真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第52話] |
真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜
[第52話]
「ああ……着いてしまった……」
自分の為に用意された天幕の中で((椅子|いす))に座り、((項垂|うなだ))れてそう((呟|つぶや))くボク。
あれほど嫌だって思っていたのに。
この時が来ないで欲しいって、あれほど((渇望|かつぼう))していたのに。
こんなにも早く、その時が来てしまうだなんて。
そんなのって無い、あんまりだ。
そう思いながらボクは、荷馬車に乗せられて街に売られてしまった牛さんのような心境の自分を((慰|なぐさ))めるのでした。
追いつき追い越せと言わんばかりの魏延と北郷との((諍|いさか))いは、それこそ華陽軍の最後尾に位置していた遅れを取り戻すが((如|ごと))く、最先端に((躍|おど))り出るまで続きました。
何故、最先端で止まったかと言えば、単に厳顔が北郷を追いかける魏延の行動を((阻止|そし))してくれた((御蔭|おかげ))であります。
彼女は魏延に対し、曹軍からの客人である楽進の居る前で恥を((晒|さら))すなと((叱|しか))っていました。
ボクは、それを他人事のように横目で見つつ、ニンマリとしているような状態だったのであります。
だって、厳顔に((一矢|いっし))((報|むく))いたみたいな感じがして、とても嬉しかったんですもん。
でも、それを見((咎|とが))めた厳顔は、人の悪そうな笑顔をボクに突き付けて来て『そんなに早く、若が目的地に着きたいのだとは思いませなんだ。それならば((致|いた))し方なし、行軍を早めると致しましょうか』とか言い放ち、すぐさま伝令を劉備と公孫?の両軍に走らせて強行軍で進軍させる事に決定してしまいます。
ボクはそれを((慌|あわ))てて止めようと考えるものの、近くに楽進が居る事を思い出した為に阻止する事が((叶|かない))いません。
だって、魏延に恥を晒すなと叱っている厳顔に対し、主君であるボクが同じ行動を取るわけにもいかなかったからであります。
そうして泣く泣く許可してしまった強行軍で進軍させている間、ボクは後ろに居る自分のお尻を痛がる北郷の悲鳴と、((忌避|きひ))したいと望んでいる曹操との((邂逅|かいこう))の瞬間が((迫|せま))りくる事に、さらに((憂鬱|ゆううつ))に成ってしまったのでありました。
「はあ〜? 何、言ってんだよ刹那。やっとこさ、目的地に着いてくれたんじゃねぇか」
ボクの横の方で自分用のベッドにうつ((伏|ぶ))せ状態の北郷が、そう文句を言ってきました。
彼がうつ伏せ状態で寝っ転がっているのは、単にお尻が痛くて((仰向|あおむ))けで寝れないからってだけの理由です。
今までお尻が痛くて((唸|うな))り声を上げるだけだったのに、ボクの独り言を聞きとがめると途端に文句を言う元気が出てくるって、どういう事でしょうかね、ほんと。
もう少し、傷心のボクを慰めてくれても良いんじゃないでしょうか。
「はっ! ボクは着きたく無かったんだよ。全然! まったく! これっぽっちも、ね!」
「そうかい、そうかい。俺は早く着いて欲しかったね。ほんと、早く着いてくれて良かった、良かった」
「くっ! 何その『自分はもう関係ないもんねぇ〜?』みたいな余裕((綽綽|しゃくしゃく))な態度は! ちょっとは、傷心のボクを((労|いた))わろうって気は起きないもんでしょうかね?!」
「ん〜……? 起きない、起きない。人にイジワルするような刹那くんには、むしろ丁度良いんじゃないでしょうかね〜? いや、ほんと」
余裕の態度でボクの言葉を受け流す北郷。
それがまた、とても憎らしい。
ですが、そんな彼の発する言葉には、合点の行かない事が((含|ふく))まれていた事に気がつきました。
「は? ボクが一刀にイジワルをした? いつ?」
「ああぁ〜? 何すっとぼとけてんだよ。
人が忘れてた尻が痛い事を思いだささせるわ、この世界に居もしない魔王とか魔神がさも存在するかのように言って人をビビらせるわ、やりたい放題じゃねぇか。
さっき((桔梗|ききょう))さんに真面目な話だと言って確認してみたら、そんな事あるわけないって爆笑されたぞ。((大方|おおかた))、誰かをそのように((見做|みな))しているだけだろうってさ。恥かいたじゃねぇか」
「いや、あれはその、冗談というか、さ……ちょっとした、お茶目じゃないか。
それに、ボクにとっては魔王とか魔神と言っても差し支えないんだから、嘘を言ってイジワルをしったてわけでもない。そう勘違いしたのは一刀の方だろう?」
ボクは、しどろもどろに成って弁解をしました。
まさか自分のちょっとした所業が、そのように受け取られているだなんて思いもしなかったからです。
「((比喩|ひゆ))的表現なら、そうだと分かるように言ってくれ。俺はまだ、この世界の事を良く知らないんだからな。
それに、刹那にとってはちょっとしたお茶目かも知れないが、人によってはそう受け取らない事もあるって事は覚えていた方が良いんじゃないでしょうかね?」
よほど腹に((据|す))えかねているのか、北郷はここぞとばかりに言い放ってきました。
しかも、その((言|げん))たるや正論そのものであり、反論の余地がどこにも見出せないと来ています。
ボクはそんな彼の言葉に、ぐうの((音|ね))も出せませんでした。
「ごめん、悪かったよ。そんなつもりは、全然なかったんだ」
「まぁ別に良いさ、もう過ぎた事だからな。でも、これからは気をつけてくれよな?」
ボクは北郷の言葉にうなずく事で返答としました。
「それにしても、刹那は誰の事をそんな風に思っているんだ? 悪魔だ魔神だなんて、((大概|たいがい))にしても((酷|ひど))すぎるだろうに」
「うん……? ああ、それはね――」
「刹那様、失礼します!」
北郷に曹操の事を説明しようとする時、天幕の入り口の布を押し広げて((周泰|しゅうたい))が入室して来ました。
ボクはその為、北郷との会話を切り上げて彼女と相対する事にします。
周泰は、用も無いのにボクの天幕に入って来る事は無いからでした。
「((明命|みんめい))、何かあった?」
「はい。曹軍から先触れがやって来まして、華陽軍の陣内でこれからの事について話し合いをしたいので、広宗攻略に集まって来ている諸侯を招く場を設けて欲しいとの事です。また、事前にその事について詳しい話しをしたいので、すぐにでも訪問して良いだろうかと言っています」
「は? 諸侯を招く場を設けろ? ここに?」
「はい、そう言っていました」
「いや、なんで? ボク達が出向くんじゃないの?」
「分かりません。そうして欲しいとの事でした」
ボクはちょっと疑問に思って、それを周泰に確認してみました。
本来なら、ボク達が広宗攻略の陣頭指揮を取っているまとめ役とも云える人物の陣地に出向くべき。ボク達は((飽|あ))くまで援軍であって、主戦力では無いからです。
順当に行くならば、((冀州|きしゅう))攻略を担当していた((盧植|ろしゅく))の後を継いだ((董卓|とうたく))の所に出向くのが((筋|すじ))。
しかし、その不手際から他の諸侯の援軍を呼ばざるを得なくなった手前、それも難しいと思われる。
であれば当然、官軍でその任に当たる人物は、援軍に((赴|おもむ))いて来た((皇甫嵩|こうほすう))という事に落ち着くはず。
でも、その皇甫嵩と行動を共にしていたであろう曹操が、それを理解しているのにも関わらず、それを実行に移せないでいる。
そういった事情の裏を取りたくて聞いてみたのですが、周泰も詳しい事を説明できないようで、曹軍からの先触れが言った事を繰り返すだけでした。
「あっ、そう。分かった。じゃあ、明命。そのように準備してくれる?」
「いえ。招く天幕事態は、もう既に準備してあります。指揮をとる為の天幕は、刹那様の天幕の次に重要ですから。
その事ではなくてですね……その、刹那様との事前((折衝|せっしょう))をどうするかをお聞きしたくて」
「ああ……そういう事ね。うん、分かった、良いよ。こちら側としても、どうなっているのか事前に知りたい事ではあるしね」
「分かりました。それでは、そのように知らせます」
「うん、ありがとう。よろしくね」
ボクは感謝を表して周泰を労い、彼女が天幕を出て行くのを笑顔で見送る。
「な、なあ、曹軍からの先触れって言ってたよな? やっぱ曹軍ってさ、曹家とかと関係があるのか?」
ボクが周泰を見送リ終わる頃を見計らって、瞳をキラキラさせた表情の北郷が話しかけて来ました。
でも、可愛い女の子がそういう表情をさせるのはアリだと思うのですが、ムサイ男がするのは((如何|いかが))なものかと思います。
そんな北郷にボクは、どうでも良いと言った感じで答えていきました。
「そうだねー、あるかも知れないねー」
「それに、この場所に俺達を連れて来た伝令は確か、楽文謙って言ってたよな?」
「そだねー、そう言ってたねー」
「じゃ、じゃあ。楽文謙を伝令に出した曹軍を統率している人物って、もしかして曹孟徳だったりするのか?!」
何故ハイテンションなのでしょうかね?
ボクは取りも直さず、そう思います。
そりゃあ三国志の主要な人物の一人ですからね、見てみたい気がするのは理解できますけど。
それにしても、ちょっと興奮しすぎじゃないでしょうか。
「なに? そんなに逢いたいの?」
「え? いや、別に?」
「は……? じゃあ、なんでそんなに興奮してるのさ」
「いや、なんでって……曹孟徳だから、か?」
「何それ? そんなんじゃ意味、分かんないから」
「そうだな、俺にも良く分からん。ただ、なんとなくだ」
何をいってるんでしょうかね、彼は。
意味不明すぎるでしょう。
ボクがそう思って((憮然|ぶぜん))としていると、北郷は何かに気づいたとばかりに話しかけてきました。
「ん? ちょっと待てよ。じゃあ、刹那が魔王とか魔神だって言っていた人物って、もしかして……?」
そう言いながら北郷は、応えを要求するが如く視線をボクに合わせてきました。
ボクは舌打ちしたい気分で、彼にその答えを返します。
「そうだよ。そのもしか、だよ」
こっちはなるべく考えないようにしているってのに、なんで避けたい話題を振って来るんでしょうかね、まったく。
「じゃあ、あれか? 曹孟徳って、そんなに凄いご面相って事か? 刹那が魔王だ魔神だって比喩するくらいだから」
「ん? いや、そういう意味じゃない。顔は可愛いと思うよ」
「そうなのか? じゃあ、身体が天を((貫|つらぬ))くほどでかいとか?」
「それも、はずれ。むしろ小さい方だね。人によっては、保護欲を((掻|か))き立てられる感じ? もっとも、ボクはまったく思わないけどね!」
ボクは曹操の容姿を思い浮かべながら北郷に説明します。
彼はボクの言葉を聞き、怪訝げに問いかけて来ました。
「顔が可愛いくて、身体が小さい方? そういう言い方をするって事は、やっぱり曹孟徳も女の子なんだよな? 男なら保護欲を掻き立てられるなんて言わないだろうし。
それならなんで、そんな娘を魔王や魔神なんて比喩するんだよ。可笑しくないか?」
北郷の発言を聞いて納得がいかないボクは、ここぞとばかりに反論していきました。
「性格だよ、性格! 言っただろう? 人の嫌がる事とか弱点を集中的に((抉|えぐ))ってくるんだって。その他の長所を((補|おぎな))って((余|あま))りあるほどの性格の悪さなんだよ!
ボクがいくら逃げても逃げても、追いかけてくるどころか先回りしてその逃げ道を((塞|ふさ))いでくるんだよ?! なんなんだよ、あれ! その頭の良さをボクに向けるな! 他の事に使え! っていうか、むしろボクに((寄|よ))こせって言いたい! よほど建設的に使ってやるからさ!!」
今までの((鬱憤|うっぷん))を晴らすが如く((激昂|げっこう))しながら主張する。
ボクが今まで、彼女にどれほどのイジワルをされた事か!
「どーどー。落ち着け刹那、身体に悪いぞ。
というか、俺に顔を近づけるな、((唾|つば))を吹きかけるな、((汚|きたな))いだろうが」
ボクは北郷の注意を聞いて、自分がいつの間にか椅子から立ち上がって彼の側まで来ている事に気がつきました。
北郷はベッドで横に成りつつ身体を((捩|よじ))って降参するように両手を小さく上げ、これ以上ボクが近づかないように押しやっている。
でも、人を闘牛場に居る牛さんのような猛獣に例えて押しやるというのは、どうかと思います。
「ふんっ! 分かってくれたんなら、それで良いさ」
「そうだな。刹那がどう思っているのかは、良く分かったよ」
ボクは北郷に言い放ちつつ、座っていた椅子の方へ戻って腰かけました。
「ここに諸侯を招く場を設けて欲しい、だ? まったくもう、ボク達が着いて((早々|そうそう))やっかい事を持って来てくれるよね、ほんと。曹操だけにさ!」
「うわっ。なんだよ、そのつまんねぇダジャレ。早々と曹操って、寒すぎだろう。
俺にしたお茶目といい、今のダジャレといい。刹那やっぱお前、冗談のセンス無いわ。やめといた方が良いぞ」
「うっ、うるさいな! ほっといて!!」
ボクも自分で言っといて同じように思わないでも無いでしたが、それを北郷に言われて認めるとなんか負けみたいな感じがして素直に成れませんでした。
「だいたいさ、始めからそういう((心算|つもり))なら、楽文謙を伝令に出した時にでも一緒に伝えてくれれば良かったんだよ。そうすれば二度手間を((省|はぶ))けただけで無く、こっちの準備だって無理なく整うんだから。それを時間差で、しかも寸前に成って知らせて来るなんてさ、性格の悪さが((伺|うかが))えるってもんだよ。ねぇ一刀、そう思わない?」
ボクは照れ隠しと誤魔化しもかねてそう発言し、北郷に同意を求めました。
でも、北郷はボクの言葉を聞いた後、何かを確かめるように問いかけてくるのでした。
「ちなみに聞くけどな、もし楽文謙がその事を先に伝えていたら、刹那はこの場所に来たか?」
「来るわけが無い! だーれが好き好んで、やっかい事なんてしょい込むもんか! なんとでも理由つけて逃げるに決まってるさ! 当たり前でしょうが?!」
「そうだよな。だから曹孟徳は、二度手間にしたんじゃないか?」
「だよね?! だよね?! そうじゃないかな〜? って、ボクも思うもの。だ・か・ら、やなんだよ!
ねぇ一刀、分かる? 分かってくれる、この気持ち? ねぇ、どうなの?! ねぇ!」
「ああ、分かった。良く分かったから刹那、俺に顔を近づけるな! 唾を吹きかけるな! 汚いって言ってるだろうが!!」
ボクは又もや、いつの間にか北郷に詰め寄て語気を荒げながら合意を求めていました。
彼の方も自分に近寄って来るボクを((牽制|けんせい))するべく、ボクの((頬|ほお))を自身の手で押しのけようとしています。
しかし、どちらも一歩も引かず、事態はいつの間にか取っ組み合いに発展しているのでありました。
「どうでも良いから、 とにかく離れろ!」
北郷は業を煮やしたのか、力強くボクを押しやってきました。
ボクもそれで少し冷静に成り、荒げた息を整えます。
「……だいたい、あれだ。そんなんだから、からかわれるんじゃないのか?」
荒げている息を整えていると、そんな言葉を北郷が投げかけてくる。
ボクは北郷の言葉を聞いても、彼が何を言いたいのか理解できませんでした。
「なんだって言うのさ?」
「だから、そうやって過剰に反応するから、からかわれるんじゃないかって言ってるんだよ」
「なに? ボクが悪いって言うの?」
「そんな事、言ってねぇよ。ただな……あーあれだ、可愛い女の子を見ると、男って気を引きたくてちょっかいかける事ってあるだろう? それと同じだって言ってるんだよ。刹那が過剰に反応しなければ、向こうもいづれ矛を収めてくるだろうさ」
ボクは北郷の説明を聞き、それこそ認められないと勢いづく。
何故ならば、ボクはこう見えてもれっきとした男子であり、曹操は性格が悪いと云えども女性だからです。
北郷の言い分ではまるで、ボクが女の子みたいではないですか。
そんな事は認められません。ええ、そんな事を認めては男が((廃|すた))りますよ!
「なっ、何やってんだよ、刹那?!」
北郷はボクの行動を見て、驚きの声を上げました。
「何って、見れば分かるだろう? 鎧を脱いで、上着の前をはだけているだけだよ」
「だけって……そんな事、今する必要ないだろうが!」
鎧を脱ぎ、続いて着ている服の前をはだけて肌をさらしたボクに北郷が文句を言ってきます。
ボクはそんな北郷に、当たり前の行動をしていると告げつつ彼に良く見えるように覆いかぶさっていきました。
「何、言ってるのさ。一刀がボクを女の子みたいっだて言ったんじゃないか。だから、ボクが女じゃないって事を証明してるんだよ。ほら、ちゃんと良く見て! ボクは男でしょ!」
「例えだろうが! た・と・え! だれも、刹那の性別を疑っちゃいねぇよ! っていうか、こっちくんな! 離れろ!」
「じゃあ一刀は、ボクが男だってちゃんと認めるんだね?」
「ああ、認める! 認めるから、早く離れろ! 服を整えろ! こんな事、誰かに見られたりでもしたらどうする! また、要らぬ疑いがかけられるだろうが!!」
「ご主人様、失礼します」
ボクと北郷が取っ組み合って言い合いをしていると、入室の((挨拶|あいさつ))をしながら諸葛亮が天幕に入って来ました。
「あの、明命さんから聞いたんですけど、曹孟徳さんが――って、はうわ?!」
「あ、((朱里|しゅり))……って、どしたの? なんか、顔が真っ赤だけど?」
諸葛亮が何故か大声を上げたので、ボクは彼女が入室した事を知る。
だから、声のした方へと視線を向けたのですが、その時に見て取れたのは何故か次第に顔色を真っ赤にして((唖然|あぜん))としている彼女の姿。
「あっ、あの、しょの……しゅっ、しゅっ、しゅつれいしゅましゅた! ごゆっくり、どうじょ!!」
諸葛亮は何故か言葉を噛みながら勢い良くお辞儀をして、そのまま用件を告げずに天幕から((颯爽|さっそう))と出て行ってしまいました。
台風一過とは、こういう事を云うのでしょうかね?
でも、なんかモヤモヤして晴れ渡った気分にも成らないし、違いますよね。
ボクは諸葛亮が何をしたかったのか、まったく意味が分かりませんでした。
「どうかしたのかな? 彼女」
ボクは誰に語りかけるでもなく、そう呟きます。
そこに憮然とした態度の北郷が、何やら話しかけてきました。
「あのなぁ、刹那。今、俺はどんな格好をしている?」
「今……? ベッドで横に成っているよね?」
ボクは自分の下に居る北郷を見ながら、そう告げます。
「そうだな。では次に刹那、お前はどうしている?」
「え? ボク? ……ベッドで横に成っている一刀に覆いかぶさっている、かな?」
ボクは自分自身の格好を振り返りながら、再びそう告げました。
「そうだな。では、ここで問題だ。今の俺達の格好を客観的に見た場合、どんな事を連想する?」
「客観的に……?」
ボクは北郷の問題提示を自分の頭を使って考えてみる事にします。
考える、考える……
ポクッ、ポクッ、ポクッ、チーン!
((閃|ひらめ))いた!
「ああ、なるほど! ボク達が(ピー)してるって思うよね、きっと!
そうか。それで朱里は、あんなに顔を真っ赤にして慌てて出て行ったんだね。なーんだ――って、うそぉおおお?!」
閃いた事を冷静に北郷へと語っている最中に、ボクは事の重要性に気がついて大声を上げてしまいます。
それは、((只|ただ))でさえボク達の関係が疑われているところに、目的地に着いて天幕が用意された早々に(ピー)しているだなんて事を彼女の口から他の諸将に告げられてしまうと、((惨事|さんじ))以外の何物も起こりえない事が想像に難くないからでありました。
「嘘なもんか。どうすんだよ、これ。こんな事、((焔耶|えんや))に話されたりしてみろ。今度こそ俺、殺されるだろうが」
大声を上げて慌てているボクに、((半|なか))ば諦めの境地なでしょうか、北郷は冷静に話しかけて来ました。
「いや、でも、その前に朱里の誤解を解けば――」
ボクは北郷の言葉を受け、それを回避する為の方策を話そうとしました。
しかし、それを話そうとする前に、天幕の外で『ほんごぉおおお!!』という、それはそれはもの凄い怒気を含んだ魏延の大声が鳴り響き渡ります。
そんな大声を聞き、ボクは自分の考えが遅きに失した事を理解せざるを得ませんでした。
いくら((報告|ほう))・((連絡|れん))・((相談|そう))が組織に欠かせない事であるとは云え、あまりにも事が((露見|ろけん))するのが早すぎる。
組織として健全である事を喜べば良いのか、不都合な事実が露見した事を((嘆|なげ))けば良いのか、ボクは良く分からなく成ってしまいました。
(朱里さんや……早い、早いよ……)
そう心の中でツッコミを入れつつ泣いている間にも、次第に大きく成っていく地響き。
それはまるで、首つりという死刑執行をする為の階段を少しづつ登っているようなものであると感じられた。
「な、なぁ、刹那?」
「なんだい……?」
北郷の震えるような問いかけを聞き、ボクは下に視線を向けて彼に返答します。
その時に見て取れた北郷の顔色は、とても真っ青。もはや、一刻の((猶予|ゆうよ))も無いといった感じでした。
「こんな時、どんな顔をすれば良いんだろうな。俺、良く分からないんだ……」
そんな北郷の言葉を聞いて、彼はこれから自分が((辿|たど))るであろう運命を思って助言を求めているのだと思われた。
ボクはそんな北郷の心情を((慮|おもんばか))り、ちょっと間を置いてからただ一言、こう述べる。
――笑えば良いと思うよ、と。
だってボクには、それしか思い浮かばなかったんですもん。
「はは……そうだよな……笑うしかないよな、こんな時は……はは、ははは……」
北郷はボクの助言を聞いて同意を示し、口角を引きつらせつつ乾いた笑い声を上げました。
そんな彼の悲痛な笑い声を聞きながら、ボクはこれから来るであろう台風の暴風雨に備えます。
備えたからといって、どうにか出来るなどとは思えません。
ですが、そう対処するしか((術|すべ))が無かったのでありました。
こういう時は、慌てた方が負けだと思いながら……
今日の天気予報。
今日は一日中、台風が吹き荒れるお天気に成るでしょう。
所により血の雨が流れるかも知れませんので、ご注意下さい。
((南無|なーむー))――
説明 | ||
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。 皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。 でも、どうなるのか分からない。 涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。 『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。 *この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。 |
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コメント | ||
nakuさん、コメントありがとう。とんでも御座いません。失礼なんかじゃないです。次話で、それとなく触れられるようにしてみます。良いアイデアをありがとう御座います。(愛感謝) nakuさん、コメントありがとう。なるほど、そういう考えもあるわけですね。私、言いつけるという意味では無くて、驚愕したあまりに誰かに相談したという感じのつもりでした。文章力が足らず、表現力が乏しかったみたいです。(愛感謝) 読んで下さって、ありがとう御座いました。(愛感謝) |
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