 そして……死してその身を【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】とし、ジュタの裏を取り、その内情に絶望し……国を救うために駆けずり回った日々。

 

 ジュタと元老院との完全な癒着。

 

 犯罪組織との繋がり……行き詰った研究、ジンの名声と才能に目をつけ、実験体に選んだジュタ。

 

 そして……【降魔】の真実、知の残酷さ。

 

 ジュタが吐露する言葉に瞑目し……頷くポレロ。

 

「──そうですか。彼は……また救いの手を差し伸べたのですか」

「ええ。それはもう……見事に救われてしまいましたよ。まさか3度めの生ともいえる人生を歩む羽目になるとは……奇異なものですね」

「ふふ、また、ジン君に感謝する事が増えましたね。……再び友に出会えたでのすから」

「……そうですね。貴方とまた、こうしてお茶を酌み交わす事が出来るとは思いませんでしたよ」

 

 ──そして、ジンによって救われた今。

 

 全てを話し終えたダズが……ポレロと同じタイミングで紅茶を煽り……互いに笑いあう。

 

「……お話はわかりました。内々で処断したとなれば、聖地ジュリアネスは不干渉を貫きます。国を断罪する炎の雨は……この国に降り注ぐ事はないでしょう」

「感謝します、ポレロ……いえ、執務官殿」

「それで……国の代表には貴方が?」

「それは無理でしょう。私は死した身。もうアルセンとして表舞台に立つことは出来ません。……元老院という老害も駆逐しました。それならばいっそのこと……事を公表し、ギアンに立って貰おうかと思っています」

「……それはまた、思いきりましたね。……なるほど、貴方はサポートに回ると?」

「ええ。幸い……私は【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】となっています。煩わしい些事は私達が請け負えばいい。彼女は……表舞台で華やかに活躍してくれればいいのです」

「……相変わらずですね、貴方は」

「……残念ながら、死んでもこの性格は治らなかったようですよ」

 

 全てを聞き終え、顔を引き締め、真面目な声色で事の終結、そして……ジュリアネスからの処断は無しと告げるポレロの言葉に、深く、深く……感謝の言葉を述べるダズ。

 

 ようやく国の消失という危機を乗り越えた事に安堵の溜息を零し、話は次代の国の代表候補の話に移っていく。

 

 その内容に驚き、笑みを浮かべるポレロと、静かに瞑目するダズ。 

 

「……本音を言えば、ジン君に国の代表をしてほしいんですがねえ」

「それは難しいですね。何せ……彼を手放したがらない国が多いものですから」

「やはり……そうですか」

「……しかし、よかったのですか? 【フェルシア流封印法】は……この国の最秘奥。それを収めたものを外に出すなど、貴方の国では狂気の沙汰と言われてしまうほどでしょう?」

「構いません。──『子は宝』。そして……『次代へと受け継がれる意思』。……【四天滅殺】がある故、その力を容易に振う事は出来ないでしょうが……彼について行くと決めた((娘|・))には、【フェルシア流封印法】の知識が必須。ならばこそ、託した知識になんの躊躇いも存在しません」

「……本当に、貴方らしい。……わかりました。一応聖王女にも御報告しなければなりませんが……秘匿する事を進言させていただきます」

「ありがとうございます、ポレロ。……しかし、彼はどこまで上り詰めるのでしょうかねえ」

 

 やがて……紅茶を飲み終わった二人が、片付けをしながらも、冗談混じりでダズが『この国を救ったジンこそが、この国の代表に相応しい』と言えば……それに苦笑を浮かべて無理だろうと口にするポレロ。

 

 そして……【フェルシア流封印法】そのものを受け継いだと言えるジンを、国外に出す事に対して言及すれば……清々しいまでの態度で『かまわない』と言い放つダズの態度に、かつてと変わらぬ姿を見出し、優しい笑みを浮かべる事となる。

 

 ──【四天滅殺】、交わる事無かれ。

 

 それがこの連合国家たる聖王国アシュリアーナの根幹に根差し、国同士が争わないようにするための言葉であるのだが……【四天滅殺】全てを、((学ぶ事で交わる|・・・・・・・))ともなれば……それはどうなるのか。

 

 それを暗にポレロに尋ねるダズの言葉に──

 

「……さて、私にもわかりかねます。しかし……きっと誰にも到達できない場所まで上り詰める……そう思っているのですよ」

「……その道の先が……破滅でなければ良いのですが。過ぎたる才能は……孤高を招きます」

「……やはり、貴方の思考もそこに辿りつきますか。ですが……それをさせない為に、私達大人がいるのではありませんか?」

「確かに。……関わってしまいましたからね。私も微力ながら……お付き合いするとしましょう」

「ありがとうございます、アルセン。……いえ、もうダズ、でしたか。……では、新たなる出会いに感謝するとしましょう」

「……そうですね。地下は……そろそろ別れの会が終わる頃ですか」

「さて……妻に頼まれていますし、私は明日の朝一でここに迎えにくるとしましょう。では……ダズ。また明日の朝にお会いしましょう」

「ええ、ここでお待ちしておりますよ。……では」

「ええ、また」

 

 ──空を……ジュリアネスを仰ぐようにして自分の考えを口にしつつ……ダズが顔を曇らせ、自分と同じ考えに至った事に瞑目するポレロ。

 

『道を違えようとする者を導くのもまた、大人である自分達の務め』。

 

 そう……互いの意思を確かめ合い……分かれる二人。

 

 そして……ポレロと別れ、地下に戻ったダズの目の前には……だらしなく寝こける【((影|シャドウ))】達と、団子になって眠るジン・ギアン・ティタ・リナの姿があり──

 

「──……これこそが、私の望み。……私が手を伸ばし、希望し……届かなかった結末。……ジン=ソウエン殿、貴方に……最大の感謝を」

 

 せっせとそれぞれの体に毛布をそれぞれにかけながら……最後にダズがジンに毛布をかけ……その柔らかで幸せそうな寝顔に膝をつき、頭を垂れる。

 

 その床に……この身体になって久しぶりに流せる涙を零し、やがて眼を拭い……研究室倉庫へと足を運び……遠く離れた隣国に赴くティタの為。

 

 そして……ジンの為に【フェルシア流封印法】、その魔導機に必要な素材をかき集め、本来であれば持ちだす事など出来ないはずの新しき【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】を大事そうに頑丈な容器に詰め込み……あれこれと未だジンが得ていないはずの知識を記した書簡を詰め込み、やがて……ジン自身が持ち込んだバッグと並び立つほど巨大な塊となってそこに存在する事となったもう一つのバッグ。

 

 そして……夜明けが再び訪れる頃。

 

「ポレロさん!!」

「久しぶりですねジン君。余り遅いとフォウリーが心配しましてね……何やらまた巻き込まれてしまったようですが、元気そうで安心しましたよ」

 

 ダズに促され、地上に出た一同を出迎えるのは……ダズとの約束の時間通り、朝日と共に迎えに来たポレロの柔和な顔であった。

 

 話を聞いていなかったジンが、驚きと共に駆けよれば……その頭を優しく撫でつけて微笑むポレロ。

 

 そして、視線はジンの背後。

 

 控えめに立つ人影へと移る事となる。

 

「──お初にお目にかかります、【((魔導士|ラザレーム))】ワークス=F=ポレロ様。私は……この度ジン様の【((降魔|従者))】となりました、ティタニア=デルサンドルと申します。──それ故、クルダへの転移……不躾ではありますが私も御同行願えないかと、お声をかけさせていただだきました。……いかがでしょうか」

「御丁寧に。勿論ですよ。ジン君を支えてくれる人は大歓迎です。それに……私が断れば、ジン君はきっと君と一緒に歩いてクルダへ行くと、私の転移を断るでしょうしね」

「もちろんです」

「ふふ、流石です」

 

 【((魔導士|ラザレーム))】であるポレロに最敬礼をし、ジンとの同行を願いでるティタの姿があり……それに頷いて同行を認めるポレロ。

 

『──今回の件……内々で修めさせていただき、感謝に堪えません。一同と共に御礼申し上げます』

「いえ、礼には及びません。後日、またこさせてもらいますよ? 【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】殿」

『心よりお待ちしております』

 

 【((棒|ワンド))】を【((杖|スタッフ))】に変え、ポレロがぼろぼろの院長府内に、【神力魔導】を用いて荘厳な扉を作り上げる。

 

 視界の横では、『うんしょ』っといって鉱石入りのバッグを背負うジンと、それを手伝いながらも自分もダズから託された荷物を背負うティタの姿があり。

 

 ダズとポレロが、型どおりの受け答えをする中──

 

「……ティタ、元気でね。……しっかり、ジンを護ってあげて」

「うう〜……ディダーァ、がんばるんだよぉ!!」

「もちろんです、ギアン。……リナ、泣かないでください。昨日散々泣いたじゃありませんか……」

 

 ティタと抱き合い、その別れを惜しむギアンとリナの姿がそこにあり。

 

「──申し訳ありませんが、私も政務が押しています。そろそろ……よろしいですか? ティタニアさん」

「もちろんです。……じゃあ、ギアン、リナ。また会いましょう」

「ええ、もちろんよ」

「まだねえぇえ!!」

 

 離れがたい雰囲気を醸し出す3人に、苦笑と申し訳なさを織り交ぜた表情で、時間である事を告げるポレロ。

 

「──では、参りましょう」

「はい!」

「はっ!!」

 

 ──門が……開く。

 

 その門の先にあるのは……クルダ見下ろす、あの丘。

 

 ジンにとっては……慣れ親しんだ。

 

 ティタにとっては……眩く、見た事のない光景として。

 

 眼を細め……未知の地への期待に胸ふくらませる、逸る心を抑えつつ──

 

「それじゃあ、またね! みんなー!」

「……行ってきます、先生、ギアン、リナ。【((影|シャドウ))】の皆」

   

 ポレロが門へと姿を消す中。

 

 最後に振り返り、笑顔で手を振って別れを告げるジンと……感慨深げに、深々と頭を下げるティタ。

 

『──我が救国の英雄! ジン=ソウエン殿に、我等が友、ティタニア=デルサンドルに!! 最大の感謝をもって……敬礼!!』  

─『!!』─

 

 ダズが……号令をもって膝をつき、胸に手を当てて頭をたれ、それに倣いギアン、リナを含む【((影|シャドウ))】の面々もまた、頭を垂れる。

 

 やがて……その顔部分の魔導機が解除され、各々の顔が見えるようになれば……その頬を伝う涙。

 

「──壮健であれ、我が((娘|・))よ」

「っ!! ……はい、往って……きます!」

「ジンちゃん……ティタをお願いね。ティタは……真面目で頑固だから苦労するだろうけど!」

「ちょっと!! リナ!!」

「ティタも、ジンをお願い。ジンは……良くも悪くも規格外すぎるわ」

「っ……はい、もちろんです」

「え?! ちょ!!」

─『わかります』─

「なんでぇ?!」

 

 静かに……ダズが娘と告げる言葉に……感涙を持って再び頭を下げるティタ。

 

 それを……泣きながらも明るい雰囲気でぶち壊すリナの言葉に憤慨するも、ギアンの真剣な願いに顔を引き締め、深く頷く事となる。

 

 そして、ギアンの言葉に『それ酷くない?!』と抗議しようとしたジンだったのだが……それに同意するその場全員の言葉に驚愕し、項垂れる事となる。

 

 やがて、肩越しに視線と手を振りながら……門の中へと消えていく二人。

 

「──お世話になりました。……またねっ!!」

─『っ……?!』─

 

 ティタを先に送り、最後に身体ごと振り返ったジンが……お礼を言いながら……まるで咲き誇る大輪のように。

 

 太陽のような眩しく、美しい笑みで両手を振り、門へと飛び込む。

 

 門が虚空へと消え、静寂が訪れる……院長府内部。

 

 手を振る状態で固まっていた一同は──

 

─『ぐっはああああああ!!』─

 

 ──それはもう、大事になっていた。

 

「お、お、お、落ち付きなさいっ!! 私達は魔導機で出来た体です! 鼻から【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】を流すなど、もってのほかっ!」

「うわあ、うわあ……やばいよやばいよ……あれ反則だよ!!」

「た、たまりませんわ……!! ちょっと護衛部隊! あれを何度も見てましたの?!」

「お……おお〜……きく」

「何っ……あれ!! 超可愛い……いや、愛らしくない?!」

「アチャ、キャラ崩壊してる」

「いやあ……あれはヤバイわ。マジたまんねー」

「は、はしたない……この私とした事が……!」

「……イク、自分……もう死んでもいいっす」

「まちなさいシュナ!! 落ち付きなさいっ!!」

 

 良くも悪くも……【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】で人体に近付いた結果……鼻から【((魔導髄液|マギア・ウィタレ))】という愛をほとばしらせる結果となり、崩れ落ちるというカオス。

 

 そして──

 

「ふっ……なっさけないなあ〜……ごふっ」

「ちょっ?! リナァアアアア!!」

─『うおおおおい?!』─

 

 ふふんと胸を張って崩れ落ちたメンバーを見ていたリナではあったが……結局時間差で仰け反るように愛を噴射。

 

 誰よりも激しい反応に思わずギアンが絶叫し、メンバーが突っ込みを入れる事となる。

 

 ──最後の最後で締まらない結果を招いたフェルシアの面々。

 

 しかし……彼女達を待っているのは、崩壊しかかった国の再建という……大事。

 

 皮肉にも……この出来事がきっかけでより結束を硬くした一同は、精力的に国をまとめ上げ、治安を維持し、活躍していく事となる。 

    

 ──こうしてフェルシアでの濃過ぎる経験の下。

 

 新たな仲間と知識を得たジン。

 

 再び場面をクルダへと移し……意気揚々とクルダの街並みを見下ろし……ポレロとティタと共に……我が家を目指すジンは、晴れやかな笑顔をもって突き進むのであった。 

 

 

 

 

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    8歳

種族    人間?

性別    男

身長    142cm

体重    35kg

 

【師匠】

【リキトア流皇牙王殺法】 カイラ=ル=ルカ 

【((呪符魔術士|スイレーム))】フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー 

【((魔導士|ラザレーム))】ワークス=F=ポレロ 

【キシュラナ流剛剣((士|死))術】ザル=ザキューレ 

【フェルシア流封印法師】 ギアン=ディース New

【((業魔法務官|リーガル・ゴーレム))】 ダズ(故 アルセン=デルサンドル) New

【基本能力】

 

【同行者】

 

【降魔】 ティタニア=デルサンドル New  ジンとの契約、従者。 

 

筋力    AA+    

耐久力   AA+ New 

速力    AA+ 

知力    S+ 

精神力   SS+   

魔力    SS+ 【世界樹】  

気力    SS+ 【世界樹】

幸運    B

魅力    S+  【男の娘】

 

【固有スキル】

 

解析眼    S

無限の書庫  EX

進化細胞   A+

疑似再現   A  

 

【知識系スキル】

 

現代知識   C

自然知識   S 

罠知識    A

狩人知識   S    

地理知識   S  

医術知識   S+   

剣術知識   A

 

【運動系スキル】

 

水泳     A 

 

【探索系スキル】

 

気配感知   A

気配遮断   A

罠感知    A- 

足跡捜索   A

 

【作成系スキル】

 

料理     A+   

家事全般   A  

皮加工    A

骨加工    A

木材加工   B

罠作成    B

薬草調合   S  

呪符作成   S

農耕知識   S  

魔導機作製  S New 【降魔】の【((解析|アナライズ))】・及び手記・【影】達の【((解析|アナライズ))】、ギアン・ダズにより習得。

 

【操作系スキル】 

 

魔力操作   S   

気力操作   S 

流動変換   C  

 

【戦闘系スキル】

 

格闘            A 

弓             S  【正射必中】

剣術            A

リキトア流皇牙王殺法     A+

キシュラナ流剛剣((士|死))術 S 

 

【魔術系スキル】

 

呪符魔術士  S+    

魔導士    EX (【世界樹】との契約にてEX・【神力魔導】の真実を知る)

フェルシア流封印法 S New 【降魔】ティタニアとの契約、ギアンとダズからの知識の伝授。

 

【補正系スキル】

 

男の娘    S (魅力に補正)

正射必中   S (射撃に補正)

世界樹の御子 S (魔力・気力に補正) 

 

【特殊称号】

 

真名【ルーナ】⇒【((呪符魔術士|スイレーム))】の真名。

((左武頼|さぶらい))⇒【キシュラナ流剛剣((士|死))術】を収めた証

【((蒼髪の女神|ブルー・ディーヴァ))】⇒カインを斃し、治療した事により得た字名。

 

【ランク説明】

 

超人   EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人   S⇒SS⇒SSS⇒EX-  

最優   A⇒AA⇒AAA⇒S-   

優秀   B⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通   C⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る   E⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い   F⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

呪符作成道具一式 

白紙呪符     

自作呪符     

蒼焔呪符     

お手製弓矢一式

世界樹の腕輪 

衣服一式

簡易調理器具一式 

調合道具一式

薬草一式       

皮素材

骨素材

聖王女公式身分書 

革張りの財布

折れた士剣

金属鉱石・魔鉱石

魔導機素材一式 New

魔導髄液・原液 New

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コメント
MKTさん、コメントありがとうございます! 楽しんでいただけたようで何よりです! よろしければ今後とも読んで楽しんでいただければ幸いです(°∀°)(丘騎士)
更新お疲れ様です。疲れがたまった今日、これを読んで疲れが和らぎました。(MKT)
獏条吉向之輔さん、コメントありがとうございます! こちらこそ、いつも読んでくださる獏条吉向之輔に最大の感謝を! よろしければ今後ともよろしくお願いします!(丘騎士)
今日はなんて良い日なんだ!最大限の感謝を!!(獏条吉向之輔)
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