紫閃の軌跡 |
依頼を終えて街に戻ってきたリィン達……すると、大市の方向から聞こえてくる言い争いの声。只事ではないということで大市に向かうと、二人の男性が言い争いをしていたのだ。内容からして、若い青年―――マルコが許可を得た場所……それが、身なりの良い男性の商人―――ハインツもその場所での許可をもらったということで言い争いをしている。このままでは大市の他の店の営業に差し障ることにもなり、それ以前に殴り合い寸前の状態だ。こればかりは流石に看過できないので、
「ストップ。ここで殴り合いをしても意味ないでしょう。」
「な、何だ君たちは!?」
「落ち着いてください。」
「は、離したまえ!!」
何はともあれ、殴り合いになるのだけは避けられたが……ただ、双方共にいきり立っている状態というのは見て取れた。
「制服…どこかの高等学校の生徒か?」
「ガキが大人の話に口を出すんじゃねえよ!」
マルコの方に至っては完全に怒りで周りが見えていない様子だ。
「……貴方も商人の端くれなら、ここで争いをすること自体他の商人の迷惑だってことは承知だと思いますが?ここで殴り合って貴方の評判だけでなく、大市の評判を落とす気なのですか?」
「そうね。大人だというのなら冷静に判断出来なければみっともないですよ。」
「う……」
「ア、アスベルにアリサ……」
「正論とはいえ率直に言いすぎですよ。」
アスベルの容赦のない正論とアリサの追撃に言われたマルコだけでなく、聞いていたハインツもバツが悪そうな顔をし、その言動にはエリオットとステラが冷や汗を流した。これにはリィンも冷や汗ものだが、気を取り直して話を続ける。
「自分たちはトールズ士官学院の者です。実習でこの街を訪れています。」
「軍属ではないが末席に連なる身……公の場での私闘は見過ごせぬな。」
リィンとラウラがそう言葉を告げると二人の商人も驚きを隠せない。すると、この騒ぎを聞きつけた一人の老人が近づいてきた。
「やれやれ、何をやっておるんじゃ。」
「あ、あなたは……」
「も、元締め……」
ここの大市を取り仕切っている人物が現れ、双方の話を聞いた後……ここでは他の商人や客の迷惑になるということで場所を移して話し合うことで矛を収めるよう取り成した。先程のアスベルの発言も効いていたのか、二人とも元締めの言うことに納得した。そして、元締めはリィン等の方を向いた。
「お前さん達も止めてくれて助かったわい。流石は士官学院の特別クラスの生徒たちじゃ。」
「え?」
「ほう?」
「その、どうして僕達<Z組>のことまで?」
「わしの名はオットー。ここの大市の元締めをしておる。この話が付いたらお茶でもご馳走するから付き合ってくれるかのう?」
断る理由もない。先程の騒動の事も含めて、付き合うこととした。六人は元締めの家に案内され、元締めから話を聞くことになった。で、先程のことについては、二人の商人が持っている許可証自体本物であるということは間違いないということで、暫定的な措置として片方は空いている場所での営業を行い、週替わりで場所を交代するということとなった。売り上げに大きな影響が出るのは間違いないが、下手に暴力沙汰になるよりははるかにマシである。
「成程。私達の実習を取りまとめて下さっているんですか。」
「ヴァンダイク学院長とは旧知の中での。今回の実習に対して適当なものを見繕ってほしいと直に頼まれたんじゃ。……おや?君はひょっとして、以前カシウス殿と一緒にいた……」
「お久しぶりです、元締め。ここには何度か立ち寄っていたのですが、実際に顔を合わせるのは四年ぶりぐらいですね。」
「なるほど…あの時の少年が立派に育って、カシウス殿もさぞや喜んでおるだろうな。」
「当の本人は軍に戻って忙しい毎日ですが。」
「知っておるよ。偶に手紙を寄越してくれるのでな。」
帝国にはカシウスの手伝いということで転々していて……元締めとも、その時に出会った一人である。一方、アスベルの交友関係の広さに驚きを隠せないリィンらであった。
「何というか、流石だな……」
「カシウスと言うと、カシウス・ブライト殿か?」
「“剣聖”と謳われし、リベールの守護神……アスベル、知り合いなのですか?」
「結構付き合いが長いかな……俺にしてみれば“親”のような存在だけれど。」
実際には本当の親なのだが、この事実はブライト一家とリベール王家しか知りえない事実である。後は『影の国』に関わった面々ぐらいだろう。あまり警戒されたくないということでこの事実は伏せられている。ただでさえカシウスの影響でブライト家はかなり警戒されているのも事実である……話が逸れたが、今回の事についての話に戻る。
「しかし、ご老人。市の許可証は領主の名で発行されるもの。今回のような手違いは些か腑に落ちぬのだが?」
「それは私も気になりました。純粋に考えても少しの誤字ぐらいならばともかく、場所と期間が同じ許可証を二枚発行するというのは常軌を逸しています。」
「確かに……領内の商いの管理は領主の義務でもあるはずだし。」
「そうじゃのう……本来ならば公爵家がその管理をするはずなのじゃが……」
「公爵家って確か……」
「クロイツェン州を管理する『アルバレア公爵家』ですね。」
ラウラ、ステラ、リィンの疑問も尤もだろう……それに対し、オットーは難しい表情を浮かべていた。ここの街―――ケルディックがあるクロイツェン州を管理しているのは<五大名門>の一角を担うアルバレア公爵家。だが、最近面倒なことになっているとのことだ。それは、“増税”だ。
「実は先日、売上税が大幅に上がってのう。相当な割合を州に納めなければならなくなったのじゃ。そのせいで、商人たちも必死になっていてな。今日のような喧嘩沙汰になってしまうことも珍しくはない。」
「増税ですか……」
「帝都ではそんなことは聞かないし、トリスタでもそんな話は聞かないよね?」
「そうね。トリスタも<五大名門>のシュバルツァー侯爵家が管理してるけれど……その辺はどうなの?」
「確か、再三増税の要請は来てるみたいだけれど、『民を苦しめるのは貴族に非ず。これ以上の干渉をすれば皇帝陛下に陳情する』とか言って突っぱねていたな。」
「ふむ。中々に気骨のある人物のようだな。」
「まぁ、正論だな。」
今年に入ってから出来た“臨時課税法”……“増税法”とも呼ばれ、土地や商取引全般に二倍近い課税を行う法律である。<五大名門>のうち、シュバルツァー侯爵家を除く四州で施行されている。その裏側にあるのは“革新派”と“貴族派”の対立であり、“革新派”の影響を強く受けている正規軍に対しての軍備増強のため、その資金捻出のための増税ということだ。だが、その影響を強くを受けるのは他でもない帝国の国民である。
「許可証が二枚……偶然にしては『おかしい』レベルですね。」
「ちなみに、反対はされたのですか?」
「うむ。公爵家に何度か陳情に向かったが、悉く門前払いと言うことで無視されておる。それと、本来その対応をしてくれる領邦軍も、トラブルがあっても無視を決め込んでおる。これが二月(ふたつき)ほど続いておる状況じゃ。」
とどのつまり、陳情を取り下げて増税を受け入れないことには領邦軍による対応も行わないという嫌がらせ。これにはリィン等も複雑な表情を浮かべた。
「じゃが、これはわしら商人の問題じゃ。そなたらは実習に集中すべきじゃろう。明日の朝も実習をいくつか用意しておる。面倒なものばかりじゃが、頼めるかのう?」
「ええ。お任せ下さい。」
ともあれ、一通りの事情が聞けたのでリィンらは外に出て話す。話題は無論、先程のトラブルに関わる件についてだ。だが、アルバレア公爵家は曲がりなりにも<五大名門>であり、皇帝に次ぐ権力を有している。一学生である自分たちが介入できる範囲の範疇を超えてしまっていて、一同が悩んでいるときに聞こえてくる声があった。
「悩んでいるわね、青少年達。」
「あれ?サラ教官。」
「というか、まだいたんですか。」
昼間っから酒を飲んでいた人物―――サラの存在であった。見るからにどこか行こうとしている様子であったが、本人の口から出た言葉はその通りとなった。
「まぁね。あたしはこれからフォローの関係でB班の方に向かうことになったから。せいぜい悩んで、自分たちで考えて判断してみなさい。」
「あれ?確かラグナ教官が付いていっていましたよね?」
「ちょっとしたトラブルに巻き込まれちゃったそうなのよ……なので、アタシも向かうことになっちゃったってワケ。―――そういうわけで、こっちは君たちに任せるわ……女神の加護を。レポート、期待してるわよ。」
(ルドガーとラグナ教官がいてトラブル起きたって、一体何があったんだ?)
そう言って駅に向かっていくサラ………只でさえグダグダになりそうなことは想定していたが、サラがわざわざ出向くほどのトラブルと言うのには疑問を浮かべざるを得ない。とはいえ、こちらはこちらで実習に集中せねばならないので、必要以上に意識を割くわけにはいかないが。
「まったく、悠長に酒を飲んでいたくせに抜け目ないというか……」
「……ま、大市のほうを一通り回ってみて、問題がなければそのまま宿に戻ろう。夕食も早めに済ませないとな。」
「そっか、レポートもあるんだよね……夕食を食べたらそのまま寝ちゃいそうだよ。」
「今日は色々あって流石に疲れましたからね。」
「そうだな。」
とりあえずリィンらは大市を一通り回ったが……その際、商人のライモン……平民クラスのベッキーの父親であり、精力的な商人から夕方のセールの店番をしてみないかということとなり……必要最低限の値引きのルールを教えてもらった後にリィンから順番に店番を行った結果だが、エリオット、ラウラ、リィンの順番にそれぞれ評価を受けて、残るはアスベル、ステラ、アリサなのだが、
「いや〜、三人に関しては独自のスタイルを持っとるみたいやな。売り上げもワシに匹敵する程や。身近に商売を営んでいた人でもいたりするんやないか?」
「い、いえ、別にそういうわけでは……」
「流石にそこまで褒められると恥ずかしいですよ。」
「流石にいませんね……(俺の場合は転生前の経験かな……)」
プロの商人にそこまでの評価を貰えるとは正直予想外であったが……アリサは身近に商売をしている人間がいる、ステラに関しては解らないが、アスベルに至っては転生前に商売関連のお手伝いをしていたこともあって、その時の記憶を上手く生かしただけに過ぎない。
予想していたものだけではない経験であったが、これも実習としての貴重な経験と言うには十分すぎるだろう。ともあれ、他に変わった様子もなかったので<風見亭>に戻って早めの夕食とすることとなった。
何気にハイスペックなステラさんです。
予告しておきますと、第一章は今更感満載ですが原作から逸れまくりますw
各自の立場と会話の時点で『今更!?』なのですがねw
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第15話 商いの心得 | ||
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コメント | ||
sorano様 領土に関しては齟齬が発生しないように配慮しますが……ただ、貴族連合が侵攻するとなると皇帝より賜った土地を強引に奪ったということに……その先はお察しください。(kelvin) 内戦が始まったらシュバルツァー侯爵家が治めている領土はどうなるんでしょうね?やっぱり貴族連合が攻めるのでしょうか?ていうかトリスタもシュバルツァー侯爵家が治めている領土なら閃Tのラストは一体どうなるんだろう……?(sorano) |
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