超次元ゲイムネプテューヌmk 希望と絶望のウロボロス |
ーーー力があればどんなことも出来ると信じていた。
そう、姉の姿を見てそう思った。
記憶の中で輝くその姿は、人間形態でも女神形態でも色あせることはなかった。神々しく思うほどに黒き軌跡を描く美しい剣劇が負ける姿なんて予想してなかった。ただ、あの人のように真っ直ぐ剛烈な力強い剣舞と流れる様な銃術を展開させる超が付くほどの例外を除けばの話だが。
現実は儚く打ち砕かれる。
誰よりも尊敬して、誰よりも信頼している姉は囚われ、自分と同じ女神候補生だけが救われた。
理由は簡潔、自身が貧弱だったから。
弱かったから見下され手加減され、それでも本来の力を使い切ることなく負けたからこそ余裕があり回復が速かった。戦いという土台にお互いが最初から別の場所に立っていたのだ。弄ばれた結果が残り、無力な事に追い打ちを掛けるように世界は当然のように敗者である女神ではなく勝者であるマジェコンヌを信仰し始めていた。
「………痛ッ」
「こんな所で走るな!!痛邪魔だろうが!!」
教会から抜け出し、場所も分からないまま走っていると人混みの中で人に当たった。
まだ体中が痛い、冷静になって体中を見ると包帯が至る所に巻かれていた。面を上げると顔を真っ赤にしながら怒る男性。
「ちっ、怪我人か。ガキは家に帰って寝てろ」
「…私は、…女神……候補生……」
「あぁ!?」
青筋を浮かべて怒鳴る声にビクッと肩を触らして唾を吐く様に舌を打ち男性は去っていく。
川の様に流れる人の中に親が注意する声が聞こえる。その方向へ向くと子供がゲーム機を持ちながら歩いていた。それがマジェコンである事が分かり、体に力が入る。
「……あなた……それ、マジェコン…でしょ」
「ん?お姉ちゃんだれ?」
「それはダメな物なの、捨てないと……ダメなのよ!」
「えー、これさえあれば好きなゲームをダウンロードしまくりじゃん。これをくれるマジェコンヌはもっとサイコー!学校じゃみんなそう言っているよ?」
「だから……!」
再び親の声に子供がびくっと背が伸びる。怪訝な顔でユニを見て鼻で笑う。
「おねえちゃんもしかして女神信仰者?ダメだよお父ちゃんもお母ちゃんも女神は終わったって言ってるもん、みんなが楽しめるマジェコンヌこそがゲイムギョウ界の最高神ってみんな言ってるよ?じゃあね」
流行に遅れてしまった可哀そうな人を見る様な目で子供は、ユニの前から親元目指して人混みの中へ消えた。
「こんな所で立ってないで早く行ってくれない?通行の邪魔なんだけど」
呆然としている化粧の臭いが濃い女性が睨みユニの前に立つ。その女性の持つ無駄に装飾された鞄の中にもマジェコンが見えた。
口から何か訴えたかったが、何も出来ず地面を見ながらその場から離れる。何も見たくも聞きたくもなかった。
「……どうして、いきなり出てきた神をみんな信仰するのよ……」
当てもなく歩いて辿りついた先は人気のない公園だった。
ベンチに腰を落して、無気力な声で訴える。勿論誰も答える者はない。
未だに世間の統一権を持っている教会だからこそ、面だってマジェコンは浸透していないと思っていたが状況は深刻だった。あれから何人か子供た大人に声を掛けたが、ほどんど者が既に女神に対して希望を抱いていない。楽して娯楽を楽しませてくれるマジェコンヌこそがゲイムギョウ界の神だと謳っている者すら居たのだ。
「なにがマジェコンよ。なにがマジェコンヌよ。犯罪神よ?どうして誰も疑わないの……?」
その名の通り、犯罪の神。
どうしてそんな存在が人の利益になる事をしているのか。
間違っている事をして罪悪感は沸かないのか。
今まで信仰してきた人に答えるために女神に対してどうしてそんなに冷たくなれるのか。
女神候補生として誰よりも女神と近くに居たからこそ、女神の苦労や努力を誰よりも見て理解しているから人間の無神経が理解できない者があった。
「お姉ちゃんはあんなに頑張っていたのに、国の発展のどれだけ真面目に考えてきたと思っているのよ…!」
「……仕方ないよ」
「何が仕方ないのよ!」
「……人は見えない未来より、近くの明日のことを優先するから……艱苦するぐらいなら、安楽を選ぶから」
「それは好き勝手よ!おねえちゃんがどれだけ心血を注いできたと思っているの!!」
「……努力に伴う正当な報酬なんて…ない。それが世界単位であるのなら……なおさら」
「だからって−−−!」
そこで漸く疑問が浮かんだ。自分は一体だれと話していると。
ベンチに座り、地面をずっと見ていたユニは表を上げて隣を見ると少女が座っていた。一桁も満たさない幼い少女。
歪みなく流れる様な背中に届くくらいのロングストレート。髪色は色素を失ったような雪の様に白銀色であり、その容姿は人形のように感情が薄かったが、それでも壁画で描かれそうな美少女だった。服装はユニにとって雲の様な例外の存在である空と同じ格好で髪色同様な白色のコートを身を隠すように羽織っている。彼女の幼くもどこか貫禄ある容姿と服装と合わさって、まるで儚い幻想のような印象を受ける人物だった。
「はい…冷たいよ」
「え、あ、……ありがとう」
近くに合ったであろう自動販売機から買ってきたのだろうか、少女の手には二つのグレープジュースの缶が握られており、その一つをユニに差し出す。戸惑いながらそれを受け取った。
まだ昼時の熱い陽光と共に握られる間の冷たさかが心地よかった。
カチッと缶詰が外され、澄んだ瞳は遠い水平線を見るような視線でトクントクンと小さく呑み始める少女に不思議と先ほどまで燃え滾っていた怒りは鎮火され、預けられた猫のように静かになったユニも同じようにジュースを飲み始めた。グレープの甘酸っぱい味が口いっぱいに広がり、ひんやりとした冷たさが火照っていた体を冷やしていく。半分になるまで一気に飲み干して口から離すと、こちらに視線を向けている幼い双眸がユニの表情を伺う様に映していた。
「落ち着いた…?」
「えぇ、ごめんなさい。怒鳴り散らして」
「そう良かった。……お節介じゃなかったら、聞いていいかな?……貴方の胸の中にあるもの」
見た目は自分より小さな少女なのだ。だが、年下に見えず雰囲気と口調が一致していないように感じた。一番近い人物と言えばプラネテューヌの教祖のような雰囲気だ。
少しの躊躇の後、少しずつ語り始めた。
先ほどのこともあり、自身が女神であることは伏せたが、教会の関係者という形で女神達が囚われ、付いて行って無様に倒され、捕まって、仲間に救出されたが、女神を重んじる人は少なってしまい、別の希望に縋ったが結果は圧倒的な力の前にまた敗北したこと。
「……悔しいけど。女神のシェアの低下は教会によってなんとか食い止められているかもしれないけど、いつ限界が来るのか……お姉ちゃん、ならきっと挽回できるような凄い策が作れたかもしれないけど、私じゃ……」
「……自分に、自信ないの?まだ一歩しか踏み出してないのに?」
「……えっ」
同情なく人形の如き無表情な瞳で真っ直ぐユニを見つめた。
「一歩だけじゃ景色は変わらない。なのに貴方は先が暗い、暗いと言って自分で明かりを点けようとしない」
金槌で頭を叩かれているような衝撃は響いた。
今まで進んでいたように思えて、まだ自分の景色は何も変わっていない。改善しようと努力したように考えても、まだしたことは少ない。
「大変だと思う。苦しいと思う。悲しいと思う。でも、ここが終着点じゃないよね…?」
顔色が変わっていく。
未来に不安しか抱けなかった。だけど、それがどうしたと、未来の明かりを灯らすのが女神の役目じゃないのかと体に力が入ってくる。
「……凄いわね。ありがとう、勇気が沸いてきたわ」
「私は……凄くないよ。それは元々、貴方が持つ((意志|ちから))…それを少しだけ持ち上げただけ……」
「そう……それじゃ私は行くわ。少し頼りない友達が首を長くして待っているだろうから。だから少しだけ待っていてね必ずこの世界を救って見せるから−−−女神として」
心に付着した物が綺麗に取り除かれ体が軽かった。
深く未来を考えすぎていたかもしれない。だからこそ、溝に嵌ってしまい身動きが出来なかった。助かる手はあるのに、どこに捕まればいいのか焦って分からなかった。
立ち上がって前に進み始めた。
簡単な事だった。
女神でありユニである。
ユニであり女神である。
たったそれだけで前に進むだけの価値はあった。
誰からの信仰や祈りを気にする前に自ら行動することこそが大切だと知ったからだ。
「−−っと、あなた!名前は?」
「…私?」
女神であることに驚いたのか、それとも突然に駆け始めた事に驚いたのか、それとも突然名前を聞かれたことに驚いたのか少女は、微笑むユニに目を丸くして、人形のような無表情から少しだけ口元を緩めた。
「私、私は−−−−((零崎|れいざき)) ((空亡|くうむ))だよ。女神様」
「……私はユニ、ラステイションの女神候補生!また会ったらお礼をさせて、それじゃ!」
一瞬、紅夜の姿が脳裏に浮かんだが、世界は広く同じ姓を名乗る人がいても可笑しくないと自己解釈で済ませて、ユニはプラネタワーを目指して走り出した。その瞳に確かな意思を宿して。
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ただいま重度のスランプ中……。更新遅れて申し訳ない。 | ||
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