ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長
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 story29 対決!神威女学園!

 

 

 

 

 そうして時間は過ぎて神威女学園との試合の日。

 

 

 

 

「うわぁ・・・・」

 

 武部は周囲を見回して思わず声を漏らす。

 

 今回の試合会場は今までの試合会場と違い、高度が高い山場での試合となる。サンダースと行った試合会場に似た光景だが、ハッキリ言ってド田舎。

 それ故なのか、遠くが見えない程度の浅い霧(というか雲?)が漂っている。

 

「今までとは違って天候は良くないか」

 

「そうですね」

 

 如月と西住は周囲を見渡す。

 

「向こうは今まで夜の間に試合を行っていたようだが、今回は山場で霧、と言うか雲か。

 こいつは今までとは異なる戦法が必要になるな」

 

「そうですね」

 

 

「うーん!ワタシタチの初陣ネー!」

 

 と、パンツァージャケットを身に纏う金剛は背伸びをして周囲を見渡す。

 

「私たちの力を見せる時です!!」

 

「ネットで鍛えた射撃の腕を見せる時!」

 

「一丸となった私たちの力、今こそ見せる時!」

 

 開始前から艦部のメンバーはやる気満々でいた。

 

「士気旺盛な連中で助かったな」

 

「は、はい」

 

 西住は苦笑いする。

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 その頃近くで園と風紀員は緊張してガチガチな状態だった。

 しかし風紀員の髪型は若干違えど同じなせいで、メンバー全員を見た時はさすがの私も笑いそうになった。

 

「あの、初めての試合ですが、頑張りましょう」

 

「わ、分かってるわよ」

 

 ハッとして園は答える。

 

「分からない事があれば無線で伝えろ。沙織を通して教えてやる、そど子」

 

 西住の後ろで冷泉が口を開く。

 

「!だからその名前で呼ばないでよ!!私の名前は園みどり子よ!!」

 

「分かった、そど子」

 

「全然分かってないじゃないの!!」

 

 そんな様子を見て、私は思わず笑みを浮かべる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 しばらくして試合開始直前になり、大洗女子学園と神威女学園の各戦車長が並んで整列する。

 

「・・・・・・」

 

 神威女学園のパンツァージャケットは旧日本陸軍の戦闘服を思わせる物で、パンツァージャケットとしては珍しくスカートではなく全員ズボンであり、横にビラビラが付いたタイプの略帽やそれが無いタイプの略帽を被っている者もあれば、白い鉢巻を巻いている者も居る。

 

 その中央には、パンツァージャケットに身に包み、ビラビラが付いてない方の略帽を被っている早乙女が立っている。

 

「それでは、隊長、副隊長前へ!」

 

 審判員の声に西住と私が前に出ると、神威女学園より早乙女と隣にいた生徒が前に出て一定の距離を空けて止まる。

 

 

「・・・・久しぶりね、西住みほ」

 

「は、はい」

 

 いきなりの挨拶に戸惑うも、西住はすぐに頭を下げる。

 

「こうしてあなたとまた戦う日が来るとは、何があるか分からないものね」

 

「・・・・・・」

 

「互いに全力で戦いましょう」

 

「は、はい」

 

「・・・・あぁ」

 

 

「それでは!一同!礼!!」

 

『よろしくお願いします!!』

 

 全員一斉に頭を下げて挨拶をする。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 その後如月たちは戦車に戻り、試合開始を待つ。

 

「今回は視界が悪い中で試合を行います。いつどこから砲撃が来るか分からないので、周囲を警戒しつつ前進します!」

 

 西住は開始前に改めて内容を確認する。

 

「神威女学園はサンダースやアンツィオとは行かないほど錬度が高い学校です。ですが、何事にも落ち着いて対処してください」

 

『はい!!』

『Yes!!』

『おうよ!!』

「了解」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「各員に告ぐ」

 

 その頃離れた場所で待機している神威女学園の戦車隊の中央にある白いティーガーのキューポラから身体を出している神楽は首の咽喉マイクに手を当てて通信を送る。

 

「今回の相手は初めて戦うが、あの西住流の妹が指揮している。決して油断はするな」

 

『了解!』

 

「手発通り、まずはα、γが接敵。残りは所定の位置で待機。その後指示を出し、移動だ」

 

 通信を終え、神楽は車内に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

『試合開始!!』

 

 と、試合開始のアナウンスと開始合図の照明弾が上がる。

 とは言っても霧のせいで音だけしか確認出来ないが・・・・。

 

 

「パンツァーフォー!!」の西住の掛け声と共に大洗の戦車が一斉に前進する。

 

 

 

 

(早乙女神楽・・・・。早乙女流の基本戦術と本質は理解しているが、それでも全てじゃない)

 

 内心で考えながらも、砲弾ラックより砲弾を取り出して装弾機に乗せ、砲尾のスイッチを押して薬室に装填する。

 

(早乙女流は撹乱戦法を得意とするが、それも毎回同じとは限らない。今回に限って別の戦法で攻める可能性もある)

 

 頭の中で色んな考えが交差するも、今考えても仕方が無いので頭を振って振り払う。

 

 

 

「西住。今回はどう出る?」

 

『はい。早乙女流の戦術はある程度は分かりますが、それでも不十分です』

 

「新たに戦法を変えてくる、と言う事もあるか」

 

 西住も同じ考えか。

 

『そうですね。それに加え相手の戦車の構成が分からなければ、どう相手が動くかも分かりません。

 なので、今回はこちらからは攻めず、相手の出方を見て行動します』

 

「分かった」

 

 

 

『皆さん。このまま100メートル進んだ所で停止してください。アヒルさんチーム、タカさんチームは偵察に向かってください』

 

『了解です!』

 

『了解ネー!』

 

 

 戦車隊は100メートル進んだ先にある車高がそこそこ低い戦車なら隠れられる丘の麓で停止し、八九式と九七式は左右に分かれて進み続けて丘の上で停車する。

 

 

 

「それにしても、相手はどう出るんでしょうか」

 

 早瀬は操縦席の背もたれにもたれかかって待機している。

 

「想像が付かんな」

 

 キューポラハッチを開けて上半身を外に出し、外の様子を確認する。

 今回のフラッグ車は四式が担っている。

 

 さっきより霧が少し濃くなっており、推定150メートル先は全く見えず、100メートルでギリギリ見えるかそのぐらい。

 

(ここまで霧が張るのは珍しいな)

 

 まぁ場所は今までより標高は高い方だが、それでもここまで霧が張るのは中々無い。

 

「そもそも相手の戦車の構成すら、白いティーガー以外は全く分からないんだ。どんな戦車の構成でどんな戦法を取るかすら見当が付かん」

 

「そうですよね」

 

「・・・・・・」

 

 

 

『こちらアヒルチーム。霧のせいで遠くが殆ど見えません』

 

『タカチームも同じネー。見える範囲デハ何も見えないデス』

 

 偵察に向かったアヒルチームとタカチームより通信が入ってくる。

 

「分かりました。一旦戻ってきてください」

 

 と、丘の上に居る八九式と九七式が下りて来る。

 

「それでどうする、西住。この霧では、あいつら闇討ちをする可能性がある」

 

 全く前が見えない程の霧の濃さではないが、視界は通常の半分ぐらい遮られている。

 それでも不意打ちをする為に隠れるのには十分である。

 

「そうですね。でも、周囲を警戒しつつ、このままゆっくり前進します」

 

「了解した」

 

 如月は車内に戻り、戦車隊はそのまま丘を登って前進を再開する。

 

 

 

「・・・・向こうはこちらの動きに気付いていると思いますか?」

 

 ギアを一段上げながら早瀬が聞いてくる。

 

「偵察隊は恐らく居る。気付いているのなら部隊を展開しているか。それとも闇討ちをする為に移動を開始しているか」

 

 色々と憶測があるも、考えた所でどうしようもない。

 

「待ち伏せ、って事も?」

 

「恐らくな」

 

「・・・・・・」

 

「どちらにしても、今は―――――」

 

 

 

 しばらく行進して浅い窪地に入った瞬間、突然M3の近くに砲弾が着弾する。

 

「っ!」

 

『敵襲です!各車警戒!!』

 

 西住の通信で各戦車はフラッグ車を守る様に陣形を形成してルノーが四式の前に動く。

 

 すると霧の向こうより足の速い戦車が二輌こちらにやってくる。

 

「あれは!『M18ヘルキャット』と『M24チャーフィー』です!」

 

「オープントップ戦車!?ってかあれって参加しても良いの!?」

 

「いや、連盟側が提示した改造を施せば、オープントップ戦車でも参加は出来るようになっている」

 

「・・・・・・」

 

 よく見ればヘルキャットの砲塔上部は蓋とキューポラが増設されていた。

 なので他の戦車と何の変わりはないようになっている。

 

「だが、どっちにしても足の速い強行偵察隊だ。砲撃始め!」

 

 如月の号令と共に五式の主砲と副砲より砲弾が放たれると他の戦車からも砲弾が次々と放たれるも、ヘルキャットとチャーフィーは左右に分かれて回避する。

 

 そのまま大洗の戦車の周囲を周回しながら砲塔をこちらに向け、チャーフィーが砲弾を放ち、五式の砲塔側面を掠る。

 

「ちっ!」

 

 砲弾が弾かれる音を聞きながら砲弾を装弾機に乗せ、砲尾のスイッチを押して薬室へと装填するとすぐに砲弾ラックより砲弾を取り出して抱える。

 

 

 

 ヘルキャットが砲塔を向けて砲弾を放ち、四式の砲塔側面に着弾するも、角度が急すぎる故に弾かれる。

 

「しゃらくせぇぇぇ!!」

 

 砲塔側面に搭載されている九七式車載重機関銃を取り外して手にし、二階堂はキューポラハッチを開けて上半身を出して機銃をキューポラのマウントに置いてコッキングハンドルを引き、ヘルキャットに向けて機関銃を放つ。

 

「紙装甲の猫なんぞこれで十分だ!!」

 

 二階堂は空になったマガジンを外し、車内に戻ってマガジンを取って機関銃に装填してコッキングハンドルを引き、再度引き金を引いて弾丸をヘルキャットに向けて放つ。

 

「っ!」

 

 直後に青嶋が引き金を引き、四式の主砲より砲弾が放たれるも、ヘルキャットの近くに着弾する。

 

「やべっ!?」

 

 二階堂はすぐに車内に戻るとチャーフィーが主砲を向けて砲弾を放ち、四式に着弾するも弾かれる。

 

 

 

「っ!みなさん!あまり気を取られないでください!これは陽動です!」

 

 と、西住が言った瞬間にチャーフィーとヘルキャットに気を取られていた三式とルノー、八九式の近くに砲弾が着弾する。

 

「っ!」

 

 すぐにキューポラの覗き窓を覗くと、森の近くに三輌の戦車がこちらに砲を向けている。

 

「あれは!『W号突撃砲』に『チャーチル・ガン・キャリアー』、そして『ARL V39』です!若干マイナーな戦車ばかりですよ!!」

 

 秋山はマイナーかつレアな戦車を目の当たりにして興奮し、眼を輝かせながら叫ぶ。

 

「ゆかりーん。こんな時に興奮しなくても・・・・」

 

 呆れている間にも三輌の駆逐戦車と周りを周回している二輌より次々と砲弾が放たれて大洗の戦車の近くに次々と着弾する。 

 

 

 

「何て砲撃戦!」

 

「ヒェェェェェェ!?」

 

 九七式の近くで砲弾が次々と着弾し、車内では慌てた様子が窺える。

 

「落ち着いてくだサーイ!この程度ではワタシたちを止められないネー!」

 

 金剛は気持ちを保ち、士気を高めようとする。

 

「主砲照準・・・・Fire!!」

 

「了解!」

 

 合図と共に霧島は引き金を引き、主砲より砲弾が放たれるも、前方の三輌は後ろに下がって砲弾をかわすと再度前に出るとすぐに砲撃を再開する。

 

 

 

 

「くっ!気を取られている間に前方からの砲撃か!」

 

 砲弾を薬室に装填させると、直後に轟音と共に砲弾が放たれるも、ARL V39の曲面装甲に着弾して弾かれる。

 

 更に周回し続けているチャーフィーとヘルキャットの主砲より砲弾が放たれてルノーの正面装甲やW号の砲塔側面に直撃するも弾かれる。

 

「えぇい!!このままやられっぱなしに行くか!!」

 

 V突の主砲より砲弾が放たれ、一直線に飛んでいくとその先にヘルキャットが入り、通り過ぎようとした所を砲弾が後ろ側の両方の履帯を吹き飛ばした。

 それによってヘルキャットは地面を削りながら停止する。

 

「もらった!」

 

 と、M3の主砲より砲弾が放たれるも、その直後にチャーフィーが勢いよく走り出してヘルキャットの後ろから追突してそのままヘルキャットを押し、砲弾はチャーフィーの砲塔後部に着弾するも撃破には至らない。

 

 すると前方に居るW突とチャーチル・ガン・キャリアーがM3に向けて砲撃してきて、M3はとっさに後退してかわす。

 その間にチャーフィーはヘルキャットを強引に押していく。

 

「何て無茶な。共倒れするかもしれないって言うのに」

 

「・・・・・・」

 

 早瀬と坂本はその光景に驚きを隠せれなかった。

 

「・・・・あれが早乙女流の真髄だ」

 

「早乙女流の・・・・」

 

「決して仲間を見捨てない。それがどんなに危険な状況でもな」

 

 するとヘルキャットとチャーフィーは森の中へと姿を消し、その直後に別の二輌の戦車が姿を現すと、一両は主砲を、もう一両は主砲と副砲を放ってくる。

 

「今度は『ノイバウファールツォイク』に『W号シュマートルム』!?あれかなりレアな戦車じゃん!?」

 

 坂本が驚いている間に、反対側より砲弾が飛んできて五式の近くに着弾する。

 

「っ!」

 

 とっさに反対側を見ると、一両の戦車が主砲を上げ下げして砲弾を放ち、V突の近くに着弾させる。

 

「『T14』だと」

 

「戦車の国籍がバラバラですね。人の事言えないけど・・・・」

 

 

 

「いや、それ以前に、囲まれてるな」

 

「っ!?」

 

 私が言うと他のメンバーがハッとする。

 

 前方と左右を神威女学園の戦車が囲んで砲撃を続けている。

 

「西住!このままではこちらが不利だ!一旦ここから撤退するぞ!」

 

『りょ、了解です!全車後退!!』

 

 如月の合図と共に戦車は後方へと後退し始めるが、その瞬間四式と三式の近くで巨大な砂柱が上がる。

 

「っ!」

 

 如月は後ろを向いてキューポラの覗き窓を覗くと、後ろには一両の戦車がこちらに主砲を向けている。

 

 戦車にしては平べったく、まるで這うような感じで、その中央に極太の主砲を持っている。

 

「まさか・・・・『T28』だと!?」

 

「あんな戦車まであるんですか!?」

 

 坂本は驚きの声を上げ、その間にも前方と左右より次々と砲撃が飛んでくる。

 

 

(くそっ!周回して気を逸らし、その後前方からの砲撃。更に左右からの砲撃。仕上げに重駆逐戦車で後ろを塞ぐ・・・・。

 早乙女流の得意な撹乱戦法に一加えした戦術で来たか!)

 

 このままではやられるのも時間の問題。とっさに覗き窓を覗いて周囲を見渡す。

 

 

「っ!西住!11時の方向が手薄だ!そこから一気に離脱するぞ!」

 

 キューポラの覗き窓から周囲を見回していると、包囲網の中に手薄な箇所があった。

 

『分かりました!!皆さん!11時の方向が手薄です!!そこから一気に離脱します!』

 

 西住の通信と共に、五式が先頭を走り、砲撃の中を大洗の戦車は一気に包囲網脱出を試みる。

 その内のW号シュマートルムが放った砲弾が八九式の砲塔後部の機銃の銃身を根元から叩き折り、T14の放った砲弾が三式の砲塔天板に着弾するも運よく弾く。

 

 そのまま大洗の戦車は霧の中へと入ってその場から離れていく。

 

 

 包囲網部隊は慌てる様子も無く、ゆっくりと大洗の戦車の追撃を始める―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――なぜならば、ここまでは予定通りに事が進んでいるからだ。

 

 

 

 

 

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「始まってすぐに激戦ですね」

 

「そうね」

 

「えぇ」

 

 その頃、観覧席より離れた場所に、聖グロリアーナのダージリン、オレンジペコ、セシアがソファーに座り、紅茶を飲んでいる。

 

「それにしても、相変わらず早乙女流と言うのは危険と隣り合わせですわね。戦術は確かに凄いですが、下手すれば共倒れもありうると言うのに」

 

「でも、それだからこそ彼女は勝ち続けているのよ。去年の大進撃をあなたも見たでしょ」

 

「そうでしたわね。西住流とは違う強さ、という所ですわね」

 

 そう言ってセシアはカップを上げて紅茶を飲む。

 

 

「しかし、早乙女流の高度な戦略の前では、大洗もさすがにお手上げでは・・・・」

 

 

 

「in the middle of difficulty lies opportunity」

 

 と、セシアが英語で呟いた。

 

「困難の中でも、機会はある。とある有名な学者の言葉ですわね」

 

「えぇ」

 

「・・・・つまり?」

 

「例え戦況が困難を極めたとあっても、戦況をひっくり返す機会はある」

 

 と、セシアはモニターに映る撤退中の大洗の戦車の先頭を走る五式を見る。

 

「今度はあの五式の車長・・・・如月さんはどう言った戦法を取るつもりかしら」

 

「あら、あなたが興味を示すなんて。よほどあの時の戦闘で印象付けられたのね」

 

「えぇ。それに、どこかで見たような顔と疑問に思っていましたが・・・・そうでしたわね」

 

 カップを左手に持つ受け皿に置く。

 

「早乙女流師範に・・・・似ていますわね」

 

「そうかしら?わたくしは斑鳩流の人に似ていると思いましたわよ?」

 

「あんな野蛮な流派の方とは、違いますわ」

 

「根拠はあるの?」

 

「・・・・何となく、ならね」

 

「・・・・・・」

 

 話についていけず、オレンジペコは首を傾げる。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「何とか、脱出できましたね」

 

「あぁ」

 

 何とか一輌も失わずに包囲網を脱出した如月達は平地を突き進む。

 

「しかし、なんかレアな戦車があったと思えば、物凄い戦車までありましたね」

 

「T28が居たなんて、誰も予想しませんよ」

 

「まぁね。さすがに五式じゃあれ相手は無理だよ」

 

 早瀬が呟くと、鈴野も続く。

 

 

「でも、いきなりあれだけの戦力を投入してくるなんて、まるでサンダースの様に待ち伏せをしていたようにも思えますね」

 

「じゃぁ、向こうも無線傍受を?」

 

「それは決してありえない」

 

 如月は覗き窓から周囲を見回しながら坂本の言葉を否定する。

 

「早乙女流は、卑怯な手は一切使わない。高度な戦術の元、正々堂々と戦う」

 

「・・・・・・」

 

「だが、まさかとは思うが――――」

 

 一瞬如月の表情に焦りの色が浮かぶ。

 

「・・・・・・」

 

 鈴野は如月の表情に不安を覚える。

 

 

 

「西住。お前は気付いているか?」

 

『・・・・たぶん、如月さんと同じ考えです』

 

 西住の声には緊張の色があった。

 

『先ほどの包囲していた戦車の数は・・・・全部で九両です』

 

「やっぱりな。あの包囲網には白虎は居なかった」

 

『・・・・・・』

 

「それに僅かに目立つ包囲網の穴・・・・」

 

 包囲網の薄い所から離脱するのは定石だが、あの時では状況に違和感がある。

 一瞬空いていた後方に隙間を埋めるかのように現れたT28。唯一薄かったのは11時の方向のみ。目立ちにくいも、どこか違和感のある開き方だ。

 

 

『みなさん。包囲網を突破したからと言っても、警戒を緩めないでください。相手は更に行動を起こします』

 

 緊張の色の声で西住がいい、メンバーに緊張が走る。

 

『恐らく向こうは何らかの意図があって、包囲網にわざと抜け道を作り、ここに我々を移動させたと推測されます』

 

(私とほぼ同じ考えだな。さすがだ)

 

『白虎が確認されていない以上、このまま固まって動くのは白虎にまとめて撃破される恐れがあります。かと言って進行を遅れさせると追手に追い付かれてむしろ状況は悪くなります』

 

「・・・・・・」

 

 

 

『これより、「隠れんぼ作戦」を開始します!!』

 

「か、隠れんぼ?」

 

 今一想像が付かないな。と言うか、今この場で考えたのか。

 

『二チーム一組となって、バラバラに行動してください。事前に用意した発煙筒を用いて相手を撹乱し、各個撃破をお願いします!』

 

「この霧を利用するのか」

 

 霧の濃さはさっきより濃いので、そこに発炎筒となれば視界はかなり遮られる。

 こちらにもデメリットはあるが、それは向こうも同じ。

 

 霧の中に隠れて各個撃破と言う事か。

 

(これが吉と凶と出るか・・・・。分の悪い賭けだが、嫌いではない)

 

 

『我々あんこうチームはクマさんチームと組み、ネズミさんチームはカメさんチームと組み、私達と行動を共にしてください。カバさんチームはアヒルチームと、カモさんチームはウサギさんチームと、アリクイさんチームはタカさんチームと行動してください』

 

『了解!』

『おうよ!』

『Yes!!』

 

『みなさんの健闘を祈ります!』

 

 そうしてみんなはそれぞれ二輌一組になり、規則性は無くバラバラに散らばる。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 W号と五式、四式、38tが通り過ぎた後、濃い霧が漂う森の中よりゆっくりとまるで幽霊の如く白いティーガーが姿を現す。

 

(ヘルキャットの動きを止めたのは少し想定外だったけど、ここに来たまでは読み通り)

 

 車内で腕を組み、頭の中で状況を整理し、予測戦術を立てていく。

 

(でも、ここでバラバラになって行動するとなれば、少し修正の必要があるわね)

 

 試合前に立てていた戦術に先ほど整理した予測戦術の概要を取り入れて修正を加える。

 

「各車。敵車輌の動きに注意を払いつつ行進し、二輌一組担ってバラバラに行動し、敵車輌を足止めをしろ」

 

 そうして腕組みを解き、如月が向かって行った方を見る。

 

(さて、ここからどう動く、翔)

 

 ゆっくりと、大きな音を立てずに白いティーガーは前進してその後を追って霧の中に溶け込むように姿を消す。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 バラバラになって共に行動しているアリクイチームとタカチームは森の中で身を潜める。

 

 既に数本アリクイチームとタカチームは発煙筒を焚いているので真っ白になっている。

 

「さてと、敵はどう出るカナ」

 

 キューポラの覗き窓を覗き、金剛は周囲を見渡す。

 

「榛名。サポートお願いしますネ」

 

「お任せください!」

 

 榛名の手には発煙筒がいくつも握られている。

 

「比叡。ワレワレの命運はあなたに掛かってマス。回避行動を機敏にお願いしますネ」

 

「はい!必ずや敵の砲弾をかわして見せます!」

 

 後ろを振り向き、少し顔色が良くなって両手を握り締める。

 

「霧島。可能な限り弾をHITさせてクダサイネ」

 

「お任せください。必ずや命中させて見せます」

 

 クイッとメガネの縁を持って上げる。

 

「アリクイチームの皆さんも、やられないでクダサイネ。これはOrdereです!」

 

『了解です!』

 

 金剛はキューポラの覗き窓を覗き、目を凝らして見張る。

 

 

 

「っ!」

 

 と、真っ白な視界の中、九七式と三式の近くにARL V39とノイバウファールツォイクが並行して森の中を進んでいた。

 

「来ましたネー。Plan通りに動いてください!」

 

 金剛は榛名より発煙筒を受け取り、キューポラハッチを開けて上半身を外に出す。

 

 

 

「Fire!!」

 

 合図と共に九七式と三式の主砲より砲弾が放たれ、ノイバウファールツォイクの側面に着弾し、三式が放った砲弾が主砲の上にある副砲を吹き飛ばす。

 直後に発煙筒の先端を回して勢いよく前へと投擲し、二輌の間に落ちて更に白煙が出て周囲を包み込む。

 

「Let`s GO!!」

 

 一気に二輌は走り出し、九七式と三式が砲弾をノイバウファールツォイクに向けて放つが、とっさにARL V39が前に出て曲面装甲で砲弾を弾き、主砲を放つ。

 九七式の近くに着弾するも、比叡はバランスを保ち、霧島は狙いを定めて引き金を引き、砲弾を放ってノイバウファールツォイクの砲塔に直撃させる。

 

 

 ノイバウファールツォイクは九七式に主砲を向けようとするが、その間に三式は後ろに回り込み、砲弾を放ってノイバウファールツォイクの車体後部に着弾させ、煙が上がると砲塔に白旗が上がる。

 するとARL V39が副砲を三式に向けて放ち、砲塔天板を掠る。

 

 直後に九七式と三式が砲撃し、ARL V39の車体両側に砲弾を直撃させるも、撃破には至らない。

 ARL V39の車体正面が三式に向くと主砲を放ち、三式の左側履帯に着弾して破壊する。

 すぐに九七式が砲撃しようと砲塔を回転させるが、ARL V39が副砲を後ろに向けて砲弾を放ち、九七式の砲塔側面に着弾する。

 

「っ!」

 

 その衝撃で霧島が頭を壁にぶつけてしまい、衝撃でメガネの縁もぶつかってレンズに亀裂が入る。

 

「「「あっ・・・・」」」

 

 他の三人が声を揃えて言葉を漏らす。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 すると霧島はワナワナと震えて額に血管が浮かび上がると、亀裂の入ったメガネを外す。

 

 

「調子に・・・・・・乗るなっ!!オラァァァァッ!!」

 

 いつもの口調とは180°も変わったかのように叫び、砲塔を回転させて狙いを定め、引き金を引いて砲弾を放ち、砲弾はARL V39の副砲の砲身に着弾して抉る。

 

「oh・・・・霧島のスイッチがONしたみたいネー」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

「比叡姉さん!!そのまま突っ込めっ!!」

 

「ヒエェェェェェ!?」

 

 あまりもの気迫に圧倒されて比叡は思わずアクセルを踏み、九七式は一気にARL V39へと走る。

 

 とっさにARL V39は旋回しようとするも、その前に九七式が車体後部へと衝突する。

 

「くたばれぇぇぇぇぇ!!」

 

 直後に砲身を下げて至近距離で砲弾を放ち、ARL V39の車体後部を撃ち抜く。

 

 エンジンルームより煙が上がると、副砲塔より白旗が揚がる。

 

 

「・・・・・・」

 

 霧島以外は唖然としていた。

 

「・・・・あら?もう終わったんですね」

 

 と、いつもの雰囲気に霧島が戻る。

 

「そ、そうですね」

 

 榛名は苦笑いを浮かべる。

 

「あー、メガネのレンズに亀裂が。まぁ見えない事は無いけど、見づらくなりますね。後で弁償してもらえる事だし、我慢しましょう」

 

 霧島はレンズに亀裂が入ったメガネを掛け直す。

 

 

「と、とりあえず!状況確認ネー」

 

 金剛は気を取り直してアリクイチームに通信を入れる。

 

「タカチームより、アリクイチーム。Youの状態は?」

 

『履帯が破壊されましたが、すぐに直して追いかけますので、先に行ってください』

 

「了解ネ―――――」

 

 

 

 その瞬間大きな砲撃音と共に、三式の車体後部に何かが直撃して三式の車体後部が浮かび上がってひっくり返り、車体下部より白旗が揚がる。

 

「「「えっ!?」」」

「Waht!?」

 

 突然の事に四人は目を見開く。

 

 

 ひっくり返った三式の後ろには、ゆっくりとT28がこちらにやって来る。

 

「Noooooo!?!?戦術的撤退デース!!!」

 

「はいぃぃぃぃ!!」

 

 比叡はとっさに車体を方向転換させるとギアを二段上げてアクセルを踏み、金剛は外に出て発煙筒をT28に向けて放り投げ、九七式は脱兎の如くその場から逃げ去る。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ってぇぇっ!!」

 

 その頃別の場所で、V突の主砲より轟音と共に砲弾が放たれ、一直線にチャーフィーの砲塔側面に着弾し、砲塔天板より白旗が揚がる。

 

 その後ろよりW突が姿を現すと、主砲より砲弾を放ち、V突の車体天板を掠る。

 

「くっ!同じ突撃砲同士!負けるわけに行くか!」

 

「やられたアヒルチームの敵討ちだ!」

 

「弔い合戦ぜよ!」

 

 カエサルはすぐに砲弾を装填し、直後に左衛門座が引き金を引いて砲弾を放ち、W突の砲身根元に着弾するも曲面部分だったので弾かれる。

 直後におりょうはギアを入れ替えてアクセルを踏んでV突を後退させる。

 

 W突もその後を追いながら砲弾を放つも、砲弾は右に逸れてV突の車体横を掠る。

 

 その衝撃からか、V突より砲弾が放たれ、砲弾は一直線にW突の左側履帯に着弾して切り、それによって車体は左へと逸れる。

 

「前進だ!」

 

 と、エルヴィンの合図と共におりょうはギアを入れ替え、V突を前進させる。

 

 W突は残った右側履帯は後ろに回転させて何とか車体正面を向けてV突に向けて砲撃をするも、砲弾はV突の砲身根元に着弾するが撃破ならず、直後に左衛門座が引き金を引き、至近距離で砲弾を放ってW突の車体に直撃させる。

 それによって車体は停止し、車体上部より白旗が揚がる。

 

「や、やった・・・・」

 

「手強い相手だったぜよ」

 

「敬意を表したいな」

 

 車内では緊張は保つも、一瞬安堵の空気が流れる。

 

 

「だが、これで終わりではない。このまま他の組みと合流する。迅速にな」

 

「了解ぜよ」

 

 おりょうはV突を方向転換させ、森の中へと進ませる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 周囲を警戒しながら如月達は霧の中を行進する。 

 

「みんな・・・・大丈夫でしょうか?」

 

「信じるしかない。今の所やられたのはアリクイチームとアヒルチームだけだ」

 

 先ほど如月と西住に各戦車の車長より通信が入って確認した。

 

「それにしても、不気味なほど静かですね」

 

「あぁ」

 

 さっきから異常なほど静かな間が多く、不気味さを醸し出している。更に霧があるとなれば、不気味さが増している。

 

「いつどこから白虎が来るか分からん。幽霊と呼ばれるのも分かる気がするな」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 すると突然38tが大きな音共に前へと放り出されるように車体が浮かび上がってひっくり返り、車体下部より白旗が揚がる。

 

『っ!?』

 

 誰もがその状況に驚きを隠せれず目を見開いた。

 

 よく見れば、38tの車体後部には砲弾がめり込んでいる。

 

「こいつは・・・・」

 

 すると四式の近くに砲弾が着弾して破裂する。

 

『か、各車ジグザグに動いてください!』

 

 慌てて西住は指示を出し、五式、四式、W号はジグザグに走行するも、更に砲弾が飛んできて四式の砲塔左側面を掠り、九七式車載重機関銃の銃身を吹き飛ばす。

 

「ど、どっから砲撃しているんですか?!」

 

「私が知るか!」

 

 如月が愚痴返した瞬間、五式の砲塔右側面に砲弾が掠り、四式と同じように機関銃の銃身を吹き飛ばす。

 

「西住!森の中に逃げるぞ!フラッグ車を何としても守る!」

 

『分かりました!』

 

『分かった!』

 

 と、四式とW号は速度を上げて走行する。

 

 

 

「早瀬。すぐに停止しろ!」

 

 キューポラの覗き窓を覗き、後ろを見た時如月は霧の中で僅かな変化を見つける。

 

「え!?どうしてですか!?」

 

 状況からでは考えられない命令に早瀬は驚きの声を上げる。

 

「いいから止まれ!その後180°旋回」

 

「は、はい!」

 

 早瀬はブレーキを踏んで停止し、そのまま信地旋回で車体正面を後ろに向ける。

 

『ど、どうしたんですか、如月さん!?』

 

 突然の停止に西住は驚きの声を出す。

 

「西住。お前達は先に行け」

 

『ど、どうしてですか!?』

 

「やつは私達で抑えて時間を稼ぐ」

 

『で、でも!クマチームだけで倒せる相手では!』

 

『そうだぞ!何を言ってんだ!』

 

「ここでフラッグ車がやられては、元も子も無い!」

 

『・・・・・・』

 

『ぬぅ・・・・』

 

 

『如月さん・・・・』

 

「・・・・心配するな。やばいと思えば、発煙筒を使って撤退する。その後合流だ」

 

『・・・・・・』

 

『お前ってやつは・・・・』

 

 

 

『・・・・無茶はしないでください』

 

「あぁ。分かっている」

 

『俺達がフラッグ車でなければ残る所だがな。・・・・無茶をするなよ』

 

 W号と四式はそのまま前へと進み出し、霧の中に溶け込む。

 

 

 

「・・・・すまないな。わざわざこんな事に付き合って」

 

「いいんですよ」

 

「私達は如月さんに付いて行くだけです」

 

「どこまでも」

 

 三人は如月を見てそれぞれ返事を返す。

 

(私は本当に恵まれているな・・・・)

 

 如月はキューポラハッチを開けて上半身を外に出して前を見る。

 

「・・・・・・」

 

 右目を細めて霧を見ると、霧の中よりエンジンの音と履帯の擦れる音が響いてくる。

 

「・・・・・・」 

 

 息を呑むと、白いティーガーがゆっくりと霧の中から姿を現す。

 

「鈴野。まだ撃つな」

 

「い、いいんですか?」

 

「相手がやる気なら、もうやられている」

 

「・・・・・・」

 

「何かある、と言う事ですか?」

 

 怪訝な声で坂本が聞いてくる。

 

「あぁ」

 

「・・・・了解です」

 

 しかしもしもの事があるので、薬室には砲弾を装填している。

 

 

 

 白いティーガーは五式と距離を開けて停車すると、キューポラハッチが開き、中より早乙女神楽が出てくる。

 

 

「まさか、一人で私に挑もうとするなんて、思って無かったわ」

 

「お前に勝つ為に手段を選ばない。と言う斑鳩のやり方をする性分ではない」

 

「・・・・・・」

 

 早乙女は何も言わない。

 

「みんなには悪いと思っているが、今回ばかりは、私の私情を挟ませてもらった」

 

「フラッグ車と西住みほを助ける為じゃなく、・・・・私と決着を付ける為に?」

 

「あぁ。お前とて、それが望みだろう」

 

「否定はしないわ。本来であればあなたとフラッグ車以外を殲滅してから戦おうとしたけど、手間が省けたものね」

 

「・・・・と、いう事は、あの包囲網の穴は・・・・わざとか」

 

「気付いていたのね。さすがね」

 

「・・・・・・」

 

 如月が白いティーガーを見ると、車体後部にフラッグが付けられていた。

 

「まさか、お前のティーガーがフラッグ車だったとは」

 

「えぇ。あなたなら、その意図は分かるはずよ」

 

「・・・・・・」

 

 

 フラッグ車を倒せば勝利となるが、今回は如月にとってはもう一つ意味がある。

 

 

「・・・・越えるべき壁、という事か」

 

「そう」 

 

 神楽はゆっくりを頷く。

 

「私を見極めると言ったのは、この事だったのか」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「全力を持って、あなたがどちらかであるかを・・・・見極めさせてもらうわ」

 

「・・・・望む所だ」

 

 そして両者が車内に戻ると、同時に白いティーガーと五式が同時に動き出す。

 

 

 

 

 

-3ページ-

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 西住は振動を感じながら、俯く。

 

「みぽりん・・・・」

 

「西住殿」

 

 その様子に心配そうに武部と秋山が見守る。

 

(如月さん・・・・)

 

 

 

 

「あいつらしくも無いな」

 

「そうっすね」

 

 二階堂は腕を組んで呟くと、中島が答える。

 

「いつもなら作戦通りに動くんだが、さっきのあいつの行動は明らかに・・・・故意だな」

 

「・・・・・・」

 

 二階堂は如月の行動の裏に察していた。

 

「俺達の四式がフラッグ車でなければ、すぐにでも助太刀に行きたい所だったな」

 

「・・・・・・」コク

 

 砲弾を抱えた高峯はゆっくりと頷く。

 

 

 

『ネズミさんチーム。これより指示を出します!』

 

 と、西住より無線が入る。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「くっ!」

 

 早瀬は右レバーを倒して車体を右にずらすと白いティーガーより砲弾が放たれて至近距離に着弾する。

 すぐに鈴野が砲塔を回転させて白いティーガーに向けて砲弾を放つも、ティーガーは車体を斜めにして砲弾を弾く。

 

「何て精確な射撃なの!?ドイツ戦車は砲精度は良いけど、行進間射撃でここまで精確に撃ってくるなんて!」

 

「少しでも気を抜いたら、確実にやられる!」

 

 すぐに右レバーを戻して左レバーを倒し、アクセルを踏んでスピードを上げながら車体を左へと向けて白いティーガーに接近する。

 

 如月はすぐに装弾機に乗せた砲弾を砲尾のスイッチを押して薬室に装填すると同時に鈴野は狙いを付け、引き金を引いて轟音と共に砲弾を放つが、ティーガーの近くに着弾する。

 直後にティーガーも主砲を向けて砲弾を放ち、五式の砲塔天板を掠る。

 

「砲身が揺れる。もっと砲身に安定性があれば、確実に命中させられるのに!」

 

「・・・・・・」

 

 如月は装弾機に砲弾を乗せて薬室へと装填すると、キューポラの覗き窓を覗いて迫りつつある白いティーガーを見る。

 

(対等の条件下でこれほど差があるとは・・・・。舐めていた訳ではないが・・・・・・やはり凄い)

 

 息を呑みながら、砲弾ラックより砲弾を取り出して抱える。

 

 

 

 白いティーガーは五式を追跡しながら主砲を向けて砲弾を放ち、主砲を後ろに向けている五式の砲塔後部を抉るように掠る。

 

「っ!」

 

 鈴野は急いで砲塔を旋回し、主砲がティーガーに向いてすぐに引き金を引いて砲弾を放つが、砲弾はティーガーの砲塔上を通り過ぎる。

 

「このままではこちらが不利だ!早瀬!十一時の方向に向かえ!」

 

「りょ、了解!」

 

 早瀬はすぐに十一時の方向に五式の車体向けて、林の中へと入っていく。

 

 

 

 

(どうやら、廃村へと向かうつもりね)

 

 神楽は如月の行き先を読み、その後を追うように指示を出す。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 林の中で、砲撃音が次々と響く。

 

 

 

「後退!」

 

 澤の指示に阪口はすぐにM3を後退させると左の方にいたT14が主砲より砲弾を放つも、その前にM3は回避する。

 

 その間にカモチームのルノーが車体正面を向けて主砲と副砲を放ち、T14の砲塔に直撃させるも弾かれる。

 

 直後にM3が主砲と副砲を同時に放つも、車体正面と砲塔に着弾するも弾かれる。

 

「うぅ!硬すぎる!」

 

「正面からじゃ倒せれない。やっぱり回り込まないと・・・・」

 

 その間にもW号シュマートルムの主砲より砲弾が放たれ、M3の車体側面を掠る。

 

『あぁぁ!?』

 

 車内に神経を逆なでする嫌な音が響き渡るも、副砲塔がW号シュマートルムに向けられて砲弾が放たれ、W号シュマートルムの車体正面に直撃するも、弾かれる。

 

 

 

「パゾ美!ちゃんと狙いなさいよ!」

 

「ちゃんと狙ってますよ・・・・」

 

 ルノーが主砲と副砲を放つも、W号シュマートルムの車体正面装甲に弾かれ、車体側面の網状のシュルツェンの隅に着弾するも阻まれる。

 

「あぁ!!何でこうもガンガンと弾かれるのよ!」

 

「正面からじゃ無理ですよ〜」

 

 とっさにルノーをゴモヨが後退させると、T14が放った砲弾がルノーの車体正面装甲に着弾するも角度が突いていたので弾いた。

 直後にM3の主砲と副砲より砲弾が放たれるも、砲弾は車体正面に阻まれて弾かれる。

 

『どうすんのよ!!このままじゃ時間の問題じゃない!』

 

「そう言われても・・・・」

 

 

 

 

 M3の車長の澤が呟いた瞬間、T14の車体側面に何かが直撃し、直後に砲塔より白旗が揚がる。

 

『えっ?』

 

 思わず全員声を漏らす。

 

 

『こちらカバチーム!これよりそちらと合流する!』

 

 と、カバチームのV突がこちらにやって来ていた。

 

「カバさんチームのV突だ!」

 

「やった!これで形勢は逆転だよ!」

 

 車内で士気が上がり、M3の主砲と副砲が同時に放たれ、W号シュマートルムの車体と砲塔正面装甲に着弾させる。

 すぐにV突に砲塔を向けるが、その前にルノーが主砲と副砲を放ち、車体側面に二発を直撃させる。

 

 攻撃を受けながらもW号シュマートルムは主砲を向けて砲弾を放つも、砲弾は右に逸れてV突の近くに着弾する。

 

 直後にV突が主砲を放ってW号シュマートルムの車体左側面に着弾し、直後に砲塔より白旗が揚がる。

 

 

 

 

「な、何とか・・・・倒せた」

 

「はぁぁぁぁ・・・・」

 

 阪口は背もたれにもたれかかりながら息を深く吐く。

 

「気を緩めないで!まだ試合は終わったわけじゃないんだから!」

 

 澤が言葉を掛けると、メンバーはすぐに気を引き締める。

 

 

 

「このまま隊長達と合流するよ!先輩達も付いて来てください!」

 

『了解ぜよ!』

 

『分かったわよ』

 

 M3を筆頭にV突、ルノーが走り出し、林を出た時だった。

 

 

 

 

『ヒェェェェェェェ!!』

 

 と、霧の中より九七式が慌てた様子で走ってきていた。

 

「タカチームの九七式!」

 

『向こうも生きていたようだな』

 

 

「こちらウサギチームです!今から隊長達の援護に向かい―――――」

 

 

 

『そんな暇ないデース!!』

 

「え?」

 

 慌てた様子で金剛より無線が入った瞬間、物凄い大きな砲撃音がした途端、ルノーの車体正面に何かが着弾したかと思った瞬間ルノーの車体が大きく跳ねるとそのままひっくり返り、車体下部より白旗が揚がる。

 

『えぇっ!?』

 

 

『な、何よ!?一体何が起きたって言うのよ!?』

 

 状況が理解できず、無線越しに園の慌てた声が伝わる。

 

 

『ヤッパリ追って来たデスカー!?』

 

「追ってきたって・・・・?」

 

 覗き窓越しに九七式の後ろを見ると、霧の中より巨大な車体を持つT28がゆっくりとこちらにやって来ていた。

 

『T28だと!?』

 

「うそっ!?」

 

「あんなでかい戦車と戦うなんて無理だよ!」

 

「逃げようよ!!」

 

 T28の出現にM3の車内は混乱していた。

 

 

 

 

「それはダメ!もう逃げないって、決めたでしょ!!」

 

『っ!』

 

 澤の言葉にみんなはハッとする。

 

「ここで私達が逃げたらT28は隊長達の所に行ってしまう!そうなったら、隊長達がやられてしまう!!」

 

『・・・・・・』

 

 

「撃破は出来なくても、ここで足止めしよう!」

 

『足止めか』

 

『oh・・・・。dangerousなorderデース』

 

 

「カバさん!タカさん!私だけでも、あのT28を足止めします!倒せなくても、せめて時間だけでも稼げれば!」

 

『心得た!』

 

『Yes!!』

 

 そしてM3とV突、九七式の三輌はT28へと向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 霧の中を五式が走り抜けると、廃村へと入っていく。

 

「こんな所に廃村があるなんて」

 

「少し前に住民が全員ここから出て行って、その後戦車道の試合会場のフィールドの一部として使われるようになったようだ」

 

 よく見れば後で修繕したと思われる箇所がいくつかある。

 

「ちょっとした市街地戦も出来る、と言う事ですか」

 

「そういう事だ」

 

 

「それで、この後はどうするんですか?」

 

 建造物の間の通路を慎重且つ速く早瀬は五式を走らせる。

 

「正面からやり合っても勝ち目は無い。愚の骨頂とも言える。賢くやるしかない」

 

「でも、相手はあの早乙女流の師範ですよ。頭脳戦では向こうの方が上です」

 

「分かっている。だからこそ、私なりのやり方でやつと勝負を挑む」

 

「如月さんのやり方って・・・・」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 一瞬何かを思い出したのか、早瀬と鈴野は少し顔が引きつる。

 

「建造物を使い、やつの目を掻い潜りながら攻撃を仕掛けたいが、それほどやつは甘くは無い」

 

「では?」

 

 

「少なくとも、やつはすぐには来ない。到着前に一つ作業を行う」

 

「作業?」

 

 坂本は首を傾げる。

 

「あぁ」

 

「一体、それって・・・・?」

 

 この事を知らない坂本は疑問を抱くが、他二人は一段と気を引き締める。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 しばらくして白いティーガーが廃村に到着する。

 

(建造物が多いわね。こうだと死角は多いから、チャンスは多い。賢明な判断ね)

 

 廃村の建造物の間を、若干ぬかるんだ地面を走行していく。

 

(・・・・どうやら発煙筒を焚いているみたいね。視界が殆ど見えないに等しい)

 

 さっきまでとは霧の濃さが明らかに違うのと、若干煙の臭いがするので、発煙筒を焚いていると分かる。

 

(でも、この辺りの地形は全て頭に入っている。隠れられる場所も・・・・)

 

 指示を出して白いティーガーを走行させると、廃村の中央辺りにある大きな木造倉庫の前に付く。

 

(限られるわ。このティーガー並に大きな車体を持つ五式ならば)

 

 神楽は装填手に榴弾を装填させるように指示を出し、ティーガーの砲塔が倉庫に向けられる。

 

(・・・・でも!)

 

 と、ティーガーは砲塔旋回と共に車体も旋回させ、そのまま後ろを向くと主砲より轟音と共に榴弾が放たれ、後ろにあった倉庫を吹き飛ばす。

 

(それを逆手にとって後ろから狙い撃つつもりだったのだろうけどね・・・・)

 

 倉庫は吹き飛んで火災が起き、中に燃える物がある。

 

 

「・・・・・・」

 

 しばらく吹き飛んだ倉庫を見つめていると、ティーガーに何かがぶつかる。

 

「・・・・?」

 

 神楽が気づいた時にはティーガーの周りに煙が焚かれ、視界を奪っていた。

 

 

(発煙筒。でも一体どこ―――――)

 

 神楽はハッと何かに気付き、とっさに操縦手に車体を傾けるように指示を出すと、その直後に車内に衝撃が走る。

 

「・・・・!?」

 

 すぐにキューポラの覗き窓から後ろを見ると、神楽は初めて焦りの色を見せる。

 

(まさか!?後ろではなく正面の倉庫に最初から居た!?裏を掻いたはずが、更に掻かれていた。この、私が?)

 

 視線の先には、主砲をこちらに向けている泥塗れ+藁が大量に付着した五式が主砲をティーガーに向けて倉庫より出て来た。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「おしい!後ちょっとで車体後部を撃ち抜けたのに!」

 

 早瀬が悔しそうに指を鳴らす。

 

 先ほど五式が放った砲弾はティーガーの右側の排気塔の上半分表面に着弾して抉っていた。

 

「坂本。少し投げるタイミングが早い」

 

『す、すみません!向こうが動きそうだったので、つい』

 

 ヘッドフォン越しに坂本の声がする。

 

「まぁいい。煙幕が晴れるまでの時間は限られる。坂本は引き続き高所よりティーガーの位置をマークしろ!」

 

『了解!位置情報は常に送ります!早速ティーガーの砲塔が時計回りでそちらに向いています!』

 

「分かった!すぐに11時方向へ走れ!」

 

「はい!」

 

 早瀬はアクセルを踏み、五式を走らせてティーガーの横を通り過ぎる。

 

 通り過ぎる際に私はキューポラハッチを開けて立ち上がり、手にしている発煙筒の先端を捻ってティーガーに投げ、ちょうど砲塔後部に当たって車体後部に落ちて煙が出る。

 

(ここからが、私なりの戦法だ!)

 

 次の作戦を伝え、廃村の中を走っていく。

 

 

 

 

(まさか・・・・この私が裏を掻かれるとはね。むしろ用心し過ぎて裏を掻き過ぎたって見方もあるけど)

 

 発煙筒で視界が遮られているが、早乙女は無駄に行動させず、ティーガーをその場に留まらせている。

 

(・・・・久しぶりね。私が高揚を覚えるなんて・・・・去年の大会以来ね)

 

 自然と早乙女の口角が釣り上がる。

 

(やはり、あなたには見所がある。だからこそ―――――)

 

 高揚を覚えながら、発煙筒の煙が晴れ出してティーガーを前進させる。

 

 

 

 

 

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 砲撃音が辺りに響くと、砲弾は白いティーガーの砲塔天板に着弾するも、弾かれる。

 

「後退!」

 

 如月の声に反応し、早瀬はギアを入れ替えて五式をバックさせると、ティーガーが砲塔を向けて主砲より砲弾を放って来たが、五式が居た場所に砲弾が着弾し、泥が跳びはねる。

 

 続けて五式が砲撃して砲弾がティーガーの近くに着弾すると大量の白煙が放たれる。

 

 五式は後退しながら右へと曲がって建造物の間に入る。

 

 

『ティーガーがそちらに向かっています!』

 

「分かった。このまま右へと曲がり、前進だ」

 

「はい!」

 

 早瀬は左のレバーを倒して車体を左に旋回させて右に曲がり、すぐにギアを入れ替えて一段にし、前進する。

 

(高い所から偵察を行っている坂本のお陰でティーガーの動きは把握できるが、やはり一筋縄では行かんな)

 

 砲弾を装弾機に乗せて薬室に装填しながら私は状況を整理する。

 

 

(確実にやるには、車体後部を撃ち抜く必要がある。だが、やつも弱点を晒すほど愚かじゃない)

 

 向こうの主砲をもろに受ければ、確実にやられるのは目に見えている。

 

(このままここで戦っても、恐らく平行線のまま。だが、限界は向こうの方が早い)

 

 五式とティーガーの走行能力と継続能力を考えれば、持久戦に強いのは五式の方だ。

 

(それが賢いやり方なのだろうが、今回はそれで済む話ではない)

 

 様々な考えを頭の中で交差させ、如月は作戦を立てる。

 

(ならば、一気に勝負に出るか)

 

 そして如月の頭に一つの作戦が浮かぶ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

(さっきから、こちらの動きが読まれだしているわね)

 

 五式を追撃しているティーガーの車内で、早乙女は違和感を覚える。

 

(偵察者がどこかでこちらの動きを見て、伝えているのね。少しは考えたわね)

 

 記憶の中にある地形から、高い場所を割り出す。

 

(だからこの場所に誘導した。私がやった事をやり返したって事ね)

 

 意識しなくても、口角が僅かに釣り上がる。

 

(でも、動きを見られたところで翻弄される私じゃないわ)

 

 乗員に指示を出し、ティーガーを直進させる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃、T28と交戦しているメンバーは―――――

 

 

 

「撃てぇっ!!」

 

 澤の指示と同時に主砲と副砲が放たれるが、砲弾はT28の装甲に火花を散らして弾かれる。

 

 V突と九七式も主砲を放つも、砲弾は次々と火花を散らして弾かれる。

 

「硬すぎるぅ!」

 

「一斉砲撃でも全く通じないなんて・・・・」

 

 と、T28は轟音と共に主砲を放ち、九七式の近くに着弾して衝撃が襲う。

 

 

「ヒェェェェェェ!?」

 

「何て衝撃!?」

 

「くぅ!」

 

「shit!!これじゃ八方塞がりね!」

 

 車内に衝撃が走ってメンバーは近くにある物に掴まって堪える。

 

 

「V突の主砲ですら効かないとは!」

 

「これでは、足止めには!」

 

 おりょうはV突を走らせてT28の背後に回り込もうとする。

 

 しかしT28も超信地旋回で主砲をV突に向けようとする。

 

「そうはさせないネー!比叡」

 

「はい!!」

 

 比叡はアクセル全開で九七式を走らせ、T28の左側面後部へと体当たりをして、動きを阻害する。

 直後に至近距離で主砲を放つも、火花を散らして弾かれる。

 

「ゼロ距離でも通じないなんて・・・・」

 

 比叡はアクセル全開でT28を押すが、T28は逆に九七式を押し返す。

 

「チハが押し返されている!?」

 

「Waht!?何てパワーなんデスカ!?」

 

「いくらなんでも、これじゃぁ・・・・」

 

 

『諦めないでください!先輩!』

 

 と、澤より無線が入る。

 

『撃破は出来なくても、ここで足止めしてください!絶対に隊長達の所へは行かせないでください!』

 

「そうは言っても!」

 

 先ほど榛名が砲弾を装填し、霧島は引き金を引いて砲弾を放つが、火花を散らして弾かれる。

 

 V突もT28の背面に回り込み、主砲から砲弾を放つが、火花を散らして弾かれる。

 

「後ろからでも貫けないとは・・・・!?」

 

「せめてT28の履帯だけでも!」

 

 カエサルは榴弾を取り出すとすぐに装填する。

 

 

 M3もT28の履帯へと主砲と副砲の砲弾を放つも、履帯は逆に砲弾を弾き返す。

 

「っ!」

 

 直後にT28が主砲を放ち、砲弾は一直線にM3の副砲上の砲塔に直撃して吹き飛ばす。

 

「きゃぁぁぁぁ!?」

 

 轟音と衝撃が大野に襲い掛かり、大野は倒れ込む。

 

「あや!」

 

 澤はとっさに大野に近付くと、身体を持つ。

 

 衝撃で気を失ってメガネのレンズに亀裂が走っていたが、特に目立った外傷はない。

 

 

「こんな化け物、本当に足止めなんか出来るの!?」

 

「出来る出来ないでも!私達のやる事は一つだけ!何としてもここでやるしかないの!」

 

 すると、T28は後退しながら右へと向きを変えると、V突に主砲が向く。

 

「っ!」

 

 その直後にT28の主砲より轟音と共に砲弾が放たれた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「しかし、本当に良いんですか?」

 

 と、副砲手席に戻った坂本が私に聞いてくる。

 

 先ほど坂本を回収し、五式は発煙筒を焚きながら開けた場所に向かった。

 

「あぁ。このままチマチマするより、一気に勝負に出る」

 

「・・・・・・」

 

「でも、向こうの方が装甲もある上に、火力があるんですよ。こちらは一発でも受けたら耐えられるかどうか分からないっていう瀬戸際なのに」

 

「その代わり、こちらには足がある」 

 

「それはそうですが・・・・」

 

 広域ではこちらの方が分が悪い。そこをあえて行くのだから、不安になるのも無理は無い。

 

「心配するな。ちゃんと考えはある」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「鈴野。確実に砲弾を命中させろ」

 

「分かりました」

 

「坂本。副砲が狙えれば確実に狙え」

 

「しかし、通じませんよ?」

 

「牽制にはなる。早瀬。全てはお前の操縦に掛かっている。頼んだぞ」

 

「分かりました!」

 

 

 

 

 すると五式の近くに砲弾が着弾して砂が舞い上がる。

 

「来たか!このまま直進!」

 

 後ろ側のキューポラの覗き窓を覗き、霧の中に一瞬見えたティーガーの砲身を確認した。

 

(発煙筒の数はあと二本。だが、恐らく必要にはならん)

 

 そう考えた時には五式は森を抜けて開けた場所に出る。

 

 

 

 

 

(森から開けた場所に出るなんて・・・・一気に勝負に出るつもり?・・・・万策尽きたのかしら)

 

 五式を追撃しながら砲撃し、その間に早乙女は目を細める。

 

(でも、彼女が無策に不利な状況に自ら出るとは思えない。少し警戒した方がよさそうね)

 

 先ほどの事もあるので、警戒しつつティーガーを前進させるように命令を出す。

 

 

 

 

 そうして開けた場所に出ると、早瀬はギアを一段上げて速度を上げる。

 

「っ!霧が!」

 

 見ればさっきよりも霧が晴れており、最初より見える距離が増えている。

 

「どうやら、運は若干こちらに味方をしているようだな」

 

 如月は砲弾を装弾機に乗せて薬室に装填する。

 

 すると五式の車体左側面を砲弾が抉るように掠っていく。

 

 すぐに早瀬はギアを一段上げてアクセルを踏み込んで五式を速く走らせる。

 

 鈴野は砲塔を回転させて後ろを向かせると、後ろから迫ってくるティーガーに砲弾を放つも、上にずれて砲塔上を通り過ぎる。

 直後にティーガーも主砲より砲弾を放ち、五式の砲塔右側面を掠る。

 

「ジグザグに走れ!真っ直ぐだと狙われる!」

 

「了解!」

 

 早瀬は両手に持つレバーを押したり引いたりを交互にして五式をジグザグに蛇行させる。

 

 その間に如月は砲弾を装填し、鈴野はすぐに引き金を引いて砲弾を放ち、ティーガーの砲塔防楯に着弾するも弾かれる。

 

 

「左に旋回!ティーガーの横を付く!」

 

 早瀬は左のレバーを引いて五式を左へと曲がらせながら走行するも、ティーガーもその後に続く。

 

 砲塔をティーガーに向けると、主砲より砲弾を放つが、砲身がぶれたので砲弾はティーガーの上を通り過ぎる。

 ティーガーも砲塔を五式に向けて砲弾を放つと、砲弾は五式の車体後部の上を通り過ぎる。

 

「変わらず精確な砲撃だ!かわし続けろ!」

 

「了解!」

 

 早瀬はギアを最大まで上げてアクセルを踏み、五式を最大速度で走らせると、如月はすぐに砲弾を装弾機に置いて薬室に装填する。

 

 二輌は円を描きながら走行し、互いの主砲より轟音と共に砲弾が放たれるが、砲塔天板を掠りながら通り過ぎる。

 

 すぐに如月は砲弾を装填して直後に鈴野が引き金を引いて砲弾を放ち、ティーガーの砲塔後部に着弾するもめり込むだけに留まる。

 

 ティーガーの主砲よりも砲弾が放たれ、五式のキューポラの上に着弾し、ハッチを吹き飛ばす。

 

「っ!」

 

 吹き飛ばされた衝撃で如月はよろけ、破片が眼帯の紐に掠って紐が切れて眼帯が取れる。

 

「如月さん!」

 

「構うな!撃ち続けろ!」

 

 すぐに砲弾を取り出して装弾機に乗せ、薬室に装填する。

 鈴野はすぐに引き金を引き、砲弾を放つと一直線にティーガーの車体後部の上部にある部品を抉るように吹き飛ばす。

 

 砲弾を取り出して装弾機に乗せ、薬室に装填すると同時に鈴野は引き金を引き、放たれた砲弾はティーガーの車体側面に着弾する。

 

「っ!」

 

 直後にティーガーも砲弾を放ち、砲弾は一直線に五式車体の副砲と九七式車載重機関銃の砲身を吹き飛ばす。

 

「副砲身損壊!」

 

「くっ!坂本はこっちに来い!砲弾ラックから砲弾を取り出せ!」

 

「は、はい!」

 

 すぐに副砲手席より立ち上がろうとするも、早瀬は左レバーを引いて車体を左へと旋回させたので、バランスを崩しかける。 

 

「砲塔右旋回!そして急停止!」

 

 とっさに叫び、早瀬はブレーキを踏んで五式を急停止させるとその勢いで車体正面が左に向きながら滑り、その直後に砲塔の右側面を砲弾が通り過ぎる。

 砲塔も正面を向き、主砲より砲弾が放たれると、ティーガーの砲身の下を掠る。

 

「前進!」

 

 早瀬はギアを一段に戻してアクセルを踏んで五式をティーガーに向けて走らせる。

 

 ティーガーも旋回して砲塔を五式に向け、主砲より砲弾を放つが、若干砲弾は上にずれて五式の砲塔正面隅に着弾する。

 

「くぅ!」

 

 車体が揺らされるも、メンバーは近くのものにしがみ付いて耐える。

 

「坂本!」

 

「はい!」

 

 既に移動した坂本は砲弾ラックより砲弾を取り出して如月へと渡し、砲弾を受け取って装弾機に乗せて砲尾のスイッチを押して薬室に装填する。

 

 鈴野は引き金を引いて砲弾を放ち、ティーガーの砲塔防楯部に着弾するも弾かれる。

 

「くそっ!やはり背面に直撃させないと、撃破出来ないか」

 

「とは言っても、簡単に背後を取らせてはくれませんよ!」

 

 とっさに左へと車体を移動させると、ティーガーが砲弾を放って五式の砲塔後部を抉るように掠る。

 

「それに・・・・」

 

 と、坂本は砲弾ラックを見ると、そこには砲弾がもう後三発しか残っていない。

 

「・・・・撃ちの早さではこちらに分があったが、撃ち過ぎたか」

 

 砲弾の携行数は参加車輌数に応じて制限される。十輌で参加したので以前よりも携行した砲弾は少ない。

 

 

「チャンスは後三回。相手はそのチャンスを見せない。これでは八方塞がりですね」

 

「・・・・・・」

 

 

 

(・・・・ここまで、なのか)

 

 如月の表情少し諦めの色が浮かび始めている。

 

(超えられないのか。私は・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしティーガーの砲塔がこちらに向いている間に、砲塔後部に砲弾が着弾する。

 

「っ!」

 

 

 

 

『大丈夫ですか!如月さん!!』

 

 と、ヘッドフォンに西住の声が伝わる。

 

 その直後に霧の中よりW号がこちらに向かって走ってきていた。

 

「西住隊長!」

 

「西住!なぜ来たんだ!フラッグ車は!」

 

『ネズミチームには進行を続けるように言いました。私達あんこうチームは戻って五式を探していました』

 

「お前・・・・」

 

『・・・・やっぱり、如月さんだけを置いていくなんて・・・・・・私には出来ません!』

 

「馬鹿な。お前は隊長なんだぞ!お前が倒されたら、チームはどうする!」

 

『で、でも!』

 

 西住は食い下がる。

 

 

 

 

 するとティーガーがW号に砲塔を向けていた。

 

「っ!西住!避けろ」

 

 如月はとっさに呼びかけて、西住も「停車!」と冷泉に指示を出してW号を緊急停止させるとティーガーの主砲より砲弾が放たれるが、W号の砲塔側面を掠る。

 

「早瀬!突っ込め!」

 

「はい!」

 

 早瀬はギアを二段上げてアクセルを踏み込み、五式をティーガーに向けて走らせる。

 

 如月は砲弾を坂本より受け取って装弾機に乗せて薬室に装填する。

 

「鈴野!」

 

「はい!」

 

 如月の言葉の直後に引き金を引き、砲弾を放ってティーガーの主砲の根元に着弾させる。

 

 ティーガーは後退しながら砲塔を五式に向け、主砲より砲弾を放つが、砲弾は斜め上に飛んでいって五式の砲塔正面の隅に着弾する。

 

『っ!!』

 

 強い衝撃が砲塔内に走って砲弾を抱えていた坂本は思わず倒れそうになるも如月がとっさに坂本の腕を左手で掴む。

 

「っ!」

 

 しかし予想以上に引っ張られた為に、左腕にそこそこの強さの痛みが走って腕の一部に湿った感触が現れる。

 

「何とか撃破には至ってません!いけます!」

 

「よ、よし」

 

 痛みに堪えながら坂本より砲弾を受け取って装弾機に乗せて薬室に装填する。

 

 その間にW号がティーガーの周囲を走りながら砲塔を向け、主砲より砲弾を放って車体右側面に着弾させる。

 

 ティーガーは車体をその場で超信地旋回しながら砲塔を回転させ、W号の前辺りで主砲を放ち、W号の左側誘導輪に着弾させて破壊する。

 

「っ!」

 

 直後にW号は勢い余って車体正面がティーガーに向くように滑りながら進む。

 

 そのままティーガーはW号へと車体正面を向けながら砲塔を向ける。

 

「っ!今ならティーガーの背面が狙えるはずです!」

 

「・・・・・・」

 

 早瀬の言う通り、このままならティーガーの後ろを取れ、撃破できる可能性が現れる。

 千載一遇のチャンスであるのに変わりは無い――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――しかし、その代わり西住達は犠牲となる。

 

 

「・・・・・・」

 

 これを逃せば次のチャンスは無いと言っても過言ではない。

 

「・・・・・・」

 

 如月はその一瞬が長く感じられた。

 

 

 しかし、如月の決断は一つだけだった。

 

 

 

 

「早瀬!全速力でW号に向かえ!」

 

「えぇ?!」

 

「っ!」

 

「そんな!このチャンスを逃したら、撃破は――――」

 

 

「仲間を見捨てる事など、私には出来ない!!」

 

『っ!』

 

「とにかく走れ!!手遅れになる前に!!」

 

「は、はい!」

 

 すぐにギアを最大にしてアクセルを踏み込んで五式を走らせる。

 

「そのまま車体右側面をW号にぶつけるように突っ込め!」

 

「えぇっ!?そんな無茶な!?」

 

 とんでもない命令に早瀬は思わず声を上げる。

 

「命令が聞こえんのか!」

 

「は、はい!!」

 

「あんこうチーム!何かに掴まれ!このまま突っ込む!」

 

『っ!!』

 

 

 

 

 

 

(増援とは以外だったけど、残念だったわね、西住みほ)

 

 神楽はW号に狙いを付けさせるように指示を出す。

 

 

「撃――――」

 

 

 と、命令を出そうとした瞬間、五式は突然車体正面をこちらに向けるように瞬時に旋回し、そのまま地面を横に滑りながらW号の車体左側面に突っ込んでW号を強引に押していく。

 

「っ!?」

 

 予想外の動きに一瞬命令が遅れ、その瞬間五式とW号は砲弾を放ち、五式の砲弾は主砲の砲身側面を掠り、W号の砲弾はティーガーの履帯に着弾する。

 

「くっ!撃て!!」

 

 すぐに命令を出してティーガーの主砲より砲弾が放たれるが、砲弾は右へと逸れる。

 

「っ!」

 

 キューポラの覗き窓を覗いてその光景を見た神楽は目を見開き、砲身を見ると僅かに砲身が右に反れている。

 

(さっきの砲撃で砲身が。それ以前に、あんな動きで助けるなんて。何て無茶な。あのまま命令を出していれば、確実に撃破されるって言うのに・・・・)

 

 少し内心で焦りながらも右へと車体を旋回させるように指示を出してティーガーの車体が右に動くが、その瞬間鈍い音がして車体が止まる。

 

「っ!」

 

 神楽は瞬時にその音が履帯が切れた音であると頭の中に浮かぶ。

 

 

(・・・・砲身だけじゃなくて、履帯にも命中させていたなんて)

 

 詰まれた状態だったが、神楽は別に焦りは見せない。

 

 直後に五式が走り出し、ティーガーに接近する。

 

(でも、あんな無茶をしてまでも、撃破より仲間を救う事を最優先にした)

 

 先ほどの如月達の行動を見て、静かに鼻で笑う。

 神楽が確かめたかった事が、確かめれたのだから・・・・・・

 

 

 五式が後ろに回り込もうとするも、残った履帯と砲塔を旋回させて主砲を後ろを向かせる。

 

 

「早瀬!」

 

「っ!」

 

 アクセル全開で飛ばすと右レバーを後ろに倒すと勢いよく車体がドリフトの様に地面を滑りながらティーガーの後ろに回り込もうとする。

 

 しかし無理な軌道で左側の履帯が鈍い音と共に外れる。

 

「まだまだ!!」

 

 早瀬とっさに右レバーを戻してギアをバックに入れ替えて右側履帯を後退させて正面をティーガーに向けるように保つ。

 

(・・・・どうやら、これで詰みね)

 

 直後に五式とW号より同時に砲弾が放たれ、ティーガーの車体後部と着弾させた箇所に二発動時に着弾させた。

 しかし同時にティーガーも主砲より砲弾を放ち、五式のキューポラに着弾させて破壊するが、撃破には至らなかった。

 

 

 

 

 

 少ししてティーガーの車体後部より撃破判定された白旗が揚がる。

 

 

 

 

『神威女学園フラッグ車走行不能!!よって・・・・・・大洗女子学園の、勝利!!』

 

 

 そして如月達が勝利した事がアナウンスで伝えられた。

 

 

 

 

 

 

 

説明
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。
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