本編補足 |
出会い
C1 婚礼の儀
C2 御命令
C3 脅迫
C4 晩酌
C5 朝帰り
C6 おねだり
C7 変装
C8 視察
C9 決闘
C10 祝宴
C1 婚礼の儀
ユランシア大陸テウシンの地。ヂョルガロン王国首都ブザのダンレン宮殿後宮。テウシン王の血を引く美少女スヒィンの部屋。鏡の前の椅子に座り、花嫁衣装を着たスヒィン。彼女の髪をとく侍女のスリョク。スヒィンは鏡に映る自身の顔を見た後、鏡に映るスリョクを見つめる。
スヒィン『スリョク。』
手を止め、顔を上げて鏡に映るスヒィンを見るスリョク。
スリョク『はい…。』
スヒィン『我が夫となる方は…。』
スリョク『ヂョルガロンの王子様…あっ、今は王様になられましたか。』
頷くスヒィン。
スヒィン『伝統を重視した前王の喪が明けぬうちに即位。そして、テウシン王国の血筋の私との婚姻…。とても王として相応しい人物だとは思えません。』
風が垂れ幕を揺らす。
スリョク『おねえ様…。』
鏡に映る自身を見つめるスヒィン。
スヒィン『今日、婚礼の儀の場にはヂョルガロンを含め、8国の王達が来ます。その場で王の非を糾弾し、婚姻を解消させ…私をテウシン王国の王としての即位を認めさせます。』
眉を顰めるスリョク。
スリョク『…シルパラ殿には伝えたのですか?』
首を横に振るスヒィン。スリョクはスヒィンの横に駆け寄る。
スリョク『そんな大事なことを…。』
眼を閉じるスヒィン。
スヒィン『この場でしかできないのです!』
スリョクはスヒィンを見下ろす。眼を開くスヒィン。
スヒィン『お父様、お母様…御婆様が見たテウシン王国再興の夢は…。』
スヒィンを見つめるスリョク。複数の足音。扉の窓に映る後宮の女官達の影。扉の方を向くスヒィンとスリョク。扉の窓に映る王太合のギュウトウの影。
ギュウトウの声『そろそろお時間でございます。』
スヒィンは扉の窓に映る影を見つめる。
スヒィン『分かりました。』
立ち上がり、歩いていくスヒィン。続くスリョク。扉を開けるスヒィン。首を垂れるギュウトウ。左右に並ぶ女官達。部屋から出るスヒィンとスリョク。顔を上げるギュウトウ。
ギュウトウ『こちらでございます。』
ギュウトウに続くスヒィンとスリョク。ダンレン宮殿へ続く門の前まで来る彼女達。立ち止まるギュウトウ。
ギュウトウ『侍女はここまでじゃ。』
眼を見開くスヒィン。スリョクはスヒィンを見つめる。
ギュウトウ『下がれ。』
ギュウトウを睨み付け、一歩前に出るスヒィン。スリョクはスヒィンの傍らに寄り、一礼してその場を去る。
閂が抜かれる音。
ダンレン宮殿後宮。スヒィンの部屋からダンレン宮殿を見つめるスリョク。奏でられる音楽。後宮を取り囲む塀の屋根から花嫁衣裳を着たスヒィンとヂョルガロン王国の王ギュウジュウの姿が一瞬だけ見える。
C1 婚礼の儀 END
C2 御命令
ダンレン宮殿後宮。スヒィンの部屋。開かれた窓からダンレン宮殿の方を見つめるスリョク。扉の開く音。扉の方を向くスリョク。扉を閉め、俯くスヒィン。スリョクはスヒィンの方を向く。
スリョク『おねえ様!』
スヒィンの傍らに駆け寄るスリョク。
スリョク『…如何いたしました!?』
泣き崩れるスヒィン。スリョクはスヒィンの両肩に手を当てる。
スヒィン『…ううっ…なぜ、認められぬの…。』
スヒィンはスリョクにしがみつく。
スヒィン『スリョク!スリョク!』
スリョクはスヒィンを見つめる。
スリョク『スヒィン様…。』
扉を叩く音。扉の方を向くスヒィンとスリョク。扉の映る跪く女官Aの影。
女官Aの声『失礼いたします。』
扉の方を向くスリョク。
スリョク『今は取り込み中です。後に…。』
女官A『なりません!王様の御命令です!』
スヒィンはスリョクを見つめ、首を横に振る。スリョクはスヒィンの顔を見つめた後、扉に映る女官Aの影の方を向く。
スリョク『…それでいったい御命令とは?』
女官A『はい。鶴の間にて晩酌をしたいと。』
スリョクは女官Aの影を睨み付けて立ち上がる。
スリョク『晩酌!そのような下らないことの為に呼び出すとは!』
女官A『はて。随分と我儘な言い分じゃ。支離滅裂なことを言い、婚礼の儀を台無しに仕掛けたことはあるの。』
スヒィンは扉の窓に映る女官Aの影を睨み付ける。
スリョク『その言いいなさりようはあまりにも無礼でありましょう!』
女官A『ふむ。正妻の癖に酌をすることもできぬのですか?ほほほ、やはりテウシン王の血筋が無ければ正妻に成れなかったお方。』
女官Aの歯ぎしりの音。扉に映る女官Aの影を見つめるスリョクとスヒィン。
女官A『ともかく王はお待ちです。すぐに行くように…。』
立ち上がり、絹を引きずる音を立てながら消えていく女官Aの影。スヒィンはスリョクを見上げる。スヒィンを見下ろすスリョク。
スリョク『…おねえ様。』
スリョクは扉の方を向き、握り拳を震わせる。
スリョク『私が行って断ってきます!』
スヒィン『スリョク…。』
C2 御命令 END
C3 脅迫
ダンレン宮殿後宮鶴の間。机の上に並べられた料理の前に座り、酒を飲むギュウジュウ。扉が開き、スリョクが現れる。息を切らすスリョクを見つめ、立ち上がるギュウジュウ。
ギュウジュウ『…お前は?』
スリョクはギュウジュウを睨み付ける。
スリョク『スヒィンの侍女を務めるスリョクと申します。』
顎に手を当てスリョクを見回すギュウジュウ。
ギュウジュウ『侍女か…。』
ギュウジュウはスリョクの前で立ち止まり、彼女の後ろを眺める。
ギュウジュウ『…妻は?』
スリョクはギュウジュウに詰め寄り、彼の顔を見つめる。
スリョク『…王妃様は来ません!』
眉を顰めるギュウジュウ。
ギュウジュウ『来ないのか…。』
額に手を当てため息をつくギュウジュウ。
ギュウジュウ『…婚礼の儀といい。今回の拒否といい仕方のない奴だ。』
スリョクはギュウジュウを睨む。
スリョク『仕方のない奴…。』
ギュウジュウはスリョクを見つめる。
スリョク『おねえ様は!あなたの心無い仕打ちに心を痛めておいでです!あなたはあなたのお父様の伝統を重んじる姿勢を踏みにじり、それを非難したおねえ様を婚礼の儀で否定し、各国の王の前で恥をかかせた!そして勝ち誇った様に晩酌の命を下したのです!無神経にも程があるでしょう!』
眉を顰めるギュウジュウ。スリョクはギュウジュウに背を向け、眼を閉じる。
スリョク『王妃様は参りません!失礼します!』
スリョクの前の壁に手を当てるギュウジュウ。音が鳴り、眼を開くスリョク。彼女の目に映るギュウジュウの腕。スリョクは眉を顰め、ギュウジュウの方を向く。
ギュウジュウ『妻が来ぬなら、そちが晩酌の相手をせよ。』
顔をそむけるスリョク。
スリョク『…誰があなたとなど!』
スリョクの顔を見つめるギュウジュウ。
ギュウジュウ『断れば、王妃が王命に背いたことは宮中に知れ渡ることになるだろう。』
ギュウジュウを睨み付けるスリョク。
スリョク『脅すのですか!』
ギュウジュウ『脅しではない。ただ女官たちは口が軽いものが多い。俺が今日のことを不問にすれば良いだけのこと。』
スリョク『なら!尚更、お受け…。』
ギュウジュウ『良いのか?お前の主は婚礼の儀で各国の王たちの心象、ひいては宮中の者達の印象を悪くした。その上、王命に背いたとあらば更に立場は悪くなる!テウシン王国の再興も夢のまた夢だぞ!』
ギュウジュウから顔をそむけるスリョク。
スリョク『くっ…。』
スリョクはギュウジュウの顔を見つめる。
スリョク『分かりました。お受けします。』
ギュウジュウに背を向け、鶴の間に入って行くスリョク。ギュウジュウはスリョクの背を見つめた後、鶴の間に入って行く。
C3 脅迫 END
C4 晩酌
ダンレン宮殿後宮鶴の間。机の上に並べられた料理の前に立つスリョク。鶴の間に入るギュウジュウ。スリョクはギュウジュウを見つめる。
ギュウジュウ『どうした?座るがよい。』
スリョクはギュウジュウから目をそらして、料理の前に座る。スリョクが座ったのを見た後、彼女の傍らに座るギュウジュウ。彼はスリョクの方を向く。
ギュウジュウ『酒は飲めるか?』
料理の方を向くスリョク。
スリョク『飲めません!』
ギュウジュウは料理の方に手を向ける。
ギュウジュウ『好きなものをとるといい。』
眉を顰めるスリョク。
スリョク『いりません!』
俯くギュウジュウ。
ギュウジュウ『そうか…。なら一献。』
盃を持った手をスリョクの前に出すギュウジュウ。スリョクはギュウジュウを見つめた後、酒を盃に注ぐ。ギュウジュウは盃に入った酒を飲み、正面を向く。
ギュウジュウ『…父上が生きておれば、今頃バーベキューをしていただろうな。』
ギュウジュウはスリョクの方を向く。首を傾げ、ギュウジュウの方を向くスリョク。
ギュウジュウ『どうした?』
スリョクはギュウジュウから目を背ける。
スリョク『べ、別に。』
ギュウジュウ『…バーベキューを知らんのか?』
ギュウジュウは並べられた料理の方を向き、スリョクの前に盃を持った手を出す。
ギュウジュウ『野外で肉や魚、野菜などを焼いて一同で食事するものだ。』
酒を飲むギュウジュウ。
ギュウジュウ『父は後宮の女官達や民衆を含めて盛大にそれを毎年執り行った…。』
俯き、スリョクの前に盃を持った手を出すギュウジュウ。スリョクは盃に酒を注ぐ。酒を飲むギュウジュウ。
ギュウジュウ『戦では常に先陣に立ち、各王達を統制し、伝統を重んじ、人民から慕われた父上…。』
スリョクの前に盃を持った手を出すギュウジュウ。スリョクは盃に酒を注ぐ。
ギュウジュウ『…陣中にありながら俺の世話を良くしてくれた父上。俺は…父上には到底及ばない…。』
酒を飲みほすギュウジュウ。
ギュウジュウ『父上!なぜ死んだ!!』
ギュウジュウの眼から涙がこぼれる。スリョクはギュウジュウを見つめる。
ギュウジュウ『あんなにご苦労をかけたのに俺はそれに報いるどころか…国の状況がそうせざるをえなかったにせよ喪に服すこともせずに即位した…。なんたる不忠者か!』
ギュウジュウはスリョクの方を向き、
ギュウジュウ『…あのようなことを言ってすまない。今夜は…とても一人ではいられなかった。父上が殺され、ヂョルガロンの王として重責、そしてテウシン王国の姫を娶ることの責務…。押し潰されそうだった。』
スリョクは眉を顰める。
スリョク『ならば、おねえ様の望みを叶えて下さい。』
ギュウジュウはスリョクを見つめ立ち上がる。
ギュウジュウ『…するのはいひ。しか〜し、各国の王は反対しておる。特にファボスとダンジョンの二人は強硬にな。父上がしょう…承諾すれば抑えられるが…今はもういない…。もし、俺が強硬でもしようなら…内乱が…起こり…国家滅亡。』
ギュウジュウを睨み付けるスリョク。スリョクを見つめ、一歩前に出るギュウジュウ。彼はバランスを崩しスリョクの上に覆いかぶさる。
スリョク『きゃっ!』
仰向けになるスリョク。床に手を当てスリョクの顔を見つめるギュウジュウ。
ギュウジュウ『あっ…。』
吐く息と共に揺れるスリョクの体。
ギュウジュウ『す、すまな…い…。』
ギュウジュウはうつ伏せになるギュウジュウ。スリョクは上体を起こし、ギュウジュウを見つめる。眼を閉じ、吐息を立てるギュウジュウを見つめ、眉を顰めるスリョク。
スリョク『しょうがないお方…。』
スリョクはギュウジュウを仰向けにし、彼の頭を自身の膝にのせる。
C4 晩酌 END
C5 朝帰り
ダンレン宮殿後宮鶴の間。小鳥の囀り。眼を開き、布団から飛び起きるスリョク。
スリョク『わ、私は?』
周りを見回すスリョク。
スリョク『これは…。』
スリョクの眼に枕元に置かれた手紙が置かれている。それをとり、暫し読むスリョク。スリョクは目を見開き、胸に手を当てて顔を赤らめる。顔を上げ、首を横に振るスリョク。
スリョク『い、いけない!おねえ様のもとに戻らないと。』
スリョクは立ち上がり、鶴の間から駆け出ていく。
ダンレン宮殿王の間とダンレン宮殿後宮をつなぐ渡り廊下に立つギュウジュウ。その前には新しく大臣に任命されたリンパク、ソンタク、シャクノツゴーらが並ぶ。
リンパク『…殿の即位には出席を表明し、我がヂョルガロンの国王即位と結婚式を無視するとは!』
ソンタク『貴族連合め!』
鼻で笑うギュウジュウ。
ギュウジュウ『おいおい、お前ら、奴らから祝福されなかったのが、そんなに悔しいのか?ツァグトラの話によりゃ、あいつらは自分のミスを他人に押し付けたクソ野郎どもだろう。そんな奴ら等の祝福などこちらから願い下げだ!アホらしい。そう思わんかシャクノツゴー。』
足音。ダンレン宮殿後宮中庭を駆けるスリョク。彼女の方を見る一同。ギュウジュウはスリョクを見つめ手を振る。
ギュウジュウ『おお〜い!スリョク!スリョク!』
立ち止まり、ギュウジュウの方を向くスリョク。ギュウジュウはスリョクに手招きする。渡り廊下の方へ行き、ギュウジュウを見上げるスリョク。ギュウジュウはスリョクを見つめ、微笑む。
ギュウジュウ『昨日はありがとう。』
スリョクはギュウジュウの顔を見て、深く頭を下げる。
ギュウジュウ『そうかしこまらなくてもよいぞ。顔を上げてくれ。』
顔を上げギュウジュウを見つめるスリョク。
ギュウジュウ『またな。』
ギュウジュウはスリョクに手を振り、リンパク、ソンタク、シャクノツゴーと共に去って行く。手を振るスリョク。
スリョク『ギュウジュウ様…。』
眼を見開き、口に手を当て首を横に振るスリョク。彼女は渡り廊下に背を向け、中庭を駆けていく。ダンレン宮殿後宮。スヒィンの部屋。扉を開けるスリョク。彼女を見つめるスヒィン。
スリョク『只今戻りました。』
スヒィンはスリョクに駆け寄る。
スヒィン『スリョク!』
スリョク『も、申し訳ありません。』
スヒィンはスリョクを見つめる。
スヒィン『怪我はありませんか?私のせいで酷い仕打ちを…。』
首を横に振るスリョク。
スリョク『いいえ、何も。ただ、お酒を注いだだけです。』
下を向くスヒィン。
スヒィン『なんてこと!私の為に申し訳ありません。』
首を横に振るスリョク。
スリョク『そんなことはありませんよ。』
スヒィンの傍らに寄り、彼女の肩を抱き寄せるスリョク。
スリョク『私はあなたの侍女です…。』
C5 朝帰り END
C6 おねだり
ダンレン宮殿後宮。スヒィンの部屋。扉が開きスヒィンが現れる。スヒィンの方を向くスリョク。
スリョク『お帰りなさいませ。』
スヒィンはスリョクを見つめ、俯く。スリョクはスヒィンを見つめる。
スリョク『どうかなさいましたか?』
スヒィン『ツァ王国の王が亡くなりました。』
瞬きするスリョク。
スリョク『ツァ王国の王様が…。』
スヒィン『ツァ王国の王の葬儀と王子の国王即位式に…。』
ため息をつくスヒィン。
スヒィン『王と共に同席することは許されませんでした。』
眉を顰めるスリョク。
スリョク『…そんな。』
ため息をつくスリョク。
スヒィン『…そこには貴族連合も来るというのに。』
眼を見開くスリョク。スヒィンは俯いたまま、スリョクの横を通り過ぎ、椅子に座る。スヒィンの方を向くスリョク。
スヒィンは書を開き、読む。
スヒィン『…王は数日間この地を留守にします。』
書から目を離し、正面を向くスヒィン。
スヒィン『その間に…この地の施政を視察したいのですが。』
頷くスリョク。
スリョク『はい。それなら視察の手続きを…。』
首を横に振るスヒィン。
スヒィン『それでは民は改まってしまって本来のあり方が見えません。』
スリョク『…えっと、それではいったい…。』
頷くスヒィン。
スヒィン『民にまぎれて見ます。』
眉を顰めるスリョク。
スリョク『それは危険です!そういうことはシルパラ様に相談した方が…。』
首を横に振るスヒィン。
スヒィン『駄目です。シルパラはツァ王国の王の葬儀と王子の国王即位式へ強行すると考え、ものものしい護衛をつけることでしょう…。』
眉を顰めるスリョク。書を閉じ、眼を閉じるスヒィン。
スヒィン『スリョク。手配の方をお願いできませんか?』
胸に手を当てるスリョク。
スリョク『スヒィン様…。』
ダンレン宮殿正門の脇で跪くスリョク。正門の階段を門番Aとともに降りていくギュウジュウ。
ギュウジュウ『…ら出立だというのにな。』
門番A『申し訳ありません。しかし、女官の方があまりにも必死に懇願するもので…。』
スリョクの正面に立つギュウジュウと門番A。スリョクに手を向ける門番A。
門番A『この方です。』
スリョクを見下ろすギュウジュウ。
ギュウジュウ『…スリョクか。』
ギュウジュウを見上げるスリョク。
ギュウジュウ『お前の方から俺を呼ぶとはな…。』
スリョクはギュウジュウの顔を見つめる。門番Aの方を向くギュウジュウ。
ギュウジュウ『この女官と話がある。何、妻の侍女だ…。』
スリョクの顔を見つめ、眼を見開き、口に手を当てる門番A。
ギュウジュウ『そういうことだから少し外してくれないか?』
ギュウジュウの顔を見、一礼する門番A。
門番A『はっ。』
去って行く門番A。ギュウジュウはスリョクの方を向く。
ギュウジュウ『…しかし、後宮を抜け出すとは。わざわざ俺に会うために。』
スリョクは下を向く。
スリョク『…いえ。』
首を傾げるギュウジュウ。
スリョクはギュウジュウを見上げる。
スリョク『恐れながら…王様。おねえ…お、王妃様がこの国の施政を民に扮して見たいと申しております。』
ギュウジュウは苦笑いを浮かべる。
ギュウジュウ『民に扮して?わざわざ?視察の許可を取れば良いだけの…。』
首を横に振るスリョク。
スリョク『それでは駄目なのです。民が改まってしまって本質が見えない…と。』
下を向くスリョク。
ギュウジュウ『それで…俺に相談と。相手が間違っていないか?これを知ったらお前の主はお前を…。』
スリョク『承知しております。しかし、王妃様はシルパラ殿には頼めないと…。私には王様しか頼る方はいないのです。』
ため息をつくギュウジュウ。
ギュウジュウ『なるほどな。困った花嫁だな。ふむ。女二人だけでは不安であろうな。』
ギュウジュウは暫し顎に手を当てる。
ギュウジュウ『…腕の立つ奴なら知っている。』
スリョク『本当ですか?』
頷くギュウジュウ。
ギュウジュウ『しかも、かなりの美形だぞ。…ただ。』
首を傾げるスリョク。
スリョク『ただ?』
ギュウジュウ『あいつはウブだからな。』
スリョク『は?』
何回も頷くギュウジュウ。
ギュウジュウ『まあよい。王妃がそのような考えであれば、ことは内密に進めねばなるまい。後で王の間へ来るが良い。そうだな正午頃に。』
眼を見開くスリョク。
スリョク『えっ?よ、よろしいのですか?』
後頭部に手を当て、2回叩くギュウジュウ。
ギュウジュウ『妻の頼みとあらば仕方あるまいよ。』
ギュウジュウはスリョクを暫し見つめる。
ギュウジュウ『では、王の間で。』
去って行く、ギュウジュウ。スリョクはギュウジュウの後姿を見つめる。
C6 おねだり
C7 変装
正午。ダンレン宮殿後宮に続く王の間の前の渡り廊下。その横に現れるスリョク。
ユーリの声『ううっ、本当にこの様なことが必要なので?』
ギュウジュウの声『しっ、声が大きい。ことは内密に進めなければならん。が、しかし、良く似合っているな。綺麗だぞ。今すぐに抱きたいくらいにな。ほれぼれするぞ。』
ユーリの声『ちゃ、ちゃかさないでください!…はぁ…こんな…。』
王の間の前に立つスリョク。
スリョク『スリョク、参りました。』
王の間の扉が開き、スリョクを見つめ、手招きするギュウジュウ。
ギュウジュウ『おう、スリョクか。良く来た。さ、入れ。』
瞬きするスリョク。
スリョク『…よろしいので?』
ギュウジュウは
ギュウジュウ『よいから入れ。』
ギュウジュウはスリョクの手を引き、王の間に引き入れる。
スリョク『ああっ。』
王の間の扉を閉じるギュウジュウ。ギュウジュウはスリョクの肩を持ち、傍らに引き寄せる。
スリョク『あっ…。』
スリョクはギュウジュウの顔を見上げ、暫し見つめる。ギュウジュウはスリョクの方を向く。
ギュウジュウ『どうした?』
下を向くスリョク。
スリョク『いえ…別に…。』
ギュウジュウは前に立つ女官の服を着たユ王国国王の容姿端麗なユガの息子で容姿端麗なユーリの方を向く。続いてユーリの方を向くスリョク。彼女はユーリを暫し見つめる。スリョクの方を向くギュウジュウ。彼らから赤らめた顔をそむけるユーリ。
ギュウジュウ『紹介しよう。この男が…。』
眼を見開き、ギュウジュウの方を向くスリョク。
スリョク『男!!』
ギュウジュウはスリョクの口をふさぐ。
ギュウジュウ『騒ぐでない。ことは内密に…だろ。』
2回頷くスリョク。
ギュウジュウ『…ユ王国国王ユガ殿の息子のユーリ。』
スリョクはユーリを見つめる。
スリョク『ユ王国の…。』
頷くギュウジュウ。
ギュウジュウ『今しがた公の場で女人護衛官に任命した。』
首を傾げるスリョク。
スリョク『…でも、女人護衛官に任命されたなら…こんな格好…。』
頷くギュウジュウ。
ギュウジュウ『それはさ…ゴホン。女人護衛官がそのまま女官の部屋へ行ったら目立つであろう。』
頷くスリョク。
スリョク『確かに…。』
ギュウジュウ『民の衣装は用意してある。残念だが、俺ができるのはこのままだ。』
スリョクはギュウジュウを見つめ、頭を深々と下げる。
スリョク『この様なことまでして頂いて真にありがとうございます。』
スリョクを見つめ、頭を撫でるギュウジュウ。
ギュウジュウ『なに、これは…そなたの…妻の為だ。』
ダンレン宮殿後宮回廊を歩くスリョク。後を続く荷物を持ったユーリ。前方に現れる女官A〜AC達。スリョクの後ろに隠れるユーリ。彼を一斉に見る女官A〜AC。ユーリは顔を下に向けスリョクの傍らに寄り、腕を掴む。頬を赤らめるユーリを見つめるスリョク。通り過ぎる女官A〜AC。スリョクの腕を握りしめるユーリ。彼の方を向くスリョク。
女官A『…今の方、綺麗な子ですね。』
女官O『新入りの子ですかね。』
女官B『あんな小娘より私の方が可愛いですわ!』
女官AB『今日の献立は…。』
去って行く女官A〜AC。後ろの方を何回も振り返るスリョク。女官たちが居なくなるとスリョクはユーリの方を向く。
スリョク『…痛いです。』
ユーリはスリョクを見、手を離し、頭を下げる。
ユーリ『ご、ごめんな…。』
ユーリの口を押え、自身の口の前に人差し指を立てるスリョク。
スリョク『声を立てないでください。ばれます。』
スリョクを見つめ、何回も頷くユーリ。
ダンレン宮殿後宮スヒィンの部屋の前に立つスリョクとユーリ。
スリョク『…ここが王妃様のお部屋です。』
ユーリはスヒィンの部屋を見つめ、顔を真っ赤にする。震える彼の体。扉を開けるスリョク。
ユーリ『あっ…。』
スリョク『スヒィン様。只今、戻りました。』
椅子に座り、扉の方を向くスヒィン。
スヒィン『スリョク…。』
スヒィンは胸に手を当て、顔を下に向けるユーリの方を向く。
スヒィン『…その方は?』
スリョクはユーリの方を暫し見つめる。
スリョク『どうしたのです?』
ユーリ『あ、あの…その…。』
スリョクはユーリの手を引き、スヒィンの部屋に引き入れ、扉を閉める。
スリョク『この方は女人護衛官でユ王国国王ユガ様の息子のユーリ様です。』
眼を見開くスヒィン。
スヒィン『ユ王国の王子…。お、男の方?』
跪き、頭を下げるユーリ。
ユーリ『は、はい。』
スリョクはスヒィンを見つめる。
スリョク『…この方が今回の視察に協力してくれると。女人護衛官の格好では目立つため、この様な女官の格好で…。』
身を乗り出すスヒィン。
スヒィン『真か?真なのかスリョク。』
頷くスリョク。
スリョク『はい。民の衣装まで用意していただきました。それに…護衛もして頂けると。』
微笑むスヒィン。彼女はユーリの前まで歩く。
スヒィン『顔を上げてください。』
下を向くユーリ。スヒィンは屈み、ユーリを見つめる。
スヒィン『どうしたのです?表を上げてください。』
ユーリ『あ、そ、その…。』
顔を上げるユーリ。ユーリの顔を見、眼を見開き、暫し見つめるスヒィン。ユーリは頬を赤らめながらスヒィンの顔を暫し見つめる。
二人の方を何回も向くスリョク。
スリョク『あの…どうなさいました?』
瞬きするスヒィン。
スヒィン『あ…その…。この度のご協力に感謝いたします。視察の御助力宜しくお願いします。』
頭を深く下げるユーリ。
ユーリ『…は、はい。王妃様。』
ダンレン宮殿後宮スヒィンの部屋。扉に映るユーリの影、スヒィンの服を脱がし、民衆の衣装を着せるスリョク。
スヒィンは着た民衆の衣装を見つめる。
スヒィン『これが…民の服。』
スリョク『良く似合っておいでです…。』
スリョクは口に手を当てる。
スリョク『あっ…。何か変ですね。』
首を横に振るスヒィン。
スヒィン『女官の服よりも随分と簡単なものなのですね…。』
C7 変装 END
C8 視察
ダンレン宮殿後宮正門に立つ女人護衛官の服装をしたユーリ。その後ろには民の服を着、笠を被ったスヒィンにスリョク。
ユーリは門番の前に立つ。
ユーリ『この度、女人護衛官に任命されたユーリです。』
一礼する門番B。
ユーリ『この度、この者達の買い出しに同伴します。』
門番Bはスヒィンとスリョクの方を向いた後、ユーリの方を向く。
門番B『分かりました。』
門番Bは城門横の小さな扉を開ける。手招きするユーリ。スヒィンとスリョクはその扉を潜り、後に続くユーリ。
城門を出て、暫く歩き、周りを見回した後、草の茂みに入る3人。
ユーリ『あの…後ろを向いていて頂けませんか。』
頷くスヒィンとスリョク。
ユーリは女人護衛官の服を脱ぐ。
ユーリ『おわりました。』
眼を見開き、ユーリの方を向くスヒィンとスリョク。
スヒィン『えっ?もう…。』
頷き、女人護衛官の服を袋にしまうユーリ。
ユーリ『ええ。女人護衛官の服の下に着ていましたから。』
顔を見合わせ、笑い出すスヒィンとスリョク。
ヂョルガロン王国首都ブザの市。野菜や果物、肉や魚が並や装飾具などが並び、賑わう人々。
進むユーリの後ろにつくスヒィンとスリョク。口笛。立ち止まるユーリにスリョクにスヒィン。ござの上に座るリマ教の修行僧パゴタ。彼は、並べられた酒の種類の違う瓶を箸で叩く。
パゴタ『
あらさっさ 何も変わらぬ 代替わり
収賄 汚職 人身売買 女に 金に 権力か
よい
道義 情義に 徳さえ忘れ
汚き 汚き 謳歌の世
人道廃れて 礼儀 道徳 機能無し
飽くなき 飽くなき 欲望に 利益求めて 貪欲に
民衆騙して
』
パゴタの前に出るヂョルガロン王国兵士A。
ヂョルガロン王国兵士A『くっだらない歌が聞こえてくると思ったら、またお前か!ちょっと署まで来い!』
笑みを浮かべるパゴタ。
パゴタ『宜しいでしょう。』
ヂョルガロン王国兵士A『今日こそ、お前の鼻をへし折ってやるからな!』
ヂョルガロン王国兵士Aに連れて行かれるパゴタ。顔を見合わせるスヒィン達。
ヂョルガロン王国首都ブザの市。腰をかがめ、装飾品を眺めるスヒィン。スリョクとユーリがスヒィンの方を向く。
スリョク『可愛いですね。おねえ様には似合うかも…。』
スヒィン『そうかしら…。』
スヒィンは元の姿勢に戻る。背中に当たるダンゴ虫人マルマルンヨの背。よろけて人ごみの中に入るマルマルンヨ。周りを見回すスヒィン。
スリョク『どうかなさいました?おねえ様。』
スヒィン『いえ、今何かにあたったような…。』
スヒィンの傍らに寄るユーリ。
ユーリ『次へ参りましょう。』
頷き、進むスヒィン達。人ごみを駆け分けて出て来るマルマンヨ。彼はスヒィンの傍らに立つ。眼を見開くスヒィン。ユーリがスヒィンの前に立つ。彼らを見下ろすマルマルンヨ。
マルマルンヨ『おい、お前。ぶつかっておいて…俺のことを丸無視か!』
眼を見開き、震えるスヒィン。腰にぶら下げてある木の棒を手に持ち、構える。ユーリはスヒィンの方を向いた後、マルマルンヨを睨み付ける。
ユーリ『あたってしまったことは悪かったが、何も悪気があってやったことではない!』
ユーリを睨み付けるマルマルンヨ。
マルマンヨ『うるせえ!つべこべなんくせつけて言いやがって!ぶっ殺してやんよ!!』
マルマルンヨは体を丸め、両手の木の棒を振り回しながら突進する。腰を抜かすスヒィンとスリョク。舌打ちするユーリ。彼は最寄りの野菜店に並ぶごぼうを取る。
ユーリ『この棒借りるぞ!』
ユーリの方を向く店主A。
店主A『それ、ごぼう…。』
ユーリはごぼうを持ち、マルマルンヨの甲殻に打ち付る。砂煙が巻き起こる。集まる民衆。砂煙が晴れ、マルマルンヨの体をごぼうと両手で押さえるユーリ。開くマルマルンヨの体。体を前後させるマルマルンヨ。ユーリは額の汗を腕で拭う。ユーリに駆け寄るスヒィン。
スヒィン『ユーリ!ユーリ!』
スヒィンはユーリに抱き付く。歓声を上げる民衆たち。起き上がるマルマルンヨ。
マルマルンヨ『きさまー。』
マルマルンヨの方を向くスヒィン達。バイクの音。民衆を掻き分け、現れる。ヂョルガロン王国のアウトロー集団の一つシシ党の亜人・獣人の面々。先頭を走るバビルサ獣人でシシ党の首魁キバシシ。彼らを見るスヒィン達。シシ党の面々達はスヒィン達の前で止まる。バイクをふかし。スヒィン達を向くキバシシ。彼の傍らに寄るマルマルンヨ。
マルマルンヨ『あ、兄貴ー。』
マルマルンヨはスヒィン達の方を指さす。
マルマルンヨ『あいつらにやられちった…。』
マルマルンヨの方を見た後、スヒィン達の方を向くキバシシ。
キバシシ『砂煙が上がったから来てみりゃ、どうも兄弟が世話になったみたいじゃねえか。』
キバシシを睨むユーリ。
ユーリ『この者が…。』
スヒィンの方を向く。
ユーリ『この方の体にぶつかったことを口実に襲い掛かってきたのだ。』
顎に手を当て頷くキバシシ。
キバシシ『ふん。そうか。ま、理由はともかくこのシシ党にたてついたんだ。落とし前はつけてもらう。面かせや。』
キバシシを見つめるユーリ。顔を見合わせるスリョクとスヒィン。
キバシシの後ろを歩くシシ党の面々に囲まれたユーリ達。スヒィンはユーリの方を向く。
スヒィン『…ユーリ…様。本当に申し訳ありません。私は…。』
ユーリ『良いのです。私にはあなた方を守る責務があります。きっと宮殿まで送りますから…。』
俯くスヒィンとスリョク。
C8 視察 END
C9 決闘
ヂョルガロン王国ゲルゲ川。河川敷で止まるシシ党の面々達。河川敷に集まる人々。顔を見合わせるスヒィン達。キバシシは首を鳴らす。
キバシシ『さて…。』
キバシシはユーリを見つめ、木の棒を投げる。木の棒を受け取るユーリ。
ユーリ『これは…。』
キバシシ『おい、ジラジラ。』
キバシシの傍らに駆け寄るホジラ獣人のジラジラ。
キバシシ『このお嬢さん方を特等席にお連れしろ。』
頷きスリョクとスヒィンを両脇に抱えるジラジラ。
スヒィン『きゃあ!』
スリョク『やっ!』
一歩前に出て、木の棒を構えるユーリ。
ユーリ『貴様!あの方たちに手を出したら、ただでは済まさんぞ!』
笑うキバシシ。
キバシシ『いい闘志だ!』
キバシシはユーリを睨み、木の棒を構える。
キバシシ『マルマルンヨの仇だ!かかってこいや!』
キバシシの一閃。飛んで避け、上段から木の棒を振り下ろすユーリ。木の棒を横に構え、その一撃を受け止めるキバシシ。歓声が上がる。民衆達の間を移動するシシ党の売り子たち。
シシ党の亜人A『はぁ〜い。ポップコーンは如何?ポップコーンだよ!』
シシ党のウリボウ獣人A『ビールだよ。ビール!キンキンに冷えていて美味しいよ。』
彼らの方を向くスヒィンにスリョク。
スリョク『おねえ様…。これはいったい。』
スヒィン『…何でしょう。これは…。』
打ち合うユーリとキバシシ。ユーリの一閃を後ろに飛んで避けるキバシシ。
キバシシ『やるじゃねえか。』
ユーリ『そちらこそな!』
息を切らす両者。サイレンの音が鳴り響く。顔を見合わせる民衆達とシシ党の面々。キバシシはユーリの前に手を向ける。
キバシシ『待て!』
ユーリ『…なんだ?参ったのか…。』
キバシシは口を大きく開ける。
キバシシ『官憲だ!逃げろ逃げろ!』
眼を見開くユーリ。
ユーリ『…へっ!』
キバシシはユーリを抱える。
キバシシ『つべこべ言わずにずらかるぞ!売り上げは頂いたんだからな!』
ユーリ『はっ!え…??』
河川敷から逃げていく面々。
C9 決闘 END
C10 祝宴
ヂョルガロン王国。キュリョウ廃城に駆け込み、息を切らすシシ党の面々。崩れた天井にぶら下がるシャンデリア。キバシシの方を向くユーリ。
ユーリ『おい。これはいったいどういうことだ。』
キバシシはユーリの前に手を向ける。
キバシシ『まあ、待て。』
肩からスリョクとスヒィンを下すジラジラ。キバシシは周りを見回す。
キバシシ『ふぅ。どうやら全員逃げおおせれたようだな。』
キバシシはリス獣人の少女ケトラバサレの方を向く。
キバシシ『ケトラバサレ。どうだ。売り上げは。』
ケトラバサレ『上々。上々。』
ユーリ『売上…。』
キバシシ『ちょっと官憲が来るのが早すぎたな。』
眉を顰めるユーリ。
ユーリ『貴様!』
ユーリはキバシシの胸ぐらを掴む。
キバシシ『悪い悪い。あんたらをだしに使っちまってよ。ま、許してくれや。マルマルンヨを倒したんだ。あんたとの勝負なら、儲けれると思ったのよ。』
キバシシはスリョクとスヒィンの方を向く。
キバシシ『お嬢ちゃん達も怖い思いをさせてすまなかったな。』
マルマルンヨはキバシシの傍らに寄る。
マルマルンヨ『えー。俺は?』
キバシシ『だいたいお前のせいだろうが!』
マルマルンヨの頭を叩くキバシシ。
キバシシ『いってー!』
笑い出す一同。
キバシシ『詫びに宴席をするからそれで許してくれや。』
ユーリはスヒィンとスリョクの方を向く。頷くスヒィン。
月明かりに照らされたキョリュウ廃城。食材を煮る大鍋。その周りにはシシ党の面々。座って彼らを見つめるスヒィン達。大鍋の蓋に手を伸ばすマルマルンヨ。
マルマルンヨ『ど〜れ。』
マルマルンヨの手をお玉で叩くケトラバサレ。
マルマルンヨ『った…。』
ケトラバサレ『まだ駄目よ。あんたにははやい。』
キバシシはジラジラの方を向く。
キバシシ『酒はあるよな。』
頷くジラジラ。茂みの間を揺れる影。鍋から食材をお椀に取り出すケトラバサレ。酒樽を持って来るジラジラ。
声『おお、あなたがた、こんな所で何をやっているかと思えば!』
茂みに揺れる影の方を向く一同。茂みから現れるパゴタ。眼を見開くキバシシ。
キバシシ『おう!これは先生ではありませんか!』
キバシシの方へ歩くパゴタ。
パゴタ『いい匂いがすると思えば、料理に酒。今日もまた祝宴です。』
キバシシの横に座るパゴタ。
キバシシ『…また官憲の野郎を論破したんですか。少しは勝ちを譲ったらどうです。酒が無くなっちまいますよ。』
パゴタはスヒィン達の方を向く。
パゴタ『この方たちは…。』
頭を掻きながら、何回も頭を下げるキバシシ。
キバシシ『ええ。成り行きで。』
パゴタ『そうですか。』
パゴタはスヒィン達の方へ行く。パゴタを見上げるスヒィン達。
パゴタ『初めまして…ではありませんね。市に居た方々でしょう。』
眼を見開くスヒィン達。
パゴタ『この地ははじめてですか?』
頷くスヒィン。
スヒィン『…はい。』
パゴタ『市はどうでした?』
スヒィン『とても盛況でにぎわっていて…。』
微笑んで頷くパゴタ。
パゴタ『…表向きはね。』
眉を顰めるスヒィン。
パゴタ『おっと。折角の酒宴の酒が不味くなる話でした。』
スヒィンに背を向け、キバシシの方へ向かうパゴタ。パゴタは顔の横で手を叩いて音頭を取りながら進む。
パゴタ『
浮世の 憂い 流そう 酒に
』
パゴタは酒樽を持ち上げる。頭を抱えるキバシシ。
キバシシ『あっちゃー。また、酒が…。』
パゴタ『
よい よい よい よい
』
酒樽の栓を開け飲むパゴタ。手拍子。
パゴタ『
飲もう 長命 霊薬 百薬の
』
酒樽を掲げるパゴタ。
シシ党の一同『
飲兵衛 飲みすぎ 二日酔い 飲まれるな
』
笑うスヒィン。彼女を見つめるユーリとスリョク。
C10 祝宴 END
END
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