紫閃の軌跡 |
ケルディックを過ぎ、穀倉地帯を超えた頃には見えてくる尖塔―――それは、目的地であるバリアハートが近いことを意味していた。ふと、アスベルは気になったことをユーシスに尋ねた。
「そういえば、ユーシス。実家に連絡はしたのか?」
「一応はな。とはいえ、実習である以上過度な対応はしないように言ってるが……それがどうかしたか?」
「いや、控えめにとは言っても、いつも畏まった態度を取っているとしたら、いきなり変わるのは難しいんじゃないかと思ってさ。ま、俺は平民同然だからその気持ちはよくわからないけれど。」
「………今思えば、下手に連絡を取らないほうがよかったのかもしれないな。」
「いや、ユーシスの姿を見たらどの道同じだったと思うけれど。」
「………そうだな。」
その懸念通り、バリアハートに着いたA班の面々というか、その中にいるユーシスの影響と言えるだろう……バリアハート駅の駅員が出迎えをしに現れた。
「ユーシス様、おかえりなさいませ。」
「………今回は実習で戻っただけだ。過度な出迎えは不要と連絡が行っているはずだが?」
「いえいえ、公爵閣下の御威光を考えればこれでも足りないかと。」
必要以上に親切にしてくる駅員に対して他の面々はもとよりユーシス自身が参ってしまっていた。どうしたものかと考えあぐねていたその時、
「――――ああ、その必要はない。諸君らは業務の方に戻りたまえ。」
その一声に気づき、駅員らはその声のする方向にいる人物に気づき、深々と礼をしてその場を去っていく。その人物がリィン等の元に近づいてくる。そして、その中でユーシスが一番驚くほどの人物―――見るからに貴族の人間であった。
「あ、兄上!?どうしてこちらに!?」
「フフ、久しぶりだな。……親愛なる弟との久々の再会とあらば、時間を作ってでも会いに行くのは当然の事とは思うが?とはいえ、おおよそ三ヶ月程度では大きな変化もみられないが、良く戻ってきたと言っておこう。」
「はい、兄上の方こそ壮健そうで何よりです。」
「そして、そちらにいるのが<Z組>の、弟の学友というところか。―――ルーファス・アルバレア。ユーシスの兄にあたる。まぁ、恥ずかしがり屋の弟の事だ……私という兄がいることなど、恐らくは話していないようだからね。」
「あ、兄上……!」
ルーファス・アルバレア―――アルバレア家の長男であり、社交界では“放蕩皇子”とも言われるオリヴァルト皇子と話題を二分するほどの才覚の持ち主であり、次期当主の呼び声も非常に高い。貴族らしさを前面に出しながらも領民に対する慈悲深い姿勢を忘れない部分は、かつてアルバレア家にいた現アルバレア公爵の弟―――“翡翠の貴公子”リューヴェンシス・アルバレアの再来とまで謳われるほどらしい。
(はは、何というか……)
(信じられん。あの傲岸不遜の男が……)
いつもは尊大なくらいが丁度良いユーシスも目の前にいるルーファスの前では完全に形無しであり、これにはA班の面々もいつものユーシスらしからぬ感じに各々思うところがあるが……マキアスも学院で見てきたユーシスとは異なる一面に驚きを隠せずにいた。
「さて、ここで立ち話というのも些かだ。このまま諸君の宿泊先まで案内させていただこう。」
「兄上、まさか……」
「フフ……改めて、ようこそ『翡翠の公都』バリアハートへ。」
ルーファスの先導で彼の用意したリムジンに乗り込み、今回の実習についてのことを話した。今回の実習ではルーファスが父親であるアルバレア公爵の代わりに実習課題を準備したとのことだ。その実習課題が入った封筒をリィンに渡しつつ、
「それにしても、これも女神の巡り会わせというものだろう。シュバルツァー卿の御子息が我が弟の級友とは……君と直接顔を合わせるのは半年ぶりぐらいかな?」
「ええ。その節はお世話になりました。」
「いや、私は大したことなどしていないよ。中々の大盛況ぶりだった……それとは別だが、先日は父が迷惑をかけた。ケルディックの件も含めて、先週の領邦会議でも父がシュバルツァー卿と激しくやり合ってしまってね……個人的に詫びの手紙を書いたのだが、君の方からも『申し訳なかった』ということを伝えてくれないか?」
「ええ、解りました。」
ルーファスと話すリィン……数回程度ではあるが、助け舟を出してもらったこともあってそれなりに親睦がある関係だ。互いに<五大名門>の子息という間柄から垣間見える会話にはリィンが貴族の御曹司ということを改めて実感する。
「そして、そちらはレーグニッツ知事の御子息だな。」
「―――ええ、ご存知でしたか。」
「最近、帝都での公式行事で顔を合わせることが何度かあってね。立場の違いはあるが、色々と助言をしてもらっている。これも何かの縁だろう……今後とも弟を宜しく頼むよ。」
「………それは―――その、前向きに検討させていただきます。」
「フフ、結構。」
マキアスに対してそう話し、エマとフィー、ルドガーにも触れつつ……アスベルの方にも視線を向けた。
「そして……君がリベールの“若き剣聖”ということだね。」
「ご存知でしたか。こちらではあまり活動していないのですが……」
「“眠れる白隼”リベール王国。かの“剣聖”カシウス・ブライトのような存在であり、王国きっての遊撃士と聞いている。得物が違うとはいえ私も剣の道を嗜んでいる以上、そういった人間に対して憧れを抱くこともあるというだけさ。気難しいとは思うが、弟をよろしく頼めるかな?」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
そう言葉を交わしつつも、アスベルは内心でルーファスの人となりを考える。表面上だけを見ればそれなりに出来た人格者だ。だが……いや、ここでは考えるのはよすことにした。それよりも、ユーシスは今回の実習先の宿泊先が気になって仕方がない様子だったが、それを知ってかルーファスが少し冗談も込めたような感じで
「愚問だな。我が公爵家城館に決まっているだろう?―――と言いたいところだが、『好きにせよ』という父上の言葉だ……街のホテルに部屋を用意させた。その方が実習に心置きなく集中できるだろう?」
「ええ……正直助かります。」
正直安堵しているユーシスの姿……本来ならば実家である場所の方が安堵できるはずなのに、そうでないことに安堵しているということには他のA班メンバーが各々思うところがある……そして、今回の宿泊地であるホテル・エスメラルダに到着した。
「なに、気にすることはない。本来ならば今宵、饗応の席を用意したかったのだが……生憎、この後帝都での用事が入っていてね。」
「帝都へ……飛行船で、ですか。」
「ああ、父の名代でね。フフ、この兄がいないということに寂しかったりするのかな?」
「ふう……御冗談を。」
「ハハ、不愛想な弟だが今後とも仲良くしてやってほしい。それでは、失礼させてもらうよ。」
ユーシスをからかいつつも、ルーファスはリムジンに乗り込んでその場を去った。このタイミングでルーファスがいなくなったことには含みのある言葉をユーシスが呟いたが……何はともあれ、ホテルでのチェックイン―――その際に、ユーシスに加えて同じ立場のリィンまで巻き込まれて危うく個別の部屋になるところであったが、リィンとユーシスとマキアス……アスベルとルドガー……フィーとエマの個別の部屋と相成った。
「済まない、リィン。」
「いや、俺も正直吃驚したよ……」
「フン、流石は貴族の御曹司というべきだな。」
「……とりあえず、実習の内容を確認しませんか?」
「だね。」
(バリアハート……実習……あ、アイツがいるじゃねえか!!)
(……どうする?)
(後でボコる)
(……街の中で流血沙汰はやめてくれよ?)
ここまで失念していた“彼”の存在にルドガーがかなり物騒なことを言っていることに対し、気持ちは理解しつつも物騒な状況になるのだけは避けてほしいと願うアスベルであった。……もうすでに遅い気がするのは、敢えて口にしないが。
今思うと、TのOPで正面向いてるんですよねルーファス……やっぱOPにもサラッと伏線仕込むあたり、ファルコムらしいなと。
第二章はアスベルというよりはルドガーにスポットを当てます。何せ、過去編全くやってませんからね、彼に関しては。あと、スポット参戦してもらうキャラもいます。その辺は本編にて。
トワ会長の銃……ある意味こっちで出しているオーブメントの機能に似ていたことには驚きでしたが。(詳しくはUのトワ会長の絆イベントを見ると解るかと……ネタバレ防止のため、このような書き方しかできません。)
ちなみに……『翡翠の刃』として出てきたのは団長とその奥さん、そのお付きですが……実は、素性を隠していますが既に何名か出しています。その辺りはU編あたりにて判明させられるよう……まずはT編をきちんと終わらせることからですが。
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第26話 翡翠の公都 | ||
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コメント | ||
ジン様 フラグ自体が完全に消えた、という感じではありません。原作では理由が“アレ”でしたが、この作品では別の理由を敢えて発生させていますので……ただ、生存フラグは完備ですが(ぇ(kelvin) そう言えば気づいたんだけど西風の旅団が貴族連合に雇われるフラグ消えたよね?だってアリスの過去関係で貴族の事嫌ってそうだし、貴族連合はカイエン公が総主宰だし、猟兵王は生きてるしね。どちらかと言うとシュバルツァー家に雇われてケルディックとかの守護をしそうですね^^(ジン) |
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