義輝記 星霜の章 その二十八
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【 真の策士は…? の件 】

 

? 司州 河南尹 鶏洛山付近の山頂 にて ?

 

稟「風! その旗を早く掲げて下さい!」

 

風「ぬふふふっ! 兵の皆さん!! この旗を北側に向けて振って下さいー! 良いですかー! 出来るだけ大きくユックリ振って下さいー!!」

 

洛陽兵「はい!」

 

稟「今度は南側に向けて、この旗を振って下さい!!」

 

風「にゅふふふふっ! この旗も同じように大きく振るんですよー!」

 

洛陽兵「は、はいっ!」

 

風の様子が可笑しいのは、今に始まった訳ではありません。 しかし、今回は異常……。 この陣地に来てから特に酷いですよ。 何を考えているのやら?

 

稟「………何をまた……気持ち悪い含み笑いをしているのですか? 無理をして体調でも崩しましたか、風? 私に出来ることがあれば………」

 

風「だって……風を馬鹿にしてきた人達に、風の策を見せ付けてあげれるじゃないですかー! 風は優秀な軍師だと云う事がー!!」

 

風が『むふぅ』とドヤ顔を表し、手を腰に当て背中を反り返す。 

 

そんな様子に呆れつつ、眼鏡を人差し指でクイッと直し、私は正論をぶちまけた。 私が心配したのに……また前の……くだらない理由……だったとは!

 

風「風にとっては重要かつ大事な問題ですー!!」

 

稟「……人の心を勝手に読まないで下さい!! そもそも──この策の半分以上は、天城殿の提案ですよ? 確かに、私と風で改良した所もありますが。 それでも、全部が全部ではありません!!」

 

風「ですが──! この策の大元は、風の『十面埋伏の計』だと颯馬お兄さんより伺いましたよー! だから、風の策として自慢しても、差し障りは無いのですー!!」

 

稟「と云っても、風の策とは似ても似つかない別物です! これを風の策だなんて、おこがましいのに程があります!!!」

 

稟、風「「 ぬぬぬぬぬぬぬぬ!! 」」

 

正論を叩きつけけても、その正論を巧みに返す我が友人。 

 

頼もしくもあるが……非常に鬱陶しい! 大体、その笑い方で兵が怯えてしまうじゃないですか!! 貴女のせいで、天城殿の策が崩壊!? そんな馬鹿げた事で私の苦心と天城殿達の努力は───水泡と帰すところだったんですよ!? 

 

二人が顔を突き合わせ睨み合う中、華雄が急いで訪れる!

 

華雄「おい! 北側と南側から、旗が振られてきたと兵より連絡が……って何をしている!? 馬鹿な事は止めて……早く指示してくれ!!!」

 

私と風は、一緒に顔を背けて、北と南の兵士に連絡をしに行きました。

 

松永の策が、ここまで根深く残るとは………。 

 

いや、『こめんと欄』なる所に記載された風の悪口が、余りにも巧みに風の琴線へ触れたのか……。 どちらかと言えば、触れた場所が……逆鱗だった? 

 

それを的確に書き入れた二人は──────何者!?

 

ゾクッ!!  ────グッ!

 

考えていて………急に背筋が寒くなり、思わず両肩を抱く! 

 

深入りすると……生きて帰れるか分からない。 『好奇心は猫をも殺す』と云うし、今は静観をしよう。 それに、この事で風に対すると平行線を辿るばかりだ。 双方関わらない方が無難。 私の身体や精神まで削られるから!

 

しかし……策謀の良き手本になりそうな事。 無事に生きて帰れたら、私も見に行こう。 風に対する悪口を拝見して、今後の謀への糧にしよう!

 

そう……私は心の中で……誓うのだった。

 

 

◇◆◇

 

【 楽屋裏 の件 】

 

? 司州 河南尹 鶏洛山周辺 にて ?

 

 

謙信「私達の出番が………やっと回ってきたな!」

 

信玄「成る程……白蓮の苦渋もよく分かりました! 何時も……このような待遇を受けているなんて……不憫な将!(つд`)」

 

白蓮「おいっ! 何を納得している! 同情するなら金……じゃなくて、何とか考えてくれ! 私は……まだ太守として名が出てくるが、白馬義従達が不遇過ぎる! 名前なんて二人しか出てこないんだぞ!」

 

信廉「それは……仕方がありません。 作者が『新キャラこれ以上作るのはヤダ!』と駄々を捏ねているそうですから。 しかし……颯馬の策は、今回の戦いで、白馬義従の勇名を挙げるのも目的だそうですよ!」

 

義清「流石、私の兄者だ! 考える事が大きいのぉ!!」

 

信玄「誰が貴女の者ですか! 颯馬は武田家の一員、いえ……私の伴侶も同然です!」

 

謙信「ちょっと待て! いつの間に……そんな話になった! 颯馬は、上杉家の軍師だ! そ、その……私の婿に迎えようと準備も………」

 

信廉「わ、私も姉上と同じ武田家の一員を認めてますが、颯馬の伴侶には……私が成ります! その……お世話をしてきた回数も多いので……!」

 

義清「ま、待てぇ! 私と兄者は兄妹だが……血は繋がっておらぬ! だから、私にも兄者の嫁になる資格があるのじゃ!!」

 

白蓮「おい! 私の話はどうした! いや、確かに颯馬に助けられた事、認めてもいるし感謝もしている! だが! 何故、この場所で婿取り争奪戦が勃発しなければならん! 状況をわきまえてくれ!!!」

 

ーーー

 

昌景「さてさて……儂等はしっかり準備を整えるからの?」

 

国譲「は、はいっ! 宜しくお願いします! 山縣様!!」

 

昌景「うむっ! 儂の姿を見ても侮らず……礼失わずに接するとは、若い者にして立派! 将来、必ず大物に成れるぞ!!」

 

★☆☆

 

大きく開けた場所に、家久と義弘と歳久が並ぶ。

 

そこには……益州の萌の求道集団『東州兵』三万が整列している!

 

家久「皆ぁ! 久しぶり! いえちゃんだよぉ!!!」

 

東州兵「い☆え☆ちゃ────ん☆!!」

 

義弘「何でぇ!? 何でなのぉ!? どうして変質者の集まりが、此処に集まっているのよぉ!?」

 

歳久「(………これも颯馬や月様を救う策の一環です。 観念して下さい、ひろねぇ!!)」

 

東州兵「ひ☆ろ☆ちゃ───ん☆!!」

 

義弘「黙れぇ──!! ………そ、颯馬ぁぁ! これって本当に……策に必要な事なのぉ〜!?」

 

ーーー

 

義久「ひろちゃん涙目ね……。 としちゃん、颯馬君……本当に、これを望んでいたの? なんか……颯馬君が考えているような策じゃないようなー?」

 

義久は天幕の中で正座しながら……二人の様子を心配そうに眺めつつ、歳久へ問いただした。

 

途中で中座して、お茶を啜る歳久は……珍しく『困った』と仕草で表した。

 

歳久「………仕方が無いのです。 ひろねぇが……あれから捨て猫を拾いまくり飼い始めるので、ひろねぇの給金だけでは、猫屋敷の運営が危ぶられています! ですので……こういう舞台演出も受けるか、試してみたのですが……」

 

ーーー

 

東州兵「君の為なら───俺達は死ねる!」

 

義弘「じゃあぁ! 今すぐに目の前から消えてぇぇぇ!!」

 

東州兵『ム☆リ☆!☆』

 

義弘「もう、許さん! そけ直れ!! ( もう、許さない! そこに直れ!! )」

 

東州兵『キャ───ッ! ひろちゃん!!!』

 

ーーー

 

義久「あらあらっ……。 ひろちゃん、本気で怒っちゃったわよ〜?」

 

歳久「観客の反応は上々ですが、ひろねぇの対応がイマイチですね……。 まぁ、東州兵も好きで行っているのですから、多分大丈夫でしょうが……」

 

義久「そうねー。 それに、ひろちゃんの反応を楽しんでるようだから、そのままの素の方が盛り上がるみたい〜。 いえちゃんもノリノリだから……舞台は必ず成功するわ! お姉ちゃん、太鼓判押しちゃう〜!!」

 

歳久「それでは、この大乱に勝ちましたら……本格的に考えましょう!」

 

義久「………ねぇ、としちゃん。 この戦の勝敗を心配しないの? 相手は颯馬君を出し抜いて、愛紗ちゃんで殺すように仕向けた程なのよ? ひろちゃんやいえちゃんも強がってるけど……不安で仕方ないって顔しているのに……」

 

歳久「………そうですね。 確かに恐れはあります。 だけど……あの颯馬なら……天をも騙せるでしょう。 『神情魔謀の天人』、『人越の謀将』と三国志の英雄から謳われる颯馬なら、必ず勝ってくれると信じています!!」

 

義久「うふふっ! お姉ちゃんも颯馬君との『お世継ぎ』を作りたいから、信じてる〜! 必ず、この大乱に勝ってくれるって! それに、私達をこの位置に用意したのは意味があるのよ! そう思っているわ!」

 

ーーーーーー

 

兵「報告致します! 山頂より旗の合図ありと!」

 

昌景「……来たか! 皆、行動を起こす! 儂もお館様達を呼んでくるとしよう!!」

 

ーーー

 

歳久「────士気高揚は終わりました! 全軍! 攻めの準備を!!」

 

 

◆◇◆

 

【 月と義輝 の件 】

 

? 鶏洛山付近 洛陽側 にて ?

 

 

春蘭「一刀! 下がれぇ!! 貴様のような弱い奴では、すぐに殺される! 私の後ろに隠れていろ!!」

 

一刀「馬鹿を言うな! 春蘭一人で先陣を任せられるか! 少しは休んで体力を回復しろ! まだ敵は、殆ど減っていない!!」

 

姉者「一刀の言うとおりだ! 体力の消耗は我々の滅亡を早める! 姉者の隊は一度下がれ! 私の隊が前に出よう!!」

 

流琉「兄様! 兄様も無理しては駄目です! まだ……体調も戻ってないんですから! 無理して怪我でも……もし……死んじゃたりしたら……私、私!」

 

一刀「大丈夫だ! 生きて帰ってくるから! 安心してくれ!!」

 

ーーー

 

最大規模の二十万を誇る曹操軍が百万の傀儡兵達に対応する。 半円形で周囲を固め、敵の侵入を阻む! 

 

季衣「あぁ! 春蘭様ぁ!! 晋軍が数隊抜けて中央に───!!」

 

春蘭「こちらも予備は無い! 前面の敵で精一杯だ!! くそぉ!!!」

 

そして、孫呉の各隊が抜け出る兵に攻撃を仕掛ける!!

 

傀儡兵「ギャハッ!!」

 

─────ブンッ! 

 

雪蓮「…………そう簡単に抜けれるなんて……思わないのが身の為よ!!」

 

ーーー

 

冥琳「左翼側の防御陣が手薄だ! 誰か行ってくれ!」

 

蓮華「私が行く! この場を任せたわ! 冥琳!」

 

冥琳「───! 御武運を!!」

 

★☆☆

 

霞「そないな攻撃で、ウチら抜こうなんて甘いわ! さっさっと討たれてしまいな!! 張遼隊! 引っ掻き回しすでぇ!!」

 

霞が騎馬隊を率いて、劣勢の部隊に対陣する敵を、一時的ながら切り離す!

 

義輝「長慶、一存! 頼めるか!?」

 

長慶「お任せ!」

 

一存「────久しぶりに暴れてやる!」

 

長慶と一存は数千の部隊を伴って向かう!

 

ーーーーー

 

月「義輝さん……哀しくは……ありませんか?」

 

義輝は、傍に居る月が話かけてきたので、指揮を信長に任せて応対した。

 

このような戦場に居るのに関わらず、自分に声を掛けてきたのは……余程……我慢できないのだろう。 颯馬を失った事に。 少しでも力になれればと……そう思っていた。

 

義輝「………確かに、とても辛い出来事……ですな。 掌中の玉を取りこぼして、地面にぶつけて割れてしまったような……喪失感を味わいました! しかし、颯馬がそれを選ぶのであれば、わらわに云える事などありますまい!」

 

義輝は淡々と意見を述べる。 颯馬の選んだ道に悔いなど無いと言わんばかりに。

 

しかし、月は、義輝を見上げて……もう一度……同じ言葉を繰り返す。

 

月「義輝さん……哀しくは……ありませんか?」

 

義輝の口元が固く結ばれる! 目が……少し潤んだ!

 

義輝「わ、わらわは…………」

 

颯馬の意見を尊重したい……と云った。 

 

実際に……そう思っていたのだが、実は……心の奥底に……愛紗に対する恨み、愛紗を大事にする嫉妬、颯馬を失った哀しみ等が渦巻いていた。 

 

自分が御遣いの大将である事、小太郎の暴走があった事で、何とか体面を持てるように出来たのだ。

 

義輝「わ、わらわは………辛い! 寂しい! そ、颯馬の馬鹿者! な、何故、わらわを残して逝く! わらわの想いを打ち明けたのに……何故こうも容易く……この世を去るのじゃ!! 颯馬、颯馬ぁ………颯馬あぁぁぁ!!」

 

月は、地面に両膝を付く義輝を、自分の胸に抱き寄せて、優しく頭を撫でた。

 

月「義輝さん……。 貴女の事は……天城様より何回も聞き及んでいます。 勇猛果敢で才気溢れる活発な御人だと。 ですが……本心は……いつも寂しかったのではないですか?」

 

義輝「……………!」ビクッ

 

月「……誰か安心出来る人が居ないと、落ち着かないのでは?」

 

義輝「………」コクッ

 

月「………やっぱり。 実は……私の乳母、いえ……育ての母、華水お母様もそうでした。 日頃は……とても明るくて、家の中に花が咲いたような暖かさを持つ感じの人ですが……一人になると、よく泣いていたそうですよ……」

 

情報源は『おば様』から聞いたんですけどね……と小さく舌を出して笑う。

 

月「だから……義輝さんも……哀しみを内に溜めていないか……聞いてみたくなったんです。 華水お母様と同じような性格、天城様との付き合いが、私よりも遥かに長い……貴女なら、私よりずっと深く悲しんでいると思って……」

 

落ち着いた義輝は、自分の不明を恥じた。 月を慰めるつもりが、自分の隠していた想いを、綺麗に吐き出されてしまった! 一体どちらが年上なのか?

 

ーーー

 

義輝が月に抱かれて慰めるのを見て、信長が溜め息を吐く。

 

信長「身体だけ成長をしても、心が成長しなければ、真の成長とは言えんようだ! 颯馬よ………私を含む将達を見守ってくれ! この戦、必ず勝って勝利をお前に捧げてやる!!」

 

天に向かい………そう呟いたと云う。

 

ーーーーー

 

恋「皆………恋より離れちゃ駄目!!」

 

白菊「歯応えが無いではないかぁ! 本気を出せ! 本気をぉぉぉ!!!」

 

傀儡兵達が、皇帝陛下達に向かい襲いかかるも、二大武人がそれを易々と阻む! はっきりいって……他の将は護衛と云う名の『案山子』に過ぎない。

 

ねね「むむむむっ! これは……拙いかもしれませんぞぉ!?」

 

翠「どういう事だよ!! 陛下は無事だし、あたし達も余裕がある! これのどこが拙いんだよ!!」

 

蒲公英「抑えて抑えて! ねね! もう少し詳しく教えてぇ!!」

 

ねね「良いですかぁ! ねね達は陛下を守護するように申され、此方に恋殿と参った次第! しかしぃ! ここに来るのは、雑魚に等しい白装束ばかり!」

 

翠「楽だけど、面白みがねぇよなぁ!!」

 

蒲公英「陛下の傍で不謹慎だよ! お姉様!!」

 

ねね「………で、ここからが本題ですぞ! 敵の『筒井』と『松永』はどこに行ったか……お分かりですかな? さっきまで居た所は、既に動いておりますから、探さないと難しいです!」

 

翠「ど、どこだよ!?」

 

蒲公英「…………う〜ん?」

 

ねね「じれったいですので言いますぞぉ! この世界の鍵である『北郷一刀』の命、ねねの君主である、月殿の持つ銅鏡を狙っているのです!!!」

 

『─────────!!』

 

ねね「しかも、気が付いても、ねね達は護衛の名目で動けず! 恋殿達は、前面の敵に数で動けず!! これでは………世界の崩壊は間近!!」

 

蒲公英「ど、どうしよう! どうしよう!? お姉様!! 蒲公英、まだ格好いい人と付き合った事も無いんだよ!? 花も盛りで死んじゃうなんて、蒲公英って美人薄命!?」

 

翠「慌てるな! ………するって云うと、誰かの策か!?」

 

ねね「そう言っているのですぞぉ!!!!」

 

翠「こりゃヤバい! 蒲公英! ねねと一緒に陛下達へ相談して来い! 事態は一刻を争う! 早くしねえと間に合わねぇ───!!」

 

蒲公英「う、うん! ねね、行こう!!」

 

ねね「しかし──間に合わない可能性もありますぞ!?」

 

蒲公英「最後まで諦めちゃ駄目! 諦めるのは、実行に移した後だよ!!」

 

ねね「何やら実感の籠もった言葉ですな!!」

 

 

◆◇◆

 

【 意外な…… の件 】

 

? 鶏洛山付近 洛陽側 にて ?

 

順慶「…………ふふふっ! どうしたの? もう終わりなのですか?」

 

順慶が余裕綽々としている前で、六人の将が……息も絶え絶えで疲労困憊になっていた。

 

星「な、何という強さだ!!」

 

鈴々「にゃ〜〜!! う、腕が上がらないのだぁ!!」

 

道雪「加勢に入っても………この有り様とは………」

 

明命「あの時より……遥かに強く───!!」

 

紫「………………」

 

儁乂「紫! しっかりするんだ!!」

 

★☆☆

 

この戦いの前、始めは、星と鈴々で足止めをしていたが、易々と逃げられた。 

星「待てぇ! 主の前には行かせぬ!!」

 

鈴々「早すぎるぅ! 鈴々でも……追いつけないなんてぇ!!」

 

順慶「遅過ぎますわ! そこで指を咥えて見ていなさい! 貴女達の愛しきオノコの最後を─────!?」

 

後、少しで一刀の居る場所に近付いたところで、一人の将が立ちはだかる!

 

道雪「順慶殿………! この先は、私が行かせません!!」

 

順慶「どうしてです? 貴女も颯馬様に心惹かれる者の一人。 あの者に恨みこそあれば、守る義理など無いでしょう! 今からでも遅くはありません! 私達の味方になり、この輩を蹴散らして、颯馬様の仇を討ちましょう!!」

 

順慶からの提案するも、道雪は即座に却下した!!

 

道雪「思い上がりも大概になさい! 颯馬殿が……どれほど貴女達の我が儘に苦しめられ、尚且つ……それでも心配していたのに! それが、不埒な道士達の甘言に惑わされ、このような事に力を貸すとは!!」

 

順慶「…………白々しい事。 貴女だって、颯馬様の愛を独り占めしたいと考えた事はありましたでしょう? 愛しの殿方に優しく抱かれたい……。 私一人を愛して貰いたい! そんな想いを夢見た筈ですよ!!」

 

道雪「…………不定は致しません」

 

順慶は、険しくなった顔を解くと、疑問に思った事を問いただす!

 

順慶「………では何故! 他の者達を蹴落とし、その寵愛を貰い受けたいと思わないのですか? 道雪殿は、満足しておいでなど────!」

 

道雪「私は………颯馬殿はアレで良いと思うのですよ?」 

 

順慶「──────!?」

 

道雪「此方の想いなどまるで気付かない朴念仁ですが……私が考えている以上に……優しさ、労り、覚悟で接してくれてくれるのです! 私一人で受け止めるには、余りにも幸せ過ぎて……逆に怖くなってしまいます!」

 

順慶「颯馬様が生きていましたら……なんと……思われた事か!?」

 

道雪「結構……恥ずかしそうにしながら、納得してくれるような気がします。 少なくとも、順慶殿や久秀殿の行いには……断固反対するでしょう!」

 

順慶「─────そのため、皆で仲良く愛したい? はっ! 見損ないましたわ! かの鬼道雪ともあろう者が……なんと弱気な発言!! 味方に誘った私が御馬鹿でした。 なら、容赦なく叩き潰して───!?」

 

─────────!!

 

明命「あぁ!! やっと見つけましたぁ────!!」

 

紫「アイツ!!」

 

儁乂「やはり───北郷様を狙うかぁ!!」

 

一刀の行方を探していた三人は、結局……任務を達成出来なかった為、一刀の護衛を行うように意識を切り替えたのだ!

 

順慶「あらあらっ! まあまあっ! 五月蝿い蠅が一気にこんなに!! 丁度良いですわ! 纏めて片付けさせていただきます!!!」

 

 

ーーーーー

ーーー

ーー★

 

あれから、まだ数十合も交えて……この結果。

 

速さに特化した将達の攻撃を、薄笑いしながら避けつつ、必ず置き土産を手渡す律儀なる交差法(カウンター攻撃)! 

 

最初、明命が攻撃を仕掛ける! 

 

明命ならば、今居る将の中では最速を誇る将である。 その明命の攻撃で、相手の出方を知ろうとした為だ!

 

明命「我が刎頸の一撃、存分に味わえ!」

 

魂切(こんせつ)を両手に持ち、順慶の首を狙うが……易々と首を横に傾けて避けられた!? しかも、一瞬、手を動かして……何かを行う!

 

明命「えっ!? ────うぐっ!! そ、そんな……!!」

 

明命の顔に、驚きと痛みにより表情が歪む!

 

左肩より血飛沫が上がった! 致命傷では無いが……かなり深い傷を、負わされた! 本人もいつの間に付けられたのか……分からない!!

 

順慶「氣による五体の活性化で行える、私独自の『流水制空圏』ですわ! 近付けば、致命傷を与える筈でしたのに……流石に将だけはありますわね!」

 

残りの将達は、複数で同時、波状攻撃を行うが……何一つ当たらない! 逆に味方の陣営に被害が増えるのみ!

 

特に紫に、順慶が恨みがあるらしく……執拗に致命傷を狙ったため、遂には避けられず、強力な蹴り技を放ち飛ばされたのだ! 

 

★★☆

 

星「万事………休すかぁ!!」

 

鈴々「お兄ちゃん……ごめんなさいなのだ……」

 

道雪「くっ………! 黒戸次が!!」

 

明命「うぅ…………お、お猫さまぁぁ!!」

 

紫「………………」

 

儁乂「紫……! ほ、北郷様ぁ!!」

 

順慶「ふんっ! …………死に損ないの者達は、そこで悔やんでいなさい! まずは、北郷一刀の命を頂きますわ! 颯馬様と同じように……私の手刀で貫いて差し上げますから!! そこで────見物してなさい!」

 

順慶が疾風の如く動いた! 

 

星「ど、どういう事──────!?」

 

星が行き先を確認すれば、その先に……華琳と一緒にいる北郷一刀の姿が!

 

周囲に屈強の曹兵が護衛して、急速に迫る者を阻まんとするが、焼け石に水、瞬く間に血の海に沈められた! 

 

華琳「なっ! 筒井順慶!!」

 

一刀「華琳、動くな!」

 

前に出ようとした華琳を抑え、自ら前に出る一刀!

 

一刀「………アンタを倒そうとした将達は!?」

 

順慶「あそこで寝ていますわ。 些か寝相が悪いですけど、許して上げて下さいな、貴方を守って倒れたのですから!」

 

一刀「────お前は!!!」

 

順慶「止めは刺していませんわよ? 貴方の散り様をよぉく見て貰う為に、ワザと生かしてありますの。 今なら、貴方一人の命で済ましてあげますわ! どのみち、先に一人で逝くか、全員で逝くかの違いですけどね?」

 

一刀「ならば──俺の命だけにしろ! 他の皆の命は……助けてくれ!!」

 

華琳「か、一刀!? 何を馬鹿な真似してるの!! 全員で戦えば……」

 

一刀「華琳……君まで目を曇らせては駄目だ。 コイツの強さは、星や将の皆の力を合わせても……到底及ばない。 だから……俺一人で何とか済ますよ。 華琳……皆………元気でな!」

 

華琳「一刀! 一刀ぉぉぉ─────!!」

 

曹兵「孟徳様! どうか──お下がりください!!」

 

華琳は泣き叫ぶが兵に押し止められ、そして、距離を離れさせられた。

 

一刀は順慶の前に仁王立ちになり、順慶に一言、申し入れた。

 

一刀「俺は……痛いのが嫌いだ! 一思いにやってくれ!!」

 

順慶「ふんっ! 颯馬様と同じ死に様にするつもりでしたが、興が冷めましたわ! いいでしょう! その首を一気に斬首にして上げます!!」

 

桂花「か、一刀!? 華琳様! これはどういう事ですか!? 華琳様!!」

 

桃香「ご、ご主人様────!!」

 

朱里「一刀さん!!」

 

雛里「あわわわっ! ご主人様!!」

 

一刀の危機を聞き及んで、主な将が集まる!! 

 

口々にに叫ぶが、一刀は頭を下に向け……目を閉じる!!

 

順慶「盛大な見送りですわね! でも、貴方の後を、ほんの少し経てば追ってきてくれますから、全然淋しくなんかありませんわよ!!」

 

順慶の手が天に向かい高く上がる!

 

順慶「さらばですわ、北郷一刀! あの世で颯馬様に、よく謝罪なさい!!」

 

順慶の腕が────振り落とされた!!!

 

 

 

───ガキッン!

 

 

順慶「なっ!?」

 

一刀「!?」

 

順慶の攻撃を………急に現れた《輝く甲冑を着用した二人の将》が阻んだ!

 

 

『旦那〜! 後を任せたのに……コッチに早々来られても困るんだよ〜!』

 

 

『御遣い様! 《華琳様》より仰せ使っております! 貴方を守れと!!』

 

 

二人の将は、生前……『大洪』『左校』と呼ばれた者達だった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

最後に……二人が何故出てきたか? 一刀の秘策とは? 

 

色々とありますが、次回に理由を説明したいと思います。

 

説明
義輝記の続編です。 よろしければ読んで下さい。
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コメント
風「むむむーっ! 風の策の凄さを思い知らしてー!」 稟「だから……あれは天城殿の策なんです! 私達は補助で動くだけ……!」 (いた)
風「稟ちゃん! これが風を貶める《こめんと欄》の記載ですー!」 稟「………………正論じゃないですか?」 風「そ、それだけですかー! 風が可哀想だと思えませんかー? 哀れだと思えませんかー?」 稟「私は………深入りしたくないんです!」  風「稟ちゃんの鬼、変態、ラッパー!」 稟「ラッパ〜!?」(いた)
naku様 コメントありがとうございます! どうしても罪悪感ばかりで塞ぎこんでしまう一刀ですが……少しずつ前へ前へと進んでおります。 どうなるかは……作者も考えていませんが……何とかなると思っています。(いた)
mokiti1976-2010様 コメントありがとうございます! そちらの二人は秘策とは関係ありません。 ただ、アノ管理者が動いただけです。(いた)
おや、最後の二人は一体…これも秘策の内ですかね?(mokiti1976-2010)
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