スフィーと聖なる花の都の工房 〜王立アカデミーのはぐれ綴導術士〜<1>【4章-1】
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4章 友を救え! 緊急クエスト!

 

 

「フィリアルディ、いる……?」

 スフィールリアは、フィリアルディの部屋の前に立っていた。

 アリーゼルの話を聞くなり取って返し、そこらの新入生らしい雰囲気の生徒を捕まえて寮の場所を聞き出して、また寮では別の上級生を捕まえてフィリアルディの部屋番号を聞き出して……。

 初めて訪れる学院寮を物珍しく見物する余裕もなく、荒れた息のままで彼女の部屋をノックしたのだった。

「……」

 しかし応答はない。

 状況が状況なので、もう一度叩いていいものか。腕を上げかけたまま迷っていると……。

「スフィール、リア……?」

 鍵を開けた音もなく、静かに開かれた扉から、フィリアルディが顔を覗かせた。

 彼女はスフィールリアの顔を見ると、いくぶんか安心したように微笑んでくれた。

「スフィールリア……」

 しかしそんな表情は、むしろ痛々しくしか感じられなかった。すっかり憔悴しきってほほにも陰りが目立つ。メガネもかけておらず、その目元は、すでに何度も泣きはらしたように赤らんでいる。

「フィリアルディ、あのね……アリーゼルから、聞いたよ。今、どうなってるのかって……」

「入って。ごめんね、散らかってるんだけど」

 まだ無理をした笑顔のままで促されて、スフィールリアはフィリアルディのあとに続いた。

 とても、フィリアルディらしい部屋だなと思った。

 広さが16uていどの室内には、玄関正面にひとつの窓。左手に簡易式の洗面台。風呂場やトイレは共同らしい。カーテンは小さな花柄で、壁のラックには初期教材と一緒に、取り取りのポプリや造花であしらえられたブーケなどが収まっている。いつも彼女から届いてくる華やかな香りは、これらが元だったのだろう。

 そして、窓の右手にあるベッド。その上に――

「お茶、出すね。キッチンにいってくるから、ごめんね、待ってて――」

 急ぎ足の彼女に、スフィールリアは首を横に振って辞退して……それを見やった。

「コレが、そうなんだね」

「…………うん」

 フィリアルディのベッドの上に横たえられているもの。

 それは、非常に端的に表現するなら、『からくりじかけの旗』とでも言うべきものだった。

「『ウィズダム・オブ・スロウン』……純正Aランク・国宝級の魔導器、か…………」

 その宝具も、今は無残な姿を晒している。

 まず、本体にして要である旗≠フ部分は、何重にも引き裂かれている。旗地に施された刺繍の文様は、それでもなお精緻にして細密の極致と言える荘厳さ、壮大さを失ってはいない。

 だからこそ、それが二度と取り戻されることのない技術の集大成なのだと分かった。

 このアイテムのもうひとつの特徴は、竿頭と呼ぶべき部分にもあった。単なる棒で終わっているのではなく、歯車を幾重にも重ねたような外観の、重厚な機構が取りつけられている。旗を取り除けば、戦槌のようにも見えたかもしれない。からくりじかけに見えたのは、これらがあるためだった。

 しかしこれも、今はバラバラに破損してしまっている。

 歯車型の外装は砕け散り、内部機構の、いくつもの細かなパーツが散らばってしまっている。

「犯人は……まだ?」

 フィリアルディは力なくかぶりを振ってから、次にこくりとうなづいた。どのように返事をしてよいのかも分からないくらいに、狼狽している。

 非常に端的に言って――今フィリアルディは、この国宝級アイテムの破損に関する、管理責任を問われる立場のひとりとなっている。

 現在、彼女が所属する教室の教師も事態の究明と収拾に向けて学院中を奔走している。だが、極めて分は悪いとしか言えない状況のようだった。

 少なくとも今のところ、事態がどれだけ明るい方向に転がったとしても、フィリアルディの退学処分だけは免れないという。

 もし、彼女に希望が残されているとしたら――

「一生懸命、ね……。直そうとは、してみたの」

 フィリアルディは自分のベッドに腰かけ、そのままにしてあった編みかけの刺繍を持ち上げた。震える手で、作業を再開したがっているように。

 だが一度手放してしまった大作業の重みに、両手の震えは大きくなってゆくばかりだった。

「でも――全然――上手くできなくて。なるだけ、丁寧に、本当に今のわたしにできる、全部っ……つぎ込んでも、ね……難しいところは真似もできなくて……基礎的な繰り返しの、部分も、こんなのじゃ全然間に合わなく、て……!」

「ダメだよ、フィリアルディ」

 スフィールリアが足早に駆け寄ってフィリアルディの両手を包むと、震えたまま作業を断行しようとしていた彼女は、ついに堪えきれずに泣き出してしまった。

 その指には、すでに絆創膏でも足りなくなるほどの刺し傷が刻まれ、包帯が巻かれている。それからも作業を続けたせいだろう、血も滲んでいた。

「……ダメだよ、フィリアルディ。こんなやり方したら。せっかく丁寧にやっても、血をつけちゃったら霊繍糸が台無しになる。コレも全部ダメだよ。だから一旦気分が落ち着くまで、作業は、しちゃダメ」

 今の彼女の心情を考えれば、身体の方を気遣っても、止めさせるのは絶対に無理だと思った。

 彼女は唇を食い締め、かろうじてだがうなづいてくれた。

手は握ったまま、スフィールリアはバラバラになったアイテムへ向けて蒼導脈≠フ側から視線を走らせて状況を把握した。

 構成する全素材のうちの六割方が『死んで』いた。

 当然だが、完成品としての『ウィズダム・オブ・スロウン』の全機能は完全に消えうせている。徹底した壊し方だった。

 こぶしを握り締めるかわりに、歯噛みする。バカじゃないのかという思いが、胸中に湧き出してくる。

 フィリアルディから刺繍をやんわり取り上げると、スフィールリアはベッド上に散らばるそれら部品へと身を乗り出した。ひとつひとつ手当たりしだいに手に取って、状態ごとに選り分けてゆく。

「なにを……しているの」

 なにかを恐れるような友人の声音に、彼女はきっぱりと答える。

「こんなカイブツみたいな建造物≠ノ、闇雲に当たってもダメだよ。まずは無事なものとそうじゃないものを選り分ける。それから、用意しなきゃいけないものと必要な作業を全部洗い出さないと」

「スフィールリア、お願い、そんなことは――」

「止めておきなさいな」

 唐突に割り込んできた声でふたりが顔を上げると、開かれた玄関前にアリーゼルの姿があった。

「ノックもなしに失礼。扉が閉まりきっていなかったものですから。あなたが廊下にぶちまけていった教材、お届けして差し上げた方がよろしいかと思いまして」

 だが、アリーゼルが彼女のポートフォリオ各種をちらつかせても、スフィールリアは黙ったまま視線を外さなかった。

 アリーゼルも悪びれてはこない。ただ、無表情に肩をすくめて、

「お互いのために、なりませんわよ」

「本気?」

 こちらも無表情でベッドから身を起こしたスフィールリアに、アリーゼル。「もちろんですわ」と両腕を広げて見せた。

「直せると思っていますの? 必要になる素材を洗い出す、一年生の財力でどうやって用意しますの? 必要な作業。一年生の機材環境、技術で、この人数で、どうやって? 状況が分かっていないんじゃなくて? 中途半端にソレへ手を触れることの意味、考えています?」

 アリーゼルの態度は冷めている。しかしスフィールリアにはその真意を汲み取る余裕はない。なぜ、彼女はこんなにも冷たいのか。そんな子だったのか。そんな思いだけが、冷えた針のように胸の一点に凝り続けている。

「そっちのことじゃない」

「どっちのことですの? それとも、こう言えばよろしい? ――お互いの利益になんて、これっぽっちもならないんですわよ」

 数秒、アリーゼルを見つめ返して――

「分かった。もういい」

 部品の選別に戻ろうとするスフィールリアの肩を、フィリアルディが立ち上がりながら押し留めた。

「お願い。止めて。スフィールリア。アリーゼルの言う通りだよ」

「フィリアルディ。ひとりじゃ、無理だよ」

「ふたりでも、無理なの」

 特別な反論も思いつけずにいると、またアリーゼルが横合いから声を差し挟んだ。

「友情ごっこですわね――あまり、失望させてほしくはありませんわ。ここが<アカデミー>であるという事実、お忘れになっていません?

 ここに籍を置いている以上、わたくしたちはもはや子供ではないのです。己の行動ばかりでなく、己の置かれた全環境と状況に対して自己責任を持つのがわたくしたち綴導術師ですのよ。フィリアルディさんのお気持ちも、お考えになってあげられませんの?」

「お願い、スフィールリア。修復はわたしだけでなんとかできるところまでする。この作業に触れて、このアイテムの状態を変化させるなら、あなたまで責任を問われることになっちゃうの」

「それは聞いたよ、フィリアルディ。でも――」

 フィリアルディは、今まで聞いたことのない大きさで声を張り上げた。

「こんなことでスフィールリアまで巻き込まれてただ退学になられても、わたしは少しもうれしいだなんて思わないっ!」

 時間という名の薄氷が、ひび割れたような沈黙が落ちて。

 フィリアルディの気持ちも最初から全部、分かっていたからこそ。もうスフィールリアも、なにも言えなくなってしまった。

「でもわたしは、あなたに会えて、本当にうれしかったの」

「………」

「……だからごめんなさい。せっかくきてくれたのに、怒鳴ってしまって……最低……」

「…………」

「今日は帰って。ひとりに、なりたいの」

 力なく扉を、閉めて。アリーゼルと、ふたりきり。

 廊下の静寂へアリーゼルの吐息が吹き込まれ、スフィールリアは隣の彼女を見下ろした。

「と、まぁこのような状況でして。あなたが見境なく突っ走るのじゃないかと思ったわけですのよ。わたくしとしてはあまり残念なお姿は見せてほしくなかったもので」

「釘を刺しにきたってわけ?」

「どう思っていただいてもかまいませんわよ。わたくしはいくつかの手順を省こうと思っただけですもの」

「……って、言うと?」

「お引き留めしてあるゲストがいらっしゃいますの」

 相変わらず平坦な、その言葉に。

「?」

 スフィールリアは怪訝に首をかしげたのだった。

 

「あ、あの……スフィールリアさん、ですよね。あの、わたしずっとあなたのこと――」

 アリーゼルに連れてこられた場所で。

 スフィールリアはひとりの小柄な女生徒と対面していた。

 とても小柄な彼女。手には同じく小さな花束。とても気弱くもじもじと、可憐そのものといった風に恥じらいでいたが。

「あの、これ――受け取ってくださいっ!」

 ヒュゴゥオ――――ッ!!

「ひょわおぉうっ!?」

 顔面すぐ横をすぎてゆくものすごい突風と衝撃に、スフィールリアは奇声とともに飛び退いていた。横髪のいくらかが、はらりと切断されて後方に流れてゆくのが分かる。

 振り返ると、いったいどんな跳躍力をしていたものか――スフィールリアのはるか後方に、彼女は獣のように着地していた。

 大気の壁にぶつかるほどの勢いで突き出された花束は散り果て、その内部から、鋭利なナイフが顔を出していた。

 それを見て、女生徒は非常にしょんぼりしたような顔になって、

「あ……外しちゃった……」

「……」

「あ、あの。今のは忘れてください。それじゃあ」

「……」

 ぺこりと行儀よくおじぎをして当然のように立ち去ってゆこうとする彼女の背中を見据え、スフィールリアは無言で立ち上がり――

「待ちたまえ。なにをしようというのだ」

 それまで話をしていたタウセン教師に肩を捕まえられた。

「なにって。問題は根源から断っておかないと」

「だから、なにをしようというのだ。冗談ではないぞ」

「だってタウセン先生が悪いんじゃないですか。あたしのことスフィールリア君とか呼んだりあたしにウメボシしたりありがたくないスキンシップしてくるから最近じゃ先生に近寄っただけで目ぇつけられるし。知ってるんですよあれって『完全純粋なるタウセン・マックヴェル教師をお慕いするためのタウセン・マックヴェル教師周辺環境完全純化委員会』とかいう人たちなんでしょだったらタウセン先生がもうちょっとなんとか……はっ」

「……」

「問題の……根源……完全なる……」

「ほう」

 タウセン教師はハーフリムの位置を持ち上げる。廊下窓の日差しを跳ね返す一瞬の輝きは、断絶の意思そのものだった。

 次に姿を現した双眸と笑みは、先の女生徒の凶器なぞ比ではない獰猛なギラめきとオーラを燃え盛らせていた。

「や・る・か・ねッ」

「すんませんっしたァ!」

 即座にスフィールリアが直角姿勢で頭を下げると、タウセンは頭痛をこらえるようにこめかみをもみほぐし、盛大すぎるため息を吐き出した。

「なんの話をしていたのだっけ……?」

「フィリアルディ・マリンアーテさんの置かれている現在の状況について。学院側における視点からの見解をおうかがいしていたのですわ」

 窓枠へ体重を預けたアリーゼルが指摘する。

 ここは、第一研究棟。マックヴェル教室前の廊下だ。タウセンは真面目な面持ちに戻ってスフィールリアへと向き直った。

「そうだ。話が逸れてしまったな……なので端的に言うぞ。フィリアルディ・マリンアーテ君の退学処分は、現在のところはほぼ決定事項と言うしかない」

「……」

 事態は決して小さいとは言えない。この『事件』を知らない者は、学院においては留守にしている者くらいだ。

 なので廊下で堂々と話し込んで好ましい内容ということもないが、今のところはおおむね、廊下を渡る喧騒も平和そのものだった。

「でも、本当に悪いのは『ウィズダム・オブ・スロウン』を壊した犯人じゃないですか。ついでに、本当の管理責任者はフィリアルディの教室の先生で」

 そこは分かりきったところだったので、タウセンもやや同情的に息をついた。

「その通りだ。だからこそ君も分かっているだろう。

『ウィズダム・オブ・スロウン』はエルマノ国に伝わる純Aランクの国宝たる宝具だ。学院との学術的交流の一環として、当学院に保管されている同等の宝具と交換する形で<アカデミー>に貸し出された――言わば国賓待遇の『客人』にも等しい。

 とは言え今回エスタマイヤー教師がしたような配慮は珍しいことでもないのだ。順番が彼女に巡ってくる前の教室でも、同じように封印庫への保管作業を生徒に任せる教師は何人もいた。

 そういう意味では、彼女たちは非常に運が悪かったと言うべきなのだろう。……今回の事件には、不可解な点が、多すぎるのだ」

 学院もまだ、状況に対して追いつけているわけではない。

 そして、タウセンの言葉の通りだ。学術的交流という名目で交換貸与されてきたということは、すなわち学院を庇護し、このエムルラトパ大陸を統治する聖ディングレイズ王国が行なう文化交流行事とも等しい。研究対象である前に、大切な預かり品なわけだ。

 そういうわけで各教室が何重もの保護機構を備えた封印庫の鍵を順番で管理して、その数百年前の偉大なる挑戦によって生まれ、伝説の中にも記述された奇跡の一品の見物・研究を行なっていたのである。

 そんな秘宝を間近にする滅多にないチャンスだ。

 自分が目をかけた生徒に少しでも長く触れさせて、その叡智の一端でも学び取らせてやりたいと願うのは、学院で教鞭を取る綴導術師たちのたいていが抱く親心というものだった。

「とは言え……当時のエスタマイヤー教師の行動が常軌を逸していたと言う点は認めざるを得ない。

 いくら学院内の治安のよさが治外法権によって他と隔絶していると言っても、なぜよりにもよって新入生であるマリンアーテ君ひとりに『ウィズダム・オブ・スロウン』の、倉庫への搬入と施錠を任せてしまったのか。

 普段の彼女は生徒ひとりにそのような重責を負わせるような教師ではなかった。聴取の結果も、はっきり言えば、不自然としか言いようがない。彼女自身が当時の判断力や認識について、齟齬を覚えているようでもあった。まったく理解できない、という風にな」

「それで、フィリアルディ自身も、『おびき出され』ちゃったんですよね?」

 タウセンは重い息とともにかぶりを振った。

「『それ』も、まだ確定事項というわけではない。『ウィズダム・オブ・スロウン』を搬入し、扉に施錠をしようとした彼女は廊下の角向こうから聞こえた悲鳴に、思わず駆け寄った。

 そこに割れた窓ガラスとともに怪我をして座り込んでいたという女生徒への聴取および認識喚起系アイテムを用いた測定でも、彼女の認識内にマリンアーテ君をおびき出すという意思は発見できなかった。窓ガラスに関しても彼女の仕業という痕跡は一切ない。

 だれかに呼び出されたわけでもない。今のところ女生徒は、本当にたまたま通りかかったところで謎の衝撃で窓が割られて、巻き込まれただけという見解だ」

 そして、フィリアルディが施錠のことを思い出して封印庫へ戻ると……無残に打ち砕かれた『ウィズダム・オブ・スロウン』の姿があった。

 と、いうわけである。

「……」

「さらに言うとだが、扉≠ニ鍵≠ヘ一対になっている。一度、搬入のために鍵を用いて扉を開き、その後一定時間と一定距離を離れると、封印庫自体に攻撃的防御機構が発動して侵入者への邀撃(ようげき)と詳細な蒼導脈≠フ記録を記述する。

 しかしマリンアーテ君が悲鳴を聞きつけ廊下の角を曲がっても、これは発動しなかった。この時点で、なにもかもが異常だな。

 ついでに、純正Aランクのみの素材を高いレベルで構築したあの品を、それだけの短期間に破壊し、だれにも見られずに逃げおおせるというのも信じがたい話だ。この講義棟と同じだけの大きさを持った生物の筋力なら、あるいは可能かもしれんがね」

 事件を取り巻くいくつかの要素は、ひとつひとつを取ってみれば事件の中核とはなんら関連性が見出せない。

 フィリアルディに保管を任せた教師の判断も彼女ひとりのミスにすぎない。フィリアルディを呼び寄せることになった女生徒が通りかかったタイミングも、偶然でしかない。

 しかし、全体を見渡せば、すべてはつながっていると見るしかない。これらのどれかひとつでも欠けていればこのような事件は起こらなかった。偶然と見るのは、むしろできすぎている。

 それでも、なお。そのように断定した上で、学院が、最高峰の技術を用いてあらゆる記憶とあらゆる記録を呼び出しても――事実の関連性のひとつも見つけられずにいる。

 それが、現状だった。

「……つまり、学院が総力を挙げて追跡しているにも関わらず、いまだに犯人の発見どころかその手がかり、手口、目的につながる物証すら掴めていない。このことに至ってはもはや異常どころか前代未聞だ。学院威信の根底に関わる。少なくとも、我々すらも欺瞞する相当級の術者が関わっていることだけは間違いがない」

「…………そこまで分かっているんなら、なんで」

 ――フィリアルディが責を問われなければならないのか。

 タウセン、そしてアリーゼルからすれば、ここからが重要なことだった。このことだけは、スフィールリアは絶対に把握していなければならないことであると。

「気持ちは分かる。しかし、いいかね、スフィールリア君。ここからが『真の現状』だ。

 学院がその信頼と威信にかけて預かった『ウィズダム・オブ・スロウン』は壊れた。しかも悪いことに、どういうわけかこの事実情報だけはすでに『旗』とともに王都へ滞在している親善大使の耳に届いてしまっている。破壊工作を行なった者が手を回したのかもしれない。

 現在のところ情報は封鎖しているが、交換期間終了のずっと前には、この事実を大使と相手国に開示しなければならない。

 もしも唯一すべてを穏便に治める手法があるとすれば、この封鎖期間内に『ウィズダム・オブ・スロウン』を完全修復し、なにごともなかったものとして返還することだけだ――それでも相手側には事実が伝わっているのだから、タダというわけにはいかない。『そういうこと』としてもらうための、それなりの誠意を示す対価の支払いと、大きな借りを作ることになる。

 なおかつそれを実行できる望みは、当学院の力を以ってしても難しいとしか言えない。かの秘宝には失われた文明の至宝が用いられている――しかし我々がそれを手に入れるための時空を超えた旅を行なうには、それこそ時間が足りない。ゲートを開くに足る深度の霧の杜≠ヨ足を運ぶには、この封鎖期間は短すぎる。君なら分かるはずだな?」

「……はい」

 スフィールリアは、咎を受けているかのようにうつむき、タウセンの言葉を肯定した。なぜならばそれは、それでいてなおかつ、十数名以上の選りすぐりの綴導術師の生命を賭け金としなければならないほどの危ない橋渡りなのだ。

「つまり、責任問題は避けられない。言い訳も利かない。――彼女の責任を問うのは、我々でも、相手国でもなく……我々の関係≠サのものなのだ」

 そういうことだった。

 責任の主体がフィリアルディにかけられるなどということはない。だが――だからこそ、彼女自身の責任のサイズを鑑みてなお、彼女の退学処分は免れない。

 単に、修復を果たせばいいという問題でもないのだ。このようなことが起こってしまったということ自体が、学院にとって、そして相手国にとって、致命的な亀裂なのだ。

 純粋に扱われる『品の価値』も『ウィズダム・オブ・スロウン』ひとつ分だけということにはならない。相手国の国宝を預かると同時に、こちらも同等ランクの品を預けている。破損した品を返還し、こちらだけそのまま至宝を返してもらおうというのでは、圧倒的にフェアではない。場合によっては、学院側の至宝も返ってこないことだってあり得る。

 事情をいくら懇切丁寧に話したところで、個人単位な友人同士のやり取りのようにはいかない。関わった全員が責任を取らされることになる。そうでなければこの件を治めるための国交としての『手続き』が、成り立たない。

 なにをしようとも『責任など取りきれない』状況だからこそ、取りきれるすべての責は取って、相手国に公式な誠意を示しておかざるを得ない。相手国も、いくらディングレイズ国や<アカデミー>と友好を結んでいるとは言え、こちらが誠意と代価を示さないうちに手放しで許しを与えるわけには、いかないのである。

 関係が求める責任とは、そういうことだ。

 現在、王室と<アカデミー>間では、事態をなるべく穏便に済ませるための水面下でのやり取りが続いている。

 静かな緊張状態だ。ゆえに、ここで余計な介入者が『ウィズダム・オブ・スロウン』に手を触れてその状態を中途半端に変化させるようなことがあれば――問答無用で巻き込まれる。このような失態をしでかした上に情報を封鎖し、国宝へとさらに改変の手を加えたと。その責任問題の渦に、組み込まれる。

 少しでもできることをしたいと望んだフィリアルディに『ウィズダム・オブ・スロウン』が預けられたのは、あれがもはや国宝と呼べる価値を失っている(問題の主体がすでに物品≠ゥら取引≠ヨと推移している)ことに加えて……学院側の、同情的措置としての表れでもあった。

 彼女の現状の資産と技術ではなにもできない。その上で、直接の手を加えることはしないよう厳命を受けている。だから彼女は、旗地を一から複製していたのだ。

 一般市民の身からすれば天文学的にも及ぶ補償金の一部を、せめて負わされないような方向になるよう学院が動いてくれているだけでも、彼女からすれば天の恵みにも等しい措置と言うしかない。そのように働きかけているのは彼女が所属する教室の、ほかならぬエスタマイヤー教師であるが。

「そして、だからこそ。今、あのアイテムへ余計な手を触れさせる者は、望まれていないのだ」

 タウセンの言葉に、スフィールリアはただうつむいている。彼女にも、彼が言わんとしているところは分かりすぎるほどだった。

 ひとりの友人として、フィリアルディを救う。それだけでは済まされない問題なのだ。

 基本的に外部に対しては非公式とされている彼女の特監生≠ニしての立場も明るみになりかねない。そうなるのであれば、そうなる前に、学院はスフィールリアを切らざるを得ない。

「……だれが、なんのために。こんなことをしたって言うんですか」

「それは言った通り不明だ。わたしと学院長の心象を伝えれば――犯人の究明は不可能だと考えている。これほど完璧に学院の防御と我々のトレースを欺瞞して見せたのだ。物的証拠などとっくのとうに処分済みのはずだ。

 ついでに言えば、もう『そんなこと』には意味がない。問題はすでに、この問題をどう処理するかという点に推移している。たとえ犯人を捕縛できたとしても、『ウィズダム・オブ・スロウン』が壊れたという事実は、変わらないからだ。君が気にするマリンアーテ君の処遇の行方についても、その一点においては食い違わないはずだ」

「…………」

「正直に言おう。……気持ちは、分かる。しかし現状では君の行動は、なにをしたところで彼女を追い詰めることにしかならないだろう。この問題は、学院に、任せておきたまえ」

 スフィールリアがしばらくなにも言えず、目を逸らしていると――

 タウセンの背後、その廊下の先の交差路に、映るものがあった。

「――」

 女生徒の姿。エイメールだった。

 ただ、たまたま『貴族組』の同級生たちと通りかかっただけという風でいて――こちらを見ていた。目が合っていた。

 一瞬の視線の交錯の間に。

 浮かべられた、その、笑みを捉えて――

「……」

 彼女の姿が、通りすぎる。

 スフィールリアの顔からは、このころにはもう、すべての表情が抜け落ちていた。

「分かった」

 うなづいて、歩き出した。

 タウセンのうしろ側に控えていたアリーゼルが飛び出して、すぐさま彼女の手首を掴み取る。

「お待ちなさい! なにをする気ですの!」

 まだ歩いてゆこうとする彼女を引き止める、アリーゼルの様子は、体格差のことをを差し引いてもなお必死だ。今までの平坦さが、すでにない。

「全部、分かったの。だから、決着をつけにいく」

「ご自分がなにをしようとしているか分かっていますの!」

 廊下中に響き渡るのも構わず上げられた叫びに、スフィールリアも勢い強く振り返った。

「あたしが、標的だったんだ! そのためだけに……フィリアルディは巻き込まれたんだよ!」

 力任せに腕を振りほどかれて、アリーゼルは痛む自分の手を胸元へ引き寄せた。しかしスフィールリアが再び歩き出す気配もなかったので……そのまま、いく分かは落ち着けた声音で、口を開いた。

「……わたくしも、見ていましたわ。あなたが思ったであろうことと、同意見です。でもだから、それが、なんだって言いますの」

 スフィールリアは、ただ黙っている。意思の力だけを変えずに。

「そんなことをしたとて、なににもなりませんわよ。フィリアルディさんを助ける前にあなたが退学になるだけです。――彼女は、貴族なんですのよ」

 アリーゼルも退かなかった。彼女の前に回り込み、決然と、その小さな両腕を広げて行き先を阻んだ。

「彼女の家の力はさほど大きいとは言えません。ですが中央の――王都の貴族の力というのは、ひとつの家紋が持つ資産や発言力では推し計れないんですのよ。

 拝領をしている地方貴族と違って『広大な土地へ渡る影響力』を持たない中央貴族は、横のつながりによって互いの持つコネクションと発言力を補強し合います。

 だから彼女自身の家がすでに力を失っていたとしても、彼女の家を取り巻く無形・潜在的な影響力のいくらかはまだ生きているのです。

 貴族子女への暴力事件なんてものを起こせば――あなた、一瞬で潰されますわよ」

「その通りだ」

 すべてを見ていたタウセンが、先まであったすべての同情色を消して、口を挟む。

「そのような事件を起こした場合、学院も君をかばい立てすることは一切ない。問題があった時、その責任の比率はかんがみるにしても、貴族生と一般生なら学院はほぼ貴族生を取る。これがこの学院の現実のひとつだ。くれぐれも忘れるな」

「……はい」

 返事は、十秒後に搾り出された。

 それを聞き、タウセンが小さく息をついたところで。

 マックヴェル教室の扉を開き、<銀>のネックレスをかけた上級生の女生徒がおずおずと声をかけてきた。

「あのぉ〜、タウセン先生。もうそろそろきていただかないと、手始めにこの棟丸ごと吹っ飛んじゃうんですけど……」

 背後で――――「ダメだ……オルムス界面の崩壊曲差が、維持できない!」「タペストリ総体最終平面が綻び始めてるぞ!」「これが……世界の終わりの輝きか! 終わりの始まりが始まるぞ! ひゃははははは……!」「センパイ!? しっかりしてくださいいつものセンパイに戻ってください!」――――

 などなど……。

「…………」

 今度はちょっと疲れたように息をつき、タウセンはふたりに向き直ってきた。

「すまないが話はここまでだ。あまり生徒を待たせすぎるのも悪い」

「はい」

「お引き留めして申し訳ございません。感謝しておりますわ」

 うむとうなづき、タウセン。

「なにをしているんだね君たちは――」

 急ぎ足のタウセンの背が、呆れた風な声とともに教室内へと去っていって……。

 なんとも言えない徒労感の中。スフィールリアとアリーゼルが、顔を見合わせた。

「わたくしもまさか、あそこまで直球に勝負をしかけてくるとは思っていませんでしたわ」

「……」

「……少し、お話しましょう」

 アリーゼルの誘いに、スフィールリアはうなづいた。

 

 

「……たいそうなことをしでかした、という自覚は、あるかね」

 ふたりが去ったのちのマックヴェル教室内。均衡を取り戻して実験を続ける生徒らを眺めたまま、タウセンは――自分が背を預けた教室扉に声をかけていた。

「怖いですね。なんのことでしょうか、マックヴェル教師?」

 扉向こうから返ってきたのは、エイメールの声だ。廊下をぐるりと回り込んできたのだろう。彼の教室窓から、向かいの廊下を移動してくる姿が見えていたのだ。

 タウセンは視線も、心も動かさずに、続ける。

「学院を甘く見ないことだ。今のところ、ことの真相が君へとつながり得る物証はなにひとつとしてない。君がそうして自信満々に出向いてきたというのなら、おそらく出てはこないのだろう――だが少し素振りが怪しかったというだけでも、学院が君を問答無用で捕縛して『事情を聴取する』理由には足りる。ここは世界最高峰の綴導術師どもの巣窟だ。君の持つ精神的・術的防御なぞ一秒と保たせられないぞ」

「あら。それはつまり、証拠もなにもない哀れな生徒を拉致してしまおうということですか? 仮にも貴族である、わたしを?」

「強制的に引き出した証言が法廷において有効とされることはない。しかし逆を言えば、学院がその判断をした場合、もはや司法も権力構造も無視されるということだ。少なくともこのような事態がなす術もなく見すごされたなどという前例を作るつもりだけは学院にも毛頭ない。そして、その通り、そのような前例もない。

 だが今わたしが伝えたような『手段』の前例に関してはその限りではない。相手が大貴族であろうが、たとえその家の痕跡すべてを消し去ってでもそれは実行される。

 それだけの事態であり、並びに、それが人為的に引き起こされたというのならば、学院にとっては相応の宣戦布告であるというだけの話だ」

「まぁ、本当に怖いんですね。ふふっ」

「なるほど。それだけ、強大な後ろ盾を得ているというわけだ。君自身の力ではないがな」

「……」

 エイメールの置いた一拍は、特に反抗心が示すそれというものでもなかった。微苦笑をして扉に手を触れさせて――まるで思慕の相手へ想いを綴るかのような姿勢のまま。

「特監生=\―特別監察特待生、って言うんですか。面白い制度があるんですね」

 ようやく、タウセンは視線を後ろへと流しやった。単に実習の安定度が一定を超えたと判断しただけなのだが。

「やはり目的は、彼女か」

「わたしが気に食わないのは最初から彼女だけですよ、先生。最初からそのお話しかするつもりはありませんでしたから、事件がどうのというお話にも興味はないです。そちらは、関係ないフィリアルディ・マリンアーテさんのことですから」

「それで?」

「とても、興味深かったです。マックヴェル教師のお立場も。……特監生=B『ああいう人たち』の面倒をまとめて見るのが、先生の裏のお顔のひとつなんですね」

 タウセンの視線が、一段、怜悧に細められた。

「……」

「ふふっ。心中とてもお察しします。大変ですよね。どの人もこの人も、経歴や立場が白日の下になったら王都中のニュースになったり騎士隊が動いてしまいそうなくだらない方ばっかり。そんなことになったら、先生も、学院も……困りますよね?」

「その情報は、わたしや学院に対しての脅迫材料にはならないぞ。ついでに言っておくが、君が今触れているその制度に関する知識は、それだけで君の学院生活を脅かしかねないものだ。君に知識を提供した者は、そこまで教えてはくれなかったかね?」

「もちろん存じてますよ。ご心配なく――だから、確認にきたんです。もしも彼女がお友達を放っておけなくて、『ウィズダム・オブ・スロウン』に手を出して……その後の責任追及の段階で、彼女の立場が明らかになるとなった場合は……」

 その段階で、『ウィズダム・オブ・スロウン』へと関わった、その責の度合いなどは関係がなくなる。たとえ万が一にでも、相手国側が学院の誠意への理解と、彼女らへの同情を示して、処遇への酌量が与えられることになったとしても――

 特別監察特待生という制度自体が外部へ向けて明るみとなる前に、学院は、彼女だけは切り捨てる。

 それまでに彼女が学院に対して、彼女自身の存在を無視できないだけの功績や見返り、コネクション等を手に入れていたとしたのなら、その限りでもない。

 だが入学したばかりのスフィールリアには、当然、そのような財産≠ヘ存在していない。

 などという事実は言うまでもないことだったので、タウセンも特に返答はしなかった。

「……ふふっ。うふふふっ!」

「……」

 そうなった場合、必要であるなら彼女自身の記憶の改竄、究極的には存在の抹消までもが考慮されるだろう。なににおいても目的が優先されるというだけだ。先ほどタウセンが提示した『手段』が、彼女に向けられることになる。

 手を下すのは、エイメールではない――学院だ。

 これは、そういう構造なのだ。

「そうですよね。ありがとうございます。どうしても、その確認だけはしておきたかったんです。あなたの防御はなかなか硬くて。こうして直接おうかがいするのが早いと思ったんです。でも、本当に安心しました」

「……」

「そうでなかったら、ほかの特監生≠フ方々まで巻き込む覚悟をしなくてはいけませんでしたから」

 タウセンは、静かに――瞑っていた双眸を開いた。

 速やかに翻って、教室の引き戸を開け放つ。

「――」

 そこに、少なからず驚いたように口を開けて見上げてきているエイメールの姿が、あった。

 タウセンは変わらず平坦な心地で、目の前の哀れな勘違いをしたままな少女に、事実を伝えることにした。

「先ほど、大変なことをしでかした自覚はあるかと聞いたな――君にその自覚などない」

「っ……」

 まさかこのように思いきったことをする人物ではないとでも思っていたのだろう。しかし一瞬後には気を取り直して、強気な笑みを取り戻す。

 その顔には、たとえこちらがどのような手段を取ろうとも事件の真相へ至れる手がかりなど見つけることはできないし、彼女自身への危害も加えられることはないという、絶対の自負が見え見えとしていた。

 が、そんな彼女の幻想には構わず、続ける。

「そうだ。君は、まったく理解していない――特監生≠ニいう者の、その本質を」

「――え?」

 という声は、まったく予想していなかった向きに話が及んだからなのだろう。

 彼女自身が『事件』の話などしていないと修正をかけたにもかかわらず。そのことそのものが、彼女の哀れな無理解の証明にしかならないというのに。

「存じている? 心配には及ばない? ――彼らを相手にそのようなセリフを用意できる時点で、君は踏み外してはならない致命的な崖っぷちをすでに踏み抜いていると言うのだ。

 国際問題か。一年生では到底修復不可能な『はずの』純正Aランク品の秘宝か。学院の強大な力と、それにかかる力学背景か――それが、なんだと言うんだ」

「……」

「あの者たちにそんな道理は一切通用しない。くだらない屁理屈にすぎない。

 教師も国も、権力も真理も、あるいは場合によっては……神さえも。連中にとっては必要とあらば利用し、利用され、あるいは排除するか逃げおおせればいいというだけの概念にすぎない。行雲流水。独立独歩。――磨穿鉄硯。唯我独尊。この点においてのみ彼らを上回って特化している者なぞ、この学院にいはしない。

 性格性別年齢経歴にランクの違いなぞ知るか。ヤツらを止めることなどできるものか。彼らは、かならず、目標に到達する。そして――彼女もまた、特監生≠ネのだ」

「…………」

 きっと彼女はまだ理解していないだろう。していてよいはずがないのだ。

「……なにが、おっしゃりたいんですか」

 だが、それでも……彼の言葉の中になにかが『実在』している。その正体不明の圧力だけを感じ取ったのだろう。表情に不穏な予感を混じらせ、エイメールは一歩を引き下がった。

 タウセンは、どうと言うことのない結論を口にするだけだった。

「君は彼女(トッカン)に抗争≠しかけた。ならば、もはや――学院が手を下すまでもない。君は打ちのめされる。……祈ることだ。彼女の導き出す解答が、せいぜい君にとって優しいものであることをな」

「……」

 もう、エイメールにも、先ほどまでの勝気な笑みを呼び戻すことはできなくなっていた。タウセンの言葉の最後には、それほどの同情の念までもが込められていたからだ。

 そして――彼の弁を証言するかのように。

 扉から覗ける範囲にいるマックヴェル教室面々の、呆れや憐憫の入り混じった眼差しが――

「…………っ」

 一歩、二歩。エイメールは退いていく。

「用件というのは、先の『確認』とやらだけでいいのかね? では話は以上だ。君も自分の教室か、勉強にでも戻りたまえ」

「……ご忠告、感謝しておきますね」

 まとわりつくそれらすべてを振り払うかのような勢いできびすを返し、エイメールはマックヴェル教室をあとにした。

 

 そのうしろ姿を、しばし眺め、タウセン教師。

(彼女が得た力と――知識。おそらく特監生≠ノ関する情報のみということはないだろう。あれだけの自信を持って挑んできているのだ)

 事件のあらゆるポイントを掘り下げてみても、彼女がそのどれかひとつでもなし得るという要素があるはずもない。

 では、どこから、だれがそのようなことをなしえたのか。心当たりはあるとも言えたし、ないとも言えた。だが、いずれにしても。

(たやすい相手ではないぞ。スフィールリア君)

 閉められた引き戸は、日常の平穏を波立てるほどの音を立てることもなかった。

 

説明
◆既存投稿ページを再利用したまとめ投稿です。最新投稿分からの続編になります。(2016/05月)

※現在、拙作の作品管理はほぼ完全に「小説家になろう」↓

http://ncode.syosetu.com/n0229cj/

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