魔法少女と変身ヒーローと悪の科学者の物語 |
第三話「作者絶不調」
飛蝗の怪人を倒してから一週間。翔介は魔法少女達が活躍する影でひっそりと怪人たちを破竹の勢いで倒していた。倒した数は十五体。
月光が街を照らす。その光を反する純白の戦士。彼は逃げていた。その後ろには五百の黒い影。否――
「おりゃぁぁぁぁぁあああああああ!」
――敵を誘いだしていたのだ。コ・アークたちが一直線になったところで必殺技で一網打尽だ。
必殺の蹴りがコ・アーク達を薙ぎ払っていく。
着地後。即座に反転。後には躯となったコ・アークたち。それもすぐに粒となって消えていく。
それを確認して翔介は息を大きく吐いた。
「どうです?」
『周囲の反応は消失しました。これで魔法少女たちの戦いも有利になるかと』
「そうだね。じゃあ帰るか」
一角の戦士は告げると、光となって霧散する。その光景を眺めていたモノがいた。
「なるほど……あの雌狐が一枚噛んでいると見たほうがいいのだろう」
ポツリと呟くその言葉は決して誰にも届かない。
翔介の家、厳密には翔介の部屋で彼とノワールは向かい合っていた。
翔介のブレスレットから、ライトが照らすかのようにホログラムが浮き出る。魔法少女たちだ。その姿を見てノワールは苦虫を噛み潰したような顔となる。
「まさか、この魔法少女たちに劣情でも?」
「違いますよ。俺は二次元派です」
笑顔で即答。
「それに――」
彼は赤い魔法少女を見ると、鼻で笑う。それ以上は何も言わず、優しい眼でそれらの存在を見守るように眺めた。
「その後はないんですか? 私とても気になります」
「ないですね。秘密というやつです」
ノワールはそれ以上追求することはしない。表情を真面目にしてみせると、態とらしく咳払いをした。
「色々と説明をしてなかった気がするのですが」
「倒せばいいんですよね?」
「聞かないのですか?」
「話をしてくれるなら、喜んで」
「では――」
ノワールはどこからともなくホワイトボードを取り出した。
白板に書かれている文字は「なぜなになんなノワール先生の教えてあ・げ・る。はあと」という文字である。
ちなみに文字に対してツッコミはない。翔介は「綺麗な文字だね」と柔らかく微笑むだけである。
「色々とツッコんで欲しかったです」
「なにを?」
「ナニを!」
いやらしく笑う彼女に対して翔介は、首を傾げるだけだ。
「もういいです! いけずー!」
「敵の目的はMOVING・OVER・EMOTION・ENERGY。略してMOEエナジー、平たくいえば激しい感情です。それで一番強い――もえ――が彼らの目的」
「萌え?」
「燃えでもあります」
「だから、変身玩具なんて持っているのか」
「ちなみにあれらは、こちらの通貨を正当に手に入れて購入したものです」
翔介は素直に凄いと言うだけで疑問を持たなかった。調子を狂わされたノワールは肩を落とす。
「どうやって? とかないですか?」
「萌えや燃えのために働く姿勢に感動かな」
「ちーがーうーでーしょー! お約束―お約束ですよお約束」
白板を何度も叩いて彼女は主張するが、翔介に理解されることはなかった。
「もういいです。彼らは寂れた遊園地に潜り込み、盛り上げて、その収益でこちらのあれこれを買っているのです」
「凄いね。人に夢を与えるなんて凄い。しかも遊園地立て直したんだ!」
「そこですか……」
「もえが欲しいなら、話し合いでなんとかなるんじゃないの? ほら、一応日本ってそういうの特化しているし、そういうの供出してあげれば、なんとかなりそうだけど」
「その可能性は捨て切れません。けど、彼らの中にはこの世界を支配してそれを独占しようと企んでいる者もおります」
「あれ? じゃあ一枚岩じゃないんだ」
ノワールは首肯する。白板に穏健派、共存派、過激派と書く。それらを三つの円で囲む。
「虫族のアーク達は穏健派です。共存派は少ないです。過激派がやはりダントツですね」
警察某機関。某所。
数人の男たちが円卓に座していた。そ一人が重苦しく口を開く。
「プロジェクトMPHを始動を許可する」
〜続く〜
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