紫閃の軌跡 |
【一日目実習内容】
・オーロックス峡谷道の手配魔獣
※依頼達成後、オーロックス砦に報告すること
・バスソルトの調達
・穢れなき半貴石
実習範囲:バリアハート市周辺10セルジュ(1km)以内
ルーファスより渡された実習内容……見るからに難易度的にはさほど難しくはないだろう。とはいえ……マキアスとユーシスの事を鑑みれば、これらの依頼だけでも難易度がかなり上がっているのは否めない。その中で手配魔獣に関わることだが、
「オーロックス砦に報告とあるが、これは何なんだ?」
「中世の小さな砦だ。オーロックス峡谷道を抜けた先にあって、かなりの距離がある。往復するだけでも数時間はかかるとみていい。」
「となると、それは後回しにした方が良さそうだな。」
とりあえず他の依頼……バスソルトの方を聞きにいくと、その依頼主というかその代理が貴族の息子……そのマイペースぶりにユーシスが皮肉るような感じで呟くと、彼等は忽ち慌てふためいた。
「ユ、ユーシス様!?それに、そこにいるのはシュバルツァー公爵家の……!?」
「どうした?悠長に話をしなくてもいいのか?」
「い、いえ、早速話に移らせていただきます!!」
(ユーシスもそうだけれど……リィン、顔が広いね。)
(別に好きでそうなったわけじゃないけれどな。)
(あはは……)
(………フン、流石は<五大名門>というわけか。)
聞けば、『ピンクソルト』と呼ばれる岩塩を採取してきてほしいとのことだ。その塩はオーロックス峡谷道に分布しており、それならば手配魔獣と併せて行う方がよいと判断し、残った依頼である半貴石絡みの依頼の話を聞くため、職人街に向かった。
その一角にある『ターナー宝石店』……リィンらがその店で客らしき人と話している職人―――ブルックがリィン等に気づき、声をかけてきた。
「おや、その制服は……それに、ユーシス様も。ようこそいらっしゃいました。実習の依頼の件でご来店ですね。」
「確かにそうだが、俺がいるからといって特別扱いしないでくれ。取り込み中のようだが、改めた方がいいか?」
「いえいえ……実は丁度、ユーシス様たちの事をお話しさせて頂いていたのです。」
「その、どういう事情なんです?」
何でも、今回の依頼はブルックと話していた青年―――ベントからの依頼が事の発端である。彼は近々結婚する予定とのことで、宝石の本場とも言えるバリアハートにまで態々足を運んで結婚指輪を探しに来たとのことだ。
「ふむ、成程……」
「ふふ、素敵ですね。」
「とはいえ、宝石となると」
「うん、それなりに値は張りそうかな……ちょっとしたものでも数千から数万ミラは下らないらしいし。」
「って、詳しいのか?」
「前に指輪を買うのに付き合わされた。アリス曰く『これも社会勉強』とか言ってたけれど。」
彼女の身内の影響でそれなりに詳しいフィーに感心しつつも……七耀石のものとなるとかなり値が張るのは事実であった。困っていたベントにブルックがアイデアを出した。それは、『半貴石』―――宝石には価値が一段劣るとされるものの、宝石に負けるとも劣らない輝きを持つものの中で、バリアハート近辺で採取できるとされる『((樹精の涙|ドリアード・ティア))』の調達が今回の依頼の内容だ。その採集できる樹木は北クロイツェン街道にかなり多く分布しているとのことだ……とはいえ、根気よく探さねばならないというのは骨が折れそうだが……その時、背後の方から聞こえてくる声。
「―――いや、そんなことはない。君たちが求めているであろう木霊の涙……それを先程この目で見たと言ったら?」
「(この人、どこかで……)ユーシス、知り合いか?」
「いや、見覚えが全くないのだが……」
その言葉に振り向くと、白きコートを身にまとった人物………リィンは違和感を覚えつつも、ユーシスに尋ね、彼は顔見知りではないと答えを返す。アスベルとルドガーに至っては内心『何やってるんだコイツ』という心境なのだが。それを知ってか知らずか、その人物は礼をして自己紹介をする。
「おっと、順序を間違えてしまったようだな。お初にお目にかかる―――私の名はブルブラン男爵。絵画や彫刻などの美術品、美麗な細工の施された調度や工芸品、およそ芸術と名のつくものであれば、惜しみなく愛と情熱を傾ける自他ともに認める好事家だ。」
「(え……アスベル、この人って……)」
「(間違ってないと思う……どうするよ?)」
「(まぁ、こういった類に関しては信用できるから、黙っておこう……それ以外は信用できないが)」
「(……容赦ないね。ま、解らなくもないけれど。)」
白きコートの人物―――ブルブランの名を聞いたリィンは小声でアスベルに話しかけ、アスベルはそれに肯定しつつもルドガーにも話し、そのルドガーは今回の事に関しては信用するということで話をすすめ、身内だというのに容赦ないルドガーに対してフィーがボソッと呟いた。実は、フィーも身内共々『影の国』に巻き込まれ、その過程でブルブランと対峙したことがある。なので、彼女にもすぐに解ったようだ。一方、その素性を知らないマキアス、ユーシス、エマはブルブランと話を続ける。
「えと、先程の話に関しては本当なのですか?」
「勿論。美に関して私が嘘をつく道理はない。ただ、土地勘がないので詳しい場所までは言えないのだが……だが、それも一興というものだろう。そこに至るまでの努力を費やしてこそ、その価値というものは更に輝きを増すことだろうからね。」
「な、何だこの人は……これが、貴族なのか?」
「………一緒にするな、阿呆が。」
ブルブランにしてみれば通常運転なのだが、それを知らない三人にしてみれば軽く引き気味となる物言いにどう反応して良いものか悩んでいた。普通に考えればこれが真っ当な反応なので、間違ってはいない。ともあれ、北クロイツェン街道に出て……敵を殲滅しつつ、目的の品である<ドリアード・ティア>も無事に見つけて、『ターナー宝石店』に戻った一行。……その途中で街の方向に向かう領邦軍の新型装甲車を目撃したが……だが、どうにもブルックとベントの顔色が優れない様子に首を傾げる。とりあえず目的の品を渡したときに聞こえてくる声。
「―――おい店員、何をしている!品が手に入ったのなら、さっさとよこさんか。」
「は、はい、直ちに……」
その声の主―――ゴルティ伯爵はブルックからリィン等が手に入れた<ドリアード・ティア>を受け取り、本物であることをお付きのメイドに確認させると……何と、それを口に入れ、噛み砕き……飲み込んだのだ。これにはリィン等はおろか、この結末を知るアスベルとルドガーも良くない表情を浮かべている。伯爵が口に入れる前に『摂取』と言っていたので予想は出来ていたことだが……そして、案の定―――マキアスが伯爵に対して『貴様』と言って突っかかってしまったのだ。
(しまった……僕は貴族相手に対して何ということを……)
「ふむ、だが私はこの程度で腹を立てるほど器が小さい人間ではない。くれぐれも口を慎むことだな。その気になれば貴様程度の人間の一人や二人……」
「やれやれ……口を慎むべきはそちらの方ではないのか?」
「ああ?……って、貴方はユーシス様あああああっ!?」
そして、案の定の展開である。ユーシスが<ドリアード・ティア>に関しての説明を求めると、伯爵は『正当な契約に基づいて手に入れたもの』であるとし、ブルックとベントもそれに頷いた。何でも漢方的な効用があるとされているらしいが……
(信じられるか?)
(似たようなモノで解りやすく言えば、琥珀を食べて若返りってところか?……腹壊すだけだと思うぞ。)
樹液が固まったものとはいえ、石を体内に入れるのに等しい行為…阿呆としか言いようがない…ともあれ、一通りの事情を話して伯爵とそのメイドが店を出ていく。そして、まだ店にいたブルブランは意味深な笑みを浮かべて
「やれやれ、下らない喜劇であった。だが、人生というものは思い通りに行かないからこそ面白い。それにもがき、抗い続ける姿というものは本当に美しいものなのだよ。」
そう言い残して去っていくブルブラン……すると、ルドガーが
「……すぐに戻ってくる。ちょっと用事を済ませてくる。」
「………ああ、解った。街の中で騒ぎはやめてくれよ?」
その言葉で何を察したアスベルが頷くと、ルドガーが店の外に出ていった……彼の餌食になるであろう人物に対して、祈りは必要ない。無慈悲だろうが、彼に容赦という言葉は不要。ともあれ、リィンらはブルックとベントのほうに向き直り、話を続ける。契約自体は確かに正当……だが、伯爵クラス以上の人間に対して物言いなんて出来ない。これが帝国の実情であるということも。帝都ではその傾向が無くなりつつあるというが、オズボーンの勢力範囲外の地域、センティラール州以外ではこれが当たり前の光景らしい。
完全に意気消沈のベント……すると、アスベルが何かを思いつき、ベントに尋ねてみる。
「ベントさん……もし、ヘイムダルあたりで『七耀石で結婚指輪を作れる』なら、作りたいですか?」
「アスベル?」
「え?それは勿論、出来るなら願ったりかなったりだけれど……」
「解りました。連絡を取って見ますので、少し待っててください。」
「一体何を……」
そして、それを聞いたアスベルがARCUSを取出し、自分の持っている“通信器”も気付かれない様に同時に起動させて、通信を試みる。そして、その相手の声が聞こえてくる。
「―――久しぶりだな、“オリビエ”。」
『お、これは我が親愛なる友じゃないか。珍しいね……今はバリアハートに『特別実習』でいるのだったかな?』
「(え……オリビエって……)」
「(この声……あの人か。)」
「あ、ARCUSで通信って……」
「一体どうなっているんだ……」
「少なくとも、ここでは使えないはずなんだが……」
リィンとフィーはその人物の名や聞こえてくる声でアスベルと話している人物を察し、一方マキアスやエマ、ユーシスはARCUSがここで使えていることに驚きを隠せない。
「話が早くて助かる。“愛の伝道師”を自称するお前に頼み事があってな。………―――という訳なんだが、頼めるか?」
『フムフム……解った。ヘイムダル駅に親友を向かわせるよ。僕自身が出向いてもいいけれど、そうなると騒ぎになってしまうからね。あと、親友には音楽マネージャーの格好を勧めておくから。』
「……ガタイの良さで、SPみたいにならないか?ソレ……」
彼の親友の変装に対しての想像が並大抵のものではないことにため息をつきつつも、ベントの格好や特徴、待ち合わせ場所を一通り相談して通信を切った。そして、ベントにその事情を話しつつ、簡潔に書いたメモを渡す。
「相談が付きました。ヘイムダル駅のこの場所で友人がいますので……貴方の特徴はしっかり伝えています。」
「ほ、本当に七耀石で結婚指輪ができるのかい?」
「ええ。きっと驚かれるとは思いますが……まぁ、私なりの“ご厚意”であり、“ご祝儀”みたいなものです。」
「あ……ありがとう。ここまで来たかいがあったというものだよ。それじゃ。」
そう言って出ていくベントを見届ける一行。すると、マキアスがアスベルに対して気になることを尋ねる。
「アスベル、一つ聞くんだが……先程の話、本当なのか?」
「当たり前でしょ。ま、“ご祝儀”で結婚指輪というのは無粋だけれど、それ以外に上手い言い方が見つからなかったんだよ。」
自らの生まれに帝国の貴族絡みがあることから、そのお詫びをしたかったというのが一つ。人生で大切なイベントだからこそ……というのもある。そして、アスベルがヘイムダルで指輪を作れる場所としたのは……その店を以前オリビエに紹介してもらった経緯があるからだ。その目的というのは……恥ずかしいので、それ以上は言わない。ただ、その伝手で結構な量の七耀石を預けているのだ。時価換算でどれぐらいになるのかは知らないが。
「……何と言うか、済まない。」
「いや、ユーシスが謝るなよ……」
「ふふっ、これであの人もちゃんとした指輪ができるといいですね。」
「いやはや、そちらの方には何とお礼を言ってよいか……ともあれ、依頼は達成です。こちらの方をお受け取り下さい。」
貴族と平民の力関係と、妙な男爵の登場はあったものの……依頼を達成して報酬のクオーツを受け取った。その後、妙にスッキリしたルドガーと合流したのだが、
「何してた?」
「埋めてきた。」
「流石ルドガー。」
「それほどでもない。」
『(一体何が?)』
それ以上聞いたら同じ目に遭いそうなので、聞くのを躊躇ったリィン達であった。
アレは納得いかなかったので、彼にちょっとした出番を。
そして、見えないところで埋められる男爵ェ……
通信の裏技は既に先駆者がいますので、それを真似た感じです。
ミュラーのあの格好は目立つと思うんだ(仕方がないとはいえ)
説明 | ||
第27話 どうせ皆因果応報になる | ||
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コメント | ||
ジン様 誤字指摘感謝です。そして、ブルブランは……お星さまにならなかっただけマシです(何(kelvin) 「ユ、ユーシス様!?それに、そこにいるのはシュバルツァー侯爵家の……!?」 ???リィンは今公爵だから「ユ、ユーシス様!?それに、そこにいるのはシュバルツァー公爵家の……!?」が正しいんじゃないの?そして埋められるブルブルざまぁwww(ジン) |
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