ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長 |
story37 如月の本音
その後如月と西住は教会から出てその裏にやってくる。
「すまないな。こんな寒い所で話す事になって」
「いえ、それはいいんですが・・・・でも、どうして?」
「・・・・他の者には聞かれて欲しくは無いからな。お前と二人だけの話だ」
如月は西住に身体を向けて、右目を細める。
「・・・・・・」
「西住。お前が戦車道の事を好きなったと言う気持ちは分かる。むしろ、いい変化だと私は思う」
「・・・・・・」
「だが、その後の言葉は・・・・・・解せんな」
「え?」
まさかの言葉に西住は戸惑う。
「・・・・なぜ、お前は一人になる事を恐れないんだ」
「・・・・・・」
如月の言葉で、西住はある事に気付く。
「・・・・察したようだな」
僅かな変化に如月も気付く。
「・・・・聞いたん、ですね」
「あぁ」
簡素に、如月は答える。
「盗み聞きをする趣味は無いが、偶然あの場に私は居た。そして、お前と菊代さんの話を聞いてしまった」
「・・・・・・」
「改めて聞く。プラウダに負ける事があれば・・・・・・お前は本当に、西住家から勘当されるのか」
「・・・・・・はい」
間を置き、西住は重々しく縦に頷く。
「この試合に負ければ、お前は・・・・勘当されるんだぞ」
「・・・・分かっています」
「・・・・分かっていて・・・・あぁして言ったのか」
「・・・・・・」
西住は何も答えない。
「なぜだ」
如月は右手を握り締める。
「なぜ、お前はそれが言えるんだ。お前は・・・・一人になるのが怖くないのか?」
少し震えた声で、言葉を綴る。
「家族とは、血の繋がった他人として生きなければならない。それでも、お前はいいのか」
「・・・・・・」
「・・・・私は・・・・・・怖い」
如月からは出ないであろう言葉が、口から漏れる。
「初めて本当に一人になって、私は知った」
「・・・・・・」
「両親が死に、私は一人で暮らさなければならなくなった。その時は何でも出来ると、常に一人だったと、一人になる事を恐れなかった」
「・・・・・・」
「だが、実際に一人で過ごす事になって、今まで感じた事の無い孤独感に包まれた」
家に帰っても誰も居らず、広くも狭くも無い、何の温もりも無い家でたった一人、如月は過ごした。
「・・・・・・」
「最初はどうとも思わなかったが、やがてそれは大きなものになった」
「・・・・・・」
「毎日、何の温もりも無い家で、誰も訪れる事の無い、たった一人で毎日孤独に暮らした」
斑鳩と早乙女両家の家の者の間に生まれた如月は、両家にとって忌み嫌われる存在。一部の者を除けば、彼女の事を気に掛ける者などいない。
「相変わらず学校では誰も私には近付かなかった。こんな姿になった事で、尚更寄り付かなくなった」
如月は左手で左目があった場所を覆う眼帯と火傷の痕に手を当てる。
表面では傷痕の事は気にしていないようであるが、実際はこれで人から遠ざけられていると言うのは自覚していた。
「如月さん・・・・」
「・・・・学校で武部と五十鈴と知り合っても、私から孤独感は拭えなかった」
「・・・・・・」
「そして知った。人と人が支えあって、その時ようやく、本当の温もりを感じるんだと」
「・・・・・・」
似たような境遇を体験した西住は、少なからず如月の気持ちが理解できた。
「そんな私と、似たような孤独を一生味わうかもしれないんだぞ。それでも、お前はいいのか」
「・・・・・・」
西住はしばらく黙り込む。
「・・・・確かに、一人になるのは、怖いです」
「なら、なぜ」
「・・・・でも、私は一人じゃありません」
「・・・・?」
如月は一瞬理解できなかった。
「今は、みんなが居ます」
「・・・・ずっと居てくれるわけじゃないんだぞ」
「分かっています。でも、私にとっては、今回の戦車道を通して、私は変われたと思います」
「・・・・・・」
「ずっと嫌っていた戦車道を、改めて見直すことが出来て、好きになれた。それだけでも、私は嬉しいんです」
「・・・・家族と、引き換えにしても、か」
西住は軽く立てに頷く。
「・・・・・・」
今の如月には、全く理解できなかった。
「でも、まだ負けたと決まったわけじゃありません。みんなが一つに纏まれば、必ず、勝てます」
「西住・・・・」
「・・・・それに、如月さんも居ますから」
「・・・・・・」
「信じていますから。心の底から、如月さんの事を」
西住は微笑みを浮かべる。
「西住・・・・」
一瞬如月の中で、一瞬温もりを感じた。
それは体調が悪いから起こる熱ではなく、別の物だった。
(ここまで、信頼されていたんだな。いつも私はお前にきつく当たっていたと言うのに・・・・)
今日この日まで、如月は西住と過ごして来た時間を思い出す。
とある感情から、西住とは深く接しようとは考えなかった。むしろ、鬱陶しかった。
「・・・・お前と言うやつは。本当に」
俯くと、口元が緩む。
「・・・・お前のそういう所を、私は羨ましいと、思っていたんだろうな」
「え・・・・?」
西住は首を浅く傾げる。
「・・・・いや、羨ましいと言うより、憎んでいた、と言う方が正解かもしれんな」
「・・・・・・」
「小学校の頃、お前の周りにはいつも人が居た。だが、私の周りには、誰もいなかった」
「・・・・・・」
「同じ戦車道をしているのに、なぜお前の所だけしか人がいないのか。それが羨ましくも、同時に憎かった」
俯くと、両手を握り締める。
「如月さん・・・・」
「・・・・だから、私はお前の事を遠ざけていたのかもしれない」
「・・・・・・」
「お前にはあっても、私には無い。それが尚更拍車を掛けた」
今思えば、その時の自分が情けなく思えた。
「・・・・・・」
「だけど、そんな私にお前はいつも笑顔で接してくれた。優しくしてくれた」
「・・・・・・」
「・・・・苦しかった。私は、何をやっているんだと、悩む時だってあった」
いつも優しく接してくれる西住に、如月は心を痛めた。だが、どこかで西住を許せない自分が居て、正直になれなかった。
「・・・・・・」
「だが、それはお前のその人間性からなんだと、遅くも気付いた」
「・・・・・・」
「お前のその他人への優しさから、人は寄って来るんだろうな。
それに対して私は・・・・意識していないだけで、人を遠ざけていたのかもしれんな」
「・・・・・・」
「・・・・お前はいつも、私より一歩先にいるな」
「そ、そんな!私なんかより、如月さんの方が凄いです!勉強も運動も、それに、戦車道だって!」
「そんなのは表面上の情報だけだ。やろうと思えば、誰だって出来る」
如月の戦車道の知識と技量は、努力の賜物から来ている。これは誰だって、努力次第で得られるものだ。
「だが、人間性や才能と言うのは、どれだけ頑張ろうが、最初から決まっている。変えられようは無い」
「如月さん・・・・」
「お前には才能があるんだ。私には無い、戦車道の才能が」
「・・・・・・」
西住は浅く俯く。
「・・・・西住」
「はい?」
西住は思わず顔を上げると、如月は彼女を優しく抱擁する。
「ふ、ふぇっ!?」
突然の事に西住は顔を赤くして慌てふためく。
「心配するな」
「え・・・・?」
如月は耳元で呟き、西住は一瞬瞬きをする。
「・・・・必ず、私達は勝つ」
「・・・・・・」
・・
「お前を・・・・いや、みほを一人にさせやしない」
「如月さん・・・・?」
西住は一瞬自分の耳を疑った。
今、名前で呼ばなかった、かと・・・・
「・・・・・・?」
ふと、西住はある事に気付く。
異様に如月の身体が熱い。
「如月さん。まさか?」
「・・・・・・」
如月は西住から離れる。
「やはり、気付かれてしまうか。いや、当然か」
「・・・・体調が悪いんですか?」
「あぁ」と短く返す。
「じゃぁ、最近様子が変だったのは・・・・体調不良からなんですか!?」
「・・・・・・」
「ど、どうしてそんな無茶を!?」
「言ったはずだ。お前を一人にさせない為だ」
「だからと言って、こんな無茶をしたら、どんどん症状が悪化するのに!・・・・なのに・・・・!」
「心配するな」
と、如月は不器用ながらも、笑みを浮かべる。
「無茶はしないさ。最も、無茶をするだけの元気はないがな」
「・・・・・・」
「お前の言う事は聞くさ。無茶はしない」
「・・・・・・」
西住は軽く頷くも、長い付き合いとあって如月の性格は知っている。如月の無茶はしないと言うのは、あまり当てにはならないからだ。
「・・・・・・!」
すると風が強くなり、雪も多く降り始める。
「少し強くなってきたな。戻るか」
「は、はい」
二人は風に押されながらも教会へ戻る。
(そうだ。必ず、お前を一人にはさせやしない・・・・・・みほ)
如月は胸の内に決意を宿す。
かけがえの無い―――――――――
――――――――――――親友の為に・・・・・。
説明 | ||
『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。 戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。 |
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