涼宮ハルヒの対決 『龍』球Fighter
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六月もようやく半分を過ぎたかすぎないかというこの時期、あのインチキまがいのことをして勝利の栄光を力づくでもぎ取った野球大会から数日経ったある休日のことである。

いつものように町内不思議探索という名のガンプラウィンドウショッピングをしに、ある町内1の大型電気店に来たときのことだった。

店に入って丁度すぐ後くらいか、各自思い思いのスペースへ行って物色をし始めた時、俺は少しばかりガンプラバトルブースの方へ寄ってみた。

相変わらずバトルの方は盛況で、いつもより盛り上がっているくらいだったが、ある注意書きが目に入る。

 

『本日13:00より1、2時間ほどブース使用停止します』

 

メンテナンスだろうか?いやいや、普通こういうのは休日の書き入れ時のこんな時間に行うはずもなく、また別に理由があるのだろうと感じた。

しかし、その別の理由というのが全く思い浮かばず、ちょっぴりの好奇心を抑えきれなかった俺は女性と見まごうくらい顔の整った店員さんに聞いてみることにした。

 

「すいません、13:00からブース使用停止って、どうかしたんですか?」

 

すると店員さんは少し困ったような顔をし、少し悩んだ後こう教えてくれた。

 

「実はッスね、これからテレビが来るんスよ。あまり大きい声じゃ言えないッスけど。

それでなんだか番組の企画で一時間ぐらいブースを使うみたいッス」

 

ほう、テレビとな?まさかの返答に俺は驚きを隠せなかった。

こんな場所、と言っちゃあ申し訳ないが、この大型量販店には特に目立ったこともなく、強いて言えばガンプラの販売やバトルに力を入れているというくらいだ。

従って、テレビが来る理由と言えばそこだとは思うのだが、決定的な理由というわけではない。

そうやってない頭を振り絞って考えていると、妙に辺りがざわざわしていることに気付く。

辺りを見渡すと、大きいカメラ、丸めた紙を持ったスタッフらしき人、いかにもな『TVクルーですよ』といった面々が入ってくる。

はてさて、こんなところで何をするのか、一体誰が来ているのかと好奇心を抑えきれずにクルーがいる方へと歩を向ける。

するとスタッフと仲良く会話している一人の美少女を発見した。

さらさらとした長い黒髪をポニーテルにまとめ、元気で利発そうな雰囲気を纏い、トレードマークの八重歯がキュートな、肩にハムスターをのせた美少女、そう、最近注目の765プロの我那覇響がこの場所に天使の如く降り立ったのだ。

どどどどどうしよう、胸の鼓動が爆発寸前!ああああの響ちゃんを生で拝めるとは思わなかった!

ふぅ、待て落ち着こう、ここで仮にもサインください!なんて言ったら迷惑だろう。

しかし、生であの響ちゃんを拝めるチャンスなんてないのだよ?いったいどうしたらいいんだ!?なんて逡巡していると脇腹に鋭い痛みが走る。

ぐお!?なんて間抜け声を上げつつ後ろを振り向くと、そこには大層ご立腹な団長様がそこにいた。

 

「あんたねぇ、団の活動サボってこんなところで油を売ってるなんていい度胸じゃない、このアホたれ!!」

 

ハルヒは勢いよく俺をがなり立て、これでもかというくらい俺を責めてくる。

 

「ま、待て、ときに落着け!俺はただ、バトルを見にブースへ行ったら、妙な張り紙を見つけたからいろいろ視察してただけだ!!」

 

これは言い訳じみているなとは思ったが、実際のところ事実なんだから仕方がない。

そう、視察していったら偶然響ちゃんを見つけ、そのあまりの美貌に見惚れていただけだ、何もやましいことはない。

 

「妙な張り紙?」

 

「それにあっちを見てみろ、あきらかにTVクルーな方々がいるだろ?

ここでどうやら撮影するらしいんだよ」

 

「へ?こんな所を撮影してどうなるのよ?」

 

それは俺も思っていたことだがあえて言うまい。

恐らくだが響ちゃんが単独でここに来ると言えばあのコーナーしかないだろう。だが、ここでいったい何をするんだろう?

 

「さぁな、もうそろそろ撮影が始まるみたいだし、せいぜい迷惑にならないように観察でもしてようぜ」

「えー、今日はせっかく誰かとガンプラバトルしようと思ったのに……」

 

「まぁ、事情が事情じゃ仕方あるまい、まさか乱入して番組壊すほどアホじゃあるまい?」

 

しぶしぶ、といった感じで意気消沈するハルヒ。俺だってガンプラバトルを間近で見たりしたかったさ。

なんて世間話をしていると番組スタッフであろう人がこちらへ向かってきてこう告げた。

 

「ねぇ、キミ達、今ガンプラバトルって言った?」

 

「え、あ、うん、言ったけど……」

 

とハルヒが返す。あまりに急な出来事に俺も思考がストップしてしまう。

 

「あのさ、生っすか!?サンデーっていう番組知ってる?その番組のコーナーで響チャレンジっていうコーナーがあるんだけど、そのコーナーでちょっとガンプラバトル出来る人を探してたんだ。もしよかったら、対戦相手として出てくれないかな?」

 

はぁ!?何ィ!?まさに驚天動地、度肝を抜かれるとはこのことである。

まさかあの人気番組に俺達が出ることになろうとは……。

しかし少しばかり恐怖も感じる、もしやハルヒがテレビ番組でSOS団の宣伝なぞしようものなら……、あぁ、考えるだけで恐怖だ。ハルヒならやりかねん!

 

「へー、おもしろそうじゃない!いいわ、ガンプラバトルするわ!」

 

と俺の悩みを無視するかのように、即断即決するハルヒ。

お願いだから全国にお前の電波な発言を放送するとか言う馬鹿な真似はやめろよ!?

 

「そっか、それならよかった。じゃあそろそろ始まるからこっち来てくれるかな?」

 

そうやってどんな運命の糸がこんがらかってしまったのか、俺達はスタッフさんに連れられてアイドルの我那覇響の近くに、すぐそばに導かれてしまったのだ。

もう、なんというか恐れ多すぎてプレッシャーを感じ、胃が痛くなってきたよ……。

 

「自分、我那覇響だぞ!今日はよろしくお願いするさー!」

 

と、向こうからなんと握手まで……。どうしよう、俺はもう胸の鼓動だけで死んでしまうかもしれない。

なんてことをおくびにも出さず普通に、こちらこそよろしくお願いします、とだけ告げて握手に応じた。

そしてもう、この手は一生洗いたくない、などと一昔前のアイドルのおっかけのようなことを考えるのだった。

もう、金輪際こんなことないんじゃないかっていうくらいの体験なのにハルヒは、

 

「アタシ、涼宮ハルヒ!よろしくっ!」

 

なんてこうあっさりと馴れ馴れしく返していた。素晴らしいなその性格は……アイドルを間近にこう物怖じしないなんて羨ましいぜ。一般市民の俺なんかどうしても物怖じしてしょうがない……それが好きなアイドルなら尚更さ。

で、そうこうしているうちに、生っすか!?サンデーの開始時刻となり響ちゃんに気合が入ったのを肌で感じた。

やはり本職は違うな……、カメラの目の前で物怖じせず流暢にトークする様なぞなにかこう、常人とは違う何うかを感じた。

 

「―――で、今回のチャレンジは、今流行のガンプラを使ってバトルをするさー!!

相手は、そこにいる二人だぞ!」

 

そのセリフを受けてカメラは俺達の方を映す。あぁ、なんということだろう、このTHE・平凡という人間と珍妙奇天烈極まりない人間をお茶の間に流してしまった。

はっきり言うが、もう緊張のあまりここでの記憶は非常にあいまいで何を言ったのかすら覚えていない。

ハルヒがSOS団のことは言わなかった、ということだけは覚えているのだが。

響ちゃんが一通り説明を終え、カメラがOFFとなり、俺達はブースの方へ移動となった。

いつまでも緊張して圧倒されてばかりもいられん、ここらで気合を入れ直さないと。

 

「あー、すいません。ところでガンプラは何を使うんですか?」

 

気合をいれ直しても下手に出過ぎるあたり、生粋の小市民であることを自覚するぜ……

でも、変に馴れ馴れしくてもおかしいし、俺としてはこのあたりがちょうどいいと思える。

 

「んー?自分の使うガンプラはこの『リュウノスケ』さー!!」

 

と彼女が懐のガンプラホルスターから取り出したのはなんと、『1/144シェンロンガンダム』であった。

まさかの旧キットということに俺は驚きを隠せず、思わず叫びそうになってしまった。

 

「い、一体どこでそんなものを……」

 

「ん?うちのピヨ子……じゃなかった事務員さんが用意してくれたんだぞ!それにいろいろ作り方や動かし方も教わったさー!」

 

何者だよその事務員さん……。

しかし、旧キットということにもかかわらず……出来栄えの方はかなりの物だ。

いつから作ったのかわからないけれど、このガンプラと闘う以上苦戦は免れまい。

これはまたセコンドについた方がよさそうだな……。

そうしてブースに入り準備をしていると、また響ちゃんはカメラに向かって逐一状況を報告し、奮起している旨の発言をしていた。

いくら俺とて相手に花を持たせる主義はない、ハルヒだったら尚更だ。カメラを向けられているのは些か緊張するが、俺とハルヒはカメラに向かってこちらも負けないという旨の発言をした。

カメラがオフなった瞬間、俺はハルヒを呼び寄せてセコンドにつく旨を説明した。

だがそれは、残念なことに突っぱねられてしまった。

 

「確かに初戦はセコンドについてもらったけど、これからは一人で戦ってみたいの。

悪いけどそこんとこよろしく!」

 

なんてこう爽やかに言われると、その主張を受け入れざるを得ない。

しかし、何もしないのも少し釈然としないので、相手の機体について少しアドバイスしてやる事にした。

 

「いいかハルヒ、相手の機体はこの前とは打って変わって、接近戦主体の機体だ。

かといって遠距離もできないわけではないから、そこのところ気を付けろよ?」

 

「ん、わかった、気を付けるわ。」

 

ふぅ、よかった、アドバイスは構わないらしい。

そうしてお互いにGPベースを取り出し、

 

『Please set your GP Base』

 

のアナウンスに従い台座にセットする。

あれよあれよという間にブースは青い粒子で満たされていき、フィールドを形成してゆく。

このフィールドが形成する間っていうのはなんというかドキドキするぜ、できるだけ自分たちの所に有利なフィールドに来てほしいもんな。

 

『STAGE:City』

 

こいつは参ったな、できるだけ開けたステージの方がよかったんだが……。

このステージだと敵が接近するのに有利だからな、しかも相手の機体は接近戦がお得意と来た。

なんというか、こうもステージ神様に嫌われるとは……、流行り日頃の行いというのは神様に見られてるんじゃないかと思うね。

だからハルヒよ、もう少し長門や古泉、朝比奈さんや俺に対して優しくあまり無茶をさせないようにしてくれませんかねぇ?

 

『Please set your GUNPLA』

 

二人とも台座の上に自分のガンプラを置き、自分のガンプラがスキャンされていくのをじっと見る。

自分たちのガンプラに命が吹き込まれるこの一瞬は、なんというか真剣勝負の始まる前のビリビリくるような雰囲気があって独特の緊張感を醸し出している。

デュアルアイが光り、お互いにカタパルトが具現化し今か今かと射出を待っている。

 

『Battle Start』

 

「涼宮ハルヒ!ガンダムMk-U、いくわよ!!」

 

「我那覇響!リュウノスケといくさーっ!!」

 

と互いの掛け声を合図に機体は勢いよくカタパルトから射出され、フィールドに降り立つ。

辺りは基本的にMSと同じくらいかやや大きいくらいかの見渡しの悪いビル群が連なっている。

今回もハルヒは慎重に相手のMSを探してゆく。なんというか街角を曲がるたびに待ち伏せされているんじゃないかとヒヤヒヤするぜ。

それは向こうも同じようで、響ちゃんの表情はわかりやすく一喜一憂しており、序盤はかなり静かな立ち上がりとなった。

そして当り前というかなんというか、先に痺れを切らしたのはハルヒだった。

 

「こんなんじゃ盛り上がらないわ!ガンプラバトルの妙って奴を教えてあげる!!」

 

そう言ってハルヒは思いっきりブースターを吹かし、ガンダムMk-Uは空中で飛び出した。

ハルヒはどうやら上空からシェンロンガンダムを探す作戦に出たらしい。まぁ、作戦というほど大げさなものではないのだが。

ハッキリ言ってこの後先考えない迂闊な行動は良くも悪くも兵站を切り開くきっかけとなった。

当然ハルヒのガンダムMK-Uの姿は相手に丸見えだし、ハルヒも上空から見ればシェンロンガンダムを探しやすくなる。

こうして相対した二人は、自分が主導権を握ろうとそれぞれのアプローチで攻撃を仕掛ける。

 

「そぉい!」

 

「負けないぞ!!」

 

ハルヒはハイパーバズーカで、響ちゃんは右腕のドラゴンハングを伸ばして相手に仕掛けた結果、バズーカの弾丸を強引に龍の部分で着弾させダメージを少なくして、そのままハルヒのガンダムMk-Uに当てたのであった。

着弾の煙が晴れ、そこから出てくる龍の頭はさぞかし驚愕したであろう。そのまま吹き飛ばされ、ガンダムMk-U背中から地面に落ちる羽目となった。

 

「よし、いい滑り出しだぞ!!」

 

さらに追撃すべく、響ちゃんのシェンロンガンダムはハルヒが落ちたであろう地点へとブースターを吹かし、高速でビル街を走り抜ける。

だが、そうはさせないと言ったハルヒはいち早く体勢を整え、シェンロンガンダムが来る前に何とか立ち上がることができた。

せっかくのチャンスを逃すまいとハルヒに迫る響ちゃん。なんとしてもこれ以上の損傷は避け、主導権を取り戻したいハルヒ。二人の思惑をかけたセカンドアタックの火ぶたは切って落とされた。

 

「こっち来るんじゃないわよ!!」

 

とシェンロンガンダムにビームライフルを乱射するハルヒ。だがその緑色の光はシェンロンガンダムに当たることなく左右の動きでかわされてしまう。

 

「ここからは自分のステージさー!!」

 

背部からビームグレイブを左手で抜き、勢い良くハルヒに迫るシェンロンガンダム。

その勢いに負けハルヒはこちらも接近戦で応じようと言わんばかりに、ビームサーベルを引き抜く。

 

「ダメだハルヒ、それは悪手だ!」

 

そう言うが早いか鍔迫り合い状態に入る二人。どうやらハルヒには俺の言葉は届いていないようだ。

この鍔迫り合いにいつまでも付き合えないと言ったハルヒは、頭部バルカンポットをシェンロンガンダムに浴びせ、怯んだところを大振りにビームサーベルで斬りつける。

 

「うっ、こ、こんな小細工!!」

 

「なんとでも言いなさい!」

 

だがハルヒのビームサーベルは、あとちょっとのところでシェンロンガンダムの所へは届かなかった。

そう、シェンロンガンダムのビームグレイブは長柄なので、普通のビームサーベルと比べるとリーチが長く、懐に入りづらいのだ。

あぁ、だから接近戦はやめとけと言ったのに……、相変わらず人の話を聞かん奴だ。

 

「詰めがあまいぞっ!」

 

体勢を立て直したシェンロンガンダムは左足でハルヒの機体を蹴り飛ばして、距離を取って追撃の体勢に入る。

一方蹴られたハルヒはというとすぐに体勢を立て直し、追撃を防ぐべく機体を半身ずらしてシールドへとその身を隠す。

 

「本当に、甘いさー!!」

にもかかわらず響ちゃんはそのまま右腕のドラゴンハングを伸ばし、攻撃を仕掛ける。

そしてそのドラゴンハングはシールドに当たるか当たらないかのところで止まり、その龍の頭から灼熱の炎を吹き出した。その様子は、まるで龍の逆鱗に触れた人間を焼き尽くすという古来の話を彷彿とさせるものであった。

当然ガンダムMk-Uのシールドは、真っ赤に染まり次第にその形状を保てなくなって溶けていく。

 

「ちょ、ちょっと!こんな話聞いて無いわよ!?」

 

……し、しまった、ハルヒにこのことを伝えるのを忘れていた!!

そうだった、俺にとっては当たり前のことでつい忘れていたが、ハルヒはガンダムに関する知識はまるでないんだった!!

 

「ハ、ハルヒ!いいから盾を捨てろ!このままだと機体にまで影響しちまうぞ!!」

 

「うひゃぁぁぁ!!」

 

慌てて原形をとどめていないシールドを捨て、火焔から距離を取るハルヒの機体。

幸いにも本体にはそれほど影響はなく、損害はシールドだけに留まった。

しかし、盾を失ったのはかなり大きいといえよう。相手の攻撃はどれも大味だが威力の高いものばかりだ……。

それを解ってかハルヒも懸命にビームライフルを斉射して、何とか抑え込もうとしている。

しかし、シェンロンガンダム付属のシールドで遮られ決定打とはいかない。

 

「そらそら、もう覚悟を決めるといいさ!!」

 

すっかり調子に乗ってしまった響ちゃんは、ドラゴンハングで勇猛果敢に攻めハルヒに攻撃の隙を与えようとしない。ハルヒが出来ることと言ったら、ドラゴンハングをかろうじて避けることぐらいだ。

なんというか、その様子は何やらぎこちない様子でギリギリ避けているという感じだし、このまま終わってしまうのか……?

 

「むがー!!往生際が悪いぞー!!」

 

そしてなぜか頭に血が上り始める響ちゃん。

はて……、ハルヒの方が頭に血が上るというならともかく、なぜこう優勢の方の響ちゃんの方が苦しそうな表情を見せているのか?

よくよく観察していると、ドラゴンハングを次第にスムーズに避け始めてきたハルヒ。

そしてドラゴンハングの龍頭がハルヒのMk-Uに襲いかかろうとしたその時、ギリギリ最低限の動きで躱しつつ、ビームライフルを撃つというカウンターまで見せ始めた。

 

「ふっふっふ、その動き……見切ったわ!!」

 

「な、何だとー!!」

 

ハルヒの言うことなどまるで妄言であるかのように反発し、再びドラゴンハングで攻撃を仕掛ける響ちゃん。

しかしそれを文字通り返す刀……ビームサーベルで龍頭の後ろ側のつなぎ目を見事に切り上げて両断した。

 

「なんか知らないけどさ、その武器……いっつも同じような角度で攻撃してくるのよね。

最初は気付かないで避けてたけど。もしかして、と思ったらビンゴだったわ!」

 

「うぐ……!!」

 

そうか、そういうことか!!

確か響ちゃんのシェンロンガンダムは旧キットだったはず!それ故に可動範囲が狭いんだ!だから何回も繰り返されりゃあサルでも覚えるという奴か!!

それにしても意外とハルヒの奴も進化してるんだな……まさか攻撃の角度にまで気が配れるなんてな、ぎこちなかったのはそういう訳があったのか!

 

「さーて、どうする?これからジリ貧になるのはアンタの番よ?」

 

不敵にも精神攻撃を仕掛けていくハルヒ。事実、響ちゃんは遠距離攻撃ができない状態な訳で、ハルヒの攻撃を掻い潜って接近戦を挑まなくてはならなくなったわけだ。

ハッキリ言って、このアドバンテージは大きい。響ちゃんの顔にも焦りの色が見える。

 

「そんなの、わからないさー!!」

 

シールドを前面に押し出して、遮二無二突進してくるシェンロンガンダム。しかしその突進はハルヒの散弾バズーカによってその勢いを削がれてしまい、逆にダメージを受けることとなった。

こうなればもうこっちの物、このまま相手を遠距離攻撃で封殺して、大根おろしのようにすりおろしてしまえ!!

 

「ふー……、やめた」

 

急に何を言ったかと思うとビームライフルとバズーカを投げ捨て、ビームサーベルを構えるハルヒ。オイオイ、一体何のつもりですか!?

 

「このままライフルやバズーカで仕留めてもいいんだけどさ、それじゃあおっもしろくもなんともないわ!!接近戦で勝負しましょ!!」

 

えー!?何言ってんの!?

せっかく有利になったっていうのになんでそのアドバンテージをみすみす捨てる真似するの!?理解不能理解不能!!

 

「な、何のつもりだ!!別に情けなんか掛けられなくたって、こっちが勝つさー!!」

 

「情けなんてかけてるつもりはないわ、このまま遠距離飛び道具で有利に戦ったらきっとアタシは油断しちゃう。そしたらどの道接近戦……悪かったら負けちゃうわ。

ならギリギリの所に踏み込んで、油断できない状況下にその身を置いて、最初から接近戦でカタを付ければいいのよ!これがアタシの作戦よ!!」

 

あ、アンタどこのバトルマニアですか!?それじゃ思考が全くの少年漫画の主人公じゃないですかー!!やだー!!

 

「あっはっはっは!!それじゃあしょうがないさー!!

じゃあ、遠慮なくいかせてもらうぞ!!」

 

なにか通じ合うものがあったのか、響ちゃんはハルヒの作戦とやらを受けて立ち、ビームグレイブで薙ぎ払いを仕掛けた。それをハルヒはビームサーベルで受け止める。ならば今度はと言わんばかりに上から打ち下ろす。

相手は片手、それ相応に隙はあるはずなのだが長柄武器というリーチの利点から、すぐさま攻撃を仕掛けられない。

響ちゃんが斬りつけ、ハルヒが防ぎ、そういう打ち合いが何合続いたことだろうか。

防戦一方だったハルヒが攻撃に打って出てきたのだ。

間合いを詰められると、苦し紛れにハルヒの機体を蹴って間合いの調節を図って何とか均衡を保ってはいるがそろそろ限界だろう。響ちゃんは今にも折れそうな表情だ。

 

「せい!!」

 

ハルヒはその掛け声とともに打ち下ろされたビームグレイブを見切り、最小限で躱しつつビームサーベルで根元からグレイブを叩き斬ったのだ。

こうなればもう響ちゃんに武器はない、勝負は決まってしまった。

 

「せいやぁっ!!」

 

最後、Mk-Uのビームサーベルはシェンロンガンダムのコックピット部分を貫き、決着の相図として爆散した。

 

『Battle End』

 

そのナレーションののち、プラフスキー粒子は一斉に消え去り、元の殺風景な空間へと戻った。台には死闘の跡がありありと見えるガンダムMk-Uと、シェンロンガンダムが残されていた。

 

「う、うぅ〜、リュウノスケぇぇぇぇ……」

 

バトルが終わるとすかさず響ちゃんはシェンロンガンダムを拾い上げ、悲しそうに見つめた。今にも泣きだしそうだ。

今回のハルヒの勝因だが、運でもハルヒの動体視力や感性の問題ではない。相手が『旧キット』であるからこそもぎ取った勝因だろう。

ハッキリ言って旧キットはその可動域が狭い、だから攻撃を仕掛けたりすると似たような攻撃しか出せないのだ。

恐らく対戦中にハルヒはそれに気づき、見切れたことが最大の勝因と呼べるものであったと俺は思う。

 

「う〜ん、なんだか声かけづらいんだけど?」

 

「まぁ、恐らく初めて作ったプラモなんじゃないか?相性までつけるくらいだし。」

 

「どうしたもんかしらねー……」

 

この響ちゃんがショックを受けて売るところもばっちりカメラに映されている。

さぞかし向こうでは落胆していることであろう、たぶん。

まぁ、最近の響チャレンジは失敗前提のチャレンジをさせられているような気がするが。

いつだったか、放送中に間に合うように走ってスタジオにゴールしろなんて言った時か。

アレなんかは熊出没注意の看板だとか、こっちはピーカンの晴天なのに向こうでは雨が降ってたりとか、明らかに県外……いや圏外からのスタートだろありゃ。どう考えても成功させる気ないとしか思えん。

なんて考えていると、

 

「お疲れ様でしたー、OKでーす。」

 

という声がかかり、それを合図に響ちゃんはゆらりと動きシェンロンガンダムを片付けた後こっちに向かって指を指して、

 

「お、覚えてろー!!次こそは負けないさー!!」

 

なんて何度も使い古されている、三流悪役の捨て台詞を吐いてそのまま去ってしまった。

次こそはというが、連絡先も何も交換してない状態で再戦もクソもない気がする。

かといって、アイドルの連絡先を手に入れたら手に入れたで大問題に発生するだろう。

まぁ、もしかしたら、とでも考えておくか。傍目には悪くない腕をしているし、今回の戦いだって旧キットじゃなかったらどうなっていたかわからないしな。

 

「今日はどうもありがとうね、壊れちゃった部品とかは出演料代わりにうちが出すよ」

 

響ちゃんが去った後、先ほどのスタッフがこちらへ来てそう申し出た。

ハルヒとしてはその申し出を断る理由がない、スタッフに住所を教えたのち、嬉しそうな顔をしてガンダムMk-Uを片付け始めた。

 

 

そして翌日、当然電波に乗った我々はクラス中、いや学年中を飛び越え学校中で話題になり、恐らくほかのクラスや学年であろう人間がうちのクラスを覗いてくるという有様になっていた。

当然と言えば当然である、なんてったってあの765プロのアイドルとガンプラバトルしちまったんだからな。幸いなことと言えば、ハルヒの珍妙奇天烈極まりない普段の生活のおかげで話しかけてくる人間がおらず、いちいちどういうことか説明しなくて済むことぐらいか。

聞いてくるとしたらまぁ谷口や国木田ぐらいなのだが。

 

「いやぁ、びっくりしたよ。きのうテレビ見てたら涼宮さんとキョンがテレビに映ってるんだもの。しかもあの響ちゃんとガンプラバトルするなんて、すごいよねー。」

 

あぁ、俺だってイマイチ信じられん。昨日のことは夢や幻かと思うくらいだ。

 

「なんて羨ましいんだお前はよぉ!でどうだった?サイン位もらったか?くさいとか言われてるが臭いはどうだった?」

 

くさいわけがないだろうがこのトンチンカン!ああいうネットのうわさ信じるような奴には一切の情報を与えてたまるか!ていうかサイン貰うの忘れてた!!

 

「あはは、結構楽しそうにバトルしてるのが映ってたよね涼宮さん。普段もああいう風にしてればいいのにね。」

 

あぁ、その意見には同意する。あの支離滅裂でとんでもない性格さえなくなって、ガンプラに集中して取り組んでくれりゃいいのになぁ……。

 

 

そうしていつものように部室で古泉とオセロに興じてノーマルな日常を過ごしていた。

 

「しかし昨日は驚きましたね、いつの間にか貴方と涼宮さんがいなくなったと思ったら、アイドルと闘っていたのですから」

 

「まったく、あの流れには俺もびっくりした。

ふとガンプラバトルでも見学しようと思い立って見に行ったら、あれよあれよという間に参加することになっちまったんだからな。」

 

「ほんとよねぇ、アタシがキョン探しに行かなかったら一体どうなってたのかしら?」

 

「涼宮さん凄いですねぇ、ガンプラバトルデビューから二連勝ですよ?」

 

いつものメイド服でお茶をみんなに入れて回る朝比奈さん。

今日のお茶は梅こぶ茶にチャレンジしたらしい。う〜ん、このほんのりとした塩味が堪らない。

「昨日のは……なんか運がよかったのよね、相手の攻撃がワンパターンだったから」

 

「旧キットは可動性に難がある、攻撃がワンパターンだったのはそのため」

 

「有希、旧キットって何?」

 

「HG系、MG系などのカテゴリから外れた、昔のガンプラのことをそう呼称する。

大体がそのアニメ放映中や放映直後に出されたキットであり、そのキットでしか販売してないMSが多々ある」

 

とハルヒに説明してくれている長門。

そうなんだ、俺の中の妄想プランの中にビギナ・ゼラを使った改造キットがあるんだが、旧キットしかなくて泣く泣く断念したこともある。その前に改造すらできないのだが。

 

「そうだな、もし響ちゃんの機体がHG系だったら、昨日の勝負はどうなっていたかわからんな」

 

「そう考えると昨日の勝負、なんか腑に落ちないものがあるわねぇ……」

 

まぁいいんじゃないか?向こうも再戦したそうだったし、お前も再戦を望めばそのうち運命の女神様あたりが何とかしてくれるだろーよ。

 

「なにそれ?でも、もう一回挑戦はしたいなぁ……」

 

とハルヒはこちらに背を向け空を見上げるのであった。

俺だって何とかしてやりたいがな……こればっかりはどうにもならん。

だがハルヒ、お前が強く望めば何とかなるんじゃないか?お前のその再戦への熱が口ばかりの物じゃなく本物だったらきっと何とかなる。

俺はハルヒの背を見てそう逡巡するのだった。

 

説明
今回は短編をちょこちょこ出していく形になります。
あと、10/26(日)のサンシャインクリエイションのイ02aで小説出します。
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