ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長 |
story40 試合の終わり
「やりましたね!西住殿!」
W号から降りた秋山は西住の手を持つ。
「うん!」
「勝った!!」
「やれやれ。薄氷の勝利だったな」
冷泉の言う通り、かなりギリギリの戦いであった。
主力をやり過ごしたW号とV突は村へ戻り、秋山の偵察でフラッグ車の場所を確認して撃破に向かうも、途中でKV-2が立ちはだかって砲撃を行うも、二輌は左右に散って回避する。
その後はそう装填時間が長いKV-2の弱点を突き、装甲の薄い箇所を狙い撃ち、撃破する。
その後はフラッグ車を追跡するも、巧みな操縦技術でフラッグ車は逃げ続けて時間稼ぎを行う。
途中で西住はフラッグ車の逃走ルートがただ村を一周していることに気付き、V突に待ち伏せを指示し、W号は引き続き追跡を行う。
次々と八九式と共に行動しているチームの戦車が撃破されるのをアナウンスで聞きながらも、プラウダのフラッグ車はV突が待ち伏せるルートに入った。
そして雪の中に隠れて待ち伏せたV突の放った砲弾はT-34に着弾し、白旗が揚がる。
「よくやったぞ!!」
「ありがとうー!」
と、西住達の元に生徒会がやって来る。
角谷会長はいつも通りにニッと笑い、小山は涙を流しながらお礼を言い、河島は無言で頭を深く下げる。
「カッカッカッ!!時間を必死に稼いだ甲斐があったもんだ!」
と、二階堂達も西住達の元にやって来る。
二階堂達は厄介であったT-43を引き付けて、フラッグ車との合流を阻止した。結果的にネズミチームは撃破されてしまったが、時間稼ぎがあくまで目的であった為、目的を達せられた。
「せっかく包囲網に穴を開けてあげたっていうのに、まさかあえて厚い所に突っ込んでくるなんと思ってもみなかったわ」
と、西住達の元に、額に絆創膏を張ったノンナに肩車されたカチューシャと、隣を並んで歩くナヨノフがやって来る。
「・・・・誇ってもいいわよ。このカチューシャに勝ったんだから。去年はあなたのおかげで勝てたけど、今年は負けたわね」
素直に自らの敗北を認め、言葉を続ける。
「いいえ。勝てたのは、たまたまです」
「え・・・・?」
西住の謙遜にカチューシャは思わず声が漏れる。
「もし、教会から出る時に一斉に攻撃されていたら、負けていました」
やろうと思えばあの時の脱出時に大洗の戦車を殲滅出来たであろう。
「・・・・・・それはどうかしら」
「え?」
カチューシャの言葉に西住は声を漏らす。
「もしかしたら・・・・・・。と、とにかく、あなた達、中々のものよ。こんなポンコツな戦車ばかりで勝つんだから」
照れ隠しなのか、顔をそっぽ向ける。
「・・・・・・」
「い、言っておくけど、悔しくなんか無いんだからね!」
「ノンナ!」とカチューシャはノンナから下ろされて、地面に足を着ける。
「・・・・・・」
カチューシャは無言で右手を西住へ差し出す。
上からの目線ではなく、あえて下からの目線で握手を交わす。西住を認めたという事だ。
西住は少し戸惑うも、右手を差し出してカチューシャと握手を交わす。
「決勝戦。見に行くわ。カチューシャをガッカリさせないでよ」
「はい!」
「ところで、四式の車長はどなたでしょうか?」
と、さっきまで黙っていたナヨノフが口を開くと、一歩前に出る。
「俺だ」
二階堂も一歩前に出ると、ナヨノフと向かい合う。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人はしばらく睨み合い、二人の間に威圧感が漂う。
「・・・・お名前は?」
「二階堂明日香だ」
「ナヨノフです」
「・・・・・・」
「・・・・私があそこまで引き付けられるのは、初めてでした」
表情一つ変える事なく口を開く。
「・・・・・・」
「更に私のT-43を砲塔旋回不能にし、砲塔を折ったのは、高く評価に値します」
「そうかい」
「・・・・作戦と言う縛りが無ければ、血の滾る戦いになったでしょう」
「・・・・・・」
「次に戦える時には、一対一で、正々堂々と戦いたいものです」
「俺もだ。次は勝ってやる」
「私も負けるつもりはありません」
と、二人は握手を交わした。
――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・」
その頃、回収車の荷台に乗せられて、中破した五式中戦車が運ばれ、その荷台に如月達は立っていた。
近くではウサギチームとM3、アリクイチームの三式、カモチームのルノーB1も同じく回収車の荷台に乗せられて運ばれ、その後ろを履帯を修理したタカチームの九七式が続く。
「全く。本当に突っ込むなんて思ってもみなかったわ」
「いやぁあそこまでくるともうやるしかないって思っちゃった」
左頬にガーゼがテープで固定された早瀬は頭の後ろを掻きながら苦笑いする。
「全くもぅ。メガネにヒビが入ってしまったじゃない。まぁ安物だからいいんだけど」
鈴野は右のレンズにヒビの入ったメガネを上げる。
「・・・・・・」
如月は五式にもたれかかり、赤く染まったタオルで右辺りの額を押さえている。
しがみ付いていたが、衝撃のあまり吹き飛ばされ、砲手席の背もたれ裏にあった金具に頭を強く打ちつけて、頭を切っていた。
深く切ったようで、そこそこ出血していた。
「大丈夫ですか?」
坂本が座り込んで心配そうな声を掛ける。
「あぁ。多少痛みはあるが、問題は無い」
実際は滅茶苦茶痛いのだが、あまり心配を掛けるわけには行かない。
(・・・・激戦だったが、何とか勝利を収めれた)
フラッグ車を守る為に数輌が身代わりになり、クマチームの五式もIS-2と刺し違えるに近い状況で撃破されたが、その間にカバチームV突がフラッグ車を撃破した。
(山は越えれた、と言うところか)
いつもであれば、初出場で準決勝をも突破した、と驚きに満ちていただろう。
だが今回はそれもあり、同時に西住の勘当を何とか避けれたのが、一番大きかった。
「あっ!西住隊長!!」
と、立ち上がった坂本はこっちに向かってくる西住たちを見つけ、右手を上へ上げて左右に振る。
「それにしても、私達・・・・去年の優勝校に勝ったんですね」
「今も信じられない。神威女学園との戦いは凄かったけど、何より準決勝を突破出来た事が凄い」
鈴野は笑みを浮かべながらヒビの入ったメガネを外す。
「あぁ。そうだな」
如月はタオルを手放し、ふら付きながらも立ち上がる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「まさか、あの状況から逆転勝利を収めるなんて」
観客席から見ていた早乙女は驚きを隠せれなかった。
ここまでの逆転劇は、恐らく今後見られるかどうか分からないものだ。
「・・・・さすが、私が見込んだ事があるほどね」
驚きと同時に、嬉しさもあった。
(おめでとう・・・・翔)
内心で如月を祝い、早乙女は観客席を後にする。
「腐っても西住流、という所か」
焔も多少この逆転劇に驚きを隠せれなかった。
(・・・・だが、こいつは面白い事になってきたな)
だが同時に、高揚が込み上げて行き、意識していなくても口角が邪悪に釣り上がる。
「(ここまで面白いと思った事は・・・・初めてだ。体が疼いて居やがる)・・・・くくくくっ・・・・!」
笑いを上げたい所だったが、何とか抑え込む。
(楽しみだなぁ!!あの汚れた血と西住流の汚点をぶっ潰せる、決勝戦が!!)
ここまで高揚を覚えたことが無い焔は、そのまま観客席を後にする。
「よく勝った。・・・・・と言った所かしら」
試合が終わり、西住しほと西住まほは立ち上がってモニターを見る。
「プラウダに慢心と油断があったとは言え、あの子は運も味方につけたようね」
「・・・・いいえ。大洗には、実力があります」
「実力?」
まほの言葉にしほは思わず聞き返す。
「みほにはその場の状況に合わせて柔軟に対処する能力があります」
「・・・・・・」
「そしてチーム全体の結束力・・・・・・。ここまで組織的に動けるチームはそうはありません」
「・・・・・・」
まほの言う事にも一理あると、しほは理解し、モニターに映るみほを見る。
「我が娘ながら・・・・・・一度は戦車道から引いた者が・・・・・・今度は西住流の敵となるか」
「・・・・・・」
「西住流の『力の象徴』、早乙女流の『知の象徴』、斑鳩流の『謀略の象徴』・・・・・・。そして、三大戦車道流派の一つである西住流こそが真の戦車道。
西住流の名を名乗る事は、戦車道を体現するも同じ」
「・・・・・・」
「まほ。決勝戦では獅子の戦いを見せつけてあげなさい」
次第にしほの表情は暗く包まれる。
「この世に西住流は二つもいりません」
「・・・・・・はい。私の『西住』の名に懸けて・・・・・・全力で叩き潰します」
内心で多少の迷いはあるも、西住流として、みほを倒す事を胸に秘める。
――――――――――――――――――――――――――
「みぽりん!翔さん達がやって来たよ!」
そうして武部が指差す先に、回収車の荷台に乗せられて運ばれる五式と、その荷台に乗る如月達が居た。
「!五式中戦車が・・・・」
秋山は五式の変わり果てた姿に驚きを隠せれなかった。
車体前部がIS-2との衝突の大きさを物語るように、大きく形状が変形しており、ハッチが歪み、副砲身は上に向かって曲がっている。誘導輪は大きく破損して履帯が外れており、主砲身はIS-2の砲塔にぶつかった事で先端が折れてしまっている。
「って!翔さんまた怪我してる!?」
赤く血に染まった額をしている如月を見て武部は目を見開く。
「大丈夫でしょうか」
心配そうに五十鈴が言葉を漏らす。
「戦車がこんな有り様になるのだ。乗員が無傷で済むはずはないな」
「でも、何だってそんな無茶を・・・・。みぽりんがいつも注意しているんじゃないの?」
「言ってはいるんですけど、あの人はそう簡単に自分の信念は変えたりしないんです。
それに、如月さんの無茶はしないって、無茶をするって事に近いんですよね」
西住は苦笑いを浮かべる。
「えぇぇぇ・・・・」
武部も呆れるしかなかった。
「・・・・でも、如月さんが無事なら、それでいいんです」
西住は微笑みを浮かべ、回収車へ向かう。
(無事だったんだな・・・・みほ)
こちらに向かってくる西住の姿を見て、如月は安心感が広がった。
(これで、何とか――――)
「・・・・・・?」
すると突然体の力が抜けていく。
(なん、だ――――)
意識が薄くなりながら視界が暗くなり、一瞬見えたみほ達がなぜか上へと上がっていくのが、如月が見た最後の光景だった。
「え・・・・・・?」
西住は思わず声が漏れる。
メンバーが見る中、如月は突然・・・・・・回収車の荷台から雪が積もった地面へ転落する。
その一瞬が、西住にとっては異様に長く感じられ、その光景がスローモーションの様に見えた。
「如月さんっ!?!?」
すぐに早瀬達が必死の形相で回収車の荷台から降りて如月の元に向かう。
「翔さんっ!?!?」
武部は悲鳴に近い声を出し、如月の元に向かう。
「如月殿!!」
秋山と五十鈴、冷泉も不安に駆られた表情ですぐに如月の元に走り出す。
「・・・・・・」
しかし、西住は突然の事に、頭の中が真っ白になって、その場に立ち尽くしていた。
早瀬に仰向けにされた如月は・・・・・・押さえていた額から更に血を流して顔の右半分が赤く染まり、左目があった場所にある傷痕を覆う医療用の白い眼帯が、その傷痕から出血した血で赤く染まっていた。
その姿があの事故の・・・・・・瀕死の重傷を負った如月の、無残な姿と重なった。
「だ、誰か!!早く来て!」
「衛生兵!!衛生兵!!」
「如月さん!!如月さん!!しっかりしてください!!」
しばらくその場は、騒然となっていたという・・・・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
試合会場が騒然となっている同じ頃、大洗女子学園では――――
すっかり暗くなったにも関わらず、大洗女子学園の敷地内にある古めかしい弓道場に光が灯っている。
「・・・・・・」
その弓道場に、一人の女子が目を瞑って立っている。
白い筒袖に紺の袴を穿いた弓道衣を着用し、背が高くスタイルが良い女子で、今は目蓋を閉じているが、瞳の色は紺青である。僅かに赤紫がかった黒髪のロングヘアーを白いリボンで根元を束ねてポニーテールにしている。
彼女は無心となり、精神を統一する。
「・・・・・・」
女子は目をゆっくりを開け、手にしている弓の弦に矢の末端にある筈を挿し込み、ゆっくりと矢を引き絞る。
神経を集中させて狙いを定め、矢の末端を離し、弦が元に戻る力で勢いよく矢が放たれる。
一直線に飛ぶ矢は吸い寄せられるかのように的のど真ん中に突き刺さる。
しかし的には中央の円に寸分狂わず沿うように他の矢が突き刺さっており、その中央に先ほどの矢が突き刺さっている。
意図的に狙っていると言うのが分かる。
「おぉ。さすがです!先輩!」
と、後ろで見ていた弓道衣を身に纏う背の低い女子が近付いてくる。
矢を放った女子の結構でかい胸より下まで背が低く、見た目は幼く見える。薄い茶髪をポニーテールにしており、紅白縞模様の鉢巻を頭にしている。瞳の色は黄色がかった黒。
「よくこんな遅くまで練習していられるわよね」
「そうですね」
その女子の隣に同じく弓道衣を身に纏う僅かに緑がかった灰色の髪をツインテールにしている女子と、ミドルのストレートヘアーの女子が巨大なおにぎりを食べながら言う。
「・・・・日々鍛錬を行わなければ腕が鈍る・・・・」
「いや、あんたの場合は異常でしょ。朝から晩まで練習するって、そうそう居るもんじゃないと思うけど」
「・・・・・・」
「そういや、雫」
「ん」
「あんたはこの間の話、どうするの」
「・・・・・・」
少し前に生徒会長が生徒会メンバーと共に弓道場にやって来ると、『戦車道をやらないかな?』と誘いがあった。参加した見返りにと、弓道部が抱えているとある問題解決の援助をしてくれると言う。
しかし彼女は『これは弓道部の問題だ。部外者は関わるな』と言って誘いを断った。
「まぁ雫の気持ちは分かるけど、気持ちだけじゃ覆せれないことだってあるじゃん?」
「・・・・・・」
雫と呼ばれる女子は眉間にしわを寄せる。
弓道部は廃部と言う危機的状況ではないが、それに繋がりかねない状況でもある。しかし部長である『篠原(しのはら) 雫(しずく)』は今まで他人の力に頼らず自分と副部長である『瑞鶴《ずいかく》 沙良《さら》』と部員である『赤城(あかぎ) 祥子(しょうこ)』と『原田(はらだ) 瑞鳳(ずいほう)』だけでこの問題を解決しようとした。
しかし、部員が少ないとあって解決どころか進歩すらなく、行き詰っている。
「戦車道をやれば、弓道部の知名度も上がって、部員だって増えるかもしれないんだ。それに部費カットも無かった事になるし。こんなおいしい条件が一斉に揃う事ってそうそうないだろ?」
「・・・・・・」
「弓道部の今後を考えるのなら、もう手段は選べないと思うけど」
「・・・・・・」
「篠原先輩・・・・」
モグモグ・・・・パシーン!!
「・・・・・し、篠原部長」
おにぎりを食べていた赤城に瑞鶴がどこから持ってきたのかは分からないがハリセンで頭を叩く。
「・・・・考えておく」
しばらくしてそう言うと篠原は的の方に向き直ると、弓矢を構え、矢を放つ。
放たれた矢は的のど真ん中に突き刺さっている矢のすぐ右に突き刺さる。
「・・・・・・」
瑞鶴は呆れて肩をすくめる。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。 戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。 |
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