紫閃の軌跡
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残る依頼は二つ……そのために、オーロックス峡谷道へと出たリィンら。そこに広がるのは険しい峡谷であり、所々に門の様なものが掛けられ、街道自体もしっかり舗装されている。ユーシスが言うには元々中世に建てられたオーロックス砦への道だというが、

 

「それにしても、立派に舗装してないか?装甲車……いや、戦車も想定したような念の入れようだと思うぞ。」

 

そのルドガーの言葉には同意せざるを得ないだろう。地面を踏みしめるだけで解るその感覚には脱帽ものだが……とはいえ、そう言った用意をしているということは即ち“そういうこと”なのだろう……ともあれ、峡谷道を歩いていくA班の面々。暫く行った所で脇道に入ると……少し開けた高台に出て、そこに佇んでいる手配魔獣―――フェイトスピナーがいるのだが、その数は四体。そして、リィンの姿を見るや否やその内の三体が下の方に降りて行った。

 

「なっ……!?」

「ちっ、地味に賢いみたいだな……リィンたち、ここは任せた!」

「アスベルさん!?」

「俺も手伝う!……お前ら、あの一体を頼んだ!!」

「ルドガー!?」

 

リィンが引き留める暇もなく、アスベルとルドガーは躊躇うこともなく崖になっている場所から飛び降りていった。これには唖然としたくなったが、

 

「……ともかく、一体を確実に片づけるぞ!!」

「そだね。」

「ええ、解りました!」

「言われなくとも……!!」

「……―――来るぞ!!」

 

残る一体を確実に片づけるべく、リィンらも手配魔獣との戦闘を開始した。

 

一方、崖を降りた二人の先にいる三体のフェイトスピナー……ある程度奥まった場所で立ち止まったかと思えば、来た道から近づいてくる他の種の魔獣。結果的には二人を包囲するように取り囲む魔獣。本来ならば絶体絶命のピンチなのだが……二人は冷静に武器を構え、戦術リンクを結ぶ。そして放たれる二人の闘気は……周囲を震え上がらせ、魔獣ですら一歩引かせる程度だった。

 

「成程、ルドガーもとうの昔に“至った”ってわけか。」

「そうしないと“鋼”には勝てないからな……この状態でも百本に一本取れるかどうか……」

「……その一本のせいで、惚れられたってオチか?」

「まぁ、間違ってはねえな……」

 

この状況でもそう言った会話ができる……まぁ、一対大多数を経験している二人だからこその“余裕”なのだが……アスベルは太刀に炎を纏わせ、高く飛び上がる。ルドガーは静止状態から一気に加速し、敵を怯ませると“分け身”を駆使して敵全体に向けて突撃する。

 

「伊達に“教育係”はやってねえんでな………!秘技、幻影乱舞!!」

 

「本来は太刀の技じゃないが………奥義、鳳凰烈破!!」

 

“漆黒の牙”や“殲滅天使”を鍛えた“神羅”の秘技『幻影乱舞』、そして“紫炎の剣聖”が繰り出すは“剣聖”より教えられた鳳凰の闘気を纏う突撃技『鳳凰烈破』………二人の技を避ける暇もなく、魔獣らは有象無象関係なく消滅した。流石に相当の手練れである彼ら相手に太刀打ちできる者は数少ない……二人は武器を納める。

 

………そして、その光景を遠くから見つめる一人の少女がいた。その出で立ちは服装からして“普通ではない”というのが解る人物。年相応の表情とは言い難いが、驚くような表情で彼らの様子を見ていた。

 

「―――うっわ〜、凄いなあの二人。オジサンの話だと、確か“紫炎の剣聖”に“調停”だったっけ……ん〜、ボクじゃあ“ガーちゃん”込みでも負けそうだね。レクターやクレアでも勝てる可能性は凄く低いかな。」

 

彼女の本来の任務ではないのだが、偶然にも通りがかった場所で見たアスベルとルドガーの戦闘。その人物が彼女が“オジサン”と呼んだ人物から聞かされたことを思い出しつつ、その実力に驚きを隠せなかった。そして、彼女の同僚でも彼ら相手では分が悪いと判断し、そろそろ本来の任務をこなすために移動しようとしたところ、

 

「さて、それじゃ………―――え?」

 

そう行動を起こす前に、彼女の意識が途切れた。そして、意識を失った彼女の後ろにいたのは、先程まで彼女が見ていた人物―――アスベルとルドガーの二人であった。彼女が持っているものによる“反射”も考えられたのだが、ルドガーがそういった類の人相手の経験を上手く生かしてくれたおかげで難なく気絶できた。

 

「やれやれ……ま、予想は出来ていたことではあったが……ルドガー、感謝する。」

「何、こういった類は嫌というほど経験があるからな。で、どうするんだ?」

「記憶を消します。解りやすく言えば『俺達とは出会わなかった。いいね?』ということで。」

「ハイとしか言えねえじゃねえか、それ。やっぱアスベル、こっちに来てから黒くなってねえか?」

「俺をワイスマンと同一視するな。」

「アレは黒いっつーよりもド畜生な程に外道なだけだと思うんだが。」

 

何はともあれ、その部分だけ記憶を消去し……その数分後、意識を取り戻した少女は自分が倒れていることに不思議に思い、“繋がっている”彼に対して聞くも、解らないということで……気を取り直して任務のために目的地へと向かって行った。

 

一方、アスベルとルドガーはリィンらと合流することになったのだが……マキアスとユーシスの戦術リンクの途絶……それに端を発した殴り合い寸前の事態。そして、仕留めたはずの魔獣が動き、武器を構えることも考えずにリィンが負傷し、フィーが仕留めた顛末を聞き……ため息しか出てこなかった。

 

「もう少し自分を労われ、って散々言ったよな、リィン?」

「う……」

「アスベルさん……」

「ア、アスベル……その辺にしておきたまえ。」

「八つ当たりするわけじゃないけれど、一歩間違えれば大問題なんだぞ。これが先月起きなかっただけでもマシだったはずだ……違うか?」

「………そだね。」

 

アスベルのその言葉は実に的を射ていた。意見や性格的にウマが合わないということは明らかだろう……どの組織でもそれは少なからずある。今回は、私的感情はある程度抑えて理性的に行動できなかった結果がコレだ。ただ、エマの方で処置はしてくれたようなので、街に戻るぐらいまではバックアップに入るようにしてもらうのがいい。

 

「てなわけで、リィンは街に戻るまでバックアップに回れ。途中で復帰するとかは……無しだからな。」

「……弟弟子に厳しいな。」

「師父にも色々言われたからな………とはいえ、まだまだ問題は多いが。」

 

手のかかる子ほど何とやらとは言うが、あまりにも問題が多すぎるのは精神的にも宜しくないと思いつつ……戦闘メンバーはアスベル、フィー、ユーシス、エマの四人。リィン、マキアス、ルドガーがフォローにつくこととなった。手当てしたとはいえ負傷者のリィンを気遣いつつ、であるが。

 

「それにしても、アスベルやルドガーもそうだが……君も相当なものだな。」

「確かにあの身のこなし……普通じゃないようだ。」

「ま、色々あって慣れてるだけ。」

(い、一体どんな環境で過ごしたら慣れるっていうんだ?)

 

マキアスがそう考えるのも無理はない。とはいえ、“猟兵王”に付き添って色んな戦場を見てきたせいか……この世界の一般常識では経験しえないことも経験しているフィーにとっては『非常識』という概念そのものを深く考えないようにしているとのことだ。寧ろ、その方が却っていいこともある。

 

「これが、オーロックス砦……」

「ちょっと驚きですね。」

「軽く“お城”の規模だね。ベースは古い砦みたいだけれど、大幅に改修されてるっぽい。」

「…………」

 

道中の大型魔獣も難なく退け、バスソルトの岩塩調達も済ませると、ようやくたどり着いたオーロックス砦……だが、その様相は“砦”という規模を凌駕していた。ベース自体は中世時代の砦だが、明らかに大幅な改修がくわえられている。これにはユーシスも驚きを隠せなかったようだ。ともあれ、道沿いに下りてくると聞こえてくる汽笛の音―――近くに敷かれた鉄道を通り過ぎるのは列車。オーロックス砦内部に向かってであり、その導力機関車にけん引されていたのは客車ではなく貨物の台車。そして、それに載せられていたのは、カバーで覆われていたがそのシルエットからして紛れもなく“戦車”であった。

 

「あ、あれは……」

「バリアハートからの貨物列車みたいですけれど……」

「積荷は戦車……しかも、かなりの重戦車みたいだ。」

「RF(ラインフォルト)社製の最新型主力戦車―――18<アハツェン>だね。」

 

……バリアハートからの貨物列車に積まれたラインフォルト社製の最新型重戦車。それがバリアハートからオーロックス砦に運び込まれる意味……それに薄々感じつつも、オーロックス砦前にいる兵士に報告するためにユーシスが黙ったまま歩き始めた。

 

「お、おい……!」

「グズグズするな。とっとと報告に行くぞ。」

 

そして砦前にいる兵士らに話しかけ、手配魔獣の事を報告する。兵士らは流石に半信半疑であったが……ユーシスからの言葉で納得はしたようだ。それを聞いたのち、ユーシスは問いかけた。

 

「―――それで、先程の列車は何なんだ?それに、見たところ砦も大幅な改修を施したようだが。」

「いや〜、我が領邦軍もついに最新型の戦車が導入される運びとなったのです。戦車と装甲車では火力と装甲が明らかに違いますし……これで、正規軍にでかい顔はさせませんよ!」

「砦の方も先月ようやく改修が終わりまして、ちょっとやそっとの砲撃ではびくともしませんよ。近々対空防御のほうも充実していくとのことです。我がクロイツェン領邦軍の誇り、どうか楽しみにしていてください!」

「………ああ。」

 

兵士らが嬉しそうに話す軍備増強の話に……ユーシスはただ頷くことしかできなかった。そろそろ街に戻らないと暗い街道を歩くことになってしまうので、一行が帰ろうとして装甲車らが泊まる場所まで出てきたとき……マキアスが耐えきれずに、ユーシスに対して怒鳴る様に問いかけた。

 

「待て……これはどういうことだ!?共和国と国境を接するクロスベル方面ならともかく、どうして地方の領邦軍なんかに最新型の戦車が必要になるんだ!?それに、砦を大幅に改修して対空防御まで備えるなんて……常軌を逸しているとしか思えないぞ!」

「マ、マキアスさん……」

「……マキアス……」

「ま、正論かも。」

「だな。」

 

マキアスの問いかけ……それは、確かに考えれば“常軌を逸した”行動というのは紛れもないことだ。二倍位近くに跳ね上げられた増税―――それに付随するように増備される戦車や、改修された砦。それに対するユーシスの答えは、

 

「貴様にも解っているんだろう……―――これが、帝国の“現状”なのだと。」

 

それも、紛れもない事実であった。帝国宰相ギリアス・オズボーンを筆頭とする“革新派”と<五大名門>のうちの四家が筆頭格である“貴族派”……その対立の一端が領邦軍の軍備増強だ。だが、膨大な税収を持つ帝国政府、強大かつ大規模の物量を持つ帝国正規軍相手に対抗して最新型戦車を持つというのは正直言って“焼け石に水”でしかない。推定規模40万人以上の帝国正規軍相手にはいくらなんでも限界が生じる。

 

「―――何だったら、伝言ぐらいは取り合っても構わないが?」

「いや……いい。」

 

その命令を下したのは、ここで言うならばユーシスの父親であるアルバレア公。その命令に対してユーシスがコメントはしない、と言ったが……正確には『取り合ってくれない』というのが正しい認識なのだろう。それを感じ取ってしまったのか、マキアスも怒りを収めてそれ以上の追及を避けた。

 

そして……こういった軍備増強というのは帝国内部への影響では済まない一面がある。それは諸外国―――とりわけ国境を接するリベール側にもその動きが伝わってきており、クロイツェン州とレグラム自治州の国境に8年前に建造された“北エベル門”ではその動きを受けて水面下で厳戒態勢が敷かれている。あとは、遊撃艦の巡視ローテーションが少し緊密になったぐらいだろう……油断は禁物であるが。

 

ただ、これ以上話し込むと帰りの危険性が高まるため、その話はここで切り上げてオーロックス峡谷道を抜けてバリアハートの街へと向かった。その帰りの道中、アスベルとルドガーが遭遇した少女が乗った飛行物体が南西の方に向かって行ったが……あの少女とて流石に国境線位は弁えていると思うので、そちらのほうは人任せにすることとなった。ちなみに、少女と遭遇したことに関しては面倒事が増えても困るので、リィン達に伝えなかった。

 

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ルドガーはレン絡みがあってのことです。元々ヨシュアの上位互換版ですし。

戦闘?……いいえ、殲滅戦です。

 

本来ならば帝国内部での対立なのですが、二国の国境線が原作よりも北に押し上げられているので、リベールにもその余波があります……前作でのオズボーンの台詞でフラグ立ってますし……少女に関しては、予想はつくと思いますが、名前はわざと伏せてます。

 

イッタイダレダロウナー。

 

説明
第28話 現状の一端
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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