十三番目の戦獣士 4
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「いい加減にしねーと…本気で切るぞ、豚!!」

刻路(コクジ)は、魔物の中で操られているはずの鈴花(リンファ)に向かって叫んだ。

しかし、敵はひるむことなく『亥』独特の突進を続ける。

その勢いから逃れられそうになかった刻路は、身を守るために思わず切りつけた。

「うっ…」

どうやら、依り代の体が傷つくと魔物にもダメージがあるらしく、傷口を押さえながら刻路から退いた。

その様子は鈴花が苦しんでいるようで、刻路は攻撃をくり返せなかった。

「…おい鈴花、豚ぁ!! くそ、どうしたら…」

「…たぶた、言う、な」

 

 

微かに聞こえた声に、刻路はハッとした。

 

「豚って言うなって言ってるでしょ!」

そんないつもの鈴花の勢いとはまるで違うが、今聞こえたのは確かに鈴花の声だった。

 

「鈴花なのか!?」

地面にうずくまる鈴花は、顔をゆがめながらも刻路を見た。

「…そぉよ、あ…んた、何やってんの…」

「何って、こっちが聞きてーよ!!」

 

なぜ、魔物にとり憑かれたのか。

なぜ、神を裏切ることをしたのか。

他の十二支は無事なのか。

 

でも、今はそれを問い詰める時ではない。

 

「…まだ十二支戦で戦ってるあんたのほうがましよ。本気、出してかかってきなさい」

「でもお前、体…」

「あんたにやられるほどやわな体じゃないわ!! 私を倒すつもりで…うっ…が…ぁああぁ!!」

 

鈴花の意識が続いたのはそこまでだったのか、また魔物の形相になった鈴花が刻路に向かって突進してきた。

魔物から鈴花の体を解放するためには、鈴花も傷つけなくてはいけない。

…でも、それしか手がないのであれば。

 

「鈴花、お前のたくましさ、信じるからな!!」

 

刻路はキッと魔物を睨んだ。

 

――そうだ、十二支戦だと思えばいい。

刻路の心は決まった。

一番対戦することの多かった鈴花。

魔物にとり憑かれた今の鈴花は、十二支戦よりずっと動きが遅いことに気づくと、案外戦いやすいものだ。

 

「痛いかもしれないが、恨むなよ!!」

 

刻路が傷つけると、魔物はぎゃああと叫び、鈴花の体から離れた。

鈴花はまるで糸の切れた操り人形のように、ぱたんとその場に倒れた。

 

「鈴花!!」

どうすることもできなかった晶(アキ)が、鈴花に駆け寄って抱き起こした。

「大丈夫!?」

「…ええ。ありがとう」

言いながら鈴花は近づいてくる刻路に、笑顔を向けた。

「こういうときに限って遠慮するってどういうことよ」

「…仕方ないだろ…」

刻路はぶすっと顔を背けた。

「…痛いよな…悪かった」

「あんたにそんなこと言われたらからかいがいなくなるからやめてよ!! 大丈夫…っ」

言葉とは裏腹に、鈴花は痛さのせいか顔をゆがめた。

「強がらなくていいよ、とにかく手当てして休んで…」

晶の言葉に、鈴花はキッと顔を険しくした。

「そんな時間ないわ。急がないと…」

「鈴花、一体神殿で何が起こったの?」

鈴花は、二人が今までに見たこともないほどにひどく苦しそうな顔を向けたと思うと下を向いた。

そして、一瞬息を止めてはっきり言った。

 

「…神だと崇めていたものは、魔物だったのよ」

説明
十二支の話4話目です。
でも相変わらず今回出てくる十二支は猪だけです。
ほかの動物は猫とイタチ。
話は少し、動いてます。
ぜひ1から読んでみてください。
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