真・恋姫†無双 拠点・曹仁3 |
「いや、すまん。待たせたな華侖!」
唐突に来訪者は来た。
桂花を見送った後、華侖は自室に戻った。寝台にちょこん、と座り頭を抱えて唸って考えていた矢先の事である。
――彼女にとってはごく普通の、日常茶飯事の事であったが、ノックで戸を破壊しながら――
夏侯惇こと、春蘭はそう告げた。
春蘭にとってノックは変わった文化という認識である。来訪を告げるのであれば、外から「入るぞー」と声をかければよい。わざわざ戸を破壊して入るというのは部屋の中にいる人間に被害が出てしまうのではないか?と考えた事もあるが、
“まぁ、スカっとするからよい文化だな!”
と最終的に思考を停止させてしまったのである。
一方。そんな笑いながら、遅れてしまった事を謝罪して入って来た春蘭とは対照的に、部屋の主である華侖は唸っていた声を止めて口を一文字に結び、抗議の視線を送る。
「……なにしてるんだ、お前?」
「考えごとっす。それよりも、戸を破壊しないで欲しいっす惇姉ぇ。風邪ひくっす」
「うーむ。私もノックという文化はおかしいと思っていたのだ。こう、毎度のことながら戸を破壊するというのは……」
「あたいも兄ぃの部屋をノックしてから、もうノックは使わないことにしてるっす」
『……あぁ、華侖。お前もか……』
ものすごく辛そうな顔をされてしまっては、もうノックを使えないのであった。天の国、つまり一刀の国の文化であるから出来る事ならば使いたかったのだが。
「むぅ……やはりノックを使うのは私だけになってしまったようだな」
正しくは、間違ったノックの使い方をしているのが春蘭だけになってしまった、である。
「それで、惇姉ぇが来てくれたのって昨日言ってたやつっすか?」
「おお!そうだ!」
忘れてた!とばかりに手をうつと話を進める。
「準備が出来たから私の部屋へ来い!なぁに、秋蘭にも話をしてある。心配するな!」
「淵姉ぇもっすか?な、なんだかお二人があたいの為に何かしてくれるっていうのはこう、いやー、嬉しいっすね!」
「はっはっはっはっは!可愛いやつめ!私たちに任せておけ!お前の悩みなど、吹き飛ばしてやろう!」
「うー!頼もしいっす!惇姉ぇーー!」
一刀が誰が一番好きなのか。そんな悩みを吹き飛ばしてくれると言いきった春蘭に感動を覚える華侖であった。
手短に、春蘭の話は済んだ。
話し終えて満足顔の春蘭と、聞き終わって呆けている華侖と、目を閉じてうなずいているが、口角が上がるのを必死に抑えている秋蘭が、この部屋にいた。
「ふふん、どうだ。私の作戦――いや、計略は!」
褒めてもかまわんのだぞ、と春蘭。
華侖はというと、予想外の話を聞かされて考える事を放棄してしまった。
「姉者。それでは分かるものも分からんと思うぞ」
「む。今のでは分からなかったか?」
「うむ。今の説明ではそうだな、おそらく理解出来ていないと思うぞ。十割ほど」
「な、なに!?」
「あ、えーっと、ごめんっす」
「むぅ……なら秋蘭が説明してくれ」
「そうだな姉者。その間に作ってた物を出しておいてくれ」
「作っておいた物……?」
「そのとおりだ。さて、姉者が戻る前に華侖に分かるように説明しておかなくてはな」
椅子に腰かけ足を組む。華侖の疑問に答える前に、まず先程の意味不明な言葉の意味を説明しなくてはならない。
『いいか?お前は栄華になって一刀に会いに行くんだ』
こんな事をいきなり言われて『うす!分かったっす!』と言えるような人間はいないからだ。
「華侖。確認だが、お前は一刀が愛情に順列をつけているのではないか。そして、その一番が栄華ではないのか……そういう悩みを持っているんだな?」
「……そっす。ちょーっと変わってきたっすけど、だいたいそんな感じっす」
栄華が一番なのか、風が一番なのか、桂花が一番なのか。それが分からなくなってきていた。
「で、だ。その悩みを解決するために姉者が用意したのが栄華と同じ服と髪の毛だ。お前はそれを身につけ、栄華の格好をして一刀に会いに行けと言いたいのさ」
「あ、あたいが……洪姉ぇのかっこするんすか?」
「うむ。あんなに頑張っている姉者を見るのは久しぶりだ。華琳様人ぎ――いや、何でもない。とにかく、そんな頑張っている姉者の努力を無下には出来んだろう?」
悪い方向に転ばぬと思うしな、と付け加えて楽しそうに笑う。
華侖は悟る。「楽しんでいるだけじゃないだろうか」不安を覚えかけるが、尊敬し、敬愛している夏侯惇が考えた計画。大丈夫だろう。きっと上手くいく!と信じる事にしたのだ。
「可愛い華侖の悩みだ。この私がなんとかしなくてはならんだろう?」
両手に服と金色の髪の毛を持ちながら春蘭が部屋の押し入れから帰って来た。
「そ、それが洪姉ぇの服っすか……勝手に取ったら怒られる気もするっすけど」
「取る?ふふふ、違うぞ華侖。これらはな、私が作ったのだ」
「え!?こ、この服を惇姉ぇがっすか!?」
「うむ。こう見えても姉者は手先が器用でな。寸法も華侖と同じに合わせてあるはずだ」
「ただ、栄華の持ってる兎はまだ作れておらんのだ。後ろがどうなってるか分からないからちょっと借りようとしたのだが……取り返されてしまった」
「なんだ姉者。借してくれと一言頼めばよかったのではないか?」
「言ったとも!……いや、借りてくぞー。だったかな?まぁ、兎の後ろ側も分かったし問題はない」
かんらかんらと笑う春蘭。やれやれ、と呆れたように――それでいてどこか楽しそうな顔をしているのは、おそらく見間違いではないだろう。
「それで、だ。お前には栄華の動作や口調を真似てもらう」
「洪姉ぇの真似っすか?あ、あたいに出来るかなー……」
「大丈夫だ!お前ならできる。あの辛かった戦いの日々を思い出せ!官渡を!赤壁を……!」
春蘭は華侖の手を握り、目を見ながら真剣に話す。
「……あの日々を」
じっと春蘭を見つめ返し、過去に思いを馳せる。
「姉者。戦と栄華の真似を比べるのはあまりにも酷いと思うのだが」
その姿を見ていた秋蘭はたまらず口を挟む。生死をかけた戦いと比較するのは、あまりにも栄華が可哀想だと思ったからだ。
「それくらい辛い戦いを経験してきたのだ。だからこそ、今度の戦いは楽だという意味だ!」
「いや、ちょっと待て姉者。戦いではないと思うのだが」
「そうっすよね。あたいたちは、あの地獄のような戦いを生き抜いてきたっす。それに比べればへっちゃらっす!
「あぁ、小さい姉者がいる。やれやれだ」
勢いで突っ走る二人を諌める事は容易ではない。春蘭と華侖の暴走を止めるのは一人では難しいのである。一人を止めれば、もう片方が自由に。もう片方を止めに行けば、手綱から手が離れたように再び暴走するのだ。
「秋蘭。今の華侖にとって栄華は敵なのだぞ!?なぜお前にはそれが分からない!」
「……なんと、もうそんなぼうそ――いや。考えていたのか姉者」
暴走している事を口に出さないのは妹の優しさである。決して楽しんでいるからではない。
「あたい……やるっす」
きゅっと唇を一文字に結び、だんっ!と机の上に立ちあがる。土足で立ったものだから机が汚れるのだが、おかまいなしである。幸いにも、春蘭が机で仕事をすることは少ないので大きな問題ではなかった。
「惇姉ぇと淵姉ぇの言うとおり――洪姉ぇを倒してみせるっす!!」
がぁーっと叫んで拳を振り上げる。自らの武器である剣を取りだしているところを見ると――まずい、これは決闘を申し込む勢いではないだろうか。
「うむ!その気合いが大切だぞ華侖!それでこそ魏の将だ!!」
などと、自分の机が汚れていようとも全く気にせずに部下の頑張りを応援するところは大器であった。気付いていないだけかもしれないが。
「ちょっと待て華侖。私は倒せと言った覚えはないし、姉者も倒せとは一言も言っていないのだが」
「なに!?秋蘭!お前というやつは!今の栄華は敵なのだぞ!?」
「それはさっき聞いたぞ姉者。私が言いたいのは計画の目的は倒すことではない、ということだ」
「んー?……おお、そうだった!」
「目的っすか?」
「うむ。それは一刀に会いにいけば問題はない。その時に分かることだからな」
言うと、秋蘭は華侖を机から降ろす。
「さて、役割を分担しよう。姉者は兎作ってくれ。真桜が作った『みしん』とやらを使えば早く作れるだろうしな。私はお前の言葉遣いと行動を見てやろう」
「よ、よろしくお願いするっす!」
「おい秋蘭。あれは使いものにならん。手でやった方が早く作れる」
「なに?」
「『はんどる』とやらを回すと言われたから回したのだが、ただの一度も回らずに取れたのだ。私が思うにだな、弱すぎるぞあれ」
春蘭が部屋のすみを指差し、見るとゴミのようになっているミシンの残骸を発見した
「……そうか。姉者には合わなかったのだろう。なら、いつもと同じようにやってくれ」
「おう!やはり絡繰は駄目だな。軟弱すぎて使いものにならん」
「さすがっす!強いっす!惇姉ぇ!」
明らかに足で踏みぬいた痕があるミシンを見て、秋蘭はため息をついた。
“真桜に見せるわけにはいかんなこれは”
説明 | ||
投稿が長引いてしまい、申し訳ございません。 久しぶりに家に帰って来たもので色々と作業をしておりました。 拠点・曹仁3。短くなってしまいましたが、どうぞお楽しみくださいませ。 |
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コメント | ||
kazoさん、いつもコメントありがとうございます。春蘭は残念ながら破壊してしまいましたが、街の人間に渡れば間違いなく発展するでしょう!その日はきっと近いのです(ぽむぼん) ミシン作成済みって!?産業革命起きちゃう!?流石破壊魔春蘭w(kazo) |
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