『舞い踊る季節の中で』 第151話 |
真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-
第百伍拾壱話 〜想いが奏でし音色は戦場に舞う〜
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
【最近の悩み】(蜀編)
「ええ、其処なら面白い事うけあいよ」
と事の趣旨を離した俺に快く教えてくれるのは、黒髪の綺麗な法正さん。どこかで見覚えのあるゴスロリ系の服は、本人曰く。
『なに、着ていても似合わぬ娘がいたからな。いかに似合わないかを説いてやったら、快くにくれたので手直しして着ているだけの事。生憎と今は暇な身なのでな、そう言う時間には不意自由しない』
……つまり気にいったので、言葉巧みに相手に手放すよう誘導したらしい。被害に遭った娘が気の毒と思いつつ。そんな娘の言う事なので、念のためにどんな店なのかを聞いてみると、どちらかと言うと夜の店。しかも男性限定の大人のお店と言えば分ってもらえると思う。そして間違ってでも、そんなお店に明命を連れて行った日にはO・HA・NA・SHIで済まなくなるのは必須。そんな訳で他の店をお願いすると。
「なるほど、其方の方が好みであったか」
と言って、今度は可愛い男の子のいるお店を紹介してくる始末。そう言う趣味は欠片も無いので本当に勘弁してくださいとお願いしつつ。あの、面白いって言うのは、もしかして……。
「むろん、この私がに決まっていよう」
……あぁ、やっぱりなと深く溜息を吐きながらも、真面目なお店をとお願いする。
その甲斐あって、一応はいくつかを教えて貰えた事に礼を言って部屋を出ようとする俺に法正さんは。
「これは興味本位で聞くのだが、どの店に行くつもりか?」
法正さんの話の中から気になったお店を3、4件答える俺に…。
「……ほう、何も考えれぬ馬鹿かと思えば、玉石混淆を見極める目と頭を持っているか。少し貴様に興味が沸いた。暇ならば、また遊びに来るがいい」
と、何故か俺を買いかぶってくる。
何故そう思ったかはともかくとして、とりあえず。今の反応からして大丈夫そうなお店である事に、心の中で安堵の息を吐く。当日も一応は警戒しておこうと思いつつも当日の行程をシミュレートしながら廊下を歩く俺は拾った本をいつの間にか持っていない事に気が付き。
「あれ? どこかに落とすか置いて来ちゃたかな」
落とし物なので出来れば持ち主に届けたかったんだけど。もともとお城の奥の区画でのだから、変な人に渡る心配はないから安心はできるんだけど。
……なんだろう、何かまた開いてはいけないドアを開いたような気がするのは?
ぶはっ!
一応、周りを軽く見まわしてから本の持ち主に悪いと思いつつ諦めて部屋に戻ろうとした時、後ろの方から何か水道管か何かが破裂したような、それでいて何か液体が壁に思いっきりぶちまけられたような音が聞こえてくる。……って、まさかな。この時代に水道管がある訳でもなし。うん、気のせいだよな。
次項より本編:
恋(呂布)視点:
ぶぉんっ!
………また当たらなかった。
どこか恋と同じ匂いがする相手。
その一刀は、今の恋の攻撃も避けてみせた。
ん……でも、今ので理由は判った。
一刀は恋の攻撃に移る前にすでに避け始めている。
恋と同じ。……相手の動きが分かる。
得物を体の向こうに隠そうと、服や物陰に隠れようとも、なんとなく判る。
だから恋の感じた匂いが正しかった事が分かって嬉しい。
恋と同じ匂い。
恋と同じ景色が見える人。
そんな一刀とは戦いたくない。
ううん、本当は誰とも戦いたくない。
でも戦わなければいけない。
恋には守るべき家族があるから。
家族が安心して眠れる家を手に入れる為に。
恋には、そんな事しかできないから。
『恋殿、この戦に勝てば、恋殿の夢の一つを叶える事が出来るのですぞ』
音々はそう言った。
音々は恋に嘘はつかない。
だから恋は音々の言葉を信じて戦う。
恋は恋と恋の守るべき家族を守るために。
恋を信じてついて来てくれている皆のために。
ふおんっ!
恋の動きを先んじて動いているのなら簡単。
恋の動きについて来れないほどまでに、連続した攻撃をして行けばいいだけのこと。
……でも、それが上手く行かない。
恋の身体、何故か連続した動きに乗りきれない。
一刀の攻撃は怖くない。 攻撃は鋭いけど速くない。
鉄扇と言う変わった武器は、刃先さえ気を付ければ、一刀の力では恋の攻撃を受け止める事も、押し返す事も出来ない。
……でも油断は禁物。
ぐっ、ぐっ
右手の感触を拳を握り直す様にして確かめてから、再び方天画戟を右手を軸に持ち変える。
煙の中から飛び出てきた時の一刀の攻撃、後ろの左右上下から飛んでくる四つの扇子と前からの鉄扇の同時攻撃を囮にして、恋の右腕に軽く添えられた一刀の掌。
たいした力を入れられたように見えなかったのに、ずんっ。とすごい衝撃が来た。
腕を弾き飛ばされたのでもないのに、衝撃だけが通り透けた感触。
あの時から痺れて力が入らなかった右腕の感触が、やっと戻ってきた。
ふっん、ふふぉっん!
なのに当たらない。
そればかりか、両手の感覚が戻ったと言うのに、攻撃がのりきれない。
今のも攻撃がのりきる前に、一刀が足元から蹴り上げた縄が恋の攻撃をほんの僅かだけ邪魔をする。
騎馬の歩みを邪魔するほど散乱したたくさんの物。
戦場には似合わない日常と言える物達。……それが恋を阻む。
まるで一刀の日常を邪魔をするかと言わんばかりに……。
しゅしゅっ!
恋の間合いから脱したと共に、一刀は足元から手にした布を投げつけてくる。
タダの布。でもそれは一刀の手にした時から、立派な獲物へと姿を変えて恋を襲う。
先程は恋の関節を絡ませた。今度は恋の皮膚を裂こうと回転しながら飛翔し……違うっ
ずざざっ
ちっちっ!
恋の方天画戟は、一刀の放った大きな布を四つに引き裂く。
……と同時にその向こうに隠れて飛んできた二つの鋭い物を方天画戟の刃の部分で弾く。
一刀か何度か放ったその得物は、竹か何かで出来ているため、金属のように陽の光で煌めく事も無く、まだ残る煙幕と砂塵の舞うこの場では認識しずらいもの。
殺傷力と言う点では投擲用の小剣に大きく劣るものの、皮膚を裂き、肉を貫き動きを阻害させると言う点においては十分な獲物。
ましてや一刀の放ったそれは、全て急所を狙っていた。決して侮って行けない攻撃。
音々は言っていた。
一刀はおそらく暗器使いだと。
その判断は正しい。………でも間違い。
一刀は暗器を使う訳じゃない。
もちろん得物を暗器として使う訳でもない。
足元を埋めるほどの日用品全てが一刀の獲物。
………ううん、それも違う。
一刀は其処にそれがあるから使っているだけ。
それが縄だったり、竹駕籠だったり、鍋だったりしただけのこと。
脳裏に一瞬浮かぶのは、それらを手にした時の一刀の姿。
それは得物を手にした武人の姿では無く。得物を得物としてでは無く、身体の一部以上とした者だけが得る事の出来る担い手の姿。恋の言う『少し強い人』以上の人が身に付けている姿。
一刀は暗器使いでも、多彩な得物を使っているんでもない。……一刀は『全て』を使う。
「………まだやるの?」
「はぁ……はあ……、当たり前だろ」
だから、まだ何かあるはず。
一刀は何かを狙っている。それが何かは分からない。
でも、一刀の深くて澄んだ目が、確かにそう語っている。
何より、一刀の一挙手一投足が恋の目を離させないでいる。
一刀が新たに手にしたのは鍋蓋。それを恋に投げつけると同時に前に出てくる。
静かな足運びとは裏腹に、早いと思わせる動き。
恋は一刀の投げ付けてきた鍋蓋を軽く払うための動きを、何かが遮り恋の動きを一瞬だけ止める。
まただ。見えない何かが目の前を通り過ぎた。
鍋蓋を放った手とは逆の手が僅かに動きが、それを操っているのだと分かる。
……多分、糸みたいなもの。
……凄く危険なもの。
でも……、本気で使ってきていない。
だって、ぞくぞくしないから。
……だから、
しゅるるるっ。
後ろから聞こえる音に。恋は瞬間的に地面を蹴ると同時に、どう言う訳か戻ってきた鍋蓋が飛来し恋の足を襲う。
この程度の小細工、問題ない。問題は…。
ばっ
「っ!」
そう思った瞬間、息をのむ。
躱したはずの攻撃。でもそれは攻撃では無く行程でしかなかった。
躱したはずの鍋蓋は、日用品と言うがらくたの地面に突き刺さったと同時に、其処に在った鎌をその重さと威力でもって、空高く舞わす。
新たに足を襲い来る鎌を、無理やり腰を捻って躱すものの、姿勢が崩れてしまう。
そこへ…。
かかっ!
かん!
一刀が新たに地面から手にした得物、椅子の足が恋を襲いくるのを、咄嗟に方天画戟の太刀打ちと束の部分で打ち払う。
幾らなんでも素手で受けるのは危険。日用品でしかないもの。その中で日常を象徴する姿から放たれた攻撃は、想像できないくらい馬鹿に出来ない。ましてや目の前の相手は、何をしてくるか分からない。
堅い木でできた四つの足は、四本の棍となって同時に恋を襲い、または拘束しようとする。
でも、その攻撃用途は狭い。室内のような狭い場所でならともかく、広い場所では活かしきれない。
それでも、一刀はその椅子と言う特性を巧みに使う。
一刀の力では捌き切れない恋の攻撃を捌く為に崩れた姿勢を、まさしく足として、時には背として避わすだけでは無く、それを攻撃の手段へと切り替えてくる。
とんっ。
そのなかで何度か僅かに押し当てられる一刀の手。
でもそれだけ。今程度なら恋を害す事は出来ない。
気を付けないといけないのは、その中に混ぜられている一刀の狙っている物の一つ。恋の右腕を痺れさせた攻撃。あれを貰うのは良くない。あれが腕では無く、胴や足だったなら、もう勝負はついていた。
でも、そのおかげで見極めれた。
今のも手を当てられた瞬間、ぞくぞくしなかった。
一刀の攻撃で本当に気を付けないといけないのは三つ。
ぞくぞくした時の攻撃と。さっきの見えない糸のような攻撃。
その二つはもう覚えた。何とかなる。
気になるの三つ目は、一刀の背負っている剣。
鞘に入ったままだから分からないけど、僅かに反っている剣。
一刀はアレを未だに一度も抜いていない。
……つまり、そう言う事。 一刀はまだ本気を出していない。
ううん、一刀は今も十分に本気。
その証拠に肩で息をし始めている。
でも本気じゃない。
……そう、恋と一緒。
本気の本気じゃない。
……でも違う。恋はまだ『少しだけ本気』なだけ。
一刀より余裕がある。だからこのままで勝てる。
だって、一刀は弱いから。
恋の攻撃をこうして凌いでるのが不思議なくらい弱い。
力も、速さも、体力も一刀は無い。
一刀は普通の人。
少しだけ恋と同じ匂いのするだけの普通の人。
だから不思議。
だから興味が沸いた。
でも、負けるわけにはいかない。
恋は、恋の戦う理由があるから。
音々音(陳宮)視点
「第一班、二班は押し込むのです。三班から五班は前線を維持。百を数える間だけでいいのです。踏ん張るのですぞっ! 十班はその間に左翼に応援に入るです」
軍を各部隊ごとに分断されたとは言え、音々のやる事に変わりは無いのです。
現状を打破し、勝利を掴むだけの事。
音々の相手にしているのは、あの天の御遣いを名乗る男が率いていた部隊。
流石は、孫呉の各部隊から精鋭が集められた部隊と噂されるだけあって手ごわいのです。
ですが音々が率いている部隊とて、恋殿が直々に鍛えた兵士達。けっして引けは取らないのですぞ。
「第七班は右翼へ転進っ! 敵の横っ腹を穿つのですっ!」
音々の指示に呼応し、素早く動く味方の部隊に合わせるように動く敵陣形。
くぅ、またです。此方の動きを読んでいたかのような動きに歯噛みするも、感じていた妙な違和感をはっきりと認識できた。
此方の動きに対し、的確に部隊を動かしていながら、どこかぎこちなさを感じるのです。
先程から指示を飛ばしている敵軍の女。情報が確かなら朱然とか言うあの男の副官のはず。ですが、どう見ても実践上がりの兵士にしか見えないのです。
贔屓目に見ても更紗(高順)や真白(?固)に届くとは思えない程度。もっとも、二人よりも頭の中身は詰まっていそうには見えはするのですが、音々の指揮する部隊をこうも的確に対応できるほどには到底見えないのです。
それに、指揮する姿も馴れはしてはいるものの、戦場と言う場を指揮すると言う意味での場数を踏んでいる姿には見えないのです。……となれば、何か裏があると考えるべき。
まったく、こんな所で時間を取られているわけにはいかないと言うのに、忌々しいです。
恋殿はあの男一人を相手にしているうちは心配ないとして、問題は更紗達です。
確実にこの戦に勝つためには、一刻でも早く合流するべきだと言うのに、敵である音々達ばかりか自分達の部隊まで部隊をばらばらにするなどと言う戦術のせの字も知らないような事をしたと思えば、こうして音々の率いる部隊を足止めを見事にして見せる。
まったく虎牢関の時といい、今回といい。あの男のやる事は無茶苦茶なのですぞ。
もっとも、いま目の前の部隊を率いているのはあの男では無く、あの男の部下なのですが……。
落ち着くのです。今は考えるべき時。さきほど感じた違和感を正しいとしたとしたなら、それは何を示しているか?
何かの策を企んでいる? 罠? 増援をまっているのか? それとも何かの合図?
「合図っ!?」
そうです。あのぎこちなさは、何かの指示を待ちながら部隊を指揮している時に出るものに似ているのです。 だとしてもそれらしい指示の声などは無いのです。
目立つ伝令兵など問題外。そもそもそんな物が走り回っている様子が見受けられないとは言わないですが、とても此方の部隊の動きについて行ける間隔ではないですし、そんな程度では。音々の率いる部隊の動きについて行けるわけがないのです。
指示があるのならば伝令兵などの断続型では無く常在型。
だとしても太鼓の音も、銅鑼の音も、牙門旗や他の旗による合図どころか杖などを使った動きもみられないのです。 そもそも、そんな物があったとして、あの女自身がそれらを気にしているような素振りを見せていない。
聞こえてくるものと言えば、剣戟の音や地面を蹴る音、それに怒声や悲鳴と共に聞こえてくる肉や骨を潰し断ち斬る音。あとは戦場と言う場に似合わない七弦琴と二胡の旋律。
別にふざけている訳では無いのです。正直、音々としては神聖な戦場にそんな物が流れるなど認めたくはないのですが、戦場に置いて旋律によって兵士達を鼓舞するのにつかわれるのは古くからある手法なのです。まぁ、大抵は戦の指示に使われる太鼓や銅鑼で奏でる事が多いのですが、文化人を気取る周瑜がいるのならば、十分あり得る事。その証拠に戦場に流れている旋律は琴と二胡には使わない選曲。ですがその腕を見せつけるかのように見事に奏でて魅せているのです。
まったく、このような神聖な場でわざわざ自分の腕を見せつけるなど、悪趣味にも程が………待つのです。
それならば、琴だけで十分なはず。ましてや音楽家として以上に軍師として名を轟かす周瑜ならば、わざわざ戦場で兵士の鼓舞と言う理由だけ琴を奏でると考える方が不自然。むしろ策の一環とし、策に取り込んでいると考える方が自然。
だとしても曲を奏でながら、その中にどうやって指示を混ぜる事が出来ると言うのです?
音楽に関しては畑違いの音々では分からないのです。
ええいっ! 分からないではないのです。
だいたい目の前にいるあの女とて、そんな教養があるようにとても見えぬのです!
それが理解していると言う事は、単純な合図が交ぜられていると見るのです。
聞くのです。そして相手の動きを見るのです。
音々が考えるとおりなら、戦場に流れている忌々しい旋律ではなく合図ならば、音々に理解できぬはずはないのですぞ!
冥琳(周瑜)視点:
弦を指で爪弾きながら視線を戦場から少しだけ外して直ぐ近くの隣へと移した先には、二胡を奏でる張勲の姿。
私の視線に意味に気が付いていたのか、二胡を弾きながらも器用に肩を竦めてみせる。むろん奏で続けている二胡の音には髪の毛一筋程も乱れることはない。
張勲の腕は宮廷楽師にはとても及ばないものの、音に心を傾けれないことはないと言った程度のもの。
もっとも、私がそう思えるだけの腕があると言う事は、宮廷楽師以外では十分に楽師としてやっていける腕を持っていると言う事ではあるがな。
「どうやら見抜かれてしまったようですけど。どうします?」
既に互いに同じ結論をえていると理解している質問を、張勲が態々声に出してくる理由は…、まぁ、周りの者の目と言うのもあるが、見抜かれてしまった小細工を何時まで続けるのかという確認事項でしかない。
現状で出来うる限り最高の兵士を揃えた今回の戦。そのなかで唯一経験の少ない者達が集う部隊。それが北郷隊だ。
むろん、それ相応の戦場に潜り抜けているし、個々の武の腕も選び抜かれた者達ではあるのだが、他の部隊の兵士達の面々が面々ゆえに、どうしても霞んでしまう。今回の思春の部隊にしろ、明命の部隊にしろ、その半数以上はもともとの部隊の中から選び抜かれた者達だが。残りの半数近くは孫呉の旗のもと集う一族の中から更に選び抜かれた者達。
一般兵扱いとは言え、その正体は潜り抜けてきた戦場は祭殿と比べても引けはとらない者であり、中には雪蓮達の母君であられる孫堅様と共に戦場を駆けてきた歴戦の強者達もいる。
確かな経験と実績に支えられた彼等は、一人一人が百人隊長とまではいかなくとも、それに匹敵し得るほどの智勇の持ち主達。そんな者達と比べては、天の御遣いである北郷の親衛隊である事に誇りを持つ朱然達とは言え、些か気の毒と言うもの。
そんな歴戦の兵士達が駆け行く戦場の中で、朱然達にとって護るべき北郷が、何故か呂布と一騎打ちに拘り。その際中となれば、その一騎打ちを邪魔させないのが彼女達の仕事。
とはいえ、幾らなんでも陳宮程の軍師が直接率いる部隊を、彼女達だけで抑えきれと言うのは無茶が過ぎると言うもの。
幾ら幼く見えようとも、短い間とは言え漢王朝の誇る直属の軍の中で第一師団の軍師を務めた程の者。 漢王朝直属の軍。その肩書は決して軽いものでは無い。ましてや第一師団ともなれば、それは漢王朝の力を天下に示す事を第一とする実行部隊。求められるのは絶対的な力であり、幾ら強力な後押しや家柄を幾ら持とうとも、飾りで成れるものでは無い。
朱然達にとって北郷の指示に従うのは当然とはいえ、あくまで北郷を守るのが本分。北郷の剣となり盾となり、必要ならば例え部隊が壊滅しようとも北郷を守りきるのが彼女達の本来の役目。
ただの部隊なら一流の仲間入りしていようとも、天の御遣いの親衛隊としてはまだまだ経験不足と言わざるえない。
そんな限られた条件の中で、北郷が呂布の一騎打ちに集中できるために考えたのは、私と張勲による楽器を使った指揮。兵士達を鼓舞する曲の中に含ませた符号を、耳も良い朱然やその他の小隊長達が聞き分けて動く。
今回のような条件を決めた戦の中では卑怯と言えるかも知れんが、所詮は時間稼ぎの小細工。
伏兵などと言った初歩的な戦術は戦の中では当然の事。それに兵力…条件である人数の事にしても我等の分を最初から含めてある故に問題は無い。
そもそも時間稼ぎの小細工にしかならないと知った上の事でしかないし、仕掛けを見破ったであろう陳宮もそう判断したはず。 互いにそう認知している以上、卑怯だと言われる程の物でも無い。少なくとも陳宮程の軍師ならば苦々しく思いはしても、そう考えるはず。
「符号の型を変えても、たいして時間稼ぎにはならないでしょうね」
そう言いながら、先程までとは違う符号……、旋律を混ぜながら二胡を弾き続ける張勲に、私は苦笑を浮かべる。
我等孫呉に敗北したことにより人権を剥奪され、奴隷の身分へと落とされた張勲は、本来ならば再び戦場の地に立つ事の許されない立場。だが現にこうして立っていられるのは、北郷が今回の策に必要だと言う事で、私の監視下で煩い連中を黙らせただけのこと。文字通り楽器と言う名の道具としてな。……とはいえ張勲自身も今回の事は本望ではあるまい。
以前に彼女が言っていたように、袁術が今の道を歩むと決めた時より、彼女にとって孫呉の政や戦には、関わるべきではないものと言うより、何の興味もないものでしかない。
そんな彼女を動かしたもの。それは彼女の真の主である袁術の主であり、彼女自身の主である北郷の命令ゆえ。
『冥琳と協力して、陳宮の部隊を足止めしておいてほしい。
……ごめん、こんなことお願いすべきじゃないと分かっているんだけど。七乃の力が必要なんだ』
それは北郷の願いでしかないのだが、以前のように私が捻じ曲げた物では無く、まぎれもなく北郷が北郷自身の言葉でもって彼女に望んだ事。
袁術の世話役であり義姉としての張勲ではなく、かつて大将軍と言う地位を得るほどまでの能力を持つ張勲の能力と心を信じて。
北郷の事だ。そんなつもりはなかったであろうが、それは紛れも無く、主が主として臣下を信じて命令を下したも同じ事。
色々と複雑に屈折している彼女とはいえ、それで彼女が動かぬわけがない。
己が主である袁術の臣下としてではなく、北郷の臣下としてな。 その証拠がこれだ。張勲はものの見事に北郷の言葉を寸分たがわず実行してみせた。
私の考えるであろう指示を、僅かな遅れも違いを見せる事も無く、的確に私が出すであろう指示を彼女は私と同時に旋律に乗せてみせた。 可能な限り陳宮を孤立させて足止めする事。と言う北郷の指示通りにな。
そう、張勲は私の思惑とは違う形で張勲の軍師としての力を私に示し、そして北郷の望みを叶えて見せたのだ。自分の軍師としての癖も底を見せる事も無くな。
……これでは苦笑を浮かべざるえまい。
「構わぬ。所詮は時間稼ぎ。次策など必要はあるまい。
そんな事をすれば、北郷の望む此度の戦の意義を無くす事になりかねん」
「………」
そんな私の言葉に、張勲は笑みを崩すどころか、その瞳に僅かな翳りを欠片も見せる事無く、一瞬だけ視界の端に映る二つの人影に視線を送る。
状況は始終北郷が押されているようにしか見えない。雪蓮を始め、我等を武でもって抑え込んだ北郷と言えども、天下無双と謳われる呂布の武には届かないと言う事か。
そもそも、此方の時間稼ぎが切れると言う事は北郷の予想と思惑がずれてきている証でもある。
本来であればこの時点で北郷の意向を棄却し、全軍を動かすべきなのであろう。
北郷への借りを少しでも返せる事もあり、北郷の言葉を信じてこの無茶な策を認めたが、こうなってくれば話は別。 呂布を仲間に出来ればそれに越した事ではないが、北郷を失ってまで手に入れたいものではけっして無い。
だが、張勲の二つの影を追った瞳が、私にそうする事を止まらせる。
表情に覚悟の意志を浮かべている訳ではない。
瞳の奥に確信できる何かがあるわけでもない。
ただ其処に在るだけ。其処に在る何かを信じる事が出来るだけ。
何を? ……分かる訳がない。所詮は人は他人でしかないのだから。
ではなぜ私はそう思う? ………其処にあると理解できるからだ。
何故? どうして? ……ふっ、愚問だったな。
「北郷が心配か?」
「そりゃあ、一応は心配ぐらいはしてあげてますよ。
お嬢様も私も、こうして生きていられるのは、御主人様たる一刀さんが生きて引き取ってくださっているからだと一応は自覚していますからね。
もしも御主人様が、あれだけ大口叩いておいて、あっさりと呂布さんにやられちゃったら、お嬢様を連れて国外にでも逃亡しないといけなくなっちゃいますもの」
予想通り、張勲はいつものように憎まれ口をにこやかな笑みのまま叩いて見せる。
建業の街で深月殿(魯粛)の監視下にいる袁術を連れて逃げる。そんな事は不可能だと理解していながら。
北郷が討ち取られるような事態になったとしても、我等がそんな事をさせるわけがないと理解していて、我等の前でそれを口にしてみせる。 それが意味する事など、考える事も無く判りきった事。
「北郷から何を聞いている」
「別に特段変わった事は聞いていません。
周瑜さん達が知っている事と大差はないと思いますよ」
「………」
ああ、その言葉に嘘は無いのだろう。
ただ、その言葉が全てではないのも事実。
袁家の老人達に飼われ続けながらも、復讐を果たすために薄氷を渡り続けれたほどの人間が、たんに北郷を信じると言う理由だけで自分達の立場……いや、奴隷の身に堕ちてでも手にする事の出来た夢と生き甲斐を危険に晒すとは思えん。
確信できる何かを知っているはず。それは北郷が呂布に勝つための何かでは無い。 北郷が生きて自分達の元に帰ってくる事をな。
その何か。今、私が問い掛けているのはまさに其れだ。
例え、それが取るに足らぬ理由だとしてもだ。
孫呉の総都督として……。この戦を見守り、軍を預かる将の一人として……。
総都督としてならば、孫呉に多くの知識と知恵を齎してくれる天の御遣いを此処で失う危険を冒すべきでは無い。
将としてならば、多大な借りのある天の御遣いに借りを返し、望みを叶えさせるべきなのだろう。
そして、友としてならば………、北郷が何を悩み、何を望んでの事なのかは知らないが、その憂いが晴らせるのならば、望みを叶えさせてやりたい。
……私は理由を欲しているのだろう。
……多くの命を散らすための理由を。
……己が内からでは無く、己が外から。
醜く、惰弱な甘ったれた考えだと唾棄すべきなのかもしれない。
だがそうだとしても、それは私自身が選択した結果なのだ。
例え張勲の言葉が元に選択したとしても、それは紛れも無く私の責任の下で命令が発せられる。
それは理から外れた行動。
軍師としてはあり得ない道筋。
だが時として、それはどんな理に満ちた道筋よりも正しい時がある。
私はそれを孫堅様と雪蓮から、……そして理不尽に満ちたこの世界から学んだ。
今はその時なのだと。張勲の言葉を聞いた上で決めるべきなのだと。
二人の英雄と多くの御霊達によって鍛えられた魂が、そう訴えているのだ。
「……本当に、聞いてませんよ」
私の心を読んだのか、張勲は小さな溜息と共に少しだけ悲しげな表情でそう答え、それでも私が引かないと察したのか話を続けてくれる。
ただ、自分の知っている呂布と陳宮に対する情報全てを話しただけだと。
黄巾党の討伐の時の事や、その前の事まで、彼女達の事について知りえるだけの事を。
それはかつて張勲が袁家の立場と権力を用いて集めた膨大な情報の一つ。
その一つ一つを全て聞いた上で、北郷は小さく呟いたのだと。
思考に熱中する中での無意識な仕草だったのか。……小さく、……聞こえぬ程の声で。
ただ僅かに動いた唇から読み取っただけなのだと。
『……やっぱりか。なら勝てないな』
確かに、そう呟いたのだと。
張勲の短い話から、私の心は静かに湖面のように落ち着いてゆくのが分かる。
ああ……、そう言う事か……と。
確かに、張勲の言うとおり、私が知っている事とさほど変わらない。
取るに足らないと言えるほどの小さな差。
だが、それはとてつもなく大きな差だ。
「伝令っ! 後軍全てに伝達っ!
何時でも突撃をかけれるように準備!
ただし、私の命令があるまでは、絶対に動くなっ!
救護隊を我が隊の直ぐ後ろに待機っ。それと華佗を此処へ。
以上だ。行けっ!」
現状とさほど変わらない指示かもしれない。
だが張勲の話を聞いて、その指示が必要になるかもしれないと直感する。
……ギリギリまで見守るため。
……北郷の想いに応えるため。
私もまた張勲と同じ覚悟を決める。
「これで良いのだな?」
「なんの事です? まぁ私には関係ない事ですから、答えてくれなくても良いですけど」
此方に視線を送る事も無く、そう答える張勲。
ああ、そうだな。あくまで決めるのは私。
北郷の命令を叶え終えた張勲にとって、戦は最早係わりあってはならぬもの。
そんな事をすれば、北郷だけでは無く、袁術にまで危害が及びかねないからだ。
別に張勲に責任を負わせようとしたわけでは無い。
ただの礼でしかない。 私の求む物に応えてくれた事へ。
本心を話したがらぬ張勲が、ほんの少しであろうと、その胸の内を僅かとはいえ明かしてくれた事へ。
少しでも安心できるように……。
たとえ万が一の事が起ころうとも、すぐさま行動できるように。
張勲は信じているのだ。
北郷が必ず戻ってくると。
例え天下無双と謳われる呂布との一騎打ちであろうとも。
それは北郷の持つ武の腕に対してでは無い。
それは北郷の底の知れない天の知識にでは無い。
もっと単純なものであり、大切なもの。
「呂布には敵わない。そう北郷が言ったのならば、北郷は必ず成し遂げる」
「御主人様を信じているんですね」
「……ふっ、そう言う事にしておこう」
誰かの代わりに敢えて口にする。
だが、同時にそれは私の想いでもある。
あの北郷が、けっして敵わないと知っていて、そのままにしておく筈が無い。
どんな手段かは知らぬが、あの呂布に正面から挑んで、出し抜く手段を用意してあるに決まっている。
それを我等に言わなかったのは、我等の((知りえぬ|・・・・))事だからなのだろう。
この世の理を解き明かす天の知識では無い何か。
北郷はそれに賭けているに違いない。……いや、もしかすると、何かを待っているのかもしれない。
知らぬ事ばかり。……そして、理解できぬ事ばかり。
だが、それでも私は足を前に進める事が出来る。
足元も分からぬ暗闇の中へ。
それは月明りも無い暗闇の中で、一歩踏み間違えれば奈落へと崩れ落ちる山の尾根伝いの道のようなもの。
谷底から吹き上げる風に身体が浮き上がりそうになろうとも。
岩肌に草を生やす事も許さぬ強風に、身体を揺らされようとも。
私は己が石の力でもって、確かに足を突き進めれる。
それは、けっして私一人の力ではない。
矮小な一人の人間の器に収まる力ではない。
……多くの魂が導く力。
雪蓮や蓮華様はもちろん、明命も、翡翠も、思春も、此処にいる全ての想いが……。
そんな我等を育て、鍛えてきた先人達の魂と想いが……。
一つ一つは小さくとも、それら全ての魂達と、想いの力の一欠片。それが私の背中を支え、杖となってくれる。
それは力強くもあると同時に、とてつもなく不確かなもの。
だが、それを不思議とは思わない。
当然だ。私は私の意志でもって足を進めたのだ。
つまり、私の背中を押すモノの中には、当然ながら私自身の想いも含まれている。
北郷を信じる事の出来る想い。
それは北郷の武でも、知識にでもない。
そんな程度のものに、私はけっして魂と心を預けたりはしない。
北郷の此処までの窮地においてなおも、私が北郷を信じれらるもの。それは確かに其処にある。
……ああ、そうか。もの凄く簡単な事ではないか。
……初めから、知っていた事。
……あまりにも当たり前すぎて、失念してしまう程のもの。
つづく
説明 | ||
『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。 いつものようにいかない事に戸惑う恋。 相手は弱い。でも油断はできない。 そう感じながらも必死に原因を探す。恋と一刀の戦いの行く末は… 拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。 ※登場人物の口調が可笑しい所が在る事を御了承ください。 |
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コメント | ||
観珪様、最近彼女の出番が多いから少しは視点を減らさないといかないなかなと思ってたり(汗 むろんより良い演出のためにですよ(w(うたまる) 七乃ちゃんがいるとは……ボク歓喜! 一刀くんは何を狙っているのか……それが分からないから次話が気になる…… 恋ちゃんも納得がいく結果になって欲しいものです(神余 雛) mana様、他の視点を織り交ぜつつ、勝負の行方は155話まで焦らしてありますよぉ。 三連休SPで、昨日今日明日と連投しますのでお楽しみに(うたまる) 呂布VS一刀の続き非常に気になります!!(mana) |
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